喪黒福造「けものフレンズですか…、オーッホッホ…」 (57)

私の名前は喪黒福造、人呼んで笑ゥせぇるすまん

ただのせぇるすまんじゃございません、私の扱う品物はココロ、みなさまのココロでございます

この世は老いも若きも、男も女も、ココロの寂しい人ばかり

そんな皆ざまのココロのスキマをお埋めします

いえいえお金は一銭もいただきません。お客様が満足されたなら、

それが何よりの報酬でございます、オーッホッホッホッホ――――


―― フレンズの男 ――




-レンタルビデオ店-



男「……」(ウロウロ)

男「うーん…今日はこれにするか…」

男「…いや、こっちのDVDも…これも…これも…」




店員「(ヒソヒソ)テンチョー、またアニメばっか山ほど借りてますヨー」

店長「(ヒソヒソ)やれやれ、どんな生活してるんだまったく」

男「……」

店員「エー15本レンタルで、1620円ですネー」

男「はい」

男「……あ、さ、財布に現金が少ない…」

店員「ハイー?」

男「えっと…、あの…す、すいません、ちょっとコンビニで降ろしてきますので」

店員「お客サーン、困りますヨー」

男「あ、あの…」

喪黒「すいません返却おねがいいたします。どっこいしょっと」(ドサドサ)

店員「うわっ」

男「ひえっ」

喪黒「オーホッホ、こりゃ失礼、DVDも50本となると重いもんですな」

男「ご…50本!?」

喪黒「ああところでアナタ、いま持ち合わせが足りないとか仰ってましたか?」

男「え? あ、まあ…」

喪黒「ホホーッ、ちょうど良かった。このお店のスタンプカードが満杯なんですがね。私もう見たい映画もなくなったので、コレお譲り致します」

喪黒「ホラこちらですね。これで2000円までタダで借りられるようですよ」

喪黒「ホッホ、というわけで店員さん、こちらの方の貸し出しと、ワタシのほうの返却手続きお願いします」

店員「エ、あ、はい…」

-店の外-

男「いやあ助かりました、ぜひお礼させてください」

喪黒「オヤそうですか? 気にせずともよろしいのに」

喪黒「そうですね、ではこの近くにワタシの行きつけのバーがあるので、一杯おごっていただきましょうか」

男「わかりました、じゃあそこのコンビニで降ろしてきますので…」

喪黒「ホッホ…ごゆっくりどうぞ」


-BAR「魔の巣」-


マスター「……」キュッキュッ

喪黒「ホッホ…ときにあなたも、随分たくさん借りてましたねえ、しかもアニメばかり」

男「ええ…お恥ずかしい」

喪黒「何か理由でもおありですか?」

男「…実は、少し前までやっていたアニメのせいなんです。けものフレンズというアニメなんですが…」

喪黒「ホッホー、知っていますよ。大変なブームでしたねえ」

男「あの最終回の後…僕は心にポッカリ穴が空いてしまったんです」

喪黒「非常にできが良いアニメだったそうですからねえ、無理もありません」

男「それで…仕事も手につかず、何をしても楽しくない…そんな状態になってしまったんです」

男「他に夢中になれるアニメがないか探しているのですが、なかなか見つからなくて…」

喪黒「ホホウ…そうですねえ、他にも名作アニメはたくさんありそうですが」

男「ダメなんです!」

男「けものフレンズって作品は唯一無二なんです。それまでのアニメの流れからまったく外れた、子供向けのようで子供向けでない、何もないようで複雑な世界観がある…」

男「あの癒されるキャラクターたち、サーバルの無邪気な声、チープのように見えて計算され尽くした3Dモデル、あれに代わるものなんてとても…」

男「…あっ、す、すいません、大声出しちゃって」

喪黒「ホホ…ナルホドナルホド」

喪黒「もし、よろしければ、ワタシがお力になれるかもしれませんよ」

男「えっ」

喪黒「申し遅れました…ワタシこういうものです」(名刺を出す)



――ココロのスキマ お埋めします

 喪 黒 福 造 


男「な、なんです、これ」

喪黒「まあボランティアのようなモノです。アナタのお悩みを解決できるかもしれませんよ」

男「いえ…せっかくですけど、僕は宗教は…」

喪黒「オーッホッホッホ…いえいえ、そんなものじゃありません」

喪黒「気が向いたらでよろしいのです、次の日曜日に、このメモの住所を訪ねていただければ、きっとアナタを満足させるものをご用意できますよ、オーホッホ……」

男「……」

マスター「……」キュッキュッ


-日曜日 都内某所-


男「このマンションか…。すごいな、海沿いのタワーマンションじゃないか」

男「えーと1111号室…あれ、でもどうやってマンションの中に入ったら」

喪黒「おこんにちは」

男「うわっ!?」

喪黒「ホッホ…これは失礼、ワタシもたった今来たところなのです、偶然ですねえ」

男「は、はあ…」

-1111号室-

喪黒「こちらです、ホッホ」

男「!!」

男「こ、これは!?」

喪黒「あなたがアニメを借りていたこと、あれは心理学で言うと代償行動と言うものです」

喪黒「しかしアナタの場合、けものフレンズの印象が強すぎるせいで、何を見てもけものフレンズとの違いばかり探してしまう…」

喪黒「つまり、近いものを探そうとするというのが間違いなのです」

喪黒「ここは欲求をまったく別のものに置き換える。けものフレンズを思い出せて、しかも非常にインパクトが強いものが良いでしょう」

男「だ、だからってこれは」


男「これは本物のサーバルキャットじゃないですか!!」


サーバル「……zz」

喪黒「オーッホッホ…サーバルキャットはアフリカの広範囲に生息しており、多数の亜種があります」

喪黒「人間としての付き合いは古く、現在でも高級ペットとして飼育されているのですよ」

喪黒「国内にも複数のブリーダーがいまして、そこで生まれた子なのです、オーホッホ……」

喪黒「このサーバルは私がちょっとした事情で預かっているものですが、いかがです? このマンションでサーバルの世話を手伝ってみるというのは。もちろんアルバイト代もお支払いします」

男「し、しかし…」

サーバル「(起きあがる)」


サーバル「おはよー!」


男「うわああああああああっ!?」

男「しゃ、しゃべっ」

サーバル「すごーい! たのしー!」

男「……え、あれ…機械音声みたいな…」

喪黒「ホッホ、驚かれましたか?」

喪黒「少し前に、ニャウリンガルという商品があったでしょう。ネコの鳴き声を翻訳してくれるというオモチャですねえ」

喪黒「それと似たようなものを首輪に仕込んであるのです」

喪黒「サーバルはニャッと短く鳴くのが特徴ですが、それを翻訳して機械音声で再生しております」

喪黒「ホーッホッホ…そんなに正確に訳せるものじゃないのですが、鳴き声をごまかす目的のほうが大きいのです」

喪黒「やはり近所にバレると色々と困りますのでねえ」

男「……な、なるほど…」

サーバル「おなかすいたー!」

男「あ、お、お腹か…」

男「喪黒さん、エサはどこに…」

喪黒「ホッホッ…こっちの部屋に色々取り揃えてますよ」

喪黒「では引き受けていただける、ということでヨロシイですか」

男「…………そ、そうですね…」

喪黒「ただし一つだけ注意しておきますよ」

喪黒「決して、サーバルちゃんを外に連れ出さないように…」

男「……」








男「サーバルちゃん! ただいま!」

サーバル「わーい! おなかすいたー!」

男「ごめんごめん、お腹すいてたかい? いまご飯用意するからね」

サーバル「わーい! すごーい!」

男「いやあサーバルちゃんがおとなしい子でよかった」

男「サーバルは猫よりも人間に慣れるって本当なんだなあ」キコキコ

男「ほら、サーバルちゃん専用の猫缶だよ」

サーバル「わーい!」

男「あはは、食べ終わったら一緒に遊ぼうね」





男「サーバルちゃん、僕もここに住むことにしたよ」

男「マンションと自宅との行き来は面倒だからね、それに、なるべく長く一緒にいた方がいいし」

サーバル「わーい!」

男「あはは、サーバルちゃんはいつも楽しそうだね」

男「いつも笑顔だし、それに楽しそうな声だし」

男「さあもう寝ようか。サーバルちゃんは夜行性だけど、もう明け方だからね」

サーバル「わーい」

男「サーバルちゃんの足、本当にしなやかで強そうだね」

男「キミの仲間たちは、サバンナの広野を、この足で駆け回っていたんだね……」






サーバル「……」

男「窓の外が気になるのかい?」

男「ここは海沿いのマンションだからね、窓の外は海しか見えないよ」

サーバル「わーい(ジャンプする)」

男「すごいジャンプ力…」

男「……」

男「今度、サバンナのDVDでも借りてきてあげようかな」




サーバル「……」

男「サーバルちゃん、あれがバオバブの木だよ」

男「大きいだろう、サバンナにはところどころに木があるんだよ」

男「あ、ほら水場だ、カバが水浴びしているね」

サーバル「わーい! すごーい!」

サーバル「わーい……」

男「……」




男「もしもし、昨日の件ですが」

男「ええ、約束通り払います、川崎港から…深夜二時に…」

男「ケニアのモンバサ港まで…1ヶ月ほどか…うん」

サーバル「zzz…」

男「船に乗せてからは、全て任せて大丈夫でしょうね…? ええ、はい…」





男「ええと第四埠頭の貨物船…約束の相手が待ってるはずだけど…」

男「サーバルちゃん、おとなしくしてるかい」

サーバル「こわーい!」

男「ごめん、これ以上大きいバッグはなかったんだよ、もう少しで約束の場所につくから」

サーバル「やだー」

男「がまんしてくれ…」

コートの男「そこのキミ」

男「あ、ええと、約束の」

コートの男「私はこういうものだがね(警察手帳を見せる)」

男「!!」

コートの男「今夜、ここで動物の密輸が行われるとの情報があったんだ」

コートの男「そのバッグの中を見せてもらえるかな」

男「くっ」(逃げる)

コートの男「あっ! 待ちなさい!!」

コートの男「もしもし! こちら○○、応援を――」

男「くそっ! 捕まる訳にはいかない」

サーバル「うわーん! こわーい!」

男「よし、そこの倉庫に逃げ込もう」

コートの男「くそっ、どこへ行った、あっちか?」

男「……」

男「…行ったかな?」

男「ふう、しばらくここに隠れて…」


喪黒「おこんばんわ!」


男「うわあああああああっ!?」

喪黒「ホーホッホ…、アナタ、ワタシとの約束を破りましたね?」

男「ち、違うんだ、僕はサーバルちゃんをアフリカに帰してあげようと」

喪黒「そんなものはアナタのエゴでしかなあい!」

喪黒「その子は日本で生まれたと言ったでしょう、ずっと部屋の中で育てられた子が、いきなりアフリカに放り出されて生きていけると思うのですか!」

喪黒「しかも船に乗せて送り出すだけ! サーバルは数百万で取引される動物なのですよ」

喪黒「得体の知れない密輸業者をあっさりと信じて預けようとするなんて、なんて無責任な!」

男「うう、し、しかし…」

喪黒「だまらっしゃい! アナタにサーバルの世話をする資格はなあい!」

喪黒「生まれ変わってやり直しなさあい!!」




喪黒「ドーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!」




男「ぎゃあああああああああああああああっっっ!!!!!!」



男「ガツガツ、フガフガ」

男「うーん、じゃぱりマン、ここにも無いなあ」

男「あ、肉まんのカケラだ、ワーイ」

サーバル「わーい! すっごいねー!」

警官「…ん?」

警官「き、キミたち、何をやってるんだ!」

男「んー?」

警官「うわ!? な、なんて格好をしてるんだ、それにゴミ箱なんか漁って」

警官「それにそっちの子は…」

男「大丈夫! ボクたち夜行性だからね!」

男「あ、それとも狩りごっこがしたいのかな?」

サーバル「わーい! 狩りごっこだねー!」

警官「う…ち、近づくな! そこで止まりなさい!」

男「わーーい!」

サーバル「わーーーーい!!」

警官「うわーーーーーーーー!!」

喪黒「オーホッホ……。彼もようやく、パークの住人になれたようですねえ」

喪黒「本家ほど快適ではありませんが、この現代というパークもなかなかスリルあふれる良い場所ですよ」

喪黒「なによりフレンズと一緒にいられるのですから、彼も本望でしょう…」

喪黒「ホッホッホ……オーーーホッホッホッホ……」



(完)

喪黒「ホッホッホ……そうそう、ところでワタクシの新作アニメがもうじき放送されるようですよ」

喪黒「その名も「笑ゥせぇるすまんNEW」いやあ楽しみですねえ」

喪黒「次はどんなお客様と出会えることでしょうか」

喪黒「オーホッホッホッホ……」

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