何もない、白の空間。
色を失ってしまった無機質な空は、影を落とす雲さえも持たない。何処までも、地平の彼方までも、大地には虚無が満ちていた。
そんな世界の中に、二つの影が立っている。
一つは、草臥れた雰囲気を漂わせる、禿頭の老人。
そして、もう一つ。老人に向き合っている、極若い少女。
何処までも、無言。語られる言葉はなく、静かに、時間が過ぎていく。時間の運行を示す唯一の存在である太陽が、少女の目に入る。彼女と向き合う老人の顔には、影が落ちていた。
そうして、どれほどが経ったろうか。彼の顔に刻まれた深い皺が、ピクリと動いた。そして、その見た目通りの、老いて嗄れた声が響く。
「私の声が、分かるか」
よく分かる。この静かな世界に、唯一つ響く音だ。少女は素直に、首肯を返した。
その反応に満足したのか、老人は微かに頷き、彼女を見つめる。ならば、聞いてくれ。ややあって口を開いた彼は、滔々と、語り始めた。
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「嘗て。この世界にあったある国が、実験を行った。人類の意識と肉体を統合するという、壮大で、余りにも愚かな実験だ」
「人の手に負えないことを成し遂げようとした馬鹿げたこの実験は、当然失敗した。いや、ある意味では、成功したとも言える」
「実験装置の暴走によって、極僅かな範囲の人間だけを合一するはずだったものが、全世界に対象を拡大した。その結果が、この空白の大地《ボイド》だ」
「人々の肉と心の塊。個を否定し、全たることを強制する思想の産物。ボイドは、飲み込んだ人間の多さに見合うだけに膨れ上がり、世界を覆い尽くした」
「そして、辛うじて逃れた人々にも、危機が襲いかかった」
「この空虚には、溶け合った人々の心を具現化する力があった。それが、この異常に巻き込まれた人々の恐怖心を実体化し、イズベルグという生物を生み出した」
「様々な姿をしたこれらの怪物は、生き延びた人々に襲い掛かり、殺めていった。銃で撃てば排除出来るものではあったが、そんな軍事力は、残された者達には殆ど残っていなかった」
「こうして人類は、突然に滅びの危機に瀕することになった、という訳だ」
其処までを語った老人は、一旦言葉を途切らせた。呻き声をあげて、咳き込む。身体を悪くしているのだろう。顔に、生気がない。
老人は、暫く苦しげな様子であった。それが収まるまで、数分は優に費やしたろうか。漸く落ち着いた頃には、幾分か血色が悪くなっていたが、それに構う素振りもなく、また言葉を繋いだ。
「……だが、まだ世界は終わり切っていない。残った人々は寄り集まって、何とか生き延び、そして現状を打破する方法を模索した」
「何年も、何十年も。年月を費やし、希少な資源や設備を利用して、遂に、二つの希望を見つけた」
「一つは、ボイドから人間を再生する技術。二つは、お前達のような存在だ」
震えながら、老人が、少女に手を伸ばす。骨に直接皮を張り付けたような、すっかり枯れた手は、ゆっくりと彼女の肩を掴んだ。弱々しく、しかし、固い意思を感じる確かな感触が、微かな温もりと共に感じられた。
「ボイドが生み出すのは、イズベルグだけではない。時に、海に浮かぶ島のような、奇妙な構造体を形成することもある。その中から見つかったものが、マトリョシカだった」
「この人形は、溶けた人間の肉体と心の塊のようなものであり、特殊な機械でそれを解放すると、人間に戻る。この事実を発見した生き残りは、皆歓喜した。全ての溶けた人間を戻せば、或いは世界も戻るのでは、とな」
「しかし、ボイドは余りにも広大だ。此処を探索するのは、生き残った人間だけでは無理がある。苦悩した彼らは、その末に、閃いた。人手が無いなら、作ればいいと」
「そうして生まれたのが、お前達、プロジェクションクローンだ。マトリョシカの一つから抜き出した精神体を、ボイドから唯一復元出来たDNAを用いた肉体に投影《プロジェクション》した、人間の身代わり」
「その存在は光によって維持され、それのある限り、疲労も、老いも、飢えも存在しない。労働代替者《ROBOTA》としては完璧な性能を持つ、まさに模倣品《クローン》だ」
「肉体の空間位相をずらすことで、複数の同一個体を、同一空間上に展開することも出来る。そうして無数に並行する個体群が、統一的・能率的に作業にあたる」
「お前は、生き残りにとっての希望の一つだった。人に代わる、無限の労働力。世界再生の力。そうであるべく生み出されたのが、お前達だった」
其処まで言うと、老人の眉間の皺が、更に深くなった。
「だが、馬鹿げたことに彼らは、この成果を独占した。彼らの嘗て属していた国家の利権として、彼らの国を再建する為だけにお前達を使うと」
「そんなことが認められよう筈もない。この星の全てが平等に再生する。そうでなければ、この世界は、真に蘇ったとは言えないのだ」
勢い良く、怒りすら感じさせる程に強く言い切って、また一息。そして、咳き。かなりの憤りを、感じていたのだろう。それが噴出して、抑えきれなくなった様な。
肩に置かれた手の力が抜け、やがて、それは老人の元へ戻る。二、三歩だけ、小さく後ずさってから、彼は、また言った。
「だから、私はこうやって、お前を彼らの元から奪ってきた。生み出されて間もない、彼らの思想を植えつけられる前のお前を」
「研究成果であるお前を調べれば、プロジェクションクローンの技術を、我々残された者も手に入れることが出来る。そして、我々も、我々独自の方法で再建を目指せるようになるのだ」
「その為に……お前には、我々を手伝ってもらいたいのだ」
青息吐息の有様で、彼は跪き、そして手を白い大地に着いた。その髪のない頂が擦りつけられるかと思われる程に、深く、深く、頭を下げて。
「この世界を救うのに、手を貸して欲しい。頼む」
頼む。そう言われても、困る。自分がどういう存在なのかは、話を聞いていて分かった。そして、それが生まれついての使命であることも理解した。
なら、断る理由など、何処にあるだろうか。
少女は、首を縦に振り、肯定の意思を伝えた。途端、老人の顔が此方を向き、そうか、そうかと、何度も繰り返しながら、涙を流すのが見えた。
それだけ、掛ける期待が大きかったのだろうか。生まれたばかりの彼女には、今までの会話からだけでは、その感情を理解し切ることは出来なかった。
一頻り、啜り泣きの続いた後、老人は少女の方へ向き直った。赤い目のまま、詰まった声のまま。
「……では、これから宜しく頼むぞ」
「……そう言えば、お前には、まだ名前がなかったな」
「彼らは、全ての個体に名前を当てていたという。何時までも『お前』という訳にもいかないし、何か、名前をつけてやらねばな」
「……どうするか」
名前。考えてみれば、確かにそれは存在しなかった。少女は投影されて間もなく、老人と、何人かの男達によって連れ去られた。名前も、識別コードも、存在の証明となるものは、何も与えられなかった。
どんな名前が、与えられるのだろう。彼女が無機質な目線を注ぐ中、顎に手を当て、目を伏せる老人は、暫くの思案の後、それを告げた。
>>6->>8:コンマ値最大のもの
キボウ
ミライ
「ムゲン、ではどうだろう」
「嘗て、極東と呼ばれた地域には、ニホンという国があった。そこで使われていた言葉だ」
「この言葉は、無限《Infinite》と夢幻《Fantasy》という二つの意味を持つ。お前には、似合いの言葉ではないか」
「無限の労働力であるお前が、人類復興という夢幻を、現実に変える。どうだ? いい名だと思うのだが」
老人は、其処で、少女の様子を伺った。嫌がる名前ならば、別のものを考えよう、ということであろう。
対する少女は、やはり、言葉なくそれを受け取り、考えていた。生まれて間もない彼女は、多くの知識を持たない。しかし、それだけに、色眼鏡を掛けることなく、老人の言葉の意味を、ありのままに受け取った。
無限が、夢幻を、現実に。ムゲン。
良い名前、ではないだろうか。
その返事は、表情を読み取った老人にも届いたらしい。気に入ってくれたか。一つ頷いて、彼は、改めて言った。
「では、お前の名前は、『ムゲン』だ」
「これから、宜しく頼む。ムゲン」
そう言って差し出された手を、少女は……ムゲンは握り返した。
かさつく肌には張りはなく、握り締めれば、くしゃくしゃに崩れてしまいそうな程だった。
しかし、先程は衣服越しにしか感じられなかった老人の温かさは、不思議と、身体に染み入るようだった。
今日は此処まで。明日の同じ時間帯、システムなどの詳しい説明を入れます
流石に誰もこんなのを作る人はいないだろうと始めてみました
需要は多分ないでしょうが、気長にぼちぼちと続けていきます
ついでに、暇があればトゥモローチルドレンの事で雑談でも……
お付き合い頂き感謝します。お疲れ様でした
23:00より再開します
ルールを解説して、ぼちぼち始めます
それでは始めます……
その後、老人と共に、ムゲンはボイドを歩き始めた。この荒れ果てた世界を再建する方法を、教わりながらである。
向かう先は、老人達の仲間が集まる拠点。この付近でも、一際ボイドが安定している地域にあるという。
老人は、今一度、世界と彼らが置かれている状況を整理した。
「《全人類の再生》、そして《ボイドの消滅》。我々の目的は、主にこの二つにあると言える」
「その為には、《マトリョシカの回収》が不可欠である事は、先の説明の通りだ」
しかし、と、老人は眉を顰めた。
「現状、我々の元には、《マトリョシカを再生する》技術はあっても、それを実現する為の《資源》がない。何とか、明日の命を繋ぐので精一杯だ」
食料の備蓄も、ままならない。苦しげに言う姿からは、確かに、命を繋ぐことすら困難だと言う様子が伺える。とはいえ、ムゲンに食料は必要ない為、空腹の辛さと言うのは、想像の産物でしかなかったが。
反応の薄いムゲンを見て、仕切り直す様に、咳払いを間に挟んで、老人は続けた。
「其処で、ムゲン、お前にはまず、《資源を集めてきてもらいたい》」
「必要とされる資源は、主に『食料』『木材』『メタル』『石炭』『クリスタル』だ。これらは、マトリョシカが発見される《ボイドの上の島》で採取することが出来る」
「我々で、可能な限りの支援は行う。《必要最低限のツールの配給》と、《島までの交通手段の確保》を約束しよう」
「ムゲンは、島に出向き、《資源を集め、持ち帰る》。我々は、それを元に、《復興の為の手立てを打つ》。これが、基本的な方針だ」
「他にも説明するべき事はあるが、最低限、これだけを理解していれば、当面は問題ない。分かったか?」
こくりと頷いたムゲンに、よし、と呟き、老人は改めて前を向いた。そして、微かに声を漏らし、彼女に指し示す様に、其方を指差した。
「あれが、我々の《拠点》だ」
《システム》
爾今、システム面に関係する語は《》若しくは『』で括ります。
それでは、これよりチュートリアルを行います。
ムゲンは、《拠点》と《島》とを往復しながら、《資源》と《マトリョシカ》を回収し、人類復興の為に活動していきます。
ゲームの進行は、基本的にコマンド選択によって行われます。これらは、大きく分けて、《探索》時コマンドと《拠点》時コマンドの二系統に別れています。
コマンドを実行すると、コンマにより、そのコマンドをどれだけの時間かけて行ったかと、その成果について判定が行われます。上一桁で時間を、下一桁で成果を。基本的に、数値が小さいほど、短期間で多くの成果を上げたということになります。但し、拠点コマンドの一部は、消費時間単位が初めから決まっています。
一日は《20時間単位》からなります。《10を超えると陽が沈み》、《明かりがないと活動が困難になります》。《20に達すると一日が終了》。朝日が昇ります。また、一日を終えた段階で、翌日に何かが起きるかを判定する、《イベント判定》を行います。
ムゲンは、プロジェクションクローンです。彼女には疲労も空腹も渇水も存在しませんが、その身体は光によって維持されています。その為、光がない夜になると、《次第に身体が崩壊していきます》。これを回避する為には、活動時に必ず光源を用意しなければなりません。但し、拠点では最低限の明かりは確保されています。
簡単な解説は以上です。次に、コマンドについて解説します。
《順番を間違えた……こちらが先です》
ムゲンがそれを辿っていった先には、彼女が想像していたのとは、少しばかりかけ離れた光景が広がっていた。
極少数の、目に見えて窶れた様子の人々が、幾つかの機械などに囲われて、必死に働いている。拠点の規模は、本当に小さい。ムゲンの生まれた場所では、それらは、キャンプ地と呼ばれる程度のものでしかなかった。
とても、これから世界を救おうという人々の集団には見えない。思わず、驚きを露わにしたムゲンに、老人は苦笑する。
「彼らほど、私達は生活が楽ではないのだ」
此処で過ごせば、直ぐに慣れる。道中、労働する人々に声を掛けながら、老人はそう言った。住めば都という言葉があることを、それでムゲンは初めて知った。
そのまま、拠点を歩いた二人が辿り着いたのは、粗末な小屋のようなものだった。其処が、《ムゲンに用意された家》だという。食事や睡眠を取る必要はなくとも、《身体の組成を再構築し直す為の精神鎮静》の為には、こうした場所があった方がいいとの判断だそうだ。
ムゲンの生まれた地では、その場は、精霊教会堂という宗教施設だった。彼女達プロジェクションクローンは、別に信者だという訳ではない。しかし、祈りを捧げるという行為は、自然と心を落ち着かせる。すると、身体の修復機能が著しく活性化するのだ。あの荘厳さとは違うが、この静けさも、また集中するには十分なものだろう。
「では、私は、一先ず此処で帰らせてもらおう」
あちこちムゲンが家の中を眺めていると、老人は、そう言って、彼女にあるものを手渡した。古ぼけた、小さな機械。見掛けたことがある。所謂、通信機というものだろう。
「私にも、此処の人間としての仕事がある。その為に、そろそろ戻らなければならない」
「しかし、まだお前には分からないことも多いだろう。だから、何かあれば、《この通信機を使うといい》。私に分かる範囲でならば、《アドバイスをしよう》」
少々手に余る大きさの通信機を懐に仕舞ったムゲンは、頭を下げた。正直なところ、分からないところが多いのは事実なのだ。それらのことを聞けるのは、有難い。
老人は、その様子を見届けると頷き、では、と言って、家の戸に手を掛けた。
「……ムゲン。頼んだぞ」
その一言を残して、彼は、外へ出て行った。
これは、所謂、期待されているということなのだろう。ムゲンの持つ知識には、期待は裏切らないようにしなければならない、とある。これは、しっかりと働かなければなるまい。静かな家の中で、彼女は、小さくガッツポーズを作り、決意を固めた。
簡単な解説は以上です。順番が混乱しまして済みません。
次に、コマンドについて解説します。
探索コマンド一覧です。
1.広域探索……島を探索します。採掘可能な資源やマトリョシカ、或いは、島に巣食うイズベルグを発見可能です。
2.資源収集……発見した資源を採掘し、回収します。
3.整地……資源やマトリョシカの運搬を容易にする為に、整地を行います。
4.通路確保……探索困難な場所へ通じる通路を確保します。
5.マトリョシカ運搬……マトリョシカを確保し、回収します。
6.島内掃討……イズベルグを撃退し、安全を確保します。
7.拠点帰還……拠点へ帰還します。
8.連絡……老人に連絡を取り、ヒントをもらいます。これを選択した場合は、自由記述で聞く内容を書いてもらいます。
9.その他……自由記述で行動を選択します。可否はその時ごとに判定します。
拠点コマンド一覧です。
1.探索出発……島へ出発します。
2.資源搬入……回収してきた資源を、資源置き場に搬入します。
3.発電……拠点内の人力発電機を利用し、電力を発生させます。
4.マトリョシカ再生……回収してきたマトリョシカを機器に投入し、人間を再生します。現在、資源不足により不可能です。
5.??????……不明なコマンドです。現在選択は不可能です。
6.体力回復……拠点で体力を回復します。
7.????……不明なコマンドです。現在選択は不可能です。
8.連絡……探索時と同様です。
9.その他……探索時と同様です。
この他、時に特殊コマンドが発生することもあります。その際には、適宜説明を加えます。
それでは、やっとこさスタートです。ムゲンの一大任務が始まります
疑問などは、漸次受け付けますので、ご遠慮なく
《パーソナルデータ》
名前:ムゲン
評判:新たな希望
状態:万全
行動限界値:0/20
《コマンド》
1.探索出発
2.資源搬入
3.発電
6.体力回復
8.連絡
9.その他
ムゲンはどうする?
>>19
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