魔王「生きてて良かった」 (50)

男「…」

「…」

男「まーた、遊べないんだな」

「…ごめん」

男「いや、いいよ、俺だって結局無理だったし」

男「全く、ただ一緒に帰るだけってのが友達って言えんのかね」

「…」

男「嘘だって、言えるよ」

男「…俺らは、友達だろ?」

「…!」

男「だから、次こそは遊ぼうぜ」

男「…って、お前は難しいか」

「…ううん、僕も、無理言ってでも君と遊ぶよ」

「…君ともっと、仲良くなりたいからね」

男「…」

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男「そうだな」

男「…俺も…」

キキィィィィィ!!

男「っ…」

(そこから先は…)

(ただ、唯一の友達は、俺の目の前で真っ赤になってて)

(…もう、「何」が「どこ」にあるのか分からなくなってて)

(…目の前のその惨状がただ恐ろしかった)

男「…」

(叫び声をあげようにも、あげることが出来ない)

(息が冷たくなってくる、錆び付いた機械のように関節が軋む)

(…俺は死ぬ)

(こんな、理不尽な理由で、俺は死ぬ)

(それが許せない、こんな、こんな気持ちで死ぬことが幸せなはずがない)

(俺は不幸だ)

(…きっと、不幸だ)

( )

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー


「…あ?」

(…なんだ、ここ)

(…っつ…)

「…俺、何でここにいるんだ?」

「…つーかここ、どこだよ?」

?「いいねぇ、馴染んでるね」

「っ…!」

?「そんなに警戒すんなよ、どうした?はははは!」

「…」

?「何が起こったか分からねぇってツラしてんなぁ、だろうよ」

?「ここがどこかも、俺が誰かも分かんねぇだろうな」

?「でも、自分のことなら、分かるんじゃねぇか?」

「…自分の、こと…?」

キキィィィィィ!!

「…っぐ…げええええええっ…!!」ビシャビシャ

?「ははーははは!!!おもしれぇ!ゲロ吐きやがったぞ!」

「…げほっ…!げほっ…!」

?「ほんじゃあ教えてやるよ、俺は悪魔だ」

「…悪魔…?」

悪魔「想像通りで間違いねぇよ」

「…」

悪魔「死んだお前を、こっちに無理やり連れてきたんだよ、俺の力でな」

「…ここは…」

悪魔「異世界、俺からすりゃお前んところが異世界なんだけどなぁ」

悪魔「ははははは!いいね!その顔!お前じゃなかったら殺してるわ!」

「…お前は、何だ?…あれは、現実か?」

悪魔「お、意外とタフだねぇ」

悪魔「いいねぇ、そんくらい物分りが良くなくっちゃあ、これから先困るだろうしな 」

悪魔「現実だよ、お前はあの時鉄の塊に潰されて死んだ」

「…!」ゾッ

悪魔「痛みすら感じなかっただろ?死ぬ時なんてそんなもんさぁ」

「…」

悪魔「何だ?ショックで喋れねぇのか?病気じゃあるめぇしよ」

「…何で…」

悪魔「まぁ待てや、喋れって言って遮るのは申し訳ねーと思うが、お前の疑問に一々付き合ってちゃ、時間がいくらあっても足りねぇ」

「…」

悪魔「もうそろそろ、着くから寝てろ」

「…は?」

ガサガサガサガサガサ

「…!」

「おお、魔王様、こんな所にいらっしゃいましたか」

「…は?…魔王?」

「…記憶の混乱が…」

「…記憶…?ち、違う…!俺は…!」

(…っ、なんだこいつ…よく見りゃ…角?…尻尾…?)

悪魔「お前の体をよく見てみろよ、いいもん付いてんだろぉ?」

「…っ!…これっ…!?」

「魔王様、今は大変危険な状況にございます」

「お気持ちは非常に分かりますが、ともかくまずはここを離れて…」

「…は、離せっ!!」

「…」

悪魔「おいおい、暴れんな」

「…ご無礼を」トンッ

「…ぐっ…」

悪魔「おーおー、忠実な下僕なことで」

ーーーーーー

ーーー




「…ここは…」

悪魔「気が付いたか?」

「…俺は…」

悪魔「よう、新しい魔王様」

魔王「…魔王」

悪魔「だらしねぇ顔すんじゃねェよ」

魔王「…待てよ、教えろ」

魔王「…お前、俺に何した?…ここはどこだ?あいつらは、何だ?」

悪魔「体を作り替えた」

魔王「…」

悪魔「大変だったんだぜ、人間の体を魔族に作り替えるのはよぉ」

悪魔「ま、そこは俺の力あってこそだな」

魔王「…」

悪魔「次、ここは悪魔の城だ、ま、今更詳しくいう必要もねぇな」

悪魔「あいつらもお前と同じ魔族だ」

魔王「…」

悪魔「なんだよ、まただんまりか」

魔王「…理解出来ねぇんだよ…!いきなり目の前に変なやつが現れて…悪魔だとか魔王だとか…!」

魔王「…!」

魔王「…なんで、あいつらは俺を魔王と呼ぶんだ?」

悪魔「おお、やっぱお前を選んで正解だわ」

悪魔「客観的に状況を読む力っつーのは重宝するぜ、どんな時にでもな」

魔王「…」

悪魔「早くいえってツラだな」

魔王「魔王ってのは本来死なねぇんだよ、死んじまってもすぐに転生しちまう、実質不死なのさ」

魔王「新たな魔王の転生場所は、魔界の国宝「予言の書」ってのに逐一書き足される」

魔王「…んだけど、お前の前の魔王が…まぁ俺なんだけどよ、死んじまってな」

魔王「転生出来ないくらいの呪いを魂にかけられちまったもんだから、さぁどうしようってなっちまってよ」

魔王「…」

悪魔「なんだよ、まただんまりか」

魔王「…理解出来ねぇんだよ…!いきなり目の前に変なやつが現れて…悪魔だとか魔王だとか…!」

魔王「…!」

魔王「…なんで、あいつらは俺を魔王と呼ぶんだ?」

悪魔「おお、やっぱお前を選んで正解だわ」

悪魔「客観的に状況を読む力っつーのは重宝するぜ、どんな時にでもな」

魔王「…」

悪魔「早くいえってツラだな」

悪魔「魔王ってのは本来死なねぇんだよ、死んじまってもすぐに転生しちまう、実質不死なのさ」

悪魔「新たな魔王の転生場所は、魔界の国宝「予言の書」ってのに逐一書き足される」

悪魔「…んだけど、お前の前の魔王が…まぁ俺なんだけどよ、死んじまってな」

悪魔「転生出来ないくらいの呪いを魂にかけられちまったもんだから、さぁどうしようってなっちまってよ」

悪魔「何とか魂だけでも蘇らせて、お前を呼び込んだってわけだ」

悪魔「一回死んじまった魔王は強大な魔力以外を引き継げない」

悪魔「種族も、性別ですら変わっちまうのさ」

悪魔「ま、つまり確かめる術がねーって訳だ」

悪魔「俺がこっそり予言の書をいじくってよ」

悪魔「そんで予言された場所にお前が倒れてたらどうよ?どう考えても転生したての魔王だろ?」

魔王「…」

魔王「…最悪だ…」

悪魔「ああ?」

魔王「てめぇ!俺の人生をなんだと思ってやがる…!」

魔王「何が魔王だ…!ふざけんな!こんな訳わかんねぇ所で…!」

悪魔「はあ?何だったんだよ?」

魔王「…!」

悪魔「てめぇの人生はなんだったんだよ」

悪魔「お前を作ったってだけで、生物的には遥かに劣るあの不細工な男にペコペコしてるだけの人生に意味があんのか?」

魔王「…黙れ…!」

悪魔「いつか、どうにかしてやるって思ってたか?でもよ、もうそんなチャンスは巡ってこねぇんだ」

悪魔「お前は死んじまったんだよ、おい」

魔王「…っ」

悪魔「今更下らねぇことをガタガタ抜かすなよ、何もてめぇに全部やれって言ってんじゃねぇよ、ただ俺に体を貸せばいい」

悪魔「後は俺がやってやるよ」

魔王「…俺が、素直に従うと思うのか?」

悪魔「はは、馬鹿だねぇお前も」

悪魔「俺は元魔王だ、殺さずに地獄を見せる方法なんててめぇの指の数以上に知ってるぜ」

魔王「…」

悪魔「やるか?」

魔王「…見返りは、あるのか?」

悪魔「…はははは!正しく「悪魔の契約」だなぁ!いいね!その貪欲さ!」

悪魔「お約束ってやつだなぁ!」

悪魔「いいぜ、俺の目的が叶ったら、お前の願いを何でも一つ叶えてやる」

悪魔「だからお前は、俺に力を貸せ」

魔王「…」

悪魔「言っとくが、元の世界に返せなんて無茶は言うなよ、そりゃあ無理だからな」

悪魔「ま、せいぜい考えとけや」

悪魔「欲深い、人間クン?」

魔王「…」

魔王「…」

魔王(…せめて、お前だけでも、生き返らせる)

魔王(…待ってろよ)

ドンドン!ドンドン!

「魔王様!気が付かれましたか!?」

魔王「っ…」

魔王「…お」

魔王「お、おお!いいぜ!は、入れ…!」

ガチャッ

「失礼します」

魔王「…お、おう…」

「…?失礼ですが…魔王様…」

魔王「な、なんじゃワレぇ!」

「…いえ、口調がどうも…」

魔王(やべ…早速…)

「…無理はしなくてもよろしいのです、記憶を無くしても魔王様は魔王様です」

魔王「…そ、そっか」

「…しかし、自分の目的はお忘れではありませんよね?」

魔王「…あー、えっと…実は…」

「…」

「…仕方ありません、記憶は不安定なものでございますから」

「…我々の目的は、魔族の安全な暮らしであります」

魔王「…!」

魔王(…そっか…そうだよな…)

魔王(話してみたところ、こいつにも感情がある)

魔王(RPGであるような、完全な悪者ってわけじゃないんだな)

「…そのためには、人間を抹殺する必要があります」

魔王「…」

魔王「…は?」

「記憶が無いところ、ことを急いてしまい非常に申し訳ありません」

「しかし、明日は恐らく最前線で激しい戦闘が起きます」

「どうか魔王様に出ていただきたく…」

魔王(…人間…?そんな奴らが…!俺と同じ…!)

悪魔「何だよ、まだ殺しきってねぇのか」

魔王「…うるせぇ、黙ってろ!」

「…?」

悪魔「俺の姿はお前以外にゃ見えちゃいねぇ、あんまりはしゃぐと馬鹿だと思われるぞ」

魔王「…あ、いやその…何でもない…」

魔王「そ、そもそも…なんで俺が最前線に…?」

「貴方様の力ならば、1振りで人間どもを吹き飛ばすことが可能でしょう」

「その姿を見ていただき、兵士の指揮をあげていただきたいのです」

魔王「…」

魔王「…」

「…まぁ、今は転生したてで、体のお調子が悪いのかも知れません」

「…では、明日の夜までにお決めください」

魔王「…あ、あの…」

「…はい?」

魔王「…あ、あんたの名前はなんて言うんだ…?」

「…」

側近「…私に名前はございません、側近とお呼びください」

バタン

魔王「…」

悪魔「相変わらずお硬いヤローだな」

魔王「…なぁ、人間がいるのか?」

悪魔「居るぜ」

魔王「…なんで…なんで争ってんだよ?…なんで俺は、人間と争わなくちゃなんねぇんだよ…!」

悪魔「そりゃ、魔族と人間がお互いを殺したいほど憎みあってるからだろ」

悪魔「なに人間の立場でもの言ってんだよ、てめぇはもうこっち側だぞ?」

魔王「…」

魔王「…やっぱり、お前達は…悪者だ…!」バサッ

悪魔「不貞寝、ね、人間らしくていいねぇー」

魔王(…くそっ…!くそっ…!)

悪魔『起きたら街でも覗いてみろよ、魔族の暮らしも捨てたもんじゃねぇから』




魔王(…)

魔王(…確かに、言われてみれば…)

魔王(ちょっと文明が古い気がするけど…普通の街だ)

魔王(…こいつ俺の中で寝ちまいやがった…くそ…)

魔王「つーか…」

側近「…」

魔王「歩きにくいんですけど!?」

側近「転生したてで魔法の使い方さえ忘れてしまっているのに街中をうろつくなんて正気の沙汰じゃありません」

側近「馬鹿ですかあなたは」

魔王「すいません」

魔王(おい!この人なんかすげぇ怒ってんだけど!おい!)

側近「…しかしまさか魔法の使い方まで忘れてしまっているとは…」

側近「…ですが、あなたから感じる魔力は以前のままですね」

魔王(そりゃこいつがいるからね)

側近「…どうしたものか…」

「あら、魔王様」

魔王「…はい?俺?」

側近「あなたしかいないでしょう」

魔王「あ、はい、何ですか?」

「ふふ、今度の魔王様は随分と穏やかでいらっしゃいますのね」

魔王「ど、どうも」

「ほら、あなたも挨拶しなさい」

少女「…」コソッ

魔王「…あ」

魔王(…女の子だ…角が生えてるけど…そんなに見た目は変わらない…)

少女「…」

魔王「…あの…」

少女「…」ビクッ

魔王「…あ、ごめん」

魔王(…ちょっと傷付くなぁ…)

少女「…はい」

魔王「…ん?」

少女「…頑張ってね、魔王様」

魔王「…」

魔王(…頑張る…何を?)

魔王「…ん、ありがとう」





側近「以前のあなたならばあの少女を蹴り飛ばしていました」

魔王「クズじゃん!」

側近「冗談です、けれどいい顔はしなかったでしょうね」

魔王「…」

側近「不器用な方でしたから、前のあなたは」

魔王「…」

魔王「…これ、何の花?」

側近「…魔界の峡谷でしか咲かない、毒の花ですね」

魔王「毒!?あの子毒渡したの!?」

側近「…花にはそれぞれ意味が込められています…見た目は美しくとも、毒があるその花は…」

側近「仮初の姿、または抑圧した衝動、でしたか」

魔王「…またそんな物騒なものを…」

側近「ただ、あの子はそんな深い意味など考えていないでしょう、綺麗だと思ってあなたに渡したのですよ」

側近「…あなたは、慕われていますから」

魔王「…」

魔王「なぁ、前の俺って、どういう奴だったんだ?」

側近「…とても、気性の激しい方でしたよ」

側近「…そして、強い憎しみを人間に抱いていました」

側近「…ですが、私たちは知っているのです、前の貴方様は、粗暴であっても私たちのことを第一に考えてくださっていたことを」

側近「…命を落とされたのも、我々の不手際ゆえ」

側近「本当なら、私こそあなたのために死ぬべきだったのです」

魔王「…」

魔王「…そんな事言うなよ」

魔王「…俺は死んでも生き返れるんだろ?…だったらあんたが死ぬよりよっぽどいいよ」

側近「…!」

魔王「…死ななくて良かった」

側近「…勿体ないお言葉です」






悪魔「行くのか?」

魔王「…てめぇ、気持ちよく寝やがって…」

悪魔「ははは、悪い悪い、この体だとリズムが狂っちまってなぁー」

魔王「…」

悪魔「…で、行くのか?」

魔王「…行くだけ行ってみるよ、殺しはしないけど、脅かして退けさせる」

悪魔「はあ?甘いこと言ってんじゃねぇよ、ぶっ殺すんだ」

悪魔「殺して殺して殺して、人間の臓物と悲鳴を、俺に見せてくれよ」

魔王「…まぁ、実際にやるのはお前だから…俺はかかわれないけれど…」

魔王「もし殺してみろ、そしたら俺は自殺してやるからな」

悪魔「…」

悪魔「…ちっ…お前は頭は悪くないかもしれないけど、馬鹿だな」

魔王「…」

魔王「…どうなってる?」

側近「はっ…!峡谷近くで大規模な奇襲を仕掛けられました」

魔王「…」

側近「…お力を貸して頂けますか」

魔王「…いいよ」

側近「よし、貴様ら!魔王様に続け!」

側近「奇襲がどうした!我らは元々夜の生き物!今でこそ、本来の魔族の力を人間どもに示してやろうぞ!」

「オオオオオオオオオッ!!!」

ビリビリッ

魔王「…」

悪魔「いよいよだなぁ」

魔王(…ここは、朝に来た街か…)

魔王「…ん?」

「ああ!…どこへ行ったの!?私の…私の…!!」

魔王「…」

側近「お気になさらぬよう」

魔王「どうしたの?」

側近「な…!」

「…私の…私の娘が…見当たらないのです…!どこに行ってしまったの…!?」

魔王「…今朝の…!」

「ああああ!あの子がいないと…私…!私…!」

魔王「大丈夫、必ず見つけてくるから」

「…本当ですか?」

魔王「うん、絶対」

側近「…」

「…お願いします…!どうか、…どうかあの子を…!」

側近「…無茶な約束を…」

魔王「何が無茶なんだよ、あんたも手伝ってくれればいいじゃん」

側近「…手伝います、手伝いますとも…ですが…」

魔王「…」

側近「お忘れですか?今は戦争中です、あの少女が絶対に無事というわけじゃないのです!」

魔王「…」

側近「貴方様は、未だお覚悟が足りないようです、見捨てる覚悟というものが」

魔王「…そんな…覚悟…」

側近「…行きましょう」

側近「そのお約束、最後まで貫き通すよう…」

側近「何があっても動揺されぬよう」

魔王「…」

オオオオオオオオオオッ!!!

魔王「…ここが、最前線…」

悪魔「はは!いいねぇ!弱い人間どもが死力を尽くして抗う姿ってのはァ!」

魔王(なに、言ってんだよ…魔族も死んでんだぞ…!?)

悪魔「…」

悪魔「…そりゃあ、仕方がねぇ事だ、これが戦争ってもんなんだよ」

魔王「…っ…うげ…」

側近「…目を逸らさぬよう、これが戦争でございます」

側近「人間の、存在全てを否定した戦いでございます」

魔王(…折れた角…千切れた腕…体の曲がった人間…!どれもこれも…)

魔王(…ひでぇ…!こんなの…見れたもんじゃねぇ…!)

悪魔「だーから、言っただろうがよ、とっとと代われ」

悪魔「寝てる間に、終わらせてやるからよ」

魔王(…あぁ、頼…)

魔王(…あれ?)

魔王「…あの花…」

側近「…!!魔王様っ!!」

魔王「…は、え?」

魔王(…ありえない方向に曲がった腕、口から出てる赤黒い物体、片足を失った下半身…)

魔王(…花を持った、右手)

側近「…お気を確かにっ!!!!」

魔王「…」

魔王(…あの子の、服だ)

側近(…まずい…!まさか…こんな所で死んでいようとは…!!)

魔王「…」スタスタ

側近「魔王様っ!!!」

魔王「…ごめん」

魔王(…何で?嬉しそうな顔をしたからか?だからまた…?)

魔王「…げえええええぇぇぇっ!!!」ビシャビシャ

魔王「あ、あ…げほっ…!!げぼっ…!!」

側近「魔王様!!!」

魔王「…ごめん、ごめん、ごめん、ごめん」

「なんだぁ?こいつ、吐いてやがるぞ?」

「殺しちまおうぜ、どうせ雑魚だ」

ドスッドスッ

魔王「…ごべん…」ボタボタボタボタ

側近「…その人に、触るなぁァァァーーっ!!」ダッ

魔王(…助けて、あげられなかった)

悪魔「…だから、言ったろうが」

魔王「…」

魔王「…」

(助けてあげられなかった)

(昔から言われてた、肝心な時に役に立たないって)

(…その通りだ、俺はどうしても役に立たない)

(それは、ここでも変わらないのか)

(…凄惨な姿、それ以外に表現のしようがない)

(…今朝は生きて、動いてたあの子が、今は物言わぬ肉塊になってる)

(でもそれは、当たり前のことなんだ)

(…きっと、この世界では当たり前のことだ)

(…)



側近「…どけぇっ!!!」ザシュッ!!ザシュッ!!

魔王「…」

側近「魔王様!お気を確かに!心を強く保ってください!」

魔王「…」

側近「魔王様!!!魔王…!」

魔王「…」ズッ

魔王「俺は、終わらせないと」

魔王「こんな、醜い争いが、続くなら早く終わらせないと」

魔王「…」

悪魔「…へぇ」

悪魔「俺が、変わってやる必要もないかもしれねーな」

魔王「…」

魔王「…」ズズズズズズズ

側近「…魔王様…」

魔王「…退いてて…」

悪魔(…今は、まだ未熟な魔力の塊だ、魔法とは到底呼べねぇ)

悪魔(…けど、この量…)

悪魔(…そうか、お前…)

悪魔(なるべくして、魔王になっちまったのかもな)

ドォォォォォン!!!

「…ひ」

「退けぇぇぇーーーーー!!!魔王だ!魔王が出たぞ!」

「…魔王!?…殺したはずじゃ…」

魔王「…」

側近「…魔王様…」

魔王「…」スッ

ドォォォォォン!!!

側近「…!!」

魔王「…この子は、跡形もなく消し飛んだ」

魔王「いいな?」

側近「…はっ」






ザッザッザッザッ

「…ああ!魔王様!」

魔王「…」

側近「寄るな、魔王様はお疲れだ」

「見つかったのですか!?あの子は、あの子は…!!」

魔王「…それは」

側近「彼女は爆破魔法に巻き込まれて死んだ、跡形もなく吹き飛んだ」

「…え?」

側近「貴様らも聞け、二度とこんなことがないように、自分の子供くらい、自分で管理しておけ!!!」

「…うぅ…あぁぁあああ…!!!」

魔王「…ごめん、ごめんなさい…」

側近「行きますよ、魔王様」




魔王の城

魔王「…」

魔王「…」

側近「…」

魔王「…何で」

側近「憎まれるのは私の役目でございます、それ以外に理由があるでしょうか」

魔王「…辛いね」

側近「辛くなどありません、あなたのことを思っていれば当然のこと」

魔王「…」

側近「今はお体をゆっくり休めますように」

バタン

魔王「…」

悪魔「しけた面してんじゃねーよボンクラ」

悪魔「…にしても、お前やったじゃねぇか」

魔王「は?」

悪魔「殺したな、人間」

魔王「…!」ゾッ

魔王「違う!俺は殺してなんかいない!あいつらがあの子を殺すから…!」

悪魔「何言ってんだか、あれだけの威力だ」

悪魔「多分数10人は死んでるぜ」

魔王「違うっ!!!違うっ!!!」

悪魔「諦めろよ」

魔王「っ…!!」

悪魔「お前はもう魔族なんだよ、魔族の中の、一番偉いやつ、魔王なんだ」

悪魔「仕方がねぇんだよ、人間と魔族は絶対に分かり合えない」

悪魔「戦争だってそうだ、そもそもお前は何とぼけたこと言ってんだよ」

悪魔「お前達は、同じ人間同士でも戦争をしてたじゃねぇか」

悪魔「俺たち人間と魔族が、分かり合えるわけねぇんだよ、殺し合うしかねぇんだよ」

悪魔「遊ばれて殺されたぜ、あいつ」

魔王「…う、あ…」

悪魔「角ってのは、魔族の象徴、誇りだ、それを折られた奴は魔法が使えなくなる」

悪魔「まず初めに角を折られて、そんでその後に、腕、足、腹」

悪魔「ありゃ内蔵だ、あまりの衝撃で中身がそのまま…」

魔王「うるせぇっ!!!もう聞きたくねぇ!!!」

悪魔「…」

魔王「黙れ!黙れよ!!!」

魔王「てめぇは何でそんなことを平気な顔で喋れんだよ!」

魔王「同じ魔族じゃねぇのか!同じ仲間じゃねぇのか!!」

魔王「やっぱてめぇらは悪もんだ!」

魔王「自分さえよけりゃそれでいい!ほかのヤツらのことはどうでもいい!」

魔王「てめぇは、死ぬべくして死んだ!」

魔王「てめぇら魔族は、滅ぶべくして…!!!」

コンコン

魔王「…っ」

魔王「…誰だ?」

「…」

「…もう、側近の方が近づかない方がいいと言うから」

「…何事かと思ってしまいました…」

魔王「…?」

ガチャッ

姫「お久しぶりですね、魔王様」

姫「私は、あなたの妻でございます」

姫「ああ、傷だらけではありませんか」

姫「ここも、ここも…!」

魔王「…誰だよ、あんた…?」

姫「…あぁ、記憶が無いのでございましたね」

姫「私は、あなたの妻でございます」

姫「…って、二度も言わせないでください」

魔王「…妻…?」

悪魔「…2053人目だけどな」

魔王「…あんたが…?」

魔王(…美人…というか、俺よりかなり年上か?)

姫「今度の貴方様は、随分とお若いのですね、ふふ」

姫「夜の方も、前より楽しめるのかしら」

魔王「……!?」

姫「冗談です、ふふふ」

悪魔「なんだこのアマ、俺が不満だって言いてぇのか」

姫「前のあなたは正直少し不満でした」

悪魔「殺す、体貸せ」

魔王「まま、ま、まぁ落ち着けよ、なぁ!」

姫「…?…落ち着くのは魔王様の方ではありませんか?」

魔王「…いや、あの…」

姫「…詳しくは聞かされませんでしたけれど…辛いことがあったとお聞きしています」

姫「…」

姫「…私じゃ、お力になれないかも知れませんが」

姫「それでも私は、あなたのお側に居ますよ」

姫「だから、今は泣いてもいいのです」

魔王「…」

悪魔「はっ…誰がそんな情けねぇマネ…」

魔王「…ぅぅううう…」

悪魔「はぁ!?」

姫「…あらあら」

魔王「…助けられなかった…!あの子を…」

魔王「…俺は、馬鹿だ…!!」

魔王「…あの人に、あんな希望を抱かせて…!!俺なんて、何も出来ないくせに!」

魔王「…ただ、魔王だってだけで…!」

魔王「…慕ってくれる部下がいるだけで…!俺は…!…調子に乗ってた…!!」

魔王「…ぅぅうううう…ああああぁぁぁ…!!!」

魔王「…俺は…何も出来ない…!!!」

姫「…」ナデナデ

姫「…そのような事、ございませんよ」

姫「…あなたは、昔も今も、変わらず優しいではありませんか」

姫「だから、私たちもあなたについて行くのです」

姫「今はゆっくりお休みください」

姫「あなたが辛そうな顔をしていると、私も辛いのです」

魔王「…」

魔王「…」

魔王「…俺は、どうしたら、いいのかな?」

魔王「…」

姫「…あらあら…そんなことまでお忘れですか?」

姫「…戦争を終わらせてください」

姫「…それが、今も昔も、私のただ一つの願いです」

悪魔「…」

悪魔「…」

姫「…これを差し上げます」

魔王「…これは、ブローチ…?」

姫「ふふ、私の大切なものでございます」

姫「大切にしてくださいね?」

魔王「…でも、俺…」

姫「いいのです、私には必要がありませんから」

姫「今の、不安定な貴方様にこそ、持っていただきたいのです」

姫「…ね?」

魔王「…」

魔王(…なあ)

悪魔「あ?」

魔王(…その、悪かった)

魔王(…魔族のことを悪く言ったの…謝る)

悪魔「はあ?いいんだよそんなもん別に」

悪魔「それよりそれやべぇぞ、国宝の一つだ、売れば普通に一生遊んで暮らせるレベル」

魔王「はぁ!?」

姫「あらあら、なんだか分かりませんけど、元気が出て何よりです、では、ごきげんよう」バタン

魔王「…」

魔王「なぁ、最短最速で、この世界を統一するにはどうしたらいい?」

悪魔「あ?」

魔王「…もう、こんなのは見たくない」

魔王「…俺が、人間の世界に乗り込んだらダメなのか?」

悪魔「ダメだね」

魔王「…何でだよ?俺は強いんだろ?…俺じゃなくとも、お前は…」

悪魔「そんなこと、俺が思いつかねぇわけねぇだろ」

悪魔「思いついてもやらねぇってことは、出来ねぇ理由があるってことだ」

魔王「…理由?」

悪魔「ま、言っちまえばお前は悪魔に魅入られた存在だ」

悪魔「強大な力を得て、魔界を率いる俺たち最後の砦」

悪魔「そんな存在が、あっちにも居る」

悪魔「当然っちゃ当然、じゃないとあまりにバランスが悪い」

悪魔「そいつこそが、俺が何百年かけてもこの世界を統一できない唯一の理由だ」

悪魔「俺と似たように、クソ女神の寵愛を一心に受けて生まれる奴がいる」

悪魔「せめて、そいつだけは殺さないと」

悪魔「俺たちの目的は果たされねぇんだよ」











魔王「…」

魔王(…眠い)

悪魔「夜ふかしするからだ、バカが」

魔王(…なぁ、ここの人達って、当たり前のように生活してるけど…戦争じゃないのか?)

悪魔「戦争だぜ」

悪魔「だけど基本は最前線でしかドンパチしねぇ、お前は昨日側近のお陰ですぐに着けたが、峡谷ってめっちゃ遠いんだぞ」

悪魔「ま、そんだけ遠いところが最前線だから、ここにはあんまり影響が出ねぇってわけだ」

魔王「…」

魔王「…あれ?…じゃあ、何であの女の子は?」

悪魔「あ?」

魔王「…確かに…昨日俺は側近の魔法みたいなので…割とすぐについた」

魔王「じゃあ…あの女の子はどうやって…?」

悪魔「…あー…」

悪魔「考えても仕方がねぇな」

魔王「…」

側近「どうなされましたか、魔王様」

魔王「…あ、側近」

魔王「昨日の女の子のことなんだけど…」

側近「またあなたは…!もうお忘れ下さいと…!」

魔王「…ち、違う!…立ち直っ…てはないけれど…違う」

側近「?何が違うのです」

魔王「…あの女の子は…どうやって、あそこまで行ったんだろうなって」

魔王「ほら、昨日はあんたの魔法ですぐに着いたじゃん」

側近「…ああ」

側近「…何故でしょうね」

魔王「…」

側近「…」

側近「考えられるものとしては…空間移動術式、ですか」

魔王「は?」

側近「即時発動ではない魔法ですよ、術式魔法というのは」

魔王「…??」

悪魔「術式魔法っつーのは、使用者が一定の魔力を消費して場所にかける魔法のことだな」

悪魔「まぁ場所じゃなくてもいいんだが」

悪魔「ま、恩恵ある呪いとでも考えときゃいいや」

魔王「…」

魔王「…空間移動術式…って…つまり…」

側近「…ありえない事ではありませんね…ここの近くにその術式があるとすれば」

側近「…その少女は…何らかの間違いでそこに入ってしまった」

側近「そうだとしたら、非常にまずいです」

魔王「まずい?…何で?」

悪魔「馬鹿かお前は」

悪魔「空間移動術式は一方通行じゃねぇんだよ、そのガキがそこに入ったなら、本当なら帰ってこられるはずなんだ」

悪魔「…!」

側近「…侵入者が…居る…!」

側近「…ちっ」

魔王「俺はどうすればいい…!?」

側近「早く城に!ここにいては危険でございます!」

魔王「でも…!」

側近「でもではありません!ここであなたが死んでしまったら、私達はまた転生まであなたを待たなければならないのですよ!」

側近「行ってください!魔王様!」

魔王「…くそっ…!」

ダッダッ

魔王「…はぁっ…はぁっ…」

悪魔「なるほどな、あいつ本当に頭が切れるよな」

魔王「…侵入者…そんな奴居るのか?」

悪魔「…」

悪魔「ま、珍しいが居なかったってこともねぇ」

悪魔「たまにそういう奴らが出てくるんだよ、俺は見つけたらすぐに八つ裂きにしてきたが」

魔王「…」

悪魔「…にしても、侵入者ときたか」

魔王「…誰が考えられる?」

悪魔「…」

悪魔「そうな、有り得そうなのでいえば、この街の住人達か」

悪魔「ま、お前と接触する機会は少ないがその分、バレる心配もねぇ」

悪魔「逆に、どうしてもお前をぶっ殺したいのであれば」

悪魔「お前に近しいやつだな」

悪魔「用心しろよ?人間にだって魔法が使えんだ、気が付いたらあの世行きなんてことも有り得る」

魔王「…」

魔王「…姫は…」

悪魔「あー、あいつはないない」

悪魔「そんなタマじゃねぇよ、あいつは」

悪魔「そもそもあいつは俺ほどじゃないにせよ馬鹿みてぇな魔力を持ってる、人間なんかにゃ真似出来ねぇ」

悪魔「操られてるってのも無いだろうな、そんな状況に陥ればすぐ様舌噛み切って死ぬような奴だし」

魔王「…」ホッ

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