【からかい上手の】「リコーダー」【高木さん】 (56)

4作目
この前誰かが書いた高木さん見てやっぱいいなって思ったので
半年前に書いて挫折してたやつをどうにか締めたです
ちょっと長いかも

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1484387498



放課後 教室


西片「……」ピーロリー

西片「……」ピロリロリー

西片「……」ピーロロピー

西片「……」ピーロリー…キーン!


西片「ああっ、また同じところで失敗した…」

西片(やっぱり高い音は難しいなぁ。ハミングって言ったっけ)

西片(テストは明日の午後。それまでになんとか吹けるようにしないと)



高木「~~♪」テクテク


ピーロリー


高木「?」


西片「……」ピーロリキーン!

西片「うーん…」




西片(強めに吹いてみたらどうだろう?)

西片「……」スゥー

西片「……」キヒョッ!

西片「全然ダメだ…」

西片(このままじゃ発表で笑われるに決まってる)

西片(もう一回……)スゥー

高木「ひとりで練習?」

西片「ぶーっ!!?」プピーッ!!


高木「あははは! 変な音ー!」

西片「ゲホッ、ゲホッ……た、高木さん!?」



高木「やっほー西片」

西片「どうしてここに!? もうみんな帰ったはずじゃ…」

高木「図書室で勉強してたから。もうすぐ中間テストあるし」

西片「テストって、まだだいぶ先じゃない」

高木「直前で慌てるのイヤだもん。少しずつね」

西片「へぇ、えらいね」

西片(さすが学年10位に入る高木さん。できる人は違うな)

高木「でも西片もそれ、テスト対策でしょ?」

西片「まぁ……とはいっても明日の音楽のだけどね」

高木「テストはテストだよ。えらいねー」

西片「苦手なだけだよ。みんな授業中にできてるみたいだし」

高木「それでもえらいよ。だってちゃんと練習してるんだもん」

西片「そうかな…」

西片(励ましてくれるなんて。高木さん、実は良い人なんじゃ…)

高木「ぷぴーっ!って言ってたね。でも頑張っててえらいよ? ぷぴーっ!って言ってたけど」

西片「……」

高木「そういえばさっき、ぷぴーっ!って」

西片「もういいよ! 恥ずかしいからやめて!」




高木「あはは、冗談だよー」

西片「くっ… とにかく、練習してるんだから邪魔しないでよね」

高木「はーい」

西片(まったく、調子狂うなぁ)


西片「……」スゥー

高木「……」

西片「……」

高木「……」


西片「あの、高木さん?」

高木「なに? 西片」

西片「オレ、練習したいんだけど」

高木「うん。どーぞ」

西片「いや……だから邪魔しないでって」

高木「私何もしてないよ?」

西片「何もしなくても気になるから…」

高木「んー? 気にしなくていいよ」

西片「オレが気になるんだって! 気になって練習できないんだよ!」




高木「うーん、でも人前で吹けないんじゃテスト合格できないよ?」

西片「それは……今はほら、まだ下手だから」

高木「じゃあ明日までに上手くなって、人前で吹けるようになれるの?」

西片「そ、そんなのやってみなくちゃ分からないだろ」

高木「私、リコーダー得意だから教えられるよ」

西片「えっ?」

高木「コツとかも知ってるし、指導する人がいてしかも人前で吹けるんなら一石二鳥だよ」

西片(たしかに、出来る人に聞いたほうが上達は早いだろうし、人前で吹く練習にもなる)

西片(これはありがたく高木さんの提案に乗るべきか…?)

高木「別に見返りなんていらないし、悪い話じゃないと思うけど。どうする西片?」

西片「まぁ、そこまで言うなら」

高木「決まりだね」



高木「ではではー、第一回高木リコーダー教室をはじめまーす」パチパチ

西片(第一回って、これ第二回以降もあるのかな)

高木「返事は? 西片っ」ビシッ

西片「は、はい。よろしくお願いします」

西片(高木さんノリノリだなぁ…)


高木「じゃ、まずは普通に吹いてみよっか」

西片「あ、うん」

西片「……」スゥー


ピーロリー

ピロリロリー

ピーロロピー

ピーロリー…キーン!


西片「ああー、また同じとこだ」

高木「高い音はつまずく人多いよね」

西片「ここのハミングさえ出来れば、後はなんとかなると思うんだけど」

高木「え?」

西片「ん? なに?」



高木「テストにハミングなんてあった?」

西片「えっ? 先生がテスト範囲の説明するときに言ってたじゃない」

高木「そうだっけ」

西片(ハハーン、さては高木さん、授業をちゃんと聞いてなかったな? これはからかうしかない!)

西片「まったく高木さんダメじゃないか。授業をちゃんと聞いていないだなんて、学年10位が聞いてあきれるよ!」

高木「むっ。なら西片、先生がどう説明してたか言ってみてよ」

西片(おお、珍しく高木さんの眉がつり上がってるぞ! なんて良い気分なんだ!)

西片「ほら、この教科書の曲の、ここの小節までを2回繰り返して」

西片「それから次のページに進んで、ここのハミングの部分も吹いて、次の小節でおしまい」

高木「うん」

西片「ひょっとして高木さん、吹くところを勘違いしてたのかい?」

高木「……」

西片(フッ。返す言葉も無い、か)

高木「西片、やっぱりハミングなんてないよ」

西片「……え?」



西片「いやいや、間違いなく先生はこの範囲だって言ってたよ。証拠にちゃんとメモしてあるし」

高木「うん、範囲は合ってるよ」

西片「ん? どういうこと?」

高木「サミングだよ」

西片「えっ?」

高木「だから、西片が言ってたハミングって高いミ以上の音のことでしょ?」

高木「それ、ハミングじゃなくてサミングだよ」

西片「えっ? えっ?」

高木「ほら、教科書の見開きに書いてあるよ。サミングって」

西片「あれ? ほんとだ……じゃあ」

高木「ハミングは鼻歌だよ」

西片「……」

高木「それか柔軟剤」

西片「……」



高木「ハミング……ぷくくっ」

西片「あああああああああっ!!」ゴロゴロ


高木「ところで西片さっき、ぷぴーっ!って」

西片「あああああああああっ!!!!」ゴロゴロ


またあとできやす



西片(あぁ……えらい恥をかいてしまった)

高木「それじゃ、出来ないところを重点的に練習しよう」

西片「そうだね」

高木「まずはハミ…ハミ…サミングのコツだけど…ぷくく」

西片「ちょっと高木さん!? わざと間違えないでくれるかな!」


高木「後ろの穴の押さえ方が原因ってことが多いよね」

西片「あぁ、それはオレも意識してるつもりなんだけど」

高木「押さえてみて」

西片「えっと、こう…だよね」

高木「吹いてみて」

西片「……」スゥ


ピーー



高木「ちゃんと出たね。押さえ方も良いと思う」

西片「教科書と先生が言ってたコツのおかげでね。なんとか出るようにはなったんだよ」

高木「じゃあ、曲として吹こうとすると失敗するってこと?」

西片「そんな感じかな」

高木「ふーん。サミングじゃないときはどう持ってるの?」

西片「えーっと、普段はこう…かな」

高木「サミングのときは?」

西片「っと……こう」

高木「うん。それかな」

西片「え? どれ?」



高木「西片、サミングの時とそうじゃない時とで持ち方がだいぶ違うんだよ」

西片「え? だってそうしないと高い音出せないし」

高木「それ。高い音のために無理に持ち替えようとして、結局うまく持てずに失敗してるんだと思う」

西片「……たしかに、言われてみればそんな気が」

高木「だから、普段の持ち方でサミングできるようにすれば解決するんじゃない?」

西片(なるほど、出しやすい押さえ方にするために逆に持ちにくくなってたのか。オレ一人じゃ気がつかなかったな…)



高木「普段の西片の持ち方で、少し親指立ててみたら?」

西片「こうかな?」ピッ! ピーーキーン!

西片「……ダメだ」

高木「もう少し親指引いてみて」

西片「こう?」

高木「ううん。左に」

西片「左? 左って、こう?」

高木「そうじゃないよ。一回貸して」

西片「…はい」

高木「見ててね? 今の西片はこう押さえてるんだけど」

西片「うん」

高木「それを、こうして、それから…」

西片「あぁそっち……えっ?」

高木「あとは力まずに吹くだけ」

西片「……あ、うん」

高木「どうかした?」

西片「いや、別に」

西片(吹くのかと思った……)



高木「はい。もう一回」

西片「よーし」

西片「えっと、普段の持ち方で…親指だけこうして」

西片「……」ピーピキーン!

西片「……」ピーーピヒッ

西片「……」ピーーー

高木「おー」

西片「吹けた」

高木「続けて吹ける?」

西片「やってみるよ」

西片「……」ピーロリーーーピロリロピーピー…

高木「よし。じゃあ次はその前のフレーズからね」

西片「う、うん」



15分後


西片「よし! できたぞ!」

高木「なんとか音は繋がるようになったね」

西片「これでテストも無事に合格だ。助かったよ高木さん!」

高木「ダメだよ。もっと滑らかに吹けるように練習しないと」

西片「えぇー、滑らかって言われてもなぁ…あんまりイメージ湧かないし」

高木「そう? じゃあ西片、リコーダー貸して」

西片「ん? はい」

高木「ちょっと後ろ向いてて」

西片「…なんで?」

高木「いーからいーから」

西片「……?」クル



西片(高木さん、何をする気だ?)

高木「お手本見せるからちゃんと聴いててね」


ピーロリーーピロリロリーーピーロロピー


西片(う、うまい……!)

西片(さすが高木さん、得意って言うだけあるなぁ)


ピーロリーーーピロリロピーピー


西片(サミングも完璧だ。なるほど、滑らかにっていうのはこういう風に……)

西片「……」

西片「ってちょっと高木さん!? なんで吹いてるのさ!?」ガーン!




高木「ん? 吹かなきゃお手本にならないよ?」

西片「そうだけど、そうじゃなくて! それはオレの……」※まだ振り向いていません

西片(いやまてよ? このパターン、何度か経験したことがある)

西片(高木さんのことだ、うっかり人のリコーダーに口をつけるなんてバカな真似はしないはず)

西片(…そうだ! わざわざオレに後ろを向かせたのも怪しい)

西片(つまり何らかの方法で口をつけずにリコーダーを吹いて、オレを恥ずかしがらせようとしているに違いない!)

高木「どうしたの西片? とりあえずもっかいやるね」


ピーロリーー


西片(……フフフ、甘いよ高木さん。そのくらいの行動、オレにはもはや見破れてしまうのさ)

西片(振り向いたが勝ちだ。高木さんの思うようにはさせない!)


西片「残念だったね高木さん! そのリコーダーに口をつけていないことなんてお見通しで……」クルッ


高木「……」ピロリロリー…


西片「あれぇーー!?」

西片(普通に吹いてたーー!!)




高木「あーあ、後ろ向いててって言ったのにー」

西片「いや、何してんのさ!?」

高木「お手本?」

西片「さっきも聞いたよ! じゃなくてその…」

高木「どうかした?」

西片「高木さんは……そういうの、気にならないわけ?」

高木「んー? そういうのって?」ニヤ

西片(ぐっ、これは分かってる顔だ。負けてたまるか!)

西片「だから……関節キスとか…」

高木「あはは。もうそんな子供じゃないよ」

西片「っ!?」

高木「西片は気にするの?」

西片「そ、そりゃあ…」

高木「ま、お子様だもんねー西片は」ニヤニヤ

西片「なっ!?」




西片(くそぉ、余裕すぎるだろ高木さん! 本気で何とも思わないっていうのか!?)

西片「は、ははは! もちろんオレだって気にしてないよ!」

高木「ほんとに?」

西片「本当さ! ただ高木さんは女子だから、一応気にするかと思って聞いてあげただけだよ!」

高木「ふーん?」

西片「ああそうさ、オレだってお子様じゃないんだから、か、関節キスくらいどうってこと…」

高木「なら、次は西片がこれで吹いてみてよ」

西片「はっ!?」

高木「気にしないんだよね?」

西片「……そ、そうだけど」

高木「じゃあ、はい」

西片「……」



西片(どうする…? 虚勢を張ってみたものの、実際に吹いていいのか? 関節キスだぞ高木さんと)

西片(本人は本当に気にしてない様子だし、吹いても罪には問われないだろうけど…)

高木「吹かないの? やっぱり恥ずかしい?」

西片「ち、違うって! 違うけど…」

西片(いっそ人生経験と割り切るべきか)

西片(そうだぞオレ! 小学生じゃないんだ、関節キスくらいどうってことないだろ!)

西片(いやでもそれが高木さんとなると……ああ! どうすればいいんだ!?)

高木「……」クス

高木「なーんてね」

西片「……えっ?」


高木「このリコーダー、ほんとは私のやつだよ」

西片「……」

西片「はい?」



高木「ここ、私の机だよ。リコーダーいつも横に挟んでるんだ」

西片「……あ」

高木「で、こっちがさっきまで西片が吹いてたほう」スッ

高木「指定だから見分けつかないけどね。私が吹いてたのはちゃんと私のリコーダーだから」

西片「な、なんだ……そういうことか……」

高木「あははは! ほんと西片面白いなぁー。あせりすぎだよ」

西片「べ、別に焦ってなんかないよ! 関節キスとかどうってことないしね!」

高木「そーなの? じゃあそういうことにしといてあげる」ケラケラ

西片(チクショウ、またもやられてしまった!)

高木「お手本も見せたことだし練習再開しよっか。はい、リコーダー返すね」

西片「どうも…」



また15分後


ピロリロピーピー…


西片「ふう」

高木「おおー」

西片「今のはかなり上手く吹けた気がする」

高木「だね。これが明日の本番で吹けたらバッチリじゃない?」

西片「え、そう?」

高木「うん。私が先生だったら今のくらい吹ければ十分合格だよ」

西片(なんと高木さんのお墨付きが出てしまった。これは心強いぞ)

西片「うーん、やっぱり高木さんはすごいな」

高木「え?」

西片「教えるのうまいなぁって。練習始めてからまだ1時間も経ってないのにこんなに上達したからさ」




高木「それは西片ががんばったからだよ。私はちょっと手伝っただけ」

西片「そのちょっとが大きかったんだって」

高木「そうかな?」

西片「そうさ。持ち方なんてオレ一人じゃ気づけなかっただろうし」

高木「うーん、そっか」

西片「とにかく本当に助かったよ。ありがとう高木さん」

高木「ん。どういたしまして」

西片「よし! 忘れないうちにもう一度だけ吹いておこう」



西片「……」スッ

高木「……」ジー

西片「……」

高木「あれ? 吹かないの?」

西片「いや、そんなジーっと見られるとさすがにやりにくいんだけど」

高木「人前で吹く練習でしょ?」

西片「それでも吹く人のことをずっと見てる人なんていないよ」

高木「そうかな。見てる人もいると思うよ」

西片「えぇ?」

高木「だからこれはその練習だね」



西片「いいよ別に、そんな人いるとは限らないし」

高木「絶対にいるよ、西片のこと見てる人」

西片(なんだ? やけに自信満々だぞ)

西片「ハハッ、高木さん知らないのかい? 世の中に絶対っていうのは無いんだよ」

高木「ううん絶対。少なくともひとりは見てるもん」

西片「ひとりって、心当たりでもあるような言い方だね」

高木「んー、心当たりっていうか」

西片「?」

高木「西片、わからない?」

西片「え?」

高木「わからないかなぁー」ジー

西片「……なにをさ」



高木「いるんだけどなぁ。西片の発表のとき、西片のこと見てる人」ジー

西片「!」

高木「……」ジー

西片「それって…」

西片(高木さん、まさか自分だなんて言うんじゃ……)

西片(ってそんなこと言って罠だったらどうするんだ!)

西片「えーっと、男子…だよね?」

高木「男子じゃないよ」

西片「あぁそう…」

高木「男子のほうがよかった?」

西片「そういうわけじゃないけど」

高木「そっか。ちょっと安心」

西片(安心だって? くそ…ますますそういう風に思えてくるじゃないか!)




高木「そろそろわかった?」

西片「いや…」

高木「じゃあヒント。背は西片より少しだけ小さいかな」

西片(オレより少しだけってことは、女子の真ん中くらいか?)

西片「……」

西片(ダメだ、高木さん以外まともに話したことのある女子が思いつかない)

高木「あとメガネはしてなくて、髪は長め」

西片(うっ、これも高木さんが当てはまってる)

西片(いやいや、まだ決定したわけじゃあ…)

高木「特徴はおでこかな?」

西片「んん!?」



高木「今のが最終ヒントだよ、西片」

西片「あ、そう…」

西片(オレより少しだけ背が低くて、メガネをかけてなくて髪が長くて……おでこが特徴の女子……)チラ

高木「んっ?」

西片(そんなの一人しかいないだろ! でももし違ったりしたらなんて言われるか……)

高木「ちなみに、無理に答えなくてもいいよ」

西片「え? そうなの?」

西片(なんだ、ならわざわざ危ない橋を渡ることないじゃないか)

高木「ただし答えないと西片の負けってことになるけどね」

西片「ええ!? ちょっと高木さん、いつの間に勝負になったのさ!」

高木「わからないってことは降参ってことでしょ? 降参は負けだよー」

西片「まあ……そうだけど」

高木「降参する?」

西片「……し、しないよ、降参なんて」



高木「それじゃあ答えてもらわないとね」

西片(ああ…勝負という言葉につられて逃げ場を失ってしまった)

高木「はいどうぞ」

西片「うっ」

西片(もう正直に答えるしかないのか? でもそうなると…)

西片(そもそも高木さんはどうなんだろう。こんな誘導みたいなことして、オレが答えたらなんて反応するんだ?)チラ

高木「なに西片? さっきからチラチラ見てくるねー」ケラケラ

西片「いや…」

西片(ああくそ、他に誰かいないのか!? 音楽のテストで他にオレのことを見てそうな…おでこの…)

西片(ん? 音楽……?)

西片「あ」

高木「お」

西片「……」


西片「音楽の先生」




西片(そうだ。音楽の先生なら発表のとき、その人のことをちゃんと見てるはずだ)

西片(先生は背も高木さんくらいで髪型も似てる。それによく考えたら高木さんは『男子じゃない』とは言ったけど、クラスの女子だなんて言ってなかった気もする)

高木「……」

西片「…どうだい? 高木さん」

高木「先生でいいの?」

西片「……いいよ」

西片(なんだか今までにない手ごたえを感じる。これはひょっとすると…)

高木「……」


高木「お見事。正解」

西片「!!」



西片「ほ、本当に?」

高木「うん。テストなのに先生が見てなくちゃおかしいからね」

西片「と、いうことは」

西片(勝負は……)

高木「あーあ、西片に負けちゃった」

西片「!!!」

西片(や、やった! ついに高木さんに勝ってしまったぞ!)


高木「ジュースおごってもらおうと思ったのになー」

西片「フ、フハハハ! 残念だったね高木さん! オレの天才的な頭脳の前にキミは敗北したんだよ!」

高木「むむぅ…」

西片(あの高木さんが指をくわえて悔しがっている! なんて良い眺めなんだ…!!)



高木「それじゃ西片、帰りにジュースおごってあげるよ」

西片「え? いいの?」

高木「うん。負けちゃったしね」

西片「……」

西片「別にジュースはいいよ、もともと賭けてるわけじゃなかったんだし」

高木「ううん。それだと私の気が済まないから」

西片(なんだ高木さん、負けず嫌いなのかと思ってたけど案外こういうところは素直で優し…)

高木「だって、いっつも私が勝って西片におごらせてるのなんか申し訳ないんだもん」プスプス

西片「……」カチン


西片「あ、そう…? それじゃあぜひともおごってもらおうかな……?」ピキピキ

西片(前言撤回。やっぱり高木さんはこういう人だ)

高木「一本だけだよ?」

西片「わかってるよ!」



帰り道の公園



チャリン


高木「どれ飲みたい?」

西片「うーん、迷うなぁ」

西片(高木さんのおごりか。いつもなら飲まないやつに挑戦するのもアリだな)

高木「西片、せっかくだしいつもは飲まないのにしてみようかって顔してるよ」

西片「……どんな顔さ。合ってるけど」

高木「あはは。じゃあこのスイカジュースとかどう?」

西片「ええ…」

西片(ラベルにイカみたいな絵が描いてある……ある意味気にはなるけど、飲まなくても爆弾なのがわかるぞ)

西片「やっぱり、今回は無難にコーラを」

高木「ん?」ピッ

西片「えっ!?」


ガコン



西片「ちょっと高木さん、なんで勝手に押しちゃったのさ!?」

高木「なんでって?」

西片「いや、オレはコーラが飲みたいんだけど」

高木「おごるとは言ったけど、選んでいいなんて言ってないからね」

西片「さっきどれ飲みたいかって聞いてただろ!?」

高木「うん。聞いただけ」バタン

西片「えぇー……」

高木「おごってあげるんだから文句はナシだよ。はい西片」

西片「わかったよ……ありがとう」

西片(しかもスイカジュース)

高木「そこのベンチに座ろっか」

西片「うん…」

西片(どう見てもイカの絵だ。確実に酢イカだ)



西片「……」

高木「飲まないの?」

西片「飲むよ。捨てるのもったいないし」

高木「もしすごくまずかったら?」

西片(すごくまずい気しかしないんだけど)

西片「……それでも飲むよ。高木さんがくれたんだから」

高木「え?」

西片(すなわちオレの勝利の証なんだ。飲まなくては勝った事実すら無くなってしまう気がする)

西片「せいっ!」グビッ

高木「おっ」

西片「……んぐっ!?」

西片「………!!」

高木「大丈夫?」

西片「………」ゴクン



西片「……高木さん」

高木「どうだった?」

西片「ごめん、超まずい」

高木「あー」



西片「すぐ吐くほどじゃないんだけど……なんかもう、どう頑張ってもまずい味しかしない」

高木「スイカなのに?」

西片「絵の通り酢イカだよ。味うすいけど」

高木「うわー、そっちだったんだ」

西片「っていうか高木さんさ」

高木「ん?」

西片「どうせ味知っててコレにしたんでしょ」

高木「ありゃ。なんか今日の西片は冴えてるね」

西片(やっぱりか…)

西片「まあ、なんとなく高木さんのことはわかるようになってきたかな」

高木「そうなの?」

西片(……高木さんのことがわかるように、か)



西片(ん? それってつまり…)

高木「……」

西片(もしやオレは高木さんを…)


西片(ついに、オレは高木さんを超えたということでは!?)


西片「フフ、フフフフフ……!」

高木「西片?」

西片「高木さん。とうとうこの時が来たみたいだね」

高木「この時?」

西片「分からないかい? オレとキミの立場が逆転する時さ」

高木「えっ?」

西片「今までは高木さんに心を読まれ、からかわれてばかりだった」

西片「でもこれからはそうはいかない。なぜなら、オレも高木さんの考えが読めるようになったんだからね!」



西片「高木さんと同じように相手の心が読めるなら条件は対等……」

西片「それどころか、これからどんどんオレの力が目覚めて強くなっていくだろう」

西片「そうなれば高木さん、キミはオレに勝てることはなくなる。よって立場は逆転する!」

高木「おおー」パチパチ

西片「ってなにのんきに拍手してるのさ」

高木「だって西片、ここ最近で一番イキイキしてるし」

西片「え、そう?」

高木「それに、どうなっても西片は西片だからね」ボソ

西片「……どういう意味?」

高木「あれ、聞こえちゃった?」

西片「…?」

高木「心読めるんでしょ?」

西片「なんでもってわけじゃないよ」

高木「なーんだ」

西片(こういう高木さんは本当になに考えてるのかわからないな)



高木「そろそろ行こっか」スクッ

西片「あ、オレはこれ飲みきってから帰るよ。買い食いしたってバレると怒られるんだ」

高木「そうなんだ?」

西片「じゃあ、そういうことで」

高木「うん」ストン

西片「……ってなんでまた座ったのさ」

高木「飲み終わるまで待ってるよ」

西片「たぶん、全部飲むのけっこう時間かかるよ」

高木「そのほうがいいもん」

西片「ええ? またよく分からないことを…」

高木「心は?」

西片「なんでもは読めないってば」

高木「じゃあ教えてあげるね」

西片「えっ?」

高木「だって、そのほうが…」

高木「西片がまずそーーに飲むところ長いこと見てられるでしょ?」

西片「うわぁ…」

高木「あ、ちなみにさっきの言葉の意味だけど、西片がからかうと面白いところは変わらない、って意味だよ」

西片「……」

西片(あぁ、うん。どうせそんなことだろうと思ってたよ)



西片「ハッ、でも忘れたのかい高木さん? オレに負けてしまったばかりだということを」

高木「忘れてないよ。ジュースおごらされたもん」

西片「いやそうじゃなくて…」

西片(皮肉が通じないんだよなぁ)

西片「っていうかジュースおごりは自分で言い出したのに」

高木「おごりはおごりだよ」

西片「そうだけどさ」


高木「それに西片、一回勝っただけでいい気になってちゃダメだよ」

西片「えっ?」

高木「……次は私が勝つんだから」

西片「……」

西片(……んん?)



西片「高木さん……? なんか怒ってない?」

高木「なんで? 怒ってないよ」

西片(って言ってるけど、やっぱりいつもと全然違う雰囲気だ)

西片(これはもしや……)

西片(高木さんが本気で悔しがっている!?)

高木「次は何で勝負しようかなー」

西片(間違いない。表に出していないつもりかもしれないけど、普段のニコニコ顔が消えているよ高木さん!)


西片(ああ、なんて清々しい気分なんだ。この優越感の前ではまずいジュースの味すらうまく感じてしまう)ゴク

西片「フフ、フフフフ…」

高木「今度はどうしたの西片?」

西片「いやなに、勝利の味を噛みしめているのさ」

高木「むう…だから次は負けないってば」

西片「そうかい。明日でもいつでも受けて立つよ、なにせオレは高木さんを超えてしまったんだもの」



高木「うーん、でも明日のリコーダーのテストが終わるまでは待ってようかな」

西片「ああ、そうだね。休み時間も少し練習したいし」

高木「もう私がいなくても大丈夫?」

西片「まあね。リコーダーもカバンに入れて持って帰ってきたし、家でもやるつもりさ」

高木「じゃあ、なおさら早く帰らなくちゃだね」

西片「そのためにはまずこれを飲み終わらないとだけどね」

高木「手伝おっか?」

西片「……別にいいよ。味もだんだん慣れてきたし、それに…」

西片(…それこそ間接キスになっちゃうじゃないか)

高木「それに?」

西片「なんでもないよ」ゴク

高木「ふーん?」



高木「あ、いけない。私おつかい頼まれてるんだった」

西片「そうなの?」

高木「勝負のことで頭いっぱいですっかり忘れてたよ」

西片「へぇ、なんか珍しいね」

西片(高木さんがそんなミスをするなんて、これはオレが思ってる以上にダメージを受けているんじゃないか?)

西片(フフフ、ますます次からの勝負が楽しみだ。覚悟しろ高木さん…!)

高木「急がないとだから、やっぱり先に帰るね」スクッ

西片「あ、そっか。気をつけて」

高木「うん」



高木「そうだ西片、最後にひとつ」

西片「なに?」

高木「明日の発表のことなんだけど、私ちゃんと西片のこと見てるからね」

西片「えっ? ……あ、そう?」

西片(急に何を言い出すんだ。不覚にもちょっとドキッとしてしまったじゃないか)

西片(……いやまて)

西片「ハハ。高木さん、さては緊張させてオレに恥をかかせようって作戦かい?」

高木「んー、西片がそう思うんならそれでもいいよ」

西片「あれ? 違うの?」

西片(ひらめいたと思ったんだけどな)

高木「あはは、まだまだ私の心は読めないみたいだね」



西片「まあでも、とにかく今日のところはオレの勝ちだからね」

高木「分かってるって」

西片「見てなよ高木さん。君が何をしようと、明日のテストは一発合格してみせるさ」

高木「そっか、楽しみにしてるね」

西片(そうだ…オレは高木さんに勝利したんだ。この勢いならリコーダーのテストくらい簡単にクリアできるはずだ!)

高木「……」

高木「それと追加でもうひとつ。あんまり油断しないほうがいいよ」

西片「ん? 分かってるよ。だから家で練習するんだもの」

高木「うん。だから、油断しないほうがいいよ」

西片「? …どういう意味?」



高木「心を読んだらいいんじゃない?」

西片「…だから、何でも読めるわけじゃないんだって」

西片(何を言ってるんだ高木さん? ハッタリでもかまそうとしてるのか?)

高木「じゃあヒント。持ち物はちゃんと名前を確認したほうがいいよ」

西片「持ち物? 名前?」

西片(それがヒントだって? 余計に意味が……)

高木「じゃあ私は帰るから」

西片「……」

西片(持ち物……名前……今持ってるものは…)

西片「……あっ!!」

西片「それって、まさか…!?」


高木「練習」

高木「がんばってねー、西片」プククク




西片(まさかまさか、このリコーダーは……!!)


ガバッ


『高木』


西片「あああああああああああ!!?」


高木「さーてと、急がなくっちゃ」タッタッ

西片「ちょっと高木さん!! オレのリコーダー…うわっ!?」バシャッ!

西片(ジュースが! 酢イカのジュースが股間にーー!?)

高木「たまねぎとー、じゃがいもとー」タッタッ

西片「待って! 待って高木さーーーん! うわあああああああ!!」




翌日、西片はめでたく再試験となりました。




おわり

ああ…絵描きの能力があればな…

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