水野翠「弓削の如し」 (15)
翠(2月14日。世間ではバレンタインデーと呼ばれ、日頃の感謝をチョコに閉じ込めて伝える日だと言われています)
翠(私も以前、琴歌さんと星歌さんと共にチョコケーキを作ったり、キューピッド型のチョコを作っていたりしました。キューピッド型のはとても苦戦しましたが)
翠(今年も手作りでやってみようと、1年に2度くらいしか使わないチョコレート用の調理器具を取り出して、制作を開始したのです)
翠(およそ1年ぶりのチョコ制作は忘れてしまっている所もあり苦難の連続。それでも、何とか他人に見せられる程度の物を作る事ができました)
翠(工芸品ではないのだから、手を抜いてもいいんじゃないかという考えが頭をよぎりましたが、やはり日頃の感謝という物には本気で取り組むべきという考えが勝利しました)
翠「果たして受け取って貰えるのでしょうか?」
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翠「プロデューサーさん」
P「こんな朝早くに何かね」
翠「こちらをどうぞ」
P「何これ?」
翠「バレンタインデーのチョコレートです。一刻も早く食べていただきたいと思いまして」
P「貰っていいの?」
翠「どうぞ。水野翠謹製のチョコレートですよ」
P(これオークションに流したら値段どれくらいになるかな)
翠「何してるんですか?」
P(元JK現役アイドルって書いたら結構な値段になるかな)
翠「どうせオークションに流して儲けようとでも思ってたんでしょう」
P「ウッ!」
翠「本当にもうこの人は……」
P「なんで分かったの……」
翠「付き合い長いんですから、それくらいなら分かりますよ」
P「や、や、や、でもこれはだね翠さん」
翠「私なら冗談で済ませますけど、他の子でそんな事思ったらプロデューサーさん本当に刺されますよ」
P「今度から考えません……」
翠「よろしい」
翠「味はどうでしょうか?」
P「美味いよ」
翠「プロデューサーさんって何食べても美味いって言うから食わせがいがないんですよね」(本当ですか!良かったです!)
P「おい!本音と建前が入れ替わってるぞ!」
翠「10から100で言うとどれくらい美味しいですか?」
P「細かいな……」
翠「腕によりをかけて作った物ですから、率直な感想が聞きたいんです」
P「翠が心を込めて作った物なら、なんでも100点になるよ」
翠「本当ですか?」
P「こればっかりは嘘も何もつかないよ。このチョコは翠の真心が篭ってる。それはちゃんと伝わってくるよ」
翠「プロデューサーさんにそう言って貰えるなら、作った甲斐があるというものです」
翠「このチョコを作るのに大変な手間と苦労がかかりました。何せ1年ぶりに手作りしたから、勝手が分からなくて」
P「ふむ」
翠「大昔の弓削の如し、丁寧に心を込めて作ったので、プロデューサーさんのお口に合えばいいと思っていたのですが……」
P「本当に美味いよ。いつも俺なんでも美味いって言ってるけど、美味い物には本当に美味いって言うからね」
翠「どうやら、私の心配は杞憂だったみたいですね」
P「でもそれはそれとして、翠に一つ言いたい事があるんだ」
翠「何ですか?」
P「いいか? よく聞いてくれよ?」
P「いくら早く食べさせたいからといって、朝の5時30分に俺の自宅まで来る必要はなかったよね!!!???」
翠「近所迷惑ですよ!プロデューサーさん!」
P「知ってるよ!!!!!知ってるけど、朝早くにアイドル(が)自宅訪問って、その、お前!」
翠「いいですかプロデューサーさん。これには深い理由があるのです」
P「どんな理由が……」
翠「まず始めに、今日プロデューサーさんはアイドル達から大量にチョコを貰うんでしょう。ここまでは良しとします」
翠「大量にチョコを貰って、プロデューサーさんの事だから逐一食べていくんでしょう。そうなると、後半の方は味も分からなくなってしまうはずです」
翠「後半の方に自分が渡したチョコが紛れていると、印象が薄くなってしまいます」
翠「つまり、プロデューサーさんが事務所に来る前にチョコを渡して食べさせるというのは、理に適っているという訳です。分かりましたね?」
P「翠の奴……そこまで考えて……」
翠「何事も最初が大事なのです。弓道も一番最初の甲矢が大事なように。機を見るに敏という言葉があるじゃないですか」
P「急いては事を仕損じるという言葉もあるけどな」
翠「ともかく、私のバレンタインデーのチョコは確かに渡しました」
P「確かに受け取ったよ。こんな形で手渡されるとは思ってなかったけど」
翠「別の形の方がよろしかったでしょうか?」
P「そんな事はないよ。確かに驚いたけど、翠が決めた渡し方なら何も言わないよ」
翠「ありがとうございます。それでは、また事務所で会いましょう」
P「おう、また明日な」
翠「…………明日?」
P「今日俺有給取ってんの。翠が言ってたようにアイドル達からチョコ貰う事ないの」
翠「……」
翠「そうだったァ~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」
P「おい!近所迷惑だぞ!」
翠「プロデューサーさん、まさか今日事務所に来ないからって昨日チョコを渡されてたりする事は!?」
P「ないよ」
翠「これまでに郵便でチョコが届けられてたりする事は!?」
P「こんな時間に郵便届く訳ねーだろ」
翠「私以外の誰かが今日先にここに来たって事は!?」
P「翠が最初だよ」
翠「それなら良かったです♪」
P「現金なやつだなあ……」
おしまい!
水野翠の同級生になって義理チョコ渡されたいだけの人生だった……
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