黒川千秋「ちがうわよ」 (16)

雪美「………」ペラ

P「雪美、本を読んでいるのか」

雪美「………」コクン

P「そうか」

雪美「………」

雪美「………」ウトウト

P「眠そうだな」

雪美「………ちょっと……ねむたい」

P「レッスンまで少し時間あるし、お昼寝するか?」

雪美「………」コクリ

雪美「………お邪魔……します」

P「え? おっと……膝枕か。いいぞ」

雪美「ありがとう………」

雪美「………すぅ」


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P「よっぽど眠かったんだな」

P「気持ちよさそうな顔して……」


千秋「………」ジーー

P「……どうした、千秋? じっとこっちを見て」

千秋「いえ……よく寝ているわね。佐城さん」

P「かわいらしい寝顔だよ。こうしてると、特等席で見られるからお得だ」

千秋「そう……」

千秋(私も間近で見たい……)←かわいいもの結構好き

千秋「………」ソワソワ

P「千秋?」

千秋「えっ? な、なにかしら」

P「ひょっとして、千秋もしたいのか?」

千秋「………ええ。興味は、あるわ」

P「じゃあするか?」

千秋「いいの?」

P「千秋がいいなら、俺はかまわないけど」

千秋「そう。なら、お願いしようかしら」

P「そうか。じゃあ左膝が空いてるからそこで寝ていいぞ」

千秋「ちがうわよ! どうして私があなたの膝枕で寝なくてはいけないの!」

P「え、違うのか? じゃあ俺が君の膝で?」

千秋「それもちがうわよ……私は、佐城さんに、膝枕がしたいと言ったのよ」

P「ああ、なるほど。それは思いつかなかった」

千秋「普通そうでしょう。どうして私が貴方に膝枕をしたりされたりしなければならないの」

P「確かに」

千秋「まったく……貴方のプロデュースの腕は信頼しているけれど、時々とんでもない発言をするのは困りものね」

P「悪い。じゃあ、雪美を起こさないように膝枕を交代――」

雪美「………」パチリ

千秋「あ、ごめんなさい佐城さん。起こしてしまったかしら」

雪美「……千秋……一緒に……寝る……?」ポヤヤン

千秋「え? いえ、私は寝るのではなくて、佐城さんの」

雪美「………だめ………?」

千秋「うっ………」




P「結局美少女と美女に膝枕をすることになった」

千秋「どうしてこんなことに……」

P「君が雪美の言葉にうなずいたからだろう」

千秋「だって、断れないでしょう。あんな目で見られたら」

雪美「すぅ………すぅ………」

P「千秋は無邪気な子どもに弱いよな」

千秋「悪かったわね」

P「いや、いいことだぞ。それだけ優しいってことだし」

千秋「そうかしら……けど、その優しさのせいでこんなことになったのよ」

P「俺は役得だけどな」

千秋「もう………」

千秋「………」

千秋「………膝枕って、案外体温が伝わってくるのね」

P「お。意外と満足?」

千秋「ちがうわよ………たぶん」

別の日


P「今日から北海道に遠征だ。千秋にとっては、地元で凱旋ライブの形になるな」

千秋「そうね。毎度言っていることだけれど、必ず成功させてみせるわ」

P「故郷に錦を飾れるようにしよう」

千秋「ええ。でも、それを意識しすぎるのは禁物」

千秋「私はいつだって全力でライブにあたってきた。なら、今回も同じようにすればいいだけ……そうでしょう?」ファサッ

P「ああ、そうだな。いつも通り、100パーセントを出せばいい」

千秋「貴方も、北海道の寒さに負けないようにね」

P「それは気をつけるが、戦々恐々としている」

千秋「ふふっ。まあ、何かあれば私を頼っていいわ。たまには、立場逆転も悪くないでしょう?」ファサッ

P「………」

千秋「どうしたの」

P「千秋ってさ。キメ台詞を言う時に髪をふぁさーってやる癖あるよな」

千秋「そんな癖、ないわ」

P「いや、あるって。ふぁさってやったらたいがい許されるみたいなところがあるって」

千秋「そんなこと思っていないわ。だいたい、ふぁさってそこまでの頻度でやってないし」

P「そうか?」

千秋「そうよ。それこそ、貴方の思い込みではないかしら」

P「そうか………」

千秋「そう」ファサッ

千秋「あっ」

P「………千秋」

千秋「ち、ちがうわよ? 今のは、その、えっと」

P「黒ふぁさ千秋」

千秋「うまくない!」

遠征先のホテルにて


P「ライブ、うまくいってよかったな」

千秋「ええ、そうね。……本当に」

P「いつもより疲れてる?」

千秋「……東京を出る前、『いつも通りにやるだけ』と言ったけれど……やっぱり、少なからず意識はあったみたい。でも、その緊張はいい方向で働いた。そう思うわ」

P「今日のライブは、俺から見ても過去最高の出来だった」

千秋「ありがとう。だからこそ、今は本当にうれしいし、ほっとしている。おかげで脱力感がかなりあるけれど」

P「そんな状態で、男を部屋に入れてよかったのか? しかも風呂上りの状態で」

千秋「いいのよ。貴方だけは、特別」

千秋「それに、脱力していても油断はしていないわ。きっちり一線は引いているのだから」

P「……さすがだな」

千秋「当然よ。私を誰だと思っているの」

P「はは、そうだな」

千秋「……さて。ライブも終わったことだし、少しだけお酒を飲まない?」

P「ああ。少しだけなら、いただくよ」

千秋「ふふ、そう言ってくれると思っていたわ。ワインを用意してあるから、今持ってきて」


ぐぅ~~~~~


千秋「………」

P「………」

千秋「………」

P「……なあ」

千秋「ちがうわよ」

P「いや、油断していなくても腹の虫は抑えられないからしょうが」

千秋「ちがうわよ」

P「あ、はい。酒飲んで忘れます」

その後


P「zzz」

千秋「だからって、寝落ちするまで飲まなくてもいいのに……変なところで律儀なんだから」

千秋「……まあ。そういう硬いところが、私は好きなのかもしれないわね」

千秋「飲んだお酒の量自体はそこまで多くないし、単に疲れていただけなのかも」

千秋「………」

千秋「いつもお疲れ様。私の、プロデューサーさん」ナデナデ

P「ん………あれ、俺……」

千秋「目が覚めたかしら。大丈夫、貴方が寝てからまだ30分くらいしか経っていないわ」

P「千秋……って、この体勢」

千秋「試しにやってみたけど、膝枕する側も悪くないわ」クス

P「……すまん。俺が寝ちゃったから」

千秋「いいのよ。こうしているのは、私の意思。私がこうしたいと思ったから、そうしている。それだけ」

P「千秋……」

千秋「ねえ、Pさん。少し、私の話を聞いてくれるかしら?」

P「……ああ」

千秋「昔の私は、なんでもひとりでやるのが一番だと思っていた。ひとりでなんでもこなせれば、それが一番いいことだし、一番優れている。そう思っていた」

千秋「それは、ある意味では正しい考えなのかもしれない。けれど、それを実現するには、私は不器用すぎたの」

千秋「でも……今は、不器用でよかったと、そう思うのよ」

P「不器用で、よかった?」

千秋「ええ。不器用だったからこそ、私はみんなと……貴方と出会うことができたのだから」

千秋「共に語り合い、共に悩み、共に努力し、共に何かを成し遂げる。その喜びを、たくさん味わうことができた。だから、私は今の自分に誇りを持てる」

P「……そうか。俺も、そんな千秋を誇らしく思えるよ」

千秋「ありがとう」

千秋「でも、まだ足りないわ」

P「え?」

千秋「私達には、まだ先がある。もっともっと、味わいたいわ。トップアイドルになる、その日を目指して」

千秋「それに、いずれは仕事以外も……それこそ、すべてを。そんなビジョンも、私の胸の内にあるわ」

P「………」

P「酔ってる?」

千秋「ふふっ、そう見える?」

P「顔、赤いし」

千秋「………ちがうわよ」フフッ

………

……


千秋「なんて初々しいやり取りをしていたのが、今となっては懐かしいわ」

P「結局、プライベートでもパートナーになったからな」

千秋「花嫁修業、今思い出しても大変だったわ」

P「家事スキル、めちゃくちゃ上昇したもんなあ」

千秋「貴方には、これまでたくさんのものをもらってきたから。それをお返しするだけと思えば、いくらでも頑張れた」

P「ということは、料理の腕が向上したのも俺のためか」

千秋「ええ。ちがわないわ」

P「掃除洗濯も」

千秋「ちがわないわ」

P「夜のテクニックも」

千秋「ちがわないわ」

P「………」

千秋「ふふっ。自分で言ったくせに頬を赤らめるなんて」

P「間髪入れずに返してくるとは思わなかった」

千秋「私の勝ちね」ファサッ

P「勝負だったのか、これ」

千秋「ええ。だから、次やるときは、私が主導ね」

P「……前回の仕返しするつもりか」

千秋「ちがうわよ」

千秋「ただ、休憩する間も与えてくれなかったケダモノさんには、少しだけ教えてあげなければいけないことがあると思うのよ」

P「……負けず嫌いめ」

千秋「今さらね」

P「鞭とかロウソクとか用意する気か」

千秋「………」

P「おい。そこは『ちがうわよ』って言ってくれ」

千秋「さぁて、どうかしら?」

P「千秋~~」

千秋「ふふっ」


おしまい

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
千秋さん誕生日おめでとう。黒真珠の輝きが復刻されているのでお迎えしたいです


過去作
小松伊吹「なんだよエスパーか!?」
栗原ネネ「まってちがう」
モバP「なっちゃんと年末年始」

などもよろしくお願いします

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