高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ちょっと疲れた日のカフェで」 (39)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「ねー、藍子」

高森藍子「何ですか?」

加蓮「明日とかってヒマ?」

藍子「明日……? ちょっと待ってくださいね。今、確認してみますから」

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第44話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「手がかじかむ日のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「寒暖のカフェで」
・北条加蓮「カフェに1人で来た日の話」
・高森藍子「カフェで加蓮ちゃんを待つお話」

お久しぶりです。

藍子「――はいっ。わざわざありがとうございます、モバP(以下「P」)さん」

藍子「え? いえいえ、違いますっ。もっとお休みが欲しいのではなくて……アイドルをやっている時だって、すごく楽しいんですから」

藍子「……ふふ。期待しちゃいますね、名プロデューサーさんっ♪」ピッ

加蓮「どだったー?」

藍子「夕方までなら大丈夫ですよ。夕方から、ラジオの収録があるので、それまでなら」

加蓮「そか」

藍子「また、ここにしますか?」

加蓮「うん。……やっぱり飽きないんだよね、ここ。来る度に初めてって感じがして、でも、藍子を見たらいつも通りって思えて――」

加蓮「って何言わせんのよー」

藍子「あはは……私、何も言っていませんよ?」

加蓮「夕方から収録って、学校とかいいの?」

藍子「あの……加蓮ちゃん? 学校って……今は、もう春休みですよ?」

加蓮「……あ」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……春休みに学校に用事がある人だっているかもしれないじゃん」

藍子「部活動をしている人とか?」

加蓮「後は補習とか」

藍子「そこは大丈夫です。テストは、バッチリ乗り越えましたから!」

加蓮「そういえばこの前、事務所で教科書開いてたねー。テスト勉強だったの?」

藍子「はい。悪い点数を取っちゃったら、アイドル活動もできなくなっちゃうかもしれませんし……それに、ここで加蓮ちゃんとお話する時間も、減ってしまうかもしれませんから」

加蓮「その時は藍子の学校に乗り込んでみよっかなぁ」

藍子「やめてくださいっ」

加蓮「なんでよ」

藍子「そんなことしたら大騒ぎになっちゃいますよ。有名アイドルが来た! ってことに……」

加蓮「有名アイドルが何か言ってる」

藍子「私は加蓮ちゃんほど目立つことはないですから」

加蓮「そお? ファンクラブとかいっぱいありそうっていうかいっぱい加入してそうだけどなぁ」

藍子「そんなことないですよ~。クラスの友だちはよく応援してくれますけどこれでも目立たない方で――って、私のことじゃなくて加蓮ちゃんのお話ですっ」

加蓮「じゃあ隠れファンクラブ」

藍子「いませんってそんなのっ」

加蓮「私なんてさ、最近アレだよ? 最近……、……あぁそもそもクラスの子と顔合わせてないんだった」

藍子「ここのところすっごく忙しかったですよね。加蓮ちゃんこそ、学校は大丈夫なんですか?」

加蓮「なんとか。忙しいってのもこの前ので一段落ついたからね。そしたらもう春休みになってるし……。3学期とかほとんど学校に行ってない気がする……」

藍子「留年しちゃわないように、気をつけてくださいね」

加蓮「気をつける~。でさ、この前に久々に学校に行ったらなんか人間関係が変化してたの」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「うん。3学期になって何かあったのかな? って」

藍子「ふんふん」

加蓮「ところが何もありませんでしたー」

藍子「なかったんですか~」

加蓮「それとなーく探ってみたけどそれっぽいのは全然。ケンカしたり修羅場ってたりしたのかな、って思ったんだけどね。変なの。私が勝手に見間違えただけなのかな」

藍子「ふふっ。でも……加蓮ちゃんの気持ちはなんとなく分かります。1週間、学校を空けているだけで、なんだかぜんぜん別のクラスになった、って気がしちゃいますよね」

加蓮「……そう?」

藍子「あ、あれっ?」

加蓮「どうだろ……。1週間空けてー……1週間……前の撮影の時に2週間くらいロケに使って、その時はー……」

加蓮「でも、ちょっと駄弁るだけで中に入れたっていうか……。んー、ごめん藍子。ちょっと分からない」

藍子「それは残念っ」

加蓮「藍子に私の気持ちなんて分かる訳ないんだー」

藍子「うぅ……」

加蓮「私の何が分かるー」

藍子「ううぅ……」

加蓮「……何か言い返せば?」

藍子「…………」

加蓮「……、……、……なんかゴメン」

藍子「いえ……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……と、とにかくさ。えーと、その……」

藍子「……そ、そういえば加蓮ちゃん。明日のお話をここでするなんて珍しいですよね」

加蓮「あ、あー、そうかもね。うん」

藍子「もしかして……新メニューをいち早く知りたくなっちゃった、とか!」

加蓮「いや違うけど」

藍子「あれぇ……?」

加蓮「……ぷっ」

藍子「?」

加蓮「今日の藍子は調子が悪いんだね。加蓮ちゃんの気持ち、分からなくなっちゃった?」

藍子「……ふふ。今日はなんだか、うまくいかないみたいです」

加蓮「そういう日もあるよね」

藍子「だから加蓮ちゃんの気持ち、しっかり教えて欲しいな……。考えていることとか、思っていることか。そういうの、いっぱい教えてくださいっ」

加蓮「何それー。変なの」

藍子「直接聞いてみたい日だってありますから」

加蓮「そういう日もあるよね」

藍子「でも、本当にどうしたんですか? だってまだ3時で――次の約束とかなら、分かるのに……」

加蓮「んーとさ。ほら、私って最近スケジュールがすごいことになってたじゃん」

藍子「なっていましたね」

加蓮「でも藍子とここで駄弁ってたじゃん」

藍子「お話していました」

加蓮「写真を見せてもらったり」

藍子「店員さんに見せる写真を、一緒に選んだり」

加蓮「あれ結局どうなったの? 撮り直すって気合入れてたよね」

藍子「まだ撮りに行けていないんです。加蓮ちゃん、今度、一緒に行きませんか?」

加蓮「いーよー。って言っても私は藍子の邪魔しかできないと思うけど」

藍子「邪魔だなんてそんな」

加蓮「カメラを構える藍子ちゃんの首筋に冷たいジュースを押し付けることくらいしかできないと思うけど」

藍子「それはしないでくださいっ」

加蓮「集中している藍子ちゃんの後ろから「わーっ!」って叫ぶことくらいしかできないと思うけど」

藍子「それもダメ~っ! それっ、邪魔しかできないじゃなくて加蓮ちゃんが邪魔したいだけじゃないですか!」

加蓮「正解!」

藍子「も~」

加蓮「ふふふー。ほら、藍子をリラックスさせる為にね? 藍子にだってプライドはあるだろうけどさ、肩の力は抜かなきゃ」

藍子「プライド、って程じゃありませんけれど……せっかくお見せするんですから、いい1枚を撮りたいですね」

加蓮「分かる分かる。どんなに小さなステージでも全力で! みたいなヤツでしょ」

藍子「はいっ。あ、でも、あんまり全部に全力になりすぎると、疲れちゃいますよ。時には休憩しちゃいましょ?」

加蓮「……それ、1週間、いや1ヶ月……2ヶ月前の私に言ってくれる?」ダルーン

藍子「あー……」

加蓮「お陰でクラスメイトどころかお母さんともまともに話してないよ最近……。帰ってすぐ寝てばっかりだし、ご飯は事務所とか外とかで食べてばっかりで……」

藍子「……それなら今から加蓮ちゃんの家に行っちゃいましょうか? それで、晩ご飯を一緒に――」

加蓮「お母さん、今日は親戚の家に行くんだってー」

藍子「た、タイミングが悪い……」

加蓮「週末だからって。で私に予定が入ってるものだと思ってるから誘われすらしなかった。事後報告」

藍子「わぁ」

加蓮「ひどいよね。ひどすぎるよね。私もう高森家の子供になっていい? 高森加蓮になっていい?」

藍子「うーん。……1日だけなら?」

加蓮「1日だけなら」

藍子「そういえば、お父さんはいないんですか?」

加蓮「数日前から出張でーす。1日限定、高森家の子体験。プランは藍子にお任せ~」

藍子「……つまり、私の家に来たいってことでしょうか?」

加蓮「うん」

藍子「寂しいのなら、最初からそう言えばいいのに」

加蓮「いや、その脚色はいらない」

藍子「……寂しいのなら最初からそう言えば――」

加蓮「なぜ2度言った!」

藍子「ふふっ♪」

加蓮「別に寂しいとかそういうんじゃないから……」

藍子「分かってますって~。お母さんにメールしておきますね。晩ご飯、加蓮ちゃんの分もお願い、っと……」ポチポチ

加蓮「ホントに分かってるんだか。……思うんだけどさ」

藍子「ふぇ?」

加蓮「それ、1日限定で終わる?」

藍子「…………」

加蓮「終わるよね?」

藍子「……………………」

加蓮「無言+引きつり笑い+目を逸らす。嘘つきのフルコンボだよ、これ」

藍子「……私はまだ「1日限定で終わる」って言っていないから、嘘ではありません」

加蓮「おぉ」

藍子「1日限定じゃないと、ダメですか?」

加蓮「そうじゃないけど……やっぱイマイチ慣れないんだよね。藍子のお母さん」

藍子「加蓮ちゃん、いつも私のお母さんの前で礼儀正しくなっちゃいますよね。変に畏まっちゃったり」

加蓮「ん」

藍子「お母さん、不思議がっていましたよ。私がお話している加蓮ちゃんとイメージが合わない、って」

加蓮「だからアンタどんな話をしてんの。……そういえばクリスマスの時に問い詰めれてなかったっけ。ねぇ何を話してるの? ねぇ?」

藍子「そ、そんなに迫ってこないでください。何って普通にお話しているだけですよ? ここでのこととか、アイドルのこととか」

加蓮「変なことを言ってたり」

藍子「してませんっ。お母さんいつも言っているんです。頼りになる友だちができてよかったね、って」

加蓮「頼りに?」

藍子「ほら、加蓮ちゃん、頼もしくて……困ったことがあったらすぐ解決しちゃいそうですから」

藍子「私、昔からよく、お母さんやお父さんに心配されることが多かったんです。危なっかしい、って言われちゃうことも」

加蓮「あぁ」

藍子「でも最近は、加蓮ちゃんがいたら安心だ、って。安心してくれてました」

加蓮「ふうん……。私の方が助けてもらってるのに、変な話だね」

藍子「そんなことないですよ。加蓮ちゃんには、いつも助けてもらっています」

加蓮「私の方が助けられてるよ。藍子に」

藍子「私の方が助けてもらってますっ」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……ふふっ」

藍子「……あはっ」

加蓮「ま、やっぱり高森加蓮体験は1日限定にさせてよ。明日になったらいつも通りっと」

藍子「加蓮ちゃんはやっぱり、北条加蓮ちゃんだから加蓮ちゃんですよね」

加蓮「そーそー」

藍子「……」ジー

加蓮「何?」

藍子「お姉ちゃんっ♪」

加蓮「ホントそれ好きだね」ペチ

藍子「あうっ。はたかなくてもいいじゃないですか~」

加蓮「……そーいえばうちのお母さん、週末には親戚と一緒にどこかに行くって言ってたっけ……。高森加蓮体験は2日コースになるかも」

藍子「2日目は、私が北条藍子を体験してみるのはどうですか?」

加蓮「いーけどうち何もないよ? ご飯とか……まぁ外食すればいっか」

藍子「加蓮ちゃんが作」

加蓮「やだ」

藍子「即答……。やっぱりですか?」

加蓮「少なくとも今は何かに挑戦してみようって気になれないかも。ちょっとこう……休憩モード? ってヤツ?」

藍子「休憩モード」

加蓮「最近すごかったからねー。もうホントすごかった。だから休憩モード。ぐったり加蓮ちゃん。……流行ったりしないかな?」

藍子「流行るかもしれませんけれど、そうしたらみんな加蓮ちゃんを心配しちゃいそう……」

加蓮「だよねー」

藍子「ちょうど暖かくなってきましたから、ぐったり……じゃなくてのんびりするなら、ひなたぼっこなんてどうですか?」

加蓮「たまにはいいかも」

加蓮「そういえばさ。あんまり忙しくなかった頃って何やってたっけ、って。思い出せなくなっちゃったんだよね」

藍子「思い出せなく?」

加蓮「家でゴロゴロしてた気もするし、ぶらっとウィンドウショッピングなんてやってた気もする」

加蓮「仕事がないのに事務所に行って自主練したり、奈緒とか未央辺りに巻き込まれてその辺で駄弁ったり遊んだり」

藍子「ふんふん」

加蓮「……って感じに生きてた気がするんだけど、それがぜんっぜん思い出せなくなってたの」

加蓮「ううん、思い出せないともまた違うのかな。色々やってて……違う、って。ぜんぶ違う気がして、モヤモヤばっかりしてて」

藍子「それで加蓮ちゃん、少し疲れた顔なんですね……」

加蓮「やっぱ分かる?」

藍子「少しだけ。疲れている、っていうより……ずっと、何かを探している顔だなぁ、って」

加蓮「探して……かなぁ……。もしかしたらそうかも……」

藍子「ここで何をしていたかは、思い出せますか?」

加蓮「覚えてるよ。記憶喪失じゃないんだから」

加蓮「…………」

加蓮「ここはどこー、私は誰ー? なんてっ」

藍子「あなたはー……」

藍子「あなたは~、高森加蓮ちゃんです~。高森加蓮ちゃんですよ~。私のお姉ちゃんです~」

加蓮「刷り込みかっ」ペチ

藍子「あたっ」

加蓮「棒読みすぎるっ」ペチ

藍子「あうっ」

加蓮「私だってたまには妹をやりたいっ」ペチ

藍子「ひゃっ。……って3回も叩かないでくださいよ~」

加蓮「なんとなくはたきたい」ペチ

藍子「がーど!」バッ

加蓮「…………」

藍子「…………」ドヤッ

加蓮「……何やってんだろ私?」

藍子「……さあ?」

加蓮「小学生ごっこは置いておいて」

藍子「何のお話でしたっけ?」

加蓮「加蓮ちゃんの自分語り。番組にしたら5分くらいのVTRにならないかな」

藍子「ドラマにもできちゃいそうです」

加蓮「とにかく、オフの日とか何してたっけってなって……変な感じがして」

藍子「普段やっていたことが、分からなくなっちゃったお話ですよね」

加蓮「そそ。藍子ってそういうことない?」

藍子「どうだろう……。さっきお話しましたけれど、1週間くらいずっと学校に行かなかったら、急に違うクラスみたいな感じはしてしまいます」

加蓮「言ってたね」

藍子「例えば、隣のクラスとかって、ぜんぜん雰囲気が違うじゃないですか。教室の形とか色とかは似ているのに、ものすごく入りづらくて」

加蓮「分かるー」

藍子「あんな感じの違和感は、たまにあるんです。……加蓮ちゃんが言っているのも、そんな感じなのかな?」

加蓮「たぶん似てると思うよ」

加蓮「入院しがちだった頃に似た感覚は何度もあったんだ……普通に学校に通いだしてからは、少しは安定してきたけど」

加蓮「まさかまたこうなるとは思わなかったなぁ。変なの」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「でもっ。そんなんでもさ。ここと藍子はいつも通りなんだよね、やっぱり」

加蓮「藍子が来たら、さーて今日はどうからかってやろうかな、って思ってみたりして」

藍子「むぅ。いつも私を見る度に、悪いことを考えていそうな笑顔になりますよね」

加蓮「あ、やっぱしバレてた?」

藍子「ばればれですっ。なのに加蓮ちゃん、何もしてこないから……逆に、あれっ? ってなっちゃいますよ」

加蓮「してほしいんだ」ニヤニヤ

藍子「そうじゃなくて~」

加蓮「コーヒーを飲んだらいつもの味で。サンドイッチはいつも通り美味しくて」

藍子「お昼に食べる定食も、いつもの味ですよね」

加蓮「そうそう。期間限定メニューが楽しみなのも、ちゃーんと覚えてる」

加蓮「カフェはいいんだけど、それ以外の日常がどっか行っちゃいましたー。制服が着慣れませーん。どうしたらいいでしょうかー」

藍子「どうしましょうか」

加蓮「どうしよっか」

藍子「手を伸ばせば、届きますか?」

加蓮「私の手、まだまだ短いみたいで。困ったものだね」

藍子「……一緒に伸ばせる手があれば、よかったのに」

加蓮「こればかりは無理だよ。私は私だし、藍子は藍子だから」

藍子「少し、考えを変えてみるのはどうでしょうか?」

加蓮「ん?」

藍子「いつも通りのことが、いつも通りじゃなくなったら……すっごく不安だって思うんです」

藍子「でもそれって、その分だけ、新しい発見があるってことじゃないですか」

藍子「見慣れた場所でも、立つ場所や訪れる時間を変えたら、違う写真が撮れるように」

藍子「加蓮ちゃんがよく知っていることの中から、知らないことが見つけられるかもしれません」

藍子「だから……そのチャンスだ、って思っちゃいましょう!」

加蓮「…………ん」

藍子「新しいこと探しに疲れちゃったら、ここに来てみるとか……あっ、そんな時はやっぱりっ」

加蓮「高森加蓮体験!」

藍子「しちゃいましょうっ」

加蓮「そのためにはまず……藍子のお母さんの前で緊張しなくなる必要があるね」

藍子「それならまず、私で練習してみましょう! ほらほら、私をお母さんだと思ってっ」ドヤッ

加蓮「…………」

藍子「…………」ド、ドヤッ

加蓮「…………」

藍子「…………」ドヤ...

加蓮「……逆にさ、藍子の前で緊張とか演技でもできそうにないよ」

藍子「…………」アハハ

加蓮「ぎこちない感じ? あ、そうだ。藍子のイメージが変わればいける。まずは肌を見せる感じで――」

藍子「そ、そういう考えの変え方はやめましょう」

加蓮「ちっ」

藍子「今舌打ちしました!?」

加蓮「あ、聞こえてた?」

藍子「聞こえるようにしましたよね!?」

加蓮「改めてヤバイなぁ、このバレバレっぷり。やっぱりぜんぜん調子悪くないじゃん」

藍子「むぅ……」

加蓮「お母さん役のドラマとかやってみる? その歳で……って、藍子なら難なくこなしそうか」

藍子「お母さん役って、どうしたらいいんでしょう? 子どもに勉強を教えたり、料理をしたり?」

加蓮「甘い。甘いよ。最近のお母さんはすごいんだよ。バリバリ働いてたりスーツ着てたりするらしいよ」

藍子「もしかしたら、女性のスタッフさんの中に子どもがいるって方もいるのかもしれませんね」

加蓮「今度聞いてみよっか。……いや、こういうのってあんまり聞かない方がいいのかな?」

藍子「うーん……自然にお話できるといいんですけれど」

加蓮「こういうのってやっぱり愚痴から入った方がいいらしいよ」

藍子「愚痴?」

加蓮「最近上手くいかないーとかそんな話。その方が親近感が湧いたりするんだって。あと、この人が言ってるなら自分も言っていいのかな? って思うとかなんとか」

藍子「へぇ~、そうなんですか」

加蓮「……アイドルがスタッフにプライベートのことを愚痴るのは、ちょっと無いよね」

藍子「いつもお世話になっているメイクさんとかになら、まだ……?」

加蓮「そもそもさ」

藍子「そもそも」

加蓮「藍子が自然に愚痴を言える姿とか想像できないんだけど」

藍子「む。私にだって、きっとできますよ。例えば――」

加蓮「例えば?」

藍子「…………加蓮ちゃんがいつもからかってくるんです、とか」

加蓮「それ私じゃん。私の話じゃん。家族の愚痴はどこに行ったのよ」

藍子「うぅ」

加蓮「あははっ。ま、いっか。やめやめ!」

加蓮「別に藍子に悪い子になって欲しい訳じゃないんだし。この話はナシにしよう。ナシ!」

藍子「無しにしちゃいましょう」

藍子「それに、これって加蓮ちゃんが、私のお母さんの前で緊張しない為には~、ってお話だったんですよね? それなら別の方法を探してみればいいじゃないですか」

加蓮「んー。……まぁそのうち慣れると思うよ?」

藍子「本当ですか?」

加蓮「そこ疑う?」

藍子「疑う、って訳じゃなくて。ただ、加蓮ちゃんって、苦手な人とかはずっと苦手のままでいそうだから……」

加蓮「あー、あるかも。逆に最初でピンと来たらすぐ仲良くなる感じなんだよね。ほら、藍子にだって」ビシ

藍子「私?」

加蓮「初めてカフェで会った時だって、気づいたら盛り上がってたんだからさ」

藍子「そうですよね。いつの間にか、ずっと前からの友だちって感じがして……」

加蓮「ね。でもそこは藍子がすごいんだと思うよ」

藍子「私が?」

加蓮「なんかそういうオーラ的なの? 空気とか持ってるんじゃないかなって」

加蓮「日常に違和感ができた時だって、藍子を見たらいつも通りを思い出せるし」

加蓮「きっと、そういう"何か"を持ってるんじゃないかなって」

藍子「……ふふっ。自分では分かりませんけれど、でも、安心してもらえるなら、私も嬉しいですっ」

加蓮「うんっ」

加蓮「……はーっ」ノビ

加蓮「お休みをもらうと逆にやることが分からなくなる、なんて、まさか自分がそうなるとは思わなかったなぁ」

藍子「まるでPさんみたいですね、加蓮ちゃん」

加蓮「Pさん? ……あぁ。ヒマさえあれば仕事やってるもんね」

藍子「この前、お休みの過ごし方を真面目に聞かれたんですよ。何かくつろげる場所はないかって」

加蓮「へー。何を教えたの?」

藍子「とりあえず、オススメのカフェと、ついでにお散歩コースを教えましたけれど……Pさん、行ったのかな?」

加蓮「相変わらずのカフェマスター」

加蓮「……ん? あれ? それ、私も聞かれた気がする……。確か温泉辺りオススメしてみたけど、どうだっけ……」

藍子「温泉?」

加蓮「前に藍子と行った温泉街とか。あそこは賑やかだけど、ゆっくり休めるでしょ?」

藍子「足湯めぐりや、大浴場は静かでしたよね。宿でゆっくり眠ったら、疲れもぜんぶ吹っ飛びそうです」

加蓮「そうそう。あ、ってことは私も温泉に行ったら回復できるのかな?」

藍子「そういう時は、ゆっくりお湯に浸かりましょう」

加蓮「……ダメだ10分で出る。そして温泉街で大騒ぎしてる自分が見える」

藍子「逆にくたくたになっちゃいそう?」

加蓮「藍子が私の分まで騒いでくれるなら、その間に私はゆっくり休憩――いやそれもダメだ絶対うずうずする。身体がうずうずする」

藍子「5分ももたない加蓮ちゃん」

加蓮「今日から私もパッションアイドル!」

藍子「……バテない程度にしてくださいね?」

加蓮「自信ない」

藍子「私は自信満々な加蓮ちゃんが見たいですっ」

加蓮「私も自信満々な藍子ちゃんが見たいです」

藍子「……が、頑張りますね」

加蓮「頑張れー」

藍子「そうだっ。逆に、バテちゃうくらいに大はしゃぎしてみるのはどうですか?」

加蓮「そしたらモヤモヤも晴れるかもね。暑くなる前に1回くらい行っちゃおっか」

藍子「明日とか」

加蓮「藍子ちゃん1日独占コース。朝は家でだらだら、昼はカフェで夜は温泉。……え? 何これ天国?」

加蓮「あ、いやいや。べつに? わたしがあいこにつきあってあげるだけだし?」ニヤニヤ

藍子「加蓮ちゃん。顔、顔っ♪」

加蓮「……はっ。いやこういうの奈緒のキャラだから。私のキャラじゃないから。キャラかぶりNGだから」

藍子「♪♪♪」

加蓮「な、何。顔を楽譜みたいにするのやめなさいよ」

藍子「せっかくですから、一緒に写真も撮っちゃいましょうっ」

加蓮「そーいえばそんな話もあったね。このカフェに似合いそうな写真、だっけ?」ミワタス

藍子「店員さん、カフェに似合いそうでもそうじゃなくても、素敵な写真ならどんな物でもいい、って言っていましたよ」

加蓮「ふーん。じゃ藍子のドアップでいいじゃん」

藍子「えぇ!?」

加蓮「ダメ?」

藍子「ダメ、じゃないですけど……いややっぱりダメです! それはちょっと……うぅ、とにかくダメ!」

加蓮「えー」

藍子「そうじゃなくてこう、風景の写真とか! ……加蓮ちゃんがそう言うなら加蓮ちゃんの写真でもいいですよね!?」

加蓮「カフェに加蓮ちゃんの写真があっても「は?」ってなるだけでしょ?」

加蓮「でも、カフェに藍子ちゃんの写真があったらみんな笑顔で頷くよ。なるほどねー、って感じで」

藍子「何がなるほどなんですか!?」

加蓮「……なんとなく?」

藍子「なんとなく!?」

加蓮「芸能人がお店にサインをプレゼントしたりするじゃん。藍子ってああいうのやったことないの?」

藍子「ないですよ……。それに、それはサインじゃないですか。写真とは違います」

加蓮「同じようなものだと思うけど」

藍子「違うんです。……違う物は違うんです」

加蓮「そか。……風景写真かぁ。藍子、何か撮りたいのとかあるの?」

藍子「あ、はいっ。これが撮りたいっ、っていうのは、特には」

加蓮「春って言えばやっぱり桜?」

藍子「ふふ、定番ですね。それから、学校とか、教室とか……あと、新緑の中とかもいいかもしれませんね」

加蓮「新緑だったらもう少し後になりそう。学校って?」

藍子「年度が変わったら、クラスも変わって……それに、新しい後輩が入学してきますよね」

藍子「私、あれがなんだか好きなんです。自分が入学する時は、すっごくドキドキしましたけれど……中学校の時、後輩の入学式を見て、なんだか楽しくなっちゃって」

加蓮「あ、分かる分かる。初々しさってあるよね」

加蓮「うちの事務所にも新人とか来ないかなー。初々しくて可愛いアイドル候補生みたいなの」

藍子「加蓮ちゃん、頼れる先輩になれそうですね」

加蓮「私はアレだよ。厳しくしすぎて嫌われるタイプの先輩。で、藍子が優しい先輩」

藍子「じゃあ、頑張ってついていけるようにしなきゃっ」

加蓮「頑張れ優しい先輩アイドル。新人の情熱に負けるな! ……でも学校の写真かぁ。そういうのもいいかもね」

藍子「春休みになったら、先生に許可をもらって撮影しなきゃ。加蓮ちゃんも一緒に撮りますか? 撮りましょうよ!」クイクイ

加蓮「わーこら急にグイグイ来て。分かった分かった。私も手伝うからくいくい引っ張らないのっ」

藍子「ふふ。ありがとうございます、加蓮ちゃん♪」

加蓮「で、真新しい制服に身を包んだ藍子ちゃんの写真をカフェに飾るって話は、」

藍子「それはないですっ!!」



おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

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