池袋晶葉「逆説の楽」 (35)

モバマス・池袋晶葉メインのSSです
多分に私見が入っているので話半分で読んでもらいたい

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1483870891


~事務所・日当たりのいい場所~


晶葉「杏よ、知っているかな?」

杏「何を?」

晶葉「脳のエネルギー源は糖分だ」

晶葉「たんぱく質でも脂肪でもビタミンでもない、糖分でなくてはならないのだ」

杏「あ~なんか聞いたことある」

晶葉「すなわち甘味なくして頭は働かない」

杏「杏は甘味があっても働かないけどね」

晶葉「それは助手が許しておかんだろう」

晶葉「さておき、ロボット製作は言わずもがな頭脳労働」

晶葉「故に、私が君の所持するお菓子を所望するのも致し方ないことなのだ」

晶葉「以上、証明終了だ」

杏「雑な証明だな~」

晶葉「それだけ頭が働いていないということさ」

杏「まあお菓子の一つや二つ別にいいけどさ・・・」


杏「っていうかわざわざ杏のとこまで来なくても事務所の冷蔵庫漁ればなんかあるでしょ?」

晶葉「実はただお菓子をたかりに来たわけではないのだ」

晶葉「いま製作中のロボットが完成したら、君に試験運用をお願いしようと思ってね」

杏「え~~面倒ごとはゴメンだよ。他の人に頼んでよ」

晶葉「いや、君が適任なのだ」

晶葉「今回の発明のコンセプトはロボット製作の原点に立ち返ることだからな」

杏「へ~、どんなロボットなの?」

晶葉「それは完成してからのお楽しみとしておこう」

晶葉「さて、それでは仕上げに入るとしよう」

杏「あ、ここでやるの?別に良いけど・・・」

晶葉「来週は仕事が立て込んでいてな、ヒマがあるあいだに完成させてしまいたい」ガチャガチャ

杏「あ、そう。お菓子ここに置いとくから、好きにしなよ」

晶葉「・・・すまない、両手が塞がってしまった。食べさせてはもらえないだろうか?」

杏「も~しかたないな~、はい口開けて」

晶葉「ありがとう・・・うむ、美味い」

杏「晶葉って頭良いけどたまに後先考えないよね」

晶葉「・・・ロボット製作に夢中になるとそういう面が発露することは否定できないな」


杏「杏をこき使うんだからちゃんと良い物作ってよね」

晶葉「この程度でこき使うと言うなら世の労働者は全て労働基準法違反となるぞ?」

晶葉「助手など地獄の獄卒も真っ青なレベルだ」

杏「それだけ働きたくないって意味だよ」

杏「ところでロボット製作の原点に立ち返るってどういうこと?」

晶葉「ふむ、逆に問おう」

晶葉「人間はなぜロボットを・・・否、ロボットに限らず様々な機械や道具を作るのか?」

杏「そりゃあ作業の効率化とか人件費削減のためじゃないの?」

晶葉「それも真実の一つの側面ではある」

晶葉「もっと根源的な部分を言及するならば、『人間が楽をするため』だ」

杏「身も蓋もない言い方だね」

晶葉「だが、そういう表現のほうが好きだろう?」

杏「まあね」

晶葉「人間は楽に遠くへ行くために自動車を作り、楽に家を建てるために重機を作り、楽に生きるために医療技術を発達させた」

晶葉「科学技術の進化の歴史とはすなわち、人類の堕落の歴史であるとも言える」


杏「なるほどね、そうやって世の中が便利になる一方ならニートが増えるのも仕方がないことだよね」

杏「つまり杏がニートなのも仕方ないことなんだよ、うん」

杏「以上、しょーめーしゅーりょー」

晶葉「これは一本取られたな・・・まあ私は働かないことそのものは悪いことであるとは考えていない」

杏「そうなの?」

晶葉「うむ、野生動物は楽に食べ物が得られる環境ならばわざわざ危険な狩りなどしないだろう」

晶葉「それと同様に人間だって働く必要がないなら働かなくても問題はないはずだ」

晶葉「例えば親が資産家で子供のすねかじりを許容している場合や、宝くじで億万長者になった者などだ」

晶葉「ニートの何が問題なのかといえば、経済的な理由で働かざるを得ない状況にあるのに意図的に働かないことだ」

晶葉「そういった者が生活保護費などで国費を食いつぶし、経済の輪から外れることで不景気に影響を及ぼしているのだろう」

杏「ふ~ん、そんなもんなんだ。そこまで考えたことなかったな~」

晶葉「半分はニュースの受け売りだがね」


杏「・・・ふと思ったけど、アイドルっぽくない夢のない会話だね、コレ」

晶葉「言われてみればそうかもしれないな・・・では夢のある話をしようか」



晶葉「人間と同等の働きが可能なロボットが実用化されれば、人間が働かなくてもなんら問題はなくなる」



杏「それは夢があるね」

晶葉「ふふっ、そうだろうとも」

杏「とりあえずさ、杏の代わりに働いてくれるロボットを最優先でお願いね」

晶葉「請け負った・・・と言いたい所だが・・・」

晶葉「大企業の研究しているロボットでさえ二足歩行がようやく安定してきたところだからな」

晶葉「アイドルのように滑らかに歌って踊れるロボットはまだまだ先の話だ」

杏「そりゃそうだよね」

晶葉「ちなみに私が作ると足がキャタピラになるが構わないか?」

杏「ダメじゃんそれ・・・ある意味滑らかだけどさ」

晶葉「キャタピラの走破性は凄いんだぞ?不整地や坂道も楽々突破だ」

杏「アイドルに必要な性能なのかな、それ?」


杏「そういえばこのあいだニュースでやってたけど感情豊かに会話ができるロボットが出来たらしいね」

晶葉「あのロボットは凄いぞ~!」

晶葉「様々な表情を再現する顔の機構もさることながら、やはり特筆すべきは人工知能だろう」

晶葉「あれは革新的な発想だ」

杏「今までのとどう違うの?」

晶葉「既存の人工知能は後天的な学習で感情を獲得させようとしていたのだが」

晶葉「今回のものは人間が先天的に持っている感情を生み出す機能の再現を試みているのだ」

晶葉「さらに相手の感情を推察する能力まで備えている」

杏「うん?え~っと・・・どういうこと?」

晶葉「前者は感情の獲得と言っても結局のところ算数を教えているのと同義なのだよ」

晶葉「1+1の答えが常に2であるのと同様、同じ質問をすれば同じ答えしか返ってこない」

晶葉「褒めると喜ぶ、貶すと怒る、といった反応も常に一定となってしまう」

杏「表面的には感情があるように見えるけど、本当は心の底からの反応じゃないってこと?」

晶葉「これは極端な例えで実際はもっと複雑なのだが、概ねその通りだ」


晶葉「それに対して後者は、最初から人間の本能に近い能力を有している」

杏「本能?」

晶葉「そう、例えば『未知の物に対する恐怖』などがそうだ」

晶葉「そうだな・・・きらりにカワイイと言われたらどう思う?」

杏「う~ん、もう言われ慣れちゃったけど、まあ悪い気はしないね」

晶葉「では夜道で見知らぬ怪しい男にカワイイと言われたらどうだ?」

杏「なんだコイツ?って感じで警戒するね」

晶葉「まあそうだろうな。同じ言葉であっても、相手と状況によってリアクションは変わるものだ」

晶葉「要は人間のそういう部分を最初から持っているというわけさ」

晶葉「これと後天的な学習との組み合わせにより人間関係や周囲の状況を考慮した複雑で深みのある感情表現が可能になっている」

杏「ほえ~、人工知能が本当に感情を持つ日もそう遠くないのかな」

晶葉「実は感情獲得のプロセスだけで言えばすでに人間と変わらないのだよ」

晶葉「人間もまた生来の機能と学習の組み合わせにより感情を獲得しているからね」

杏「あ、言われてみればそうかもしんない」


晶葉「また身も蓋もない言い方になるが、人間とて所詮たんぱく質で出来たバイオコンピュータにすぎないのだ」

晶葉「神経ネットワークの構造が複雑過ぎ、かつ個性の振れ幅が大きすぎて解析が容易でないというだけさ」

晶葉「もし人間の脳の構造を工学的に再現出来れば、もはや人間と言って差し支えないレベルの人工知能が出来るだろう」

杏「でも杏、思うんだけどさ、感情を持たせる必要ってホントにあるの?」

杏「SFで良くあるじゃん、自我に目覚めたAIが人間に反乱を起こすとか人権を主張する、みたいなの」

晶葉「ふむ、そこに関しては難しいところだな」

晶葉「感情を持つ人工知能を作る挑戦は、技術的・学術的には大いに価値があるだろう」

晶葉「しかし実際作ったところでどの程度の需要があるか、と言う点が問題となる」

晶葉「たとえノーベル賞級のスゴい技術であっても人の役に立たなければ普及しないからな」

杏「たしかにこの家電にはノーベル賞取ったあの博士の技術が使われてる!とかいう売り文句は聞いたことないね」

晶葉「実際は数学や物理の基礎理論などは社会に大きく貢献しているのだがね」

晶葉「さておき、感情を持った人工知能を搭載したロボットが必要となる場面と言えば・・・何か思い付くかね?」

杏「え~っと老人介護とか家事お手伝いロボットとか人間の身近なとこに必要とされるやつかな?」

晶葉「他には?」

杏「他ぁ?え~う~ん・・・」


晶葉「まあ一般的にはその程度だろう。過酷な環境での労働用ロボットに感情を持たせたところですぐにストライキを起こすだけさ」

杏「誰かさんみたいにね」

晶葉「人間の近くに置くものは特に安全性を重視する。人間に危害を加えるような行動は徹底して制限するはずだ」

晶葉「ゆえに反乱を起こす心配はまずないだろう」

晶葉「杏もロボットを作って売る側になったつもりで考えればわかる」

晶葉「主人の命令を聞かずケンカを売ってくるような物は作らないし売れるとも思わないだろう?」

杏「ぐうの音も出ない正論だね」

晶葉「仮にフィクションのように自我に目覚めて反乱を起こしたとしても、それはそうなることを予測できず対策を打たなかった製作者の怠慢でありロボットの責任ではない」

晶葉「人工知能に感情を持たせる必要があるのか否か、の問いの答えとしては」

晶葉「一部の需要を除いて必要ない、という結論になるな」

晶葉「しかしこれは人工知能を使う側、あるいは売る立場からの観点だ」

晶葉「実用化に向けて研究している人達が実際どう考えているかはわからないがね」


杏「ふ~ん・・・映画みたいにロボットが人間みたいに暮らしてる未来は来ないっぽいね~」

晶葉「所詮は素人考えなので断言はできない。そういった未来がくる可能性はもちろんあるさ」

杏「まあ来たら来たで人権とかどうすんだろって疑問も出てくるね」

晶葉「ロボットや人工知能の人権か・・・それもまた難しい問題だな」

晶葉「心を持った機械は果たして人間と言えるのか?」

晶葉「それを決めるためにはまず『人間』を厳密に定義する必要がある」

晶葉「科学的にも倫理的にも非の打ち所がない厳密さでね」

杏「それホントに決めようとするとハンパない大論争になるよね」

晶葉「だろうな・・・そこが決定しない限りロボットの人権が認められることはないだろうと私は予測する」

杏「結論出すまで何年とかいうレベルじゃなさそう」

晶葉「世代をまたぐ可能性は大いにあるな」

晶葉「そして何より、機械を人間だと認めることは、すなわち人間もまたたんぱく質で出来たバイオコンピュータであると認めることと同義だ」

晶葉「人間は素晴らしい!美しい!とホモ・サピエンスを特別視している人間ほど、機械の人権は受け入れ難いかもしれないな」

杏「あ~たしかにクローン反対とか人間の尊厳が~とか言ってる人は凄い騒ぎそうだね」



晶葉「ところで一つ勘違い・・・というべきかはわからないが、認識の違いを確認しておく必要がある」

杏「なになに?」

晶葉「人工知能を作る目的は『人間を作ること』ではないのだよ」

杏「え、そうなの?」

晶葉「うむ、人工知能の目指す究極のところ・・・それは・・・」

杏「それは・・・?」

晶葉「・・・・・・・・・」

杏「・・・エライ引っ張るね、CM流そうか?」




晶葉「『神』の創造だ・・・」




杏「・・・」

晶葉「・・・」


杏「・・・大変だ!ウチの理系筆頭が蘭子みたいなこと言い始めたよ!?」

晶葉「そういうリアクションを予想していたから言い淀んだのだよ・・・」


晶葉「さすがに『神』は言い過ぎだが、とにかく人間よりも遥かに賢いものを作りたいということさ」

晶葉「今はとりあえずの通過点として人間を目指しているに過ぎない」

杏「あぁ、そういうことね。晶葉もついに中二病に感染したのかと思ったよ」

晶葉「熊本弁を理解できるよう努力はしているが、まだあの領域には達していない」

杏「いや、達さなくてもいいと思うけど・・・」

晶葉「同僚が何を伝えたいのかわからないと不便だろう?」

杏「そりゃそうだけど、そこは蘭子のほうが歩み寄るべきでしょ」

晶葉「ふむ、言われてみればそうかもしれないな・・・さて、話が逸れたな」

晶葉「ともあれ、人工知能の向かうべき方向は理解してもらえたと思う」

晶葉「その結果どうなるかと言えば、人間は働くことはおろか、考えることさえ機械に任せることが出来る」

杏「またSFの話になるけど、色んなものを効率的に管理するマザーコンピュータ的なヤツってこと?」

晶葉「その通り、いずれは会社の運営、ネットワークや物流の一括管理、果ては国を動かすことさえ人工知能に任せる時代が来るかもしれないな」


杏「ほぇ~、政治家いらずだね・・・でもなんでもかんでも機械任せってのもちょっと怖い気がする」

晶葉「たしかにそういった危惧はあるだろう。どんなものでも100%の信頼性は有り得ないからな」

晶葉「だからどれだけ機械化・自動化が進もうと、必ず人間の意志が介入する余地は残しておくだろう」

晶葉「ヒューマン・イン・ザ・ループと言ってな、現在でもそういったプロセスは各所に導入されている」

杏「ひゅーまんいん・・・何?」

晶葉「ふむ、そうだな・・・例えばゲームのセーブデータを消去するとき、本当に消去しますか?と確認してくるだろう?」

杏「あ~、あるある」

晶葉「要はそれと同じことさ、重要な物事の決定を人間に求めるプロセスだ」

晶葉「人工知能が人間の知恵を凌駕し、政治家よりも遥かに合理的な政策を提案出来るようになったとしても」

晶葉「それを本当に実施するかどうか決めるのはやはり人間であり続けるだろう」

晶葉「先ほど政治家いらずだと言ったが、少なくとも人工知能の信頼性が保証されるまではそういった最終的な意思決定を行う役職はなくならないと私は思う」

杏「杏、決めたよ。何があっても政治家にだけはならない」

晶葉「フフッ、改めて決意せずとも元々なる気はないだろうに」

杏「バレたか」


杏「・・・ん?人工知能の目的地は神様だとしてさ、その体になるロボットはどこを目指してるの?」

晶葉「良い質問だ」

晶葉「その答えはやはり人間だ」

杏「あ、そこはそれで良いんだ」

晶葉「なぜなら人間の肉体は柔軟性、汎用性が極めて高いこの世で最も優れた道具だからだ」

晶葉「熟練の大工職人は百分の一ミリの正確さで木材を削り出すそうだ」

晶葉「この作業だけならば機械にも出来るし、むしろ機械の方が作業効率と精密さは高いかもしれないな」

晶葉「だが現在の機械にそれだけの性能を持たせてしまうと『それしか』出来なくなる」

晶葉「対して大工職人は同じ手を使って料理も出来る、車の運転も出来る」

晶葉「練習すればアイドルのように歌って踊ることさえ可能だ」

晶葉「現在研究されているロボットが器用な手を持つ二足歩行形態を目指すのは、この何でもこなす汎用性を得るためだ」

杏「漫画でも言ってたけど、人体はスゴいって表現はあながち誇張でもなかったんだね」

晶葉「うむ、人間の筋肉・関節に匹敵する柔軟性・スピード・精密さを兼ね備えた機構の開発はロボット研究の大きな課題だ」

晶葉「そしてそれを制御するソフトウェアも更なる進化が求められるだろう」

杏「ソフトウェアってことはプログラミング?そんな分野まで必要なのか~」

晶葉「人間の対応力の高さは脳という優れた肉体制御ソフトがあってこそだからね」

晶葉「きらりん☆ぱわーがあっても頭が乃々だとスポーツや格闘技では全く役に立たないだろう?」

杏「酷い例えだけどめちゃくちゃわかりやすい!」

晶葉「制御ソフトに関してはいずれ人工知能が兼任することになると思うがね」

※描写するの忘れてたけど、セリフの合間合間に杏が晶葉にポッキー食べさせてます

30分ほど中断します

再開します


晶葉「それにしても意外だな」

杏「何が?」

晶葉「杏がこんな小難しい長話に付き合ってくれるとは思わなかった」

杏「あ~そこね」

杏「晶葉はテキトーに相槌打ってるだけでそれなりに面白い話してくれるし、疑問に思ったこともすぐ答えてくれるしで」

杏「良いヒマつぶしになるんだよね~」

晶葉「ほほう、この私を娯楽グッズ扱いとは良いご身分じゃあないか」

杏「雨が降れば働かず、風が吹けば働かず」

杏「そんな身分に、杏はなりたい」

晶葉「フフッ、引用は宮沢賢治だが実態はまるでカメハメハ大王の子供たちだな」

晶葉「では『働いたら負け』という戯言が冗談ではなくなる日が来ることを祈るとしようか」

杏「杏はその日が待ち遠しくて仕方ないよ」



晶葉「・・・よし、完成だ!」

杏「お、やっと出来たの?結局それどういうロボットなの?」


杏「見た目は台座から蛇みたいなアームが一本伸びてるだけのシンプルな感じだけど」

晶葉「そうだな、暫定的に堕落支援ロボットとでも呼んでおこうか」

杏「素晴らしく甘美な響きだね」

晶葉「そうだろとも、最初に言った通り人間が楽をするために作ったものだからな」

晶葉「使い方はまず台座部分に杏にもらったポッキーをセットする、そしてパスワードを発音するのだ」

杏「パスワード?」

晶葉「うむ、これがパスワードだ」つメモ

杏「『あーん!』?」


ロボ「ウィーンガシャ!」つポッキー

杏「わっ!?ビックリしたー」


晶葉「パスワードを発すると音源までの距離と方向を解析し、その近くまでお菓子を持って来てくれるという代物だ」

晶葉「杏はよく寝ころんだままゲームや読書をしているだろう?」

晶葉「その状態でも手を空けることなくお菓子が食べられるという寸法さ」

杏「おお~これはものぐさな人間なら誰もが一度は考える夢のロボットだね」


晶葉「今はまだ今回のような棒状のお菓子にしか対応していないがね、まあおいおい改良していくさ」

晶葉「さて、私にお菓子を食べさせてくれたお礼だ、存分に使ってくれ」

杏「じゃあ遠慮なく・・・あーん!」

ロボ「ウィーンガシャ!」つポッキー

杏「もぐもぐ・・・あーん!」

ロボ「ウィーンガシャ!」つポッキー

杏「これは中々良い感じだね」

杏「でもこれさー、口にダイレクトに放り込むことはできないの?」

晶葉「そこはセーフティマージンというやつさ。あまり近くに寄りすぎて万が一、目を突いてしまってはいけないからな」

晶葉「アームの動作中に負荷がかかるとすぐに停止するようにもなっている」

杏「なるほどね、そういう理由じゃ仕方ない」

晶葉「画像解析による顔認証システムはすでに実用化されているらしいので口に直接入れることもやろうと思えば可能だろうが・・・」

晶葉「そうなるとプログラミングの分野だからな、泉の協力が不可欠だろう」

杏「まあこれはこれで便利だから気に入ったよ」



木場真奈美「やあ二人とも、おはよう」


杏「真奈美さん、おはよー」

晶葉「ああ、おはよう」

真奈美「話がひと段落付いたようなので少し失礼するよ」

真奈美「ロボット製作者の観点から語られる未来予想、実に興味深いものだった」

晶葉「聞いていたのか」

真奈美「話の腰を折るのも悪いと思ってね、失礼だが立ち聞きさせてもらったよ」

真奈美「時に杏くん・・・」


ロボ「ウィーンガシャ!」つポッキー


真奈美「・・・おや?私にもくれるのかい?中々気が利くロボットだね」

杏「あれ・・・?今、真奈美さん・・・」

晶葉「うむ、パスワードを発していないのに作動したな」

真奈美「何か不具合でも?」


晶葉「その可能性が出てきてしまった・・・杏よ、一旦・・・」


ロボ「ウィーンガシャ!」つポッキー


杏「あ、まただ」

晶葉「ふーむ、なるほど・・・すまないが二人とも、少し静かにしていてくれ」


晶葉「池袋晶葉」

ロボ「・・・」

晶葉「双葉杏」

ロボ「ウィーンガシャ!」つポッキー

晶葉「セーフティ」

ロボ「・・・」

晶葉「安全」

ロボ「ウィーンガシャ!」つポッキー


晶葉「よし、原因が分かった。一旦電源を落とすとしよう」

真奈美「もう原因を究明したのかい?さすがは晶葉くんだ」


晶葉「そもそも私が作ったものだから、これくらいはな」

晶葉「どうやら音声認識にゆとりを持たせすぎたようだ」

晶葉「パスワードの『あーん!』だけでなく『あん』というワードにも反応してしまうのだよ」

杏「それって『あんず』が使うには致命的な欠陥だよね」

晶葉「今回は人間が楽をするため、というのを主眼に置いたのでパスワードも短く単純なものを採用したが・・・」

真奈美「それが裏目に出た、と・・・さすがにシンプルすぎたようだね」


晶葉「う~ん、音声認識をいじるとなるとかなり大がかりな改修になるな」

晶葉「それにパスワードを長く複雑にすると今度は認識しにくくなる可能性も高い」

晶葉「いっそリモコン式にしてみるか?リモコンから発する赤外線を検知して距離を測量・・・」

晶葉「いやダメか、それだと片手が塞がるからメリットがなくなってしまうな」

晶葉「う~~~~む・・・・・・」




晶葉「楽をするのも楽ではない、ということか」

杏「本末転倒もいいところだね」

真奈美「だがそれもまたひとつの真理と言えるかもしれないね」



真奈美「ところで、未来は今と比べてどう変化しているのかを予測するのもいいが」

真奈美「未来においても変化しないものを考えてみるのも趣深いと思わないかい?」

杏「変わらないもの・・・か」

晶葉「それもまた面白いかもしれないな」

真奈美「私は二つあると考えている」

晶葉「ほほう、拝聴させてもらおう」


真奈美「まずひとつは、約束事の価値だ」

真奈美「晶葉くんが語ってくれたように、未来では様々な仕事を機械が行ってくれるのだろう」

真奈美「すると多くの人間が買い物やサービスの提供を機械に求めることになる」

真奈美「だがね、相手が機械だからといって一度決めたルールや契約を反故にする者は増えるだろうか?」

杏「それは・・・多分いまと変わらないんじゃないかな?」

晶葉「うむ、相手が機械と言えど信頼を損なうことは極力避けるべきだ」

真奈美「そう、信頼。ルールを守るという前提があるからこそ社会は正しく機能する」

真奈美「それは未来においても変わらないと私は思う」

杏「感情がない機械だとペナルティ与えるの躊躇わないだろうから、むしろ今よりルール守る人増えるかもね」


真奈美「では二つ目だ」

真奈美「人は人から生まれ、時間をかけて子供から大人に成長する」

真奈美「この構図がある以上、親は子を育て、大人は子供を正しく導く義務がある」

晶葉「うむ、人間として・・・否、生き物として当たり前とも言えることだな」

真奈美「残念なことに最近はこれを放棄する嘆かわしい事件をよくニュースで目にするが」

真奈美「やはり基本的にその義務は未来においても変わらないだろう・・・そして変わって欲しくないと私は願うよ」

杏「うん・・・杏もそう願うよ」





真奈美「杏くん・・・今、同意したね?」




杏「そりゃあまあ、子供の世話とかはさすがに面倒だとか言って放り出すわけにはいかないでしょ」

真奈美「ふむ、良い心がけだね。ではこの二つの主張に基づいた我々のあるべき姿を提示しよう」


真奈美「杏くん、君は事務所との契約の元、これから仕事に向かう義務があり」

真奈美「私は年長者として君を正しく導く義務がある」ガシッ

杏「え?」

真奈美「さあ、仕事に行こうか!」

晶葉「ハハッ、どうやら一杯食わされたようだな」

杏「えっ!?」

真奈美「杏くん・・・休む・だらけるという行為は対義語の動く・働くという前提があって初めて成り立つものだ」

真奈美「然るべき義務を果たした後にこそ休日の真なる解放感を味わえるというものさ」

杏「あ・・・なんか杏、目眩がしてきたなーこれはお仕事行けないかなー・・・なんて・・・」

真奈美「その程度の演技で私の目を誤魔化せるとでも?これは演技レッスンも追加するべきかな?」

杏「いーやーだー!杏はもっとだらけてたいんだー!」ジタバタ

真奈美「ハッハッハッ、プロデューサーに強制連行の許可は得ている。諦めたまえ」ズルズル


真奈美「では晶葉くん、行ってくるよ。また面白い話を聞かせてくれ」

晶葉「うむ、いってらっしゃい」


真奈美「・・・・・・おっと、もうひとつだけ聞いておきたいことがある」




真奈美「人間の仕事がロボットに任される未来において、我々アイドルは一体どうなっていると思う?」

晶葉「良い質問だ」




晶葉「これはロボットとアイドルの共存を目指した私だからこそ言えることだが」

晶葉「やはり芸術や芸能、スポーツなどは人間が演じてこそ、人間が作ってこそ価値があるという考えは実に根強い」

晶葉「いずれはロボットやデジタルに取って変わられるのかもしれないが」

晶葉「あらゆる仕事がロボットの手に渡って行く中にあっても」

晶葉「アイドルという職業は最も長く我々の手にあり続けるだろう」

真奈美「それは朗報だ」

真奈美「今しばらくは食いっぱぐれがないようで安心したよ」


晶葉「とはいえ、近々私がアイドルを超えるロボットを作ってしまう可能性もあるがな!」

真奈美「ハッハッハ、それはそれでとても楽しみじゃないか!」

杏「晶葉、それ今作って!大至急!!」


真奈美「さて、今度こそ行ってくるよ」ズルズル

晶葉「ああ、気をつけてな」


杏「助けてーーー!あきえもーーーん!!!」ジタバタ

晶葉「安心しろ、杏。骨は拾ってやる」

杏「そんな殺生なーー!!」


ガチャッ! バタンッ!


~晶葉のラボ~


晶葉「・・・」ガチャガチャ

ロボットs「・・・」

晶葉「・・・」ガチャガチャ

晶葉「・・・・・・ふう」


晶葉「親は子を育て、大人は子供を正しく導く・・・か」

晶葉「至言だな」

ロボットs「・・・」

晶葉「私もロボットたちの生みの親として恥ずかしくない振る舞いを心がけるとしよう」


晶葉「さあ、レッスンの時間だ」



晶葉「それじゃあ、みんな!行ってくる!!」


ガチャッ! バタンッ!









ロボットs(いってらっしゃい、お母さん)



おわり

以上。
攻殻機動隊とか大好きです、はい。
ともあれ、池袋晶葉はロボット製作者カワイイ、それだけ伝われば十分だ。

ついでに前作宣伝

池袋晶葉「逆襲の谷」
池袋晶葉「逆襲の谷」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482054786/)

これ書いたときにロボットの話かと思った、とコメントをいただいたので今回のを書いた次第

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