美希「百番目の朝に」 (19)

2年位前に書いた下書きが出てきたので供養。

投稿したような気もするので再投稿になるかも。

アイマスのいおみき(のようなもの)です。若干のR18要素があります。超短編。

許せる方は読んでくださるとうれしいです。

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――朝の陽ざしに目を覚ます。

いつも、朝はこうだ。気怠くて、目を開くのが億劫。

それでも私は開けなくちゃならない。

「ほら、もう朝よ。起きなさい」

起き上がり声をかけるけど反応は無い。これは予想通り。

「起きなさいって言ってるでしょ!」

問答無用で布団をめくり上げる。

「むぅ~、まだ寝てたいのぉ・・・・」

「駄目よ、プロデューサーが来るまでに仕事に行く準備をして布団も洗わなくちゃならないんだから!」

「でこちゃんは朝から元気なの・・・」

「当たり前でしょ、スーパーアイドル伊織ちゃんを舐めないの。それと誰がでこちゃんよ!」

ゆっくりと起き上がる美希にタオルを投げつけた。

「ほら、先にシャワー浴びて来なさい!私も浴びるんだから早くしなさいよね!」

「でこちゃん先いいよ~・・・・・」

「アンタがいない間に片付けるの!アンタがやると適当なんだから!」

「お嬢様のクセに庶民的なの」

「何日ここで生活してると思ってるのよ。もう慣れたわ。さっさといきなさい」

「ふぁ~~い」

私がここで暮らし始めてからもう90日ほど経つ。きっかけは、お父様とアイドル活動について喧嘩したことと、765プロに大きな宿泊部屋が出来たこと。

ここはレッスン場に併設してあるし、セキュリティーがしっかりした建物の中で安全性も高い。丁度レッスンしたいという欲求も高まっていたので、プロデューサーの反対を押し切って泊まることにした。

なぜかおまけの金髪が付いてきたけど。

「でこちゃんとはユニット組んでるし。・・・それに、少しでも追いつきたいの。でこちゃんがもっと先に行こうと頑張るならもっともーっと頑張らなくちゃいけないの!」

とは、そのころやる気を出した美希の言葉。スイッチが切り替わって覚醒したみたいだったわね、あの豹変ぶりは。

それで、美希もしょっちゅう泊まりに来る。そんな時は二人で遅くまでレッスンして、同じ布団で寝る。そんな生活もあと九日ほどだ。

アイドルアルティメイト決勝――私と美希の集大成。一年間、私たちが目指してきたステージ。それがもう目前に迫ってきている。

これを超えたら、一度私は自分の身の振り方についてしっかり考えて、お父様とも話し合おうと思う。

「でこちゃーん!ブラがないのー!」

「馬鹿ね、さっき自分で持って行ってたじゃない!どうせ籠の中にでもあるんじゃないの!」

「う~~~ん・・・・・。あっ、あったの!ありがとー!」

「はいはい、早くして頂戴」

美希がくると私は大きな妹か娘が出来たような錯覚に陥る。実際は、美希には大人っぽいところとか尊敬できるところも多いんだけど。

「ふぅ、さっぱりしたの!」

「そう?ご飯は作っておいたから、私がシャワー浴びてる間に食べてていいわ」

「ううん、待ってるの。一緒に食べるの!」

「そう?」

――――――――――――――――――

―――――――――

――――




私は一人想い人を待つ。ここで合流してから次の仕事へ向かう事になっている。

少しだけ冬の空気を孕んだ秋の日差しに目を細める。窒息しそうな青に心を奪われていると突然後ろから抱きつかれた。

「で~こちゃんっ!」

「遅いわよ、まったく。この伊織ちゃんを待たせるなんていい度胸ね!」

「でこちゃんは心が狭いって思うな」

「何よ、待たせる方が悪いんでしょ」

美希が可愛らしく頬を膨らませた。

「おいおい、伊織の言う通りだぞ。悪かった、連絡を入れればよかったな。ギリギリ間に合うかと思ったんだけどな」

「本当に使えないプロデューサーね!」

この人は私達二人の担当プロデューサー。こんなでもなんだかんだ優秀なのが気に喰わないわ!それに・・・

「それじゃ、次の現場までは俺の運転だ。行くぞ」

「はーいなの」

「さっさと行くわよ!」

美希はどうせ後部座席で寝るに決まってるわね。私はいつもの通り助手席かしら。

「でこちゃん、今日は美希と後ろに乗ろ?」

「いやよ、どうせアンタすぐ私を枕にするでしょうが」

「むぅ、嫌なの?」

「嫌って言ってるじゃないの」

「でこちゃんのケチ!」

プロデューサーが苦笑する。

「おい、またケンカか?仲良くしろよ?」

「分かってるわ。とにかく、私は前に乗るから。いいわね、美希」

「しょぼーん・・・・分かったの・・・・」

案の定、美希はすぐに寝てしまった。

・・・・・言うなら今しか無い。

「ねぇ、プロデューサー?」

「ん、なんだ伊織」

「・・・・プロデュース、ありがとう」

「どうしたいきなり?なんかあったのか?」

「担当、外れるかもしれないんでしょ?」

「・・・・・まいったな、誰に聞いたんだ?」

「昨日、小鳥と話してたじゃない。その時に聞いちゃったの。盗み聞きみたいになったのは悪いと思ってるわ。でも――」

「伊織」

今までにそう何度も聞いたことがある訳じゃない、プロデューサーの静かで強い声。私は思わず息を呑む。

「その話は、全部終わってからだ。伊織はプロだろう?余計なことは考えず、レッスンと仕事に励んでほしい」

「・・・・・・分かったわ」

面白い事に、私の声色はさっきの美希とよく似ていた。

今日の仕事を終えて美希とレッスン。あと九日、九日しかないのだ。今までの積み重ねを無駄にしないためにも、私たちは全力で練習する。

「こうした方が可愛いって思うな!」

「そこでアピールするのは良くないわ。その後にサビがあるんだから」

「そこに向けて盛り上げるの!」

「サビより盛り上がったら意味ないでしょ!元々盛り上がるタイプの曲じゃ無いじゃない!」

「でも、でこちゃんとミキならもっと皆を引き付けられるって思うな!ここでアピールしたってへっちゃらなの!でこちゃんはもっと上を目指したくないの?!」


思考が止まる。

頭を思いっきり殴られたかと思った。

それほど衝撃的だった。

この伊織ちゃんが、無難に収まろうとしているですって?

馬鹿言ってんじゃないわ!!


「でこちゃん、出来ないの?」


何言ってるの。そんな事――


「出来るに決まってるじゃない!スーパーアイドル伊織ちゃんにできないことなんて無いわ!」

美希の顔が太陽のように――いや、それよりもずっと明るく輝いた笑顔になる。

「うんうん、それでこそ美希のライバルなの!」


悔しいけど、美希はやっぱり凄い。私なんて、すぐに追い抜いて行っちゃうでしょうね。

いま勝っているのは私の方がほんの少し長く努力してるから。美希の才能はそんな事歯牙にもかけない。

でもね、だからこそ私はアンタを尊敬して、敵視して、そして愛おしく思う。

アンタにだけは、絶対に負けたくない。


「どしたの、ぼーっとして?」

「なんでもないわ。さ、続きやるわよ!」

「うん!!」

レッスンを終え、疲れた体に鞭打ち家事を行う。やっと終わったころにはもう夜中で、すぐに布団に入った。

疲れてはいるけれど、すぐに休めるわけではない。

美希と私はいつも同じ布団で寝ている。布団はいくつかあるけれど、美希がいつも潜り込んでくるので初めから一緒に寝るようになった。

私は美希に背を向けるようにしている。そうすると大抵、美希がすり寄ってくる。

今日もその通りだった。

「でこちゃん、起きてる?」

「・・・・」

私は答えない。初めてそうなった日から、これはある種の合図みたいな物だ。

「でこちゃんが寝てるなら、何してもいいよね?」

ずっと変わらない台詞。私は気付かないふりをする。

「・・・・・でこちゃん」

耳元で、甘くて、でもどこか突き刺すような、そんな息遣いが聞こえる。

「ふぅー」

「ひゃんっ」

思わず声をあげてしまった。いきなり息を吹きかけるなんて卑怯よ!

「あはっ、起きてたの?・・・ううん、でこちゃんは寝てるんだもん。でしょ?」

首筋に這うような感触。美希は、私の頸を舐めるのが好きだ。

「おいしそう・・・・食べちゃいたいの」

はむ、と甘噛みしてそのまま耳元まで上ってくる。

「ん・・・」

くすぐったさと、そして一抹の快感に声が漏れ出る。

美希の愛撫は執拗に続く。私の声を聴きながら、美希は自分の陰部を撫でている。

次第に、下品で蠱惑的な水音が大きくなってくる。

「・・・っ・・・ぁ・・はぁ・・んっ・・」

自然と私も息遣いが荒くなってきた。にじむ汗を、美希は丁寧に舐めとる。

「んっ、おいひいほ・・・・」

口をつけたまましゃべるので、私はくすぐったくて堪らない。

美希のからだがもぞもぞと動き始める。達しそうな兆候だ。

堪えきれなくなったかのように、美希は私の胸に手を伸ばしてきた。

パジャマ代わりのTシャツの下から優しく侵入し、私の乳房を探す。

「はぁ・・ぅ・・・ん・・・っくぅ・・あん」

美希が頂点の周りを手のひらで撫で回した。

だんだん固くなってくると、今度はじらすように指先で突き始める。

耐えきれず、私は嬌声をあげてしまう。

美希は嬉しそうに笑い声を漏らすと、もっと意地悪く、触るか触らないかのところで手を動かす。

あまりのじれったさに私は理性を失い、自分でも驚くほど甘い声が口から飛び出す。

突然、美希が乱暴に揉みしだき始める。私の体を貪りながら上に覆いかぶさる。

そして、顔を私の唇に近づける。遠慮なんてない。・・・いや、本当は遠慮しているのかも。私の行動が分かっているから躊躇いが無いだけで。

きれいな顔。私は軽く見とれながら、けれどしっかりと、人差し指を美希の唇に押し当てて微笑んだ。



そこからはもう、完全に美希のペースだ。

頸筋と胸をいじるだけで私を快楽に引きずり込むと、今度は赤ん坊のように胸をしゃぶりだす。

不意に、美希の手が私の秘部に触れる。

そこから発せられる湿った音は、いったい何なのだろう?

考える間もなく、私はただ溺れていく―――――

――朝の陽ざしに目を覚ます。

美希と・・・えっと、した朝はいつもこう。気怠くて、目を開くのが億劫。

それでも私は開けなくちゃならない。

「ほら、もう朝よ。起きなさい」

そう、普段通りの生ぬるい朝。




―――――――――――――

――――――――――

――――


仕事の合間に、ずっと考えていた。

プロデューサーは、嘘のつけない性格。

私を安心させたいなら『担当は変わらない』と言えばいいのに、明言を避けた。

つまり。

本当に、プロデューサーは私から離れてしまう。

プロデューサーとのやり取りで、不安は確信に変わった。

私のそばからいなくなる?

なら、私は――

アイドルアルティメイト決勝二日前。つまり、私達の共同生活もあと二日。

レッスンの出来も上々、負ける気は全然しないわね。

いつもより軽めのレッスンで終わりにして、体力を蓄える。

早めに入った布団の中で、美希がいつものようにすり寄って来た。

私の体を余すところなく舐る。

私はされるがまま、快楽に浸る。


いつもと同じように、美希が、私の唇に顔を近づける。

いつもと違って、私は目を閉じて美希を待つ。

大きく息を呑む音が聞こえる。そしてしばらくの空白。

美希が私の肩をつかむが、その感触はまるでフィルターにかかったように鈍い。



唇に、鋭敏な感覚。鈍かった五感が急速に戻っていく。

キスにしては妙に温くて不思議に思い、目を開ける。

そこに美希の顔は無く、美しい笑みを浮かべた美希が私の唇に指を押し当てていた。

「でこちゃん、駄目だよ。でこちゃんは寝てるの」

「寝てたらアンタを押し返したりも出来てなかった筈なんだけど?」

「そうかなぁ?」

照れたように笑う。

指って、こんなにぬるいのね。冷たくも熱くもない、残酷なぬるさ。美希は、いつもこの温度を感じていたの?

「でもね、でこちゃん。それは駄目、ルール違反。ミキ、抑えられなくなっちゃうから」

「・・・・・やめて」

「ミキはね、分かってるんだよ?ミキがでこちゃんの一番になれないこと。美希はプロデューサーにはなれないんだよ?」

「美希、私は・・・」

「言わないで。ミキは、でこちゃんのファーストキスまで奪いたくないの」

「待って、違うわ、美希」

「ミキはでこちゃんの一番の代わりにはなれないの。こんな卑怯なやり方で繋がろうとする、悪い子なの。だから、ダメなの」

「違う、私はただ」

ただ、の後に言葉が続かない。美希を失いたくなかっただけ?

ええ、そうね。あの人が去ってしまうなら、私は美希を捕まえておきたかった。プロデューサーの代わりを探していたの。私から離れない人が欲しかっただけ。美希じゃなくてもよかったのかもしれない。

本当に卑怯なのは、私の方ね。

「・・・・・でこちゃんは優しいの。こんなことしてたミキを受け入れてくれるなんて。でも、やっぱり甘え過ぎてたね。ごめんね、伊織」

「・・・・・・・・」

「あはっ、泣いてくれるの?やっぱりやさしいんだ」

「・・・・違うわ、ただただ自分が情けないだけ。優しくなんかないわ」

「ううん、優しい。だからミキは伊織が好きだったの」

「・・・・・・・・・ありがとう」

「だから、もう今日でおしまい。伊織が、自分の本当に好きな人を追いかけられるように」

「・・・・笑うのね、アンタは」

飛び切りの笑顔。女の私ですら目が離せなくなるほど、魅力的で、妖艶で、爛漫で、晴れやかな笑顔で、美希は私をまっすぐ見つめる。

「そうだよ、だってでこちゃんの幸せはミキの幸せだもん。だから、いつまでも意地張ってツンツンしてちゃだめなの」

そう言った美希の顔は、この世の誰よりも美しかった。

「アンタ、最高にいい女ね。悔しいけど」

「あはっ、あとで『振らなきゃよかった』って後悔させてやるの」

「あら、フラれたのは私だと思ってたわ」

「・・・・・・・そうかも?」

「ふふっ」

「あはっ」

二人で笑いあう。今までの気持ちすべてに片を付けるように。笑っている間、なぜかずっと晴れやかな気持ちだった。

美希は久しぶりに家へ帰るそうだ。ま、お互い一人で感傷に浸りたいでしょ。

「それじゃ、終電が来ちゃうからミキは帰るね」

「待ちなさいよ」

私は財布を投げつける。

「でこちゃん?ミキ、いしゃりょーなんて欲しくないよ?」

「馬鹿、私がそんな狡からい真似するわけないでしょ!タクシー代よ」

「でも、ミキは電車だよ?」

「今のアンタをそのまま返すわけには行かないわ。途中で襲われてもおかしくないのよ、アンタは」

「そうかなー?」

「泣きはらした目、挑戦的で露出の多い服。要素は十分よ。いいからその金使ってタクシー乗りなさい。もう呼んであるから」

「・・・うん、ありがとう、でこちゃん」

「でこちゃんって言うな!」

「あはは!じゃあね、でこちゃん!」

「もう、あんたって・・・・」

「でこちゃんはでこちゃんなの!!」

走り去る美希の後ろ姿を見る。金髪が街頭に照らされ綺麗に輝いている。夜空に煌めく星のように。


美希が無事タクシーに乗ったのを見届けて、私は宿泊部屋に戻る。

人が一人いないだけで、部屋の暖かさは全然違う。単純に半分になるわけじゃないのね。

「さむい・・・」

布団にもぐりこんで暖を取る。

そうすると、さっきまでいた美希の温もりが感じられるようだった。

たなびく金の髪を思い出す。柔らかな感触を思い出す。強い光を持つ目を思い出す。はじける笑顔を思い出す。寂しそうな、切なそうな表情を思い出す。

私はふと、頬をつたう涙に気が付いた。

「私・・・・それでもやっぱり、アンタの事もそれなりに、そうね、それなりには、好きだったみたいよ?」

「あんたじゃなくてもいいなんて、絶対にあり得ないんだから」

一人呟く。その声は部屋の中に響き渡り、やがて消えた。

エピローグ





「美希、久しぶり。お互い忙しくてなかなか会えないわね」

「ほんと、やになっちゃうの。まあ、好きでやってるんだけどね」

「どう?女優に転向しない?」

「それはでこちゃんの領分なの。私は歌手でいーの!」

「あらそう。昔はあんなにやる気なかったのに」

「そんな昔の話は止めてほしいな!」

「ふふ、冗談よ。じょーだん。でも、あんたには直接報告出来て良かったわ」

「もう知ってるけどね」

「それでも、よ。アンタの顔が見たかった」

「にしてもプロデューサーかぁ。でこちゃんは百発百中なの」

「一発外してるわよ」

「そうだっけ?」

「そういうアンタは相変わらずモテモテじゃないの」

「ええ~?あんな人たち迷惑なだけなの」

「あーあ、アンタってば本当に変わんないのね。ちょっとは大人っぽくなったかと思ってたのに」

「そういうでこちゃんは、昔よりずっと綺麗になったね」

「アンタもね。なんたって、失恋を乗り越えた女は綺麗になるのよ?」

「あはっ、じゃあ綺麗なのは当然って感じかな?」

「そうね、当然よ」

「うん、当然なの」






「伊織、結婚おめでとう。これから――」

「ありがとう、美希。アンタも――」



どうか幸せでありますように。

 

   END

終了です

お付き合いいただいた方、ありがとうございました

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