※注意事項※
このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの二次創作です。
続き物ですので、過去作(【モバマスSS】あやかし事務所のアイドルさん【文香(?)】、【モバマスSS】続・あやかし事務所のアイドルさん)を先に読んでいただければ幸いです。
登場するアイドルの多くが妖怪という設定になっております。
それでも構わない、人外アイドルばっちこい!という方のみご覧下さい。
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むかしむかし、ある所に文香という読書好きの妖怪がおりました。
日陰者を自称し、人生の大半を引きこもって生活していた文香でしたが、小さなきっかけから彼女の生活は激変してしまいます。
今回はそんな文香の新しい日常のおはなしです。
あやかし事務所のアイドルさん 第3話:文香と新生活と次へのステップ
カッチ…カッチ…チッ、ジリリリリリリリリリリ!!
まだ真っ暗な明け方、とある女子寮の一室で目覚まし時計が鳴り響きます。
「ふあ……」
あくび交じりにベルを止め、もそもそと布団から這い出てきたのは文香でした。
意外かもしれませんが、文香の一日は朝日が昇る前に始まります。
初めてのダンスレッスンでノックアウトされてから、このままではいけないと早朝ランニングを始めているのです。
最初は1km走るだけでいっぱいいっぱいでしたが、少しずつ走れる距離も伸びてきました。
寝間着から愛用のジャージに着替えてスポーツドリンクを取りに食堂へ向かうと、先客が優雅なティータイムを楽しんでいました。
「あら、おはよう文香。随分早起きね」
「おはようございます。奏さんは夜更かし……いえ、この場合朝更かしになるのでしょうか?」
「ふふっ、呼び方なんてどちらでも構わないのに。相変わらず生真面目ね」
ティーカップを傾けながら微笑む姿は一枚の絵画の様です。
「その恰好、今日も朝からランニング?」
「ええ、早くレッスンについていけるようになりたいので」
「そうね、アイドルっていうと華があるように思われるけれど、実際には体力勝負な場面も多いから。でも無理はし過ぎないように、ね」
「はい、気を付けます」
冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、タオルと一緒にポーチに入れて準備完了です。
「それでは行ってきます。奏さんも朝更かしはほどほどに……」
「朝日が昇る前には寝るわ。いってらっしゃい」
ひらひらと手を振る奏に見送られ、文香は食堂を後にしました。
ランニングの前には準備運動が欠かせません。
玄関から寮の庭へ向かうと、一足先にストレッチを始めている人影がありました。
「おはようございます、肇さん。すみません、少し遅くなりました」
「おはようございます。大丈夫ですよ、時間通りですから。今日も頑張りましょうね」
「はい、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」
自分の体力のなさに文香が落ち込んでいた時、声をかけてくれたのが肇でした。
朝の散歩、もといランニングが趣味である肇の協力を得て、文香の体力不足も少しずつマシになってきています。
「今日は目標を少し伸ばして、いつもより一つ先の橋をゴールにしましょうか。今の文香さんならきっと走りきれますから」
「が、頑張ります」
10分ほど準備運動をこなした二人は朝の街を駆け出していくのでした。
河川敷を走って目標地点にたどり着くと、ちょうど朝日が昇り出すところでした。
暗かった空が少しずつ青に変わっていく光景は、文香にとって早朝ランニングを頑張ったご褒美です。
「はっ…はぁ…朝早くから起きるのは、慣れるまで辛かったですが、このような風景を見られるのならば、また頑張ろうと思え、ます」
「ふふ、それは良かった。始めた頃に比べると体力も随分ついてきましたし、次はペースを変えながら走ってみるのもいいかもしれませんね」
「お、お手柔らかに、お願いします……」
水分を摂ったりしながら日の出を眺めてから、二人は寮への道を戻っていくのでした。
「では私はもう少し走ってきますね。お疲れ様でした」
「はい、今日もありがとうございました」
寮の前で肇と別れ、文香はお風呂へと向かいます。
寮の広々としたお風呂はアイドルたちに愛されており、文香もお風呂は大好きです。
汗に濡れた服を洗濯機に入れて(下着をネットに入れる、というのは寮に入ってから覚えました)、タオルを巻いてからお風呂場の扉を開けると、湯気や熱気と共に花の香りがあふれ出てきました。
「……えぇ……」
浴槽を中心に伸びるツタ、咲き乱れる色鮮やかな花びら。
そこはまさに植物の楽園でした。
「はぁ……またですか、夕美さん」
「あ、文香ちゃん。おはようっ」
浴槽に居たのはアルラウネの夕美でした。
「おはようございます。お風呂場でチカラを使うのは寮母さんに禁止されたのでは?」
「あ、あはは、朝も早いからいいかなって…ほら、今日はこんなに天気もいいしっ」
夕美の言う通り、天窓から差し込む朝日を受けて植物たちは元気いっぱいの様子です。
とはいえ、うねうねと踊るツタやひまわりはいかがなものでしょうか。
「………………」
「ち、沈黙が怖いよ?ほらほら、お花あげるから機嫌を直してっ」
差し出された黄色のゼラニウムを受け取り、文香はもう一度ため息をつくのでした。
驚かされはしましたが、慣れれば植物に囲まれたお風呂というのも乙なものです。
体を洗い、浴槽に浸かった文香はほぅっと息をつきました。
「こういうのも悪くないでしょ?」
「ええ、花の香りが心地よいですね……」
「ふふ、ありがとっ。たまには羽を伸ばさないとねっ。私の場合伸ばすのは羽じゃなくて根っこや蔓なんだけど」
「そういえば寮では皆さん耳や尻尾を隠さずにいますが、それも羽を伸ばしている、ということなのでしょうか?」
「そっか、文香ちゃんは元から人間と変わらない見た目なんだっけ。うーん、なんていったらいいのかな。ずっと隠しておくのはムズムズするというか、例えるなら伸びすぎた爪や髪が気になるとか、そんな感じかなぁ。隠さなくていいなら出しておいた方が楽だし、寮なら安全だからねっ」
「なるほど……勉強になります」
ちなみに寮は座敷童である芳乃のチカラや子供を預けている親御さんたちの協力によってとんでもない安全性が確保されています。
防火防水防犯防覗き完備、頑丈さもシェルター並みでたまに誰かさんの部屋で起こる爆発にもビクともしないのです。
「ふぅ……では私はお先に上がらせていただきますね」
「はーい。ちゃんと片付けておくから、寮母さんにはナイショでお願いねっ」
なお、結局寮母さんにばれてしまった夕美は一週間のお風呂掃除を命じられるのでした。
脱衣所で髪を乾かして部屋に戻ると朝ごはんの時間になります。
今日のメニューは炊き立てごはん(+生卵)に豆腐とわかめの味噌汁、焼き鮭にほうれん草のおひたしと、教科書に乗せたくなるような朝ごはんです。
あえて控えめにかき混ぜた卵にちょっぴりの醤油を入れ、それを熱々ごはんにかけるのが文香の考えるBEST TKGです。
程よく塩気の効いた焼き鮭の風味を楽しみ、卵かけごはんを頬張って鮭との調和に思わず頷き、お味噌汁で一旦口の中をリセットしてから箸休めにおひたしを味わいます。
食事は人の心を豊かにし、エネルギーと明日への活力を生み出してくれる、という名言に昔はあまりピンとこなかった文香でしたが、今では異論もありません。
一部のお魚が苦手なアイドルを除いて好評な朝ごはんを頂いた後には、レッスンの時間になるまで趣味と実益を兼ねた読書に勤しむのでした。
午後からのレッスンは文香が一番苦手なダンスレッスンです。
「ワン、ツー、ワン、ツー…うん、いい調子です。次は俯かないようにするのを意識してみましょうか」
「はっ、はい!」
ルーキートレーナーの指導の下、基礎的なステップを練習します。
まだまだぎこちないですが、少しずつ動きもそれらしくなってきました。
体を動かすだけでなく、レッスンの合間には先輩アイドルたちの練習も見学させてもらいます。
今日は紗枝と芳乃がレッスンを受けていました。
二人とも文香に比べると小柄なのですが、紗枝の持ち歌である『花簪』のメロディーに乗って舞う二人の姿は不思議と大きく見えるのでした。
レッスン後は事務所に寄ることもありますが、今日はレッスンが長引いたため直接寮へと帰りました。
「ただいまさんどす~。今日はなんや疲れましたわぁ」
一緒に帰ってきた紗枝がうーんと背伸びをすると、頭からぴょこんと狐の耳が飛び出しました。
「やはり耳は出しておきたくなるものなのですね……尻尾はよろしいのですか?」
「尻尾は穴を空けた服やないと、逆に収まりが悪ぅなりますからなぁ」
「わたくしたちには分からぬ感覚ですなー」
「面倒なこともありますけど、うちとしては耳や尻尾が無くて毛づくろいの気持ちよさが味わえん方が勿体ないと思いますえ」
「やはり気持ちがいいものなのですね、毛づくろいとは」
「せやねぇ、特に上手な人にやってもらうのは格別どすなぁ」
リビングでまったりと雑談をしていると、キッチンから夕食の香りが漂ってきます。
「フンフン…この香り、今夜はハンバーグかにゃー」
すると匂いにつられて髪をあっちこっちに跳ねさせた志希がやってきました。
「おはようさんどすー。志希はんは相変わらずやなぁ」
「にゃっはっはー、お休みの日は休まなきゃ嘘でしょー。あ、そうだ文香ちゃん、ちょっと時間貰えるかな?」
「え、はい、それは大丈夫ですが……」
「ありがと!文香ちゃんのチカラについてキョーミが湧いちゃってさ。色々調べさせて欲しいんだー。それじゃあ早速…」
「そろそろ夕食が出来ますのでー、食べ終えてからの方がよろしいのではー?」
「んふふ~、志希ちゃんの好奇心は食欲程度では抑えきれないのだー!」
ソファーに座る文香に詰め寄る志希でしたが、後ろからひょいっと摘み上げられてしまいました。
「ちょっと落ち着きなさいな。誰もがあなたみたいに好奇心優先なわけじゃないんだから」
志希を掴んでいるのは羽を広げてふわふわと浮かんだ奏でした。
「奏さん、ありがとうございます……と、飛べたのですね」
「ええ、吸血鬼ですもの」
「首根っこ掴んでぷらぷらさせるのはやーめーてー」
「ほれー、さわさわさわー」
「あ、芳乃ちゃん喉はダメだってそこ弱いからぁ…ゴロゴロゴロ~♪」
喉を鳴らしながらソファーに降ろされた志希はだる~んとなってしまいました。
「ほれほれー、耳元などいかがでしょー」
「なでなでなんかに屈する志希ちゃんでは…ふにゃ~♪」
「猫……ですね」
「猫やねぇ」
「いつか好奇心が死因になりそうで心配だわ」
これからお仕事があるという奏を見送り、夕ごはんの後に文香のチカラを検証することになりました。
志希だけでなく皆興味はあったのか、リビングは随分にぎやかなことになっています。
「フミカのチカラは記憶を食べるのですよね?」
「はい、最近は控えていますが……」
「こういうとなんやけど、随分突拍子もないチカラやなぁ」
「いろんな妖術を使いこなせる紗枝チャンも大概だと思うにゃ」
「いややわぁ、褒めてもなんも出ぇへんよ?」
「そう言いながらこっちに狐火飛ばすのはやめるにゃ!熱くなくても怖いんだからそれ!」
悲鳴を上げつつもきっちり妖術で迎撃するみくなのでした。
「フェイエルヴェールク…アー、花火、みたいですね」
「はいはーい、あっちの狐狸妖怪合戦は置いといて。まずは文香ちゃんが分かってる範囲でチカラについて教えてくれる?」
「ええと、ですね。えいっとしまして、相手にチカラが通じれば意識と記憶がフワッとしますので、それをこうつまむ様に……」
「ごめん文香ちゃんストップ。あたしでもそれはちょっと解読できない」
「す、すみません……」
「うーん、生まれつき持っていたチカラでしょうから、それを人に分かるように説明するのは難しそうですね…文香さんに実際にチカラを使ってみてもらうのはどうでしょうか?」
「お、肇ちゃんナイスアイデア。というか、そのチカラって妖怪にも通じるの?」
「そういえば人間にしか使ったことはありませんね」
「よし、じゃあ実践しよっか。食べる記憶の範囲を狙ったりは出来る?」
「ええ、それは一応……」
「それじゃあ先週の日曜日のあたしの記憶を食べてみてもらおー!」
「え、その、よろしいのですか?」
「にゃははー、大丈夫大丈夫。ちょっと待ってね、答え合わせ出来るように日曜日の事をメモしておくから。さらさらさら~っと。はい、肇ちゃんパース」
「ああ、なるほど。ではチカラが通じたら答え合わせということで」
「では、いきますね。んっ……」
アイドルたちが固唾をのんで見守る中、志希にチカラが放たれました。
「…ん、んん…おー…? なるほどなるほど…興味深い、実に興味深い…あ、説明したいから一旦弾くねー」
志希がそう言うと、文香にもチカラが弾かれる感覚が伝わりました。
「やっぱり妖怪相手だと無理なのかにゃ?」
「幻術なんかも人より通じにくかったりしますからなぁ」
「いや、効くみたい。ただ、受ける側に拒否権があるのかなこれは。んふふ、本当に興味深いね~♪」
「と、いいますとー?」
「えーとね、分かりやすく伝えるとこんな感じ」
【文香さんから記憶を食べたいとの申請が来ています。よろしいですか?】
【YES】
→【NO】
「現代的にもほどがあるにゃ!?」
「本当にこんな感じなんだって。みくちゃんも試してみたら?」
「記憶を食べられちゃうのはちょっと怖いんだけど…文香チャン、チカラが通っちゃった時にキャンセルって出来るのかにゃ?」
「ええと、やったことはないですが、可能……だと思います、なんとなく」
「それじゃあもし弾けなかったらキャンセルでお願いするにゃ」
「分かりました。それでは……っ」
「…ぅわ、本当にそんな感じだにゃあ…あ、拒否するね」
「私もちょっぴり興味あります。フミカ、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
その場にいる他のアイドルたちでも検証したところ、受ける側に拒否権があるのは共通しているようでした。
「今更なのですがー、何度もチカラを使って疲れたりはしませんのでー?」
「せやねぇ、妖術なんかを使うときには少なからず妖力を使う訳やし」
「いえ、特に疲れなどは感じないですね」
「ふむふむー、体質によるチカラなのかな。奏ちゃんの吸血とか夕美ちゃんの光合成みたいな…よし、検証数は十分取れたし、本番いってみよー!今度はちゃんとOKするから、先週の日曜日に絞ってよろしくねー」
「はい、それでは……えいっ」
「了承っと…おぉ、なんかぼんやりしてきた~…」
久しぶりにチカラが通った手応えを感じた文香は、打ち合わせ通り先週の日曜日に狙いを絞って記憶を食べました。
「……ああ、なるほど……」
「ちゃんと記憶、食べられましたか?」
「ええ、先週の日曜日なら大丈夫だと言われていた理由も分かりました」
そんな話をしていると志希もハッと目を覚ましました。
「ほうほう、チカラを受けるとこんな感じなんだね。上手くいったのかな…! お、凄い、日曜日の事だけぽっかり思い出せない!答え合わせはもうやった?!」
「いえ、これからです。では文香さん、お願いします」
「ええと……朝起きて二度寝して、お昼寝して、夕方に起きて夕ご飯にカレーを食べて寝た……です」
「自堕落的すぎるにゃ…」
「むぅ、聞いても思い出せないのかー…でも、金曜日と土曜日は不眠で実験してたからねー、多分それで合ってるんじゃないかな。肇ちゃん、どう?」
「では志希さんのメモを読みますね。【一日中寝てた。夕ご飯のカレーは美味しかった!】…正解ですね」
「んー、合ってはいるけど…ねえ文香ちゃん、カレーが美味しかった、っていうのは伝わってる?」
「いえ、それは分かりませんでした。志希さんの一日を俯瞰的に見た、というのが一番近い感覚だと思います」
「ふんふん、そうなるとあたしの感情が伝わるわけじゃないんだね…記憶というよりも起こった事象を読み取っているというのが正確なのかなぁ…それにメモしたのは今日のことなのにその内容も思い出せないということは…」
「し、志希さん?」
「食べた記憶、それを本にするというのが文香ちゃんの嗜好なのかあるいは種族的な特性だったとしたら…」
ぶつぶつと絶え間なく独り言を呟きだした志希の姿に文香は圧倒されてしまいました。
「アー、こうなったシキは、何も聞こえないですね」
「すいっちが入ってしまいましたなぁ。今は放っておくのが一番や」
「文香チャン、お疲れ様ー。本当にきつかったりしないのにゃ?」
「いえ、私は大丈夫なのですが……」
「志希さんは一度考え込みだすとああなってしまうんですよ。以前芳乃ちゃんのチカラについて調べていた時にも似たようなことがありまして」
「幸福をもたらす理屈を調べたいとのことでー。“かおす理論”がどうこうとのことでしたが、わたくしには全く分かりませんでしたなー」
「そんなこともあったにゃー。志希チャン本人には納得のいく答えが見つかったみたいだけど、説明を聞いても誰も分からなかったのにゃ」
「妖術にせよチカラにせよ感覚的で適当な物なんやから、そないに難しく考えるもんやないと思いますけどなぁ」
「邪魔をしてはいけませんし、文香さんのチカラについて調べるのは一旦お開きにしましょうか。そうそう、冷凍庫に頂き物のカップアイスがありますから、皆で食べませんか?」
「賛成にゃ!」
「よいですなー。抹茶味はありますでしょうかー」
「ばにら味があるならうちのとっておきの黒蜜を出しますえ」
「いろんな味があったはずですから、ひとまず全部持ってきますね」
「ハジメ、運ぶの手伝います」
「ありがとうアーニャちゃん。でも、気に入った味をこっそり隠し持つのはダメですよ?」
「アー…バレましたか?」
「前科持ちのアーニャちゃんはステイにゃ」
「ズロースチ…いじわるです、ミク」
この後開催されたアイス争奪じゃんけんは白熱し、芳乃が優勝を飾るのでした。
余談ですが、何気なく選んだストロベリーアイスは文香の好物の一つになりました。
リビングで皆と談笑した後は、あまり遅くならないうちにベッドにもぐります。
以前はベッドに入ってから本を読むこともありましたが、ついつい読み嵌って夜更かししてしまうことが多かったため、今では寝る前の読書は封印しています。
目を閉じて今日の出来事を思い出すと、引きこもって居た頃には想像も出来なかったことばかりです。
昔は寝つきが悪く、そんな時には空腹感を覚えることも多かった文香ですが、最近は横になるとすぐに睡魔に襲われてしまうのでした。
おやすみなさい、良い夢を。
そんな風に充実した日々を過ごしていた文香に、ある日さらなる転機が訪れます。
「ついに文香のデビューが決まったぞ!リリースイベントとしてミニライブもありだ!」
レッスン後に事務所に寄るように言われた文香を迎えたのは興奮気味のプロデューサーでした。
「わあ、おめでとう文香ちゃん!」
「おめでとう文香。毎日頑張ってきた成果が実るといいわね」
「トレーナーさん達から聞く限りでも、実際にレッスンを見させてもらった感じとしても、デビューできるだけの実力は十分についているからな。デビュー曲のサンプルをこれから聞いてもらおうと思うんだが…文香?大丈夫か?」
「は、はい。すみません、大丈夫です……いよいよ私も皆さんと同じように表舞台に立つのかと思うと、なんだか実感が湧かなくて……」
「あはは、そういえば私もデビューが決まった時はぽかんとしちゃったっけ。懐かしいなっ」
「あら、夕美はあの時もいつも通りにのほほんとしていたように見えたけれど?」
「そんなことないよ!ねっ、プロデューサーさん?」
「あー、いや、確かに夕美はあまり動じていなかった気がするな…」
「ほらね。つまり夕美は普段からぽかんとしているように見える…ということかしら?」
「もうっ、奏ちゃんの意地悪!」
「……ふふっ」
奏と夕美のやり取りのおかげか、文香の緊張も少し和らぐのでした。
文香の初ステージのおはなしはまた次の機会に語るとしましょう。
続く
今回は以上です。読んで頂きありがとうございました。
本当はライブパートまで書きたかったのですが、志希にゃんの検証コーナーが予想外に伸びる伸びる…
次回の文香デビューライブで一区切りの予定です。
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