【多重】色々なキャラで聖杯戦争【クロスオーバー】 (27)

・色んな作品のキャラでの聖杯戦争を描く二次創作SSとなります。

・Fateキャラの登場なし、安価、コンマ判定などもないです。

・地の文ありのSSとなります。

・マイペースに書いていくので更新も非常に遅くなると思いますが、よろしくお願いします。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1488114557


それは伝説の一つだった。


誰かが言った。


あの離島に向かった者が、数日後億万長者として帰ってきたと。


誰かが言った。


あの離島に向かった者が、死した筈の伴侶と共に歩いていたと。


誰かが言った。


あの離島には戦いがあると。


そして、その戦いに勝利した者こそ万物の願望を成就できると。


全ての願いを叶える【聖杯】を手に入れられると。


誰かが、言った。





誰かは聞いた。


誰かは聞いた。


誰かは聞いた。


殆どの人は鼻で笑い、歯牙にも掛けなかった。


だが、願いを持つものは、野心を持つものは、この世の異なるものを知るものは、違った。


願いの成就を求めて、野心の成就を求めて、異なるものの平定を求めて。


彼は、彼女は、集った。


まるで導かれるように、引き寄せられるように。


彼等は、時を同じくして、集う。


そう、そして幾度目かの舞台は整えられた。


まるでそれがさも当たり前の流れのように、初めからそう決められていたかのように。


人々は集い、開催される。


奇跡の聖杯を賭けて行われる戦争が。


聖杯戦争が―――幕を、上げる。







―――セイバー編・Ⅰ―――



「はぁー、なぁんでこの陰毛頭と日本くんだりまで来ねぇと行けねぇんだろうなぁ」


隣から盛大な溜め息が聞こえた。
見なくても分かる。そこには心底から気怠そうなクズ男がいる筈だ。


「それはこっちの台詞ですよ、ザップさん。僕だって来たくて来た訳じゃないんですから」
「おっ、いっちょ前に反抗する気か? 戦争か? 戦争がしたいのか、陰毛様は?」
「八つ当たりしないで下さいよ。っていうか、悪口のレパートリーが狭すぎるだろ。小学生か」


僕の名前はレオナルド・ウォッチ。
秘密結社ライブラの構成員である。
まぁ、この秘密結社が中々にハードかつブラックかつハードでハードでハードな組織だったりして、その組織からの命令で僕達はこんな所まで来ているのだ。


「どんな願いでも叶える島ねぇ~。んなもんがヘルサレズムロッドから遠く離れた島国にあるとは思えねぇけどなあ」


ライブラの役割は、世界の均衡を守る事である。
普段はとある街にて様々な異常を相手に活動をしているのだが、今日は出張事業となっている。
話の始まりは、ある一つの都市伝説だった。
願いを叶える離島。
その離島へ行ったものは、どんな願いでも叶えられるという、どこにでもありそうな都市伝説の一つ。
噂レベルの情報でライブラが動く訳がないが、どうにもこの都市伝説に関しては人々の証言が多く集まった。
曰く、その島へ行ったらしき人物が億万長者となった。
曰く、その島へ行ったらしき人物が途端に強力な人脈を得た。
曰く、その島へ行ったらしき人物が死した筈の人間と共に歩く姿を見た。
数人の与太話ならそれは都市伝説だが、それが数百、数千に及べば一考の余地は現れる。
とはいえ、それは飽くまで一考の余地程度の話。多くの人員を割く訳にもいかず、暇そうな僕とザップさんに白羽の矢が立ったのだ。
と、いう訳で僕達は今、離島への唯一の交通手段である連絡船に乗っている。
天気も良く、波も穏やか。こうしていると仕事を忘れて、休日を楽しんでいるみたいだった。



「都市伝説だったなら、それはそれで万事OKですよ。厄介毎にならなくて済むじゃないですか」

「ばっか、この俺様の休日を潰しておいて何もなかったで済む訳ねーだろうが! この俺のムシャクシャはどうしてくれる!?」

「知りませんよ、ザップさんのムシャクシャなんて。そんなものはずっと心の中に抱えといて下さい」

「お前はアホか。俺は繊細なんだぞ。こんなストレス抱えてたら心が壊れちまう! 発散させる場が必要なの! つまりは厄介毎カモン!!」

「うわぁ、ストレス解消の為だけに事件望んでるよ、この人……。ないわー、マジないわー」


まぁ、隣の人にとっては全てが苛立ちの対象のようだったが。
ともかくギャーギャーした騒音をシャットアウトし、景色を楽しむ。
このまま何も無ければ本当に息抜きのプチ旅行に成りうるのだ。そうなることを心から祈ろう。



(それにしても結構利用者が多いんだな)


横目で周りを伺う。
連絡船にはチラホラと人が乗っており、椅子も三割程が埋まっていた。
流石に外国人は自分達だけだが、やはり都市伝説の舞台として有名だからか。
良く良く見ると、皆相応に思い詰めた表情をしているように見えた。
もしかしたら彼等には何かしら叶えたい願いがあるのだろうか。
願いを叶えるために、藁にもすがる思いで島を目指しているのか。

(願いを叶える、かぁ…)

叶えたい願いがない訳ではない。
寧ろ、自分の命と引き換えにしたって叶えたい願いがある。
だが、それが並大抵の神秘で解決できるものでない事は、既に知っている。
異常が蔓延るあの街ですら、自分の願いを叶える方法は見つかっていない。

(その聖杯伝説ってのが本物なら……)

ふと脳裏にそんな考えが過るが、直ぐに心の中で笑い飛ばした。
世の中そう上手くできてなどいない。
こんな辺境の地に解決策があれば苦労などしない。
それに都市伝説が本当であれば、自分達の責任は重大だ。
どんな願いをも叶える魔術器など、使い方を一つ誤れば世界に大混乱をもたらしてしまう。
厳密な調査と報告、場合によってはその場での解決を迫られるかもしれないのだ。
そんな役目はまっぴらごめんだ。
何事もなく済めばそれで良い。
ふう、と息を吐き、空を見上げる。
船は水面をかき分けながら伝説の島を目指して進んでいく。
あの騒々しい街とはまったく真逆の、何とも穏やかな世界であった。





そうして数十分後、船は特に問題もなく離島へと到着した。
ちょっとした埠頭と簡素な道路。あとは山やら森やら海岸やらの自然に包まれている。


「うへぇ、帰ろうぜぇ~。こんな所に何もねぇって~」


大きく肩を落としながら早速の泣き言。
確かに娯楽どころか人すら存在しないような離島だ。騒がしいもの好きのこの人にとっては地獄そのものだろう。


「少しはやる気だして下さいよ。小さな離島なんですから、チャチャッと調査すれば終わりですって」

「ヤダよ~、お酒飲みたい、ギャンブルしたい、女抱きたい~」

「あぁ、もう行きますよ! 適当やってるとスティーブさんに怒られますよ!」


と、ヤル気0の先輩を引っ張って進んでいく。
その時だった。


『―――ここに人々は集った。これより聖杯戦争を開始する』


頭の中に声が響いた。
なんだこれと、同行していたザップさんの方を振り返る。
だが、そこにあのクズ先輩の姿はなく。
あったのは鬱蒼と生い茂る木々だけだった。

何の前触れもなく全てが一変していた。港にいたはずなのに、いつの間にか森林にいて。


「なっ、なにが……!?」
『―――落ち着けよ、兄ちゃん』


混乱する自分に声をかける者がいた。
驚き、警戒し、身構える。
どう考えても異常な事態に、何処からともなく現れた存在。
彼は、いやこれは一体―――、



「あっ……あなたは誰だ!? これは一体何なんだよ! ザップさんを何処にやった!」
『だから、落ち着けって。ザップって奴の事は知らねぇが、現状についてはお前にも分かる筈だ』


分かる?
そんな訳ないだろ! 埠頭にいた筈なのに、謎の声が響いて、気付けばこんな所にいて!
一体何が分かるって―――、


『―――分かる筈だ。お前が俺のマスターなら』


ドグン、と頭が脈うった。
マスターという言葉に聞き覚えがあった。
いや、それだけじゃない。
何もかもを、僕は知ってる。
その知識を与えられている。
これは、これは―――、


「聖杯、戦争、だって……!?」
『そうだ。それが答えだ』


全てを知っている。全てを知らされた。
夢を叶える離島。その正体。
島に眠る伝説の魔術道具・『聖杯』による願いを賭けた戦い。
僕はそれに、巻き込まれた。


『―――さて改めて問うぜ』


声の方へと振り返る。
分かっている、分かっていた。
そこには黒衣の鎧と黒衣の外套に身を包んだ剣士の姿が。
左腕は無く、片目も喪い。
癒えることのない傷に身体の形を変えられ、尚そこに剣士として立ち尽くす。


『お前が―――俺の、マスターか』


僕の目の前に、男が―――セイバーが立ち尽くしていた。




【レオナルド・ウォッチ×セイバー(真明:???) ―――参戦】

今日のところは以上になります。
次はアーチャー編を書いていきます。

更新していきます。






―――アーチャー編・Ⅰ―――


『現在高度2000mを飛行中。目的地まであと20分です』
「了解だ。快適な空の旅も終了か」


眼下を雲が流れる。最早馴れてしまった光景だ。
何時ものスーツを着て、国境をも超えた遥か先の目的地を目指す。

「かつてマイジェットが必要だった旅も、今や一着のスーツで事足りる。文明の利器とは……いや、トニー・スタークの利器とは素晴らしいものだ」

自画自賛ではあるが、事実なのだから仕方がない。
例えどれほど文明が発展しようと、このスーツを作れるものはいないだろう。
私だからこそ、トニー・スタークだからこそ作成できた利器。
それが、このアイアンスーツだ。


「願いが叶う離島か…。また傍迷惑なソーの置き土産か、はたまた別の何かか」


始まりは、一つの番組だった。
世界の不穏分子を発見するため、世界各国の番組を何十ものモニターに映して観察していた時のこと。
日本の都市伝説を扱ったニュース番組が、なぜか目に止まった。
あらゆる願いを叶えるという離島。
下らないと感じつつも、今や二つに分裂したアベンジャーズの片割れを束ねる身。
どんな些細な出来事でも、その先に重大な危機が眠っている可能性は存在する。
そして、僅かでも可能性がある以上、放置してしまう訳にはいかない。
数年前より世界は異常に満ちている。
ロキによる侵略しかり。
ニューヨークに突如出現し、都市の七割を支配したヘルサレズムロッドしかり。
日本でのパラサイト事件しかり。
世界の各地で繰り広げられた錬金術を巡る闘争しかり。

世界に何が起きるのか、今や何者にも予想はつかない。
どこかで蝶が羽ばたいたという事実が巡り巡って世界の滅亡に繋がる事も有りえ得るのだ。
だからこそ、私はあらゆる情報に目を通すし、気になった情報はどんな些細なものであろうと調べあげる。

勿論、大半はただのガセでしかない。
だが、今回は違った。
調べれば調べる程に不可思議な情報が手に入る。
本当に数日で億万長者となった者。
本当に数日で財界や政治家との厚いパイプを築き上げた者。
名前や戸籍上は別人であっても、本当に死者と、まるで生まれ変わりであるかのような人物と過ごす者。
ガセではない。事実として、其れ等はあった。
トニー・スタークの情報網をして、いや私自身の情報網を使ったからこそ、其れ等は揺るぎない事実となった。


『本当に援軍は必要ないのですか?』
「勿論だ。その為のスーツだろう?」

この日、この場所に向かう事は誰にも話していない。
全てを極秘のままに、私は島を目指している。
今回は調査が目的であるし、情報を精査した限りで超人と呼ばれる存在の関与はないからだ。
願いを叶えたとされる人物は、何か特別な能力を有しているという訳ではなかった(だからこそ、本来ならば有り得ぬ願いを叶えた事実が際立つのだが)。
だが、情報にはこうもある。
あの島には戦いがあると。
戦いに勝利したものこそが、願いを叶える権利を手に入れられると。

その戦いがどのようなものかは分からない。
だが、一般人が勝利できる戦いなのだ。
アイアンスーツを着た私が負ける訳がなかった。
そう、必要がなかったから、仲間に情報を明かさなかっただけだ。

情報を公開するにも、しっかりと調査を行なった後で。
現時点でアベンジャーズを巻き込む程の事件ではない、筈だ。

(そうだ、考えがあっての判断だ。決して他意がある訳じゃあない。決して―――)


そうこうしている内に、雲の切れ間に離島が見えた。
丁度上空まで辿り着いたらしい。


「殆ど無人の島だ。さっさと調査を終わらせるか。ペッパーとのディナーにも間に合わなくなるしな」


地球の半周先にある離島を調査したその足で、夜にはニューヨークの街並みで恋人とディナーが楽しめるのだ。
このスーツを開発して心底良かったと思う。


「ギャラリーはいないのは寂しいが、ド派手に登場といこう!」


全バーニアを全開で稼働させ、眼下の離島へと接近する。
見る見る近付いてくる地表。
接地と共に全身で衝撃を殺して着地する。
両膝を屈め、右の拳を地面へ付ける。
―――いつもの着地のポーズだ。


「よし、調査を始めるか―――」


そう、声を上げた瞬間、


『―――ここに人々は集った。これより聖杯戦争を開始する』


その声が響いた。
無機質な機械のような声。
アイアンスーツのAIがあげる声とはまた違う。
聞き覚えのない声であった。


「フライデー。何だ今の声は―――」


問い掛けつつ顔を上げた時には、状況は一変していた。
鬱蒼とした森林にいるのは問題ない。森林のど真ん中に着地した筈だからだ。
だが、一つ大きな異常がそこに待ち受けていた。
着地の際に周囲をサーチした様子では、そこに人の存在はなかった筈だ。
なのに。
だというのに。


「……貴女ような美女を見落とすとはね。僕の目も曇っていたようだ」


目の前に、人がいた。

腰まで伸びた黒髪と、凛とした力強い瞳。
アジア系の顔立ちは整っていて、飛びっきりの美女と言えた。
ここがニューヨークの街並みならば迷わず声を掛けていただろう。
しかし、ここは逸話の島。
加えて寸前まで気配を感知できなかった事実。
誰しもが次なる行動は私と同じものを選択する筈だ。


「さて、話を聞かせて貰おうかな。君は誰で、どんな手段でスーツの観測から逃れた」


両手を上げ、リパルサーエネルギーを臨界させつつ、問い掛ける。
女性はまるで臆することもなく、こちらを見つめている。
答えを返す様子は―――ない。


「話さないと撃つ。痛いぞ?」


女性は口を開かない。
ただ面白げに、僅かに口角を釣り上げただけだ。


「……警告はしたからな」


エネルギーを発射する。
閃光。炸裂。宇宙人だって宙に舞い散らすエネルギー弾が女性へと直撃した。

だが―――、


「なっ―――!!?」

『ご挨拶だな、てい……マスター』


女性はビクともしなかった。
比喩ではなく本当に。
怯む様子すらなく、リパルサーを受け切った。


『さて一発は一発だ。行くぞ、アメリカ人』


ズンと、一歩を踏み出してくる。
握られた右拳。女性が何をしてくるのか予想が付かなかった。
いや、何となくは察知するが、それが意味のある行動だとは思えなかった。


「待て待て。素手で僕を殴るつもりか? 辞めておけ、このスーツは特注品で―――」

『口を閉じてろ。舌を噛む』


忠告は無視され、拳が振るわれる。
瞬間―――、


「ガッ……アッ……!!?」


―――火花が散った。
スーツそのものと、凄まじい衝撃に揺さぶられることで僕自身の頭の中に。
気付けば身体は宙を舞っていて、数秒の空中飛行と共に地面へ叩きつけられた。



『悪いな。特注品がなんだって?』


驚愕と衝撃と痛みに混乱する僕を見下ろしながら、女性は微笑んでいた。
勝気な物言いだが、今は言い返す口を持っていない。
何とか上体を起こすので精一杯だった。


「お、お前は一体……」

『私か? 私は―――』


差し出された右手。
それを掴むと同時に凄まじい力で体を引き起こされる。
スーツを含めると100kgは優に越える重量の筈だが……。


『―――お前のサーヴァントだ』


同時に女性は、凛とした口調でそう告げた。

―――そう、これが私とサーヴァント……アーチャーとの出会い。

―――これから始まる戦争を共に過ごす事になる女性。

―――私の聖杯戦争の始まりであった。




【トニー・スターク×アーチャー(真名:???) ―――参戦】

以上となります。
次に描写する陣営を決めてないので安価で選んでいきたいと思います。
基本の7クラスの中から、既に書いたセイバー、アーチャー以外の陣営でお願いします。

↓1

では次はライダー陣営を書いていきたいと思います。
また時間が掛かるでしょうが、よろしくお願いします。

更新します。





―――ライダー編・Ⅰ―――



あの日、あの時、私の環境は一変した。
戦車道全国大会決勝。
コンディションは最悪で、試合が中止にならなかったのが不思議なくらいだった。
試合の終盤。
私の眼前を走っていた車両が敵の砲撃を受け、崖を滑り落ちた。
先に待ち受けるのは大荒れの河川。戦車といえど飲み込まれればひとたまりもない。
気付けば動いていた。
試合も、自身がフラッグ車である事も、眼前の敵車両すらも忘れて、飛び出していた。
ただ乗車している仲間を助けるために。
そして、その先に待っていたのは―――。

視線だった。
冷たい視線。
母の、姉の、先輩の、後輩の、同期の、OGの、教員の、観客の、周囲の―――冷たい、冷たい、視線。
戦車道全国大会に於ける初めての敗退。
長く続いていた伝統を台無しにした行為。
戦犯。
誰もが、冷たい視線で私を見た。


―――私は間違っていたのかな。
あれから何度も自分に問い掛けた。
あの時、あの瞬間、仲間を見捨ててでも試合を続けなければいけなかったのか。
優勝を、勝利を目指して進まなければいけなかったのか。
私が動かなくても、大会運営のスタッフによって仲間が救出されていた可能性は高い。

だから、と。
だから、あんな状態の仲間を放置してでも戦わなければいけなかったのか。
そんな風に割り切らなければならなかったのか。


「分からないよ、私には……」


揺れる船の上で、気付けば零していた。
私が今いるのは、とある離島へと向かう連絡船。
目的など何もない。
ただ遠くに、自分を知る者の誰もいない程の遠くに、逃げたかっただけだ。
家を、学校を飛び出し、どこを目指すでもなく電車に乗った。
そして知らない駅で降りて、足の向くままにこの船に乗った。
周りの冷たい視線から逃げ出すように。


「……間違いだったのかな」


戦車道の家元として、ずっと練習を積んできた。
辛い事もあった。楽しい事もあった。
戦車道は、戦車は、嫌いではない。
それでも、今回のようなことがこれからも起こり得るのなら―――、


「もう戦車には……乗りたくないよ」


戦車を、戦車道を、拒絶してしまう。
怖かった。
これまでが崩れてしまったことも、待ち受けるこれからも、全てが。
だから逃げ出してしまった。
全てを放り投げて、1人で旅に出た。
遠い地へ。
本当に何もない地へ。


聞こえるのは爽やかな波の音だけ。
何だか騒がしい外国人の2人組みがいるが、その声も波音に掻き消える。
まるで世界に一人のようで。
今はそれが心地よかった。


そうしてノンビリと水平線を眺めていくと、徐々に船が減速し始めた。
離島が近くなってきたらしい。
その離島には小さな集落が一つだけあるらしく、小さいながらも宿泊施設もあるとの事。
今晩はそこに泊まらせて貰うつもりだ。
何泊するかも、その後どうするかも何も決めていない。
ただ一人でいたかった。

船が埠頭の先に停泊する。小さな島な筈だが、何人かは一緒に降りるらしい。
コンクリートに降り立ち、凝り固まった身体を伸ばす。
まずは集落に向かわなければならない。
そうして歩き始めたその時―――それは聞こえた。


『―――ここに人々は集った。これより聖杯戦争を開始する』


?と。
首を傾げる暇さえなかった。
言葉と同時に自分の立っていた場所が一変する。
埠頭から、緑の生い茂る森林へ。
コンクリートから、木々と土の地面へ。
まるで瞬間移動したかのようだった。


「え、え!?」


慌てて周囲を見回す。
緑、緑、緑。
ひたすらに木々と葉に包まれた世界。それはどう見ても港のそれではない。


「な、なんで!? 私、確かに港を歩いてた筈なのに!」


理解ができなかった。
混乱する頭でどれだけ周囲を見ても、やはりそこは森林で。
全てがまるで変わっていた。


「ううっ……!」


唐突に、頭が痛んだ。
何かが無理矢理に流れ込んでくる。
知識が、この戦いに必要な情報が、流れ込んでくる。


―――万物の願いを叶える聖杯。

―――聖杯を巡って引き起こされる戦い。

―――異世界より集う七騎の英雄。

―――英雄を使役する七人の人間。

―――この戦いの名は、



「―――聖杯……戦争?」



数瞬後には全てを理解していた
いや、理解させられていた。
自分が無意識の内に聖杯に惹き寄せられ、この島を訪れたこと。
同様に集められた七人のマスターがいること。
この七人のマスターと願いを賭けて戦わねばいけないこと。
戦いに勝利すればあらゆる願いを叶える権利を得ること。
全てを、理解した。




『おい、大丈夫か。お前?』


声が掛けられる。振り返ると麦わら帽子の青年が、不思議そうにこちらを見つめている。
もう驚きはなかった。
全ては知識としてあった。
聖杯戦争を共に戦い抜くサーヴァント。
彼が、そうなんだろう。

でも、
それでも、問わずにはいられなかった。


「―――あなたが私のサーヴァント……なん、ですか……?」


これは本当なのかと。
これは現実なのかと。
問わずにはいられなかった。


『さーう"ぁんと? 何だそれ?』


だが、答えは予想とは違っていた。
青年は首を傾げた後に、口を開く。


『―――おれはさーう"ぁんとなんかじゃねぇ! おれはルフィ! 海賊王になる男だ!』


―――ドン、と何かに押されるようだった。
威圧感ではない。胸の奥に響き渡る声。
彼自身にも知識がある筈だ。サーヴァントに関する、聖杯戦争に関する知識が。
それでも尚、サーヴァントとしてのクラス名ではなく、自分の名を告げた男。
まるで何にも囚われる事のない風のようで、私にはとっても眩しく見えて。


これが、私とライダー―――ルフィ君との出会い。
私達の聖杯戦争が始まりました。


【西住みほ×ライダー(真名:モンキー・D・ルフィ) ―――参戦】

以上になります。
では次の陣営を指名してください。

ランサー、キャスター、アサシン、バーサーカーのどれか。
↓1

了解です。
次回はアサシン陣営を書いていきたいと思います。

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