みほ「カムバック」 (121)

みほ「トライアウト」
みほ「トライアウト」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1478619003/)
というssの続編です
よろしければ前編も読んでみてください。というか読んでないと話がわかりにくいかもしれないです。
女性同士で普通に妊娠するという内容なのでご覧の際はお気を付けください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1488543356

「戦力外通告」

「スポーツ選手の約8割がこの宣告を受け、競技を引退していく」

「華々しく引退セレモニーを行える選手は一握りといってもいい」

「学生時代、トップを取り続けてきたエリートも例外ではない」

「しかしそこから復活し這い上がってきた選手も、少なくない」

人生という名のカレンダーに新たな誕生日が刻まれる

バース&デイ

東山「西住みほ、28歳」

東山「小中高大と輝かしい成績を残した彼女もまた、戦力外という憂き目に逢いました」

東山「軍神が受けた二度目の挫折、そして妻の出産」

東山「去年私たちは戦力外を受けた彼女の半年間に密着しました」

東山「結果、彼女は日本を離れ、ドイツでプレーするという道を選択しました」

東山「ドイツへ渡った西住選手は私たちにどのような活躍を見せてくれるのでしょうか」

逆襲の軍神、戦力外からまさかの復活
ドイツと日本、遠く離れた夫婦の絆

職員「ここが食堂ね、朝は7時から8時半まで、昼は11時半から1時まで、夜は6時から7時半までよ」

職員「そしてここがあなたの部屋よ。相部屋だけど」

みほ「はい。わかりました」

「軍神西住みほ、28歳」

「車長として戦うことが出来なくなった彼女は砲手として、遠くドイツの地で再スタートを切ろうとしていた」

「しかし所属チームは4部リーグ。環境は劣悪、周りは全て外国人」

「西住はこの状況を打破できるのか」

職員「ちょっといい?」

ルームメイト「何かしら?」

職員「今日からあなたと相部屋のミホよ」

ルームメイト「はぁ?あなた中学生よね?このチームは中学生を取るほどお金に困ってるの?」

みほ「す、すみませんディレクターさん。なんて言ってるかわかります?」

―「ドイツ語勉強したんじゃないんですか?」

みほ「したはしたんですけど、ネイティブの人にこんな早口でスラング使われながら喋られるとちょっと……」

―「なんで中学生がこんなところにいるんだ?と言っています」

みほ「ちゅ、中学生!?失礼な!私は28です!」

ルームメイト「え?あなた30前なの?」

みほ「子供も二人いるから!」

「そういって西住は家族の写真を見せる」

「アジア人は実年齢よりも下に見られることも多い」

ルームメイト「可愛い娘さんね。失礼したわ」

みほ「全く……」

翌日、チームの練習に合流した西住、ここでも日本との差に驚くこととなった

監督「えー、今日からこのチームに合流するミホニシズミだ。じゃあ自己紹介して」

みほ「……」

監督「ほら、自己紹介」

みほ「は、はい?えーっと」

監督「なんだ、ドイツ語わからないのか?」

みほ「あっ、自己紹介ですね!はい!」

みほ「日本から来ました西住みほです」

みほ「こう見えて28歳、二児の父です」

みほ「みなさんよろしくお願いします」

パチ……パチ……パチ

監督「じゃあ各自練習開始」

みほ「あの、私のメニューは……?」

監督「そんなものは自分で考えろ」

みほ「えぇっ!?トレーナーとかコーチとかはいないんでしょうか?」

監督「そんなものに給料を払う金はこのクラブにないよ」

みほ「……わかりました」

日本のチームではあり得ない待遇に戸惑う西住

しかし持ち前の記憶力でチーム全員の顔と名前とポジションを一致させていたため、砲手の練習へと混ざることが出来た

みほ「あのぉ……」

砲手「は?私に話しかけてんのか?」

みほ「はい。貴女砲手の方ですよね」

砲手「そうだけど」

みほ「練習混ぜてもらっていいですか?」

砲手「いいよ」

みほ(ほっ、よかった……)

……



砲手「あんた、なかなか筋がいいね」

みほ「ありがとうございます」

砲手「どこから来たんだっけ?」

みほ「日本です」

砲手「日本……詳しくは知らないけどマホニシズミと同じ国出身か?」

みほ「はい。まほは私の姉です」

砲手「えぇ!?あんたが!?」

みほ「はい、そうです」

「西住の姉、まほはドイツの1部リーグで車長を務め、チームを優勝に導いている」

「ポスティング制度で日本からドイツへと移籍したまほは1年目で驚異的な成績を残した」

「新人賞、ゴールデンパンツァー賞、エルヴィン・ロンメル賞などの様々な賞を総なめ」

「ドイツで最も有名な日本人の一人と言ってもいい存在となっていた」

砲手「へぇ、神様ってのは残酷だね。姉妹でこんなに差を付けちまうなんて」

みほ「……そうですね。でも私もこんなチームで終わる気はさらさらないので」

砲手「あんた、言うねえ」

みほ「そちらこそ」

「チーム加入初日、いきなり同僚に喧嘩を売られてしまった西住」

「悔しくないのか、本人に聞いてみたところ意外な答えが返ってきた」

みほ「悔しいですよもちろん」

みほ「でも、慣れました」

みほ「お姉ちゃんはずっと私の前を走ってましたから」

みほ「小中高、プロに入ってもずっと」

みほ「姉はすごいのに妹は……って言われ続けてきた人生なんです」

……



監督「それじゃ西住、明日のスタメンはお前で行くからな」

みほ「えぇ!?私ですか!?」

監督「当たり前だ。お前はその為にここに来たんだろう」

みほ「はい、わかりました」

「チーム合流2日目にして試合に出ることになった西住」

「砲手として公式戦で戦ったことは一度もない」

「結果を残さなければ即クビ、日本とは違った環境」

「西住の運命は、どうなってしまうのだろうか」

……


優花里「じゃあ、今日はお風呂入る時、手袋して入ってくださいね」

優花里「ありがとうございました!またお願いします!」

優花里「ふぅ……」

「西住のドイツ移籍を決意させた妻、優花里さん」

「彼女は実家のある学園艦に戻り、実家でまつ毛エクステとネイルサロンのお店を開いていた」


♪~~

優花里「はい!お電話ありがとうございます!ネイルサロン西住でございます!」

優花里「ご予約ですか?少々お待ちください!」

優花里「明日の18時からなら空いておりますが」

優花里「かしこまりました。お名前とお電話番号頂戴してよろしいですか?」

優花里「はい、はい、はい。じゃあ明日の18時にお待ちしております」

優花里「場所はお分かりですか?」

優花里「はい。ありがとうございます。ではお待ちしてますね」

優花里「失礼いたします」

りほ「ただいまー」

優花里「おかえりー。あっ、もう4時か。ご飯の支度しないと」

「ランドセルを担いで秋山理髪店に帰宅した少女の名は、りほちゃん」

「西住と優花里さんの愛娘である」

りほ「ねぇママ!パパ勝ったって!」

優花里「えぇ!?本当に!」

りほ「うん!先生が教えてくれたの!」

優花里「やったぁ!じゃあ今日はお祝いだね!」

りほ「お祝いお祝い!」

優花里「ママちょっと買い物行ってくるから」

りほ「うん!」

……

優花里「……」スッスッ

スポーツ速報

New! 西住妹、独リーグ4部で勝利に貢献

優花里「よかった、よかったぁ……」ポロポロ

優花里「ダメだ、こんなことで泣いてちゃ」ゴシゴシ

優花里「みほはもっともっと上を目指してるんだから」

優花里「でも……おめでとう」

……

―「緊張していますか?」

みほ「はい。そもそも公式戦に出るのが久しぶりなので」

みほ「車長の時のようにはならないことを願ってます」

「久しぶりの試合、そして砲手としてのデビュー戦。相手は同じ4部リーグの下位チーム」

「このチーム相手に苦戦するようでは先がないとも言える」

みほ「でも車長の時の緊張とは明らかに違っていて」

みほ「程よい興奮と好戦的な気持ちをもたらしてくれてます」

みほ「じゃあ行ってきます」

―「頑張ってください」

……

「試合終了!」

みほ「……」

―「お疲れ様でした。どうですか?初試合」

みほ「はい、初回にしては上手く行った方だと思います。ドイツ語も7割くらい理解できましたし」

みほ「ただプロは1試合勝つだけじゃダメなんです。これを継続させていかないと」

チームメイト「ほらミホ!片付けした後次の試合地に向かうから準備しろ!」

みほ「あっ、はい!」

「下部リーグの試合にはスタッフがとにかく足りないため、自分たちで試合の準備、用具の片付けをしないといけない」

「後に話を聞いたところ、西住はそれすらもプラスに考えていた」

みほ「日本では試合が終わった後、インタビューとかあって片付けをすることなんてなかったです」

みほ「結果が良くても悪くてもカメラは私を撮ろうとしますしコメントを欲しがっていました」

みほ「だからこの環境はすごく新鮮だし、それこそ小学校の時に戻ったような気持ちです」

みほ「誰も私を見に来てないし、ただの外国人選手としてしか私を見ていない」

みほ「ある意味とっても素直で、純粋に戦車道を楽しめる場所だと思いますね」

「片付けの後、西住はチームの本拠地であるハノーファーから次の試合会場であるハンブルグへとバスで向かっていった」

……


沙織「こんにちはー」

優花里「いらっしゃいませ!」

沙織「え、カメラ入ってるの!?」

優花里「はい、一応」

沙織「やだもー!メイクちゃんとしてくればよかったー!」

優花里「大丈夫ですよ。お綺麗ですから」

沙織「ゆかりんも客にお世辞とかいう人になっちゃったかー。もう商売人だね」

優花里「違いますよ!本心ですから!」

沙織「今日はヘッドスパとネイルお願いしよっかな」

優花里「はい!ありがとうございます!」

「彼女の名は武部沙織さん、大洗時代は西住と優花里さんのチームメイトとして戦車道をしていた」

「武部さんは現在大洗女子学園で教師をしており、優花里さんのお店の常連である」

優花里「じゃあ先にネイルしちゃいましょうか。こちらどうぞ」

沙織「ねぇ、みぽりんすごいよねー。私スカパーでドイツの試合見てるけどさ、ちょっとレベル違うわ、あれ」

優花里「ありがとうございます」

沙織「電話とかしてるの?」

優花里「いえ、初勝利の日してからはしてないです」

沙織「えー!なんで!?」

優花里「あんまりプレッシャーになるとよくないですし……」

沙織「子供の声聞きたいと思うよ。ゆかりんの声も」

優花里「はい……じゃあ今日久しぶりにしてみます」

沙織「うんうん!まぁみぽりんなら絶対浮気の心配はないだろうけどね」

優花里「大洗の方はどうなんですか?後輩たちは頑張ってますか?」

沙織「いやー、うち公立だからね。みぽりんみたいな逸材は入ってこないよ」

「武部さんは戦車道の授業も担当しており、赴任当時は全国優勝経験者が顧問になるということで越境入学者もちらほら現れていた」

「しかしお金をかけている私立高校には設備、投資などあらゆる面で勝つことは出来ず、西住の卒業以来大洗は優勝から遠ざかっている」

沙織「頑張ってほしいね。みぽりん日本では最後の方本当に苦しんでたし」

優花里「はい……武部殿もよかったら電話してあげてください」

沙織「そういうのは結婚する時でしょー。今したらただのミーハーみたいじゃん」

優花里「予定はないんですか?」

沙織「ありませーん!」

……

「ドイツに渡って2ヶ月、西住は順風満帆な生活を送っていた」

「チームのレギュラーに定着、西住の砲撃で勝敗を決めた試合も1回や2回ではなかった」

「ドイツ語も着々と上達し、チームメイトとコミュニケ―ションを取る機会も増えてきた」

「そして転機は突然訪れた」

監督「……メンバーは以上だ」

みほ(えっ)

監督「それじゃあ試合までにアップを済ませておけ」

みほ(え、レギュラー落ち?なんで?)

監督「それからミホ。ちょっと監督室に来い」

みほ「はい」

みほ(まさか、クビ?そんなわけないよね……)

監督「お前に2部のチームから獲得のオファーが届いてる」

みほ「えぇっ!?」

監督「荷物をまとめて明日からはケルンに行ってもらう」

みほ「は、はい!ありがとうございます!」

監督「おめでとう」

みほ「お世話になりました!」

……

砲手「ちょっと」

みほ「ん?なに?」

砲手「あんた、2部に行くんだって?」

みほ「うん。明日から。本当ドイツってこういうとこ急だよね」

砲手「おめでとう。それから」

砲手「あんたと会った初日、姉と比べてどうこうって言ったこと覚えてるか?」

みほ「え?」

砲手「そのこと謝りたくてな」

砲手「すまなかった」

みほ「いいよ、気にしてない」

みほ「私もこんなチームなんて言ってごめん。ここでの2ヶ月、すごく勉強になった」

みほ「あなたも頑張って」

砲手「私もあんたがいなくなるおかげでレギュラー復帰だよ」

砲手「すぐに追い越してやる」

みほ「うん、頑張ろう」ギュッ

砲手「あぁ、待ってろ」ギュッ

……


「引っ越しが終わった翌日、西住はある人物と会う約束をしていた」

みほ「もう時間15分も過ぎてるんだけどなぁ」

アンチョビ「おーい、みほー」

みほ「アンチョビさん!遅いですよ!」

アンチョビ「えー?そうか?」

みほ「ご飯食べましょう」

「相手の名は安斎千代美、彼女はイタリアの戦車道チームでスカウトを勤めている」

みほ「すみません。3名なんですけど大丈夫ですか?」

「えぇ、奥の席にどうぞ」

アンチョビ「すごいじゃないか、ドイツ語」

みほ「えぇ、日常会話くらいなら。でも戦車道の用語までは覚えきれてないんです」

アンチョビ「そんなのは慣れだ慣れ」

「実はこの安斎、西住姉妹とは遠からぬ縁があった」

「まほが日本のチームに入団した同じ年、安斎もまほと同じチームに育成ドラフト5位で入団」

「当時、まほは大学の推薦を取り消してプロに入ったことで世間からバッシングを受けていた」

「そして西住流の家元である母親のしほさんとも絶縁寸前の関係になっていた」

「そんなまほを励まし、母娘の関係を取り持ったのが安斎である」

アンチョビ「姉ちゃん元気か?」

みほ「こっち来てからまだ会ってないです。数か月ぶりに会った日本人、アンチョビさんですから」

アンチョビ「まぁ、あいつも忙しいしお前も上目指さないといけないからな」

「その後、二人は交際に発展」

「しかし入団から2年後、安斎はチームを自由契約になり、イタリアの大学に留学」

「そのコミュニケーション能力と人を見る力を生かし、地元の戦車道チームに就職し、現在はスカウトとして働いている」

アンチョビ「すごいよなぁ、お前ら二人。ネットでチェックしてるけどさ」

みほ「私なんてまだまだです」

アンチョビ「でも4部リーグなら正直楽勝って感じだったんだろ?」

みほ「はい、まぁ……お姉ちゃんからは3部レベルとは言われていたので」

アンチョビ「そんなことないぞ。ウチのチームのスカウト候補にお前挙がってたもん」

みほ「本当ですか!?」

アンチョビ「あぁ。でも外国人枠とかの関係で話は流れたけど」

みほ「そうですか……」

アンチョビ「でもお前はドイツでやりたいんだろ?」

みほ「はい」

アンチョビ「1部上がれるといいな」

みほ「頑張ります。アンチョビさんはお姉ちゃんと会ってないんですか?」

アンチョビ「私も全然だなー。向こうも忙しいしこっちも色んな国行かないといけないから」

みほ「先に子供作っちゃったらどうですか?」

アンチョビ「ブッ!なんだいきなり!」

みほ「子供可愛いですよ。この子たちの為なら本当に[ピーーー]るって思えますから」

アンチョビ「あぁ、そっかお前んとこ二人目生まれたんだっけ」

みほ「はい。写真見ます?」

アンチョビ「見せて見せて」

アンチョビ「うわー!可愛いな!」

みほ「ですよね?多分アイドルとか女優になれると思うんですよ」

アンチョビ「そ、そうだな」

……

アンチョビ「やっぱ4部だと移動とか大変だっただろ?」

みほ「今年はワールドカップもあるんで比較的日程は楽ですよ」

アンチョビ「そっか、まぁ今のお前には関係ない話か。うちは代表の選手何人かいるから調整大変だよ」

「4年に1度開催される戦車道のワールドカップ、今年はイギリスでの開催となっている」

「ワールドカップ期間中はヨーロッパの国内リーグは試合が休止になるため、関係のない選手にとっては1ヶ月のオフとなる」

アンチョビ「まほは代表だからこれから大忙しだな」

みほ「そうですね」

アンチョビ「日本は予選突破難しいだろうけどまほがいれば番狂わせあるかもしれないな」

みほ「だといいですけどね」

アンチョビ「おっ?4年後は私も、って顔してんじゃん」

みほ「い、いえそんな。イタリアはどうなんですか?」

アンチョビ「うーん、予選は行けるかもしれないけどやっぱドイツやアメリカとの差は大きいよ」

みほ「そうですか」

アンチョビ「まぁ私は国外の選手が活躍してくれた方が仕事的には美味しいんだけどな」

アンチョビ「お前も実力付けていけば4年後には多分結構いいとこ行けると思うよ」

みほ「ありがとうございます」

アンチョビ「うん。期待してる」

アンチョビ「期間中に日本帰るのか?」

みほ「えぇ、まあ1週間くらいなら帰れるんで。嫁と娘にも会いたいですし」

アンチョビ「そかそか」

みほ「こっちも姪っ子、期待してますよ」

アンチョビ「……考えとくよ」

……



「6月、世間の話題はワールドカップ一色となっていた」

「そんな中、西住は優花里さんが暮らす学園艦へと向かっていた」

みほ「まだ6月なのに暑いですね」

「ワールドカップの期間中、関係のない選手はオフのため帰省することも多い」

「西住も5日間の休みが与えられ、日本に帰国することとなっていた」

みほ「ただいまー」

みほ「あれ?誰もいないのかな」

パンッ

みほ「ひっ」

「「「パパ、おかえりなさーい!」」」

みほ「えー、これみんなが用意してくれたの?ありがとう」

「店の中に入ると、西住を歓迎する食事、飾りつけなどが所狭しと並んでいた」

りほ「パパおかえり!」

みほ「ただいま。久しぶりだね、りほ。いい子にしてた?」

りほ「うん!」

みほ「かほも。ただいま」

かほ「キャッキャッ」

好子「おかえりなさい、みほちゃん」

淳五郎「2部移籍おめでとう」

みほ「お義父さん、お義母さん、本当にありがとうございます」

みほ「お二人がいなかったら……」

好子「いいのよ。狭い家だけど自分の家だと思ってくつろいでいってね」

みほ「はい。お世話になります」

優花里「おかえり」

みほ「うん、ただいま」

みほ「よーし!じゃあご飯食べよっか!」

りほ「うん!」

「食事中、夫婦間の会話はこの二言だけだった」

「照れくさいのか、この二言でお互い分かり合えたのか、それ以外の言葉が交わされることはなかった」

好子「みほちゃんはどのくらい日本にいられるの?」

みほ「休みは5日です。この家には4日間いさせてもらって、最後の日は熊本に顔出そうと思ってます」

淳五郎「西住さんもみほちゃんに会いたがってるだろうからねえ」

みほ「いえ……母は多分姉のことの取材で忙しいですから」

好子「すごいわよねぇ、まほさん。代表のキャプテンでしょ?」

淳五郎「もしかしたら決勝トーナメント行けるかもしれないよね?」

優花里「お父さんお母さん、戦車道の話はそれぐらいで……」

好子「そうね、ごめんなさい。ゆっくりしたいわよね」

みほ「いえ、全然大丈夫ですよ」

りほ「パパ、一緒にお風呂はいろー!」

みほ「うん!パパの背中流してくれる?」

……

みほ「お風呂ありがとうございました」

好子「今日は疲れてるでしょう?優花里の部屋に布団敷いといたから」

みほ「はい、ありがとうございます」

好子「りほは今日おばあちゃんたちと一緒に寝ようね」

りほ「えー!パパと一緒に寝たいー!」

淳五郎「ごめんねぇ、ママの部屋二つしか布団敷けないんだ」

りほ「じゃあ明日は私がパパと寝る!」

みほ「うん。そうしよう」

好子「優花里ー!あんたも早くお風呂入っちゃいなさい!」

優花里「はーい」

……


みほ「お義母さんたち、もう寝たみたいだね」

優花里「……」

みほ「優花里?」

ギュッ

みほ「どしたの?」

優花里「怪我、してない?ちゃんとご飯食べてる?」

みほ「うん。大丈夫だよ」

優花里「よかった……」

みほ「心配かけてごめんね。私は大丈夫だから」

優花里「あの時みたいなことが起きたら私……」

みほ「大丈夫。もうあんなことは起きないから」ナデナデ

優花里「みほ……」

みほ「優花里……」

……


「まほの活躍により日本が史上初のベスト8という結果に終わったワールドカップ」

「リーグ戦が再開され、束の間の休息を日本で過ごした西住は再びドイツに戻っていた」

「4部では圧倒的な存在感を示していた西住、しかし2部リーグでは中々結果を残せずにいた」

みほ「やっぱり層が厚いですね。試合に出られればアピール出来るとは思うんですが」

「控え砲手としてベンチを温める日が続いていた」

みほ「こればっかりは仕方ないです。どこかで出番が必ず来るので」

みほ「その時のために準備するのみです」

……

沙織「やっほー、ゆかりん」

優花里「あれ、今日ご予約いただいてましたっけ?」

沙織「うぅん。今日はちょっとある人連れてきてて」

麻子「久しぶりだな、秋山さん。あっ、今は西住さんか」

優花里「冷泉殿!お久しぶりです!」

沙織「麻子もこの学園艦で働くことになったんだって」

優花里「本当ですかー!?嬉しいです!」

麻子「これ名刺だ。なんかあったら病院来てくれ」

優花里「ありがとうございます。じゃあ私も名刺を」

麻子「ありがとう。予約してないんだけど私もネイルとかしてもらって大丈夫か?」

「彼女の名は冷泉麻子さん。二人の大洗時代のチームメイトである」

「高校卒業後、医科大学に進学した冷泉さんはいくつかの病院に勤務した後、大洗総合病院で働くことになった」

優花里「もちろんです!でも意外ですね、冷泉殿もそういうことに興味持つんですね」

麻子「まぁ人並みには」

沙織「麻子もそろそろ結婚とか意識してんの?」

麻子「いや全く」

麻子「おばぁが生きてた頃は早くひ孫見せてやりたいと思ってた」

麻子「でも亡くなってからはそんなに焦る必要もないかなと思い直したんだ」

優花里「おばあさん亡くなられたんですね……」

麻子「あぁ、すまん。いらぬ気を遣わせてしまったな。亡くなったのはもう5年前だし吹っ切れてる」

優花里「そうなんですね。じゃあ、爪、やっちゃいましょうか」

麻子「頼む」

沙織「じゃあ、私は帰ろっかなー」

優花里「はい!またお待ちしてます!」


優花里「あ、あの冷泉殿」

麻子「ん?どうした?」

優花里「実は前から病院に行こうと思っていた件がありまして……」

麻子「なんだ、どっか体悪いのか?」

優花里「いえ、というか……」

麻子「わかった。ここじゃなんだ、明日病院に来てくれ。受付で私の名前出せばわかるようにしておく」

優花里「はい、お願いします」

「翌日、大洗総合病院」

優花里「すみません、内科の冷泉先生に診てほしいんですけど」

受付「はい、保険証と診察券お願いします」

……

「西住さーん、西住優花里さーん。2番の診察室にどうぞー」

優花里「はーい」

麻子「おはよう」

優花里「おはようございます」

麻子「で?どうしたんだ?」

優花里「あの、実はですね……」

麻子「うん、うん、そうか、わかった。じゃあエコーを撮ってみようか」

……

麻子「妊娠してるな、2ヶ月ってところか」

優花里「……そうですか」

麻子「じゃあ産婦人科にカルテ回すからそっちの方に回ってくれるか」

優花里「すみません、ちょっと待ってもらっていいですか」

麻子「……堕ろす?本気で言ってるのか?」

優花里「はい」

麻子「旦那には話してるのか」

優花里「……してないです」

麻子「まず話し合いをしろ。海外だから電話になるだろうがな」

優花里「いえ、もう決めましたから」

麻子「……わかった。とりあえず話を聞くから昼まで待ってくれ。これは医者と患者ではなく友人としてだ」

優花里「……はい」

……

麻子「お待たせ、パンとおにぎりどっちがいい」

優花里「あぁ、すみません。じゃあおにぎりで」

麻子「本題に入るが」

麻子「何故堕ろす?」

優花里「……」

麻子「生活費のことか?それなら私は生活保護を考えてもいいと思っている」

麻子「西住さんは頑張ってる。これ以上どうしようもないならそういうものに頼ったって文句は言われない」

優花里「いえ、そのこともありますが、それだけじゃないです」

麻子「じゃあなぜ」

優花里「……」

麻子「話してみろ。沙織にもご両親にも勿論旦那にも告げ口したりしない」

麻子「そもそも守秘義がある」

優花里「みほが、日本にいる時大怪我したことは覚えてますよね?」

麻子「あぁ、もう5、6年前の話だろう」

「西住はプロ入り2年目のオープン戦で頭蓋骨を骨折する大怪我を負った」

「すぐに病院に運ばれ手術をしたものの3日間意識が戻らなかった」

優花里「その試合、私と娘で見に行ってたんです」

麻子「ほぉ……」

優花里「すごいショッキングな出来事で、本当に目の前が真っ白になりました」

優花里「後遺症は残らなかったんですけど、最初は歩くことも出来なくて」

優花里「こんなことになるなら戦車道は辞めてほしいって何度もお願いしたんです」

優花里「でもみほは明るく大丈夫、大丈夫って言ってて」

優花里「ずっとリハビリに通ってたんですけど、忘れ物を病院に届けに行ったんですね」

優花里「そしたら泣きながら鬼の形相でリハビリに挑んでるあの人がいて……」

優花里「私が視界に入ったらいつもの笑顔に戻ったんです」

優花里「あの人の戦車道に掛ける魂みたいなもののを見た気がしました」

優花里「それから私は何があってもこの人を支えようって、そう決めたんです」

優花里「でもそれ以降はずっと苦しんで苦しんで苦しんでの連続でした」

優花里「だからあの人が負担に感じるものは出来るだけ取り除いてあげたいんです」

優花里「貯金はいくらか残してくれました、でも仕送りが出来ないことを本当に申し訳なさそうにしてました」

優花里「私の父や母にも引け目からすごく気を遣ってくれていて、それも私は嫌でした」

優花里「身重の妻が遠い日本にいたら試合に集中出来ないかもしれない。そんなことには絶対したくないんです」

麻子「だからって何も言わずに堕ろすのか?それこそ絶対に違うぞ」

優花里「……はい」

麻子「お前の旦那はそんなに弱くない。10年も一緒にいてそんなこともわからないのか」

麻子「今電話して子供が出来たって伝えろ。それで喜ばなかったら私はあいつと縁を切る」

♪~

優花里「電話、みほから……」

麻子「ほら、いい機会だ」

優花里「はい、もしもし。うん、あのね、ちょっと伝えたいことがあって」

優花里「え、え、えええ!?」

……


「ドイツで奮闘する西住、彼女にも一筋の光が見えていた」

「ワールドカップで負傷したエース砲手が長期離脱することが確定」

「変わりに繰り上がりで西住が試合に出る回数も多くなっていった」

「試合に出るたびに結果を残していた西住に、チーム内だけでなく世間も目を向け始めていた」

監督「……砲手はミホ、以上だ」

みほ「はいっ!」

みほ(よし、またレギュラーだ)

監督「それからミホ、ちょっと監督室に来てくれるか」

みほ「はい」

……

監督「お前に日本代表のメンバーとして招集がかかっている」

みほ「えぇ!?」

監督「来年アジアで大会が開かれるんだろう?その予選メンバーに選ばれたようだ」

みほ「本当ですか!?」

監督「あぁ、頼むから絶対に怪我だけはするなよ」

みほ「はいっ!」

「アジアカップ、アジア戦車道連盟が主催する戦車道の大陸選手権大会」

「その大会が来年ミャンマーで開かれるため、本選の出場をかけ今年から各地で予選が開かれる」

「ワールドカップでのまほの活躍を見た関係者らが国外組の招集に力を入れ始めたため、ドイツで頭角を表してきた西住にも白羽の矢が立った」

みほ「今日本は……12時か、ちょっと嫁に電話します」

みほ「あっ、もしもし優花里!?実は聞いてほしいことがあって!」

みほ「私、日本代表に選ばれたんだ!」

みほ「うん!本当に!」

みほ「ありがとう。優花里のおかげだよ」

みほ「ん?優花里も報告?」

みほ「えっ、妊娠2ヶ月!?」

みほ「やったあああああ!!!!ダブルでお祝いだね!」

みほ「近いうちに日本帰るから!」

みほ「えっ、誰?」

みほ「麻子さん!?久しぶり!お医者さんになったんだよね?」

みほ「あーっ、優花里がお世話になります」

みほ「えっ、ま、まぁ言ってないかも」

みほ「うん、うん。わかった」

みほ「優花里、愛してるよ。いつもありがとう」

みほ「は、恥ずかしいね」

みほ「とりあえずこれから試合だから!うん!また電話する!」

……

「1ヶ月後、西住はアジア大会の代表合宿のため、日本を訪れていた」

みほ「うわー、みんな顔見知りだ」

「現在28歳の西住、代表の中心選手たちと同じ世代なため周りは知り合いばかりだ」

ノンナ「みほさん、お久しぶりです」

みほ「ノンナさん!お久しぶりです」

ノンナ「まさかみほさんが砲手に転向するとは思いませんでしたよ」

みほ「まぁ、いろいろありまして」

ナオミ「ハロー、お二人さん」

みほ「ナオミさん!久しぶり!」

ナオミ「久しぶりだな。大学以来か」

みほ「うん。ナオミさんとは日本でやってた時一回も会わなかったよね」

「この二人はノンナとナオミ」

「プラウダ高校とサンダース付属高校出身の二人は大学卒業後、日本のプロを経てロシアとアメリカのリーグに挑戦した」

「2人とも所属は2部リーグのため、3人とも立場はほぼ同じと言える」

ノンナ「これから代表ではライバルですね」

みほ「はい!負けませんよ」

ナオミ「そうだ、あんたんとこ3人目出来たんだろ?おめでとう」

みほ「ありがとう。今妊娠4ヶ月だよ」

ナオミ「正直大変だろ。あんたの給料で3人もガキ抱えるの」

みほ「いや、別に?私ほとんどお金使わないから仕送りも出来てるよ」

ナオミ「え、あんた今いくらもらってんの?」

みほ「今は1500万くらいかな?」

ナオミ「は?ドイツってそんなに貰えんのか?」

みほ「うん。2部でも一応1軍にいると最低保証年俸ってのがあってね」

ナオミ「……ずりぃな。私らは毎日ハンバーガー食って生活してるってのによ」

ノンナ「実はまだ公表していないんですが、私も子供が出来たんです」

みほ「えー!?本当ですか!?」

「ノンナはロシア挑戦と同時に高校時代のチームメイトと結婚。現在はロシアで二人暮らしをしている」

ナオミ「あのおチビちゃん妊娠出来るんだな」

ノンナ「はい、そういう治療をしていたんですが、やっと出来ました。写真見ますか?」

みほ「写真……?もう生まれてるんですか?」

ノンナ「いえ、まだです。私のところも今妊娠5ヶ月でお腹が大きくなってきました」

みほ「はぁ、エコー写真とか持ち歩いてるんですか?」

ノンナ「この写真を見てください」

みほ「お腹が大きくなったカチューシャさん、ですか?」

ノンナ「えぇ、子供が子供を身籠ってる姿、とても興奮しませんか?」

みほ「いやしないですよ……」

ナオミ「自分の嫁を子供って……」

アッサム「はい、砲手のみなさん、練習を始めます。集まってください」

アッサム「えー、海外の方は長旅お疲れ様でした。砲手のコーチを務めます浅村です」

アッサム「各クラブチームでの戦いも忙しいとは思いますが、日の丸を背負って戦うことに誇りを持ってください」

アッサム「今回は代表初招集の方もいらっしゃるということで、自己紹介していただきましょうか」

アッサム「西住さん」

みほ「は、はい!?」

アッサム「自己紹介、お願いできるかしら」

みほ「みんな顔見知りなんですけど……」

アッサム「日本代表として会うのは初めてでしょう」

みほ「……わかりました」

みほ「西住みほ、大洗女子学園、黒森峰大学出身です。今はドイツのケルンでプレーしてます」

みほ「妻は3人目妊娠中です。砲手としてはまだ未熟なのでご指導ご鞭撻よろしくお願いします」

パチパチパチパチ

アッサム「あら、貴女のところの奥様も妊娠されてるのね」

みほ「はい」

アッサム「うちの家内も臨月ですわ」

みほ「えーっ、そうなんですか!?」

アッサム「えぇ、もう9ヶ月なんですけどね」

ナオミ「ヘイ、ちょっと。いつまで世間話聞かされるの?」

アッサム「あら失礼いたしました。では練習メニューが書かれた紙を配布します」

みほ(あっ、向こうは車長チームだ)

みほ(お姉ちゃんにダージリンさんにケイさん)

みほ(私も何年か前まではあそこにいられたのにな)

ノンナ「みほさん、紙受け取ってください」

みほ「あぁ、すみません」

みほ(……私はこっちで生きていくって決めたんだ。もう後悔なんてしてない)

……

沙織「こんにちはー」

優花里「いらっしゃいませ!」

沙織「昨日試合見たよー。みぽりん出てたね」

優花里「はい、私たちもテレビで見てました」

沙織「すごい注目されてたよねー」

優花里「みたいですね。私のとこにもインタビュー来てました」

沙織「私は正直腹立ったよ。カメラマンさんいるのに悪いけどさ」

沙織「西住妹は終わったとか引退しろとかって書いてたくせに美談みたいにとりあげてさ」

沙織「もうムキーッ!ってなってたもん」

優花里「まぁ言われてる内が華ですから……」

沙織「はぁー!いい嫁だ!じゃあ今日はまつエクもお願いしちゃおうかな!」

優花里「ありがとうございます!」

沙織「でもさぁ、2部のレギュラーやってたらもう家族でドイツ住めるんじゃない?」

優花里「はい、それに関しては電話で話しまして」

優花里「一応お腹の子が産まれるまではこっちにいることにしました」

沙織「そっかー、慣れないとこで出産するのキツイか」

優花里「はい、食事とかもそうですし言葉も通じないですし」

沙織「向こう言ったらドイツ語どうすんの?」

優花里「旦那がドイツ行き決まってからはちょこっと勉強してます。まだ全然喋れないですけどね」

沙織「ってかみぽりんドイツ語ペラペラなんだね!ドイツ語でインタビュー受けててビックリしたよ」

優花里「まぁ交渉とか全部自分でやらないといけないですから」

沙織「はえー、すっごいね」

優花里「今は英語の勉強してるって言ってました」

沙織「ふーん。普通逆だよね」

優花里「アメリカの人とかイギリスの人も多いみたいですからね」

沙織「はぁー。私も外国人の恋人欲しいなぁー」

優花里「実はウチ、フェイスリフトのマッサージ始めたんですよ」

優花里「きっと小顔になれば外国人の恋人、出来ますよ」

沙織「えーじゃあそれもお願い!」

優花里「ありがとうございます!」

「一方の西住はレギュラーの座を確保するもチーム自体の調子が悪く、現在リーグ5位に甘んじていた」

「1位と2位は1部リーグに自然昇格、3位から5位までのチームでプレーオフを争い、1チームのみが1部へと昇格することが出来る」

みほ「うーん。やはり後半戦でみんな疲れが出てますね」

みほ「ここをしのぎ切らないと、昇格は……」

……

審判「試合終了!」

「大事な終盤戦にも関わらず、単純なミスにより勝てる試合を逃してしまうケルン」

「6位のチームが勝利したため勝ち点を逆転され、順位が入れ替わり西住の所属チームは6位へと後退」

「勝ち点差1で残すは最終戦のみとなった」

みほ「……」

「移動のバスの中では重苦しい雰囲気が流れていた」

「反省会でも喋る者はおらず、空気は最悪なものとなっていた」

みほ(このままじゃ……どうにかしないと)

「すると西住の音楽プレイヤーから懐かしの音楽が流れてきた」

みほ「……」

みほ「あああんあんああああんあん」

みほ「あの子 会いたや あの海越えて」

「急にあんこう音頭をドイツ語で歌い始めた西住」

「その珍妙な踊りにチームメイトは戸惑いを隠せなかった」

チームメイトA「おいなんだその歌は?」

チームメイトB「これが日本のカブキってやつか?」

みほ「みなさんも一緒に踊りましょう!」

チームメイトC「いや意味わかんねーから」

チームメイトD「アアアンアン……」

チームメイトE「おいおいマジかよ?バスの中だぞ?」

「一人が踊り出すと一人、また一人と踊り始めるチームメイト」

「最終的にチームメイト全員が踊りに参加していた」

みほ「お鍋はアツアツ おいしくってアツアツ 味噌でしょうゆでアッツアツ」

わあああああ!!

みほ「ははっ、10年振りだけど覚えてるもんだなぁ」

チームメイトA「なんかよくわかんねえけどテンション上がって来たわ」

チームメイトB「最終戦絶対勝とう!」

「あんこう音頭によりチーム全員の士気を上げることに成功した西住」

「ちなみにこのあんこう音頭をたまたま撮影をしていた選手がyoutubeにupし、100万再生を記録することになる」

……

沙織「やっほー、ゆかりん」

優花里「いらっしゃいませ!」

沙織「実は今日もとある人が来てます!」

華「こんにちはー」

優花里「五十鈴殿!どうしたんですか!?」

沙織「うちの高校に華道の授業の特別講師として来てもらったんだよね」

華「お久しぶりです」

「彼女の名は五十鈴華さん。大洗時代は砲手として活躍した」

「現在は華道の五十鈴流に従事し、講演会や展示会で全国を飛び回っている」

優花里「あっ、開店の時お花ありがとうございました」

華「いえいえ、お粗末な作品でしたが」

沙織「今日お仕事終わったら麻子も誘って夕飯でも食べない?」

優花里「すみません。子供もいますし、ご飯も作らないといけないので」

沙織「あーそっか……やっぱそうだよね」

好子「いいわよ。羽伸ばしてらっしゃい」

優花里「本当!?じゃあちょっとだけ……」

沙織「じゃあお仕事終わったらあたしんち来てねー」

……

優花里「お邪魔しまーす」

沙織「いらっしゃーい」

麻子「おぉ、随分でかくなったな腹」ポンポン

優花里「そろそろ予定日ですから」

沙織「入って入って!飲もうよ!」

華「といっても優花里さんはウーロン茶ですけどね」

沙織「ねえねえ卒アル見ようよー!」

麻子「若いな、さすがに」

華「懐かしいですね」

沙織「あっ、みぽりんだ」

麻子「西住さんが写ってる写真全部に秋山さん写ってるな」

華「当時から相当好きだったんですね」

優花里「恥ずかしいです……」

沙織「いつから付き合ったんだっけ?」

優花里「高校卒業してたからですかね」

沙織「それが今や結婚して子供3人だもんねー」

麻子「あんこうチームそれ以外全員未婚だもんな」

沙織「華はいい人いないの?」

華「お付き合いしてる方はいません」

沙織「そっかー」

麻子「再来年にはもう30だもんな」

沙織「焦ってる?」

華「いえ、今は仕事が楽しいですから」

麻子「……私もそろそろ婚活しようかな」

沙織「私なんてもう15年くらいしてるよ」

麻子「そこまでして出来ないってちょっとおかしすぎないか?」

沙織「過ぎる!?おかし過ぎることはないでしょ!?」

華「毎年足切りなのに東大受け続けてるおじさんみたいになってますよね」

麻子「てか沙織って恋人いたことあるのか?」

沙織「……な、あ、な……」

沙織「あるよ」

麻子「いやその返答は絶対嘘だろ」

沙織「あるから!」

……


優花里「じゃあ私はそろそろ失礼しますね」

沙織「送ろうか?」

優花里「いえ、まだ9時なんで大丈夫です」

麻子「じゃあまた。検診来るときはLINEしてくれ。ご飯でも食べよう」

優花里「はい、是非」

華「元気なお子さん産んでくださいね」

優花里「はい。ありがとうございます」

バタンッ

バタンッ


麻子「ちょっとタバコ吸っていいか」

沙織「ダメっ!この部屋禁煙だから」

麻子「じゃあ外出てくる」

華「あっ、私も行きます」

……

麻子「……」スパー

華「……」スパー

麻子「咳をしても一人」

華「はい?」

麻子「なんかそんな感じだ」

沙織「私も久しぶりに吸おっかなー、一本ちょうだい」

華「はい、どうぞ」

沙織「ありがと」カチッスパー

麻子「なぁ、35過ぎて誰も結婚してなかったら3人で一緒に住まないか?」

沙織「おーいいかもね」

華「35……意外とすぐなんでしょうね」

麻子「そしたら本格的に結婚は諦めないといけないかもしれないけどな」

沙織「でもなー、私多分転勤になってるよ」

華「正直私も学園艦から通勤って言うのはキツいかと……」

麻子「……裏切り者どもめ」

登場人物は優花里父以外全部女として書いてます

インタビュアー「本日お越しいただいてるのはミホニシズミ選手です」

みほ「よろしくお願いします」

インタビュアー「まずはプレーオフ進出おめでとう」

みほ「ありがとうございます」

インタビュアー「今季途中からチームに移籍したミホ選手ですが、周りとはもう馴染めてる?」

みほ「そうですね。私は人見知り?ドイツ語でなんていうかちょっとわからないけどあまり初対面の人とのコミュニケーションが上手くないので」

みほ「日本では苦労したけれど、ドイツでは新人にも積極的に話しかけてくれるのでそこは問題なかったですね」

インタビュアー「チームメイトとはどんな会話を?」

みほ「私は日本に妻と子供が二人いて、妻帯者とは子供の話をしています」

インタビュー「奥さんは今妊娠中だとか」

みほ「はい。そろそろ出産が近いので、妻には頑張ってもらいたいです」

インタビュー「お姉さんとは仲良いの?」

みほ「日本にいた時はよく食事に行ったりしてました。でもこっちに来てからはあまり」

みほ「代表の試合の時に少し話したくらいですね」

インタビュアー「日本では車長として活躍していたミホ選手ですが、なぜ砲手になったの?」

みほ「話せば長くなりますが、きっかけはケガです。そこから車長が出来なくなって……といった感じです」

インタビュアー「車長と砲手では何か違いはある?」

みほ「試合の流れの見方が違いますね。あと砲手は車長よりも専門性の高いポジションだと思います」

みほ「車長は他のポジションみんなに信頼される必要があります。砲手は車長を信頼しなければいけません」

みほ「そこが大きな違いではないでしょうか」

インタビュー「ありがとう。ポストシーズンも頑張って」

みほ「ありがとうございました」

「最終節、自らの砲撃で勝利を決め、プレーオフへと駒を進めることになった西住」

「既にドイツで注目選手になっており、地元メディアから取材を受けることも増えていた」

「現在所属するチームは古豪と呼ばれるチームではあるが、ここ10年1部リーグからは遠ざかっており」

「アジアから来た助っ人外国人に、街の人も大きな期待を寄せていた」

みほ「うわー、でっかいポスター貼ってある」

みほ「こっちの電光掲示板には私の写真が……」

みほ「なんか高校時代を思い出しますね」

みほ「あの時は学校を廃校から救ったヒーロー扱いされてましたけど」

みほ「その時の感覚にちょっと似てます」

ファン「ヘイ、ミホ!サインもらっていいかい?」

みほ「あぁ、ありがとう」

ファン「一緒に写真撮ってもらっていいかしら?」

みほ「いいよ。ちょっと待っててね」

「ひとたび街へ出かけるとすぐさまファンが群がり、写真とサインを求められていた」

―「高校生の時もこんな感じだったんですか?」

みほ「あの時以上です」

みほ「この国の人たちが戦車道にかける思いは日本のそれとはちょっと違いますね」

みほ「もちろん日本にも熱狂的なファンはいっぱいいたんですけど」

みほ「熱狂の度合いが違いますね。街全体に戦車道が根付いてる感じです」

「人が人を呼び、即席の撮影会は長蛇の列になっていた」

みほ「ちょ、ちょっとごめん。もう練習行かないといけないから」

ファン「ええーー!?」

みほ「ごめんね。試合見に来てくれたらまた会えるから」

「困惑しながらも顔は笑顔な西住、やはり注目されるのは嬉しいのだろうか」

みほ「いや、もちろん悪い気はしないですよ。人気商売なんで」

みほ「ただ嫁が妊娠中してるのにファンの子にデレデレするのもあれなんでね」

……

「プレーオフは1部昇格の1チームを決めるために特別ルールとなっている」

「まずは4位と5位のチームが対決、その勝者と3位のチームが対決。昇格できるチームを決めるというシステムだ」

「普段のシーズンとは違い短期決戦のため、モチベーションの作り方、気持ちの切り替え方が勝利への鍵となっている」

「早々に4位チームを撃破し、西住のチームはファイナルステージへと駒を進めた」

「ファイナルステージでも西住は大活躍」

「結果は3勝3敗、残すは最終戦のみとなった」

「最終戦を前日に控えた西住にとある人物から電話がかかってきた」

まほ「もしもし」

みほ「もしもしお姉ちゃん?久しぶりだね」

まほ「今どこにいると思う?」

まほ「秋山さんの家だ」

みほ「えぇ!?なんで!?」

まほ「優花里の出産でバタバタしてるからな。お手伝いに来た」

まほ「私のチームは今年優勝争いに絡めなかったからもうオフなんだ」

みほ「あー、そうなんだ。ありがとう」

まほ「実はな、明日予定日なんだ」

みほ「えっ!?まだ先だってこの前言ってたけど……」

まほ「お前に気を遣って嘘を付いていたらしい、余計なプレッシャーをかけないようにと」

みほ「そんな……」

まほ「だが敢えてお前に伝える。明日は家族のことだけを考えて家族のためだけに戦え」

まほ「優花里はよくできた奥さんだ。お前にはもったいないくらいな」

みほ「うん。本当に感謝してるよ」

まほ「本人に直接伝えてやれ。喜ぶぞ」

みほ「うん……」

まほ「でな、実は私もお願いがあるんだ」

みほ「なに?」

まほ「安斎が妊娠した」

みほ「えぇっ!?アンチョビさんが!?」

まほ「あぁ、今妊娠6週目だ」

みほ「籍入れてないよね?ということは……」

まほ「恥ずかしながら出来婚ということになる」

みほ「あぁ、そう……私は全然いいと思うよ、順番違っても。妊娠って結婚のいいきっかけだと思うし」

まほ「安斎の両親に挨拶に行かないといけないんだ……お前付いてきてくれないか」

みほ「はぁ!?」

まほ「……頼む」

みほ「……それは一人で行ってよ。一人で行って殴られてきなよ」

まほ「それが嫌だから言ってるんだ。お前が来たらさすがに殴らないだろう」

みほ「いや妹同伴で挨拶来る方が不信感抱くって!」

まほ「お前が秋山さんのとこに挨拶行ったときはどうだったんだ?」

みほ「私のとこは結婚する前から仲良かったから。お姉ちゃんアンチョビさんのご両親と会ったことあるの?」

まほ「……ない」

みほ「付き合ってることは知ってるんだよね?」

まほ「わからない。ご両親はネットとか見ないって言ってたからな」

みほ「別に大丈夫なんじゃない?お姉ちゃん一応有名人だし」

まほ「みほは自分の娘が結婚前に妊娠したらどうする?」

みほ「絶対相手殴るよね。てか普通に結婚するって来ても殴る」

まほ「……じゃあダメじゃないか」

みほ「大丈夫だよ。りほは絶対パパと結婚するって言ってるから」

まほ「……そういう話をしてるんじゃない」

みほ「まぁとりあえずその話は置いといて」

みほ「明日、頑張るよ。来年は姉妹で戦おう」

まほ「……あぁ。みほ」

みほ「なに?」

まほ「お前はやっぱり凄い。今年1年は高校時代のお前を見ているようだったよ」

みほ「どういうこと?」

まほ「私がなんで大学に行くのを辞めて、プロに行ったかわかるか?」

みほ「いや、わかんない。お姉ちゃんインタビューとかでも頑なに言わなかったし」

みほ(そのせいで世間から叩かれてたけど)

まほ「大洗に行って1から戦車道をやり直したお前を尊敬していたからだ」

まほ「あのまま黒森峰に居続けることも出来たと思う」

まほ「でもお前は大洗に行った。その時私はお前のことを逃げたと軽蔑していた」

みほ「実際逃げたは逃げたんだけどね」

まほ「だけどお前は大洗を立て直して全国優勝にまで導いた」

まほ「すごいよ。何もないところからのし上がっていったお前を本当に尊敬していた」

まほ「そんなみほに憧れていたんだ」

まほ「私もお前のように甘えた環境から一歩踏み出したかった」

みほ「じゃあ大学の推薦受けないでそのままプロ行けばよかったんじゃん」

まほ「あぁ、そのつもりだった。でも、私の弱さのせいでそれが出来なかった」

まほ「お母様を説得することが出来なかったんだ」

まほ「だから急な形になった。それでお前の進路も大きく変えてしまった、本当に申し訳ない」

みほ「いいよ。全然気にしてない。大学4年間楽しかったし、それに」

みほ「大学の戦車道は甘えた環境じゃないよ」

みほ「大学行かなきゃ優花里とも付き合ってないし、子供も生まれてない」

みほ「そういう意味じゃ感謝してる」

まほ「……そうか」

まほ「明日、頑張れ。」

みほ「……うん」

「姉の激励の言葉に思わず涙を見せる西住」

みほ「ははっ、なんかわかんないけど泣いちゃいました」

みほ「とにかく明日頑張るのみです。もう寝ますね」

……

優花里「あっ、陣痛来ますね……」

優花里「いたたたた、来ました……」

まほ「よし、じゃあ医者を呼んでくる」

麻子「おっ、西住さん。陣痛来たか」

まほ「君は……みほと優花里の友人だよな?」

麻子「はい、ここで医師をしている冷泉麻子です」

まほ「君は優花里の主治医か?」

麻子「いえ、私は内科医なので」

まほ「そうか。では産婦人科医の方を呼んできてもらえますか」

麻子「わかりました」

まほ「あの子は大洗で操縦手をしていた子だよな?」

優花里「はい、そうです。お医者さんとしてここで働いているみたいです」

まほ「そうか。じゃあ少し安心だな」

優花里「……」

まほ「す、すまない。余計な話はしない方がいいか」

優花里「いえ、なんでもいいのでお話してもらえると気が紛れて助かります」

優花里「雨ですけど……」

まほ「え、えーっと、えーっと」

産婦人科医「西住さん、分娩室行きましょうか」

優花里「はい」

まほ「ガ、ガンバレ。優花里!」

……

みほ「優花里!」

まほ「おぉ、みほ。まだ生まれてないよ」

みほ「優花里!優花里!優花里!」

看護師「お父さん、立ち会いますか?奥さん今頑張ってますよ」

みほ「は、はい!」

まほ「出産に立ち会うのは初めてか?」

みほ「うん……優花里、大丈夫だよね?」

まほ「あぁ、心配するな。全く問題ない。励ましてやれ」

みほ「うん。ありがとう!」

エリカ「つっかれたー……」

まほ「お疲れ様」

エリカ「ドイツと日本は遠すぎますよ……」

まほ「申し訳ないな、毎度」

エリカ「もう生まれました?」

まほ「1時間くらい前に陣痛が来て分娩室に行ったよ。3人目だしすぐ生まれるだろう」

エリカ「そうですか」

まほ「……みほの方はどうだった」

エリカ「……」グッ

まほ「そうか!」

オギャアアア

エリカ「あっ、生まれましたかね!?」

まほ「のようだな」

「第3子と1部昇格」

「西住はこの1年公私ともに最高の年となった」

「妻子と同居、姉妹対決、来年も西住にとっては良い年になるであろう」

「そんな西住のこれからの活躍が楽しみだ」

終わり

終わりです
てにをはがおかしかったり、文法めちゃくちゃだったりするとこが多々あって読みにくいです
すみません

すみません
>>112の前に
まほ「そ、そうか。今日はいい天気だな」

が入ります。度々すみません

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