脚本 (15)
君たちは、シナリオと言う言葉を知っているだろうか。
日本語で言えば脚本。
これを見ているという事は、無論知っているだろう。
人生とは物語やゲームだったりと色々例えられる。
つまりどのような形であれ、最終的には『死』と落ちがあるという事だ。
では、その人生と言う本はどのような物なのだろう。
多くの人の答えとして考えられるのは『いくらでも変えられる本』。
そんなの当たり前じゃないか、なんて君は言うだろうけど、私は違う。
そう、違うのだ。
物語にナレーションがあるように、私にはそのナレーションが付いているのに気付いた。
意味が分からない?
だろう。
そうだろう。
それに気づいたのは、私が中学3年の終わり頃である。
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最初、私の頭にふとこう聞こえた。
『あなたは、その高校に合格した。』
ついに私も幻聴が聞こえてしまうほど疲れていたのだろうか。
周りを見てもそんな事を言う奴はいなかった。
そもそもだ、受験したのは先月で結果は今週の末に届くのである。
確かに自信はあまりなかった。
自己防衛、と言う奴がそうさせたのだろうか。それとも虫の知らせに似た何かか。
だが、その知らせは『合格』と言う形で来た。
この驚きと喜び、理解。これが預言者の気持ちと言う奴なのだろうか。
☆
私が入りたての高校生になった頃、また『知らせ』が届いた。
『隣の席の子が私にフランクに話しかけてきた。そして私は気持ちよく答えた。』
さて、この『知らせ』。どうやら無視できるようで、色々と修正してくることもある。
私が愛想笑いを浮かべながら答えると
『しかし、あなたはいきなり話しかけられ思わず愛想笑いをしてしまった。しかし相手はそれを気にしていない様だ。』
凄い修正である。
やがて、この『知らせ』を『ナレーション』と命名した。
これは脳内に直接声が届くのであるからだ。
そして、これに従っていると状況が良く成ったり或いは回避出来たりとした。
おかげで私には行為を抱いていた彼女と無事に付き合えたのである。
さらに、デートや好みなども『ナレーション』は教えてくれた。
受けるべき大学や就職先、そしてその理由など。
私は時々『ナレーション』にそぐわないこともしたが、それでも良い方向へと変えてくれた。
そして社会人として私が3年目のある日、再び流れた。
『あなたは昼食を取りに外へと出たが、被災し一晩戻れなくなってしまった。』
……何を言っているのだろう。
被災?この都心の真ん中で?津波や地震の対策が科学的にされている時代で?
馬鹿馬鹿しい。
そしてそれに逆らい、私は社内食堂で食べる事とした。
『あなたは昼食をとっていた。そしてそこで停電にあってしまう。』
しばらくして停電が起きた。
……これ、やばいのでは?
『停電はすぐに直った。そして業務を開始した。』
電灯がチカチカした後、真昼の空の太陽の明るさとなった。
被災は回避された……のか。
もしそれがそうならなんとまぁ仰々しいものだ。
☆
『あなたは疲れからか黒塗りの高級車にぶつかる。そしてヤクザに連れていかれてしまった。』
おい、おいおいおい。
時間は確かに夜0時過ぎ。
いくら残業で疲れているからってそれは無いだろう。
今までもそうだったのだから。
目の前、数十メートルにある黒塗りの高級車にぶつかることを回避した。
『回避したが、脇から出てきたトラックにはねられてしまう。そしてそのまま死亡。』
……は?
次の瞬間、私はトラックにはねられそうになる。
間一髪、体を歩道に引き寄せた。
『トラックのドライバーはあなたに気づき、回避した。だが帰り道に強姦の現場を見てしまい、射殺される。』
ここは21世紀の日本だぞ?
外国でもないし、ヤクザやマフィアがドンパチするなんてナンセンスなのに?
……急に尿意が。
慌てて公園の便所へ駆け込み、用を足す。
済んだので出ようとすると奥にある茂みが動いている事に気が付く。
気になり近づこうとしたが、『射殺される』の言葉を思い出す。
動いているのは男であり、女性であるのだろう。
ではどうすべきか。
手元のスマートフォンで警察へ通報。
『犯人はこちらに気づき、あなたに近づく。そして手元の銃で頭を打たれ、死亡する。』
『その後犯人も被害者も警察に射殺される。』
そうか、誤射だ。
何をどうすればいい?
考えろ。考えろ。俺には『ナレーション』が付いている。
そうだ、大声で助けを
『大声で助けを呼んだが、その前にあなたは死んでしまった。』
糞!なら話し合いで
『大声を出そうとしたが、犯人が近くに来ていたため出せず、話し合いをしようとした。』
『しかし相手は英語ではない言葉を話していたため通じず、射殺されてしまった。』
日本語も話せないのかよ!
何かないか……何か、こう、逸らせるような……
『あなたは石を投げて気を逸らせようとした。成功したが、逃げようと階段降りる途中で転んでしまい、死亡する。』
石を投げ、静かに階段を降りる。
犯人はそこに向かって発砲していた。
よし!今だ。
静かに階段を降り
『しかし被害者が気にかかり、階段を上ってしまう。そして被害者と会うがまとめて殺される。』
無視すれば助かる。しかし彼女は死ぬ。
助ければ両方死ぬ。
どうしたらいいんだ……!
辺りを見渡す。
すると足元に半分程砕けたコンクリートブロックがある。
それを遠くの茂みに投げる。
すると犯人はそこへ向かう。
案外バカだな、こいつ。
そして被害者を探す。
外套の光がギリギリ当たるか当たらないかと言う微妙な場所でうずくまっている女性を見つける。
犯人が脱いだであろうコートをかぶせ、共に公園を出た。
『犯人がこちらに気づいた。しかし警察が到着し逮捕される。』
やった!これで助かる
『しかしもう一人が援護し取り逃がしてしまう。』
もう一人いるのか。
また面倒な事に……。
「あの、私、あなたが居なかったら……本当にありがとうございます……。」
『女性はあなたに感謝をし、一緒に交番へと向かう。事情を説明し、犯人逮捕へ。』
おお、これはいい展開だ。
早速交番へ行こう。
☆
結論から言えば、犯人は無事逮捕された。
もう一人はSWATではなく自衛隊にやられたそう。
何故自衛隊が出てきたのかは不明だが。
あれから数日後。
『ナレーション』は聞こえなくなった。
私の『死』と言う運命からは何とか逃れられた。
今日も仕事で疲れた。
さて、これでやっと嫁の居る家へと帰れる。
腹も減った。
今日は何だろう。
『あなたは家へ帰った。しかし嫁はどこかそわそわしている。』
……コンビニでスイーツでも買ってくるか。
そろそろ家だ。
「ただいまー……」
「もう!あなた!今日は結婚記念日だから早く帰りなさいって言ったでしょう!」
『機嫌を取ろうとしたが』
「あぁ!こ、これで許して!なぁ!」
『機嫌を取ろうとしたが、嫁にこっぴどく怒られてしまった。』
ああ神様!
もし居るのであれば一つ文句がある。
こんな脚本(シナリオ)ってありかよ……
了
元ネタは「あの」ゲームです
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