犯人「推理小説家にでもなったらどうです?」探偵「なんだとォ!?」 (24)


探偵「……以上の推理により、誰が犯人なのかは明白!」

富豪「誰なのじゃ!? 当家の家宝である宝石『真実の瞳』を奪ったのは!」

探偵「宝石はその名の通り、真実を映し出すようです」

探偵「今の推理を実行できるのはただ一人……」

探偵「――あなたですよ!」ビシッ



犯人「なっ!?」


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刑事「キサマか! 逮捕だ、逮捕する!」

犯人「ま、待って下さいよ、刑事さん」

刑事「む……」

犯人「たしかに今の推理はよくできている」

犯人「犯行が可能なのは、このボクしかいないだろう……」

犯人「ただし……今の推理が真実ならば、ね」

探偵「……どういう意味です?」


犯人「決まってるでしょう? 今の推理には肝心の証拠がないんですよ、証拠がァ!」

探偵「!」

犯人「どんなにうまく組み立てられた推理でも、証拠がなきゃしょせん机上の空論!」

犯人「よくできた作り話でしかない!」

犯人「なぁにが、真実を映し出すだ! キザったらしいこといいやがって!」

犯人「そうだ、いっそ推理小説家にでもなったらどうです?」

探偵「なんだとォ!?」


探偵「俺だって……俺だってなぁ!」

探偵「本当は推理小説家になりたかったんだよォ!」

犯人「な、なに……?」

探偵「俺は子供の頃から推理小説が大好きでさ」

探偵「国内の作家も海外の作家も、あらゆる推理小説を読んださ!」

探偵「読んで読んで読みまくったさ!」

探偵「読んでるうちに、自分でもこういうのを書いてみたい、と思うようになった!」


探偵「だから、俺は推理小説家を目指した! だけど――」

探偵「どんなに出版社に持ち込んでも!」

探偵「どんなに賞に応募しても!」

探偵「かすりもしなかった!」

探偵「リアリティがないだの、人間に血が通ってないだの、と酷評され続けた!」

探偵「だけど、俺は諦めなかった……!」


探偵「俺に不足しているのは、ナマの体験だ、と思った俺は探偵業を始めた!」

探偵「これが意外にも天職だった!」

探偵「俺はさまざまな事件を解決し続け、警察から頼られるほどの存在になっていった!」

探偵「ねえ、刑事さん?」

刑事「うむ……その通りだ」


探偵「やがて俺は、自分の経験をもとに、血のにじむ思いで推理小説を書き上げた!」

探偵「自分でいうのもなんだが、傑作だった!」

探偵「だが……やっぱりダメだったんだ」

探偵「意気揚々と持ち込んだが、編集者にダメ出しされ、俺はとぼとぼと家路についた」

探偵「これからは探偵業に専念しよう、と決意した瞬間だった」


探偵「それからしばらくして、スランプだったある推理小説家が、久々に新作を出した」

探偵「俺もその人のファンだったから、発売日に買って、家で読み始めた」

探偵「するとどうだ!」

富豪「ま、まさか……」

探偵「そうだよ! その小説は、俺が持ち込んだのとほとんど同じストーリーだったんだ!」


探偵「俺はすぐさま出版社に駆け込み、あの編集者に抗議した!」

探偵「怒り狂う俺に、奴は悪びれもせず――」


『そんなに怒らないで下さいよ、探偵さん』

『今時の小説なんてのはね、内容よりも誰が書いたかの方が重要なんですよ』

『あなたなんて、一般的な知名度は皆無に等しいしねえ』

『つまり私はあなたの小説をより多くの人に読まれるようにしてあげただけのことですよ』

『あ、そうだ! これを機会にゴーストライターになるってのはどうです?』


探偵「――とほざきやがった!」


犯人「だから……殺したのか?」

探偵「そうだよォ! カッとなって、近くにあったペンでノドを一突きだ!」

刑事「で、探偵業で培ったノウハウで事件を隠滅したというわけだ」

探偵「その通りィ! 現場を細工して、あれは事故死ってことになってるはずだ」

富豪「だが、君とて正義の探偵、不安感や罪悪感からまだ証拠を持っているはずじゃな?」

探偵「もちろんだ。家の引き出しの中に、凶器であるペンが――」

探偵「――あ」


探偵「全ては……罠だったというわけか……」

刑事「君の犯行は完璧だった。怪しくはあったが、どうにもならなかった」

刑事「あとはもう、どうにかして君の心のスキを突き、口を割らせるしかなかったのだ」

探偵「ってことは、あんたも……」

犯人「ああ、ボクも刑事だ。富豪さんには協力してもらったんだ」

探偵「なるほど……」フッ

探偵「さ、早く連行してくれ、刑事さん」

探偵「推理小説家になれず、探偵にもなれなかった、ただの犯罪者を……」


刑事「息子さんの仇が取れましたな」

富豪「うむ……」

富豪「じゃが息子があんなあくどいことをしとるとは知らなかった」

富豪「だから……複雑な心境じゃよ」

犯人「悲しい事件です」

犯人「あなたの家宝はその美しさで、残酷な真実を映し出してしまったのかもしれません……」





― 完 ―

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