絶狼<ZERO> MAGIC BLOOD (80)
こんばんは。
このSSはハーメルンさんやアルカディアさんなどにも掲載していますがより多くの人の意見を聞きたく、投稿します。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1484912411
パクリ乙
それはそうと懐かしんでいる暇などない。
「ったく……番犬所め……解りづらい指令よこしやがって」
敵はホラーなのか、闇に堕ちた魔戒騎士や法師なのか、はたまたそれ以外の人外の何者か、そして目的は世界征服か古のホラーや何かしらの禁断の封印の解除か、オマケに名前も不明。
「この指令、ヒントが少なすぎるぜ……」
全てが謎だらけで、どこから手をつけて良いのやら……。
分かっているのは、この周辺の魔戒騎士や法師が次々に謎の死を遂げていると言うことだけ。
まるで雲を掴むような話に俺はイラつくが、愚痴を言っても仕方がない。
「あ~あ! 腹減ってきた…… 甘い物でも食べてぇな」
そんな俺の前に計ったかのようにドーナッツ屋さんが視界に飛び込んでくる。
ラッキーとばかりに駆け寄り、とりあえず今あるだけのドーナッツを全てくれと注文すると店員とオカマっぽい店長は目を丸くした。
「ぜ、全部!?」
持ち帰りは流石に不可能なので、その場で椅子に座り、テーブルに大量のドーナッツを並べ、食す。
この甘さが日頃の疲れを癒してくれる。
俺は魔獣ホラーと日夜、寝る間も惜しみつつ、命を磨り減らし戦う魔戒騎士だ。
だけどそれを甘い物を食べている時だけは忘れさせてくれる。
これぞ至福の時間……。
そんな時、影が俺を包む。
何事かと思い、顔を上げると二人の女性が俺の前に立っていた。
一人はポニーテール姿の女子高生とスーツを着たスラッとしたモデルのような体型の人。
「ちょっと、あなたどういうつもり?」
「ドーナッツ食べてるだけですけど?」
「そういう問題じゃない! マナーの問題よ! 明らかにこのドーナッツの量おかしいでしょ!?」
「いやいや、こっちは金払ってるのに何が問題なの?」
至福の時間を邪魔されただけじゃなく、悪ことは何一つしていないのに見知らぬ女性にマナー怒鳴られて、少しムカついた俺は席を立ち、スーツの女性を睨んだ。
「凛子さん、やめましょうよ……こんなことで怒るような晴人さんじゃないじゃないですか」
女子高生の子が仲裁に入るが、俺たちには全く声は届かない。
そして口喧嘩が徐々にヒートアップしていく。
「大体、服装が怪しいのよ」
「人を見た目で判断するのは良くないと思いま~す」
「じゃあ何か身分を証明出来るもの持ってる?」
「持ってないけど?」
「私は警察よ 話なら署で聞くから」
お互いに冷静を装いつつも、負けず嫌いな者同士で一歩も譲らない。
冷たい空気が俺達の間を流れ、時は過ぎていく。
その沈黙を破ったのは人々の悲鳴と身体が石のように罅割れた、灰色の鬼のような姿をしているホラーとは違う異形の存在。
槍を武器に持つ個体や、右腕が肥大した個体も存在し、人々を急襲する。
「グール!?」
「凛子さん、逃げてください ここは私が!」
無理やり拘束され、まるで奴隷のように引っ張られてその場を逃げ去る。
そんなに急いで逃げなくも、あの程度の連中ならあの女子高生の子でも楽勝だろう。
とは言っても、一般の人間からすれば太刀打ちできない力量があるのもまた事実で焦るのも無理はないか……。
敵も簡単には逃げさせてくれない……逃げる道中で歩行者専用のトンネルが見えてくると同時に怪物が俺たちの行く手を阻む。
怪物の姿はパッと見は普通の人間と区別はつかない眼鏡をかけ、ショートカットの髪型をした若いOL風の女性。
ただ違うとすれば、その異様で何の感情も込もっていない死人のような表情だろうか……。
そしてその怪物周りには俺たちの前に現れたグールと呼ばれる異形の化け物、数体が俺たちを襲うタイミングを今か今かと待ち構えている。
「殺れ」
女の怪物の一言でグールは一斉に俺たちを狙い、向かってくる。
「仕方ない……逃げて!」
女刑事は俺の手錠を解くと、背中を押す。
そして勇敢にも、怪物の方に向かっていく。
「ゼロ、あれはホラーじゃないから貴方は関わる必要はないわ」
俺は暫く、腕を組みつつ、女刑事の様子を見守る。
実際、シルヴァの言うとおり、目の前の怪物はホラーじゃない。
つまりあの怪物を倒すのは俺たち魔戒騎士の役目ではないのだ。
「あぁ……それは解ってっけど……」
女刑事はピストルと柔術でグール相手に善戦しているが、所詮はただの人間。
人外の化け物に叶うはずもなく、壁際に追い詰められ、首を絞められ身体は宙に舞う。
女刑事は苦しそうに両足をバタバタさせながらもがいている。
このままいけば、女刑事は十中八九命を落とすだろう……。
「解ってっけど、俺には見過ごす事はできねぇ!」
目の前で助けられる命があるのになかった事になんてできるはずがない。
そんな奴は魔戒騎士どころか人間失格だ。
俺の行動が甘いだとか、馬鹿だとか言いたい奴は好きに言ってくれて構わない。
ー殺されていい命なんて一つもないー
どんな人間でも、どんな状況であろうと命を助けられる可能性があるのならば救う……それが魔戒騎士だ。
俺の好敵手でもあり、親友の男がそう教えてくれた。
もしその男が俺と同じ状況に置かれていたら、きっと俺と同じ行動をとるだろう……黄金騎士ガロ・冴島鋼牙なら……。
SIDE凛子
何て言う馬鹿力だ……息もできない。
苦しい……このままでは……。
暗闇に遠退く意識の中、私の視界に光が戻る。
今までの苦しさから解放され、むせ返し、 咳が止まらない。
しかし一安心……きっと晴人君か仁藤君か真由ちゃんが助けに来てくれたんだ。
そう思ったが、助けてくれたのはその三人の誰でもなかった。
助けてくれたのは私が不審者扱いし、手錠をかけた黒ずくめの服を着た男。
男はグールの頭を片手で鷲掴にすると、壁に向かって放り投げる。
壁には衝撃でヒビが入り、グールは痙攣し横たわる。
涼しい顔でまるでグール嘲笑うかのように攻撃を間一髪でかわしながら、急所に強烈な蹴りや拳打を的確に与えていく。
私は僅か数十秒で魔法使いでもない男があっという間にグールの集団を壊滅させた状況に驚きを隠せず、唖然とその男を見つめる。
「あなた何者?……」
男は何も答えず、無言で女のファントムと睨み合っている……。
私と睨み合ってた時とは殺気がまるで違う……。
最近、ファントムの大量発生、とある不気味な謎多き殺人事件など私の頭を悩ませる事案が続出……イラついていて早まったと言うのもあるが、黒ずくめの服を着た不審な人物として署まで連行しようかと思っていた。
そして遂にファントムの女と黒ずくめの男は同時に動き出し、男はいつの間にか右手と左手に一本ずつ剣、つまり双剣を装備している。
刀を持っていれば、銃刀法違反と言う言葉が浮かぶだろうが、ファントムを目の前にしている状況ではそんな事まで頭が回らなかった。
ただ、この男何者なのだろう……。
敵なのか味方なのか、魔法使いなのかそうではないのか……そんな事ばかり頭に過っている。
「めんどくせーからとっとと終わらせるぜ山羊ちゃんよぉ!」
二本の剣……間違いなくあの男の声……つまりあの男もファントム!?……。
でもファントム同士が何故?……。
私の頭の中がこんがらがる……。
そんな状況を飲み込めない私を他所にバトルは続いているが……勝負は呆気ない程に終わりを迎える。
白銀の狼は双剣を繋ぎ合わせ、一本の武器にすると、全身のバネを使い、バフォメットへと一直線。
そのまま身体を空中で捻り、バフォメットの後方へと着地。
そのスピードにバフォメットは反応できず、背後を振り返った時が最後、緑色の鮮血を吹き出し、断末魔の悲鳴をあげ、爆発四散。
「強い……」
こうも簡単にファントムを倒してしまうなんて……。
私は白銀の狼の中から現れ、こちらに歩みを進める黒ずくめの男に警戒心を強め、拳銃を向ける。
「動くな!!」
男はすんなりと両手を上げるが、かなり不服そうな表情で私を見つめる。
「助けたのにお礼もなし?」
「あなたは ファントム?」
「はぁ? ファントム?……さっきの化け物か……一緒にしてほしくないねぇ」
「じゃあ何者なの!?」
一瞬、考える素振りを見せ、何かを悟ったように口を開く。
「俺は魔戒騎士だ カッコよく言えば、人知れず魔獣から人類の希望を守るヒーローってとこかな?」
魔戒騎士という聞き慣れない単語に私は首を捻る。
希望……私の知らないところで魔法使いとファントムのような関係で戦っている者たちがいると言うことなのだろうか……。
私は全てこの男を信用したわけではないが、かと言って危険を省みず、私を助けに戻った……。
悪いようには見えないが……。
この沈黙を一人の少女が破るのであった……。
まずここまで投下してみました
>>2
本物です!
SIDE真由
私の名前は稲森真由。
勉強に励み、オシャレだって興味があるどこにでもいる女子高生だ……辛い過去を持ち、魔法使いになってファントムと戦う事以外は……。
今日は晴人さんの誕生日と言う事で国家0課の刑事である凛子さんとプレゼントを探していた。
私はいつも最後の希望となりファントムと戦う晴人さんを尊敬してるし、今日くらいは休ませてあげたいと思い、神様にファントムが現れませんようにと願う。
「ごめんね真由ちゃん 付き合わせちゃって」
「いやそれは全然いいんですけど、誕生日プレゼントにシュガードーナッツって本気なんですか?……」
「晴人君が喜びそうで今私が用意できるのこれくらいしか思いつかなくて……」
最初は誕生日プレゼントにどこにドーナッツと聞いて、少し驚いたが確かに凛子さんの言っている事は一理ある。
「まぁ……それもそうですね……」
本来は誕生日の前に何か渡す物を用意するのが、ベターだと思うが、凛子さんは最近とても忙しいらしく休みもろくに取れないらしい……。
追い討ちをかけるようにファントムが現れる頻度が増え、個人的に追ってる事件も遅々として進まないようでかなり精神的にも体力的にも参ってる感じに見える……。
時間はまだお昼時なのに売り切れとは驚きだ。
どういう事なのか凛子さんと私は店長に話を聞くと店長はテーブルを指さす。
そこには長髪で真夏なのにも関わらず、黒いロングコートを羽織り、ドーナッツを口一杯に頬張る男の人の姿があった。
そこにはあまりの量の多さにテーブルに置ききれず、大量のドーナッツが入った袋が地面に並んでいる。
私もドーナッツは大好きだが、あんなに食べたらさすがに気持ち悪くなりそうだ……。
凛子さんは相当あてにしていたプレゼントを奪われ、イラっとしたのか男に詰め寄る。
「ちょっと、あなたどういうつもり?」
結局、男の人とも不審者扱いされ、イラついたのか立ち上がって応戦する。
男の人はスラッとした体型でとても大食いには見えないし不覚にもカッコいいと思ってしまった……。
凛子さんの会話はヒートアップし私も止めに入るが全く二人とも話をまるで聞いてくれない。
凛子さんはやっぱり疲れている……普段は温厚でこれくらいの事で怒る人じゃないのに……。
どうしようかと思っていた矢先、このタイミングでグールが現れ、通行人を襲う。
勿論、凛子さんと男の人の言い争いはストップ。
「後で合流しましょう!私も直ぐに後を追います!」
凛子さんに男を任せ、私はグールを殲滅すべく魔法使い「仮面ライダーメイジ」に急ぎ変身する。
左腕に施された宝石を魔翌力で強化した鉤爪スクラッチネイルが唸りをあげ、私はグールを次々に撃破していく。
魔法使いになってからは慣れない事の連続だった。
変身すれば身体能力は向上する……だが取っ組み合いの喧嘩とか格闘技とかそういった事には一切無縁だった私が急にファントムと戦うのは本当に難しい。
私を鍛える為、白い魔法使いが出現させたグールと戦う時もファントムとは言え物理的に攻撃するのが怖くて、どうしても強く攻撃ができなかった。
でもそれじゃダメ……このままじゃメデューサには勝てない。
私はメデューサに姉と両親の命を奪われた……何としてでもメデューサだけは倒して仇を取りたい 。
メデューサへの怒りや家族を奪われた事への悲しみが私を強くさせてくれた。
今ではグールを倒す程度なら朝飯前だし、メデューサと戦っても魔法を駆使しながら互角に渡り合える。
自分の成長に手応えを感じはじめていたものの晴人さんや仁藤さんみたいにもっと強くなりたい、力が欲しいと言う想いが日に日に募っていく。
メデューサを倒す為、……もっと強くならないと!
だから私は立ち止まってちゃいけないんだ
グールを全て倒し終えると、私は急いで凛子さんの後を追いかける……それにしても基本的にはファントムを産み出すゲートとなる人間を襲っていたはずだが、最近は見境なく暴れまわっているように思えるが何かあったのだろうか……。
それより凛子さんたちは無事だろうか……恐らく面影堂に向かっていると思うが……。
何か胸騒ぎを覚えた私は変身を解除せず、凛子さんが通ったであろう一本道を走る。
そして予想以上に早く追いついたが、そこで見た展開は予想外。
凛子さんが男に拳銃を向け、男は鋭利な両刀を手に持ち睨み続けている。
よく見ると凛子さんの拳銃を持つ手はまるで何か得体の知れない怪物を見たかのように震えていた。
普段、ファントムような怪物を見ている凛子さんがただの人間に怯えるわけがない。
男はファントムできっと凛子さんを襲おうとしているんだと判断した私は凛子さんを守るようにして男の人の前に立ちはだかる。
「さぁ、終わりの時よ!」
私はその鉤爪を男の人に突き出した……。
「まずお前は何者だ?……魔戒騎士じゃなさそうだしな!」
まず戦いの中で攻撃を受け流しながら、少しでも情報を集める。
「仮面ライダーメイジ……あなたみたいなファントムから希望を守る魔法使いよ!」
剣と巨大な鉤爪がつばぜり合うと、お互いの力と力がぶつかり合い、その反動で両者後退し、距離がひらく。
魔法使いか……まさかそんな空想のような力を持つ人間がいるとは驚きだ……。
「勘違いすんな 俺はファントムじゃないぞ?魔法使いさん」
荒々しい戦い方だが、逆に俺の反撃する隙がない……。
壁際に追い詰められ、鉤爪が俺の顔面を狙う……。
俺はしゃがみこみ、間一髪で前転し難を逃れたが背後からは地割れのような音が木霊する。
態勢をすぐさま整え、振り返ると魔法使いの鉤爪はコンクリートの壁に穴を開けていた。
に見覚えはあった。
何て言う破壊力……あれを身体に受けたらただではすまない。
あまり攻撃したくはないが、話を聞いてくれないんじゃ鎧を召還して、一度黙らせる意外にこの戦いを終わらせる方法が思いつかない。
仕方がないか……俺が剣を頭上に振り上げ、鎧を召還しようとしたその時だった。
【テレポート】
若干の距離が開いていたから少し油断していた……。
魔法使いがその場から消えたかと思ったら、突如として目の前に現れ、鉤爪を勢いよく突き出す。
この距離ではかわすことはできない。
俺は反射的に二刀の剣をクロスさせ、鉤爪を防御する……が、かなりの衝撃を受け俺は数十メートル吹き飛ばされ、両手に持っていた魔戒剣は地面に落としてしまう。
魔戒剣で防御してもこの威力とは……少し魔法使いを見くびっていたかもしれない。
「真由ちゃん待って!」
女刑事が俺と魔法使いの間に割って入る……。
「真由ちゃん、この人はファントムじゃないわ」
「えっ!?……でもこの人の身のこなし方は一般人とは思えませんけど……」
「彼は魔戒騎士……魔法使いと同じで希望を守る為に戦っているそうよ」
「じゃあなんで拳銃を?」
「敵か味方か分からなかったから仕方なく……でもこの人は少なくとも悪い人じゃない」
「何で分かるんですか?」
「私をファントムから助けてくれたし、真由ちゃんと戦っている時にも自分から攻撃しなかったから」
できるならもっと早く割り込んでほしかったが……、
まぁいい……この無意味な戦いが終わってくれて。
俺は彼女たちが会話しているうちに地面に転がった二本の魔戒剣を拾い、背を向けて歩き出す。
「待って!」
気づかないうちに立ち去ろうとしたが、女刑事に気づかれてしまう。
「さっきはすいませんでした!私たちに力を貸して欲しい事があるの!」
さっきまで敵視していて、力を貸せとは都合が良すぎる。
まず俺には指令がある。
こんなところで道草くってる場合でもない。
「貸す義理はねぇ」
「明日の午後二時に鳥井坂署で待ってるから!」
あの女刑事とは今後一切会う事はないだろうし会う気もない。
俺は背を向けて、歩き出しその場を去ったのだった。
昨日の話なんてまさに、零だから成立した展開たよね。
他作品クロスで相手が女性主役の作品なら零の方が確実に話が作りやすい。
小鳥の囀ずりと朝の日射しが気持ちいい。
俺は目を擦り、大きな欠伸をしながら、髪の毛をボリボリと掻く。
朝だ……元老院に指定された借家のベッドに腰かける。
若干の窮屈さや年季は感じるが、一軒家で風呂やトイレは勿論あるしベッドもかなり大きい……オマケにテレビとキッチンもついていて、これから指令が片付くまでここが拠点となるわけだが、まぁ借家にしては悪くない。
かと言って長居するつもりも更々ないが……。
しかし昨日の収穫は特になし……ホラーも特に現れなかった……。
分かった事と言えば、この街には魔法使いやファントムと言った第三勢力まであるのだから厄介だ。
早くこの指令を片付けないと……。
「ん?……鍵は閉めたはずだけどな……」
何かを感じる……殺気と言うほどではないが、僅かだが人の気配だ。
誰かがこの家に侵入しているのだろうか……。
「泥棒だったらお笑いものね こんな何もない家に」
「ただの泥棒だったらいいんだけどな……」
シルヴァの言う通り、泥棒が入って来ても取られるものはない。
バイクは置いてきたし、金品も持っていない……だがそれは泥棒だったらの話しだ。
もしかしたら俺の命を狙う刺客やホラーかもしれない……。
「誰だ?……隠れてないで出てこいよ」
気配は部屋の扉の奥からだ……。
扉の奥は廊下で玄関に通じている……。
その気配は扉の前でピタリと止まっていて、盗み聞きでもしたいのだろうか。
「気配をなるべく消したのですけどね 流石です涼邑零、又の名を銀牙騎士ゼロ」
部屋の扉が開き、姿を見せたのは故紙の辺りまで伸びた黒髪とキツメの目が特徴的で肩と臍、スラリとした長い脚を露出した黒い魔法衣を着た女だった。
着物を着せたら似合いそうな顔つきで、一目見ただけで魔戒法師だと勘づく。
「ま~た変なのが出てきやがった……」
「変なのとは失礼な人ですね……名前は綺羅、これでも貴方に力を貸すように言われて元老院から派遣された魔戒法師なんですよ?……」
何て言うか……女性にしては長身で眉間に皺を寄せ、キツメな顔つきだからか敬語を使う事にかなり違和感を感じる。
「お前に頼んだ覚えはねぇ 俺は布動レオに頼んだんだ お前と組む気はない」
こういう何か良からぬ事を企んでいる奴がいる場合、正直言うと近寄って来る奴を信じては危険だ。
スパイなど敵の一味である可能性も否めないからである。
敵の情報や居場所、目的が詳細に分かっている場合なら基本的に一人で対処できるが、今回の件に関しては謎が多すぎる。
特に目的が分からない謎が多い敵には魔戒の術や掟、歴史に詳しい魔戒法師の力が必要不可欠。
邪美と烈花は遠く閑岱の地、だから俺は激戦を共に戦った盟友である布道レオを指名したのだが……。
「だからその布道レオに頼まれたんですよ 」
俺は綺羅が差し出した紙を受け取り、魔導日を翳す。
青色の魔導火が紙に引火し、徐々に文字が浮かび上がってくる。
それは間違いなくレオから俺に向けての手紙……。
「綺羅は自分が尊敬し、信頼できる優秀な魔戒法師の一人」だと記してある。
そして元老院から与えられた指令で手が離せないので、協力できずに申し訳ないという謝罪と綺羅を推薦すると言うことで文面が締めくくられていた。
だが、俺は信頼できる奴にしか背中を託したりはしない。
突発的に現れた魔戒法師なら尚更、一人で行動した方が遥かに安心安全だ。
そしてヒョコッと扉の隙間から顔を出したのは昨日の魔法使いの女子高生だが、一瞬、誰か分からなかった。
それと言うのも、昨日はブレザーの制服だったが今日は週末で学生は休みだからか、紺色のジャケットにミニスカート姿の私服で少し印象が違ったからだ。
「お前は昨日の魔法使い……何でここにいる?」
「昨日の事を謝りたくて、綺羅さんに連れてきてもらいました 全部、綺羅さんから魔戒騎士やホラーの事聞きましました 涼邑零さん……あ、あのぉ……昨日は本当にごめんなさい!」
深々と頭を下げる魔法使いの女の子に俺は慌てふためく。
「おいおい、ヤメロッて……頭を上げてくれよ……君の名前は?」
「私、稲森真由って言います!」
「真由ちゃんか……まぁあの状況だったし勘違いするのもない 真由ちゃんには全然怒っちゃいないさ」
そうだ……今、俺は真由ちゃんに怒ろうなんて言う気はない。
俺の怒りの矛先は綺羅と言う魔戒法師に向かう。
「綺羅、目的は何だ?……何故、魔戒に関係ないこいつに俺たちの事を教えてまで連れてきた?」
確かに真由ちゃんは魔法使いでファントムと戦っている……つまり立場的に一般人よりはどちらかと言うと俺たちに近い。
しかし戦いのフィールドが全く違ううえに魔戒騎士やホラーの存在も知らなかったはず……そんな人間にましてや魔戒法師が魔戒の知識を教えるなんてもっての他だ。
「この娘があの後、どうしても貴方に謝りたさそうにしてたから人助けですよ」
「あの後だと?……お前、つけてやがったのか?」
「これから一緒に組む相棒がどんな騎士か少し見てただけですよ」
「だからお前とは組まねぇって 勝手に決めんなよ」
開き直りながら、使われる敬語が余計に俺をイラつかせる。
綺羅は挑発することに関しては数いる魔戒法師の中でもきっと一、二を争うだろう……。
益々信用できない気持ちが大きくなっていく……。
「じゃあ何かを貴方は掴めたのですか?」
「まるで自分は何かを知ってるかのような言い方だな?」
「えぇ 勿論です 私を誰だと思っているのですか? 今では元老院付きにまで出世いたしましたが、元々は闇斬りの血を受け継ぎ、影に生きていた存在……私の情報収集能力を侮らないで頂けますか?」
闇斬り師……闇に堕ちた魔戒騎士や法師を粛清する宿命を背負った影に生きる魔戒法師でだしその強さは並みの騎士を遥かに凌駕すると言う……。
噂はかねがね耳にしていたが、その姿を目撃した者はおらず、昔から語り継がれるただの伝説だと思っていたが、綺羅がその闇斬り師だと言うのか。
「少しは私に興味を持ってくれましたか?」
「で、その元闇斬り師さんはどんな情報を持ってるんでしょうか?」
「相棒でもない貴方に共有する情報なんてありませんよ」
いちいち揚げ足を取ってくるムカつく女だ……。
とにもかくにも真由ちゃんがこの場にいては、詳しい話しをすることができない。
「まぁ真由ちゃん、今日は帰りな」
真由ちゃんは何か言いたい事があるのかモジモジしていたが意を決したかのように口を開く。
「あのぉ……実は零さんにお願いがあります 今日、一緒に鳥井坂署まで来てほしいんです」
「悪いけど、聞いた通り俺は魔戒騎士だ 指令があってこの街に来たんだ」
何を言い出すかと思えば……。
とっとと指令を完了したいのに、魔法使いやファントムなんかと関わっている暇はない。
「それは分かってます……でも凛子さんが魔法使いでもない見ず知らずの人を呼んだって事は本当に切羽詰まってるんだと思うんです」
「断る 俺は忙しい」
「意味がないと思っているものが実は重要だったりしますけどね」
「どういう意味だ?」
まさかこの綺羅と言う魔戒法師は今回の件に関して何か情報でも掴んでいるのか?……。
警察が番犬所ですら掴めていない情報を本当に持ちうる事があるだろうか?……。
仮に綺羅が知っているとして何故そんな情報を綺羅が把握しているのか……。
俺は綺羅への疑念を深めるが、まだ確証があるわけではない。
「分かった……話しを聞くだけだ」
「ありがとうございます!」
今、こちらには何の情報もないのも事実。
行って有益な情報を持っていれば、ラッキーくらいに思って話しくらいなら聞いてやるか……。
「意外と素直じゃないですか 零ちゃん」
「確かにあんたの言う事も一理あるからな……俺は大事になる前に何とかこの指令を終わらせたい 良かったら力を貸してくれ」
綺羅が敵なら俺の情報を集める為に近づいたはず……。
それなら俺も近くで綺羅が何を企んでいるのか観察してやろう。
>>27
あの親子の話は鋼牙だったら最後の抱きしめるところさなかったでしょうしねぇ……
鋼牙が完璧超人すぎるせいなのかアニメや漫画はあっても中々、特撮作品とのクロスがあんまないんですよねぇ
後、鋼牙が魔戒関係者意外と絡んで敵を倒すって図が中々、思い浮かばないです
逆に零は今もss 書いててやりやすいです
SIDE真由
警視庁国家安全局0課……通称「国安0課」。
凛子さんに呼び出された私は凛子さん自身の強い希望もあって魔戒騎士である零さんをこの場に何とか連れてくる事に成功した。
私は昨日の戦いの以降、凛子さんから零さんは敵じゃないと聞き、自責の念にかられていた。
勘違いとは言え、ファントムではないのに攻撃してしまった事実は消えない。
謝りたいけど、零さんがどこにいるのかも分からないし、そもそも魔戒騎士がどういう存在かもよく分からないし……。
そんな時にふと現れたのが綺羅と名乗る魔戒法師。
女の私から見ても嫉妬しそうなくらい美人な人で、警戒する私と凛子さんにお構い無く、フランクな性格なのか、優しい笑みを投げる。
パッと見、容姿だけ見たら、クールビューティーで冷たそうな印象を受けたのだが、礼儀正しく私と凛子さんに敬語で接し、魔戒騎士とホラーの関係性などを詳しく教えてくれた。
魔戒騎士とは魔界から召還される鎧を纏いホラーと言う人間に憑依する魔獣から人々を守る使命を帯びた戦士の総称……しかしその命を賭けた魔戒騎士の戦いは一般の人間が知る事は滅多にないと言う……。
私はその話を聞き、衝撃を受けたと同時に尚更謝りたい気持ちが強くなる……。
魔法使いやファントムの存在を目の当たりにして多少の事じゃビックリしないと思っていたけど、まるでテレビゲームから飛び出したような戦士が私たち以外にも存在していたなんて……。
それもメイジに変身した私と生身のままで戦う、コンクリートの壁を横向きの態勢で走る、全身のバネだけで高くジャンプすると身体を翻し、悠々と着地といった体操選手も真っ青な芸当を平然とやってのけるなど、本当に人間か疑わしい程の身体能力を持っている……。
だからこそ、人間ではなくファントムと言う誤った判断をしてしまったと言うのもある……。
綺羅さんから話を聞くうちに魔戒騎士に興味が沸いてくる……鎧を纏ったらどれくらいの強さなのか、どんなトレーニングをしているのか、魔法使いが魔戒騎士と手を取り合えば、今まで以上により多くの人の希望になってあげれるのではないか……そして何より一緒に戦う事によって、私から家族を奪った憎き因縁の相手であるメデューサを倒せる何かを得られるのではないかと少し期待が膨らむ。
「謝りたいのでしたら、明日の早朝にこの場所でお待ちしてますけど?」
綺羅さんからの提案に私は「よろしくお願いします!」と即答。
凛子さんはどうしても抜けられない仕事があるので何としても零さんを連れてきてほしいと頼まれ、連れて来る事はできたのだが、凛子さんの考えは私の斜め上をいっていたのだ。
「ふざけんな 俺に推理ごっこでもしろって言うのか? 綺羅、帰るぞ……」
「これはもしかしたら、あなた達の敵であるホラーの仕業かもしれないの」
「俺たち魔戒騎士はそんな根拠もなう情報で動くわけにはいかない 大体、何年前の話だと思ってんだ? 仮にホラーだったとしても、とっくに誰か別の魔戒騎士が倒してるって」
零さんが呆れて帰りたくなるのも無理はない……。
凛子さんは私と零さんに七年前に起こった殺人事件の捜査を依頼してきたからだ。
犯人はファントムかもしれないと思い、晴人さんに頼むつもりだったらしいが、どうやら今はゲートを守る事で手一杯らしい……。
だが冷静に考えれば、ファントムが本格的に現れたのは半年前の日食が起こった後だし、可能性は低い。
「また犯人が動き出したの……七年の時を経てね」
「でも私、捜査なんかしたことないですし、何から始めればいいのやら……」
「私も協力するから お願い真由ちゃん!」
私は別にいい……だけど綺羅さんから聞いた話しだと魔戒騎士は魔戒関連の事件でないと基本的に関わらないのが掟らしく、これがホントの民事不介入ってだろうか。
「もしかしたら今回の指令に関わっているホラーかもしれないのですから、少しでも可能性があるのであれば捜査とやらを手伝ってもムダではないのではないですか?」
零さんは腕を組みつつ、納得がいかないようで難しい顔をしつつ、どうやら迷っているように見える。
「大門凛子……だっけか? どうしてこの事件に拘る?」
凛子さんは何故そこまでこの事件に血眼になるのか私も不思議に感じていた。
確かに卑劣で凶悪な殺人事件だが、他にも抱えている事件はあるはずなのに……。
それに犯人は人間の可能性が高いにもかかわらずホラーやファントムと言った人外だと言わんばかりの勢い……。
まさか凛子さんも私と同様、身内が殺害されたとか?……いや、それであれば、凛子さんはちゃんと伝えるはずだし……。
「私が警察官だから……って答えじゃダメ? 警察官の誇りにかけてもこの事件だけは迷宮入りさせるわけにはいかないの! どんな危険な目にあっても必ずね!」
「凛子さん……」
誇り……か。
理由はどうであれ、凛子さんはこの事件を解決することに相当な覚悟を持ってるんだ……。
「分かった……そこまで言うなら手伝ってやる ただしホラーが関わっていないとはっきりした時点で俺は手を引く それでいいか?」
凛子さんの必死の説得が通じたのか、零さんは深いため息をつくとホラーが関わっていないなら手を引くという条件付きではあるが、 捜査に協力する事を約束する。
どうやら冷めているようで、意外と人情味がある人のようだ……。
「ありがとう……」
凛子さんの目が涙で潤み始める……。
「泣いてる暇があったら早く事件の現場に案内してくれ 善は急げって言うしな」
凛子さんは強く頷くと、私たちを車まで案内する。
零さんはドアを開けると、私の頭がぶつからないようにソッと入口の上部に手を置く。
「どうぞ麗しのお姫様」
私とした事が……男の人にこんな紳士なことしてもらったのは初めてだからか、少しドキっとしてしまう。
でも慣れてるようだったし、零さんはきっと女の人になら誰にでもそうなんだろうなぁ……。
って私は何を考えているのだろうか……車に全員乗り込み、凛子さんが事件の詳細について話し始める。
「最初の事件は七年前の十二月の五日、午後三時半……」
まだ当時、小学生三年生だった山野有紗ちゃんが自宅の寝室で白昼堂々と殺害された。
両目の眼球と心臓が抉り取られ、目撃者無し、有力な手がかりもない……警察が警戒を強めるなか、同じ事件が一週間のうちに六件起こり、突如として事件はパタリと途絶える。
犯人が何らかの理由で死亡した、海外への逃亡、あらゆる可能性を考慮して血眼になり犯人を捜したが、未だに未解決のまま……。
私もこの事件はテレビや新聞で見た、記憶があり、次は自分が襲われるのではないかと怯えていた。
そんな事件に私が関わるなんて……。
「ここが最初の事件現場よ」
古ぼけて蔦が伸び放題の木造のこじんまりとした家。
きっと娘が殺害されたショックに耐えきれず、すぐに手放したのだろう……。
全く部屋には手入れがされておらず、埃まみれ、おびただしい血痕があらゆる場所に飛び散っていて、あまりの不気味さに身の毛がよだち鳥肌が立つ……。
そして古時計が午後十二時を知らせるチャイムを鳴らし、その音が意外に大きかったので、ビクッとしてしまう。
「どうだ何か感じるかシルヴァ?」
「ホラーの気配は感じないわね……」
「じゃあ人間の目玉と心臓だけを好んで喰らうホラーはいるか?」
「多くはないけど、いることはいるわよ? ただ気配も何も感じないからホラーの可能性はなさそうね」
今、零さんがグローブについてるアクセサリーと喋ってたような気がするのだが気のせいだろうか……。
「零さん、誰と喋ってるんですか?」
「あぁこいつの名前はシルヴァ、俺と一緒に戦って来た家族ってとこかな?」
「あら、はじめまして 魔法使いのお嬢さんちゃん」
アクセサリーが喋った……頭の中が混乱する。
何がどうなっているのやら……。
凛子さんはやたら興味津々だが、私は空いた口が塞がらない。
「ちょっと外の空気吸ってきてもいいですか?……」
喉がイガイガする……家も古いしハウスダストのせいかな?……それに殺人事件のあった現場だからか気味が悪いし、寒気がする。
「真由ちゃんごめんね いきなりこんな場所に連れて来ちゃって……」
「大丈夫です……すぐ戻ります」
部屋を出て、玄関までの道程を進むが意外と遠い……。
ようやく玄関にたどり着き、ふと顔を上げると顔に包帯を巻き、黒いシルクハットの帽子とマントに身を包んだ不気味な男が立っていた。
距離も近く、ファントムとはまた違ったおぞましい姿に私は反射的に腰を抜かし、悲鳴をあげる。
「余計な……詮索はするな……」
聞き取れないくらいの掠れ声を発し、私に何故か微笑みかける。
幽霊ってわけではなさそうだけど、まさか犯人!?。
私の悲鳴を聞きつけ、凛子さん、零さん、綺羅さんが駆けつけると男はニヤリと笑い、身体を翻えして、その場から逃げようとする。
逃がしまいと私、凛子さん、零さん、綺羅さんが後を追う。
その後、男は廃ビルの屋上へと逃げこむがもう逃げ場はない。
長い時間を経て、事件は解決した……かに思えたのだが……。
とりあえず4話分まで投下したんですけど、どうですかねぇ?
好意的な意見は勿論励みになりますし、厳しい意見でも自分に足りないところを気づく意味でもありがたいことです
雑談や質問とかでも何かあれば気軽に書きこんでってください笑
書き溜めあるなら淡々と一気に投下した方がいいかも
面白ければ感想はつくよ
牙狼SSもっと増えろ
書いたことあるけど、牙狼のSSって地の文必須でその上クロス物だと視点が行ったり来たりせざる得ないのが難点ですよね。
書き手にも読み手にも。
SIDE零
しかし俺もホントにお人好しだな……。
まさか殺人事件の捜査を手伝う事なるとは……。
大門凛子……彼女の覚悟は相当らしい。
警察署に行くまでに散々俺は真由ちゃんから彼女の話しを聞かされた。
「人々を守るのが警察の役目」「魔法使いじゃなくてもファントムから人間を守る」……笑ってしまう。
正直、彼女みたいな何の力もない人間が怪物から人間を守るなんてできるわけがないしバカにも程がある。
今日、会って喋ってみて、真由ちゃんから聞いた話しは言い過ぎではない確信した……大門凛子と言う女刑事は本当に自分の身を犠牲にしてでも市民を守りたいと思っているのだ……、
だけど……俺はそう言う奴が嫌いじゃない。
少なくとも、覚悟だけはあると言う事、そして垣間見える警察官としてのプライドと誇り。
「俺たちは魔戒騎士じゃないのか!?」……誰かさんに言われた言葉を思い出し、過去の記憶が蘇る。
その一言は復讐心しかなかった俺の心を突き動かし、魔戒騎士としての誇りとプライドを与えてくれた。
形は違えど、彼女も、大門凛子もまた俺たちと同じ守りし者であることには違いないのだ。
だから俺はこの捜査に協力した……覚悟がある奴の頼みは断れない。
そして捜査は意外な展開を迎える。
殺人事件があった現場で真犯人と思われる包帯を巻いた男が現れたのだ。
俺と真由ちゃんと綺羅、凛子で後を追い、廃ビルの屋上へと追い詰める……いや、気のせいだったらいいのだが違和感を感じる……。
追い詰めたと言うよりは誘導させられた?……そして俺たちを待ち受けていたかのように仁王立ちする包帯男。
「この事件に……関わるな……」
喉を痛めているのか、掠れ声すぎてよく聞き取れないが、俺たちを脅しているようだ。
「あなたが……あなたが犯人なの!?」
「もう一度言う……この事件に……関わるな」
「この事件を解決することが先輩との約束! 私は真実を突き止めるまで退かない!」
「ならば……仕方ない……」
男は右手に鋸のような武器を構えると、舌舐めずりし、ニヤリ微笑する。
そして男が持つ武器に俺は驚愕した……。
「お前、魔戒騎士か!?」
男の持つ武器は紛れもなく、ソウルメタル製の武器、魔戒鋸だったからだ。
ソウルメタルは持ち主の心の在り方で重さが極端に変動する特殊な金属でホラーを斬るのに多大なる効果を発揮するため、魔戒騎士の武器の素材として扱われている。
つまり清らかで正しい心なら羽毛のように軽く、怒りに満ち、悪しき心なら鉛のような超重量級の重さに変わり、俺たち魔戒騎士はこのソウルメタルを自由自在に使いこなせるよう幼い頃から修行していると言う訳だ。
だから俺はこの捜査に協力した……覚悟がある奴の頼みは断れない。
そして捜査は意外な展開を迎える。
殺人事件があった現場で真犯人と思われる包帯を巻いた男が現れたのだ。
俺と真由ちゃんと綺羅、凛子で後を追い、廃ビルの屋上へと追い詰める……いや、気のせいだったらいいのだが違和感を感じる……。
追い詰めたと言うよりは誘導させられた?……そして俺たちを待ち受けていたかのように仁王立ちする包帯男。
「この事件に……関わるな……」
喉を痛めているのか、掠れ声すぎてよく聞き取れないが、俺たちを脅しているようだ。
「あなたが……あなたが犯人なの!?」
「もう一度言う……この事件に……関わるな」
「この事件を解決することが先輩との約束! 私は真実を突き止めるまで退かない!」
「ならば……仕方ない……」
男は右手に鋸のような武器を構えると、舌舐めずりし、ニヤリ微笑する。
そして男が持つ武器に俺は驚愕した……。
「お前、魔戒騎士か!?」
男の持つ武器は紛れもなく、ソウルメタル製の武器、魔戒鋸だったからだ。
ソウルメタルは持ち主の心の在り方で重さが極端に変動する特殊な金属でホラーを斬るのに多大なる効果を発揮するため、魔戒騎士の武器の素材として扱われている。
つまり清らかで正しい心なら羽毛のように軽く、怒りに満ち、悪しき心なら鉛のような超重量級の重さに変わり、俺たち魔戒騎士はこのソウルメタルを自由自在に使いこなせるよう幼い頃から修行していると言う訳だ。
「お前では……俺には勝てん……未熟な魔戒騎士……まとめて[ピーーー]……」
「何だと!? ミイラ男さん聞き捨てならねぇなぁ お前の正体暴いてやるよ!」
未熟な魔戒騎士だと?……かつての俺ならいざ知らず、これまで何度も修羅場を潜り抜け、高名な魔戒騎士が集うサバックでも優勝し黄金騎士と双璧の強さだと言われる俺が未熟だって言うのか!?……。
「そうか……やってみるがいい……俺の目的を邪魔する奴は斬る……」
何だ、この威圧感は?……。
漆黒の炎が放つ男のオーラに底知れぬ恐怖を感じる……。
こんな事はいつ以来だろうか?……そうだ、あの時だ。
かつて暗黒に堕ちた魔戒騎士でバラゴと言う奴がいた。
俺の最愛の人、シズカの命を奪った男……。
バラゴは暗黒騎士キバとなり、さらなる力を求め、ホラーを千体喰らい、ホラーの始祖メシアと一体化する事を望んだ。
結局、その願いは叶わず、メシアに喰われたのだが、その強さ本物だった……まだ経験が浅かったとは言え、俺と鋼牙、二人同時に相手をしても軽くあしらわれた。
あの時の……バラゴと同じだ……コイツは強い……俺の直感がそう言っている。
「真由ちゃん、凛子を連れて逃げろ……」
「私は逃げない! 真実が知りたい!」
「今はそんな事言ってる場合じゃねーだろ!」
だが凛子は俺の忠告を拒み、拳銃を構える。
しかし魔戒騎士に拳銃なんて子供騙しにもならない……男はロケットのようなスピードで鋸を振りかざし、凛子に突進する。
「危ない!」
俺は凛子の正面に回り込み、右手に持つ魔戒剣で何とか鋸をブロック。
鍔迫り合い、男の怪力に腕が震える……。
「ナメんなぁ!」
男の胸部を二段蹴りし、一旦、距離を取り態勢を立て直す。
「俺の剣を止めるとは……中々やるな……未熟な後輩……」
悔しいがスピード、パワー共に今まで戦った敵の中でも屈指……さすがに大口を叩くだけはある……。
「お前、魔戒騎士のくせに何でこんな事をする? 目的は何だ?」
「お前が……知る必要は……ない……」
男が鋸を構え、俺は二刀の剣をグルグル回し、逆手に持ちかえる。
「助太刀致します」
「私も戦います!」
綺羅と真由ちゃんが俺の隣に並び立ち、綺羅は魔戒筆を構え、真由ちゃんは仮面ライダーメイジに変身。
三対一……数敵優位だ!とっとと決着をつける!。
俺は魔戒剣を頭上に振り上げ、円を描く……魔界より銀牙騎士ゼロの鎧を召還し、万全を期す。
ここからがホントの勝負だ!。
SIDE真由
目の前で太陽を直視したどころじゃない程の眩しい光が零さんを覆うように飲み込む。
光が収まった時には白銀の狼が目の前にいた……これが綺羅さんから聞いた零さんが魔界から召還した鎧……確か銀牙騎士ゼロだったっけ……。
そして二刀流の剣は更に鋭さと大きさが増していた……。
鎧を纏えば、攻撃翌力と防御力が大幅に向上するが、時間制限が存在し僅か九十九,九秒しか召還していれない諸刃の剣らしいけど……。
それにしても鎧を纏った零さんは果たしてどれくらいの強さなのか……晴人さんや仁藤さんくらいか、メデューサやグレムリンくらいか、それともそれ以上か……。
私ったら何を考えているんだろう……。
戦いに集中しなくては……。
「さぁ、終わりの時よ!」
まずは綺羅さんが筆を持ち、飛びかかる。
綺羅さんは長い足を活かし、的確に男の急所に蹴りをヒットさせる。
そして一旦、間合いを取る為に離れて蹴ってを繰り返していく。
綺羅さん……凄い……。
モデルのように細身の身体とスラッとした足なのに……どうしてあんなに強烈で速い蹴りを繰り出せるんだろう?……。
それに速いだけじゃなく、正確性も抜群だ。
私もあんな蹴りがあれば……。
そう思っているうちに綺羅さんの蹴りが男の横顔を捉える。
こんな近距離であの蹴りを受けたら、タダではすまないはず……。
だが男は顔に蹴りを浴びながらも、しっかりと綺羅さんの足をガッチリと掴んでいる。
そして腕の力で綺羅さんを投げ飛ばす!。
そのまま綺羅さんは頭からフェンスに衝突……。
そして男も零さんと同じく、鋸を空中で一回転させる。
光の輪は男を包み、照らし出す……零さんが鎧を纏った時は隣だったせいもあって、とてもじゃないが、眩しく直視できなかった……。
だけど今度はしっかりと目に見えた……魔天使たちが光の輪の中から男に鎧を装着していくのが……。
零さんの……ゼロの鎧は銀色を基調とした鎧だが、男の鎧は焦げ茶色をベースとし、所々に赤のラインが入っていて、黄色の眼光が鋭く光っている。
シャープなゼロの鎧よりもゴツそうな作りで、パッと見た感じだと、良く言えば重厚で頑丈そう、悪く言えば重くて動きにくそうな印象を受けた。
何はともあれ、凛子さんが追ってた犯人らしき人が魔戒騎士だなんて……。
でも何で、魔戒騎士があんな殺人事件を?……それに現れたタイミングだと自分が犯人だと言っているようなもんだ。
目の前の魔戒騎士にとって何のメリットが?……それを聞き出すには力でねじ伏せるしかなさそうだけど、そう簡単にはいくわけない。
綺羅さんの蹴りをまともに受けて、平然としてるし今もゼロと互角に渡り合っている。
それにゼロが少し押され気味か……。
一見、重そうに見える鎧だが、ゼロ以上に俊敏な動きを見せている……。
剣と鋸が交互に鎧に傷をつけていく……。
先に鎧が限界を迎えたのはゼロだった……。
硝子が割れるような音がして白銀の破片が鎧から飛び散る。
このままじゃゼロが……零さんが危ない!!。
私も援護しなければ……敵は近接距離、つまり剣技や格闘術には優れている。
とてもじゃないがメイジが……つまり私が正面から戦って勝てる見込みは少ない……でも、これなら!……。
ウィザーソードガンなら……飛び道具なら敵に近づかなくても勝ち目があるはず!。
魔翌力で生成した銀の弾丸が発射され、肉眼でそのスピードを捉える事は不可能に近い。
その弾丸は確かに敵の上半身を捉えたし、現に小爆発か起きた。
「効いて……ない!?」
膝をつき、疲弊したゼロの顔を蹴り飛ばすと私にゆっくりと近づいてくる。
もう一度、私はウィザーソードガンから弾丸を放つが、敵はそれを冷静に鋸で叩き落としていく……。
「そ、そんな!?……」
そう言葉に発してしまった瞬間、私の胸に衝撃と痛みが走る。
敵は私が放った弾丸を弾き返し、それを直後させたのだ……。
私は一度、空中に浮き、仰向けの状態で地面に落下する。
有り得ない……魔翌力のこもった銃弾を叩き落としただけじゃなく、私に弾き返すなんて……。
最早、反射神経や動体視力がいいとかそう言ったレベルの話じゃない。
や、やられる!……着実に忍び寄る足音に恐怖をおぼえた。
メデューサをはじめ、ファントムと戦ってきたから慣れたつもりでいたけど、初めて殺されると言う恐怖と焦りを感じている……。
ウ、ウソでしょ?……このまま終わりなんて……。
「真由、退いてろぉぉぉ!!」
その時、零さんの声が聞こえた……。
そして上空には双剣に青い炎を宿したゼロと筆を燃え盛る炎のように赤い弓に変貌させた綺羅さんが舞い上がっていた。
「ウォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「ハァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
青い斬撃と赤い弓矢……ゼロと綺羅さんの同時攻撃が敵を襲う……。
私は近くにいた凛子さんを守るべく、覆い被さるようにして伏せる。
さすがに意表を突かれたのか敵も身体が動かなかったのだろう……防御するすべはない。
ただ唖然と見つめるだけ……攻撃が命中するのを待つのみだ。
そして爆発と爆風が同時に起こる。
敵を包み込んだ、その威力は凄まじい……。
勝った!……その時はその場にいた四人が勝利を確信したはず……。
「逃げられたな……」
鎧を返還し零さんは悔しそうに呟いた……。
「えっ!? でも、あの攻撃を受けたら、無事じゃ済まないはずじゃ?……」
そんなはずはない……破壊力が凄すぎて肉体ごと消滅したとばかり思っていたのだが……。
「あの魔戒騎士はこれくらいでは死なないですよ……なんせ不死身の魔戒騎士と呼ばれてたんですから……」
「綺羅……お前、さっきの魔戒騎士知ってるのか? 知ってんだったら全部話せ……」
綺羅さんの悲しげだけど、どこか寂しそうな瞳は何を意味するのだろうか……。
顔中に包帯を巻いた魔戒騎士の目的はいったい何なのだろうか?……。
SIDE零
鳥井坂署に戻り、俺は綺羅の喉元に剣を突き付けた。
「綺羅、知ってる事を全部吐いてもらおうか?」
綺羅は俺たちを襲った包帯だらけの魔戒騎士を知っている……。
さて、奴の目的、正体、謎に包まれた魔戒騎士の素性を全て話してもらおうじゃないか。
綺羅は特にうろたえる事もなく、瞳は真っ直ぐ一点だけを見つめ、あっさりと包帯だらけの魔戒騎士について語りだす。
「あの男は彗星騎士ガルの称号を持つ元老院付きの魔戒騎士で如月一と言います……そして私は彼の相棒でした……」
「如月一だと?……だが噂じゃそいつは……」
強さと優しさを兼ね備え、数々の困難な指令を遂行し必ず生還してきた魔戒騎士の鑑とまで言われていた伝説的な魔戒騎士だ。
そして敵であるホラーからも天性の打たれ強さとタフさから「不死身の魔戒騎士」の異名で恐れられていたが、風の噂で、とあるホラーとの戦いで命を落としたと聞いていた……。
「私も死んだと思っていました……あの日、私たちは元老院からの指令で古のホラーであるバイアスと戦ったのです……」
バイアス……メシアの盾と言われ、称号持ちの魔戒騎士たちが束になっても敵わず、封印するのがやっとだったと言う古のホラー……。
「私たちは終始、バイアスの圧倒的な強さに苦戦し追い詰められていきました…… そして一は最後の手段に出たんです……」
「最後の手段?」
「魔戒爆弾です……爆弾を鎧に埋め込み、爆発にバイアスを巻きこむ……」
「零さん、魔戒爆弾って何ですか?」
真由ちゃんが聞き慣れない言葉に戸惑う。
それも無理はない。
ただの爆弾なら誰でも知っているが、話に出てきたのは「魔戒爆弾」だ。
「魔戒爆弾ってのは爆発の大きさを魔翌力で封じ込めた爆弾だ 威力そのものは核兵器にも匹敵する……あれに巻き込まれたらひとたまりもないはず……」
爆発の大きさは小規模ながら、破壊力自体は魔戒騎士はおろか、ホラーでさえ木っ端微塵となる。
そして魔戒爆弾の発動条件が自らの鎧に埋め込む事……。
つまり使用者は自らの命を犠牲にしなければならない危険な代物。
しかし如月一は生きていた……綺羅の話が本当ならば俄には信じがたい。
「でもあの鎧を見間違えるはずないですから……」
ここで綺羅が嘘をつくメリットはないはず……と言うことは如月一が濃厚か……。
「その如月一って魔戒騎士があの事件の犯人だったってこと?」
「それは有り得ません! 彼が何の罪もない一般人をましてや幼い子の命を奪うなんて!」
普段は冷静な綺羅が感情を向き出しにして、驚くくらい凛子にくってかかる。
「じゃあ何故、俺達を襲った?」
「それはっ!……」
俺の言葉に綺羅は口を閉ざす。
おそらく先の言葉が出てこなかったのだろう。
「重要参考人ってやつだな」
第一に奴は「この事件には関わるな」と言ったはず。
仮に犯人ではなかったとしてもこの殺人事件の何かしらの情報を持っているのは間違いない。
とにかく真実はあの包帯騎士を取っ捕まえて吐かせるしかないのが現実。
いくらこの場でああだこうだ言っても単なる推測にしかならない不毛な議論になってしまう。
俺の気持ちを察したのか、そんな話を終わらせるかのようかに扉が開く。
「話は聞かせてもらったよ」
眼鏡をかけたいかにもエリートって感じの男が入ってくる。
「君が魔戒騎士か……少しイメージが違うから別人か? 羽根沢って知り合いからは白いロングコートを着た男って聞いていたが……まぁいい 木崎政範だ」
また俺の苦手そうなのが……こういう理屈っぽそうな奴は総じて苦手だ。
しかも白いロングコートって……鋼牙の事か?……。
こんな奴に嗅ぎ付けられるとはアイツ、ヘマしやがったな……。
こういう奴は俺達について根掘り葉掘り調べそうだから、めんどくさそうだ。
俺は木崎が握手しようと差し出した手をスルーすると出口に向かう。
「とにかく魔戒騎士が出てきた以上、この件は俺が預かる」
相手は魔戒騎士……思いもよらなかった展開だが、もしかしたら一連の騒動も如月一が原因か?。
この指令の本当の敵……暗躍しているのが奴だったとしたらこちらとしては無駄な労力を使わずラッキーだ。
「ちょっと待って! 私も協力させて!」
凛子が俺の行く手を塞ぐようにして、目の前に立つ。
「アイツは強ぇ そんな事言ってられるようなヤワな相手じゃねーんだ!」
凛子は一般の人間で敵は魔戒騎士。
奴からすれば、赤子の手を捻るようなものだ。
わざわざ危険な橋を渡らせる魔戒関係者はどこにもいない。
「言ったはずよ? 命を賭けてでもこの事件は譲るわけにはいかないの! これは約束なの!」
「ダメだ」
どんな理由があろうともこれ以上の深入りは危険すぎる。
これ以上は関わらせられない。
「元闇斬り師の名に賭けても凛子さんは私が守ります……」
「はぁ? 綺羅、お前それでも魔戒法師かよ? 」
「あの……私も凛子さんの力になれるなら協力します」
「俺からも頼む……騎士を倒すのは君の仕事なのは否定しない だがこの事件の真相を暴くのは我々警察の仕事だ! 」
「そこまで言うなら勝手にしてくれ……どうなっても俺は知らないからな」
俺は深い溜め息を着き、部屋を退室する。
本当にこの街の奴らは神経を疑う……あんな危険な目に遇いながら首を突っ込もうとするなんて……。
「頭の悪い人間の集まりのようね ゼロ、あなたも甘過ぎるわよ?」
「あぁ……シルヴァ、ホントにその通りだな あんなに頑固でバカな奴らだとは思わなかった だけどあそこまで言うんだから仕方ないだろ?」
「でも嫌いじゃないんでしょ?」
「何でそう思う?」
「だってホントに嫌なら、とっくに全員の記憶消してるはずだもの」
違いない……さすがはシルヴァ図星をついてくる。
人知れず戦うのが魔戒騎士で本来なら魔戒に関する記憶を持つ一般人は記憶を消すのが暗黙の了解。
俺は甘いと言われても否めない……凛子の気持ちに同情してしまった。
そして木崎の言った「我々の仕事」……あれを言われちゃ言い返す気も失せる。
SIDE真由
「私も用事があるので失礼します!」
私は零さんをつけるように後を追う。
魔戒騎士や法師は強い……きっと生身の状態でも弱いファントムなら圧倒してしまうくらいには。
残念ながら今の私にはそんな力はない……。
いくら成長したとは言え、まだまだ晴人さんや仁藤さんには及ばない。
あの人達もグールくらいなら生身でも相手できるはず……悔しいがグールなどの弱いファントムでも私はメイジに変身しなければ渡り合えないのが現状だ。
それでも私には因縁の相手、メデューサがいる……メデューサを倒すまでは私は立ち止まる訳にはいかないのだ。
しかし数いるファントムの中でも知能と戦闘力共に上位に位置するメデューサを倒すのは簡単じゃない……。
晴人さんや仁藤さんの力を借りて共闘しても決着はつかず、私は自分の未熟さと決め手のなさに焦りを感じていた。
そして何より中身は怪物だとしても自分の姉の姿を傷つけることを恐れる気持ちが膨れはじめている自分が情けない。
だから零さんにくっついていけば、何かメデューサを倒すヒントを得られるんじゃないか?……そう思ったのだが……。
しかしついて来たはいいが、声をかけにくい……。
話しかけよう、話かけようと言い聞かせているうちに結局、零さんの寝泊まりする場所まで来てしまった……。
マズイ……このままじゃ話かけられずに終わってしまう……。
そう思い、思いきって声をかけようとしたのだが、それと同時に零さんが振り向きざまに逆に声をかけてきた。
「今度はナニ? 尾行ならもう少し上手くやってくれよ」
どうやら私に気づいていたらしい……逆にコソコソしていたのが恥ずかしい……。
「すいません……お願いがあってきました」
「お願い? 面倒なのはゴメンだぜ?」
「私を鍛えてもらえないですか?」
零さんは腹を抱えて笑い出すと、私の肩に手を置いた。
「それは弟子になりたいって事?」
「はい 私にはどうしても倒したい仇がいます でも……今の私じゃ決め手がない……だからもっと強くなりたいんです! お願いします!」
「いいぜ? 弟子はあんまり取らない主義だけど『特別』にね 俺が鍛えてやるよ」
「ですよね……って、えっ!?……」
だよね……そんな簡単いくとは思ってない。
零さんの性格からして、最初から快く鍛えてくれるなんて有り得ない……って、ん?……私には鍛えてくれるって聞こえたのだが聞き間違いだろうか……。
「それって私を鍛えてくれるって事ですか!?」
「真由ちゃんは今から俺の弟子だ 何度も言わせるな とっととディナー食べて早速始めるぞ」
「は……はい!ありがとうございます!」
予想外だ。
零さんが快く鍛えてくれるなんて……何度もお願いするつもりだったのに……。
だけど零さんが何故、私を弟子にしたのか……本当の理由を私はまだ知るよしもなかった……。
SIDE凛子
「木崎さんも綺羅さんもありがとう……口添えしてくれて」
私は零君を説得してくれた木崎さんと綺羅さんに感謝の言葉を述べる。
真由ちゃんは何やら急いで出て行ってしまったので言いそびれてしまったから後でちゃんと伝えておこう……。
「気にするな 思った事を言っただけだ」
「私も真実を知りたい……だから貴女の気持ちは痛いほど解りますから でも一つだけ貴女を御守りするうえで伺います……どうして貴女はこの事件に執着していらっしゃるのですか? 確かに凶悪な事件ですが、他にも凶悪な事件はあるはずでしょう?」
「それは……」
思い出される記憶……まだ私が新人の頃に憧れていた敏腕女刑事がいた。
名前は濱田茜、殺人事件の検挙率は常にトップで誰にでも優しく、頭脳明晰で正義感に溢れ、護身術もできて尚且つ美人……。
警察官だった私の父と同じくらい尊敬していた……いつかあんな刑事になりたいと私の目標だった……。
茜さんはずっと七年前に起きた殺人事件を追っていて、新人の時に担当したが有力な手掛かりを見つける事が出来ず、殺害された有紗ちゃんの両親が悔し涙を流す前で頭を下げる事しかできなかったらしい……。
その悔しさを糧に茜先輩は殺人事件解決のエキスパートとまで上り詰めた……。
しかし茜先輩は突然、警察を退職した……。
「何故、茜さんは刑事をお辞めになられたのですか?」
「癌だったの……」
それも末期だった……。
ただでさえ精神的にも体力的にも過酷な警察官と言う職業……働き詰めで茜さんの体は自分も気づかないうちに病魔に蝕まれてしまっていたのだ。
パートナーを組む事が多かった私にだけ教えてくれた事実だった……。
いつもは明るく勝気な茜先輩の涙を私は見た……その涙は自分の死期が迫っていると言う事よりも七年前の事件の真相に辿り着けなかった罪悪感と悔しさ。
だから私は去り際に先輩と約束したのだ……。
「何年、何十年かかろうと私が必ず真犯人を見つけるって……」
「貴女の気持ち受け取りました 共に手を取り合い真実を暴いていきましょう」
私は綺羅さんの言葉に力強く頷く。
そして計ったかのように固定電話のベルが鳴り響いた……。
SIDE真由
深夜二時……そこは道路こそ整備されているものの木が被い茂り、街灯さえもなく深い闇が更に暗黒へと変貌した夜道を歩く……。
零さんに鍛えてもらう約束から早四日が経過……。
やる事は決まって、零さんと食事した後、ホラーと言う魔獣と戦っているのを眺めるのみ……。
確かに零さんはホラーをまるで遊んでいるかのように叩き斬っていく……。
この四日間は学校が終わると、すぐに零さんと一緒にホラー狩りに同行し、零さんの強さや凄みを再確認できた。
しかし私は実戦には参加させてもらえないし、強くなれるはずもない……今日もきっと……。
「あの……零さん」
「ん?」
「いつになったらちゃんと教えてくれるんですか?」
「何を?」
「戦い方ですよ! 私には絶対に倒したい敵が……家族を奪った敵がいるって話しましたよね?」
「だから俺はちゃんと教えてるつもりだけど? 戦い方ってのをな……」
「ふざけないでください! 私は本気なんです!」
零さんの素っ気ない反応が私を更に苛つかせた。
あの超人的な戦闘能力を誇る魔戒騎士から手解きを受けられる……そう期待していたのに……。
「こんだけ丁寧に教えてまだ解んないかなぁ? 俺と真由ちゃん、決定的に違う事があるって事にさ」
「私と零さんじゃ実力が違う事くらい解ってますよ!」
目の前であんなに圧倒的な戦闘能力を目の当たりにしていたらそんなの嫌でも気づく……。
私は零さんみたいにはなれない……そんな事は分かっている。
だって持って生まれた才能が桁違いなんだから……。
「その解答じゃ零点だな 俺との違いが解らないようじゃ強くなる資格も魔法使いの資格もねぇ」
「もういいです!……」
今の私には零さんへの失望しか残されてない……。
こうしている間にも晴人さんや仁藤さんとの差は開いているはず……。
こんな呑気な事をしていては家族の仇を討つ事なんてできるはずもない……。
「やめるか? 俺は別に構わねぇけどな?」
「失礼します……」
決別……。
私は零さんとは逆の方向に身体の向きを変え、暗闇を歩き出す。
やっぱり自分の力で道は切り開くしかないんだ……。
お父さん、お母さん、美紗ちゃん……もう少し待っててね……必ず私がメデューサを!。
SIDE零
俺はムスッとし背を向けて歩き出した真由ちゃんを眺めつつ、深いため息を吐く……。
「なぁシルヴァ……人に教えたり伝えたりするってのはホントに難しいな……」
正直、これほど難しい事だとは思ってなかった……これだから本来、俺は教える事には向いてない。
俺が魔戒騎士を育てるなんて夢のまた夢だなこりゃ……。
「そもそも魔戒騎士でも法師でもない小娘を修行だなんてのが間違ってるのよ」
「そう難いこと言うなよ? それに一応あの娘は魔法使いだし俺たちと似たようなもんだろ?」
「そうかしら? 私にはそうはとても思えないけど?…… ねぇ……どうしてそこまであんな小娘の事を気にかけるの?」
undefined
これが「本当の魔戒騎士の姿と本当に強い奴」なんだと……。
あの時の俺は魔戒騎士失格だった……真由ちゃんにはだからこそ俺みたいにはなってほしくはない。
「追わなくていいの?」
「いいんだ 俺に師匠は向いてないって分かったし、自分で気づくのを待てばいいさ……さっ、ホラー狩りにでも行こうか 綺羅」
本当は真由ちゃんには俺がホラーと戦っている時にまず人間を守る事を優先している……そこら辺を見て何かを感じとってくれたらと思ったのたが中々上手くはいかないもんだ……。
「さすがですね 気づいていましたか」
木陰から綺羅が現れると俺はさっきよりも深いため息を吐く……。
「ったく……どいつもこいつも下手な尾行しやがって……当たり前だろ で、手ぶらな訳ないよなぁ?」
「どうやら動き出したみたいですよ? この前、電話がありましてね、あの女刑事と現場に向かったところまた眼球と心臓だけが抉り取られていました……ちなみに今度はホラーの気配が部屋中に充満していましたね」
「だがあの時は何も感じなかった……何故だ?」
確かにこの前、ホラーの気配は魔導具のシルヴァでさえ、感知できなかったはず……。
「それに関しては不思議に思ってこの四日、私も自分なりに探ってはみたのですが……」
綺羅は唇を噛み、悔しそうに首を横に振った……。
そこまでは掴めなかったか……。
まぁいい……その現場は明日行ってみるとして、今はまず目の前のホラーを倒す事が先決だ。
「さて、始めるとするか」
俺がライターを翳すと、青色の炎がユラユラと燃える……。
この炎は魔導火、自身の攻撃翌力を強化させる事も可能だが、同時にホラーを炙り出す効果もある優れもの。
炎を翳すと同時に道路が複数盛り上がり剣を持った人型の姿に変わる。
ホラーが作り出し自分の化身ってところだ……。
俺は魔戒剣を懐から取りだし身構えるが、綺羅が俺の一歩前に出てそれを制止する。
「どういうつもりだ?」
「この程度の相手なら私が片付けましょう」
「ナニ?……」
敵は複数いる……状況は明らかに綺羅が不利な事を示しているが……。
魔戒筆を片手に勢いよく駆け出すと、ホラーの分身に左手の拳打を浴びせると、たった一撃で敵の身体が粉々に砕け散る。
鋭い刀で攻撃されても、筆でガードしながら前後の敵をブランコにでも乗ったいるかのように両足の蹴りで粉砕……。
驚く事にその蹴りは魔戒騎士の俺ですら目で追うのがやっとのスピード……。
そして残りは筆が赤い炎の弓矢に変化し、一矢で三体を纏めて葬る……。
「さすがは元闇斬り師ってとこか?」
魔戒法師でありながら、闇に堕ちた騎士や法師を狩る闇斬り師……目にもとまらぬ格闘術に加え、熟練した法術の制度の高さ……強いとは聞いていたが想像を遥かに
超えていた……。
だが、闇の力を持つ奴が相手ならこれくらい強くないと務まらないのも現実……。
「敵が弱かったからですよ さて今度は黄金騎士と並び立つと言われる貴方の力を見せていただきましょうかね 」
「プレッシャーかけんなよ……」
俺が魔戒剣を構え直すと、獣のような唸り声をあげ、さっきよりも道路は大きく盛り上がり、俺たちの身長の3倍くらいはありそうな巨人兵のような姿となる。
目は赤く鋭く、ユラユラと揺れ、口は頬まで避け、口の中は燃えているかのように真っ赤……。
これが道路に憑依したホラーの姿……夜、この道に誘い込み人間を喰らっていたのだ。
「予想以上に大きいけど手伝わなくて大丈夫ですか?」
「よくいるウドの大木ってやつだから心配いらねぇ」
とは言ったものの、油断できる程弱いホラーでもない……。
綺羅も見てるし、ちょいと本気でも出そうか。
俺は二刀を振り上げ、今回らゼロの鎧だけでなく、もう一つ召還したものがある。
それは百体のホラーを倒し、試練をクリアした者だけにその資格が与えられる魔導馬だ。
俺は苦労して手に入れたその魔導馬に以前、俺自身が使っていた名前である「銀牙」と名付けた。
今日は銀牙と共にホラーを切り裂く!。
二刀の柄の部分を繋ぎ合わせ、魔戒剣に魔導火を着火させ烈火炎装させる……。
そして銀牙を走らせると、ホラーの顔を目掛けて高くジャンプ石を含んだゴツゴツとした巨大な拳が目の前に迫るが、心配はいらない。
烈火炎装させた銀狼剣が巨大ホラーの拳から腕、そして顔面を貫く……。
顔面にポッカリと大きな穴が空き、そのままホラーは大の字に倒れ、地響きが起こる……。
「あの巨大ホラーを一瞬で……」
「今回は遊ぶ暇がなかっただけさ 俺、大したことないから」
灰塵と化したホラーを驚愕の表情で見つめる綺羅……。
その頃には暗闇は消え、朝陽が昇り始めていた……。
SIDEメデューサ
私の名はメデューサ……誇り高き、ファントム……。
私の目的は人間を絶望させ、新たなファントムを産み出す事にあるが、指輪の魔法使いや古の魔法使いに邪魔をされ、最近は計画が上手くいかない事に焦りと苛立ちを感じはじめていたのに加えて、私の頭を悩ませる厄介な出来事が起こる……。
それはまだ私が人間だった頃……稲森美紗だった頃の双子の妹、真由が魔法使いとなって、私を倒そうと躍起になり付け狙う事、そしてもう一つは……。
「はろ、ミ~サちゃん!」
こんな時に一番、顔を見たくない奴の耳障りな声が背後から聞こえてくる……。
振り返ると小洒落た帽子を被ったチャラそうな男……やっぱりそうだ……同じファントムのグレムリンだ……。
グレムリンは誰に対しても小馬鹿にした態度を取り、何を企んでいるか分からない不気味な奴。
こんな奴、信用できないし直ぐにでもあの世に葬ってやりたいのだが、ワイズマンの意向もあり、泳がせてやっている。
「その呼び方はやめろ 死にたいのか?」
「そう怒らないでよぉ~ ところでワイズマンがお呼びだよ?」
「次にその名で呼んでみろ 容赦はせんぞ?」
「まぁまぁ落ち着いて 早く行かないとワイズマンに怒られちゃうかもよ?」
私は舌打ちをするとグレムリンに睨みを効かせつつ、ワイズマンの元に移動する。
「行ってらっしゃ~い!」
背後から聞こえるグレムリンの声を聞くだけで殺意が芽生える……。
グレムリンの奴め……調子に乗りよって……。
「ワイズマン様、お呼びでしょうか? 」
まず私はワイズマンの前に膝まづき、最大限の敬意を払う。
「おぉメデューサよ お前に頼みがある」
「はい、何なりと……」
「最近、ファントムたちが暴走している事は知っているか?」
「はい……」
私がさっき言いかけたもう一つの頭を悩ませる出来事……。
それはファントムがワイズマンや私の命令を無視して、本能のままに暴れまわっていること……。
私たちファントムの目的は新たなファントムを産み出す為にゲートになる人間を絶望させることにある。
だが、あれだけ街で闇雲に暴れまわれば、魔法使いたちに嗅ぎ付けられ、始末されるのがオチだ……。
しかも何故、暴走しだすファントムが増えたのかも原因が分からない……。
「暴走するファントムの謎を解明し、正気に戻せ……」
「はい……必ずや……」
この問題は確かに早急に解決しなくてはファントムが次々と魔法使いに倒されてしまう……。
「それともう一つ頼みがある……」
「もう一つ?……」
「魔戒騎士と言う魔法使いの力を凌駕する者が現れた」
「魔戒……騎士?……」
聞き慣れない単語に思わず聞き返してしまった……。
だが、魔戒騎士だろうが魔法使いだろうが関係ない。
ワイズマンが敵と言えば私にとっての敵となるのだから……。
「魔戒騎士を倒せ この前も暴走していたファントムが殺られた……奴は我らにとって害にしかならない……危険な頼みだがやってくれるな?」
「ワイズマン様の仰せのままに……私が暴走するファントムを制御し、魔戒騎士を倒してご覧にいれましょう」
ワイズマンは我々ファントムの親で絶対的忠誠を誓わなければならないし、逆らう者は誰であろうが、このメデューサが排除してやる……。
SIDE真由
まだ人通りも少ない早朝の街中を私は一人トボトボと歩く……。
きっと零さん怒ってるだろうなぁ……何であんなこと言っちゃったんだろう……。
これも私の力がないのが悪いんだ……自分が強くなりたい焦りから本当に失礼な事を言ってしまった……。
でも零さんと決定的に違う事って何だろうか?……。
才能とかそう言った事じゃないとは言っていたけど……。
私は零さんの言葉に戸惑い悩む……。
「あら、 久しぶりね 感動の再会ってとこかしら?」
この懐かしくも憎むべき声は!?……。
「メデューサ!?」
顔を上げ、歩みを止める私の目の前に立っていたのは因縁の相手メデューサだ!。
私の中にグッと怒りが込み上げてくる……両手の拳を握り、メデューサを睨む。
「安心しろ 今回は戦いに来たわけじゃないわ」
「ふざけないで! 私は今すぐあんたをこの手で!……」
「随分憎まれてるのねぇ まぁいいわ そんな事より魔戒騎士を知っているな?」
「知っていたらどうだって言うの?」
「その魔戒騎士とやらの居場所さえ教えてくれれば今回は見逃してあげるわ」
魔戒騎士……何故、メデューサが零さんを?……。
どうせ良からぬ事を企んでいる事に違いないし、「見逃してあげる」って……私の事は眼中にないとでも言うのか。
「知ってても、あんた何かに絶対に教えない!」
「あら、残念 じゃあその身体に聞くことにするわ」
今度こそ決着を着ける!。
「変身!」
私はメイジにミサはメデューサの姿に変え、戦闘が始まる。
「さぁ、終わりの時よ!」
まずは私のスクラッチネイルとメデューサの杖が二度と三度とぶつかる……。
素直に戦って勝てる相手じゃない事は分かっている……。
【コネクト,ナウ】
私はソードガンを取り出し連射するが、メデューサはそれを回避し、逆に紫色の光弾を発射してくる。
私は回避し隙をつきソードガン連射を命中させる。
「小癪な!……」
【テレポート,ナウ】
背後を取った私だったが、メデューサに読まれていた。
メデューサは髪の蛇を放ち、それは私にかなりのダメージを与え、拮抗していた戦いは一瞬にしてメデューサの優勢となっていく……。
胸部から爆発が起き、私の身体は地に伏せてしまう……。
痛みと格闘するものの、中々起き上がれない私をメデューサは躊躇いなく攻撃する……。
杖が私のマスクを捉え、今度は缶けりように腹部を蹴り飛ばす。
「所詮はこの程度か」
「くっ!……」
メデューサの頭部から発生した蛇が私の首をきつく締め付ける……。
「さぁ、言いなさい 魔戒騎士はどこにいる?」
「誰が……あんたなんかに!……」
「バカな女……」
蛇の締め付ける力が更に強くなっていく……。
「うぐっ……」
息ができない……苦しい……。
だ、誰か助けて……お父さん、お母さん、美紗ちゃん、晴人さん、仁藤さん、零さん、綺羅さん……誰でもいいから助けて!……このままじゃ……。
私はもがき苦しみ、意識が遠くなっていく……。
が、私は苦しみから解放される。
その人は咳き込む私をゆっくりと身体を起こしてくれた……。
SIDE零
ホラーを倒し終え、屋敷に戻る道中……。
朝陽を見ながら、綺羅と沈黙の時が流れていく……。
そう言えば、綺羅とはまともに喋った事がなかったっけ……。
まだ敵側って可能性を完全に捨てた訳じゃないけど、綺羅程の腕前なら俺を殺れるチャンスはいくらでもあったはず……敵の可能性は薄いか……。
「ねぇ……零ちゃん 貴方私を疑ってますよね?」
「何でそう思う?……」
「顔に書いてありますよ? 貴方みたいに素直な魔戒騎士あまりいませんから」
飄々と答える綺羅はしてやったり……その満足そうな顔がムカつく……。
「って言うか前から言おうと思ってたんだけどさ、そのちゃんづけはやめろよな」
「分かりましたよ れ~いちゃん」
「おい……バカにしてんだろお前……」
この女、ホントに闇斬り師だったのか?……。
俺のイメージはこう……寡黙で表情を一切出さず、感情を持たないロボットのような感じを想像していたのだが……。
「ところで零ちゃん、一生のお願いがあるのですが……」
「できることにしてくれよ? 」
「貴方と手合わせしたいのです」
あまりに唐突なお願いで間抜けな顔をしてしまったじゃないか……。
いきなり何を言い出すんだ……全く……。
「あの黄金騎士ガロに並ぶ強さ……私は闇に生きてきた者です ガロの鎧も見たことはないですし、せめて同じ強さの貴方と手合わせしてみたいのです あの黄金騎士がどれくらい強いのかを……」
そうか……やっぱりガロは偉大だな……。
闇斬り師にまで響き渡ってるんだもんなぁ……。
「俺はムダな体力を消耗したくないからパス……この指令が終わったらガロに会わせてやる そん時にでも手合わせしてもらってよ」
「本当ですか!?」
「まぁガロの継承者とは知り合いだからね」
「ありがとうございます! 零ちゃん大好きですよ!」
「おい!?……ちょっと!?……」
会わせるって言っただけでこんなに喜ばれるなんて人気者は違うねぇ……。
いきなりハグしてくる綺羅に困惑しつつも、俺は鋼牙の凄さを改めて感じていた……。
が……いきなり綺羅が身体から離れ、険しい表情に変わる。
「零ちゃん、あれ見てください!」
綺羅が指指した方向を見るとそこには真由ちゃんが二人睨みあっていた……。
「あれが真由ちゃんが言ってたメデューサか……」
これは驚いた……最早、瓜二つと言う言葉がこれ程までにピッタリな姉妹は世界中捜してもそうそういないだろう……。
そして変身した両者がぶつかる……。
戦いの戦況は互角か……だけどおそらくこのままいけば真由ちゃんは負けるかな……。
純粋な実力ではメデューサに軍配が上がる上に経験も浅い……。
憎しみなどの負の感情は一瞬のドーピングのようなもので戦いが長引けば長引く程、実力の差は次第に現れてくるもの。
そして何よりこの戦いを見て思った事……真由ちゃんは実力以前に覚悟が足りない。
おそらくお姉さんを失う事を恐れている……今の姿は借り物で目の前にいるのはお姉さんの皮を被った怪物であることは一番、真由ちゃん自身が分かっているはずなのに……。
「零ちゃん、助けないんですか?」
「乗り越えさせるんだ……ここで俺たちが出て行ってもあいつの為にはならない」
真由ちゃんの境遇には心底同情する……自分が留守の間に家族が亡きものにされ、さらに両親の命を奪ったのが姉の姿をした怪物……。
だけど魔法使いは真由ちゃん自身で選んだ道だ……その力を得たからにはファントムから人間を守らなければならない。
何かを守りたい気持ちがあれば、真由ちゃんはもっと強くなれるはず……。
「真由ちゃん死んじゃいますよ!? もう我慢できません!」
「勝手にしなよ……俺はここで見てっから」
綺羅の手刀が真由ちゃんの首に巻き付いていた蛇を切り落とし、助太刀が入った事で戦況は一変する……。
「大丈夫ですか!? 立てますか?」
「綺羅さん……ありがとうございます……」
「まさか貴様が魔戒騎士とやらか?……」
なるほど……狙いは俺って訳ね……。
ホラー退治だけでも面倒なのにファントムまで狙ってくるとは勘弁してくれ……。
「残念ですが私は魔戒法師です!」
綺羅の筆とメデューサの杖が交錯し、力が拮抗する……。
綺羅はメデューサを力で押し返し、隙ができたところを得意の高速蹴りを左右両足三発ずつ喰らわす。
そして低い姿勢から赤い稲妻を筆から放つ!。
しかしメデューサも紫色の光弾を放ち、凄まじい爆発が起きる……。
立ち込める黒煙が晴れるとそこにメデューサの姿はなかった。
未知の相手である綺羅の対策を練るべく、一時退散したのだろう……。
俺はメデューサの姿がないのを確認すると、一人帰路についた……。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません