佐久間まゆ「きっと永遠に」 (14)

「プロデューサーさん」
「……ああ。……はい、そうですね。久しぶり、です」
「久しぶり。……本当の本当に、久しぶり」
「……ああ」
「感じます。プロデューサーさんを。久しぶりの……ずっとずうっと感じられなかった、半年ぶりの、プロデューサーさんを」
「こうして正面から見つめ合って確かめるその姿も。お腹の奥へずんと響くようなその声も。胸を震わせ高鳴らせてくれるその匂いも」
「感じます。ぜんぶ、ぜんぶを」
「触れ合ってはいないけれど。貴方はそこへ座っていて、まゆはこの扉の前にいて。離れてはいるけれど」
「それでも感じられるほど。まゆの触れるその身体の、まゆに触れてくれるその身体の感触が、まるで感じられるように思えるほど」
「感じます。プロデューサーさんを。いっぱい、たくさん、ぜんぶぜんぶ」
「……うふ」
「うふ。……ええ、ごめんなさい」
「困ってしまいますよね。こんな、突然」
「突然現れて、突然語り出して」
「……突然。半年前、突然貴方の前から居なくなっておきながら」

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「分かります。プロデューサーさんが今、困惑していること」
「そして分かっています。プロデューサーさんがまゆに怒っていること」
「突然貴方から離れて。別の人にプロデュースをされるようになって。プロダクションでも仕事場でも、どんなところでも、貴方のことを避けて」
「そんなまゆを怒っていること」
「まゆが居なくなってとても悲しんでくれたこと。まゆへの、自分への、いろいろなたくさんが混ざり合ってぐちゃぐちゃになった苦しい想いに涙を流してくれたこと。まゆを思って、まゆのために、辛い想いを抱いてくれたこと」
「分かっています」
「プロデューサーさんには、まゆへ言いたいことが数えきれないほど有って。まゆはそれを言われなくちゃいけない、ってこと」
「ぜんぶ、ちゃんと、分かっています」
「でも」
「でも、ごめんなさい」
「それを受け止める前にどうか」
「お願いします。どうか、言わせてください」
「まゆが貴方から離れた理由。そして、そうして分かったこと。それを、どうか」
「それを言うために……伝えさせてもらうために、まゆは今、こうしてここに居るんです」
「貴方へ伝え、受け入れてはもらえなくても、受け取ってはもらえるように」

「……」
「……ああ、ありがとうございます」
「変わりませんね、プロデューサーさんは。今もあの頃のまま、まゆの真剣な想いを無下にせず受け入れてくれる」
「優しくて、温かくて、大きくて」
「あの頃のまま。……貴方はずっと、変わらず、そのままで」
「だから……ええ、安心しました」
「やっぱり貴方は運命の人」
「こんなに好きで、こんなにも大好きな」
「これほど恋しくて、これほどまで愛おしい」
「まゆの運命の人」
「貴方にとってのまゆはそうでないかもしれない。けれど、まゆにとっては、間違いなく貴方こそ」
「そう思える」
「まっすぐ。不安なんてなく。ただ一途にそう思えます」
「ええ、そうです」
「運命の人。プロデューサーさんがまゆのその人なんだと、不安なく。……今はもう、まっすぐに」
「……はい。今はもう」
「前とは違って……半年前のあの時とは違って、今はもう」
「……ええ、そうです。違うんです。半年前と今とでは。……今とは違って、半年前は、違ったんです」
「思えなかった。好きで、大好きで、愛していて。……でも、それでも、思えなかったんです」
「貴方のことを」
「好きで、大好きで、愛していて……でも不安でした。本当の本当なんだと信じられなくて、貴方のことを一途に思うことができなかったんです」

「今、まゆは信じられています」
「でもあの頃は……貴方と別れるその前までは、信じたくて……でも、今のように信じることができなかったんです」
「不安でした。今はこんなにも貴方のことを好きだけど、時を重ねた先でも、この想いは変わらずに抱いていられるのか」
「こんなにも恋しい貴方への熱も、いつか冷めてしまうんじゃないか。この恋の向く先が貴方以外を指してしまうんじゃないか」
「こんなにも愛おしい貴方のことを、まゆは、裏切らずにいられるのか。好きで居続けて、恋をし続けて、そうして愛し続けていられるのか」
「まゆは貴方を愛していていいのか」
「不安でした」
「……まゆは、貴方のことを愛しています。大好きで恋しくて……この想いは、この想いだけは他の誰にも負けない、そう思えるくらいに貴方のことを」
「あの頃も、今も」
「貴方と出逢ったあの時。まゆが今のまゆになれた、まゆが今のこのここまで来られた、そのきっかけの、運命の出逢い。あの出逢いの瞬間からずっと、ずっと、ずうっと」
「愛してきました」
「……でも、だからこそ」
「まゆは貴方を愛してきたけれど。運命の出逢い、あの瞬間からずっと貴方のことを愛してきたけれど。でも、だからこそ」
「貴方と、運命の出逢いを経て愛を抱いたまゆは、一目惚れだったから」

「だから、不安だったんです」
「一目惚れをしたまゆは……また、今度は別の誰かに一目惚れをしてしまうのかもしれない」
「今は貴方を愛せているけれど……でも、もしかしたら。一目惚れで貴方を愛するようになったまゆは、一目惚れで貴方以外を愛するようになってしまうのかもしれない」
「そう思って不安だったんです」
「好きだけど。恋しく、愛おしく思っているけれど、だからこそ不安だったんです」
「貴方へ抱く愛の永遠を信じられなくて……とても、とっても」
「……だから、離れました」
「だからまゆは、貴方から離れることに決めました」
「貴方の傍から離れて、貴方とは違う人のもとで過ごし、貴方と重ならないよう。まゆは、貴方の前から居なくなりました」
「確かめたかったんです」
「……プロデューサーさんへ良くない想いを与えてしまうのは分かっていました。きっと悲しんで、怒って……もし戻ってこれたとしても、自分の想いを確信できたとしても、その時、受け入れてはもらえないかもしれない、っていうそのことは」
「でも、それでも確かめたかった」
「そうしないと進めなかった。貴方を想って貴方を愛することも、貴方を想って貴方から身を引くことも。どうすることもできなくなってしまったから」
「裏切りたくないから裏切る。そんな、どうにもならないようなことなのだとは分かっていて……それでも、まゆは確かめたかったんです」
「貴方への想いを。恋を。愛を」

「……そうして、まゆは貴方から離れました」
「離れて半年間。貴方から触れられないように、貴方とは繋がらないように、貴方の居ない世界で過ごしてきました」
「スケジュールを確認して貴方とは重ならないよう。重なり合いそうな時には遠目から貴方を見て、気付かれてはしまわないよう。ずっと、半年間ずうっと、徹底的に」
「そして分かったんです」
「どうしようもなく分かりました。どうにもならないほど信じられました。どうしようもなくどうにもならないほど、この想いは、恋は、愛は、本物なんだと」
「そう分かったんです」
「離れれば薄く、弱くなって、消えてしまう。……そんなことはありませんでした」
「心の中へ浮かぶ貴方の姿は薄くなんてならなかった。焦がれる気持ちが弱まることなんて、溢れる愛おしさが消えることなんて、ありませんでした」
「この想いが誰かへ向くことなんてなかった。この恋は他へ向くことなく、貴方を向いてもっと強く。この愛は別へ向かうことなく、貴方だけを向いてずっと深く。この想いは、ずっともっと、貴方へだけ」
「……確かにまゆは惚れっぽい……どうしようもなく惚れっぽい、浮気性です。半年間貴方と離れて、そうして、分かりました」
「まゆは浮気性。そしてそんな浮気性なまゆは、この半年間何度も何度も繰り返しました」
「あの時貴方へ一目惚れしたように……まゆは、何度も何度も繰り返したんです」
「格好いい人がいました。優しい人がいました。求めてくれる人がいました。輝く舞台で共演した人。裏方で支えてくれた人。新しくまゆを導いてくれたプロデューサー。たくさんの、いろいろな素晴らしい人がいました」
「その中で、まゆは何度も浮気を……一目惚れを繰り返しました」
「何度も何度も。……ただ、一人の相手へ」
「貴方へ。プロデューサーさんへ」

「朝、目覚めてまず想うのは貴方のこと。貴方を心へ浮かべて、その度に好きになりました」
「昼、見付からないよう遠目から貴方を見ている毎秒ごと、その姿や仕草、感じる何もかもに恋を重ねました」
「夜、眠る前に想うのは貴方のこと。貴方の居なかった一日を振り返って、けれどそこへ貴方の姿を幻視して、布団に潜り込んだままなかなか眠れなくなったりしながら、愛を高く積み上げました」
「何度も浮気しました。何度も一目惚れをして、何度も……貴方を、好きになりました」
「貴方と一緒だった頃そうだったように。貴方と身体は離れていても、まゆは、毎日貴方のことを好きになり続けました」
「好きで、恋しくて、愛おしくて……まゆはずっと、まゆにはずっと、貴方でした」

「ずっとずっとずっと、まゆには、プロデューサーさん」
「半年間貴方と離れて、そうしてまゆは信じられるようになりました」
「今、ここで、こうして貴方と向き合って……まゆは、確信できました」
「プロデューサーさん。まゆには、貴方だけ」
「遠い未来でもまゆは貴方を好きでいられる。貴方へ恋を抱きながら、貴方へ愛を尽くしていられる」
「新しく好きになって、改めて恋をして、塗り重ねるように愛を深めて」
「そうしてきっと、まゆは、貴方のことを想えます」
「一つ一つ、一度一度の好きや恋、愛は永遠にできないかもしれないけれど。冷めて、終わってしまうのかもしれないけれど。でも、浮気性なまゆはきっと貴方を想い続けていられます」
「一度や二度じゃなく十度や百度。千度や万度。もっともっと重ねた先、数え切れない果てまで繰り返して……何度も貴方を好きになり続けて、そうして想い続けていられます」
「貴方のことを。他の誰よりも、別のどんな何よりも」
「ずっと、ずうっと、永遠にだって」
「……プロデューサーさん」
「だから、どうか、言わせてください」
「受け入れてはもらえないかもしれません。貴方を裏切って、悲しませて、苦しませたまゆのことを、貴方には」
「それでも構いません。受け入れてはもらえなくても。……でもどうか、言わせてください。そして叶うなら、受け入れられなくても、受け止めてほしい」
「まゆの想い。永遠だって信じられる、本当で本物の、貴方への想いを」
「……プロデューサーさん」
「好きです」
「誰よりも、貴方が好きです」
「恋しています」
「何よりも、貴方への恋に焦がれています」
「プロデューサーさん」
「まゆは、貴方のことが大好きです。まゆのぜんぶを尽くして、贈りたいと願えるほど」
「貴方はまゆの運命の人。唯一の、かけがえのない、大切な人」
「プロデューサーさん」
「誰よりも何よりも、まゆは……貴方のことを、愛しています」

以上になります。
お目汚し失礼いたしました。

高垣楓「特別な貴方との、特別で普通な日常」
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1475141046
及川雫「もぉーっとちゅー」
https://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1482304928
以前に書いたものなど。
もしよろしければどうぞ。

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