翔鶴「林檎のような提督」 (52)
また鎮守府に新たな艦が建造された。
建造された艦娘は空母であり、この鎮守府では数少ない艦種だった。
翔鶴はゆっくり瞼を開き、提督の方へ向ける。
・・・が
翔鶴「えっ!?」ビクッ
翔鶴はその提督の姿を見て驚いた。
何せ提督という職はやすやすと成れるものではなく、何千人といる中から僅か数人しかなれない職だ。
それなのにここの提督は
大きな林檎の被り物を頭に被っていた。
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提督「やあやあ君が翔鶴型一番艦翔鶴かい、よろしく頼むよ」スッ
提督は翔鶴に手を差し伸べる。
腕は軍人らしからぬ細い腕だった。
翔鶴「あっ! はい、よろしくお願いしますね」スッ
提督は翔鶴の手を握ると優しく握手を交わした。
翔鶴は僅かにリンゴの匂いを感じた。
あまりきつい匂いではなく、包み込むような匂いだった。
提督「ああそうだ、これを君にあげるよ」
提督は着任祝いだろう紙袋を翔鶴に差し出す
主にこれが先ほどの匂いの正体だろう。
翔鶴「・・・リンゴの詰め合わせ?」
翔鶴はちらりとその中身を見る。
中には八個セットになってるリンゴが詰め合わせられていた。
提督「いや~、そのリンゴ美味しいぞ! 何せ一箱10,800 円だからね!」
提督はウキウキと箱について話す
翔鶴「一万!? そんなの貰えないですよ!」
提督「そんなの気にしなくて良いよ!」
翔鶴は値段を聞いて驚き、すぐに返そうとするも提督はそんなの気にするなと言わんばかりの態度をとる。
実際、このリンゴ代は経費で落ちているのだろうかは最後までわからないままである。
提督「さっ、瑞鶴に会いに行こうか!」
翔鶴「瑞鶴がいるのですか!」
自らの妹の名前を聞いた途端に、突如落ち着かなくなる翔鶴
翔鶴が沈んでからもう何十年として会っていないのだから無理もない。
提督「瑞鶴も君のことを気になっているだろうし早く会いに行こうよ」
翔鶴「は、はい!」
胸を高鳴らせ歩み始めた二人
傍から見ると大きな林檎の被り物を着けた男と白髪の美女が並んで歩くという何とも不思議な姿である。
工廠を歩いて行くと色んな艦娘とすれ違った。
なかには翔鶴に声をかけてきた艦娘もいた。
最初、誰だか分からなかったが実艦だった時の独特の気配で気付けた。
翔鶴「まさかあんな小さい子たちが私の随伴艦の子たちなんて・・・」
提督「はははっ! まあ無理もないよ、その事を皆口を揃えて言うからね」
翔鶴「けど瑞鶴を瞬時に気付けるかしら・・・」
翔鶴は不安で心が張り詰めそうであった。
それと、先に沈んでしまったせいで瑞鶴にどんな多忙なことを押してしまったのかという罪悪感もあった。
提督「安心しなよ、君たちは姉妹だ。同じ血が入っているのだよ」
提督は微笑んでいるような仕草をみせた
提督「着いたよ、ここが瑞鶴が日頃から練習している鍛錬所だよ」
翔鶴「ここが、鍛錬所・・・」
提督が指さすとこは大きく立派な鍛錬所だった。築何年だろうか、新しくできたと言うが昔からの雰囲気が滲み出ていた。
あまりの大きさに翔鶴は呆気に取られていた。
翔鶴は鍛錬所のドアを開けようとするが手が震えてあまり力が出なかった。
提督「大丈夫、落ち着いて開けてみよう」
提督の手が翔鶴の手に重なる。提督の手は手袋越しでも分かるように非常に温かかった。
翔鶴は落ち着きを取り戻し、鍛錬所独特の大きなドアを開けたる。
中は非常に広く、木材の匂いが二人を包み込む
そして、ツインテールで袴をきた少女が今、弓を射ていた。
十八にも見ていない少女が放つ矢は見事に的の中心を射ている。しかし撃つ時の構えはまだ不十分だった。
提督「ずーいーかーく!!」
提督は大きな声を発する。どうやらあの子が翔鶴の二番艦、瑞鶴らしい
翔鶴の胸の高まりがピークに達した。
瑞鶴はこちらに気付いた。
そして瑞鶴は
提督めがけて矢を放った。
提督「はるか!?」ドスッ
提督めがけて飛んできた矢はまたもや見事に林檎の被り物に刺さった。
そして矢の反動で後ろから倒れる。
翔鶴「提督!!」
いきなり何が起こったのに動揺する翔鶴
瑞鶴はこちらに矢を数本持ってゆっくりやって来る。
提督はむくりと上半身を上げ、翔鶴の方に向けて言い始めた。
提督「見てみて、これロビンフットがやったリンゴの的みたいだよ!」
提督はキャッキャッと自分の頭部に刺さった矢に騒ぎ立てる。
どうやら被り物を被っていたおかげで矢が中央まで達しずに怪我にはならなかったらしい
あまりに無邪気になっている提督を見て、翔鶴は苦笑いしかできなかった。
瑞鶴「提督さん! 勝手に私の部屋に入ってリンゴの芳香剤にしたよね!」
提督「うん、したよ」
翔鶴「ふんっ!」ブスッ
提督「ジョナサン!?」
提督の胸倉を掴み、今度は瑞鶴が手で矢を突き刺す。
瑞鶴は提督の頭部に矢を指すのにあまり躊躇っている様子は無かった。
提督「まだトイレとかにある、匂いのキツイ物じゃないから良いじゃん! 置いたやつは高級品だよ!」
瑞鶴「高級品置いてくれてありがとねッ!」ブスッ
提督「ふじ!?」
提督の被り物にまた新しい矢が追加された。
矢が三本も刺さっているくせに態度は変わらないままだった。
翔鶴「ず、瑞鶴この位にしておきなさい」
瑞鶴「ダメよ翔鶴姉! もっと厳しく・・・っ翔鶴姉!!」ダキッ
瑞鶴は翔鶴の存在に気が付き、抱きしめた。
翔鶴も瑞鶴を受け止め抱きしめる。
長年の時を経てようやく姉妹が揃ったのだ。
提督「いや~、キマシタワー建設中に悪いんだけど翔鶴よ。早速だが仕事だ」
翔鶴「仕事ですか?」
提督「そう、君には秘書艦を命ずるよ!」ビシッ
瑞鶴「秘書官!? 翔鶴姉辞めといた方が良いわよ! 頭に林檎の被り物被らされるよ!」
提督「本人の承諾がない限りしないからね!」
感動的な出来事も提督と瑞鶴のやり取りで壊れ、和やかな雰囲気に変わる。
翔鶴は明るい瑞鶴の姿を見て安堵した。
提督「だから執務室に行こうか、それと瑞鶴の部屋にも新しくリンゴの香水でも置いていこうかね」
瑞鶴「置いて行くなー!」ウガー
提督「HAHAHAHAHA! 走れ翔鶴よ!」ダッ
翔鶴「はいぃ!?」ダッ
提督は翔鶴の手を取り、走って執務室に向かう
着いた時には提督の頭部に矢が増加しているような気がした。
提督「あははは、さあ仕事仕事!」
提督は息を切らしながら椅子に座る、机には書類が山の如く積み重なっていた。
どうやら体力の方はそこまで無いようだ。
翔鶴「にしてもこの部屋リンゴだらけですね」
提督「そうでしょ、このペンなんかも特注品だよ」
手に持っていたペンを翔鶴に見せつける。
もともと値段の高いペンに特注でリンゴの紋章が彫られていた。
これも経費で落ちているのだろうか不思議である。
執務を続けて四時間、リンゴの時計から七時を表す鳴き声を鳴らす鳥が出てくる。
提督は黙々と書類に手を出し、山の如くあった書類がたったの五枚までに減った。
書類作業に関しては秘書艦が口を出すレベルではなかった。
提督「よーし! 夕飯にしようかな、翔鶴行くよー」
翔鶴「わかりました」
提督「あさり~シジミ~はまぐりざ!?」ブスッ
翔鶴「提督!?」
執務室から提督が出たところでナイフが頭にぶすりと刺さった。
どうやらヒモでナイフに結び付け天井にフックをつけ提督が現れた時に手を離すというものだった。
卯月「ぷっぷくぷ~! イタズラ大成功だぴょん!」
皐月「けどナイフはマズイよ・・・」
卯月「大丈夫だぴょん! 被り物が守ってくれるぴょん」
皐月の方は罪悪感を持っているが卯月の方はまったくもって罪悪感を持っていなかった。
さすがの行いに翔鶴も怒った。
翔鶴「あなたたちやり過ぎです!」
提督「いやいや、大丈夫だから落ち着こうよ」
ナイフが刺さっているのにも関わらず提督はいつもと変わらない態度をとっていた。
むしろ笑っている。
翔鶴「だって命にかかわることですよ!」
提督「別にー、・・・それと卯月?」ポンッ
卯月「ひっ!? な、なんでしょうか!!」ブルッ
提督は卯月の肩を優しくであるが掴む、そう簡単には逃げ出せない状況になる。
さすがの卯月も提督がとった行動に怖気つく
提督「このナイフ・・・何処で手に入れた?」
卯月「こ、工廠に落ちていました!!」ガクガク
提督「ダウト、明石や夕張がこんな鋭いナイフを床に落としたままではない。正直に答えてくれないか?」
明らかに雰囲気がさっきとガラリと変わった提督に翔鶴は恐怖を感じた。
先ほどまで陽気な雰囲気から軍人特有の殺気を放っている。
卯月「・・・作業台から盗りました」
提督「ほう、どのくらい鋭いか試してみようかな」ガソゴソ
提督は己の軍服のポケットを探り、リンゴを取り出す。
すると提督は器用にナイフでリンゴを剥き始めた。
皐月「何をしているの?」
提督「ん~? あっという間にウサちゃんリンゴの出来上がり~」
翔鶴「たった二十秒でここまで・・・」
提督の両手には大きなウサギの形をしたリンゴが四つ完成していた。
提督「ほら、あげるよ。今度から刃物とかでイタズラしたら許さないからね!」
卯月・皐月「「はい!!」」ビシッ
態度を正した二人はいそいそと食堂へ向かって行く
どうやらあの二人も夕飯を食べにいくらしい、さっき剥いたウサギの形のリンゴはデザートとして食べるのだろう。
提督「それでは行こうか」
提督と翔鶴は食堂へと歩みを進める。
提督「ここが食堂だよ、メニューは券売機で買ってね」
提督が指す食堂にはたくさんの艦娘が所属しており、皿にはいろんな料理が載せられている。
そして艦娘によるが料理が少量の子から大量に載せられている子もいた。
提督は空いている席へと移動しようとしていた。
翔鶴「あれ?提督は食べないのですか?」
提督「いいよいいよ、僕はリンゴの妖精だからね! そういうのは要らないんだ!」
翔鶴「は、はあ・・・」
と提督の謎設定に少し呆れる翔鶴
提督の後ろからウサギのような機械を着けた艦娘がたたずんでいた。
叢雲「何言ってんのよ、また点滴で接種するようになっても知らないわよ」
提督「いやー、点滴はキツイかな」
叢雲「なら食べなさい!」
提督「だが断るッ! 僕はねリンゴ関連の物しか食べれなッ印度!?」グハッ
叢雲の返事に対し否定する提督
そして、ふざけた態度で叢雲を煽ってしまったことのより腹を殴られる。
提督は床に倒れこむ
叢雲「お返事は?」ゴゴゴゴ
提督「ぜ、善処します・・・」ガクッ
叢雲「あっ・・・」
提督は腹を殴られたショックで気絶する。
すぐに医務室へと送られ、結局点滴を接種する羽目になった。
提督「おはよう! 新しい朝だ、仕事の朝だ!」
提督は殴られた後日、普通に仕事を黙々とする。
若干だが林檎の被り物が初々しく見えてした。
翔鶴「お腹の調子はどうなんですか?」
提督「もう治ったよ、それよりもこれをどうぞ!」スッ
提督は机の中から長方形の箱を取り出し、翔鶴に渡す
箱を手に取り開けると携帯電話が入っていた。
翔鶴「これってiPhoneじゃないですか!?」
提督「うん、これが無いと不便だからね。ちなみにラインも入れててね僕のIDも追加しておいたよ」
翔鶴「盗聴器とかは・・・」
提督「無いよ!」
提督「・・・まあ人によるけど」ボソッ
翔鶴「何か言いましたか?」
提督「いいや何も!」ブンブン
翔鶴はプライベートなことになると怒ると学習した提督は敢えてしなかった。
けど、在籍している艦娘の殆どに付いているようだ。
提督の本当の狙いはリンゴのアイテムをコッソリと置くことだ。本当にくだらない
提督「それと勝手に別会社の携帯に変えたら怒るからね!」ビシッ
翔鶴「何でですか?」
提督の変なプライドに疑問をもつ翔鶴
提督「だって会社名アップルじゃん」
翔鶴「な、なるほど」
そして数か月が経過した
翔鶴は未だに提督の秘書艦のままだった。
しかし翔鶴は提督といて、つまらないと感じることは一切無くなった。
むしろどうでもいい事でも翔鶴には面白く感じた。
提督「さーてと、じゃあ僕は出かけてくるね。仕事をよろしくね」
翔鶴「はい、行ってらっしゃいませ」ニコッ
提督は月に一回出かけることがある。二時間程で帰ってくるが誰も行き先を知らない
帰ってきた時にアルコールの匂いが服に付いてくる時がある。噂ではリンゴウウィスキーを作っているという
以外にこの提督ならありえそうだが
翔鶴「さて、仕事に取り組みましょ」
翔鶴が書類仕事してかれこれ二時間経過した。
提督と比べ、量は少ないが着々とこなしていく
翔鶴「あら? これハンコが必要な書類だわ、確かここら辺に・・・」ガソゴソ
提督の机の棚をまさぐり、ハンコを探す
出かけて行く時だけ提督から勝手に棚を開けることが許される。
さすがに署名が必要な書類には許可は降りない
翔鶴「この写真は何でしょう?」ピラッ
探している内に一枚の写真が底に埋もれていた。
好青年が少女を肩車して樹に実っているリンゴを取ろうとしている写真だ。
一見兄妹のようにも見えるも提督に妹がいる話など聞いていない、むしろ一人っ子のようだ。
翔鶴「裏に何か書かれてますね、2008年4月5日・・・俺と大鳳のリンゴ狩り?」
俺とは提督のことを指すだろう
だがここの鎮守府に在籍している艦娘には大鳳は居ない
翔鶴「・・・以外とイケメンですね提督、にしても大鳳とは誰でしょう?」
あの提督の素顔を知れてやや驚いた翔鶴はこの写真を脳裏に焼き付け、元あった所に戻す
間もなくして提督は帰ってきた。
そして二人は何事もなかったかのように職務時間だけが過ぎてゆく
職務時間が終わってから翔鶴は食堂へは行かず、蔵書庫に入り浸っていた。
もう深夜になっても翔鶴は兵士予備科についての探した。
そしてついに提督を見つけた。どこにでもいるごく普通の名前だった。
次に訓練科にいた艦娘を調べた。提督が予備科に入隊した頃に大鳳も入ったらしい
ただ気になったのは、人間と艦娘がどのような接点があったのかが分からなかった。
当時提督では無かった提督は一般兵として入隊し、艦娘と関わる機会は無かったはずだ。
翔鶴はそれがどうしても腑に落ちないでいた。
翔鶴「やはり本人に聞いたほうが早いですね」
翔鶴は決意を固め、執務室へと歩んでいく
翔鶴「失礼します」コンコン
ノックをして部屋に入って行く
部屋には誰も居なかった。だが執務室には仮眠室という部屋を思い出し、そちらへ向かう
翔鶴「提督?いらっしゃるのですか?」
仮眠室のドアを開けるとそこには軍服を着てベットに後ろ向きに座った男の姿があった。
ベットの上には救急箱や包帯、さらには出かけた先で貰っただろうと思われる紙袋が置かれていた。
包帯に至っては汚れているのと真新しい包帯の束、この二種類だった。
提督「・・・僕は入って良いとは一言も言っていないはずだよ」
やはり提督のようだ。
提督からやや怒りを込めたのオーラが立ち込める。
翔鶴「提督、机の中にあった写真は何ですか?」
翔鶴はそんなのお構いなしに質問する。
提督「・・・君、あの写真を見たんだ。・・・なら教えてあげるよ」
提督は以外にもすんなりと教えてくれるようだ。
しかし提督は未だに翔鶴の方に顔を見せないでいる。
提督「僕と写真の彼女、大鳳との慣れ始めはちょうどこのぐらいの夜遅くだった。」
八年前
提督「やっぱり深夜のお散歩は気持ちが良いね、あまり変な行動をしているとマズイけど」
僕は海沿いを散歩していた。酒を飲みつつ、教官のことを愚痴りながらね
提督「おっ、あれは人かな? どうしてこんな時刻に?」
僕は三十メートル先の砂浜にある少女を見つけた。彼女はそのまま海に向かっていく。
波はそれほど荒れてはいなかったが暗く、足元など到底見えないぐらいであった。
提督「・・・もしかして入水自殺!? 止めて説得さなくては!」ダッ
少女の元に走って行く、彼女は足元まで水に浸かっていた。
提督「とぅ!!」シュバッ
大鳳「きゃっ!?」ドサッ
僕は彼女を押し倒し、止めた。
しかし傍から見れば少女に襲い掛かりいつ捕まってもおかしくはない状態だったよ。
提督「命を捨てるのをやめなさい! 家に帰って寝てさい!」
大鳳「しませんよ自殺なんて! てか、重いので退いてくだいさい!」
提督「だいたい自殺未遂する奴はそういうこと言うんだ、ドラマとかで学んだからね!」
大鳳「何ですかそれ! ソース先が酷すぎませんか!」
提督「命は限りある物なんだ! 両親が悲しんじゃうよ、いいの!」
大鳳「両親なんていないから大丈夫です! それに・・・」
提督「それに?」
僕は彼女を必死になって止めてたね、戦場で死ぬならまだしも平和な時に自分の目の前で自殺することと最悪すぎる。
まあ、この時に彼女の正体を知ることになるとはね、思わてはみなかったよ。
大鳳「私の代わりなんて居るに決まってるわ」
提督「・・・つまり君は艦娘か」
大鳳「察しが良いわね、そうよ私が艦娘の大鳳よ」
これには驚いたね当時、なにしろ一般兵と艦娘が会うっていうことは式典とか戦場でしかない。
僕にはこれが運命のように感じたよ。
提督「そうか、なら僕が君の親族になってあげよう!」フンス
大鳳「はいぃ!?」
僕は未だにこれが正しい判断だと認識してるよ
まあ内心、両親が居ない彼女にとって彼女自身の心の支えになる存在は少ないと導いた結果がこの案さ
提督「だって君は見るからに幼い、歳は小学生あたりかな?」
大鳳「酷い事言うわね! 私だって好きでなったわけでは無いんですよ!」
提督「嘘はあかんよ」
大鳳「実際は二十歳という設定よ!」
大鳳は僕に証明書を提示した。
本当に二十歳と書かれていた。合法ロリとはねたまげたものだよ
提督「僕と同い年かー、なんか妙な気持になるね」
大鳳「ああそうですね! 私がこんな体だからそうなんですね!」
提督「まあまあ落ち着いて、それよりも何で浜辺なんかに? 散歩?」
大鳳「・・・練習よ」ボソッ
提督「えっ? 何だって?」
大鳳「練習よ! 海に浮けないのよ、私!」
提督「あー、そういうことかー」
大鳳「・・・笑わないのですか?」
提督「ううん、僕はね誰彼かなわずに欠点はあると考えていてね。もちろん僕にもあるよ」
人には必ずしも欠点はある、そういう所で笑うのは失礼だと思ってね
大鳳「変わった人ね」
提督「よく言われるよ、さて練習しようか! 僕も手伝うよ!」ニコリ
大鳳「えっ!? いいの?」
提督「まあ僕のせいで時間が減ったし、困っている人を見過ごしてはいられないから」
大鳳「けど長くなるかも・・・」
提督「かまわないよ、むしろ親しみを持てる人が出来ていいじゃないか」
大鳳「そうね、わかったわ! じゃあ付き合って頂戴!」
提督「喜んでお受けします、お嬢さん」ニコッ
大鳳「私はお嬢様ではないわ!」
この日から付きっきりになって練習を始めた。
ようやく水上に浮き、歩行できるようになった時は嬉しさのあまりに叫びまくっていたことを覚えている。
ある夏の日にちょっとしたイベントが起きた。
僕は寮の部屋でだらだらと休日を満喫していた。
提督「あっち~、けど冷蔵庫涼しい~」ゴオオオオ
大鳳「なに馬鹿な事してるよ! せっかくの夏だし海行きましょ!」
あまりの暑さに頭を冷蔵庫に入れて涼しんでいる時に彼女がやって来た。
艦娘と人間の寮は近いとは言い難い距離だ。
たいてい暇があると大鳳はやって来る。
提督「えぇ~、だるい」
大鳳「さあ泳ぎにいくわよ!」ギュウ
提督「あばばば!! わかったから抓るなぁ!」
てなわけで大鳳と僕は海に泳ぎに行った。
見慣れている海でも新鮮だった。
提督「にしても大鳳の奴遅いなぁ、持ってきたパラソルとかシートを引き終えてしまった」
提督「今のうちにお酒でも飲もうかな゛ッ!?」バシンッ
大鳳「泳ぐ前に酒はダメよ! 溺れるわよ」
大鳳が着ていたビキニ姿に目が眩んだ。悔しいがこういうのも良いかもしれないと揺らいでしまった。
・・・こんな彼女の姿も新鮮だと思った。
提督「お、おう」
大鳳「それとこのサンオイルを塗ってもらえるかしら?」
提督「へーい」
大鳳は引いたシートの上にうつ伏せになる
大鳳「へ、変なこと考えないで頂戴ね!」
提督「もうちょっと体付きが良かったら考えてたかも」
大鳳「わるかったわね!」
大鳳にオイルを塗り、準備体操を終えて海に浸かる。
彼女は体が小さいため浅瀬で遊んだ。大鳳は奥に行こうと言っていたが溺れたらと万が一のことを考え阻止した。
ふくれっつらも可愛かった。それでも波はただでさえ背の低い大鳳の顔目がけて打っていたけど
さすがに疲れたのか僕と大鳳はシートに横たわっていた。
提督「ねえ大鳳?」
大鳳「なによ?」
提督「後で君の部屋に行っても構わないかな?」
大鳳「ふえっ!? へ、部屋散らかってるしダメよ!///」アタフタ
提督「僕の部屋にいっぱい来てる癖にかい?」
大鳳「うぅ、わかったわよ・・・。き、来なさい///」
提督「楽しみにしてるよ」ギュッ
大鳳「・・・うん///」ギュッ
僕は彼女の手をそっと握る。大鳳もそれに応じて握り返してくれた。
提督「へえ~、ここが大鳳の部屋かあ。僕の部屋よりも広いしキッチン付きとはねえ・・・」
大鳳「艦娘手当があるからかしら」
海から戻ってきた後、僕は約束通り大鳳の部屋に向かった。
彼女自身は散らかっているというがさほど散らかってはいなかった。
提督「にしてもこの部屋・・・」
大鳳「何?」
この部屋の特徴に気が付き、思ったことを言う
提督「リンゴ関連の物ばかりだ。時計も枕、挙句のはてにカレンダーまでときた」
大鳳「そうね、リンゴが大好きだから無意識に集めてしまったのかしら」
提督「何それスゴイ」
彼女は本当にリンゴが好きだと実感した。
好きな食べ物はと言う質問には当然リンゴと答えた。
良く見るとアップルパイがテーブルにあった。
提督「そんなに食べていて飽きないの?」
大鳳「いいえ、それよりもお腹が空いたでしょ? ご飯にしましょう」
提督「それもそうだね、頂くとするよ」
海から帰って来たのでお腹は減っていた。
あと、彼女が作ってくれる料理も楽しみだった。
大鳳「出来たわ、どうぞ召し上がってね!」フンス
自信満々に料理を持ってくる。見た目も良く、涎が出てくる程だ。
提督「いただきます!」
僕はガツガツと作ってくれた料理を食べてゆく
親が作ってくれるのよりも美味しく感じた。
大鳳「・・・どう? 味は?」
提督「サイコーに美味しいよ、大鳳は料理を作るのが得意なんだね!」ガツガツ
大鳳「そうかしら? 照れるわ///」カアアア
提督「君なら良いお嫁さんになれるよ」
大鳳「もう、お嫁さんなんてっ///」バシン
提督「ごふぅ!?」
大鳳「ふぅ~、さっぱりしたわ」
提督「だよねー、風呂はいいよね。知人の風呂だったけど」
僕は大鳳に勧められ、風呂に入れさせて貰った。
・・・さすがに混浴では無いけど
大鳳「それよりも覗いたでしょ!」
提督「だーれも覗いてないよ、そのルックスじゃね」
大鳳「うぅ・・・。もう貴方にはアップルパイ食べさせてやらない・・・」グスッ
提督「ご、ごめんよ! だから泣かないで、そのルックスにも需要はある・・・はず!」
大鳳「ぐすんっ・・・ホント?」
提督「ホントさ!」
大鳳「ホントのホントのホント?」
提督「うんそうだよ! だからアップルパイ食べようね!」
まあホントのエンドレスになりそうだったからね、仕方ないね
提督「ほう、なかなか美味しいね」
大鳳「でしょ!! これ美味しいと評判のケーキ屋で買ったのよ」
提督「へー、けど一人で食べきれるの? 大きいよ」
大鳳「え、えっとね・・・あ、貴方と一緒に食べたかったから///」カアアア
提督「そ、そうなんだ///」カアアア
さすがの僕もこれには照れたよ。
人気店ということだから行列を並んだはずだ。苦労して買った理由が僕と一緒に食べたかったというからね
暫くの間は双方ぎこちなくなってたよ。
大鳳「ね、ねえ///」
提督「な、なんだい///」
大鳳「あーんしてみない?///」
提督「うえっ!? い、良いよ!///」
突然の大鳳の提案に僕は驚いた。
ドラマとか漫画でよくあるあーんが実際にできることになるとはね
大鳳「はい、あーん。どう美味しい?」
提督「うん、美味しい。じゃあこっちもね」ニコッ
大鳳「はう! さっきよりも甘く感じるわ」
この砂糖だばだばの出来事を何回かしてたね
ブラックコーヒーがマックスコーヒーになるぐらいには。もちろん練乳も入れてあるよ
僕はこの日を境に大鳳と色んな所に行った。
大鳳「ちょっと! 余り揺れないでよ、落ちるじゃない!」
提督「わかったから、丁寧に取ってね! それ美味しそうなリンゴだからね!」
大鳳「よいしょ!」ブチッ
提督「やったね!」
大鳳「ちょちょ! 転ぶわ!」アワワワワ
提督「はははっ! 艦娘であろう者がスケートも出来んとはなぁ!」
大鳳「氷の上じゃ勝手が、きゃっ!?」ステンッ
提督「おっと!」ガシッ
大鳳「あ、ありがとう///」
提督「どういたしまして」ニコッ
提督「うおー! 大きなクリスマスツリーだね!」
大鳳「・・・そうね、とても綺麗ね」
提督「あとでケーキも買いに行こうか」
大鳳「ねえ、聞きたいことがあるの」
提督「なんだい?」
大鳳「私とツリー、どっちが綺麗かしら?」
提督「もちろん、君に決まってるじゃないか」
大鳳「・・・好き///」
提督「ん? ケーキがかい?」
大鳳「貴方のことよ! 言わせないで恥ずかしい!///」
提督「いや~。大鳳? 目を瞑ってもらえるかな?」
大鳳「わ、わかったわ///(もしかしてキス!?)」
提督「ほら、リンゴのペンダント。プレゼントさ」カチャ
大鳳「ふぇっ!?」
提督「あららら! もしかしてキスとか期待しちゃったかなぁ!」
大鳳「そ、それ以外に何があるのよ!」
提督「・・・君の瞳が開いている時にしかしないさ。そう、今みたいなね」チュッ
大鳳「はわわわわっ///!!」カアアアア
僕と彼女は恋人という所まで発展していた。
たまたま浜辺を歩いていたら出会って、そしてここまでに至った。
すべてが上手く行っていた。
提督「あの日までは」
翔鶴「あの日・・・ですか?」
提督「そう、七年前にあった深海棲艦が沿岸部を攻撃した事件知ってる?」
翔鶴「はい、確か大勢の民間人や艦娘が死亡した最悪の事件」
提督「・・・僕と大鳳はそこに居たんだ。」
翔鶴「まさか!?」
提督「そのまさかだよ。では話そう、僕が転落していくお話を」
提督「暇だね」
大鳳「暇ね」
その時僕は部屋でダラダラと過ごしていた。
提督「リンゴでも剥こうか?」
大鳳「ええ、頼むわ」
提督「任せっなって!」
僕は簡易キッチンに向かった。
その時だった。
『緊急事態発生! 深海棲艦、及び爆撃機接近中! 直ちに対応せよ」
提督「行くぞ大鳳!」ダッ
大鳳「わかってるわ!」ダッ
僕たちは各々の立ち位置に着いた。
大鳳は深海棲艦撃破、僕は民間人の避難だった。
提督「此方のほうへ避難してくださーい!」
「タカシどこ!」「早く進めぇー!」「早く退けぇー!」「こ、殺される!!」
現場は避難民でごった返していた。人々は混乱している。
すぐに基地から連絡が届いた。沿岸部では対空砲が撃たれ、迎撃機が戦闘を始まった。
即ちこれは間近に迫っているということだった。
そしてついに
「うわあああ!! 足があああ!!」「火、火がああああ!!」「助け・・・」「ママー!! ママー!!」
辺りはすぐに火の海になる。地獄絵図の如く悲惨な状況になった。
先の先人はこれを体験したと実感したよ。
提督「沿岸部の連中は何をしてるんだ!」
「助けてください! 息子が家の中にいるんです!」
提督「わかりました! 先に避難してください!」ダッ
僕はその家に入って行った。
その直後、大きな爆発音がした。母親と思われる人と話した場所だったよ。
僕は助けられる命を救おうと子供を探しまくる。
提督「君、大丈夫か!?」
ようやく子供が倒れているのを見つけた。
脈を測ると脈拍は無かった。
悔しい思いをたぎらせながらその場を退こうとした時。突如、燃えた天井が落ちてきた。
提督「うわあああああ!! 熱い! 熱いいい!!」
何とか抜け出したが顔に大火傷を負った。
これが林檎の被り物を着けている理由さ
そして、僕は沿岸部を見た。何とも言えない光景だった。
「・・・海が燃えている」
すぐに彼女のことが頭に浮かんだ。
僕は気付くと脚を動かし、救いを求める人々を無視して向かいに行った。
もう、彼女のことしか考えられなかった。
浜辺の高射砲隊は全滅し、戦死した艦娘の遺体が打ち上げられていた。
ここもまさに地獄だ。
提督「ふざけるのもいい加減にしろおおお!!」
僕は怒りで我を忘れ、損傷の少ない高射砲に弾を詰めて空へと撃ち出していた。
五発撃った途端に弾が主翼付近で爆発し、見事撃墜に成功する。
しかし、撃ったことにより敵戦闘機がこちらに気付き機銃掃射を始める。
提督「がぁ!?」バシュ
脚に弾が当たり、どす黒い血が流れだす。
倒れてしまうがそれでも立ち上がり攻撃の手を緩めなかった。
またしても敵戦闘機がこちらに機銃掃射をするために近づいてきた。距離は徐々に近づいて行く
提督「待っていたぞ! こっちに来い!」ダッ
僕は脚を引きずりながら高射砲から急いで離れる。
だが、僕は転ぶ。相手は射撃を始めて近づいてくる。
提督「うりゃあああああ!!」ガチャン バババババッ
僕は戦死した艦娘の装備を拾い、敵戦闘機に対空射撃を実行する。
弾が燃料タンクに命中し、大爆発を上げた。
提督「ぐおっ!?」グサッ
敵戦闘機の破片が横腹に突き刺した。
徐々に意識が遠のいて行くような感覚に堕ちいる。さすがにここまでかと覚悟を決めたね。
「起きなさい! ねえ起きてよ!!」
だけど、聞き覚えのある声がそれを邪魔した。
大鳳だった。
提督「なんだ、君か・・・」
大鳳「喋らないで! 今手当するから!」
彼女は中破状態になっていた。
大鳳はハンカチを取り出し、傷口に当てる。
じわじわと白から朱の色へと変わっていく
提督「ごめん・・・ 街の皆を守れなかった・・・」
大鳳「今は良いの! あなたさえ居てくれれば!」
提督「そう・・か・・・」
大鳳「ほら立って! 救護室がある場所へ行くわよ!」
大鳳は僕を引きずりながら進む、燃えている海を背にしながら
提督「・・・なあ大鳳?」
大鳳「何よ?」
提督「僕の顔は火傷で酷くなっているだろ? 気持ち悪くは無いかい?」
大鳳「何をいうのよ、むしろ男前になったわよ」
提督「ははは、そうか。艦隊はどうなった?」
大鳳「私以外は全滅、みーんな海の底よ」
提督「悪運が強いね、僕ら」
大鳳「ええ、そうね」
もし僕がこんな話さえしなければどうなっただろう
もし僕が怪我をしなかったらどうなっていただろう
もし僕が浜辺に来なければどうなっていただろう
もし僕が
大鳳に会わなかったらどうなっていただろう
答えは簡単
大鳳は死なずに済んだ
大鳳「!? 危ない!!」ドンッ
提督「うわっ!?」ドサッ
まだ空を飛んでいる爆撃機が爆弾を一発落とす。
着弾地点は大鳳のすぐ近くであった。
僕は数十メートル爆風で吹き飛ばされた。
提督「たいほおおおおおおお!!!」
僕は這って大鳳の元へ向かう。
彼女が倒れこんでいる姿を確認出来た。
提督「大鳳! 怪我は!!」
大鳳「だ、大丈夫よ」ドクドク
提督「け、けど血が!!」
大鳳「あなた、一つお願いがあるの!!」
提督「止まらない! 血が止まらない!!」
大鳳「何とかしてこの戦争を終わらせなさい。敗戦でも和解でも良い」
彼女が言ったこと。それは戦争を終わらせろと言う物だった。
大鳳「あなたは素晴らしい人よ。皆を再び笑顔で笑いあえる平和な時代にし・・て・・・」ガクッ
2009年8月18日 大鳳 戦死
最後は恋人に見送られながら笑顔でこの世を去った。
その顔はまるでサンタクロースを待ちわびる子供のようであった。
提督「ふざけるなぁ!! これ以上、守るものを無くさないでくれよっ!!」
僕は嘆いた。
運命というものは時として出会いを生み、時として別れを生む。このことを強く実感したよ
いっそこの場で死にたかった。
「居たぞ! 生存者だ!」
どうやら他の兵士が僕を見つけた。
僕を救護室へ運ぶために駆け寄り、担架に乗せようとする。
提督「やめろ!! 僕は彼女とここに残るんだ! 離せよ!!」
「どうしましょう、隊長?」
「致し方がない。・・・すまぬ」ガッ
提督「うっ!?」ドサッ
抵抗していた僕は兵士に首を叩かれる
提督「たいほ・・う・・・」ガクッ
僕は気絶した。
最後に彼女の手を繋ぎながら
提督「ここは・・・どこだ?」
目覚めた時には病院に居た。
見渡すと僕のように大怪我をした人が横たわっていた。
机には両親が置いていった果物と書類、そして熱で溶けたペンダントが置かれていた。
提督「大鳳は無事だ。そうだ無事のはずだ」
死んでいるという事実を押し殺し、体に刺されていた器具を取り外し前へと進む
「何だあの人」「怖いわ」「きっとこの前の怪我人だろう」「可哀想にな・・・」
提督「(やめてくれ。そんな目で僕を見ないでくれ)」
無理もない、僕の顔は大火傷のせいで包帯が顔全体に巻かれているのだから。
僕はナースステーションに向かう
しかし、目の前を白の軍服を着た老人と迷彩服を着た男二人によって妨げられる。
提督「・・・なんです? 僕は急いでいるんで」
「おめでとう、君は少佐に昇進した。十月から提督業をやってもらう」
提督「提督? そんなものは要らない、僕の大鳳に会いに行くだけだ」
僕はその人をすり抜けようとするが肩を掴んできた。
「・・・大鳳は戦死したよ」
提督「死んだ? 嘘つけ! あの時はたまたま仮死状態だっただけで生きてるはずだ!!」
病院中に響きわたるほどの声を上げた。
すると迷彩服を着た男が箱のような物を抱えながら近づく
「これは大鳳の遺骨の入った骨壺だ。君の元へ渡したほうが彼女のためだ」
提督「嘘だ、嘘に決まってる!!」
その箱を開けて中身を確認する。
中には白い骨が見えた。頭の中が真っ白になった。
「君は高射砲で爆撃機、戦闘機を撃墜した。その武勇を称え、君は少佐に昇進したのだ」
提督「・・・そんなこと。そんなこと聞いてねえんだよっ!!」ブンッ
「・・・」バキッ ドカッ
「なっ!? 元帥に何をなさる!」
どうやら老人は元帥だった。
すぐに両腕を掴まれ拘束される。
とても抵抗できるような力は出せなかった。
提督「お前らがもっと早く敵に気が付ければこんなことにはならなかった! 大本営ばかり守備を固めやがってええええ!!」
元帥「すまなかった」
元帥は頭を深く下げ、見本のような謝罪をする。
提督「謝ってもアイツは帰って来ないんだ! ほら、僕を殴った罪で軍法会議にかけて絞首刑にしてみろや!!」
元帥「少佐!!」
元帥も声を荒げる。
元帥「彼女の夢、それは戦争を終わらせることだろう! 誰がそれを終わらせるというのだ!!」
元帥「それは君自身だ! 君がこの動乱を終わらせてみせよ!!」
そうだった。別れ際に大鳳の約束、戦争を終わらせて平和な世界にしろという約束を思い出した。
彼女は戦争よりも平和を愛していた。
そして幸せを願っていた。
提督「・・・わかりました、後で書類の手続きをします。 今度は僕みたいな人が出ないように努めます」ビシッ
僕は敬礼をして病室へ戻った。
彼女の形見である溶けたペンダントをポケットにしまい、再び遺骨を見て泣いた。
誰にも聞こえないように・・・
提督「これが僕の過去さ、つまらない話をしてしまってゴメンよ」
翔鶴「いえ、私が聞き出したのですから謝ることは・・・」
提督「・・・もうじきこの戦争は終わる。勝利だ」
翔鶴「確かに本拠地の場所を特定して総攻撃を仕掛ければ勝てます」
提督「となると僕の役目も終わった。後は君たちで何とかできるだろう」
翔鶴「・・・それってどういう?」
提督「彼女の夢がじき叶うと言う訳さ、僕は彼女の後を追うことにしたよ。出て行くといい、トラウマになるかも知れない」
翔鶴「提督! まさか!?」
提督「うん、そうだ。自殺をしようと思う」
提督は軽やかに言い放ち、ポケットを探りナイフを取り出す
このナイフは数か月前に卯月から押収したナイフだった。
提督「このナイフなら苦しまずに死ねる。甘っちょろいこと言うけど痛いのは嫌だからね」スッ
翔鶴「提督!!」ガシッ
提督は心臓にナイフを向ける。
しかし翔鶴はそのナイフを後ろから握る、ポタポタと鮮血が流れ出す。
提督「・・・止めてくれないか? 僕は死にたい」
翔鶴「こんなの許されるはずはありません! それは命に対する侮辱です!」
提督「だったらなんなんだよっ!! あの戦いのせいで顔は大火傷を負い彼女を失った! 医者からも顔はもう治らないと言われたんだぞ!」
提督「見ろよこの顔を!」クルッ
提督は顔を見せた。
提督の素顔には大きな火傷痕が残ってあり、瞼も片方焼けていた。
一般人からすれば化物に過ぎなかった。
提督「・・・僕は生きるのが辛い。顔も彼女も居ない人生に飽き飽きしている」
提督「心に大穴が空いたような感じなんだ。もう鬱になる寸前なんだ、こんな辛い思いを続けたままなら死を選ぶ」
翔鶴「提督」
ナイフを手放し、翔鶴は彼を後ろから抱きしめた。提督の服は朱に染まりだす。
背中に温かさを感じる。翔鶴の胸の鼓動も感じた。
翔鶴「私は貴方が好きです! 今度は貴方が好意を持っている人の前から消えさるつもりですか!」ポロポロ
翔鶴は大粒の涙を流しながら心の内に秘められていた思いをぶつける
翔鶴「不安だった着任時に優しく手を取り合ってくれた人は、提督なんです!」ポロポロ
翔鶴「日々、接していく内に提督と一緒に居る時が一番落ち着くようになったんです!」ポロポロ
提督「・・・」
翔鶴「これが恋だと実感しました! 自殺をしようとしている貴方を止める為なら何にだってします!」ポロポロ
翔鶴「お願いですから、死なないでください」ポロポロ
翔鶴は大声で泣き叫ぶ
過去に提督が経験したことがある泣き方だった。
提督「・・・わかった。君には敗けたよ、大敗けだ」カチャン
提督はナイフを床にほおり投げる。
ナイフの冷たい音でさえ温かく聞こえるほどに
翔鶴「うぅ。ほ、本当ですか?」グスグス
提督「ああホントさ、泣いている人を見かけたら助けないとね」
提督「・・・それに僕みたいな悲劇の運命を送って欲しくない」
翔鶴「提督ぅぅぅ!!」ギュッ
提督「ゴメンよ、迷惑かけて。本当にゴメン」
きつく翔鶴は抱きつける
提督は再び愛の温かさを感じることができた。彼の目にはうっすらと涙が浮かびあがっていた。
あれから一年の月日が経過した。
深海棲艦たちの本拠地を見つけ叩くことに成功し見事勝利を収めた。
提督たちは敗残兵の処理や戦後の艦娘についての書類をまとめていた。もちろんこの提督も同じだ。
提督「疲れたよ~」グデェーン
翔鶴「お疲れ様です。お茶をどうぞ」コトッ
提督「どうも! ストローを差してと」プスッ
提督は相変わらず林檎の被り物を着けている。
別に取っても良いのだが、駆逐艦たちにショックを与えてしまうかもしれないので着けたままになっている。
翔鶴「ようやく戦争が終わりましたね・・・」
提督「ホント、長く苦しい戦いだった・・・」
翔鶴「提督はこれからどうします?」
提督「うーん、気の向くままに」
翔鶴「私はどうしましょうか・・・」
提督「・・・そうだ! 君に渡したい物があるんだ」ガソゴソ
提督はポケットの中に手を突っ込み、目的の物を探す
彼のポケットは四次元ポケットなのだろうか
提督「これよこれ」スッ
提督が出したのは林檎の箱だった。
翔鶴「これは?」
提督「いいから開けてみなよ」
翔鶴はその箱を開ける
そこに入っていたのは銀色に輝く指輪だった。
翔鶴「こ、これって!」
提督「僕と結婚してください」
翔鶴「・・・喜んで」グスッ
歓喜のあまりに若干涙ぐむ翔鶴
続いて提督は机に掛けてあった紙袋を差しだす。
提督「・・・この中身はリンゴの苗が入っている。えっとその、反対しても良いけど一緒に果樹園を作らないか?」
翔鶴「はいっ! 貴方と一緒ならどこまでも着いていきます!」
提督「ありがとう翔鶴。いや、愛しい妻よ」
終戦から七年の時がたった。
海に漁船が出て漁業を再開できるようになった。
そこから20キロほど離れた所に果樹園がある、そこへ一両のバスが停留所に停車する。
「ここが提督さんの果樹園かぁ」
髪はツインテールという見覚えのある姿、そう彼女は翔鶴の姉妹艦の瑞鶴だった。
瑞鶴は果樹園のゲートを抜けて行く
「うわーい!!」
「ちょっと待ちなさーい!」
白髪の少女を追いかけて行く白髪の美女
瑞鶴「翔鶴姉! 久しぶり!」
翔鶴「あら瑞鶴! 久しぶりね」
翔鶴は瑞鶴の方へと目を向けた。
翔鶴はエプロンを外し、瑞鶴のところへ向かう
瑞鶴「こんな大きい果樹園を営むって凄いわね・・・」
翔鶴「ふふっ、そうかしら? 意外と慣れると楽なものよ」
瑞鶴「そういえば提督は?」
翔鶴「いるわよ、貴方! ちょっと来てー!」
「はいはーい!」
爽快に走って来る男の姿があった。
林檎の被り物を被っており、七年前と比べると風貌が変わってもいなかった。
むしろ林檎が熟しているような感じがした。
提督「お待たせ、久しぶりだね。瑞鶴」ゼエゼエ
瑞鶴「・・・体力落ちた?」
提督「い、いいや! まったくさ!」ゼエゼエ
翔鶴「もう三十五歳だから・・・」
提督「え、永遠の二十歳だから!」ゼーゼー
やはり態度も変わらないままだ。
「お父さん! このお姉ちゃんだれー?」
提督「ああ、瑞鶴お姉ちゃんさ。紹介しよう、この子はしょうかくと言うんだ」
瑞鶴「うわー、可愛いわね!」
しょうかく「お姉ちゃんよろしくねー!」
瑞鶴「うん、よろしく」ニコッ
提督「まあ、この子から見れば叔母さんになるけど・・・」ボソッ
瑞鶴「何か言ったかしら!!」ビキビキッ
提督「いいえ何も!!」ビシッ
翔鶴「瑞鶴、うちのリンゴ食べる?」
瑞鶴「えっ!? 良いの!」キラキラ
翔鶴「ええ、こっちよ」
販売所に行き、一つリンゴを取り出す。
そこそこ大きいリンゴだ。色艶も綺麗である。
翔鶴「よいしょ!」ザクッ
包丁を持ち、リンゴ剥きだす。そしてそのリンゴを小分けに切る。
その切られたリンゴを皿に入れて、テーブルに置く。
瑞鶴「美味しそうね!」
提督「ほれ、早速食べちゃって!」
瑞鶴「いただきまーす!」ガブッ
つまようじに刺したリンゴを齧る。
中はジューシーで果汁が溢れ出す、程よく甘くて食感も抜群だ。
瑞鶴「こんなリンゴ初めてだわ!」テレテテー
提督「そりゃあそうさ、何せここオリジナルのリンゴだし」
翔鶴「作るのに手間と時間が掛かりましたね」
提督「娘も産まれて大変だったけど楽しかったよ」
瑞鶴「そういえばこのリンゴの名前は何て言うの?」
提督「ん? このリンゴの名前はね・・・」
「『たいほう』って言うんだ」
これにてSS終了です。
駄文と初めてのSSで慣れないところもありますがご了承ください
評判が良かったら大鳳のIFルートも考えてみようと思います。
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