モノクマ「逆転ダンガンロンパ!」 最原「これで終わりだ!」 【ニューダンV3】 (373)

最原「性格逆転スイッチ?」
最原「逆転紅鮭団?」
赤松「逆転ラブアパート?」

を書いた者です。またチクチクやります。

ネタバレざっくざくなので絶対に未プレイの人はジロジロ見ないでくださいね!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1487280165

A long time ago in a schoool.far far away...

なんやかんやで才囚学園での共同生活にも慣れてきた逆転世界の超高校級たち。
エグイサルsから貰った愛の鍵により、最原以外の全員はそれぞれ絆を深め合うのだった……!

一方、通常世界においても似たようなことが起こっており、全員は通常最原の妄想に突入。通常赤松は妹扱い、通常入間は戦国時代のお姫様、通常アンジーはアンダーグラウンドの女帝扱いをされていた。

甘やかされる喜びを知った赤松は、ところかまわず最原に甘えたくなるという甚大な後遺症を抱えてしまう。他の二人もおおよそ同様。特に自覚のないフラグが最原を襲っていた……! 果たして通常最原は生き残ることができるのか?


赤松「お、お兄ちゃん……じゃなくって最原くん! だっこしてだっこ!」

入間「言ったじゃんかよ……俺様を一生守っていきたいってよ……嘘だとは言わせねーぞ……」モジモジ

アンジー「にゃははー! 神様が言ってるよー! 世界を支配しろ、終一と共にって!」

最原「殺される! 妄想の自分に殺されるーーー!」ウワァァァ!

百田「終一ーーーッ!」ガビーンッ



それはさておいて、この物語は登場人物の人格がざっくり反転している世界での物語なので、通常世界の物語は割愛させてもらうのだった。ソーリー! とぅいまてーん!

性格逆転まとめ

赤松:しっかり者のお姉ちゃん⇔グレてやさぐれまくったひねガキ
春川:不愛想で他者と壁を作る女性⇔コミュ力カンスト気味のうざいくらい朗らかな女の子
入間:エロ方面に下品かつ妙なところで初心⇔しずしずとした雰囲気の姉御
茶柱:男死は死ね⇔女死は死ね
百田:滅茶苦茶な言動を繰り返す熱血漢⇔理路整然とした冷静沈着の男
東条:滅私奉公で一種機械的なメイド⇔仕事はできるがどこか隙だらけのドジっ子
星:生きる意味を見失ったニヒルダンディ⇔悪に堕ちる。欲望のために
アンジー:神の敬虔なる従者⇔完全なる金の奴隷
夢野:おっとりマイペース口リ⇔感情丸出しスピード狂
真宮寺:主人格がデフォで是清⇔主人格がデフォで是清姉
王馬:有ること無いこと駄々流しの嘘吐き⇔落ち着き払った優雅なカリスマ
キーボ:人間に見下されることを嫌うロボット⇔ロボットが地球を支配する未来を夢見るディストピア脳
白銀:委員長タイプのオタク⇔孤高のスケバンかつオタク
天海:ミステリアスでクールな少年⇔鼻たれ小僧
ゴン太:心優しき昆虫博士⇔ダークネス街道まっしぐらのマッドドクター
最原:自分の才能に対して後ろ向きで謙虚⇔自分の才能に対して前向きで慢心気味

赤松(あの妄想と欲望の渦巻くラブアパート探索が終わって数日が経った)

赤松(色々と密度の濃い時間を過ごした私たちは、以前よりも関係を深めている)

赤松(それが仲良くなった、という意味かどうかは置いておくとして……)

赤松(とにかく私たちはきっと、前に進んでいるということだろう。うんうん)

赤松(さて、時間はそろそろ夕刻。特にやることもないので早めに食堂に来たんだけど……)

赤松「あれ。東条がいないな。珍しい」

最原「彼女だって四六時中、食堂にいるわけじゃないよ」

赤松「あ、最原。いたの」

最原「百田くんもね」

百田「……」

赤松「……でも春川がいないね。なんか全体的に集まりが悪くない?」

最原「うーん……やっぱり何かあるのかな。昨日から何人かが、茶柱さんを中心にバタバタしてるんだよね」

赤松「茶柱? あー、言われてみれば、なんか最近ずっとピリピリしてたかも」

赤松「バカなことしでかさないといいけど」


ドタバタガチャーーーンッ


東条「大変だよぅ、みんな! 茶柱さんと夢野さんが決闘するって!」

赤松「言ってる傍からコレだよ!」ガビーンッ!

校舎の外

茶柱「……決着を付けましょう、夢野さん。あなたを殺して、転子は外の世界に帰るんです!」ドドドドド

夢野「やれやれじゃわい。まさかこんなことになるとはのう」フゥ

赤松「ま、マジだ! なんか対峙してる! 茶柱から変なオーラ出てる!」

最原「あれ殺気かな。傍目から見ても夢野さんを本気で殺そうとしてることがわかるよ」

春川「あー。あれねー。なんか昨日茶柱が急に『リミッターを外してくれ』って言うから」ボリボリ

春川「急ごしらえだけど暗殺者の精神構造になるよう調整したんだよねー」ボリボリ

赤松「……何食べてるの」

春川「ポップコーン」ボリボリ

最原「観戦する気満々だね」

百田「よく見てみると、他の生徒も全員集まってるな。かと言って止める気配もないが」

赤松「えっ。待って待って。これどういうこと!? どういう状況かよくわかんないんだけど!?」

アンジー「アレだよー。今まで転子って秘密子にボロックソに負けてたんだよねー」

アンジー「勝負の内容はかくれんぼだったりおにごっこだったりと平和なものだったんだけどー」

アンジー「女子嫌いな転子には堪らなかったんだろうねー」

アンジー「ってことで、それらすべての鬱憤を晴らすために、秘密子に果たし状を送ったんだよー」

アンジー「秘密子も『まあたまには転子の方に付き合うか』って快く了承したんだよねー、最速で」

赤松「ぜ、全然気づかなかった……!」

アンジー「秘密裏にやってたわけじゃないからー、興味のある人間がどんどん集まってきてー」

アンジー「で、今はこんな感じ。観客席もちゃんとできてるよー。にゃははー!」

アンジー「……で、三人は秘密子と転子、どっちに賭ける? 下限はカジノメダル十枚だよ」

赤松「賭けまでやってんの!?」ガビーンッ

最原「茶柱さんに五十枚」

百田「夢野に三百枚」

赤松「参加すんなァッ!」ウガァ!

赤松「茶柱! 本気じゃないよね! いくらアンタでも夢野を殺したり――」

茶柱「いや普通に殺しますが」ウン

赤松「普通に!?」ガビーンッ

茶柱「……転子はなにも伊達で女死を嫌っているわけじゃありません」

茶柱「本気です。本気で女死の夢野さんのことが大嫌いです……!」

茶柱「でも、夢野さんはそんなこと関係なく、転子の心を掻き乱してくる!」

茶柱「この状況を放っておいたら、仮にこの学園から去ることができたとしても!」

茶柱「転子の心は、ずっとこの学園に囚われたままです!」

茶柱「体は生きているのに、心が置き去りなんて、そんなの死ぬよりも恐ろしい!」

茶柱「だから、すべてを清算する必要があるのです! 夢野さんを殺し、スッパリ綺麗にこの学園からお別れとしましょう!」

茶柱「だって……!」



茶柱「この学園生活、残るところあと二日じゃないですかッ!」

赤松「……ッ!」

茶柱「もう、チャンスは今しかないのです。邪魔をするというのなら男女関係なく殺します」

茶柱「特に赤松さんに至っては念入りに首を絞めて、舌骨が骨折するまで締めて殺します」

赤松「アンジー。私も賭けに乗る。茶柱が負ける方に百枚」

最原「わざわざ『夢野さんが勝つ方』じゃなくって『茶柱さんが負ける方』って言うあたり本当に捻くれてるよね」

赤松「うるさい」

赤松「……もう、好きにすればいい。でも流石に本当に夢野が死にそうになったら……」

最原「わかってるよ。命がけで止める」

百田「春川。お前は茶柱のセコンドだったってことでいいのか?」

春川「うん、そうだよダーリン。ちなみに夢野にもセコンドがついていて、そいつがなんと……」

赤松(春川が指でさしたのは、入間だった。彼女もポップコーンを食べている)

赤松「ていうかこのポップコーン、誰が用意したの?」

春川「事情をまだ読み込めてなかったころの東条」

東条「なんか……お祭りっぽい感じの料理を一通り作ってくれって言われて……」

東条「他にも焼きそばとかホットドッグとか綿あめとか、あと各種ソフトドリンクも揃えてるよ」

赤松「事情もわからないのにそこまでしちゃったの!?」

東条「ごめんなさい……なんか、ごめんなさい……」ズーン

赤松(コイツがこの学園生活の一番の犠牲者だよなぁ……今度なにかしら労おうかな……)

白銀「うーん、今回はコロシアイはなしって話だったんだがなぁ」

白銀「ま、いいか! 面白いし!」

赤松「ん? 何を言ってるの? 今回って?」

白銀「あ、やべ。忘れてくれ、言葉のあやだ」

赤松「?」

星「ふはははは! メロン味のかき氷のせいか! 天海、舌が緑色になってるぞ!」

天海「星くんもブルーハワイで真っ青だよー! あはは!」

最原「……僕たちも何か貰おうか。ホットドッグとコーラを」

百田「プァンタ」

赤松「……りんごジュースとホットドッグ」

東条「はぁい」

赤松「順応速度が格段に上がっている自分がイヤだ……」ズーン

最原「成長したと前向きに受け取ろう?」

王馬「それでは、本日のメインイベント! 夢野ちゃんバーサス茶柱ちゃん、やらせなし全力勝負を始めようと思うよ!」

王馬「審判兼実況は俺、王馬小吉が担当するよ!」

キーボ「ボクは解説に回らせてもらいます。今日だけは視力をチューンナップしてきたので」

キーボ「人類同士の醜い争いを全力で嘲らせてもらいましょうか!」

赤松「アイツらにあの席任せたの誰!?」ガビーンッ

東条「なんか……自主的にやってるみたい……」

王馬「それでは……両者向かい合ってー……」

王馬「始めェーーーッ!」カァンッ!

夢野「最初に言っておくぞ、転子よ。ウチは――」

茶柱「まっすぐ行ってぶっ飛ばす!」ドカァッ

夢野「んあああああああ!?」

王馬「おーっと、茶柱ちゃんのストレートパンチが夢野ちゃんの顔面の正中線にクリーンヒット!」

赤松「台詞くらい最後まで言わせなよーーーッ!」ガビーンッ!

夢野「う、うう……酷いぞ転子。いきなり殴るなんて……」

茶柱「遊びじゃないんです。当然でしょう」

夢野「転子のせいで……転子のせいで……」

夢野「顔が割れたぞ」ぱふあ

茶柱「」

白銀「寄生獣みたいに割れたーーーッ!?」ガーンッ!

赤松「グロッ!?」

夢野「これぞウチの持っている精神攻撃魔法の中で最高のもの。術式名『ぱふあ』じゃ!」ウネウネ

夢野「これを至近距離で見て失神しなかった者は未だかつていない!」ウネウネ

夢野「師匠からは『お前の可愛いイメージが削がれるから絶対にやるな』と禁呪扱いされておるがな!」ウネウネ

赤松「そのまんまの状態で喋るなーーーッ!」ヒィィ

東条「……」

東条「」フッ バターンッ

星「東条!? どうしたんだ東条! 東条ーーーッ!」

最原「至近距離じゃなくっても普通に気絶してる人いるけど」

茶柱「」

茶柱「……ハッ! こなくそーーーッ!」

夢野「チッ。流石にこれで決着とはいかんかったか」ウネウネ

入間「もういい加減に戻して頂戴。見てるこっちも大ダメージだから」

夢野「了解じゃ」シュルリ

茶柱「……ふっ。精神攻撃とはやりますね、夢野さん」

茶柱「ですが、ネオ合気道にも精神攻撃はあるんですよ! 師匠と共に考えたとっておきのものが!」

春川「……あっ。やっぱり急ごしらえだったからダメだったか」

赤松「え? 何が?」

獄原「……茶柱さんのオーラが消えてるね」ゴゴゴゴゴゴ

赤松「あっ、本当だ……」

真宮寺「それに彼女、さっきまでの追い詰められた表情とは打って変わって……」

赤松(……楽しそう、だ。すごく)

赤松(その後も夢野と茶柱の決闘は続いた)

茶柱「行きますよ! ネオ合気道、精神攻撃エディション! 転子百物語です!」

春川「やめてーーー! お願い、怖い話ならやめてーーー!」

春川「トイレに行けなくなっちゃうからーーー!」

最原「あれ。春川さん、ああいうの苦手?」

春川「私じゃなくってモモタンが!」

百田「!?」ガビーンッ!

茶柱「ハッ! そんな女死の戯言を聞いている暇はありません! 行きますよ夢野さん!」

夢野「来い! 転子!」

十分後

百田「」チーン

春川「嘘じゃなかったのにーーー!」ウワァァァアアン!

赤松「本当にオカルト話が苦手だったの!?」

最原「意外だな」

真宮寺「物理的に打ち合ってるわけじゃないのに、流れ弾がさっきから酷いわね」

茶柱「まだ転子の物語は十個残ってますよ!」

百田「」ブクブクブク

春川「もうやめてーーー!」ヒィィ

赤松(その後も精神攻撃だったり、物理攻撃だったりを繰り返し、そして……)

赤松(いつの間にか日が暮れた)

茶柱「はぁっ……はぁっ……!」

夢野「なあ転子よ。ウチらの関係は、解消せずともよいのではないか?」

茶柱「……ダメですよ。そんなの! 魅力的な提案だということは認めますが!」

茶柱「この学園を出たら、転子が夢野さんに会う理由なんてなくなるんです!」

茶柱「だから……夢野さんを、この世のどこからも消し去らないとダメなんですよッ!」

夢野「やれやれ……ちょっとお主の女子嫌いを甘く見てたわい」

夢野「……じゃあちょっと、本気を出すとするかの」パンッ

茶柱「はっ?」

王馬「おーっと! 夢野さんが魔法のステッキ的な何かを召喚したぞ!」

キーボ「ボクの超視力でも見切れませんでした。中々のマジックだと言えるでしょう」

夢野「魔法じゃ」

茶柱「まさか……今まで本気ではなかったと?」

夢野「今までコンディションを全力で整えていただけじゃ。これでも最速だったんじゃぞ?」

茶柱「ば、バケモノめ……!」

赤松「……えーっと、どういうこと?」

最原「これからワクワクする何かが始まるってことだよ! 楽しみだなぁ!」ワクワク

赤松(いや全然わからん)

茶柱「ならば……もうこちらも玉砕覚悟です!」

茶柱「ネオ合気道の最大奥義をお見せしましょう!」ゴゴゴゴゴゴ

夢野「よかろう! ウチも魔法のパワーを全開じゃ!」

夢野「師匠直伝のすべてを見せてやるわい!」パチンッ!

ヒューーーッ ドーーーンッ パラパラパラ

赤松「……花火?」

入間「あれ、私様が作ったヤツね。でも遠隔で打ち上げるようなリモコンとかは渡してなかったはずだけど」

春川「それこそ、魔法で打ち上げてるんじゃない?」

ドーンドーンドーンッ パラパラパラ

赤松「あんなにたくさん……」

最原「綺麗だなぁ」

夢野「……ウチの……勝ちじゃ!」ゴゴゴゴゴゴ

茶柱「……あなたの……負けです!」ゴゴゴゴゴゴ



星「……いよいよ最後の一撃を繰り出そうってときに水を差すようで悪いんだが」

獄原「アンジーさん、どこに行ったの?」ゴゴゴゴゴゴ

最原「……あっ」

赤松「えっ?」


アンジー以外全員「……あれっ?」

超高校級の美術部の研究教室

アンジー「にゃははー! 大成功ーーー! カジノコインの持ち逃げと、交換。すべて滞りなくー!」

アンジー「あとは脱出期限になるまでこの部屋で籠城を決め込めばオッケー!」

アンジー「扉のバリケードは何も知らない斬美と共に、事前に完璧に仕込んでおいたしー」

アンジー「もはやエグイサルでも破壊不可能だと断言するよー!」

アンジー「楽しみだなー。嬉しいなー。こんなに珍しいオブジェを手に入れることができたしー」

アンジー「いやまったく、本当に。決闘様様だよ! にゃははははは!」


ドカァァァァァンッ!


アンジー「……えっ」

茶柱「床の補強もしておくべきでしたね」ゴゴゴゴゴゴ

夢野「ウチと転子の勝負に水を差しおって……許さんぞ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

獄原「みんなのカジノコイン……どこ行ったの?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

アンジー「」

その後。中庭

夢野「……図らずも、会う理由ができたのではないか?」

茶柱「そうですね。結局、決着はつきませんでしたし」

茶柱「もっと修行を積んで、誰にも負けない転子になったら、そのときまた夢野さんに会いに行きます」

茶柱「……約束、ですよ……」ポロポロ

夢野「泣くでない。こっちも割と涙脆いんじゃぞ……ううっ」エグエグ

アンジー「いやー。よかったよかった。二人ともいい感じに着地してめでたしめでたしだねー」




アンジー「で、なんでアンジーはロケットに鎖で雁字搦めに縛り付けられているのかなー?」ダラダラダラ

夢野「正確にはロケットではなく、ウチと入間が共同開発したフィナーレファイアーワークスじゃ」

入間「要はとっておきの花火ね。空中でいい感じに爆発して、計算上では綺麗な大輪の花を咲かせるはずよ」

アンジー「だから何でそれにアンジーが縛り付けられてるのかって聞いてるんだよー!」ジタバタ

アンジー「流石に死んじゃわない!? コレ!」ガシャンガシャン

獄原「大丈夫だよ。この僕が作った、虫さんのフンとか鱗粉とか死骸とかを混ぜて作った軟膏があれば」ゴゴゴゴゴゴ

獄原「全身の大火傷は見る影もなく完治する……はず」ゴゴゴゴゴゴゴ

アンジー「はず!?」ガビーンッ

獄原「実験だから確証はないんだ」ゴゴゴゴゴゴ

入間「あ。落下に関しては安心して。耐火のパラシュートが自動的に発動する手筈になってるから」

入間「あなたをウェルダンにした後で」

アンジー「ウェルダンッ!?」ガビーンッ

赤松「ちょ、ちょっと待ってよみんな! 流石にこれはアンジーが可哀想なんじゃないかな!」

アンジー「か、楓---っ!」

最原「僕も同感かな。これはちょっと行き過ぎてるよ。おしおきとして」

アンジー「終一ーーーッ!」

赤松「第一、コイツがまともにカジノコインを運用すると信用してた私たちにもちょっとは非があるんだしさ!」

最原「アンジーさんを信用した僕たちがバカだったんだよ!」

最原「彼女の盗癖は周知の事実だったはずなのに! なんで信用したんだ、僕は!」クッ

アンジー「うーん、なんだろう。庇われているはずなのに微妙にうれしくないなー。むしろ悲しいなー」

獄原「……二人がそこまで言うんなら」フッ

獄原「代わりに行ってみる? 実験」ゴゴゴゴゴゴゴ

最原&赤松「すいませんでした」ズバッ

アンジー「切り捨てるの速ァ! もうちょっと粘ってよー!」ガビーンッ

アンジー「いやー! いやー! 死にたくない! 死にたくないよーーー!」ジタバタガシャガシャ

入間「アンジーさん。おちついて。落ち着いて耳を澄ませて」

入間「これは私様が独自に開発した、入力した文章を最原くんの声に変換して出力する装置よ」

最原の声『アンジーさん、愛してるよ』

アンジー「アンジーね……生まれ変わったら天使になりたいな……」キラキラ

アンジー「終一が好きになってくれるような……天使みたいな女の子に……」キラキラ

赤松「一瞬で浄化されたーーーッ!」ガビーンッ

白銀「鉄人兵団の女スパイみたいなこと言ってるぞ」

茶柱「この一途さだけは尊敬に値するんですけどねぇ」

入間「それじゃあ未練も断ち切ったところで行くわよ。すりー、つー、わーん」

『芸術は爆発だ!』

"超高校級の美術部"夜長アンジーおしおき


アンジー「ひでえぶすっ」ドパァァァァァァンッ

入間「たーまやー」

茶柱「かーぎやー」

赤松(こうして……今日もまた一日が終わる)

赤松(アンジーの犠牲と共に……)ズーン

赤松「……あと二日、か……」

白銀「しかしお前、よくこんな都合のいい発明品を持ってたな」

白銀「ん? 使用履歴が残ってる……」

最近の使用履歴『昨日:ブタが言葉をしゃべるなよ。
        昨日:下僕だっていう自覚はある?
        昨日:本当に恥ずかしい生物だな、キミは』

白銀「」

入間「あっ」

白銀「……い、入間……これ……」ガタガタ

入間「あなたは何も見ていない」

入間「いいわね?」ギンッ

白銀「アッハイ」

赤松「……」

赤松(心がここに囚われたままになるのは……死ぬよりも怖い、か……)

プロローグが終わったところで休憩します

赤松(決闘の後の片付けはおおよそ終わった)

赤松(もはや、祭りっぽい雰囲気が残っているのは、私たちの手にあるジュースや食べ物だけだ)

赤松(観客席に使っていたブルーシートに座りながら、適当にそれを消費する)

最原「あー……残念だったな。せめてアンジーさんのことは助けたかったんだけど」

赤松「自業自得だけどね」

赤松「でもまあ、いいんじゃない。最後の最後で救われてたみたいだしさ。アンタの言葉で」

最原「入間さんの発明品の言葉なんだけど……」

赤松「……ねえ。アンジーのこと、どう思ってるの?」

最原「いきなりだな」

赤松「そうでもないでしょ。今、二人っきりだし……」

最原「確かにみんなはちょっと離れた場所にいるけどさ……」

赤松「で、どうなの?」

最原「友人。本人にもずっとそう言ってる」

赤松「ああ、一応断ってはいるんだ。告白」

最原「あの盗癖はどうにかしてくれないとなー……彼女の死因、絶対アレになるよ」

最原「花火みたいに一瞬で消えちゃう女の子は好きじゃないんだ。怖いし」

赤松「……」

赤松「私は消えない、けど……」

最原「……なんだって?」

赤松「これ以上言わせる気? もう色々散々やってるんだから気付いてるでしょ?」

赤松「……キスまでしてるんだからさ」

最原「……」

赤松「……私のことはどう思ってるの?」

最原「本当に聞きたい? どんな答えだったとしても、今の関係は維持できなくなるよ」

最原「僕はもうちょっとさ、このままでもいいって気がするよ」

最原「って……まあ、なんだ」

最原「死ぬほど恥ずかしいだけなんだけど……」カァァ

赤松「ヘタレめ」

最原「否定できないけど酷いなぁ!」ガビーンッ

赤松(……ここで最原に詰め寄ることは、きっと簡単だけど……)

赤松(このままでもいいって言葉には、ちょっと賛成できる)

赤松「うん。それでいいと思う。私もちょっと怖いし」

赤松「……ピアノ弾きたくなってきた。もう行くね」

最原「うん! また明日!」ニコニコ

赤松(……もうすぐ、明日が来ない日がやってくるんだよな)

赤松(ダメだ。夜になるとどうしても悪い方向に考えちゃう。やめよ)

赤松と最原の最初の教室

白銀「……今更ノコノコ何の用だ? もうお前の出番はないとすら思ってたんだが」

白銀「なあ。モノクマ?」

モノクマ「酷いよ! あんまりだよ! こっちはずっと発注ミスに苦しんでたっていうのにさ!」

モノクマ「子供たちも白銀さんも勝手に紅鮭団を始めちゃうし!」

モノクマ「もうちょっと謝罪の言葉とか、再会の喜びとかないの!?」

白銀「知らん。そんなことは私の管轄外だ」

モノクマ「ひどっ!」

モノクマ「……まあいいや。ひとまず、明日になったらボクが参加したことを生徒たちに知らせるよ」

モノクマ「ついでに『路線変更』のお知らせもね!」

白銀「……あ? なんだと?」ピクッ

白銀「今回はほのぼのラブコメな方向で行くって話だったはずだが?」

白銀「まさか、今更コロシアイを始めようっていうのか。あれは既に没企画になってたはずだぞ」

モノクマ「もちろんそんなことしないよ。流石にそこまで空気読めないクマじゃないし」

モノクマ「ただ……一人の犠牲者も出ないっていうのは、それはそれで違うんじゃないかって思って」

モノクマ「だってこれ『ダンガンロンパ』だもん!」

白銀「ふざけるな。おまけモードと本編のギャップだってダンガンロンパの醍醐味だぞ」

モノクマ「もう本社からも許可は下りてるし、準備も完了してるんだ」

モノクマ「……大丈夫だよ。犠牲者は、一人だけで済むからさ」

モノクマ「全員生き残る都合のいいストーリーもあるかもよ? うぷぷ」

白銀「……こんのクマ……」


ポロロンッ

白銀「ん? ピアノ……」

白銀「……あ、しまった。モノクマを見失った。くそ……」

超高校級のピアニストの研究教室

赤松「……」ポロロンッ

白銀「この曲、なんだっけな。聞いたことはあるんだが」

赤松「うひぃ!」ボーンッ

赤松「……あ? し、白銀ッ!? なんでここに!?」

白銀「防音設備はしっかりしてるみたいだが、うっかりしてたな」

白銀「ドアが開けっぱなしになってたぞ。隣の教室くらいまでなら音が届く」

赤松「……あー。いいところだったのに台無しだよ」

白銀「それはある意味こっちの話でもあるんだが……」

赤松「なんか言った?」

白銀「なんでもない。そんなことより、最原となんかあったか?」

赤松「えっ」

白銀「なんか沈んでるように見えるんだが」

赤松「そこまでわかりやすいのか、私は……」

赤松「何もないよ。本当に。何も」

白銀「なるほど。何もないのが問題なんだな?」

赤松「……無神経すぎる……」ズーン

白銀「……はあ。ここまで言っても『出てけ』とか『関係ないでしょ』とか言わないあたり」

白銀「お前、本当変わったな。この学園に来てから、明らかに」

赤松「そう言われたいの? 別にそれでも構わないっていうか、そっちの方が明らかに私にとって都合がいいけど」

白銀「いや? そうは言ってない」

白銀「……はあ。実は私も色々あってな。ちょっと気分が落ち込んでるんだ」

白銀「ということで、最原と同じように、私にも何か曲を弾いてくれ。元気になるヤツ」ニコニコ

赤松「出てけ」イラッ

白銀「まあそう言わずに」

赤松「……はあ。一曲だけね」

白銀(……さて。私もどういうスタンスを取るか考えないとな)

白銀(モノクマに便乗するか、それとも……)

翌日 八時よりちょっと前

赤松「ふああ……眠い。一曲とか言って、どんどん弾かせるんだから。白銀のヤツ……」

最原「キミも割と他の人にピアノを弾かせるの、躊躇しなくなってきたよね」

赤松「まあ親とかよりは遥かにマシだし。本当うざくってさ」

赤松「あー……濃いコーヒーとか飲みたい。東条の作るヤツだけは本当に美味しいんだよね」


キーンコーンカーンコーン

????「えー! 校内放送! 校内放送!」

????「みなさん、大事なお知らせがあります! 全校集会を行いますので!」

????「何を抜きにしてでも体育館に集合してくださーい!」

赤松「……全校集会?」

最原「うん? 今の声は聞いたこと無かったな。エグイサルの呼び出しじゃないのかな」

最原「……まあいいや。何を抜きにしてでもって言われたら、朝食も抜きにせざるを得ない」

赤松「正気?」

最原「いやだって、エグイサルに潰されるのは赤松さんだってイヤでしょ」

赤松「……仕方ないな」

アンジー「おー! 二人が最後だねー!」ボロッ

赤松「ひぃっ!」ビクゥッ

アンジー「およ? どうしたの?」

赤松「どうしたの? はこっちの台詞だって! アンジー、アンタ大丈夫!?」

最原「全身ほぼくまなく包帯だらけで、車椅子に乗ってる……これ心配しない方が難しいんじゃ……」

獄原「大丈夫だよ。今日の昼には完治する予定だから」ゴゴゴゴゴゴゴ

入間「実験は成功よ。実際これでもかなり治ってる方なんだから」

入間「実験開始当初は焼肉臭がする黒い塊が蠢いてるみたいな状態だったのよ? 人間の形に戻ったのが不思議なくらい」

赤松「ねえそれ死んでない方がおかしくない!?」ガビーンッ

最原「流石は超高校級の昆虫博士だ! 思考回路は大分マッドネスだけど!」キラキラ

マジで? 残念だな……

ガシャガシャガシャコンッ

エグイサルs「おはっくまー!」

天海「あ。来たね。エグイサル」

真宮寺「毎度思うのだけれども、なんでサルなのに挨拶が『くま』なのかしら」

白銀(すまん。理由はあるんだが、発注ミスのせいで最後までモノクマーズは出せないんだ)

赤松「……で? 今度は何の用? またプレゼントか何か?」

エグイサルレッド「違うよ」

エグイサルレッド「……あれ。違ったよね? 違ったっけ?」

エグイサルピンク「もう! またお知らせの内容を忘れたのね!」

エグイサルブルー「今日は俺たちは特に何もしないんだぜ!」ヘルイェー!

エグイサルグリーン「……」

エグイサルイエロー「つーわけで、ワイらはただ突っ立ってるだけや。気にせんといて」

赤松「は? 突っ立ってるだけ?」

最原「……あの放送の声、僕たちには聞き覚えのないものだった」

最原「もしかして、今まで学園生活には関わってこなかった誰かが来るのかも」

????「そのとーりでございます!」

赤松「……えっ。今の声、どこから聞こえた?」

エグイサルs「お、お父ちゃーーーん!」

赤松「お父ちゃん?」

ビヨヨーンッ

モノクマ「……」

赤松「ク、クマ?」

モノクマ「クマじゃないよ! ボクは――」

天海「あれ。モノクマじゃん。懐かしいなー」

モノクマ「」

白銀「……は?」

白銀「……な、な……な……」ガタガタ

白銀「何ィーーーッ!? 知っているのか雷電!?」ガビーンッ

天海「天海だよ」

最原「ものくま……? なにそれ。天海くんの知り合い?」

天海「いや、一方的に知ってるだけだよ。だってあれゲームのキャラクターだもん」

天海「白銀さんなら知ってるよね。だってそういうの大好きでしょ?」

白銀「えっ、あっ、わ、はぁ!?」

白銀「……」

白銀(おいモノクマ! これどうなってるんだよ! というアイコンタクト!)ギロリ

モノクマ(いやいや知らない知らない知らない! ボクにもまったくわからないよ! というジェスチャー!)ブンブン

天海「うーん、どんなゲームだったのかは思い出せないんだけど……」

天海「とにかくアレがむかし俺がやったゲームのキャラだってことは間違いないよ」

天海「白銀さんなら詳しく知ってるんじゃないかな?」

白銀「あ、あの……その……」

白銀「……」

白銀「そうだな! アレはダンガンロンパに出てくるモノクマそのものだな!」キリッ

モノクマ(う、裏切りやがった!)ガビーンッ!

白銀(ことこの状況になったら仕方ないだろボケッ!)ウガァ!

白銀(ずっと疑問だった。ラブアパートの時点で最原に警戒されてたのはまだいい)

白銀(それに関しては『最原の探偵としての勘が何かを掴んだ』ということで納得できた)

白銀(だが天海に関してはわからなかった。本当に心当たりがなかった!)

白銀(だがたった今わかったぞ! コイツ……天海蘭太郎……!)

白銀(なんだかよくわからないが、記憶の操作に不備がある! 多分心のどこかで私が首謀者だと気づいてる!)

白銀(ならばもう迷うまい! 全力でモノクマを切り捨てる!)

モノクマ(こ、この裏切り者おおおおおおお!)ガビーンッ!

白銀「ダンガンロンパっていうのは……」

かくかくしかじかだんがんろんぱ

赤松「……こ、コロシアイ学園生活?」

最原「十六人の超高校級を集めての、極限のデスゲーム……」

東条「ま、待ってよぅ! そのモノクマが、なんで現実にいるの!? ま、まさか……!」ガタガタ

真宮寺「私たちに、コロシアイをさせようという気なのかしら?」

白銀(結局『ダンガンロンパについて』は全部バラしちまった……まあこの世界の真実については言ってないからいいよな)ズーン

モノクマ(良いわけないだろッ! ちょっとはマシだって程度だよ!)チクショー!

入間「でもさっきから何か様子が変よ。ワタワタしたり、アタフタしたり」

アンジー「一言も口を開いてないしねー」

モノクマ「あっ、えっと、そのっ……」

モノクマ「……」

モノクマ「がおー!」

赤松「ひっ」ビクリ

白銀(何してんだお前)

モノクマ(ヤケクソなんだよ! 察しろよ!)

赤松「……こ、コロシアイなんて……させないよ」ガタガタ

モノクマ「は?」

赤松「だ、だって……そんなのムカつくじゃん!」

赤松「今までさんざん『仲良くなれ』って煽っといて、急にコロシアイをしろだなんて!」

赤松「わたっ……私たちは、そんなことのために今まで頑張ってきたんじゃない!」

モノクマ「……」

モノクマ「うーん。何を勘違いしてるのか知らないけど」

モノクマ「こっちもそんなつもりは最初っからないんだよね」

赤松「え」

モノクマ「ごめんね、勘違いさせちゃって」

赤松「」

最原「赤松さん……格好よかったよ。格好だけは」

茶柱「盛大な勘違いだったようですがね」ニヤニヤ

赤松「忘れろッ!」カァァ

モノクマ「あー。出鼻を挫かれちゃったけど、もう一度」

モノクマ「ボクはモノクマ! この才囚学園の、学園長です!」

天海「知ってる」ウン

白銀(本当になんで知ってるんだよ……!)

モノクマ「オマエラに、いいお知らせと悪いお知らせがある! どちらから先に……」

モノクマ「わかった! いいお知らせからだね!」

キーボ「まだ誰も何も言ってませんが」

王馬「人の話を聞かないクマだなぁ」

モノクマ「なんと! オマエラは全員、卒業の要件を満たしました!」

モノクマ「全員、卒業の資格をゲットでーーーっす!」

赤松「……えっ?」

最原「今、なんて言った?」

百田「全員卒業の資格を手に入れた、と言ったんだ」

春川「……そっか。もうそんな時期なんだね。さみしいな」

百田「ここは喜ぶべきところだぞ」

春川「そうだけどさ」プイッ

モノクマ「では、次に悪いお知らせからです!」

モノクマ「全員、超簡単な卒業試験を受けてもらいます!」

赤松「卒業試験?」

モノクマ「そう、卒業試験」

モノクマ「内容は『ペイントシール争奪戦』! 十五枚しかない卒業許可シールを、全員で奪い合ってもらいます!」

モノクマ「ペイントシールを手に入れられなかった哀れな一人は、ここで人生を終えてもらいまーーーす!」ギンッ

赤松「……」

赤松「……は?」

ちょいと離席

星「どういうことだ? たった今、全員卒業資格を手に入れたと」

モノクマ「言った! 言ったよ! でもボクの個人的な趣味で、全員は卒業させないことに決めたの!」

モノクマ「でも良心的だよね。だって、普通のダンガンロンパなら脱出可能なのは一人か二人だったものを」

モノクマ「一人を除いた全員を卒業させてあげようっていうんだからさ!」ギランッ!

赤松「ま、待って……話が飛躍しすぎだよ」

赤松「超高校級にコロシアイをさせるマスコットが急に学園に現れて……」

赤松「卒業できるのは十五人までって宣言して……?」

赤松「……な、なにこれ。何が、どうなって……」グニャァ

最原「落ち着いて、赤松さん。まだ全員揃って脱出の目が消えたわけじゃない」

赤松「えっ」

茶柱「転子たちがこの学園での生活を比較的に楽観してた最大の理由があります」

茶柱「『最悪の場合、たった一人でも学園から脱出できればすべて解決』だからですよ」

夢野「そうじゃな。確かにこの学園は異常じゃ。救助が来る気配もない」

夢野「じゃが、いくらなんでも脱出した人間が『あそこに仲間が閉じ込められとるんじゃ!』と外で叫べば話は別じゃろう」

赤松「……あ、そ、そっか。そうだよね。じゃあ……」

モノクマ「……え? なんで? 助けなんて来るの?」

真宮寺「強がりかしら? 例えばあなたを作った組織が警察にまでコネがある巨大シンジケートだったとしてよ?」

東条「そうだよ! 私たちは仮にも超高校級! それが十五人!」

東条「残った一人は、絶対に! 何が何でも助ける!」

東条「私たちなら、それができるんだからっ!」

入間「珍しく熱くなってるわね。追い詰められると燃えるタイプ?」

白銀「お前じゃないんだからよ……」

入間「その話は終わりよ」

モノクマ「うーん、なんだろう。何故か認識にズレがあるなー……」

モノクマ「……あ。もしかしてさ。オマエラ、忘れてるんじゃない?」

モノクマ「この学園が、そもそも何のために作られたのかをさ!」

赤松「は?」

白銀「……!」

白銀(コイツ、まさか……アレを使う気か!?)

モノクマ「じゃじゃーん! 思い出しライトー!」

白銀「ッ!」

赤松「……思い出しライト?」

モノクマ「カチッとな」

カッ!

超高校級狩り 隕石群 カルト集団

希望希望希望希望希望希望希望希望

致死性ウイルス 逃れ得ぬ滅び ゴフェル計画

絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望


白銀「もっ……のくま! 貴様ァァァァァァァ!」

モノクマ「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぅー!」

赤松「……」

赤松「…………」

赤松「………………えっ」

赤松「な、なに今の……私の記憶……なの?」

最原「赤松さんも? ということは……」

入間「……思い出した……私たちは……この学園は……!」

アンジー「人類最後の十六人。ここは宇宙船。あの空は作り物……」

百田「待て。ということは、今の今まで救助が来なかったのは」

東条「訳のわからない頭のイカレた犯罪組織が根回ししてたわけじゃなくって……!」ガタガタ

星「地球が滅んでいたから……ってことか?」

モノクマ「いや、ちょっと違うよ。正確に言うと、この学園の外は地球じゃなくって」

モノクマ「オマエラが新しく暮らす、人類にとっての新天地だからなのでーす!」

白銀「テメェ……自分が何したかわかってるのか……!?」

モノクマ「……」

モノクマ「うぷぷ」

獄原「……じゃあ外に出ても助けは期待できないね。なにせ地球じゃないんだから」ゴゴゴゴゴゴゴ

赤松「な、なに言ってるの? そんなわけない、じゃん?」ガタガタ

赤松「こんなのっ! 真実なわけないじゃん!?」ダンッ

赤松「ねえ! 嘘だよね!? この外は地球だよね!? 私の家があって……お父さんとお母さんがいて……!」

春川「赤松、落ち着いて。泣き叫びたいのは私たちだって一緒だよ」

赤松「春川っ……!」

赤松「……ああ、ああああああ……!」

白銀「……ッ!」

白銀(このクマ……ボツ企画のギミックまで持ち出しやがって……!)

白銀(本気で路線変更なんか考えてやがるのか!?)

モノクマ「じゃ、外の世界の真実を知ったところで、改めて説明しましょう!」

モノクマ「この学園に残る最後の一人を決める『ペイントシール争奪戦』の説明をね!」

モノクマ「明日、つまりこの企画の最終日に、ペイントシールを十五人分、体育館に置いておきます」

モノクマ「あ、これのことね。ボクの赤い目と同じ柄と模様のヤツだよ」ピラッ

モノクマ「このシールには特殊な磁気があって、その磁気が『外に出れる人間』と『出れない人間』の判別を行うんだ」

モノクマ「つまり、このシールを張ってない人間は外行きエレベーターに乗れないんだよ」

キーボ「エレベーター?」

モノクマ「中庭にある赤い扉の先にあるよ。そのときになったら案内するね」

モノクマ「誰を置き去りにするかを決めるのは今からでもいいけど……」

モノクマ「まあ、意味ないんじゃないかな。だってシールがオマエラの手に届くのは、明日になってからだもん」

モノクマ「エレベーターは『シールを張った十五人のみが乗ったときに起動』する」

モノクマ「十四人以下だと動かない。シールを張ってない人がエレベーターに乗っててもダメ」

モノクマ「エレベーターの起動期限は、明日の日付が変わるまで……つまり夜十二時だよ」

モノクマ「それより後はもう、何をしてもエレベーターは動かなくなるので、キチンと覚えておいてね」

モノクマ「……簡単でしょ? 卒業試験」

赤松「……」

百田「待て。なぜこんなことをする必要がある?」

モノクマ「は?」

百田「今までの企画の趣旨はわかる。外の世界が本当に新天地ならな」

百田「『新しい星に辿り着いた生徒たちの絆を深めるレクリエーションプログラム』ってことで説明できる」

百田「だが、最後の最後になって『置き去りにする人間を一人選べ』だと?」

百田「何のためにそんなことをする必要があるんだ?」

モノクマ「……さあ? ボクは言わないよ。首謀者に聞けば?」

百田「なに?」

白銀「!」

モノクマ「実はオマエラ十六人の中に、ボクの仲間であり、この番組の首謀者でもある人物が隠れているのです!」

モノクマ「……一人ね! 実は二人いたんだ、って展開も燃えるけど、今回そういうのはナシだよ!」

モノクマ「置き去りにする人間のお勧めはそいつだよ。あとは十五人で外の世界でやっていけばいいんじゃないかな?」

白銀(……さっきの意趣返しのつもりか?)

モノクマ「うぷぷぷぷぷぷ」

白銀「チッ」

モノクマ「それじゃ、ばーい! ボクはこれから朝ごはんだから!」

モノクマ「……あ。子供たちも来なよ。オマエラは玉子かけご飯ね。ボクはキャビアかけご飯だけど!」

エグイサルレッド「凄い格差!」

エグイサルブルー「だけど凄いお父ちゃんっぽいぜ!」ヘルイェー!

モノクマ「じゃ、ばいばーい」

ドロンッ

エグイサルs「ばーいくまー!」

ガシャガシャガシャコンッ

夢野「……言うだけ言って、帰って行きおったの」

入間「首謀者……この中に、首謀者が……?」

東条「う、嘘だよ。そんなの、モノクマのデタラメに決まってるよぅ!」

東条「だってみんな、今の今まで仲良く頑張ってきたでしょ……?」ポロポロ

王馬「モノクマが首謀者探しを焚きつけた理由も不明だしね」

王馬「仮にいたとしても、突き止めることが正解だとは思えないよ」

赤松「ち、違うよ……首謀者だとか、なんだとか、それ以前に……!」

赤松「本当に、地球は滅んだの……?」

全員「……」

茶柱「転子たちは思い出したはずです」

茶柱「最初は揃ってゴフェル計画から逃げたけど、最終的には友人や家族の意思を背負って……自ら」

茶柱「……少なくとも、転子の場合はそうでした」

赤松「私だってそうだよ。でも、どうしても信じられないんだよッ!」

赤松「ねえ! 私だけじゃないでしょ!? どうしてみんな信じられるの!? こんなのおかしいって!」

最原「赤松さん……!」

入間「……そのことに関しては後回しにしましょう」

入間「遠くの誰かの心配より、直近の自分たちの危機よ」

キーボ「つまり?」

入間「誰を置き去りにするか……ってこと」

赤松「ッ!」

星「俺は御免だぜ。お前らのことは好きだが、自分のことが一番好きだからな」

キーボ「ボクも同様です。人類のために犠牲になる気は毛頭ありません」

入間「私様だってイヤよ」

東条「……ま、待ってよ。ねえ。置き去りなんて……」

東条「みんなで考えてみようよ! 誰も置き去りになんかしたくないよぅ!」

東条「そんなの……酷すぎる……!」

入間「じゃああなたが置き去りになってみる?」ギンッ

東条「……ふえっ?」

入間「あなた、メイドでしょう? 誰かに仕えるのが仕事でしょう?」ニコニコ

入間「なら、私様とみんなのために、この学園に残ってくれるのかしら?」ニコニコ

東条「な……何を言ってるの? 本気じゃないんでしょう、入間さん?」ガタガタ

入間「質問に答えなさい」

東条「……!」

赤松「入間、アンタ……!」

東条「い……イヤ、だよ……」ブルブル

東条「私は……メイドだから……みんなの意思を背負って、ここに来たから……」

東条「こんなところで死にたくない……死にたくない……よぅ……!」ブルブル

東条「ごめんなさいっ……ごめんなさい……!」

入間「あははははははっ! ほらね、あなただってそうでしょう!?」

入間「どれだけ綺麗ごと言ったって、全員出たいことには変わりないんだから――」

パァンッ

入間「痛っ」

茶柱「……もう、黙ってください。今度はグーですよ、グー」

入間「……ふん」


スタスタスタ


赤松(入間は白けたような顔で、体育館を出て行った……)

夢野「……転子。入間の言動が最悪だったのはわかる。が、やりすぎじゃぞ。余計に空気が悪くなった」

茶柱「知りません。ムカつく憎まれ口を叩く女死も、それを真に受けてメソメソする女死も死ねばいいんです」

夢野「転子ッ! 今は滅多なことを言うでない!」

茶柱「……」


スタスタスタ


最原「……茶柱さんも行っちゃったね」

東条「……」

春川「東条、大丈夫?」

東条「……あ? 何? みんな? 私が、どうかしたの?」

春川「どうもこうも、顔が真っ青だけど」

東条「……そうだ。朝ごはん作らなくっちゃ。今日のバターロールは出来が最高で……」

星「いい。休め。そのくらい自分たちでできる」

東条「私はメイドだから……」

赤松「東条ッ!」

東条「……!」

赤松「……もう、いいよ。痛々しくて見てられない」

東条「……」

東条「なんで? なんで、こうなっちゃったの?」ポロポロ

東条「昨日まで、みんな、あんなに……仲良かったのに……!」ポロポロ

天海「……俺が部屋まで送るよー。今は一人になった方がいいって」

アンジー「同感だねー。流石に今の斬美に何かさせるほど、アンジーも人でなしじゃないしー」

獄原「多少は人でなしだって自覚はあるんだね」ゴゴゴゴゴゴ

百田「お前もお前で非人道的だがな……」

赤松「……」

最原「……」

赤松「……流石のアンタも、はしゃぐ空気じゃないか」

最原「……やることができたかもしれない。色々と」

赤松「手伝うけど?」

最原「いや、一人でやる」

最原「……誰も置き去りになんかしない」


スタスタスタ


赤松「最原……」

赤松(……さっきの東条の言葉が、ずっと頭にこびりついていた)

赤松(『なんでこうなったったの』か……)

赤松(……多分この場の誰に聞いても、答えは返ってこない)

赤松(私たちの絆って、こんなに脆かったのかな……)

百田「……春川。いい機会かもしれない。ちょっと話がある」

春川「ん? なに、モモタン。私にできることなら、なんでもやるけど?」

春川「……なんなら、残ったっていいよ。モモタンに命令されれば、後悔はないし」

百田「ふざけるな」ベシッ

春川「あいたっ」

百田「……ずっと怖くて言えなかったことがあるんだ」

百田「頼むから、茶化さずに聞いてくれ」

百田「いや……そんな空気じゃなくなるだろうな。本当に酷い秘密だから」

春川「……モモタン?」

百田「……二人きりになれる場所に移動しよう」

春川「う、うん」

赤松(みんな……バラバラになっていく)

赤松(まるで昨日までの全てが嘘だったように)

ちょっと休憩します

学園の外


最原(首謀者探し、か……)

最原(あの十六人の中に首謀者がいるのだとしたら、その人がなにかヒントを持っている可能性が高い)

最原(今のところ怪しいのは二人。ダンガンロンパの存在を知っていた天海くんと、白銀さん)

最原(先に可能性の低い方から潰そう。天海くんの方が首謀者である可能性は低い、と思う)

最原(勘だけど)

最原「東条さんを部屋まで送るって言ってたな。じゃあ寄宿舎周辺で待ち伏せをして……」

夢野「待てェェェェェェ! 入間ァァァァーーーッ!」シュバババババババッ!

入間「……」ブオオオオオオ

最原「セグウェイに乗ってる入間さんを夢野さんが追跡してるなー……」

最原「……えっ。なんで? ていうか夢野さん足速ッ!」ガビーンッ!

夢野「ハッ! 最原ァ! そいつを止めろ! 止めるんじゃあーーーッ!」シュバババババッ!

最原「えええーーーッ!? いや無理だよ! これ生身で止めたら普通に事故……」

夢野「つべこべ言わずやるんじゃあ! そいつには話がある!」

入間「どきなさい、最原くん! じゃないと本当に轢くわよ!」ブオオオオ!

最原「ええっ、あっ、あっ……」

最原「……」

最原「入間さん、ごめん!」ダッ

入間「あっ」


ドンガラガッシャーーーンッ!

夢野「はぁっ……はぁっ……よくやってくれたぞ、最原」

最原(入間さんと夢野さんでは、どちらかというと信用できるのは夢野さんだったから)

最原(あくまでも人間的に、だけど)

最原(うう、それにしても体中が痛い。いろんなところをぶつけたみたいだ……)イテテ

モニュンッ

最原「ん?」

入間「……」カァァ

夢野「ただ、今すぐ入間から離れた方がいいと思うぞ?」

夢野「ぶつかった拍子に色んなところがはだけてる入間と、くんずほぐれつしてるようにしか見えんからの」

夢野「右手に至っては、揉みしだいておるしのう」ハァ

最原「……胸を?」ダラダラダラ

夢野「胸を。しかも下着をくぐる形で。つまり生で」ウン

最原「」

最原「ごごごごご、ごめん入間さん! 今すぐどき、うぼあっ!」

入間「はぁっ……はぁっ……んっ」ギュウッ

最原「あれっ!? なんで!? もっと絡みつかれたぞ! ていうか抱き着かれてるぞ! なんで!?」ジタバタ

夢野「あ、いかん。後遺症が出たようじゃ」

入間「ああっ……ご主人様あ……ついに、もっと深いところまで美兎を愛してくださるのですね……」トローン

入間「美兎は嬉しさで、体中が熱くて、溶けてしまいそうです……!」ハァハァ

最原「入間さーーーん!? ごめん、どっかに頭ぶつけちゃった!?」

最原「あの入間さんがこんな露骨にエロいこと言うはずないもんね!? ね!?」

夢野(いやぁ、意外とコイツ、エロエロなんじゃが……)

夢野(はあ。正気に戻るまで何分かかるかのう)

三分かかりました

入間「……」ズーン

最原「わ、わかってるよ入間さん。さっきまでは頭をぶつけて意識が混濁してただけだもんね」

最原「さっきまでのことはちゃんと忘れるから」

入間「それはそれで寂しいのだけれども……」

夢野「さてと。やっとこさ本題に入れるの、入間」

入間「……夢野さん」

最原「あ、そういえば夢野さんはどうして入間さんを追ってたの?」

夢野「決まっておろうが! 東条に謝らせるためじゃ!」

最原「!」

入間「私様は謝らないわよ。何も間違ったことは言っていないもの」

夢野「確かにそうじゃな! じゃが言い方があんまりじゃ! 東条を追い詰めるような……あんなのは……」

夢野「あんまりじゃろ……!」

入間「……」

最原「ねえ入間さん。キミのさっきの言動はさ、単純に怖かったんじゃない?」

入間「は?」

最原「『東条さんなら置き去りに自ら志願するんじゃないか』って不安で、怖くてさ……」

最原「だから、つい八つ当たりみたいな口調になっちゃったんじゃない?」

夢野「……なんじゃと?」

入間「愉快な仮説ね。本当にあなた、探偵なのかしら」

最原「人の心は流石に覗けない。でもだからこそ、僕はそう信じたいよ」

最原「入間さんを善人だとは思わないけど、でも悪人だとも思えないからさ……」

夢野「……そうか」

夢野「……すまんの、入間。どうもウチには最原のような気遣いが足りなかったようじゃ」

夢野「追い回してすまなかった」

入間「……やめなさい。勝手な想像で私様を語らないで」

最原「……東条さんに謝りたくなったらさ、僕に相談してよ」

最原「ちょっとくらいは力になれるから」

入間「……あなたの力なんて、いらないわよ。バカね」

夢野「んあ?」

入間「後で謝ればいいんでしょう? そのくらい、天才の私様なら余裕よ」

夢野「……そうか」

最原「これで一件落着だね。じゃあ、僕はこの辺で……」


ガチャーーーンッ

百田「待て春川! 話を最後まで聞け!」

春川「もういいよ! もう何も聞きたくない! 嫌ぁ!」

百田「春川……!」

春川「酷いよモモタン……そんな大事なこと、なんで今まで……!」

春川「……う、うわああああん! モモタンのばかああああああ!」ダッ

百田「……」

百田「……」ズーンッ

最原「え、えーっ……校舎から誰かが出てきたと思ったら……」

夢野「今日は本当に厄日かもしれんの。あの二人が喧嘩とは」ヤレヤレ

最原(事件、多発しすぎ。しかもどの事件も全然楽しくない。どうしよう)ズーン

今日はもう寝ます!
続きは明日の朝か昼に!

最原「も、百田くん。大丈夫? 本当に珍しいね、春川さんと喧嘩なんて……」

百田「世界の終わりだ」ズーン

最原「シャレになってない落ち込み方してる!」ガビーンッ

夢野「実際地球滅んでおるからの」

入間「……これは……もしかすると、あなた」

入間「この最悪のタイミングで、言ったの? あの秘密を」

百田「……」

最原「あの秘密?」

夢野「って、なんじゃ?」

入間「……説明するのなら私様の研究教室に来た方が速いわね」

夢野「速さイズパワー! イエーイ! イエーイ!」

入間「……い、イエーイ?」

最原「慣れればこのノリも楽しいよ、入間さん」

百田「……」

超高校級の発明家の研究教室

入間「さて。まずはあの日のことを整理しましょう。最原くん」

最原「あの日?」

入間「あなたたちが共謀し、春川さんが百田くんに告白したあの日よ。あなた視点でいいから振り返ってちょうだい」

最原「えーっと、わかった」

最原「前日に打ち合わせをしていた僕は、春川さんと朝に作戦を考えた」

最原「そのときに夢野さんと合流して、彼女の協力も得て、午後の三時に百田くんを呼び出すことにしたんだ」

最原「春川さんはかなりテンパってて、僕は離れたところからカンペで支援するつもりだったんだけど」

最原「そのときに入間さんに『赤松さんがマンホールの中で倒れている』と言われて、その場を一目散に離れた」

夢野「ちなみに、赤松流血事件の第一発見者は、ウチとかくれんぼをしていた星じゃな」

夢野「ヤツの話では、食堂にいた東条を引っ張り出して、赤松の容態を確認させたらしいの」

入間「そのとき東条さんにお茶を淹れさせていた私様も事情を知ったの」

入間「私様はあのとき、赤松さんと一番仲がよかった最原くんを連れだした方がいい、と思った」

最原「結局、赤松さんの流血事件は解決。したんだけど……」

最原「その後、元の場所に戻ってきてみれば、もう既に告白は終わっていて……」

最原「次の日からは春川さんは、現在に至るまで百田くんにベッタリするようになったんだ」

最原「これが僕の視点での『あの日』の話。でも、ここに何か秘密があるんだね?」

百田「……」

入間「流石は超高校級の探偵。でも一つ、抜けがあったわよ」

最原「抜け?」

入間「あなたは春川さんに支援するために、彼女にあるものを取り付けたでしょう?」

最原「……」

最原「探偵七つ道具の一つ、盗聴器。それが?」

入間「あのとき私様はあなたのことをまったく信用していなかった」

入間「私様の発明品を変なことに使われたら困ると思って、盗聴器にある仕掛けを施しておいたのよ」

入間「傍受した声を最原くんの受信機だけではなく、この研究教室の受信機にも発信する仕掛け」

入間「そして、それを録音する仕掛けよ」

百田「そうか……入間。お前はだから知っていたんだな。あの日の真実を……」

最原「教えてよ入間さん! あの日、一体本当は何があったの!?」

夢野「速さイズパワーじゃ! さっさと教えんかい!」

入間「えーっと、待ってちょうだい。今、あのときの会話を再生するから」

春川『……ひっひっふー。ひっひっふー……』

最原『どんだけ動揺してんのさ……水でも飲む?』

春川『い、いい……大丈夫。大丈夫だから……』

最原『じゃあ僕はあそこのコンテナの裏にいるから。できるだけカンペでサポートするよ』

春川『う、うん! 本当にお願いね! あなたが頼りだからね!』

最原『任されたよ』


最原「あ。これだね。懐かしいなぁ。そんなに前の話じゃなかったはずだけど」

夢野「初々しいのう。今となっては見る影もないが」

百田『おう。春川。待たせたな』


最原「で、このタイミングで入間さんが登場」

最原「僕たちは一目散に、その場から離れたんだ」

入間「そして問題はここから先。これが、告白の真実よ」

春川『あわばばばっ……も、百田っ。あの、今日はちょっと言いたいことがあって……!』

春川『……あれ。い、いなくなってる! なんで!?』

最原「あ、やっぱりカンペ係がいなくなったことでちょっとダメージ入ってたみたいだな」

夢野「仕方あるまい。あのときは緊急事態だったんじゃ」

春川『落ち着け、私。速さは力。速さは力』

夢野「おお。その通りじゃぞ春川! 頑張れ!」

春川『も、百田っ! 好き! 付き合って!』

夢野「おお! 言った! なんじゃ、告白は成功しておったのではないか!」

春川『……よっし! じゃあ今日から私たち恋人同士だから! モモタンって呼ぶね!』

最原「ん?」

夢野「んあ?」

百田「……気付いたか?」

百田「俺はあのとき、春川に告白されるとは思ってもみなかった」

百田「だから恥ずかしいことに、口がガッチガチに固まってたんだ」

百田「ついでに言えば、首を縦にも、横にも振ってない」

夢野「……ま、待てい。そ、それって。それってつまり……」ガタガタ



百田「俺は春川の告白に返事をしていない。受けもしてないし、断りもしてないし、保留すらしてないんだ」

夢野&最原「」

夢野「あの日のウチ死ねーーーッ!」ダァンッ!

最原「きゅ、急にどうしたの!?」

夢野「う、ウチのせいじゃ……ウチが速さの素晴らしさを説きすぎたせいで、春川は……!」ワナワナ

入間「付き合ってもいなければ、返事に保留すらしていない男に対して恋人面してアタックする痛い女に大変身ね」

夢野「い、言い方ァッ! 言い方があんまりじゃあ! うわああああああ!」orz

最原「そうだよ入間さん! 流石に春川さんの親友として、それは看過できないよ!」

夢野「最原……!」

最原「仮に恋人相手だったとしても自殺ものの痛さだったよ! あのアタックは!」

夢野「親友に対して容赦なさすぎじゃろッ!」ガビーンッ!

夢野「いや、それよりもじゃ! これがあの日の秘密の正体だったとすると!」

夢野「百田! おぬし、バラしたのか!? こんな残酷な真実を!?」

夢野「この最悪のタイミングで!?」

夢野「……あ、い、いかん。ちょっと黒い感情が止まらんぞ。リバース夢野に大変身じゃ」ユラァ

最原「お、落ち着いてよ夢野さん! 百田くんにだって何か事情があったんだ!」

夢野「知らんわァ! そんな事情があったとしても、一回ぶっ殺すべきじゃろう! この最低野郎をなァ!」ガァ!

百田「そうだ……俺は最低野郎だ……」ズーン

最原「百田くんも落ち込んでないで反論してよ! 夢野さんに殺される前に!」

百田「最悪なタイミングだからこそいいと思ったんだ」

百田「俺は……返事をするつもりだったからな」ゴソゴソ

夢野「……んあ? それは指輪か?」

百田「この前、メダルでガチャを回したら出てきた。今はこんなものしか用意できなかったが……」

百田「いずれ、ここから出たら、もっとちゃんとしたものを用意したい」

最原「……そうか。OKするつもりだったんだね? 春川さんの告白に」

夢野「なんじゃと?」

最原「でも、告白を今更受けるとなればどうしても話さざるを得なかった」

最原「『あの日の告白が、まだ成立していない』ってことを」

百田「そうだ。そして、この指輪をチラリとも見せていない内に、ショックを受けた春川は……」

百田「……」ズーン

夢野「ぶ、不器用すぎじゃろ……」

最原「……もうこうなったら全力で春川さんを追いかけるしかないと思う」

最原「今まで追いかけられてた分さ」

夢野「そうじゃな。流石にこれはウチらでも、どうにもできんわい」

夢野「……途中で投げ出したらそれこそ許さんぞ。ウチも春川の友じゃからな」

百田「わかってる」

最原「協力してあげたいところだけど、僕はまだやることがあるんだ」

最原「ごめんね。でも春川さんを見かけたら声くらいはかけておくよ」

百田「頼む」

入間「私様は遠巻きからニヤニヤ眺めてるわね」

百田「そうか」

夢野「意味なさすぎる……」

中庭

夢野「くそ……今日だけで衝撃の真実がドンドン出てくるわい」

夢野「ウチも段々とバテてきたぞ」

最原「僕もだよ。でも立ち止まるわけにはいかない」

最原「明日になったら全部終わっちゃうんだ」

夢野「……なあ最原。ウチらは全員でここを出られるんじゃよな?」

夢野「そんな未来を信じてもいいんじゃよな?」

最原「……」

夢野「すまん。おぬしだって辛いんじゃったな。忘れてくれ」

最原「僕は……」

白銀「諦めるのはまだ早いぞ。なあ、最原」

最原「!」

夢野「……白銀?」

白銀「悪いな、夢野。ちょっと最原を借りていくぞ」

最原「白銀さん……やっぱり、キミは……」

夢野「?」

白銀「良いものを見せてやる。私が自らな」ニヤァ

白銀「図書室に行くぞ」

最原「……」

ちょっと休憩

昼 食堂

アンジー「治ったーーーッ!」ワーイ

獄原「予後は良好。というより完全に前と同様。リハビリの必要なし」ゴゴゴゴゴゴゴ

赤松「本当に凄いね……あのケガが完璧に治っちゃった」

獄原「火傷は空気との接触面積が多いから感染症のリスクが高い」ゴゴゴゴゴゴ

獄原「だから治すのだったら早めに、かつ徹底的に治すよ」ゴゴゴゴゴゴゴ

赤松「……結局、この終盤になってもゴン太のことはよくわからないな」

赤松「厳しかったり、優しかったり」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤松「……ねえ。アンジー。治ったのならちょっと付き合ってくれない?」

アンジー「お? 祝いの品でもくれるのかなー? 楽しみだなー」ニコニコ

超高校級の美術部の研究教室

アンジー「……今、なんて?」

赤松「私が残る。だからアンジー、お願いだから私に協力して!」

アンジー「……」

アンジー「マジで?」



ほぼ同時刻。図書室の中の隠し部屋


白銀「お前には感づかれていたみたいだがな。改めて自己紹介だ」

白銀「私の名前は白銀つむぎ。"超高校級の模倣犯"にして、この学園生活の首謀者」

白銀「取引だ。私の持っている情報をお前に渡すから、お前がこの学園の置き去りになれ」

最原「いいよ!」グッ

白銀「軽ッ」

side 赤松

アンジー「……ちょっと待ってー。楓は今の状況をわかってるのかなー?」

アンジー「外は地球じゃない。だから、アンジーたちが外に出ても助けは期待できない」

アンジー「当然ながら文明もない。この宇宙船を物理的に破壊することも不可能」

アンジー「美兎だって一から文明を作るには相当時間がかかるはずだよー?」

アンジー「つまり、この学園に残るとなったら、本当に一生出られない可能性の方が高いんだよー?」

アンジー「……ねぇ。本当にわかってる?」

赤松「……」

赤松「もう……うんざりなんだよ」

アンジー「?」

赤松「だって外が地球じゃないのなら、私の友達も家族も、過去もなにもかもなくなってるんだよね?」

赤松「そんな場所で生きていける気がしないよ……」

赤松「私は……もう何も考えたくない。このまま、学園でずっと暮らす」

赤松「そう……決めたんだよ……」ポロポロ

アンジー「嘘はよくないな」

赤松「!」

アンジー「ねえ。確かにそれもあるかもしれないけどさ、本当の理由は……」

アンジー「この前まで仲良くしてたみんなが、今頃になってギスギスするこの状況がイヤだからなんだよね?」

赤松「……」

赤松「そんなわけないじゃん。仲良しなんて反吐が出るよ」

アンジー「……そう。まあいいや。楓がそうしたいっていうんならアンジーは万々歳だよ」

アンジー「外の世界で終一とずっと一緒。これ以上ないくらいのハッピーエンドだからねー!」

赤松「……好きにすれば?」

アンジー(決意が結構ガチ目だね……仕方ない、か)

アンジー「具体的にどう協力すればいい?」

赤松「ペイントシールの偽造をお願い。明日になったらそれを本物のペイントシールに紛れ込ませて……」

赤松「『モノクマが配る枚数を間違えたお陰で、全員に脱出の目途が立った』って嘘で丸め込む」

赤松「もちろん、偽物のペイントシールを使うのは私だよ」

アンジー「……随分信用してくれるんだねー。モノクマが見せた『だけ』のアレを偽造できると思うなんて」

アンジー「まあできるけど」ウン

アンジー「でも、当然だけど効果までは偽造できないよ。磁気とかはアンジーの専門外」

アンジー「色合いと形『だけ』だよ。完璧に偽造できるのは」

赤松「もちろんそれで構わない」

アンジー「早速作業を開始したいから、出て行ってくれるかなー?」

アンジー「……ごめんね。こんな協力しかできなくって」

赤松「謝らなくっていいよ。気持ち悪いから」

アンジー「……これでもアンジー、楓のことも本当に好きだったんだよ」

アンジー「それだけは忘れないでね」

赤松「……」


スタスタスタ ガチャンッ


アンジー「……」

最原side

白銀「私は首謀者だが、さっきモノクマを派手に切り捨てたからな」

白銀「もうモノチッチの監視映像の閲覧すら不可能だ」

白銀「だが……権限のすべてを凍結されたわけじゃない」

最原「どういうこと?」

白銀「モノクマの発言の意図を変える。ヤツは『置き去りにはこの学園で人生を終えてもらう』と言ったが」

白銀「その発言の意味を『そのまま』の意味から『残ったヤツは死んでもらう』って意味に変える」

最原「え。同じじゃない?」

白銀「いや? 微妙に違う。具体的に言えばこうだ」

白銀「この学園に残った人間の末路を『才囚学園もろともに爆破される』ってものに変えるんだよ」

最原「それ僕が死んじゃうじゃないかッ!」ガビーンッ!

白銀「話は最後まで聞け。明日になったらこの学園の至るところに『三日後』に時限セットされた爆弾を張り付ける」

白銀「……果ての壁にもな」ニヤリ

最原「……え? あれも破壊するの?」

白銀「そうだ。果ての壁が爆破されたら、あとは『出口』まで突っ走ればいい」

白銀「確実にあるはずだ。発注ミスではない、正常なモノクマが侵入してきた入口が、ドームのどこかに」

白銀「おそらく北の方にある……と思う」

最原「断言できないの!?」

白銀「……すまん。ここまでだ。あとは賭けてみるしかない」

白銀「で? どうする? 乗るか、そるか」

最原「乗る」

白銀「だから軽いって!」

最原「全員で脱出する方法がそれしかないのなら、この賭けに乗るしかない」

最原「それに、僕は信じてるんだ。白銀さんのことを」

最原「この学園で生活した、みんなのことをさ!」

白銀「……そうか。だが問題は……」

最原「逃げ切る前に僕が爆破される可能性と、どうやって置き去りになるかってところだね」

最原「さっきはあんなギスギスしてたけど、この騒ぎが落ち着いてきたら、脱出権の奪い合いより酷いことが起こる」

白銀「脱出権の譲り合い……だろ?」

最原「もちろん首謀者の特定に走る可能性もあるけど……」

最原「ここまで極限に追い詰められたら『自分だけが助かりたくない』って考える人間は少数ながらも絶対に出てくる」

最原「……そういう人間を大人しくさせる策が必要だ」

最原「何かしら、考えてみるよ」

白銀「ああ。任せた」

白銀「……念のため言っておくが、私が首謀者だってことをみんなに明かすのはナシだぞ」

白銀「お前ほど、みんなのことを信用しているわけじゃない。置き去りにされるのは御免だ」

白銀「……すまない」

最原「いいんだよ。それで。じゃあ早速行動を始めるから」


スタスタスタ


白銀「……」

白銀(……上手く引っかかってくれたな。私の嘘に)

白銀(悪いが、ドームのどこにも穴はない。おそらくモノクマが入ってきた時点で厳重に閉ざされてるだろう)

白銀(……私は絶対に外に出なければならないんだ)

最原(……ん? 発注ミスでない正常なモノクマ?)

最原(待てよ。外の世界が新天地なら、それを誰がこの学園に侵入させたんだ?)

最原(ていうか、発注する業者がいないんじゃ……)

最原「……」

最原「ま、いいか! 白銀さんを信じよう!」

数時間後 食堂

赤松「ん」

最原「あ」

赤松&最原「……」

赤松(……コイツと過ごせるのも)

最原(明日で最後……かな)

最原(いや、僕は脱出を諦めたわけじゃない。残ったあと、絶対に外に出てやる)

赤松「……」

赤松「なんで黙ってんの?」

最原「あっ? ああ、いや……」

最原「……食堂には、僕たちだけだね」

赤松「そうだね。東条が休んでるから仕方ないかも。みんなそれぞれ適当に食事を済ませてるみたいだしさ」

最原「……そっか」

赤松「……あのさ。最原。明日はデートしない?」

最原「え?」

赤松「こんなときだけどさ、なんか……一緒にいたくって。ダメ?」

最原「いいよ!」グッ

赤松「軽ッ!」

夜時間 中庭

王馬「……そしてみんなは思い思いに、最後の日を迎えるのでした……」

王馬「にしし……この物語はどんな結末を迎えるのかな?」

キーボ「さて。ボクは人類のことは大嫌いですが……」

キーボ「明日が楽しみですね。誰が置き去りになるのか」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴ

獄原(アンジーさんの姿がさっきから見えない……)ゴゴゴゴゴゴゴ

獄原(研究教室にも来る気配がなかった。いいことのはずだけど……)ゴゴゴゴゴゴ

獄原「胸騒ぎがする……」ゴゴゴゴゴゴゴ

休憩します

翌日 朝七時半

赤松(さてと……早めにアンジーと合流して色々確認がしたいんだけど)

赤松「……研究教室にいないな」

赤松(妙だ。ここじゃないならどこで作業するっていうんだろう)

赤松(……用心して、寄宿舎の私室で作ってるとか?)

赤松「……仕方ない。ぶっつけ本番になるけど、そろそろ体育館に行こう」

赤松「ダミーのペイントシールを混ぜるんなら、あのタイミングしかない……!」

朝八時 体育館

モノクマ「よーっし! 全員そろったね! それじゃあ、ペイントシールはここにポンと十五人分おいておくから!」

モノクマ「じゃ、ボクはこれから色々とやることがあるから、これで!」

キーボ「え? これだけですか?」

モノクマ「急な用事が入っちゃったんだよ! 爆弾の……失礼。なんでもない」

モノクマ「じゃ、ばーい!」

ドロン

百田「……なんだ? 昨日は散々俺たちのことを苛め抜いたくせに、今日はこれだけか?」

王馬「逆にイヤな予感がするなぁ。で」

赤松(私たちの目の前にある学生机。その上には、ポンと本当に何でもないように、十五枚のペイントシールが重ねて置かれていた)

赤松(よかった。これなら一見して、何枚あるのかわからない)

赤松(問題はこれにどうやって偽のシールを入れて、それを私が張るかだけど……)

アンジー「おー! これが噂のペイントシール!」タッ

赤松「あ、アンジー?」

アンジー「よし。これで全員分回収っと」ガッ

アンジー「それじゃあみんな! これはアンジーが責任をもって、全部燃やしてくるね!」キラーンッ

アンジー「ぐっばいならー」ダッ

赤松「……」

全員「何ィーーーッ!?」ガビーンッ!

東条「だ、ダメだって! 一人だけ残すのは確かに論外だと思うけど!」アタフタ

星「全員でこの学園で仲良く暮らすのもおそらく正解じゃない。少なくとも俺はイヤだ」

星「春川! アイツを止めるぞ!」

春川「……」ヌボーンッ

星「……どうしたんだコイツ」

王馬「ありゃー。なんか知らないけど完全に魂が抜けちゃってるね」

百田「……」ズーン

最原「も、百田くん。後でちゃんと……ね?」

百田「ああ。わかってる。だが今は……!」

獄原「許さないよ……アンジーさん」ゴゴゴゴゴゴゴ

アンジー「にゃははー! 捕まえられるもんなら捕まえてみ――」

アンジー「ぶへっ!」コケッ

真宮寺「あ、転んだ」

バサバサッ

茶柱「あ、その拍子にお金とシールをぶちまけたみたいですね」

アンジー「あわっ……あわわわわ……諭吉さんが……諭吉さんが……」セッセッ

白銀「おい。シールにわき目も降らずに諭吉さん集めてるぞ」

天海「もうただの紙束なのにねー」

アンジー「違うってー! 諭吉さんは世界でも有数の偽造が難しい通貨なんだよー!」

アンジー「いわば芸術品! これは一枚残さず全部新世界に持っていくからねー!」セッセッ

獄原「それはさておいて」ガシッ

アンジー「あっ」

獄原「捕まえた……」ゴゴゴゴゴゴゴ

アンジー「あっ……」ダラダラダラ

一分後

アンジー「……」ビクンビクンッ

獄原「そのまま動かないでね。ヒルさんがお腹いっぱいになるまで……」ゴゴゴゴゴゴ

入間「その虫かごの中身、ヒルだったのね……」

最原「あー、まったくもう……札束のせいでシールを拾い集めるの大変だよ」

赤松「えっと……十五枚集めればいいんだよね?」

最原「いや。アンジーさんが未練がましく一枚持ってるから、あれを除けば十四枚あるはずだよ」

赤松(多分アレが偽造シールだよね……ということは、ぶちまけられているシールの数は……多分)

三分後

最原「……なんでぶちまけられたシールが十五枚あるの?」

赤松「えっ」

赤松(なんて、言ってみたりして)

赤松(この嘘を真実に……作戦開始)

アンジー「……」ニヤリ

獄原「……ん。なんか上機嫌だね。アンジーさん」ゴゴゴゴゴゴ

アンジー「気のせいじゃないかなー?」

獄原「……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

東条「えっ……なんで? だってモノクマは……」

真宮寺「確かに言ってたわね。ペイントシールは十五枚だけだって」

真宮寺「なのにおかしいわね。それが今、キッチリ人数分揃っている」

東条「……あっ! も、もしかして今までのは全部、モノクマの嘘だったりして!」

天海「いやー。それだとおかしい点が一つあるよね」

天海「あのドSクマのこと、今までのことが全部嘘だった場合は……」

白銀「そうだな。間違いなく『実は全部うっそでしたー! やーい! 引っかかったなー!』とか言って嘲笑うだろうな」

白銀「それがないということは……」

赤松「配り間違い……ってこと?」

キーボ「なんだ。拍子抜けですね。あなたたちの醜い争いが見られると期待したのですが」

入間「はいはい」

赤松「じゃ、じゃあこれで! みんな揃って外に出られるんだよね!?」

百田「……その前にアンジーに質問がある」

アンジー「およ?」

百田「お前、偽造したか?」

赤松「!」ギクリ

アンジー「……」

最原「そうだよね。僕がこのシールの枚数を確認したのは、アンジーさんが触った後だ」

最原「そのときにアンジーさんが偽造したシールを、この中に混ぜていたとしたら……」

最原「そっちの方が、明らかに自然な推理だよね」

赤松「……」ドキドキドキ

アンジー「……やだなー。アンジーがそんなことをして、何のメリットがあるっていうの?」

最原「それを確かめるためにも、一つ提案がある。ひとまずシールは僕が全部預かったままにしておくとして」

最原「アンジーさん。キミの研究教室を見せてくれないか?」

最原「偽造シールを作ったのなら……痕跡が残っているはずだからね」ギンッ

赤松「……」

赤松(大丈夫。研究教室で作業をしていたわけじゃないことは、私がキチンと確認している)

赤松(あとはなんとしてでも嘘を吐きとおすんだ!)

超高校級の美術部の研究教室

最原「……確かに偽造シールを作った痕跡はなかったね」

東条「じゃ、じゃあやっぱり……モノクマが配り間違えたんじゃ?」

赤松「……」

アンジー「きっとそうだよー! だって、アンジーは偽造シールなんて作ってないからねー!」キラキラ

最原「……いや。まだ確認していない場所がある」

真宮寺「それは?」

最原「アンジーさんの私室だよ」

赤松「!」

最原「そこを確認したら、今度こそ僕の推理は終わりだ」

最原「納得しづらいけど……モノクマが配り間違えた、としか考えられないよ」

赤松(……アンジー。大丈夫なの?)

アンジー「……」ニコニコ

アンジーの私室

最原「……ない」

赤松「え?」

最原「アンジーさんがシールを偽造した痕跡が、まったくない」

東条「じゃ、じゃあ。やっぱり」パァァ

夢野「モノクマが配るシールの数を間違えたんじゃな!? そうなんじゃな!?」

最原「……うーん……信じがたいけど……」

最原「……」

赤松「もういいじゃん、最原。たまには間違えることもあるって」

赤松「ね?」ニコニコ

最原「……なんか、いつもより上機嫌じゃない? 赤松さん」

赤松「え、そ、そう?」ドキリ

最原「……まあ、そう、なのかな……」

最原「……はあ。ごめん、アンジーさん。疑ったりして」

アンジー「にゃははー! いいんだよー! だってアンジーどう考えても怪しいもんねー!」キラキラ

赤松(よ、よかった! 騙しきれた!)

赤松(……でも、ここで作ったわけでもないのなら、アンジーはどこで……)

赤松(……いいや! もうそんなことは! これで……これで……)

赤松(――お別れだね、最原)

最原「……うん。わかった。そういうことにするよ」

最原「ごめん、みんな。じゃあシールを全員に配るね?」

アンジー「アンジーはずっと持ってたこれを使うからいらないよー!」ニコニコ

最原「わかった」

赤松(あとは最原から貰ったシールと、アンジーの持っているシールを交換するだけ……)

赤松(……ありがとう、アンジー)

アンジー「……」

女子トイレ

アンジー「はい、楓。注文の品だよー」

赤松「ありがとうアンジー! 本当にドキドキしたぁ!」

赤松「凄いじゃん! 超高校級の探偵を騙しきったんだよ、私たち!」

アンジー「あははー、不安から解放されたせいでやたら声でかくなってるねー」

赤松「おっと、こんなところですべてを台無しにするところだった」

赤松「でも、本当に凄いよアンジー! このシール、本物と本当に遜色ないじゃん!」

アンジー「……」

アンジー「にゃははー! 当然だよー! 諭吉に愛された超高校級の美術部だからねー!」

赤松「……じゃあ、私はこれで。もう行くね。これから最原とデートなんだ」

アンジー「そか。うん。いいんじゃないかなー?」

アンジー「……あ。そうだ。じゃあ最後に一つだけ」

アンジー「ぎゅううううううう」

赤松「えっ」

赤松(笑顔のアンジーに急に抱きしめられた)

アンジー「ごめんねー。アンジーは、全部知ってたのに。こんな形での協力になっちゃって」

赤松「……いいんだよ。私が望んだことなんだからさ」

アンジー「じゃ、行ってらっしゃい」パッ

アンジー「後悔しないようにねー」

赤松「うん!」ダッ

アンジー「……」

ちょっと休憩

校舎の外

赤松「最原! お待たせ!」

最原「ん。赤松さん」

赤松「ねえ! ねえ! モノクマのミスでみんな出られるようになったんだしさ!」

赤松「これでもう、何も気にする必要ないよね! そうなんだよね!」

最原「うーん……まあ、外が地球ではないってこと以外はね」

赤松「……あっ、そうだった……ね」

最原「ごめん。水を差すつもりじゃなかったんだけど」

赤松「……いいんだよ。そんなの、もう」

赤松「最原と一緒にいられれば、それでさ……」

最原「赤松さん……」

赤松「でさ! どこに行こうか! 私の研究教室でも、最原の研究教室でもいいよ!」

赤松「……あの、なんなら、最原の部屋でも……」カァァ

最原「なんかテンション高いね……」

赤松(ヤケクソ気味になってることは否定できないけど……)

赤松(もう、どうでもいい。何もかも。全部)

赤松(今が幸せ。みんなも外に出れる。これだけで、私は……)

最原「……ちょっと中庭に行ってみない? エレベーターのことが気になってさ」

赤松「うん、じゃあそうしよっか」


中庭


赤い扉の前にある看板『解放は夜時間になってから!』

最原「ということは……僕たちは夜十時になったらここに来なきゃいけないんだね」

最原「そして日付が変わる前にエレベーターで脱出……」

赤松「色んなことがあったよね……なんかもう、二度とこんなことしたくないけどさ」

赤松「いざ離れるってなると、ちょっと寂しいかも」

最原「……」

赤松「……どうしたの最原。さっきから浮かない顔してるけど」

最原「いや……どうしてもシールの枚数のことが気になってさ」

赤松「もういいじゃん、そんなの! じゃあ次はどこに行こうか」ニコニコ

最原「……」

赤松(……やっぱり探偵だなぁ。どことなく感づいているのかな)

赤松(でも、最後なんだからさ。お願いだから、こっちのことを見てほしいな)

赤松(なんて、言えるわけないけど。ここまで来てバラしたら、全部台無しだし……)

食堂

入間「東条さん、お茶のお代わりを頂けるかしら?」

東条「はぁい、ただいまー」ニコニコ

星「……ふっ。東条の復活、か」

夢野「……やはり、みんな仲良しが一番じゃな」

天海「みんなすっかり元通りだねー」

天海「……」

夢野「どうしたんじゃ? 天海」

天海「……なんか、ずっと頭に引っかかってることがあって……」

天海「本当にアンジーさんは偽造をしなかったのかな」

夢野「なんじゃ? アンジーの部屋も、研究教室も、どっちも探偵の最原が確認したじゃろ」

夢野「それだけじゃなく、ウチら十六人全員で確認したんじゃ。間違いなく痕跡はなかったぞ?」

天海「……でもずっと首の裏のチリチリする感覚が取れないんだー」

夢野「仕方ないのう。そんな天海には癒しの魔法をプレゼントじゃ」

夢野「ほら」ぱふあ

天海「」

天海「」フッ バターンッ

夢野「あ、使う呪文を間違えたわい」ウネウネ

東条「」フッ バターンッ

星「東条ーーーッ!」ガビーンッ

入間「金輪際その魔法は使わないで」

超高校級のピアニストの研究教室

赤松「……」ポロロンッ

最原「……相変わらず綺麗な音だなぁ」

赤松「ふふ。ありがとう」ニコニコ

最原「……昨日の反動かな? 赤松さん、今日はよく笑うね」

赤松「え? そう?」

赤松「……うーん、自覚はないんだけどな」

赤松(いい加減にしないとバレるかな……?)

最原「うん、でも、理由はどうあれさ」

最原「やっぱり好きだな。赤松さんの笑顔」

赤松「……」

赤松「は、恥ずかしいこと言わないでよ。ばか」カァァ

最原「あ、いつもの赤松さんだ」

赤松「あー、もうっ!」

最原「……もう、いいか。クヨクヨ考えるのはやめにしよう」

最原「デートを続けようか、赤松さん!」ニコニコ

赤松「……うん」

某所

王馬「……やっぱりそうか」

キーボ「何故こんな場所に『痕跡』が……まさか……」

王馬「ああ。間違いない。やっぱりアンジーちゃんはペイントシールの偽造をしていたんだ」

王馬「そして、その偽造シールを持っているのは……」

王馬「……」

キーボ「……どうでもいい話です。ボクは脱出できますしね」

王馬「……俺も、この事実を公表するほど野暮じゃない。さっさとどこかに退散しようか」

キーボ「ムカつきはしますが、ボクたちにやれることはありませんしね」

キーボ「……」

晩御飯作ってきます!

超高校級の探偵の研究教室

赤松「はあ!? 春川と百田が付き合ってなかった!? 嘘でしょ!?」

最原「なんか、そうだったみたい。原因は夢野さんの言葉と、僕の不在だ」

最原「タイミング悪く、赤松さんの流血事件が起こってたからね」

赤松「う。ごめん」

最原「……」

最原「ねえ。本当にどうしたの? なんか素直すぎない?」

赤松「え?」

最原「確かに今日が最終日だけどさ……だけど、それだけでこんな……」

赤松「……」

赤松「やめて。お願いだから、詮索しないで」

最原「え」

赤松「……最後の最後になったら、キチンと言うから……だから、お願い」

最原「……ごめん。なにか変なこと聞いたみたいだね」

最原「さっきの話の続きをしようか」ニコニコ

赤松(……今のでバレた、かもなぁ……ダメだなぁ、私……)

赤松(アンジーは上手くやったのになぁ……)

赤松(私たちはそれからも学園の色んなところで遊び倒して……)

赤松(とにかく一生分くらい笑って、悔いが残らないようにして……)

赤松(……そして、時間が来た)



夜十時

最原「……赤い扉が開いてる」

茶柱「十時きっかりになった途端に開いたんですよ。ぎぎぎぃーって」

真宮寺「……いよいよ、なのね。この狂った学園生活の終わり」

東条「この先に何が待っていたとしても、私、もう怖くないよ」

東条「だって! みんな揃って出られるんだもん! こんなに頼もしいことないよ!」ニコニコ

王馬「……」

キーボ「……」

星「……なんだ? 何人か、浮かない顔をしているヤツがいるな」

王馬「……エレベーターに乗ろう。そこで真実が明らかになるはずだよ」

星「?」

百田「……結局、今の今までになるまで捕まえることができなかったな。春川」

春川「……」

百田「外に出たら、話がある。もう逃げるな」

百田「……頼むから……」

春川「……」

春川「うん。わかった。もう終わりにしよう」

春川「……終わりにして……」ポロポロ

夢野「春川……!」

入間「行きましょう。多分、エレベーターは扉の中よ」

赤い扉内

獄原「これが……外行きエレベーター?」ゴゴゴゴゴゴ

天海「そういえばさー。マンホールの中にあった、あの出口って書かれた看板の向こうはなんだったんだろうね」

白銀「ダミーだ。多分な」

白銀「ここがきっと、本当の出口……」

アンジー「……よしっ! それじゃあ、乗り込むよー!」

赤松「……」

赤松(みんなが意気揚々と、あるいは沈んだ顔でエレベーターに乗り込んでいく)

赤松(最後に残ったのは……)

赤松「……」

最原「……」

東条「あ、あれ? なんで二人は来ないの?」

東条「大丈夫だよぅ! だって、みんな揃ってここから出られるんだからさ!」ニコニコ

赤松「……ごめん」

東条「えっ」

赤松「ごめん、みんな……私、嘘吐いてた……本当は……!」ポロポロ

最原「赤松さん……」

最原「知ってた」

赤松「はっ?」

最原「アンジーさん、お願いね」

アンジー「あいさー」


ドンッ

赤松「……?」

赤松(最原に突き飛ばされた私は、エレベーターの中に倒れこむように入り)

アンジー「はいキャーッチ!」

赤松(アンジーに抱き留められて……え?)

ガラガラガシャンッ

赤松「……は?」

赤松(エレベーターのドアは閉まった)

赤松(最原を残して)

ビヨヨーンッ

モノクマ「アーッハッハッハ! そうです! 置き去りにされた最後の生徒は……」

モノクマ「赤松楓さんではなく、超高校級の探偵である……」

モノクマ「最原終一くんでーーーっす!」ギランッ

赤松「……なっ!?」

東条「え?」

百田「……!?」

赤松「そ、そんなはずない! だって、アンジー!」

アンジー「……」

アンジー「あ、ごめん楓。実はアンジー、楓のこと裏切ってたんだよー」

赤松「えっ?」

最原「今の今まで、アンジーさんは僕の共犯だったんだ。いやー……はっはっは」

最原「本当、嘘を吐くのは辛かったなぁ……まさか僕が事件を起こす側に回るなんてね」

赤松「え? え? なんで? どういうこと?」

赤松「だって、私が持っているシールが偽造のはずでしょ!?」

王馬「違うんだよ、赤松ちゃん。最原ちゃんのシールこそが間違いなく偽造なんだ」

赤松「え?」

王馬「……まさか、と思って、さっき調べたんだよ」

王馬「最原ちゃんの私室をね」

最原「ああ、そっか。それで浮かない顔してたんだ……」

最原「迂闊だったなぁ。見られないと思ったんだけどなぁ」

赤松「……まさか、アンジー。アンタ、どこで偽造シールを作ったのか疑問だったけど、まさか!」

アンジー「……」

アンジー「うん。終一の私室を借りてたんだ。後で誰に調べられても問題ないように」

百田「……なんで……今の今まで気づかなかった……!?」

百田「くそっ! 俺は……俺は大馬鹿野郎だッ!」

百田「札束に紛れたシールを集めたのも、シールを数えたのも、シールを配ったのも……」

百田「全部、最原だッ! 偽造シールを紛れ込ませて、自分自身が残るように仕向けられるのはアイツしかいない!」

赤松「!」

最原「もちろん、集めたときは他の生徒も手伝ってくれたけど」

最原「……最終的に全部統合して、シールを数えたのは僕だね」

赤松「そのときに……偽造シールを紛れ込ませたの?」

赤松「じゃあ、アンジーが未練がましく持ってた一枚は……」

アンジー「本物。楓はアンジーと、本物のシール同士で交換してたんだよー」

東条「……え」

東条「え? え? な、なに? 何が起こってるの?」オロオロ

入間「……最原くん……」

赤松「……」

赤松「……いつから……裏切ってた?」

アンジー「昨日から。楓がアンジーに依頼して、ちょっと後だよー」

アンジー「驚いたなー。終一まで、アンジーにシールの偽造を頼むんだもん」

アンジー「そのときにね? 楓も同じこと考えてるんだーって教えてあげたんだー」

アンジー「終一はすぐに『アンジーと共犯している楓』と『偽造シールのことを知らないその他全員』を騙す策を考えて」

アンジー「で、実行に移し、ついに成功に至ったってわけだよー!」

アンジー「にゃははー! アンジーと終一のコンビ、凄かったでしょー?」ニコニコ

赤松「……」

赤松「……ふざけないでよッ! 最原ァァァ!」ガァンッ!

赤松「だって、アンタ言ってたじゃん! シールの数が多いのが気になるって!」

最原「嘘だ。置き去りにされることに関して、ちょっと憂鬱になってたから。言い訳だよ」

赤松「私が素直になってたことを疑ってたのは!?」

最原「それも嘘。だって疑うフリをしないと、逆にこっちが疑われちゃうから」

赤松「じゃあ……じゃあ……デートのとき、一緒に笑ってたのは……!?」

赤松「なんだったんだよぉ……今日の私たちは……!」

最原「……」

最原「バカだな。楽しかったのは本当だよ」ニコニコ

星「ふむ……つまりこういうことか」

星「俺たちはお前に騙された。それも揃って、全員が」

アンジー「あ。共犯のアンジーにもね」

夢野「嘘……じゃろ。だって、全員で出られるって、さっき喜んでいたではないか……!」

茶柱「……これでいいんですね? 最原さん」

最原「いいよ!」グッ

白銀「軽いな……」

真宮寺「この期に及んで、その調子なのは凄いけどね」

真宮寺「わかっているの? あなたは一生ここから出られないのよ?」

最原「……」

最原「諦めてないよ。まだ」

赤松「え?」

最原「全員で出る可能性に賭ける。そのために、僕はここに残ったんだ」

最原「ねえ。僕の共犯者は、アンジーさんだけじゃないんだよ」

最原「……キミたちの中にいる、首謀者もそうなんだ」

春川「……首謀者? 本当にいたの?」

最原「本人の名誉と希望を尊重して、この場では誰なのかは言わないけど……」

最原「僕はその人の言葉を信じることにした。これがベストの選択だって!」

白銀「……」

白銀(すまん。最原)

モノクマ「あと三十秒くらいで、このお別れタイムは打ち切らせてもらいます!」

最原「え? 本当? あー、どうしよ。最後に何言おうかなぁ」オロオロ

赤松「ま、待ってよモノクマ! お願い! 私を残して!」バンッバンッ

赤松「私が置き去りになるから! だから最原を助けてよッ!」

赤松「お願いだから……!」

モノクマ&最原「ダメ」

獄原「ハモッたね」ゴゴゴゴゴ

キーボ「史上最悪のハーモニーですね」

白銀「余裕だなぁ、アイツ」

最原「……あー、うーん。最後の言葉は思いつかないな」

最原「じゃあこう言おうか。普通に」

最原「またね! みんな!」ニコニコ

モノクマ「……タイムアップです」ニヤリ


ガタゴトンッ

赤松「いや……いや、いやああああ……!」

赤松「ああああああああああああああああああッ!」

休憩します!

春川「……もうこの際、私自身の都合はどうでもいい」

春川「凄く辛いけど、後回しにする」

春川「アイツに……私の親友に、変なことを吹き込んだ首謀者って、誰?」ゴゴゴゴゴゴ

全員「……」

百田「……アイツの口ぶりだと、アンジーではないことだけは確定だな」

百田「ついでに、赤松も除外だ。コイツがもしもそうだったとしたら、俺は……」

百田「もう、何も信じられなくなる」

王馬「実際、そうだろうね。仮に善意からの行動だったとしても、最原ちゃんに騙された事実は変わらない」

王馬「……しんどいよ、凄く」

赤松「……」

赤松「アンジー。なんで?」

アンジー「ん? なにがー?」

赤松「アンタ、最原のことが好きだったんじゃないの?」

赤松「お婿さんにするって言ってたじゃん……!」

赤松「アンタだけは……アンタだけが、選べたんだ! どちらを裏切るか!」

赤松「どっちを置き去りにするかをッ!」

東条「そう、だね……最原くんと赤松さんの立場を逆にするだけで、置き去りにする人間は変わる……」

東条「この中でアンジーさんだけが、置き去りにする人間を……選べた……」

アンジー「決まってるよー。アンジーは、終一のことが好きだからねー!」ニコニコ

アンジー「だから願いを叶えた! それだけだよー! 単純だよねー?」ニコニコ

赤松「違うよ……違う、違う違う! 好きなら、一緒にいたいって思うんじゃないの!?」

アンジー「……」

アンジー「ねえ。そんなこと言う資格、楓にあるのかな?」

アンジー「そもそも、この場に終一を押し込めようとしてた張本人がさ」

赤松「ッ!」

アンジー「……わかった? 自分を犠牲にして、誰かを助ける残酷さ」

アンジー「助けられる罪悪感」

赤松「……」

キーボ「脱出権を奪い合って、自爆していく人類であるならば、誰が置き去りになろうがどうでもいいと思ってました」

キーボ「でも実際にはそうではない。ボクは人類ごときに救われたんです」

キーボ「罪悪感はありませんが、屈辱なら既に味わっています」

赤松「……どうすればよかったの?」

赤松「私たちは、何をすればよかったの?」

赤松「何を、どこで間違えちゃったの?」ポロポロ

真宮寺「人間っていいよネ!」ズバーンッ

夢野「んあ!?」ビクッ

真宮寺「……コホン。失敬」

真宮寺「どうもできなかったと思うわ。少なくとも、私たちには……どうも……」

夢野(い、今のはなんだったんじゃ……)ドキドキ

入間「話を戻しましょう。もうこうなった以上、後戻りはできないわ」

入間「ということは、首謀者も、そろそろ正体を隠す必要はないはずよ」

入間「……名乗り出てもいいはずだけど?」

天海「だからって、ここで名乗り出たら袋叩きになりそうだし。そう簡単に出てくるとは思えないんだけど」

白銀「私だ」

天海「ん?」

白銀「私が首謀者だ。アイツに色々情報を渡した」

星「なんだと?」

茶柱「……」

茶柱「えーっと、つまりどういうことですか?」

茶柱「あ、そっか! わかりました! 殺されたいんですね、今ここでッ!」ギンッ

夢野「待て待て待てーーーい! 落ち着くんじゃ転子!」ガシッ

茶柱「あははうふ。もう限界です。仮に冗談だったとしても笑えませんし、腹が立つのでぶち殺します」アハハ

夢野「落ち着け」ぱふあ

茶柱「」

茶柱「」チーン

夢野「さて。転子が気絶している内に話すがよい。お主が本当に首謀者なんじゃな?」ウネウネ

白銀「顔を元に戻せ」ガタガタ

夢野「おっと」

東条「う、うう……ギリギリ耐えた……何度も見てちょっと慣れたかな……」

春川「教えてよ。最原になんて言ったの?」

春川「アイツが賭けた可能性って、何?」

白銀「……外に出ればわかる。実際に見た方が速いだろう」

獄原「そっか。首謀者なら、外の世界が実際にどうなっているのか知っているんだね」ゴゴゴゴゴゴ

赤松「……?」

赤松「新天地、じゃないの?」

白銀「……」


ポーンッ


白銀「ついたぞ。五分歩けば外だ」

ヒューッ ドンッドンッドンッ

パチパチパチパチパチ


白銀「おー! いつにも増して凄い拍手だな。まさに万雷の、ってヤツだな! うん!」

白銀「お! 見ろ! 花火まで上がってるぞ! あはは! 綺麗だなー!」

全員「」

赤松「……えーと、なにこれ」

白銀「何って……」

白銀「番組が終わったら盛大に祝うもんだろ? 何言ってるんだ?」ハテ

全員「」

夢野「……地球じゃな。普通に」

春川「人類いるじゃん。普通に」

全員「……」

全員「何ィーーーッ!?」ガビーンッ!

東条「どどどどど、どういうこと!? 一体、何が、えっえっ!?」アタフタ

東条「この大勢の人たちは、私たちを取り囲んで、何やってるの!?」アワアワ

天海「……ぐあっ!」ズキンッ

夢野「あ、天海ッ!?」

天海「頭が……割れるように、痛い……!」ズキズキ

白銀「……お前、どういうわけだか記憶の操作に不備があったからなー」

白銀「人一倍にいじくられすぎて、耐性でもできてたか?」

星「何を言ってやがる。何を知っていやがるんだ、お前はッ!」

天海(……何かが、見える……!?)

白銀『お前が今回の"超高校級の生存者"か?』

白銀『私が今回の首謀者担当。白銀つむぎだ。お前、名前は? あと前のときの才能は?』

天海『……知ってるだろ』

白銀『おいおい。これから一緒にダンガンロンパに行くんだぞ?』

白銀『ちょっとくらい愛想よくしたっていいだろ』

天海『……前の首謀者は?』

白銀『きっちりおしおきされて死んだ。で、今回は私だ』

白銀『どうだ? 自信のほどは? んー?』ニヤニヤ

天海『……次こそ、絶対にコロシアイを終わらせてやる。覚悟しろよ』

白銀『それはとても楽しみだなぁ』ニヤニヤ

天海(……思い出した! 俺は……コイツは……!)

天海「う、うわ……うわあああああああ!」

天海「……最原くんは、何のために」

天海「俺たちの苦しみは、何だったんだッ!」

天海「くっそーーーッ!」ダッ

赤松「天海ッ!?」

モノクマ「はい、ドーンッ!」ドカァッ

天海「がっ!」メリッ

星「天海ィーーーッ!」

赤松(天海が白銀に殴りかかろうとしたところを、モノクマが突進して庇った……!)

赤松(本当に……本当に白銀が首謀者!?)

獄原「まずいね、あれ。完全にボディに入ってる。しかも妙な音まで聞こえたよ」ゴゴゴゴゴ

赤松「えっ?」

獄原「……アバラ、ヒビ入ったかも」ゴゴゴゴゴ

東条「あ、天海くんっ!」ダッ

白銀「遅いぞ、モノクマ。何やってたんだ」

モノクマ「ごめんごめん! 学園の『アレ』のチェックしてたら、すっかりこんな時間に!」テヘヘ

百田「……いい加減に教えろ」

百田「この有様はなんだ? 隕石は? 致死性ウイルスは? 新天地は?」

白銀「もうそろそろお前もわかってるだろ。頭は悪く作ってないはずだぞ?」

百田「……」

赤松「……作る?」

白銀「なあ! 天海! 思い出したんならお前が言ってやれよ!」

白銀「あの世界が何だったのか! この世界の真実ってヤツをさぁ!」

白銀「這いつくばった状態でも、そんくらいできんだろう?」ニヤニヤ

天海「……」ガタガタ

天海「『嘘』……だよ」

赤松「は?」

天海「思い出しライトは……記憶を思い出させる装置じゃなくって……」

天海「記憶を『植え付ける装置』なんだ……!」

天海「俺たちはずっと……騙されてたんだよ……!」

赤松「……えっ」

白銀「うーん、天海は優しいなー。思い出したのは、それだけじゃないはずだけどなー?」

白銀「なあ、オイッ! 最後の最後まで言えよッ! それだけじゃないだろうがよォ! あァ!?」

天海「……」

天海「……いないんだ」

赤松「え?」

天海「赤松楓も、春川魔姫も、キーボも、百田解斗も、夢野秘密子も……」

天海「夜長アンジー、東条斬美、王馬小吉、獄原ゴン太……」

天海「入間美兎、真宮寺是清、茶柱転子、星竜馬……」

天海「白銀つむぎに、最原終一、そして天海蘭太郎は……」

天海「この世に『存在しない』んだよ……ッ!」

赤松「……は?」

入間「それは……どういう意味で言ってるの? まさか……!」

白銀「うん、全員、思い出しライトで人生丸ごとの記憶を作った……」

白銀「『人体以外がすべてフィクション』の存在なんだよォ!」

赤松「……いやいやいや。それはいくらなんでもありえないでしょ? ねえ?」

赤松「ありえない……よね?」ガタガタ

白銀「じゃあ一つ聞こうか。赤松。今そこで転がっている天海くんは、結構ガチで危険な状態だ。呼吸も苦しい」

白銀「で……今、お前らの回りにいる人間は、一人でもお前らに手を差し伸べたりしてるか?」ギンッ

赤松「は?」

白銀「遠目に見ているだけじゃないかなー? これからどうなるのかなーって観察してるだけじゃないかなー?」


パチパチパチパチパチ


東条「……な、なにを見てるの? 見世物じゃないんだよ?」

東条「ねぇっ! 誰か助けてよ! 天海くん、本当にケガしてるんだよッ!?」

白銀「見世物なんだよ」

東条「……!?」

白銀「エンターテイメントなんだよ……本当に」

天海「……」

アンジー「あー、そっかそっか。なるなるー。それならそれで別にいいやー」

赤松「え」

白銀「何?」ピクッ

夢野「い、いいわけないじゃろ! どこにいいところがあるんじゃ!」

アンジー「いやー、だってさー。全部嘘ってことはさー……」

アンジー「終一があそこで一生を過ごさなきゃいけないって部分も、嘘なんだよね?」

赤松「……あっ、そ、そうか。それだけはちょっと、いい部分かも……」

白銀「いや、死ぬよ。そこら辺だけはガチでリアルなんだ」

アンジー「え」

白銀「めんご」

真宮寺「いや、めんごで済む話じゃないわよ」

茶柱「……ハッ! 今の今まで気絶していたようです! すみません!」

獄原「いいよ。でも起きたのならそろそろ僕の背から降りて」ゴゴゴゴゴゴ

茶柱「あ、すいませんどうも……」

茶柱「……で、どういう状況です? これ」

百田「全部嘘だったらしい」

茶柱「……マジですか」

百田「マジらしい」

茶柱「……」

白銀「話を続けて良い?」

茶柱「どうぞ」ハイ

赤松「……」

春川「白銀。さっきの質問に答えてもらってなかったよね」

春川「私の親友に、何を吹き込んだ!? 答えろッ!」ギンッ

白銀「あの才囚学園は爆破する。最原ごとな」

赤松「なっ!?」

白銀「最原には『そのとき果ての壁もぶっ壊れるから、ドームの一点に開いてるはずの出口まで走れ』って言っといた」

白銀「……が、残念! 実はそれも『嘘』なんだよ! そんなもんどこにも存在しねぇのさッ!」

白銀「超残念!」

春川「……よし、わかった。なるほど」

春川「いやー、私たちの存在は全部フィクションか。よかったよかった……」

春川「……フィクションなら、法律は考えなくていいよね?」ギンッ

百田「春川! よせ! 殺すな!」

春川「もうダメだよモモタン! コイツだけは絶対に生かしちゃおけなぶしゅる」バターンッ

春川「ぐー」スヤァ

夢野「春川がいきなり寝たーーーッ!?」ガビーンッ

赤松「ええっ!? なんで!?」

王馬「あ、これのせいだね。吹き矢が背中に刺さってる」ブチッ

キーボ「これまた原始的な……」

赤松「こんなものどこから……!?」

モノクマの大群「」ズラリッ

アンジー「わー。モノクマがいっぱいだよー」

夢野「吹き矢を構えておるのー。壮観じゃのー」

全員「……」

白銀「……お前らには、しばらく眠っていてもらう」

白銀「後日談の撮影はまだだからなぁ……最原が死んだ後もしっかり活躍してもらうぞ? くくく」

赤松「……」

赤松「……もう、いいよ」

白銀「あ?」

赤松「本当に、なんでもしてあげるよ……私の全部をあげるからさ……!」

赤松「最原だけは助けて……! あんたなら、できるでしょう……!?」

赤松「私たち、仲間だったでしょうッ!?」

白銀「……」

白銀「悪い。私には無理だ」

百田「!」

白銀「やれ。モノクマ」ニヤァ



フッ ブスブスブスブスッ

キーボ「……」

キーボ「いや、ボクには利かないんですけどね」

白銀「あ、大丈夫。お前の場合は電源スイッチがあるから」

白銀「グッナイ」ポチリ

キーボ「」バターンッ スヤァ

白銀「……さてと」

白銀(……ここからが正念場だぞ、お前ら。一体、何人が気付けたかな……)

今日は終了。続きは明日です

現実世界のどこか

茶柱「なんてことでしょう……衝撃の真実です……」

赤松「……」

茶柱「まさか……まさかまさかまさか……!」

茶柱「転子が閉じ込められている間にケンガン●シュラがこんなに進んでいたなんてーーーッ!」orz

茶柱「あああああああ! 準備期間も含めて転子はどれだけあの学園に時間を吸い取られていたんですか!」

赤松「どうでもいいわァーーーッ!」ウガァ!

赤松「情報収集にって付けたパソコンで、アンタは何をやってんだよ!」

茶柱「いやー。と言っても、転子の記憶と世界の齟齬なんてほとんどなかったんですよね」

茶柱「……転子たちがこの世に存在しないって点を除けば、ですが」

赤松「……」

茶柱「ついでに言えば、外に助けを期待しても無駄。本当に転子たちはフィクションの存在らしいですね」

茶柱「……さて。どうしましょうか。この軟禁状態のまま、既に一日が経ってますが」

赤松「どうしようって……」

赤松「ていうか、なんで茶柱と二人きりなの? 他のみんなは?」

茶柱「他の部屋、とか?」

赤松「……適当だな」

茶柱「……でも色々とわかったことがありましたよ。あの世界……ダンガンロンパのこと」

茶柱「転子たちはフィクション作品のキャラクターで、ずっとあの世界で生活をしていました」

茶柱「卒業試験のあたり、特に最原さんの別れの言葉のあたりで視聴率は過去最高を記録したようです」

赤松「徹底的に見世物にされてたんだね」

茶柱「あと……ダンガンロンパの公式サイトに、こんなものが」


公式サイト『最原終一おしおきまで、残り二日!』


赤松「才囚学園の爆破……のことだよね」

茶柱「完璧に狂ってますね。ただ、そう思うのは『転子がそういうキャラだから』なんでしょうが」

赤松「……早くここから出て、あの学園に戻らないと!」

茶柱「珍しく気が合いますね。ですが、どうやって?」

赤松「……わからない。わからない、けど……!」

茶柱「……ついでに、最原さんを助けたところで、どうするんです?」

赤松「は?」

茶柱「この世界のどこにも、転子たちの居場所はありません。もちろん最原さんにも」

茶柱「……助ける意味、あります?」

赤松「……」

赤松「わからない、よ……!」

茶柱「迷ってるんならやめておきましょうよ。無駄にケガするだけです」

茶柱「もし助けるチャンスが来ても、そんな気持ちのままなら赤松さんは置いていきます」

赤松「……!」

茶柱「……話は終わりです。不快なので、もうそろそろ離れてくれます?」

赤松「……」

別室

夢野「うおおおおお! 出せ! ここから出すんじゃああああ!」バンッバンッ

夢野「真宮寺が大量の塩を誤飲して、今にも死にそうなんじゃあああああ!」バンバンッ!

真宮寺「あァ……姉さん……今そっちに行くヨ……」ガクガクビクンビクンッ

夢野「死ぬぞーーー! 真宮寺が死ぬんじゃあああ! うわあああああ!」バンッバンッ!

夢野「……」

夢野「チッ。ダメじゃな。映画では上手く行っておったんじゃが」

真宮寺「もう今となっては私たちの生死なんて、どうでもいいのかもしれないわね」

夢野「終わった作品のキャラクター……じゃからの」

夢野「……胸糞悪いわい」

別室

天海「……ごめん、東条さん。俺があの世界を、もっと早く思い出していれば……」

東条「謝られるの、これで何回目かな」アハハ

東条「大丈夫だよぅ。私、全然気にしてないから」

東条「……」

東条「ふぐぅ」ブワッ

天海(そうやって発作的に泣き出すから謝ってるんだけどなー)

東条「……泣いちゃダメ。泣いちゃ、ダメ……!」ゴシゴシ

東条「何か、食べたいものある? この部屋、色々揃ってるけど」ニコニコ

天海「りんご!」

東条「はぁい」

星「……チャンスは必ず来る。アイツが諦めないと言うのなら、俺も諦めない」

星「なあ。そう思うだろう、お前も」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

星「この世界がどうだろうと関係ない。俺は俺だ」

星「ふん。というより、死刑囚でないだけマシかもな」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

獄原「虫さんがいるのなら、それで……」ゴゴゴゴゴゴゴ

星「ふはははははは! そうか!」

別室

百田「……」

春川「……」

百田「……」

春川「……」

百田「……」

春川「……」

百田(……なんて声をかければいい?)ズーンッ

百田(もう、コイツの立場からすれば泣きっ面に蜂の状態が何回も続いてる状況だ)

百田(俺が何を言ったところで無駄なんじゃないのか?)

百田(……そもそもこの世に存在していない男に告白されて、嬉しいと思う女がいるのか?)

百田(……いや。やめるか。そんなの言い訳でしかない。俺は……最原に『やり遂げる』と約束したんだ)

百田(結果がどうであれ、最後まで……!)

春川「嘘じゃないよ」

百田「何?」

春川「私がモモタンのことを好きだっていう気持ちは、嘘じゃなかった」

春川「ずっと考えてたけど、やっぱりそうだよ」

春川「……だって、フィクションだとかなんだとか言われてもさ、やっぱりまだ悲しいから」

春川「モモタンと付き合ってなかったって事実が……胸に痛すぎるから」ポロポロ

百田「春川……」

百田「……」

春川「あそこから出たら、話があるって言ってたよね。モモタン」

春川「……お願い。終わらせて。今、ここで」

春川「じゃないと一生、前に進めないからさ……」

百田「……ああ。そうだな。そうしよう」ゴソゴソ

百田「付き合おう、春川」

春川「えっ」

百田「結婚を前提に。仮だが、この指輪で婚約としよう」

春川「……えっ」

百田「……」

百田「速さイズパワーだッ!」

春川「なんで急に夢野みたいなこと言ってるの!?」ガビーンッ!

百田「事実を知らせるのを遅れた俺がクソ野郎という意味だ」

百田「正直な話、嬉しかった。お前が俺を好いているという事実がな」

百田「だが、あの場で返事をできなかった俺は、そのままズルズルとあの関係を続けてしまっていた」

百田「……悪かった。本当に」

春川「……モモタン……」

春川「え? え? い、いいの? だって私、今まで付き合ってもないのにモモタンに色々、その……」

春川「自殺級に恥ずかしいことを」ズーン

百田「いい。もういいんだ、春川」

百田「これから付き合おう。だから、別にいい」

春川「……う……」

春川「し、幸せすぎて……怖いんだけど。私、明日死ぬんじゃないかなぁ」ポロポロ

春川「え、えへへ……えへへへへ……」ポロポロ

春川「おしっ! そうと決まれば! よっしゃーーー! やるぞーーーッ!」

春川「白銀を殺し……この世界に叛逆し……最原を助け……」

春川「私はモモタンと共に、この世界の神となる!」ズバーンッ!

春川「あははははははは! テンション上がってきたーーーッ!」

百田(元気にしすぎた……ま、いいか)

百田「……それはさておいて、白銀を殺すのだけは待て」

春川「え? なんで? あ、そっか! モモタン、そういう趣味!?」

春川「いいよ! アイツの四肢を私が削いだ後、好きなだけアイツを汚しつくせばいいよ!」

春川「ダーリンの趣味に理解を示すいい妻……だから! きゃっ」

百田「そんな猟奇的な趣味はないし、お前暗殺者だから拷問の類は専門外だろ……」

春川「この際そんなキャラ設定どうでもいいよ。アイツ、本当に許せない。何が何でも死なせてやる」ギンッ

百田「白銀が本当は裏切ってない……としてもか?」

春川「……」

春川「何か言った?」

別室

キーボ「白銀さんが本当は裏切ってない可能性……ですか?」

王馬「今、俺たちはそれぞれ別の部屋に軟禁されているみたいだけどさ」

王馬「実はこの部屋の鍵、俺なら開けられるんだ。ほら」ガチャリンコ

キーボ「あ、本当ですね。ピッキング技術のある王馬クンに対して、いささか不用心すぎます」

王馬「あと、彼女は俺たちを眠らせる前、こう言ったんだ」

王馬「赤松ちゃんの懇願に対して『悪い。私には無理だ』って」

キーボ「それが?」

王馬「ちょっと妙だよ。それまで散々悪役に徹した白銀ちゃんが、あのときだけ謝るなんてさ」

キーボ「……うーん、人類は愚かすぎるので、ちょっとボクにはわかりませんね」

王馬「鉄くずめ」チッ

キーボ「お肉の塊に言われたくありません」

王馬「まあともかく、あの言葉の裏の意図はおそらくこうだ」

王馬「『私以外の誰かに頼め』、または……」

別室

入間「『お前たちが自分でやれ』……って意味でしょうね」

アンジー「ふーん。つむぎが裏切ってなかった……か」

アンジー「それが真実なら随分と優しいけどねー」

入間「証拠はあるわ。部屋に用意されていた『発明品の材料』と『設計図』とかね」

アンジー「農薬とか肥料とかなんだとかがいっぱいだねー」

入間「これらすべては一つ一つは合法だけど、組み合わせて色々すれば話が別になる」

入間「段々と見えてきたかもしれないわ。彼女が何を考えているのか」

アンジー「ねえ。終一を助けられる?」

入間「……わからないけど、全力は尽くすわ」

入間「ご主人様のためにッ!」

アンジー「……」

入間「……最原くんのためにッ!」キリッ

アンジー「うん。ファイト!」ニコニコ

入間(その優しさが胸に痛い……!)

モノクマ「は? ヘリ?」

白銀「そう。ヘリ」

モノクマ「なんで?」

白銀「急に旅行に行きたくなってな」

モノクマ「……まあいいけど。運転手の手配はできないよ? 急だし」

白銀「お前がやれ」

モノクマ「えー。仕方ないなぁ」

白銀「……」

白銀(……よし。流石にあんだけ悪役してれば疑われない、か)

白銀(足は確保。そのときになったら流石にモノクマに運転はさせられないだろうし……)

白銀(……入間あたりに運転技術があることを期待しよう。もうそれしかない)

白銀(私が運転するわけにはいかんしな)

白銀(チャンスは一度きり。あとは最原が私の言うことを信じてくれれば……!)


才囚学園内


最原「えーっと……入間さんが使ってたセグウェイは……」

最原「あ、あった。でもコレどうやって使うんだろう……」

最原「あ。動きそうだ。よし、これで、ぶへっ!」ギュンッ


ドカァァァァンッ

何もないまま翌日。赤松と茶柱の自室

茶柱「はー……ガンガ●オンラインも色々レパートリーが変わってますねー」カチカチ

赤松「暇だからってネットマンガ漁りって……適応しすぎでしょ」

茶柱「見ててうざいから筋トレの類はやめろって赤松さんが言ったんじゃないですか」

赤松「そうだけどさ……」


ガチャリンコ

赤松「ん?」

王馬「……んー」キョロキョロ

赤松「え。王馬?」

王馬「残念、ここでもなかったか」ガチャリ

赤松「待て待て待てーーーッ! さらっと来てさらっと帰るなーーーッ!」ガビーンッ

赤松「ああ、くそっ! オートロックだ! もう開かない!」ガチャガチャガチャ!

某所

王馬「お! あったあった! 本当に!」

王馬「白銀ちゃんの言う通りだね!」

白銀「当然だ。私たちは、仲間だろう」ニヤァ

キーボ「これが……ボクの武装。確かに超高校級のロボットの研究教室にあったものが揃ってますね」

白銀「まあ、と言ってもだ。ここはダンガンロンパの世界じゃなくって現実の世界」

白銀「基本的にスペックはあれよりも格段に下だがな。流石にあそこまで滅茶苦茶はできん」

キーボ「ま、いいでしょう。人類に貸しっぱなしではボクのロボットとしての矜持に関わります」

キーボ「一度きり、最原くんのことを助けるとしましょう」

白銀「頼んだぞ。さて、誰かに見られる前に部屋に帰れ。これ持ってな」

才囚学園内

最原「……色んなことがあったなぁ」

最原「この教室で赤松さんと出会って……春川さんと友達になって……百田くんと遊んで……」

最原「……この校舎、壊れちゃうのか。ちょっと寂しいな」

最原「……」

最原「……絶対に脱出してみせる。待ってて、みんな」

運命の起爆期限の三時間前

茶柱「……!」

茶柱「今、何か聞こえました?」

赤松「え?」

茶柱「……聞こえたっていうか、感じますか? 建物がちょっと揺れてます」

赤松「あ、本当だ。なんで……」


ドカァァァァァンッ!


モノクマA「うわー」ゴロンゴロンッ

モノクマB「うわー」ゴロンゴロンッ

モノクマC「うわー!」ゴロンゴロンッ


赤松「大量のモノクマがドアを壊して中に転がり込んできたーーーッ!」ガビーンッ

茶柱「む。ついに機は熟した的なアレですね!」

赤松「え?」

茶柱「最原さんを助けに行くってことですよ!」

赤松「!」

キーボ「ボクはとにかく片っ端からドアを破壊し、ついでにモノクマも破壊します」

王馬「おっけー! じゃあ俺はキー坊が相手にしてないドアをピッキングで片っ端から開けてくるよ!」

赤松「お、王馬! やっぱりアンタ、外に出れたの!?」

王馬「白銀ちゃんの計らいでね。まあそれはいいからいいから!」

王馬「えーっと、赤松ちゃんはリストに載ってたっけ……」ペラペラ

赤松「リスト?」

王馬「……うん、載ってるね。階段があっちにあるから、屋上まで突っ走って!」

王馬「白銀ちゃんが、学園行きのヘリを用意して待ってるよ!」

赤松「!」

茶柱「む……転子はどうしたらいいですか?」

王馬「俺たちと一緒! 時間稼ぎ、そして足止め班!」

茶柱「よくわかりませんが、まあいいでしょう」

茶柱「あのムカつくクマを片っ端から殴ってみたかったんですよね!」

赤松「……えっ。えっ?」オロオロ

モノクマD「許さないよ! フィクションの存在ごときが、こんなことをして!」ダダーッ

モノクマE「学園長への攻撃は校則違反なんだぞー!」ダダーッ

キーボ「知りません」ガンッ

モノクマD&E「ぐへぇーッ!」

キーボ「そもそもここは現実世界。銃刀法も、危険物取扱法もあります」

キーボ「ダンガンロンパの世界ならともかく、この世界でのモノクマは、ただちょっと固いだけのマスコットです!」

茶柱「え? 本当ですか? どれ」ムンズ

モノクマF「ヤメロー! シニタクナイ! シニタクナーイ!」ジタバタ

茶柱「……あ。本当ですね。これなら転子でも余裕で対処できます」ブンッ

モノクマF「あっ」グシャァ

茶柱「あのときは遅れをとりましたけどね。二度目はありませんよ」

赤松(すごっ!)ガーンッ!

王馬「悪い子は、どんどん開けちゃうんだよねー」ガチャガチャ

バターンッ

夢野「許さんぞ……ウチらを散々弄び追って……」ゴゴゴゴゴ

真宮寺「神経を抜き取るわよ」ゴゴゴゴゴゴ

モノクマG「ゲゲーッ! 問題児が増えたーーーッ!」ガビーンッ!

ガァンッ

モノクマH「ぼへあーーーッ!」ドカァァンッ!

赤松「あ、またドアが壊れた!」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴ

星「……」ゴゴゴゴゴゴゴ

赤松「ほ、星! ゴン太!」

星「待たせたな」

百田「そんな会ってないわけじゃなかったはずだが、改めてみんなの顔を見ると」

春川「うん! 凄く安心するよね!」ニコニコ

赤松「百田! 春川……も……」

赤松「……なんかピンクいオーラ出てない?」

春川「え? そう? 気のせいじゃない?」ニコニコ

百田「……」

モノクマI「メーデー! メーデー! こちらモノクマI!」

モノクマI「至急増援を! 至急増援を頼む! エマージェンシー!」

ガンッ

モノクマI「あふん」ドサッ

東条「はぁっ……はぁっ……あー、スッキリしたぁ」キラキラ

天海「デッキブラシでモノクマの後頭部を一撃……俺でなきゃ見逃しちゃうね」フッ

赤松「東条! 天海も!」

天海「痛み止め飲んでるから、しばらくは本気で動けるよ」

天海「超高校級の冒険家の力、見せてやる!」ザッ

モノクマJ「やばーーーッ!」ガビーンッ

赤松「で、えーっと……えーっと……」

赤松「これどういう状況?」ズーン

王馬「予定が早まっちゃったんだよ。白銀ちゃんがなんかポカしたみたいだね」

赤松「は?」

茶柱「ああ、やっぱり白銀さん、裏切ってなかったんですね?」

赤松「は!? なにそれ!?」

王馬「んー。まずはここがどこだったのか、から説明しようか」

王馬「ここ、チームダンガンロンパの本社なんだよね」

赤松「チームダンガン……ああ、ダンガンロンパの制作会社だっけ」

王馬「で。白銀ちゃんは少数の仲間を連れて、学園へと赴き、一緒に最原ちゃんを助ける予定だったんだけど……」

王馬「決行は二時間後だったはずなのに、合図の通信がついさっき入ったんだ」

王馬「本当はこうやって本社の中で暴れるの、もうちょっと後のはずだったんだよ? 稼ぐ時間は少ない方がいい」

王馬「果ての壁が壊れないと、最原ちゃんは救出できないしね」

入間「私様が作った、このエレクトバズーカを使ってドームに穴を開けてもね」

赤松「入間!」

アンジー「アンジーもいるよー」

王馬「本当の作戦の内容はこうだ。才囚学園の爆破が行われる一時間前に屋上のヘリで学園へと急行」

王馬「当然、そんなことしたら最原ちゃんを助けようとするのがバレるから、本社の中で誰かが暴れてかく乱と足止めを行う」

王馬「入間ちゃんが開発していた発明品でドームに風穴を開け……」

王馬「後はそこから、果ての壁を乗り越えた最原ちゃんを助けてミッションコンプリート」

王馬「後始末は白銀ちゃんが全部やる予定になってた」

王馬「でも、なんか知らないけど決行の時間が二時間も早まってる。白銀ちゃん、ピンチなのかもね」

赤松「待って。チームダンガンロンパの一員だった白銀が、なんで最原を助けようとするの?」

赤松「だってアイツ、裏切って……」

王馬「本意じゃなかったんだってさ。本当に白銀ちゃんは、全員で外に出たがってたんだ」

王馬「それをモノクマの急な『路線変更』で台無しにされた……かなり腹に据えかねてたみたいだね」

赤松「……本当なの?」

王馬「俺は嘘を吐かないことを信条にしている。信じてくれ」

赤松「……」

赤松「……よかった。白銀、裏切ってなかったんだ……」ホッ

春川「で? じゃあ全員で屋上に向かえばいいの?」

王馬「いや。事前に渡されたリストに乗ってる人間だけにしろってさ」

王馬「足止め班が多い方がいい。迎えに行くのは最小限って」

王馬「リストに載ってるのは、赤松ちゃん、百田ちゃん、東条ちゃん、入間ちゃんの四人だね」

百田「……人選が謎だな」

王馬「俺は一足早く理由を聞いたけど、なかなかつまらなくないものだったよ」

王馬「とにかく、ちょっと早いけど行ってくれ」

王馬「ここはッ! 俺たちに任せろォーーー!」ズバァァァンッ!

春川「王馬。それ死亡フラグ。わかってて言ってるよね?」

王馬「当然」

モノクマK「好きですっ! あ、間違えた。隙アリィ!」ブンッ

赤松「ひゃっ……!?」

百田「赤松!」

茶柱「カウンターパンチ!」ドカァッ

モノクマK「はぁとぶれいくっ!」ゴシャァ!

赤松「あ、ちゃ、茶柱……!」

茶柱「行ってきてください」

赤松「でもアンタ、迷いがあるならやめた方がいいって……!」

茶柱「じゃあもう考えることなんかやめてくださいッ!」

赤松「!」

茶柱「せっかく転がってきたチャンスなんです! もう何も考えなくていいですから!」

茶柱「ここは転子たちが守りますからッ!」

茶柱「転子たちが、あなたの代わりに考えますから!」

茶柱「だからもう、迷いもなんもかんも捨てて行ってしまってください! せっかくのチャンスなんです!」

赤松「……茶柱」

夢野「速さは力じゃぞ、赤松!」

赤松「夢野!」

夢野「転子。力を貸すぞ。存分に暴れるがよい!」

茶柱「転子も焼きが回りましたね。まさか夢野さんと共闘とは……」

夢野「そう言うな。ウチは嬉しいぞ?」ニコニコ

茶柱「……ふ、ふんっ!」

夢野「それでは行くぞ。転子とウチの初の協力魔法奥義……」

茶柱「精神攻撃!」

夢野「転子百物語withぱふあじゃ」ぱふあ

百田「やめろおおおおおおおおおおお!」ガタガタ

キーボ「うわあ、びっくりした! あなたそんなデカい声出せるんですか!」

モノクマLからZ「ひぎゃああああああ! の・ろ・わ・れ・る!」バチバチッ

春川「すごっ! 大量のモノクマが謎のショートを!」

百田「世界滅べ」ズーン

春川「そしてモモタンの心にも甚大な傷がッ! 大丈夫だよー、モモタン!」ナデナデ

赤松「……」

赤松「……私、行くよ。もう迷わない」

赤松「この世界がどうだろうと関係ない! 私は最原に生きててほしい!」

真宮寺「……」

真宮寺「ああ……本当に……成長したネ……」

赤松「えっ。何、真宮寺。そのマスク」

真宮寺「やはりキミを姉さんの友達にして、間違いはなかったヨ」

赤松「?」

真宮寺「……ふふ。これからも仲良くしてね? 赤松さん」ニコリ

赤松「あ、ああ。うん?」

星「なんでもいいが! リストに載っているヤツは今すぐに行け!」ヒュッ!

獄原「……最原くんに、ありがとうって言いたいな……」ゴゴゴゴゴゴゴ

ゴシャンッ ゴシャンッ ゴシャンッ

モノクマい「ごへっ」

モノクマろ「あわばっ」

モノクマは「たわれこっ」

天海「おー。凄い勢いでモノクマが壊れていくね」

春川「心強いなぁ」

百田「まったくだ」フッ

春川「あ、復活した」

百田「……春川。俺はそろそろ行く」

春川「……」

春川「絶対に帰ってくるよね?」

百田「……なあ。最原に騙された、赤松のあの顔を覚えているか?」

百田「俺はお前に、絶対にあんな顔はさせたくない」

春川「……うん。ありがと、モモタン」

春川「愛してる」

百田「俺もだ」ザッ

モノクマに「リア充爆発しろーッ!」


ヒュパッ

モノ/クマ「」

春川「……愛の力で元気百倍! さ、次は誰が真っ二つになりたい?」ニコニコ

モノクマほ「ええーーーッ!?」ガビーンッ

赤松「愛、怖ッ!」

入間「赤松さん、行くわよ!」

赤松「う、うん! でもモノクマがやってきたらどうする!?」

東条「そのときはっ……!」グッ

モノクマへ「がおーっ!」

モノクマと「ドーナツよこせーっ!」


ドガシャァァァァンッ!


東条「私がなんとかするよぅ! 前に潰した誘拐組織と比べれば、軽い軽い!」

赤松「……」

赤松「……東条を怒らせるのだけはやめておこう……怖い」ズーン

入間「私様も同感ね……」ズーン

東条「あ、あれ!? なんでぇ!?」ガビーンッ

百田「さっさと行くぞ!」

獄原「……あれ。アンジーさんは?」ゴゴゴゴゴゴゴ

星「モノクマの残骸から金目になりそうなものを集めてるぞ」

アンジー「にゃははー! レアメタルの宝庫だよねー! ハーヴェストハーヴェスト」セッセッ

春川「コイツ多分ロクな死に方しないなぁ……」

アンジー「何言ってんのー! これは大事なことだってー!」

アンジー「全部終わったら、豪華な祝杯くらいあげたいでしょー?」

王馬「気が早いなぁ……でも」

星「悪くはない、なァ!」ガンッ

春川(……みんな頑張ってる。だから、帰ってきて! 最原!)

屋上

モノクマ「よくもだましてくれたなぁ……何が旅行に行きたいだよ! 真っ赤な嘘じゃんか!」

白銀「それはこっちの台詞でもあるんだが? テメェ、本当やりたい放題だな……!」

白銀「第一、こんなことをしたら視聴者からのクレームが鳴りやまないだろうが!」

モノクマ「一度変更した路線を元に戻そうとするキミよりはマシじゃない!?」ガオー!

モノクマ「あったまきたぞ! ちょっと全力でボコる!」

モノクマ「ダンガンロンパの世界ほどでないにしろ、ここのボクもそこそこ強いんだよ!」

白銀「チッ!」

数分後

赤松「はぁっ……はぁっ……ヘリって……アレ!?」

入間「ふぅっ……ふぅっ……し、白銀さんは、げほっげほっ」

東条「二人とも、体力がないね……」

百田「いたぞ! あそこだ!」



白銀「くそ……やっぱり一対一じゃキツイか……」

モノクマ「片腕が折れてるんじゃ、もう得意の『模倣』もできないよね?」

モノクマ「これで終わり――」

東条「だね? あなたの方が」ガシッ

モノクマ「えっ?」

東条「ぽいっと」ポイッ

モノクマ「あー……」ヒューッ

赤松「モノクマを屋上から投げたーーーッ!?」ガビーンッ!

東条「下に誰もいないことを祈ろうか」ニコニコ

入間「あなた……段々形振り構わなくなってきたわね」

白銀「よし! 全員揃ったな! さっさとヘリに乗り込め!」

入間「運転手がいないけど」

白銀「お前がやれブスッ!」

入間「ブス!?」ガビーンッ!

赤松「ちょ、ちょっと待ってよ。白銀が裏切ってないことはさっき聞いたけどさ!」

赤松「作戦の決行は二時間後って聞いたよ! なんで今なの!?」

白銀「私もついさっき知ったんだよ! あの公式サイトのカウントダウンの真実をな!」

白銀「あれはお飾りだ! 真っ赤な嘘だ!」

赤松「……え?」

白銀「――もう才囚学園の爆破は始まってるんだよ! とっくのとうにな!」

赤松「……嘘、でしょ……最原は……?」

白銀「まだ生きてる……が……」

白銀「……早く、行こう……」

百田「ああ。当然だ」

赤松(……最原!)

ヘリ内

白銀「……上手く離陸できたな。追手もなし。時間稼ぎ班が上手くやってるみたいだ」

入間「ふふ。ふふふふふふ。私様は天才。私様は天才……ヘリの操作くらい簡単」ダラダラ

東条「凄い汗だけど……」

入間「大丈夫。一度やったことあるわ……ゲーセンで……」

東条「ご、ごめんねぇ。代わってあげたいけど、私は最原くんの治療係……なんだよね?」

白銀「ああ。東条は絶対に乗せるつもりだった」

百田「俺は?」

白銀「いざってときの人手」

赤松「あ、じゃあ私もそうなのかな……」

白銀「いや、お前は……まあ、後でいいか。今は現状の報告からだ」

白銀「私は当初、最原のおしおきを『全世界同時生放送』するという話を受けていた」

白銀「だから当然、あのサイトのカウントダウンが本物だと思っていたんだ」

白銀「当然だろ? だって番組の放送時間は絶対だ。これがズレたら視聴者からのクレームは計り知れない」

白銀「だが、どうも私の演技が臭かったみたいでな。モノクマは独断で、ヤツのおしおきの時間を早めた」

白銀「放送に関しても『録画したものを、あとで生放送だと偽って流せばいい』とか抜かしてやがったな。ふざけてるだろ」

白銀「泡を食った私は、急いで王馬に連絡。作戦の決行を早めたってわけだ」

百田「なるほど。これが真相か……」

百田「まあそれはそれで構わない。最原も生きてるみたいだしな。だが疑問が一つ残る」

白銀「それは?」

百田「お前……後始末って、具体的にどうするつもりだ?」

白銀「それか……」

白銀「すべての鍵は『視聴率』だ。面白ければダンガンロンパユーザーはすべて納得する」

白銀「卒業したはずの超高校級の生徒が、何の伏線もなく戻ってきて最原を助けるっていう強引な展開も」

白銀「視聴率さえあればすべてオールオッケー! なんとかなる!」グッ

百田「……」

百田「そういうことか。何がいざってときの人手だ」

百田「俺と赤松を選んだ理由はそういうことだな? 本当なら春川も連れてきたかったんだろう?」

赤松「え?」

白銀「流石に察しがいいな」ニヤァ

白銀「ニューダンガンロンパV3のキャッチコピーは『世界は"嘘"で変わる』だが……」

白銀「それは私たちの勝手な都合により変更だ!」

白銀「たった今からニューダンガンロンパV3のキャッチコピーは……」

ダララララララ

赤松「え。何このドラムロール。どこから流れてるの?」キョロキョロ

白銀「それは気にするな。それより、変更後のキャッチコピーは……!」

百田「世界は"愛"で変わる……ってところだろ」

白銀「あばっふ!?」ガビーンッ!

東条「あ、図星みたいだね」

赤松「……あ、愛? え? 何? ふざけてんの?」

白銀「大真面目だッ!」

白銀「ということなので、視聴率を取るために、私は何でも利用することに決めたのでした」

白銀「……最原と赤松のラブロマンスすらなァッ!」ギンッ

赤松「ら、ラブロマンスぅ!?」

白銀「本社を裏切ってまでお前らに味方した理由は色々ある」

白銀「最原が死ぬのがイヤだったのももちろんそうだが……」

白銀「私の作ったほのぼのラブコメ路線を『ツマラナイ』の一言でバッサリ切り捨てたヤツらに吠え面かかせるためだよッ!」

百田「お前、本当に救いようがないな」

白銀「何とでも。まあともかくだ。視聴率を取れば、私の裏切りも許されるし……」

白銀「最原も助かるし……」

白銀「何よりも……これで物語は完全完結にしてハッピーエンド。お前らは自由だ」

白銀「生き残り手当、新しい身分、豊富な保証制度を受けて、世界のどこへでも行ける」

白銀「……居場所なんて、どこででも作れるんだ。私が言うのもなんだがよ」

赤松「……」

赤松「……具体的になにすればいいの?」

百田「おい。こんなバカげた策に乗るのか?」

赤松「もうこの際、それしかないでしょ……最後の最後まで見世物に徹するのはイヤだけど」

赤松「でも、コイツを味方に付けないと、最原を助けられないのも確かだよ」

白銀「本社に首を斬られていない私をな。私の首が切られたら、お前らもお終いだ」

東条「物理的な意味か、そのまんま解雇って意味なのかはあえて聞かないでおくよ……」

白銀「あ、カメラは私の襟に仕込んである。なので……そうだな」

白銀「私の目の前でイチャつけ」

赤松「絶対イヤ!」グアー!

白銀「ええっ!?」ガビーンッ!

百田「当然だろうが」

東条「驚く要素ないよね……」

白銀「……ま、いいや。とにかく現場についたらよろしくな」ニコニコ

赤松「……」

赤松「はあ。憂鬱だな……」

白銀「まあそう言うなって」

白銀「……あ、そうだ。忘れてた。今の最原がどうなってるのかを見せないとな」

赤松「見られるの!?」

白銀「えーっと、待ってくれ。ああ、くそっ。片腕だけだとタブが上手く操作できんな」ポチポチ

百田「貸せ。俺がやる」

白銀「あ、その才囚学園の校章のボタンを最後に押せば映像が出てくるぞ」

東条「早く! 早く!」

最原『ぐっ……うう……』モゾモゾ

赤松「最原ッ!」

東条「ヒッ……た、大変……凄い血……!」ガタガタ

最原『くそ……なんてことだ……こんな……こんなところで……!』

赤松「最原ァ!」

最原『オムライスにケチャップでハートを描いてるときに爆発が起きるなんてッ!』

赤松「ケチャップかいッ!」ガビーンッ!

百田「もうすぐ爆発が起きるってときにオムライス食おうとしてたのか、コイツは……」

白銀「あ、すまん。これはちょっと前の映像だな。現在の映像にするには、ほらこのボタンだ」

百田「これか……」ポチリ

最原『ぐああああああああああッ!』

赤松「ッ!」

東条「な……何、今の声……最原くん、苦しそうにうずくまってるし……」ガタガタ

赤松「最原、どうしたの!? 最原ァ!」

最原『入間さん……!』

赤松「ん?」

入間「え? 私様?」

最原『の、作った探偵七つ道具の隠しカメラが爆発の衝撃で壊れたーーーッ!』

最原『みんなとの思い出が詰まってたのにーーー!』

赤松「それは確かに悲しいけどもッ!」ガビーンッ!

百田「隠しカメラでどんな思い出を撮ってたんだ、コイツは……」

最原『赤松さんとの最後のデートの映像とかも丸っと入ってたのに!』

赤松「えっ」

百田「ああ、使い道自体は健全だな……」

東条「と、ともかく、よかったよぅ。最原くん自体は結構余裕がありそうで」

最原『……あ。カメラに夢中で気付かなかったけど』

最原『いつの間にか足をグネってたみたいだ……痛い』

赤松「無事じゃなかった!」ガーンッ!

東条「こ、これまずいよ! 足を捻ってたら、爆発から逃げられない!」

白銀「回りの爆弾はどんどん起爆しているし、それに……これは……」

最原『……白銀さん。これは聞いてなかったよ』

最原『爆撃機まで来るなんてさ』

白銀「……モノクマめ」

休憩します

長丁場だったな、一旦乙

不覚にも真宮寺にグッときてしまったよ
姉を思い自分の体や精神の主導権まで捧げてる是清を見てると
なんか原作本編より狂ってるけど、そのぶん愛情深い奴に見えてしまってな…

赤松「急ごう……早く! このままじゃ、本当に最原が……!」

白銀「いや。実は私たちが急いでも意味はないんだ」

白銀「最原自身が、私の指定した場所まで走ってきてくれないとな」

百田「そういえば、ドームに開ける穴の規模はどのくらいになる予定なんだ?」

白銀「私の計算では、ヘリが余裕で一機入れるものになる。だがな……」

白銀「ただでさえ爆弾だらけの才囚学園に、唯一の足であるヘリごと入るのはお勧めできない」

白銀「少なくとも、入れて三分くらいが限度だろうな」

入間「私様自身のヘリの運転技能に関しても計算に入れてほしいわね」

入間「悪いけど、そんなに器用なことはできないわ。ただ飛ばすだけでもいっぱいいっぱいなのよ……!」

東条「……!」

東条「そう……そのままぐっと引っ張って……できた! 流石だよぅ!」

赤松「どうしたの?」

東条「最原くんが自分の足をテーピングしたみたい。これでしばらくは走ることはできるよ!」

東条「……ちょっと痛いけど」

赤松「最原は諦めてない、か。なら、私たちが諦めるわけにはいかないよ。そうでしょ?」

百田「無論だ。アイツを連れて帰らないと、春川が泣いてしまうしな」

赤松「……」

赤松「ねえ。百田。そういえば私、あんまり注意してなかったからわからなかったけど」

赤松「もしかしてここ数日、春川と一緒に軟禁されてたの?」

百田「!」

赤松「……なんかした?」

百田「……」プイッ

赤松「こっちを見ろ」ゴゴゴゴゴゴ

白銀「後にしろ」

ドーム内

最原「はあっ……はあっ……はあっ……!」

最原(出る! 僕は何としてでも、みんなのところに行くんだ!)

最原(例えこの先に待っているのが、どんな残酷な真実だったとしても!)

最原(どんなに残酷な世界だったとしても!)

最原(僕は絶対にそこに向かう!)

最原「あと、どのくらいだ! 僕は、どれだけ走れば……!」

カッ

最原(あ、しまった。爆撃機への注意を怠ってた)

最原(これ、ちょっと爆発が近――)


ドカァァァァァンッ!

東条「……」

東条「……あ、ああ……さ、最原くん……!」

赤松「どうしたの?」

東条「け、結構近くで爆発が起こって……最原くんが吹っ飛んで、倒れて……」

赤松「……!」

百田「最原……!」

東条「し、死んではいない! 死んではいないんだけど……立ち上がろうとしても立ち上がれなくって……!」

東条「す、凄く悪い想像なんだけど、これ……」

東条「鼓膜が破れちゃった……のかも」サァァ

赤松「ッ!」

東条「……」

東条「……ねえ。もう、やめない?」

赤松「え?」

東条「だって……最原くん、凄く苦しそうで……苦しんで外に出たとしても、私たちの存在は全部嘘で……」

東条「どこにも、居場所なんかなくって……!」

東条「私たちみたいな目に逢うくらいなら、この場で何も知らずに、眠らせてあげた方が……」ポロポロ

赤松「な、なに言ってんの! そんなの……」

赤松「……」

赤松(……もう迷わないって言ったはずなのに、この体たらく……)

赤松(茶柱の言う通り……だったのかな……!)

百田「鼓膜は治る。損傷が甚大でも手術すれば、なんとかなる」

東条「……知ってるけどさ……」

百田「それに、居場所ならここにある」

東条「え?」

百田「たった十六人だけで、社会の輪なんかと比べれば確かにチンケだが……」

百田「あの学園で一緒に過ごした『俺たち』が、俺たちの居場所だ」

百田「違うか?」

東条「……」

白銀「ついたぞ! あれだ! あのドームが……!」

入間「ダンガンロンパの世界!」

白銀「よし! それじゃあ、あのドームに風穴を開けるぞ! エレクトバズーカは!?」

入間「後ろに積んであるわ! さっさと撃ちなさい!」

赤松「……」




赤松「え。誰が?」

全員「」

百田「俺は無理だぞ」

白銀「普段ならともかく、私は腕が折れてるしなぁ」

赤松「え? え? い、いや私だって無理だよ! だってピアニストなんだからさ!」

赤松「なんかあって指にケガしたらイヤだよ!」

百田「だろうな。チッ。しまったな。ここまで来て、こんな問題が浮上するなんて」


ガララッ


百田「ん? おい、ヘリのドアを軽率に開けるな……」

東条「……」バサッバサッ

赤松「え、東条?」

東条「……さっきまでの弱気な自分……」

東条「この世界の真実……」

東条「最原くんを閉じ込めている、あの壁!」

東条「全部、ムカつくッ!」ガチャリ


ドシュウウウウウッ! ドカァァァァァァンッ!


赤松「」

百田「」

白銀「」

入間「」

東条「……さっきまでの発言は訂正する」

東条「私たちが、最原くんの居場所」

東条「……だよね。百田くん」ニコリ

百田「」

百田「……ハッ! そうだな!」

赤松「凄いよ東条!」

入間「もう本当に怒らせられないわね……」

白銀「ま、まあ、ともかく。これで、だ」

白銀「こっちの準備は整った!」

白銀「ダンガンロンパの世界の中のものは、ダンガンロンパでしか存在できない」

白銀「外の世界には法律があるからな。出たが最後、私の会社は甚大なダメージを負う」

白銀「だから最原を救出して、一度出てしまえば、もう誰も私たちを追ってこれない」

白銀「……が、問題が一つ。ただ脱出しても視聴率は取れない」

白銀「視聴率が取れなければ、私は単なる裏切り者。会社から首を切られる」

白銀「……チームダンガンロンパ内で、お前らを擁護する人間は一人たりともいなくなるってことだ」

白銀「この中で、視聴率を稼げそうなのは二人だけ……」

白銀「百田。そして赤松。頼む」

赤松「……うん。やるしか、ないよ」

百田「ああ。ここまで来たら、世界級のピエロになるしかない」

百田「助けるぞ。最原を」

白銀「よし。じゃあこのハシゴを伝って下に降りるぞ」ガラガラガランッ

赤松「え」

白銀「あ、入間。合図を送ったら穴からヘリを入れてくれ。で、私たちを回収だ」

入間「素人に無茶なお願いするわね……」

白銀「うーん、いい感じの大穴だ。ハシゴを適当に投げ入れるだけでダンガンロンパの世界に侵入できる」

赤松「待って。これ結構高……ていうかアンタ片腕じゃん! 大丈夫!?」

白銀「伊達に首謀者やってないって!」

白銀「じゃ、カメラ役の私は先に行ってるから、お前らも速く来いよ!」バッ

赤松「飛び降りてんじゃんッ! ハシゴ意味ない!」ガビーンッ

ドーム内

最原(ぐ、う……大丈夫。ちょっとずつ慣れてきた)

最原(片耳は無事だ。大丈夫! 立てる!)

最原「ぐ、う、あ……!」ググッ

最原(……鼓膜だけじゃないな、コレ。体中が痛い。軋む。細かい火傷が不快感を煽る)

最原(でも、外に出ないと……)

最原(みんな待ってるんだから!)

ヘリ内

東条「……あ! やった、やったやったやった!」

入間「どうしたの?」

東条「最原くんが……最原くんが……!」

東条「果ての壁の跡地を突破したよ!」

入間「彼を閉じ込めている密室は、残るところこのダンガンロンパのドームだけ……か」

百田「……画面越しだったが、改めて見ると酷いな。これは」

赤松「熱い……地獄みたい」

白銀「ほれ。百田。二つ目のタブだ。これで最原の居場所がわかる……はず、だ。多分」

百田「わかった」

百田「……最原はこっちに走ってきている」

赤松「もうすぐ、か……!」

赤松「迎えに行こう、百田!」

百田「当然だ」

白銀「最後まで見届けるぞ」

赤松(あと少し……やっと……やっと助けられる!)

赤松(最原!)

モノクマ「……って、思った?」

白銀「ッ!」

百田「モノクマ……いや、いるだろうな。ここにいなければ、どこにいるんだって話だ」

モノクマ「まあ、よほどのことがない限り、生徒に手出しできないっていうルールがあるから、暴力は振るわないけどさ」

白銀「……ふっ。そうだ。お前はこの期に及んでも、単なるマスコットだ」

白銀「今更一体、何ができるっていうんだ?」

モノクマ「こんなことができるっていうんだ!」

ブツンッ

赤松「……え?」

モノクマ「液晶ドームの電源を切った。光源は、爆発と炎の明かりだけ」

モノクマ「ただでさえ平衡感覚のなくなってる最原くんは、一体どこに向かって走るのかな?」ニヤニヤ

白銀「テメェ!」

赤松「さっき開けた大穴の光源は!?」

百田「……」




百田「今は夜だ。たかが知れてる」

赤松「あ……ああ……!」ガタガタ

赤松「やっと……ここまで来れたのに……!」ガクリ

百田「……」

白銀「……赤松……!」

赤松「イヤだよ、こんなの……! 最原! 最原あああああああ!」

モノクマ「うぷぷ……うぷぷぷぷぷぷ……」

モノクマ「うぷ?」ピクリ

白銀「あ?」

モノクマ「……!?」

白銀「……!」

白銀「まだ手はあるぞ! 赤松!」

赤松「え?」

白銀「なあ、モノクマ。私とお前は長い付き合いだから、ある程度わかるんだよ」

白銀「お前が今、動揺したってことがな」ニヤニヤ

モノクマ「え? な、ななななっ、な、何の話?」ビクビク

白銀「確かに光源をここまで落とされちゃ敵わない」

白銀「画面越しに最原の居場所はわかると言っても、それも限界がある。そもそも画面に映る映像も真っ暗になってるし」

白銀「だが……お前、今『ありえない』って顔したな」

白銀「赤松が『叫んだ』ときに『ありえないこと』が起きたんだよな?」ニヤニヤ

白銀「例えば、鼓膜が破れているはずの最原が、赤松の声に反応した……とか、そんなレベルでありえないことが」

百田「!」

赤松「えっ」

モノクマ「ぎっくぅーーー!」

赤松「い、今ぎっくぅーって……え?」

白銀「……赤松」




白銀「叫べ」

赤松「……うん。わかった」

ついでに告白もしちゃおう(提案)

ドーム内

最原「……まずいな。なんか、急に真っ暗になったぞ」

最原「爆発のせいで、ドームの機能が壊れちゃったのかな……」

最原「どうしよう。進む方向がわからなくなっちゃった……」

最原「ここまで……かな……」



『……はら……』


最原「……?」

最原「今のは……」



『最原あああああ!』



最原「……!」

モノクマ「させるかよ! 最原くんをイジメていた爆撃モノクマ部隊をこっちに向かわせてやる!」

白銀「やってみろ! だが……」

白銀「ここまで来たら、私は赤松の盾になる! 命がけでな!」

白銀「私はカメラ役だが、そのためにもここに来たんだよ!」

白銀「コイツが……コイツが私たちの完全勝利の鍵なんだからなァ!」ギンッ

赤松「最原ああああああ!」

モノクマ「うるさいうるさい! もう黙っちゃってよーーー!」


ブゥゥゥン


百田「……来たか。だが見えないな」

白銀「暗いからな。だが……赤松の叫び声と、モノクマの視線で、完全に私たちの居場所はわかってるはずだ」

白銀「ここから先は賭けだ。最原が先に来るか、私たちが全滅するか」

白銀「……なあ百田。もし私が死んだら、右襟にしかけられたカメラを持っていけ」

白銀「小型だけどよ、すげーんだぞ。凄さならモノチッチとタメ張れる」

白銀「こんな暗闇の中でも撮影はバッチリだ」

白銀「……あ、あと天海によろしくな。演技だとしても許されないレベルだ、アレは」

百田「バカ野郎。直接言え」

白銀「……いじわるめ」



ヒュウウウウウウ



白銀「……ラストだ。やるぞ」

百田「ああ」

最原「……!」

最原「さっきまで僕の回りをぶんぶん飛んでた爆撃機が……別のところを爆撃してる」

最原「……そうか。わかった。あそこに向かえばいいのか」

最原「露骨だな。超高校級の探偵相手に、これはちょっとお粗末すぎる」

最原「……そこにいるんだろ、赤松さん!」

白銀「……ケホッ。あー、よかった。お前の意地悪さに救われたぞモノクマ」

白銀「この爆撃機、嬲り殺し用だな? 命中率が意図的に下げられてる」

白銀「標的を活かさず殺さずじわじわと料理するって感じのヤツだ。これなら……まあ、余波はキツイが……」

百田「俺たち二人で十分だ。赤松を庇いきれる」

モノクマ「ちくしょう、ちくしょう……!」

赤松「こっちに来て、最原ああああああ……ゲホッゲホッ!」

赤松「最原あああああああ!」

モノクマ「いい加減にしろよオマエラ……全員助かるなんて、そんな都合のいい展開あるわけないだろ!」

モノクマ「これはっ! ダンガンロンパなんだぞーーーッ!」ガオー




最原「……なんでそこでゲームの名前が出てくるの?」

モノクマ「……」

モノクマ「……さ、いはら……くん……!」ガタガタ

赤松「……さいはら……」

赤松「最原ッ!」ダッ

白銀「赤松! よせ! 私たちから離れるな!」


ヒュウウウウ


百田「投下音……イヤな予感がする!」

赤松「最原……!」

最原「赤松さん、危ない!」ダッ


ドカァァァァァンッ


百田「最原ッ……!」

白銀「赤松ぅーーー!」

モノクマ「死んでいてくれ……死んでいてくれ……頼む、せめてどちらかは……!」

白銀(……こんの、クマァ……!)

赤松「……痛い……何が……」モゾッ

赤松(……何かに纏わりつかれてる……? いや、抱き着かれてる?)

最原「……ああ、本当に……目が離せないなあ、キミは……」

赤松「最原……?」

赤松(……私の体は動く。無事みたい、だけど……じゃあ最原は?)

赤松「ねえ、最原。あんた、無事……?」

最原「……」

赤松「最原……!?」

百田「……二人とも」ザッ

赤松「……ねえ。百田! 最原が……最原が、返事しなくって……!」

赤松「私に抱き着いたまま、動かなくって……!」

赤松「……」

赤松「最原の背中、どうなってるの?」

百田「……」

百田「……帰るぞ。全員で」

赤松「……!」

白銀「……入間。ヘリを下ろせ。帰るぞ」

入間『最原くんは?』

白銀「……」

入間『……』

入間『いいわ。爆撃される前に、ね』

白銀「……モノクマ……」

モノクマ「……」




白銀「私たちの勝ちだ」ニヤァ

百田「どれだけの熱傷だろうが、関係ない。俺たちにはゴン太がいる」

百田「アイツなら、生きている限りはどんな熱傷でも治せる」

百田「……だから、泣くな。まだ最原は生きてる。生きてるんだから」

赤松「だって……だって、こんな……! 私のせいで……私が残ってれば、最原はこんなケガしなくって……!」

赤松「私が走らなければ、最原はこんなケガしなくって……!」

百田「いいんだ。全部コイツが決めたことだ」

赤松「……う」

赤松「うあああ……ああああ……!」ポロポロ

モノクマ「……もう爆撃のことは気にしなくていいよ。全部引き下げさせたから」

白銀「あ? お前にしては素直だな? どういう風の吹き回しだ?」

モノクマ「どうせキミ相手だと、ここまで来たら逃げられちゃうしね。それに……」

モノクマ「こんな展開で、視聴率取れると思ってるのかな?」ギランッ

白銀「……」

モノクマ「……うぷぷ。でも安心して。どんな結果になったとしても、キミは首にはしないよ」

モノクマ「コイツらも……自由にはしないけどね」

白銀「どういうことだ?」

モノクマ「責任は取ってもらうよ」

モノクマ「全員、ダンガンロンパ54に出てもらう。そしてコロシアイを始めるんだ」

モノクマ「今まで必死で仲間のために戦ってきた全員でねッ!」

白銀「そうか」

モノクマ「うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷぷぷ……」

モノクマ「アーッハッハッハ!」

白銀「知らないみたいだから教えてやるぞ、モノクマ」

白銀「世界は"愛"で変わるんだ」

モノクマ「……さっさと失せなよ」

白銀「ああ。あばよ」ザッ

ヘリ内

入間「……なんだ。無言だったからてっきり失敗したかと思ったのに」

東条「ふ、ふえええええええん! よかった! 本当によかったよーーー!」

白銀「泣いてないでさっさと応急処置しろ」

東条「うん……うん!」

百田「……視聴率が取れなければ、コロシアイ、か」

白銀「もちろん、記憶を消した上で、だろうな」

赤松「何……それ……」

白銀「……ま、大丈夫だとは思うけどな」

白銀「カメラに撮った映像に、ちょーっとした魔法をかけるからな……」ニヤァ

赤松「?」

百田「……ま、あとのことは任せるぞ」

白銀「ああ。任された」

チームダンガンロンパ本社ビル 屋上

春川「……」

百田「……ただいま」

春川「モモタン、ボロボロ。何してきたの」

百田「爆撃機と格闘」

春川「……無茶するね」

百田「足止め班はどうした?」

春川「数時間くらいで全員拘束されちゃった。やっぱり相手はダンガンロンパを作るだけの力のある組織だったからね」

春川「でもなんか、急に拘束が解かれたんだよ。今回はいいって」

百田(俺たちが最原を助けたタイミングか……?)

春川「あとね。暴れられたら困るからって、軟禁のレベルが下がった。あのフロアと、屋上までの間なら好きに行動していいって」

春川「……モモタン。私たち、これからどうなるのかな」

百田「さぁな……あとは白銀を信じるだけだ」

本社ビル内

白銀「……ん」

天海「やっほー」

白銀「天海か」

天海「ちょっと聞きたいことがあって、来ちゃった」

白銀「……」

天海「なんでコロシアイを没企画にしたの? あれ、確か凄い人気コンテンツだったよね」

白銀「ちょうど、周期だったんだよ。ガス抜きのオマケを作るにはいい時期だったんだ」

白銀「残念だったな。お前、コロシアイを止めるって張り切ってたのに」ニヤニヤ

天海「……そもそも発生しない方がいいに決まってるよ、あんなの」

天海「でも、俺たちは助かったけどさ。この後の次回作が作られるとしたら……」

白銀「ん。百田から聞いたか?」

天海「聞いた。視聴率が悪かったら俺たちでコロシアイ、だろ?」

天海「でも仮に視聴率が取れて、俺たちが助かったとしても、次回作は……」

白銀「普通にコロシアイ、だろうな。ダンガンロンパっぽく」

白銀「……だけど、まあ、そうならないかもしれないぞ?」

天海「?」

白銀「人が死ぬのは悲しいからなぁ」

天海「……えーっと、何を当たり前のことを今更言ってるの?」

白銀「まあ見てろ」ニヤニヤ

白銀「……あ、そうだ。天海」

天海「何?」

白銀「悪かったな。演技だったとは言え、許されないレベルだった。アレは」

天海「……」

天海「いいよ。嘘だったのなら。白銀さんは仲間だしね」

白銀「……そうか」

赤松(結局生放送はされなかった)

赤松(色々なアクシデントがあったため、その対応に追われ、番組が中止。そういう話になっていた)

赤松(そして最原が起きないまま、二日後。あのときの話が放送され……)



赤松「……え?」

百田「お前っ、これっ……!」

白銀「これが私の魔法だ」ニヤニヤ

夢野「な、なにが魔法じゃ……これ……これ……」

全員「嘘じゃんッ!」



赤松(全員が目を丸くした)

どこかの病室

最原「……ん……」

赤松「あ。最原」

最原「……赤松、さん?」

赤松「なんか、そろそろ起きるんじゃないかなーって思ってさ。来てみたらビンゴ」

赤松「私の勘も、中々捨てたものじゃないね」

最原「……生きてる」

赤松「うん。そうだね。全員、生きてるよ」ポロポロ

最原「赤松さん、泣いてる」

赤松「もう泣きっぱなしだよ、この前から。ずっと……!」

赤松「最原に騙されてから、ずっとだよ!」

最原「……ごめん。辛い思いさせたね」

最原「ところで、ここは? 新天地じゃないの?」

赤松「……嘘だよ。そんなの」

最原「え?」

赤松「一から説明するから、よく聞いてね」

十数分後

最原「あー……そうか。なんとなく白銀さんの言動から、そうなんじゃないかなーとはおもってたけど!」

最原「全部嘘だったのか!」

赤松「うん、酷いよね」

最原「……で」

最原「視聴率は取れたの?」

赤松「うん。それは問題なかった。問題は……なかったんだけ、ど」ダラダラ

最原「ん?」

赤松「その……あれ……白銀が色々暴走して、大変なことになってて……」


バターンッ ゾロゾロゾロ


最原(赤松さんがさっき呼んだみんなが、続々と病室に集まってきた)

王馬「おー! 本当に起きてるね! まさに死者の復活だ!」

最原「あ、王馬くん。死者なんて酷い言い草だな。ねえ?」

赤松「……」ダラダラダラ

最原「ん?」

百田「……最原。お前のお陰で俺たちは助かった。エレベーターのことだけじゃなくって、その……」

百田「……」ダラダラダラ

最原「ん? ん? 何これ。どんな空気?」

星「……最原。お前、世の中では本当に死んだことになってるぞ」

最原「……」

最原「……んん?」

白銀「くっくっく。モノクマが散々言ってただろ? 人が死ななきゃダンガンロンパじゃないって」

白銀「私も同感だ。なので色々編集し、発言や映像を切り貼りし……」

白銀「『赤松さんを救ったヒーロー、最原終一くんは、哀れにも最後の最後で死んでしまった!』的な感じで編集したのさ!」

最原「はい!?」ガビーンッ!

白銀「ああ、もちろん視聴率稼ぎのためじゃないぞ? このラストが色々と波紋を呼んでな?」

白銀「……いや、違うな。賛否両論と言い換えようか?」

白銀「『人が死なないダンガンロンパ』を望む声がいくらか出てきてるんだ」

白銀「いやー、何もかもお前が死んでくれたお陰だよ! ありがとな!」ニコニコ

最原「生きてるけどッ!?」ガビーンッ!

白銀「徹底的に悲劇として編集したからなー。世の中ではもう追悼ムード一色だ!」

白銀「まさに、お前の死に全世界が泣いてるんだぞ? これじゃあもうしばらくコロシアイなんて起きねーだろ!」

白銀「人が死ぬのは、こんなにも悲しいことなんだって思い知らせてやったんだからな! 世界に!」

第二の人生は「最原の双子の生き別れの弟」ですか…

最原「ちょ、ちょっと待ってよ! そもそも何でそんな編集ができたの!?」

赤松「あんたのケガ、本当に酷かったからね……あれじゃあ誰が見ても死ぬって思うでしょ」

獄原「僕の軟膏で治るレベルだけどね」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

アンジー「いやいやー。アンジーのよりはマシだったよー」

入間「確かにそうだったけども……」

最原「……待って。ということは、僕のこれからの扱いはどうなるの?」

最原「まさか一生、生きていることを隠して行けとは言わないよね!?」ダラダラダラ

白銀「最原。死んでくれ」

最原「い、言っちゃったよ!」ガビーンッ

白銀「まあでも、過去最高の視聴率になったからな。お前らのお陰で」

白銀「ほとぼりが冷めるまでは、ダンガンロンパの本社で匿っててやるよ」

白銀「あ、私はこれから仕事があるから! 女子高校生にして出世コースまっしぐらだぞ!」

白銀「もっと出世できたらお前の墓前にイチゴ大福でも添えてやるから、楽しみにしてろよー! じゃあなー!」バイバイ

最原「だから死んでないってーーー! ああ行っちゃった!」

天海「ごめん。あの人は学園生活が始まる前から、ああいう人なんだ……」

キーボ「嵐のような人、というのでしょうか。アレは」

真宮寺「ハリケーンとかでもいいと思うわ」

春川「でもまあ、これでいいんじゃない?」

春川「元々、私たちは世の中から外れた存在」

春川「私たちだけが、最原が生きていることを知っていればいい。ね?」ニコニコ

最原「ちょっと理屈が極端すぎない?」

茶柱「まあ、一年か二年くらい経ったら流石にみんなの記憶も薄れるでしょうし……」

夢野「そのときになったら外に出れるじゃろう」

夢野「あれ? お主、最原終一に似てない? とか言われたら」

夢野「こうじゃ」ぱふあ

茶柱「あなたそれクセになってません!?」ガビーンッ!

夢野「かーっかっかっか!」ウネウネ

最原「えーっと……ということは、何? あの、僕は、まだ……」

赤松「う、うん……」

赤松「ダンガンロンパ本社ビルっていう密室から、出られないんだよね……」ダラダラ

最原「」

百田「最原……」

最原「も、百田くん……」

百田「欲しい本があったら俺が買ってきてやるから」ポンッ

最原「」

天海「俺たちは普通にもう自由だからねー」

東条「う、うん。新しい身分も貰えたしね」

最原「留年気分だよ! 何これ! 僕が何したっていうんだよ!」

赤松「私たちを騙したでしょ」

最原「」

アンジー「その報いとしては軽い方かもねー」

入間「共犯者のあなたが言うと本当に救いようがないわね」

天海「……でも最原くんには悪いけど、俺はちょっと嬉しいって思う」

天海「どんな形であれ、コロシアイを終わらせることができたから」

最原「天海くん……」

キーボ「まだわかりませんよ? 人が死なないダンガンロンパが産まれる可能性もあることは認めますが」

王馬「そうだねー。仮に産まれたとして、それで視聴率が取れなかったら、また路線を元に戻すだろうし」

天海「未来のことがわからないならさ、せめて希望を持ちたいんだー」

春川「……希望、ね」

最原「……はあ……まだ監禁生活かぁ……」ドヨーン

春川「……ふふ。いいんじゃない? 最原」

最原「春川さん?」

春川「だってさ、死人に恋する人間なんて限られてるでしょ?」

最原「はい?」

春川「あんた、世の中では人気者だよ? 本当に大人気」

春川「ニュースとかでも『最原くんみたいな人と結婚したい』ってキャスターとかコメンテーターとかが言ってたし」

春川「赤松ってば、そんな言葉に本気で嫉妬してたりしてさー! あはは!」

赤松「!?」

最原「え?」

春川「いやー、本当にいじらしいねぇ! 赤松って」

赤松「死ねッ!」ブンッ

春川「あぶなっ!」

最原(春川さんは赤松さんの投げた枕をヒョイと軽い動作で避ける)

最原(それ僕の枕なんだけど……)

春川「……ま、最原。私たちも当面、このダンガンロンパ本社ビルを家にするつもりだからさ」

春川「これなら寂しくないでしょ? ね?」ニコニコ

最原「それは、寂しくないけどさ……」

春川「……じゃ、私たちはそろそろ行くね」

春川「赤松」

赤松「なに?」

春川「……ダンガンロンパの世界じゃなくっても、人はいつ死ぬかわからないからさ」

春川「早めに気持ちは伝えた方がいいよ」

赤松「……」

夢野「……」ソワソワ

赤松「速さは力、でしょ」プイッ

夢野「んあー!」ニコニコ

最原(そして再び、病室には僕と赤松さんだけになった)

赤松「……」

最原「……」

最原(……全部嘘、か)

最原(本当に?)

残りはエピローグだけだけど、もう寝ます! 続きは夕方!

最原「……」ムクリ

赤松「最原?」

最原「……鼓膜の方はまだみたいだけど、火傷の方はすっかり完治だね」

最原「流石はゴン太くんだ」グッグッ

赤松「どこか行きたいの?」

最原「外が見える場所ならどこでもいい。連れてってくれない?」

赤松「……うん」

屋上

最原「……さっきの話、本当に嘘じゃなかったね。丸っきり地球だし、ちゃんと文明もある」

最原「いや、違うな。全部、嘘だったんだね」

最原「……」

赤松「最原……」

最原「監禁に関してはもうどうでもいいよ。永遠って言われてるわけでもないし」

最原「でも流石に、自分の記憶が全部嘘だったって言われたらさ……」

最原「ショックだな」

赤松「……最原。背中はもう痛くないんだったよね?」

最原「え?」

赤松「そのまま振り向かないで」


ギュッ

最原「おわっと……いきなり後ろから抱き着かれるとは……」

赤松「……百田が言ってた。社会の輪ほど立派じゃないけど、私たち十六人の輪だって立派な居場所だって」

赤松「だから助けた」

最原「……」

赤松「ごめんね。あんな目に逢わせて。怖かったよね。今も、苦しいよね……!」

最原「うん」

赤松「東条は言ってた。あのまま何も知らないまま最原を眠らせる手もあったんじゃないかって」

赤松「でも、それ、絶対イヤだったからさ! どうしても助けたくって!」

赤松「最原とまた一緒にいたくって……!」

最原「……かもね。死んでたら死んでたで、それはそれで救いだったかもしれない」

赤松「最原……!」

最原「……どうすればいいんだろうね。こういうとき」

赤松「泣いていいんだよ! もう! 全部終わったの!」

最原「!」

赤松「泣いていいから……! もう、笑顔で誤魔化さなくっていいから……!」

最原「……」

最原「……ぐ……!」

ビル内の大部屋

茶柱「もうちょっとカメラ寄れません?」

入間「そんなことしたら流石にドローンの存在がバレるわよ」

夢野「おおー。泣いとる泣いとる。見事な泣きっぷりじゃなぁ」

夢野「……」

夢野「ふぐう!」ブワッ

星「貰い泣きするのも速いんだな、お前は。ほら、ハンカチだ」

百田「……」

百田「最原と赤松の逢瀬を空撮してる俺たちは、傍目から見たらどう考えてもロクデナシなんだが……」

白銀「別にいいだろ。ちょっと気になってたしな」

白銀「……私がやったことの顛末は、最後まで見届けないとな」

春川「言い訳でしょ」

白銀「くくく。同罪のお前に言われてもなぁ」

茶柱「今からでもいいので、この人殺しません?」

春川「うーん、私も同じこと考えてた」

東条「やめよう!? 確かに救い難い人だけどさ!」

獄原「アンジーさんとどっこいどっこいの人だけど、理由なく殺しはよくないよ」ゴゴゴゴゴ

アンジー「え、アンジーってつむぎと同レベル?」

真宮寺「ともかくこれでいよいよ、私たち全員が同じ場所に立ったわね」

キーボ「ボクたちの嘘を認識し、それぞれのやり方で受け止めた、って地点ですね?」

キーボ「人類と同列に語られたくありませんが、まあ確かに。そこらへんのみは同意します」

王馬「さてと。それじゃあみんなで考えないとね」

天海「これからどうするか、か……」

天海「俺はもう決めたよ。全員揃って、あの場から脱出できた」

天海「身も心も同様に。もう悔いも心残しも一切ないよ」

星「俺はどんな世界でも生を楽しむだけだ。前と一緒でな」

星「……俺にとっての未知の世界。楽しみで仕方がない」

入間「……あ。泣き止んだみたいね。マイクの感度を上げて会話を拾うわ」カチャカチャ

百田「もうそろそろやめておけ……と言いたいが……」

春川「あん! 好奇心に素直なモモタン、素敵!」

王馬「キミたちお互いに甘すぎない?」

最原「……ありがとう赤松さん。ちょっとは落ち着いたよ」

最原「あの、ところでさ……こういうのも悪くはないんだけど」

赤松「何?」

最原「向き合って抱き合わない?」

赤松「は?」

最原「……ダメ、かな?」

赤松「……」




赤松「い、いい……けど?」

春川「ヒャッハーーー! 本格的なラブロマンス来たーーーッ!」

夢野「速さイズパワー! 速さイズパワー! イエーイ!」

百田「最原に対して申し訳がなさすぎる……! すまん、俺は死んだら地獄に落ちるから許してくれ……!」

白銀「お前はお前で気にし過ぎだ」

白銀「最高のショーだとは思わんかね!?」

王馬「……?」

王馬(向かい合って抱き合って……で、最原ちゃん、赤松ちゃんに何か囁いてる?)

王馬(マイクじゃ拾えないくらい小声みたいだけど……)

王馬(あっ)

アンジー「いいなぁ。アンジーもいつか終一に……」

最原『やっぱり絶望したので自殺しよう』ヨジヨジ

王馬以外全員「ん?」

最原『さよなら世界』ドヨーン

王馬以外全員「何ィーーーッ!?」



ドタドタドターーーッ!


王馬「み、みんな。違うよ、これは……あ、遅かった……」

ドタバタガチャーーーンッ

春川「最原、早まらないでーーーッ! 親友の私がいるからーーー!」

百田「ここまで来てメンバーをかけさせてたまるか!」

キーボ「人類が死ぬところ、凄い興味があります!」

夢野「やめい! いやキーボなどどうでもよい!」

夢野「死ぬ速度だけは遅い方がいいぞ、最原ァーーーッ!」

東条「さ、最原くぅん! オムライス作ってあげるからぁー! ハートマークのヤツ!」

アンジー「終一ーーー! レアナンバーの諭吉あげるからー!」

獄原「……死体の回収に来たよ」ゴゴゴゴゴゴ

真宮寺「何人か止める気がないのがいるわね」

茶柱「放っておきましょう。そんなことより最原さんです!」

入間「ご、ご主人様ァ! あ、間違えた! 最原くん!」

天海「また後遺症出てる」

星「もう不治の病だな……で」




星「……途中から気付いたが、やっぱり嘘だったか」

夢野「え」

最原「……まさか、こんな人数が見ていたなんて思わなかったけど」

赤松「……」

赤松「あーんーたーたーちー……!」ドドドドドドド

夢野「逃げる」ギュンッ

星「同じく」ギュンッ

茶柱「相っ変わらずの速さですねぇ!」ガビーンッ

赤松「逃がすかァーーーッ!」

ギャーギャーワーワー



最原「……はあ。あー、あんな人数に心配されてたんだなー」

白銀「仕方ないだろ? 実際にこの世界の真実は酷いモンだからな」

最原「うん。そうだね」

最原「でもこれが本当に真実?」

白銀「……何が言いたい?」

最原「極端な話、思い出しライトを浴びたのは僕たちの方じゃなくって……」

最原「ダンガンロンパのドームの外すべて、って可能性もあるよなーって」

白銀「……」

白銀「くっ、くくくく……それ、本気で言ってるわけじゃないだろ?」

最原「まあ、ね。でもありえなくはないから」

白銀「……お前……」

白銀「ダンガンロンパより狂ってるな」ニヤァ

最原「酷い侮辱だ」

白銀「そうだな。それが真実ならとても面白い。お前たちの方が本当で、この世界の方が嘘か」

白銀「……だったらどうする?」

最原「さあね。ただ、それが真実なら絶対に追いかけるよ」

最原「……僕が自由になったらね」

白銀「やっぱりお前はあの場で殺しておくべきだった」ニヤニヤ

最原「え」

白銀「……なんて、な。嘘だよ」

春川「あー! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい赤松!」

春川「悪気があったことは否定しないけど!」

赤松「嘘でもいいから否定しろォ! 不快すぎるから!」ウガァ

春川「あ! 白銀が最原とイチャついてる」

赤松「そんな嘘に引っかかると思って……」

赤松「……」チラリ

白銀「……」

白銀「い、いや違う。普通に話してただけだ。普通に」アタフタ

赤松「やっぱりお前、死ね!」ギンッ

白銀「うわー! 首謀者差別反対! 首謀者差別反対! まだ腕も治ってないんだぞー!」

獄原「……今度、骨折が治る薬も作ってみようか……な……」ゴゴゴゴゴ

最原「……」

最原(ここから先の物語は……もはやダンガンロンパの話ではなく)

最原(……僕たちの、これからの話をしよう)

"超高校級のコスプレイヤー" 白銀つむぎの進路

白銀「あーっはっはっは! あー、愉快愉快! 楽しい楽しい!」

白銀「出世街道を全力で突っ走るのはやはり心地いいなぁ、オイ!」



最原(白銀さんはチームダンガンロンパ内での功績を称えられ、女子高生ながらも相当の発言力を持つようになった)

最原(目指すところは次期社長だそうだ)

最原(できる限り『人が死なないダンガンロンパ』の方向性で活動することを僕たちと約束してくれた)

最原(……まあ、やり過ぎてる感があるのは否めないけど、楽しそうだ)

"超高校級の???" 天海蘭太郎の進路

天海「前のコロシアイのとき、俺と一緒に最後まで生き残った二人が、この世界のどこかにいる」

天海「……探し出して、会ってくるよ。俺が命がけで守ったものだから」



最原(天海くんは一番最初にダンガンロンパ本社ビルから去って行った)

最原(その後、何度か手紙が来るので無事ではあるのだろう)

最原(世界は思った以上に広く、難航はしているようだが、彼ならきっと大丈夫だ)

最原(あの明るさがあれば、きっと)

"超高校級のマジシャン" 夢野秘密子の進路

夢野「速さこそが力。これは間違いなく真実じゃ」

夢野「故に、不本意じゃろうが何じゃろうが、手段は選ばん!」

夢野「ダンガンロンパで得た知名度すら使って、ウチは世界中に魔法を届けてみせようぞ!」



最原(夢野さんは世界中で自分のマジックを……いや、魔法を見せることを望んだ)

最原(ダンガンロンパで得た名声すら利用し、既に世界規模のマジシャンとなっている)

最原(世界中の人を笑顔に。そして自分自身も笑顔にするんじゃ、と息巻いていた)

最原(……それはさておいて、あの『ぱふあ』を生放送で披露するのはやめてほしかった)

"超高校級の発明家" 入間美兎の進路

入間「私様の発明は、もっと世の中をよくできるはずよ?」

入間「だって、この頭脳も美貌も嘘ではないのだから」

入間「だからこそ、あなたたちと同じダンガンロンパの世界にも来れたのだしね」



最原(自分自身のアイデンティティを一番見失っていなかったのは入間さんだった)

最原(生き残り手当のほとんどを叩き、企業を立ち上げ、大成功)

最原(今では若き美人社長としてあらゆるメディアに露出している。金よりも自己顕示の方が大事なようだ)

最原(……インタビューされたとき、彼女の口から時たま出てくる『麗しのご主人様』とは誰のことだろう? 気になる)

"超高校級のメイド" 東条斬美の進路

東条「ひとまず、私の記憶通り、私にとってのいつも通りを再現してみるよ」

東条「依頼があったらいつでも言ってね。できるだけ最優先でかけつけるから!」

東条「……みんなのことは、忘れないから……ね?」



最原(東条さんは雇われメイドとして活躍中だ。やはりハイスペックで、売れっ子らしい)

最原(しかし依頼がどんどんエスカレートしていき、最近に至っては『国家滅亡』を依頼されたようだ)

最原(……さ、流石に断ったと思いたい。押し切られてないよね? 大丈夫だよね?)

最原(色んな意味で心配すぎる……)

"超高校級の総統" 王馬小吉の進路

王馬「現実にDICEがないのなら、一から作るしかないよね」

王馬「当然だろ? じゃないと、悪の総統じゃないし」

王馬「……あの世界への反逆だ。丸っきり同じものを作って、チームダンガンロンパに吠え面かかせてあげるよ」ニヤァ



最原(王馬くんは表舞台から姿を消した。そして、本当にDICEを結成してしまったらしい)

最原(たまに僕の中にあるDICEの記憶通りの事件をそっくりそのまま引き起こし、ニュースになっている)

最原(だが、あの組織のモットーは『笑える犯罪』だ。そこまで深刻ではない)

最原(……たまに誰にも気づかれないように、コッソリ会いに来てくれるので、心配はしていないし)

"超高校級のロボット" キーボの進路

キーボ「今回の件で、人類に関しては色々と考えさせられました」

キーボ「……ロボットが世界を支配するべきだという考えは変わりませんがね」

キーボ「残すべき人類の選別を開始します」



最原(キーボくんはダンガンロンパ本社内から離れることは基本的になかった)

最原(ただ、たまに外にフラッと出かけては数週間帰ってこないことがある)

最原(同時期に、各地で『悪人を裁き、弱きを助けるロボットヒーロー』の噂が聞こえてきたんだけど……)

最原(ちょっと待って。選別って何やってるの? キーボくん?)

"超高校級の美術部" 夜長アンジーの進路

アンジー「アンジーはねー、本能的にお金が大好きなんだー」

アンジー「あの世界では色んな美しいものを見たからー、今はもーっと金稼ぎが上手くできる気がするよー」

アンジー「……美術品の闇市場さえあればね」



最原(アンジーさんは生き残り手当、新しい身分、保証制度の全てを使いつぶし、美術品の闇市場を開拓した)

最原(そして、定期的に『ギャングとかマフィアとか麻薬カルテルを怒らせて殺された』という噂を流しては……)

最原(本当に死んだんじゃ、というタイミングでヒョッコリ帰ってくるということを繰り返している)

最原(そして熱烈に僕に抱き着いては、また出かけて同じことの繰り返し。もうここまで来たら、あの人死なないな……)

"超高校級の民俗学者" 真宮寺是清の進路

真宮寺「また一から民俗学者として始めて行くわ」

真宮寺「……ここは、私にとっても未知の世界だもの」

真宮寺「『彼』と共に、ゆっくり歩んでいくとしましょう」



最原(最後の最後まで謎だらけだった真宮寺くんは、この世界でも民俗学者としての活動を始めた)

最原(たまに論文や著書を出しては、その筋の間で話題になっている)

最原(素人にも中々わかりやすく書かれているので、僕にとっても面白い)

最原(……恋人の噂は聞かないけど、彼って一体、誰のことなんだろう?)

"超高校級の合気道家" 茶柱転子の進路

茶柱「ひとまず、ネオ合気道がこの世に存在しないことはわかりました」

茶柱「ですが、転子の中には確かに存在しています」

茶柱「……世界中を巡って、転子の力が偽物ではないことを証明してきますね!」



最原(茶柱さんは武者修行。そして、自分自身の存在の確認の旅に出た)

最原(合気道として無茶苦茶ではあったけど、一応戦闘に関しては実用的だったようで、負けの噂は聞かない)

最原(ネオ合気道の力が本物だと証明しきったら、道場を開いて、本当にネオ合気道を広めるつもりのようだ)

最原(夢を語る彼女の笑顔は、とても偽物だとは思えない)

"超高校級のテニス選手" 星竜馬の進路

星「俺か? 俺はなんだってするさ。楽しければ、女、食べ物、娯楽、本当になんでもな」

星「……だが、まあアレだ。せっかくテニス選手の才能を貰ったんだ」

星「手始めにテニスの世界を蹂躙するのも悪くあるまい! ふはははははは!」



最原(星くんはスポーツに力を入れている学校へ入り、テニス部に入部した)

最原(そしてその才能をフル活用し、ついに世界選手権への切符を手にした)

最原(……才能はあると言っても、歯ごたえはあるようで、本当に楽しそうだ)

最原(彼にはどの世界でも楽しんでやっていけるという安心感がある。まあ、楽しみ方がちょっと極端だけど)

"超高校級の昆虫博士" 獄原ゴン太の進路

獄原「……医者を目指してみるよ……」ゴゴゴゴゴゴゴ

獄原「……人を助けたい、わけじゃないんだけど……」ゴゴゴゴゴゴゴ

獄原「……虫さんの可能性を、もっと見てみたいんだ……」ゴゴゴゴゴゴゴ



最原(ゴン太くんは昆虫博士としての道も進みながら、医者になるために勉強を始めた)

最原(……僕を助けたときに、何か彼に感じ入ったものがあったのかも)

最原(なんて、それは自惚れた想像だけど)

最原(……ただ人体実験に最適な『おしおき不可避な人間』を探すのだけはやめてほしい。怖い)

"超高校級の暗殺者" 春川魔姫の進路

春川「……いやいや。流石に暗殺者としてはやっていかないよ。あれはもうあの世界で廃業」

春川「ひとまずさ、保育士としてやっていこうと思うんだ」

春川「……応援しててくれる?」ニコリ



最原(春川さんは、ダンガンロンパ本社ビルに残り、保育士になるため勉強中だ)

最原(作られたものとは言え、暗殺者の才能は本物だけど、もう二度と使いたくはないようだ)

最原(……まあ、今更言うことでもないと思うけど)

最原(原動力は愛だろうなぁ)

"超高校級の宇宙飛行士" 百田解斗の進路

百田「宇宙飛行士になる。当然だろ。この気持ちは嘘じゃないからな」

百田「生き残り手当も、他の保証制度も、全部そのために使おう」

百田「……まあ、あと……アイツとの未来のためにもな」



最原(百田くんも春川さんと同様。本社ビルに残っている)

最原(どうも僕のことを心配させてしまっているようだ)

最原(宇宙飛行士についての勉強をする傍ら、僕と遊び、春川さんとイチャついている)

最原(……なんか、あの学園とやってることまるで変わらないな。この三人は)

最原(そして……僕たちの話をしよう)

最原("超高校級の探偵"、最原終一の進路と)

最原("超高校級のピアニスト"、赤松楓の進路の話を)

一年後

最原「……はあ。割と早めに外に出れる目途が立ったなぁ……」

最原「まあ、と言っても……一年経っちゃってるけど」ズーン

赤松「お疲れ、最原。大変だったね」

最原「みんながチョコチョコ遊びに来てくれるから退屈はしなかったけどさ……」

赤松「……」

赤松「ねえ。新しい身分と、生き残り手当を貰ったらさ、何するの?」

最原「ん? んー……真実を探しに行く」

赤松「なにそれ」

最原「僕たちの人生は嘘だった……やっぱりそれじゃ納得できない部分もあるからさ」

最原「嘘に隠された僅かな真実を探しに行くよ」

最原「例えばさ、少なくとも両親がいないと、僕は産まれてきてないでしょ?」

最原「血縁上の親を探すところから始めようと思う」

赤松「……そう」

最原「そういえば、またコンクールで入賞したんだって? 凄いね、赤松さん」

赤松「あの程度余裕。"超高校級のピアニスト"だよ?」

最原「そっか」

最原「……ねえ。赤松さんはどうするの?」

最原「今までダンガンロンパ本社ビルに残ってたのは、僕のせいだよね?」

最原「嬉しかったけど、もう僕は自由だしさ……」

赤松「んん……どうしようかな。ピアノはどこでも弾けるし……」

赤松「……いや。この際、言おうか」

最原「ん?」

赤松「コンクールでさ、なんか凄いピアニストの人が審査員にいたらしいんだけど……」

赤松「誘われてるんだよね。うちの学校に来ないかって」

赤松「フランス語で」

最原「フランス語で!?」ガビーンッ!

赤松「ねえ! 最原もついてきてよ!」

最原「えっ」

赤松「両親がフランス人かもしれないでしょ!?」

最原「いや流石にそれはどうだろう!?」ガビーンッ!

赤松「な、なんで? 可能性としてなくは……」

最原「ないけど、僕どう見ても日系だよね!?」

赤松「……だ、ダメ?」

最原「あー……あー……」

赤松「……わかった。わかったよ。そうだよね。最原、やっと自由なんだもんね」

赤松「冗談。私の都合なんかで、最原を引っ張りまわしたりしないよ……」

赤松「私のっ……都合なんかじゃ……!」ウルウル

最原「行くーーーッ!」ズガァァァンッ




最原(どうもまだ、密室から脱出できそうにない……!)

最原(次に僕を縛る密室は、赤松さんの都合)

最原(つくづく、なにかを縛られることに縁があるらしい)

百田「何をやってるんだ、お前らは……」

春川「ほら。さっさと来なよ、最原」

赤松「……うん。全員を集めるの、苦労したしね」

最原「……ああ、うん。ありがとう、僕のために」

百田「いいさ。だって今日は、お前の卒業記念日だからな」

春川「一年遅れのね!」

最原「……はあ。改めて一年遅れてるって思うと、凹むな……」

百田「俺たちを騙した罰にしては軽い」

最原「ああ、そう言われるとぐうの音も出ないけどさ……」

赤松「行こう、最原! みんな待ってるから!」

最原「……」

最原(赤松さんと手を繋ぎ、大部屋へと向かう)

最原(そこに待っているのは、僕の居場所だ)

最原(命がけで手に入れた、僕の居場所だ)

最原(一年くらい遅れちゃったけど、これで正真正銘、やっと……)

才囚学園生徒一同「卒業! おめでとーーーッ!」

最原(これで終わりだ)

最原「……うん。ありがとう、みんな!」





逆転ダンガンロンパ

THE END

ビヨヨーンッ


モノクマ「……」

モノクマ「……あ、ごめん。あれを忘れてたね」

モノクマ「あのときの発言をプレイバーーーック! これで正真正銘、終わりだよ!」ピッ


キュルルルルル

一年前 屋上

最原「……ありがとう赤松さん。ちょっとは落ち着いたよ」

最原「あの、ところでさ……こういうのも悪くはないんだけど」

赤松「何?」

最原「向き合って抱き合わない?」

赤松「は?」

最原「……ダメ、かな?」

赤松「……」




赤松「い、いい……けど?」


ギュッ

最原「はあ……この距離なら大丈夫かな……」

赤松「ひゃっ。み、耳元で声出さないでよ……」

最原「ごめん。でもこうするしかなくって。空撮されてるから」

赤松「は?」

最原「入間さんのドローンが空中からこっち撮ってるんだよ」

赤松「は!? 何それ!?」ガビーンッ!

最原「あんまり大きな声出すとバレるよ……後でどうにかするから」

赤松「あ、ああ、うん……」

最原「……あのさ。今の関係をまだ続けてたいから、って言って、逃げてたけどさ」

赤松「うん?」




最原「好きだよ。赤松さんのこと」

赤松「ッ!」

赤松「……私も……」

赤松「最原……私も……あなたのことが好き、です……」カァァァ

最原「よし、じゃあそろそろドローンを退治しよう」

赤松「速ッ! もうちょっと色々言いたいことあるんだけど!?」

最原「もう充分でしょ。それじゃあちょっと絶望してくるね」

赤松「あっ。やだ、離れないでよ」

最原「続きは後にしよう?」

赤松「……約束だからね」

最原「わかった」バッ



ピッ


モノクマ「あと、ボクが撮った映像はこれ以外にもエロエロあるんだけど、さてどれからにしたい?」

モノクマ「順当に『後回しにした続き』の映像か、それともその後か、それともその後の後か」

赤松「やめろおおおおおおおお!」ズガァァァァンッ!

最原「僕の卒業式が公開処刑にーーーッ!」ガビーンッ!

百田「お前ら……」

春川「……ははっ」

"才囚学園の学園長" モノクマの進路

モノクマ「まあ、みんなの考えるダンガンロンパの形に添うよ」

モノクマ「あと、才囚学園の生徒にはいい意味でも悪い意味でも思い入れがあるので」

モノクマ「ひとまずボクの手の届く範囲でおちょくらせてもらうよ! 思いつく限りね!」

モノクマ「じゃあ次はクリスマスに最原くんの個室で起こった、赤松さんとの色んな意味で『セイヤッ』な夜を……」

最原&赤松「これで終わりだーーーッ!」バコォォォンッ!

モノクマ「へぶっ」



終結

今度こそ完全完結。

お疲れさまでした!

ふいー。あー、疲れた。一週間経って落ち着いてきたあたりで、軽くざっとあとがき書きます。

書き溜めなしだったんで、かなり気を張ってました。一番『あっ、やっべぇコレどうしよう』と思ったのは白銀が『発注ミスでない正常なモノクマが入ってきた穴』の話をしたとき。これ完璧に『外の世界は新世界じゃなくって、まともに地球』っていう意味の失言です。最原くんが白銀さんを信じてたのと、まさか『記憶がねつ造だとは思わない』という常識のお陰でなんとかなりましたが。

ビックリしたのがあらすじにガッと書いた通常ラブアパの話を見たいという声がチョコチョコ聞こえてきたことです。お、驚いた……本当に……。

性格逆転スイッチの時点で、まさか話をここまで広げるハメになるとはまったく思っていなかったのですが、逆転ラブアパの、なんかまとめサイトとかの感想とかで『ここまで来たら最終日までやってほしい』って声があったのでやりました。楽しかったです。

じゃあ逆転した連中の印象をファッと書いて終わります。次なに書こうかなー。

最原:自信という揺るがぬ強さを手に入れた結果、被害者属性というダンガンロンパ主人公に必須な要素が蒸発した。
赤松:スレた結果、皮肉なことに主人公っぽさを手に入れた。
白銀:今回はたまたま味方だったが、コロシアイだったら最後の最後で天海くんを本気でイジメると思う。今度はガチで。
天海:原作ではハンターハンターっぽかったが、ここではコロッケ!をイメージしました。
夢野:原作では本気出さないだけで、実際にはこれくらいマジック、じゃなくて魔法使えると思う。
入間:これが性格逆転ものですよ、と知らしめるために思いっきり逆転した人物の一人。Mっ気部分据え置き
東条:入間と同様。多分『苦悶の糸』を食らったときの悲惨さは原作より上になると思う。
王馬:優雅なカリスマの本当の意味は『弟子に背中を刺されて死にそう』くらいの意味。つまり時臣
キーボ:実は学園生活を一番楽しんでいたと思う
アンジー:卒業試験のくだりは札束に偽造シールを紛れ込ませたことを知ったあたりで『紙束のお陰だねー』と言わせたかった
真宮寺:友情的な意味で女性陣と一番仲良くなった男性はこの人。ただ中身は姉だけど。多分化粧品の使い方のレクチャーとかしてた。
茶柱:なんか……テンションが微妙に原作より下がってる気がする……
星:イスカンダル。以上。
獄原:最強さん。以上。
春川:百田とのやり取りは高津カリノ作品に影響受けまくってました。
百田:理性的で理論的、なだけで原作と同様に言動は無茶苦茶。可能であることと現実的であることはまったく別だと思い知らせてくれる。

またどこかで。ぐっばいならー

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