Fate/GrandOrder,並びにFate/Staynightのネタバレを含みますのでご注意を.
序章【ダヴィンチ・コード】
藤丸「冬木への再レイシフト?」
人類悪であるゲーティアを撃破し,辛くも人理修復を成し遂げた藤丸たち.
しかし,魔術協会をはじめとした「カルデアの外」にいた者たちはそれを信用してはいなかった.
そんな彼らが藤丸とカルデア職員へ命じたのが「特異点F」冬木への再レイシフトだった.
藤丸「僕は構いませんが・・・具体的には何をすればいいんですか?」
藤丸のこの問いに対し,彼らはこう答えた.
―――冬木の聖杯戦争に勝利せよ,と.
彼ら曰く,
「冬木の聖杯戦争には複数のifがある.
その中の一つ,冬木の大聖杯が破壊された世界線こそが我々が存在する世界戦である.
冬木の大聖杯は原初の悪に侵された存在であり,これが暴走する前に消失したからこそ,この世界が存在している.
だが・・・この冬木の聖杯戦争の結果として,我々が看過できないイレギュラーが3つ発生してしまった.
一つは,第二魔法を習得してしまった少女.
一つは,魔術の原則を歪めてしまった少年.
一つは,自我を持つ聖杯となってしまった少女.
この世界の秩序のため,彼らのような我々の手に余る存在を残していては困るのだ.
しかしながら,強大な力を得てしまった彼らを安易に始末することもできまい.
だが過去ならどうだ?彼らがその力を得たのはいずれも冬木の聖杯戦争中だ.
で,あれば.
彼らを倒し,大聖杯を破壊することで,よりよい未来に書き換えられるのではないか?
事実として冬木の聖杯戦争では一般人への被害が多数出ている.
これらを書き換えることは,人類史を存続させるために必要なことではないか?」
とのこと.
要は藤丸を使って自分らの都合がいいように歴史を改ざんしようという話だ.
私たちは暇ではない.あの爆発事故で失われたスタッフも,いまだ補充されていない.
本当はこんな話蹴って,早くカルデアの復興に取り掛かりたいのだが・・・.
ダヴィンチ「私がカルデア職員ならなぁ・・・」
いやこればっかりはしょうがない.
所長が死に,代理を務めていたロマニもいなくなった今,私たちの指揮権は私たちにない.
いくら私が優れた英霊であろうと,私はあくまで僕(サーヴァント)なのだ.
となると,指揮権はおのずと別のところへ行ってしまう.具体的には,魔術協会へと.
そうなってしまった結果,私たちはこの「オーダー」を受けざるを得ない状況になっていた.
ダヴィンチ「藤丸君,本当にいいのかい?」
私は,私たちの誇るべきマスター,藤丸へと再度問いかける.
藤丸「大丈夫ですよ.彼らの言い分だってある程度筋は通っています.」
藤丸はそう言ってにこりと笑い,コフィンに入る.
まぁ,確かに彼らがやろうとしていることが悪いことであるとは断言しにくいのだが.
聖杯戦争に勝利するというオーダーの中に,件の3人を殺せとの指示はなかった.
彼らを殺さなくていいということは,すなわち聖杯戦争のあと彼らは自由ということだ.
となると,これを正面から弾劾することは難しい.
ダヴィンチ「・・・まぁ,君なら大丈夫か.」
そうだ.
彼は人類を救った魔術師だ.
魔法使いに聖杯にと,敵は強大だが,彼も負けてはいない.
となると,私が出来ることは一つ.
「アンサモンプログラム スタート
霊子変換を開始 します
・・・3・・・2・・・1」
ダヴィンチ「いってらっしゃい.」
どっかの凡人みたいに,おいしい団子でも用意して待つだけさ.
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第一章【微睡のなかの一幕】
藤丸「よっ・・・と」
無事,レイシフト出来たようだな.
俺は自分の体に異常がないことを確認し,周囲を見渡す.
どうやら郊外の森の中のようだ.
向こうにはビル群が見える,もちろん燃えてなどいない.
藤丸「ほう・・・」
以前来た冬木が火にまかれていたからだろうか.
この町が当たり前のように存在していることに驚いてしまう.
ダヴィンチ「それが,君が救った世界だよ.」
ダヴィンチちゃんからの通信が入る.
そうか,これが・・・
藤丸「・・・この光景をマシュにも見せてやりたいな」
マシュは今,厳しいヘルスチェックの最中だ.
理由はもちろん,ソロモンでの決戦中に一度消失したからである.
一度命の終わりを迎え,キャスパリーグ,いや,フォウの力で人並みの寿命を得たマシュ.
しかし,周りの大人たちはそう簡単にそれを信じるはずもなく・・・
マシュ「私,大丈夫ですから!フォウさんのおかげで!」
職員s「だったら調べさせなさい!私たちの気が済むまで!」
マシュ「離してください!先輩とのオーダーがあるんです!」
職員s「だめよ!もうあなたに無理はさせないわ!」
そんなかんじで,彼女はカルデアの医療スタッフたちに連れていかれてしまった.
まぁ俺としても,マシュに無理をさせたくなかったから好都合ではあったんだけど.
・・・でも,この光景を見たら,きっとあのかわいい後輩は喜んだんだろうなと.
そんなことを思ってしまった.
ダヴィンチ「はは,君らしい素直な感想だ.・・・と,そろそろサーヴァントを召喚しないとね.」
ダヴィンチちゃんはははっと笑った後,そう告げた.
そうだ.今回はマシュがいない以上別のサーヴァントを連れて行かなきゃいけないんだ.
ダヴィンチ「君には多くの縁があるから,サーヴァントを呼び出すのは容易だろう.
ただ,今回の聖杯戦争は君の力を示す試練にもなっているからカルデアからのサポートはできない.
君の魔力量は決して多くないし,扱うサーヴァントは慎重に選ぶといいよ.」
ダヴィンチちゃんに言われ,思い出す.
この戦いは人理修復であると同時に,俺の開位としての適性を試す場でもある.
カルデアからの魔術的バックアップは受けられないと思ったほうがいいだろう.
藤丸「そうですね・・・では」
俺は魔力がたまった石,聖晶石を握りしめ祈る.
僕の力となってくれる仲間の名を呼ぶ.
藤丸「来てくれ!牛若丸!」
その名を呼ぶと同時に,手にした聖晶石が光を放ち・・・
牛若丸「ぽんぽこりん!主殿の呼びかけに応じ参上いたしました!」
狸のしっぽに鎧に刀を携えた女性のサーヴァント.
人理修復を行う長い間,俺を支え続けてくれた彼女が現れてくれた.
藤丸「今回も宜しくな.」
牛若丸「はい,主殿!」
俺のあいさつに,しっぽをピコピコと振りながら答える牛若丸.
今回マシュはいないが,彼女と一緒なら何も問題ないだろうと,そう思えた.
ダヴィンチ「よしよし.さて,無事に召喚もできたことだし早速とりかかろうか.
さっそくだけど北西の方向にサーヴァントの反応があることだし,早めに片付けてしまおう.」
召喚が済んだところで,ダヴィンチちゃんから指示が飛んでくる.
俺たちはその指示に従って森の中を歩き始めた.
ダヴィンチ「そろそろ敵の感知範囲に入るだろう.
これ以降は戦闘が終わるまで,私は何も助言ができない.
相手は百戦錬磨の英霊だ,十分注意してほしい.」
10分ほど歩いたのち,ダヴィンチちゃんからの通信がオフになった.
おそらく,すぐに戦闘が始まるだろう.
牛若丸「主殿.」
藤丸「どうした?」
ふと,牛若丸が足を止めこちらを見た.
牛若丸「主殿,今回はマシュ殿がいません.
これがどういうことかわかりますか?」
牛若丸はふとそんな問いを投げかけてきた.
俺は問いの意味が分からず首をかしげる.
牛若丸「私では,主殿を守りながら戦うことはできませぬ.」
牛若丸はそう告げ,そこでようやくそうか,と納得する.
マシュがいない以上,自分の体は自分で守らなければならない.
一対一において牛若丸は強力な英霊であるが,牛若丸には敵の対軍宝具を正面から受けきれるほど強力な防御はない.
そして,マスターが死ねば英霊は死ぬ.
敵がマスターを狙って攻撃してくる可能性は十分にあるのだ.
藤丸「ありがとう,ライダー.」
周囲の敵を警戒して呼び方を変えながら,俺は感謝の気持ちを述べた.
あやうく,つまらない慢心で失敗するところだった.
牛若丸「いえ,私は・・・」
「ふむ,来客にござるか.」
声がして,その方向を見る.
そこにいたのは江戸時代における浪人風の姿をした男.
腰に掛けた大きな刀が,間違いなく現代の人間ではないことを告げていた.
牛若丸「サーヴァントです,主殿は下がってください.」
牛若丸が俺の半歩前に出る.
俺は敵を見据えたまま牛若の邪魔にならないよう少し離れる.
サーヴァント「見たところお主は武士にござるな.
拙者はアサシン,佐々木小次郎にござる.」
驚いたことに,敵は自ら真名を明かしてきた.
佐々木小次郎・・・たしか,巌流島で宮本武蔵と戦った人だっけ.
牛若丸「ほう,敵に名乗るとはいい度胸だな.いざ尋常に,勝負!」
牛若丸はこれを挑発と受け取ったのか,武器を構える.
小次郎「退屈しのぎくらいにはなるとよいのだが.」
スッ・・・と.
構えた牛若丸を見た彼は音もなく動きだし,一息に距離を詰めてきた.
牛若丸「はっ!」
それに応じるかのように牛若丸も地を蹴る.
両者ともに縮地の使い手であり,超スピードで相手へ迫っていく.
そして両者の刃が届くまで,あと数刻というところで
まずい,と.
理由はわからないが,本能的に何かがまずいと全身が叫びだした.
藤丸「ライダー!下がれ!」
気が付くと俺は叫んでいた.
牛若丸「はっ!」
従順な性格の牛若丸は,すぐ声に応じ,空中に船を呼び出すとそれを蹴り俺の方へ移動の方向を変えた.
・・・と同時に牛若丸の後ろで「バキィ!!」と轟音が鳴り,慌てて俺はそちらを見る.
小次郎「なるほど,勘のいいマスターにござるな」
そこには,牛若が出した船を両断しこちらを見る小次郎が立っていた.
マシュが救われたことを知らないということに気づいていませんでした.完全にストーリーの読み込みが甘かったです,すみません・・・
SN時間軸に関してもご都合主義です,ソロモンが勝利した聖杯戦争を軸にしたかったんですけど0から考え付かなくて・・・重ね重ねすみません・・・
牛若丸「な・・・」
真っ二つになった船を見て牛若丸は驚愕する.
敵サーヴァントである小次郎が持つ刀はかなり長く,細い.
凡百の英霊では木を切る前に刀を歪めてしまうであろう.
それをいとも容易く行って見せた彼の技量の高さに,俺も思わず息をのんだ.
小次郎「命拾いしたでござるなサーヴァント.」
彼は何でもないようにそう告げる.
小次郎「立ち去れ,であれば此度は見逃そう.」
牛若丸「くっ・・・」
あまりの実力差.
現状これを覆す手段はない.
藤丸「一度引こう.」
俺はそう提案した.
幸いにも真名がわかっている現状,一度引いて「佐々木小次郎」について調べるほうが確実だろう.
牛若丸「・・・主殿がそういうのなら」
しぶしぶといった感じで牛若丸も同意してくれた.
おそらく悔しい気持ちはあるのだろうが,それでも同意してくれた牛若丸に礼をいい俺たちは一度その場を離れた.
そして佐々木小次郎は,言葉の通り追ってはこなかった.
ダヴィンチ「佐々木小次郎ね.」
ダヴィンチちゃんに事の顛末を話す.
今回の聖杯戦争中において,カルデアのデータベースを用いてこちらが指定したワードについて調べることは許されている.
そのため今は,佐々木小次郎についてカルデアで資料を集めてもらっている最中だ.
ダヴィンチ「佐々木小次郎といえば,巌流島の戦いが有名だね.
・・・なになに?なんでも,巌流島の戦いのときには佐々木小次郎は60歳近くだったみたいだ.
さらに武蔵側は4人もいたって話もある.
これが本当なら稀代の剣豪が20代のときに60のおじいちゃんをそこまで恐れてるんだから,相当なつわものだね.」
ダヴィンチちゃんが情報を読み上げてくれる.
・・・不安にさせる情報も多数入ってきているが,それはそれ.
今は少しでも情報がほしい.
ダヴィンチ「宝具はおそらく・・・備前長舟長光とよばれる太刀から繰り出される,燕返しだね.
回避不可能の3連撃,その理由は実際には全くの同タイミングで3つの剣檄が飛んでくるからだ.
おそらくこれは知ってても躱せないから,あっちが不穏な構えを見せたら距離を取りなさい.
・・・間に合えば,だけど.」
なるほど,相手の必殺剣は回避不能というわけか.
・・・とにかく一対一では質が悪い相手だ
牛若丸「うーむ・・・」
牛若丸はさっきから幽体化した状態でうなり続けている.
おそらくどうやって勝つか考えているのだろう.
・・・熱心なのはいいが,あまり思いつめられてもいい案は出ないだろう.
藤丸「いちどターゲットを変えたほうがよくないか?」
相性が良くない以上,ほかのサーヴァントを先に相手取るほうがいいだろう.
そう思った俺はターゲットの変更を進言した.
ダヴィンチ「まぁ,確かにそうだね.だったら,南の方にサーヴァントの反応がある.」
俺たちは,ダヴィンチちゃんが指定する方向へと移動を開始した.
「・・・ん?なんだ,私と似た存在が紛れ込んでいるようだな.」
「あんたと似た存在?」
「いや・・・何でもない.どうやら外部から8人目のマスターがこの戦いに紛れ込んでいるようだ.」
「そ.で,どうするの?先に倒すの?」
「まさか.おそらく彼らとは利害が一致する.彼らとともに,さっさとこの戦争を終わらせよう.」
「(――――あれと協力して,衛宮士郎を殺すさ.)」
ここで一度状況を整理します
カルデア側(味方)
勢力
マスター:藤丸立花
サーヴァント:牛若丸(ライダー)
サーヴァント:ダヴィンチ(キャスター)今回はオペレートのみ
デミ・サーヴァント:マシュ(シールダー)不参加
目標
大聖杯の破壊
聖杯戦争の勝利(6騎撃破の時点で聖杯が満ちるため勝利)
現地側(敵)
マスター:???
サーヴァント:佐々木小次郎(アサシン)
目標
不明
戦闘結果
牛若× vs 小次郎〇(両者生存)
SS投稿初めてで慣れてないので,なにか変な設定とか質問とかあれば遠慮なくレスしてください!
アサシンと戦った場所からしばらく歩くと,高校?と思われる学校にたどり着いた.
ダヴィンチ「この中にサーヴァントが潜んでいるようだ.
例によって私は何もできないけど頑張りたまえ.死ぬんじゃないぞ」
ダヴィンチちゃんからの通信が切れる.
・・・と,次の瞬間
牛若丸「なんですかこれ・・・空に巨大な目が・・・」
牛若丸の言葉を聞き空を見上げると,空は赤く染まり,空には大きな目が現れていた.
魔術の類には間違いない.
ダヴィンチ「まずい!本来は連絡しちゃいけないんだろうけどそれどころじゃない!
君が今いる学校の人間の生体反応が急激に弱くなっていってる.このままじゃみんな死ぬ!」
ダヴィンチちゃんから通信が入る.
・・・みんな死ぬだって?
藤丸「そうはさせない!行くぞライダー!」
牛若丸「!・・・は,はい!」
俺は牛若丸を呼び,校内へ急ぐ.
ダヴィンチ「上にサーヴァントの反応がある!多分この結界の犯人だ,急いで向かって!」
ダヴィンチちゃんの指示に従い階段を駆け上がる.
するとそこには
「ん?なんだお前.」
青い髪をした少年と
「・・・」
目元にマスクをつけた長身の美女が立っていた.
青い髪の少年が俺を睨みつけながら続ける.
「つかお前さ,なんでヘーキな顔して立ってんの?
ボクの最強のサーヴァントが魔力吸い集めてるのにさ」
僕のサーヴァントだって?
俺は隣の女性を見る.
「・・・」
相変わらず何も話さないままサーヴァントは立ち尽くす.
「外道め・・・薄緑・天刃縮歩!」
ここで,いつ現れたのか牛若丸が高速で敵サーヴァントに突っ込み斬撃を浴びせる.
「サーヴァント・・・!面倒ですね・・・」
敵サーヴァントはそれを2本の短剣でかろうじて反らし,距離をとる.
・・・が
牛若丸「はぁっ!!」
縮地を利用したヒット&アウェイで交代を許さず,息もつかせぬ連撃を浴びせる牛若丸.
相手のサーヴァントもかなり俊敏だが,それでも牛若丸の方が一歩上だった.
「はぁ!?なんで押されてんだよこのクズめ・・・!そんな雑魚早く始末しろよのろま!」
「・・・落ち着きなさいシンジ.あの手を使います.」
牛若丸「もらった!」
牛若丸が敵サーヴァントとマスターの会話の隙をつき,とどめを刺そうとしたその時.
ぞわっ・・・
再び言いようのない悪寒が全身を駆け巡る.
敵を見ると,敵のサーヴァントがマスクを外そうとしていた.
藤丸「ライダー!止めを急げ!」
「・・・もう遅い.」
牛若丸の斬撃が届く直前,敵サーヴァントの両目が解放され,俺は反射的に目を閉じる
牛若丸「あ・・・」
そして目を開けると,牛若丸は石になってたたずんでいた,
続きは明日です.
シンジ「クク・・・ハハハハハハ!!
なんだよ,驚かせやがって.」
シンジと呼ばれたマスターが高笑いを浮かべる.
俺は敵のサーヴァントの目を見ないようにしながら,石のように動かない牛若丸を見る.
・・・どうやら行動を封じられてはいるものの,完全に石にはなっていないようだ.
ならばまだ,やりようはある.
シンジ「雑魚の分際でなかなか頑張ったんじゃない,お前?
でも残念,相手が天才のボクじゃなけりゃ勝ってたかもね.」
ヘラヘラと笑いながらシンジがサーヴァントを伴いこちらへ歩いてくる.
こちらに策があるとも知らずに.
シンジ「それにしても,なんでお前は石化しないんだ?
ああいや,別に雑魚のお前が残ったところで何も問題はないんだけどさ.
・・・もしかして,ビビッて目を閉じてたとか?
ハハハ!傑作だ!臆病なおかげで命拾いするなんてな!
・・・ありがたく思えよ,この聖杯の勝利者であるボクのサーヴァントの糧になるんだからな!」
シンジが牛若丸の隣を通り過ぎたところで,俺は反撃を開始した.
さぁ,目にものを見せてやる.
藤丸「イシスの雨,展開!」
俺は魔術礼装を展開する.
俺が装備しているアトラス院の力を借りた魔術礼装には,味方の毒を癒す効果がある.
牛若丸「感謝します主殿!はぁっ!」
イシスの雨の力で体の束縛が解けた牛若丸が,一息に相手ライダーと距離を詰める.
「くっ・・・」
敵サーヴァントも魔眼を展開しようとするが・・・
牛若丸「遅い!」
ズバッ!
牛若丸の刀が一息に相手サーヴァントの首を刈り取った.
・・・勝負ありだ.
シンジ「嘘だろ・・・なんだよこれ・・・」
サーヴァントが消滅する様を見て,へなへなと座り込むシンジ.
シンジ「これだから魔術師ってやつは嫌なんだ!
なんだよ今の,ずるいじゃないか!
なんでこんな雑魚が魔術を使えてボクが使えないんだよ!
畜生!畜生!畜生!畜生!!!」
子供のようにわめき続けるシンジ.
気づけば真っ赤だった世界は元に戻っていた.
俺達はシンジを置いて,その場から立ち去った.
彼には悪いけど,これが聖杯戦争なんだから.
藤丸「聖杯戦争・・・」
今までのオーダーではサーヴァントと戦うことはあれど,人・・・ひいては魔術師と戦うことがあまりなかった.
だが,今回は違う.皆マスターを持つサーヴァントであるのだ.
相手の夢を戦いで奪う.
こんなことをしてもいいのか,と少し不安になった.
牛若丸「戦争とはそういうものですよ,主殿.」
牛若丸が俺の顔を見て何かを感じたのか,そう声をかけてきた.
牛若丸「戦争とは人々が自分の利益のために人の夢を踏みにじるもの,それは昔も今も変わりませぬ.」
牛若丸が独り言のようにそうつぶやく.
彼女はずっと多くの戦争を見て・・・いや,関わってきたのだろう.
牛若丸「で,あれば!
我々にできることは,少しでも多くの人が幸せに暮らせる結果へ導くことですよ,主殿!
事実,我々は今回すでに多くの人を救いました.
今までのオーダーに比べれば少ない数かもしれませぬが,その人たちの未来,夢を守ったのは主殿ですよ.」
牛若丸がそう言って俺に笑いかける.
藤丸「そう・・・だな!」
だったら,俺も頑張ろう.
一人でも多くの人々の未来を救うために.
第一章 完
第二章【死の足音】
「あいつ,結構やり手よ.」
「やり手,というのは?」
「さっき学校にいたんだけど・・・
あいつ,相手の結界内でライダーを倒したの.」
「ほう・・・それはなかなか.」
「どうする?そろそろ接触する?」
「そうだな,早いに越したことはあるまいよ.」
ダヴィンチ「お疲れ様.よくがんばったね.
どうする?今日はもう休むかい?」
学校からしばらく歩いたところでダヴィンチちゃんからねぎらいの言葉を受けた.
藤丸「ありがとう,今日はもう宿を探して休みます.」
今日はサーヴァントとの2連戦に魔術礼装の行使と,なんだかんだで魔力を消費してしまった.
牛若丸も魔力を消費しているだろうし,一度休んだほうがいいだろう.
ダヴィンチ「りょうか~い.では,最寄りの宿までナビゲートするね.」
ダヴィンチちゃんの指示に従い,俺は夕暮れの冬木の街を歩きだし―――
「ねぇ.」
たところで突然呼び止められ,俺は後ろを向く.
と,そこには
藤丸「・・・イシュタル?」
ウルクの守り手である女神様がいた.
「はぁ?イシュタル?」
しまった,イシュタルなわけないじゃないか.
俺の失言にイシュタル似の女性の顔が険しくなる.
「誰と勘違いしてるのか知らないけど,あなたとは初めましてよ.」
あきれたようにかぶりを振ったその女性はそう前置きすると,
凛「私は遠坂凛.この聖杯戦争のマスターよ.」
と,さらりととんでもないことを口にした.
・・・なんだって?マスター?
凛「とはいっても,今私のサーヴァントは怪我で戦えないわ,安心して.」
凛と名乗った少女はそう笑うと手を差し出してくる.
いや待て,サーヴァントを携えずにマスターがほかのマスターのところに行くわけがないだろう.
藤丸「嘘をついて俺たちを奇襲するつもりか?」
俺は警戒し距離をとる.
・・・しかしまずい.こちらは連戦で疲弊している.
それに俺をマスターと知っているということは牛若丸の姿も見ているということだ.
戦い方,情報が少しでも洩れていたら勝ち目は薄い.
凛「・・・うん,合格.というか魔術師としては当たり前か.」
凛はぶつぶつと独り言を言い,こちらへ向き直った.
凛「嘘は言っていないわ.その証拠に,出てきてアーチャー.」
凛がそう呼ぶと,赤い外套を身にまとった男が姿を現した.
アーチャー「やぁ,どうも.
サーヴァント,アーチャーだ.」
凛「さて,本題に入るわね.」
凛はそう前置きをすると,俺たちにこう告げた.
凛「私と同盟を組まない?」
藤丸「同盟だって?」
凛からの思いがけない提案に,おもわずオウム返しをしてしまう.
凛「ええ,ほかのマスターとサーヴァントをすべて倒し,残りのマスターが私たち二人になるまでの同盟.
悪くはないと思うのだけど.」
凛に言われた言葉の意味を反芻する.
つまり,ほかのサーヴァントを2対1で蹴散らし,最後に俺たち二人で戦うようにするということか.
確かに魅力的ではあるが,しかし簡単に飲める話ではない.
藤丸「俺のメリットは?
さっきの話が本当なら,現在そのサーヴァントは使い物にならないんだろう?」
俺はアーチャーを差し,問いを投げかける.
それに対してアーチャーはやれやれといった表情でこちらを見て,こう答えた.
アーチャー「いやいや,私はアーチャーだからね.
前線で戦ってくれるサーヴァントがいれば支援くらいならできるさ.」
ごもっとも,だった.
アーチャー,キャスターはほかのクラスに比べ遠距離での攻撃に長けている.
しかしそれは裏を返すと,1対1での戦いにはあまり向いてないともいえる.
十全に実力を発揮するには,前線で戦ってくれるサーヴァントが必要なのだろう.
凛「そういうこと.
それに,この同盟の一番の目的は,バーサーカーを倒すことなの.」
アーチャーの台詞に続けて,凛が話を続ける.
凛「今回の聖杯戦争において一番やばいのは間違いなくバーサーカーよ.
あなたも単騎で行ったらきっと勝てない.
だって彼は・・・」
凛は一瞬言葉を止め,苦々しくこう言った.
凛「ギリシャ神話の英雄,ヘラクレスだから.」
ダヴィンチ「ヘラクレス・・・オケアノスぶりかな?」
凛の話を聞いたダヴィンチちゃんが苦笑いする.
俺が詳しい話が聞きたいと話した結果,凛の家に招かれることとなった.
凛「それにしても・・・ヘラクレスと戦ったことがあるって本当なの?」
凛が驚いたようにこちらを見る.
当然だろう.
話しているのがあの怪物を目にして生きているマスターだと聞けば,俺だって驚く.
藤丸「まぁ,一度だけ.
その時は多くのサーヴァントに助けてもらって何とか勝利したんだ.」
凛「へぇ・・・思った以上に優秀なのね,あなた.」
俺の話に興味津々といった風に相槌を打つ凛.
初対面の相手にこうまで言われてしまうと,少し照れくさくもある.
藤丸「そ,そんなことより,対策はどうするんだ?」
褒められて恥ずかしくなったので話題を変えてみる.
オケアノスではアークを使って何とか倒したが,今回ダビデ王はいない.
・・・となると,Aランク以上の12の宝具を用意しなければならない.
藤丸「俺のサーヴァントはAランク相当の宝具を持っているが,攻撃に使えるのは2種のみだ.
残り10回,どうやって撃破する?」
凛のサーヴァントの力は未知数だが,まさかAランク相当の宝具を10個も持っているはずはない.
まだ仲間を集めるのか,あるいは別の策があるのか・・・
アーチャー「それに関しては問題ない.10回どころか12回私が撃破しても構わんよ.
君たちはともかくあいつの足止めをしてほしい.」
アーチャーが自信満々にそう告げる.
12回一人で殺せる・・・だって?
藤丸「ちょっと待ってくれ,あいつは一度受けた攻撃を二度通すことはないんだぞ?それってつまり・・・」
アーチャー「簡単な話だ.」
アーチャーは俺の言葉を遮ると,にやり,と人の悪い笑みを浮かべ,とんでもないことを口にした.
アーチャー「Aランクを超える宝具を,12種用意すればよいだけだろう?」
SNプレイはしてるんですけどうまく台詞が思い出せず・・・すみません・・・
指摘感謝です.
アーチャー「とはいえ,傷が治っていない現在の状態で奴と戦うのは自殺に等しい.
私はしばらく傷の回復に専念させてもらう.」
アーチャーはそう告げると霊体になりどこかへ消えていった.
あいつは一体何者なんだ・・・?
凛「そういうわけで,私たちは当面の間,ヘラクレスやほかのマスターの居場所を調べるのに専念するわ.
ヘラクレスを倒すまでは,できるだけ戦闘は行わない方向で.」
俺があのアーチャーについて考えている間に,凛が作戦を総括し,こちらを見る.
そして思い出したように,こう告げた.
凛「そういえば,まだ返答を聞いていなかったわね.
―――私たちに協力,してくれる?」
俺は数刻,頭を巡らせる.
ここで断って凛を倒してしまうのも一つの手ではある.
魔力が戻れば12種ものAランク相当の宝具を用意すると簡単に告げたサーヴァントだ,今のうちに叩いておくのが最善であろう.
しかし,ここを逃すとヘラクレスを倒す手立ては現状ない.
カルデアからダビデ王を呼んでくるのも手として存在しなくはないが,聖遺物であるアークを維持できるほどの魔力を俺が持っているとも思えない.
それに,イシュタルには大きな借りがある以上,そのイシュタルに似た少女の誘いを無碍にもできない.
藤丸「・・・わかった.僕でよければ,手伝うよ.」
俺は差し出された手を取り,凛との協力関係を結んだ.
凛「オーケー,じゃあちょっと遅いけど,出かけましょう.」
凛はそう告げると,コートを手に取った.
藤丸「出かけるって・・・どこに?」
状況が呑み込めてない俺に,彼女は一言.
凛「もう一人の協力者のところよ.」
凛に連れられてやってきたのは,和風の大きな家屋.
凛「衛宮君,彼が新しい協力者の藤丸君よ.」
凛と話しているのは赤毛の少年.
年は・・・凛と同じくらいだろうか.
彼は一通り凛と話した後こちらを向いた.
士郎「初めまして,俺は衛宮士郎.一応マスターってことになってる.」
藤丸「初めまして,藤丸立花です.」
自己紹介を受け,自己紹介を返す.
驚いたことに,彼もマスターだった.
まぁ,協力者というくらいだし,そんな気もしていたが.
凛「藤丸君は外部からのマスターなの.」
衛宮「なるほど,道理で見たことない顔だと思った.
ま,これからよろしく.」
凛の説明をうけ納得した顔の士郎に手を差し出され,握手に応じる.
凛「立ち話もなんだし,中で話しましょう.寒いし.」
士郎「一応俺の家なんだけど・・・まぁ,客人には違いないしな,どうぞ.」
凛の言葉を受けた士郎は,苦笑いをしながら俺たちを家に招き入れる.
外見は古いながらも,よく手入れされたいい家だ.
俺たちは士郎に案内され,居間に通された.
「シロウ,客人ですか?」
俺たちが入ってくる音を聞きつけてか奥から人が出てきた.
「ああ,リンでしたか,あと一人は・・・?」
奥から出てきた金髪碧眼の彼女は,凛と俺を交互に見る.
華奢で小さな少女ではあるが,少女からは普通の人とは決定的に違う何かが感じ取れた.
士郎は彼女の隣に立ち,彼女の紹介をする.
士郎「紹介するよ.彼女はセイバー,俺のサーヴァントだ.」
セイバー「セイバーです.宜しくお願いします.」
セイバーはそうあいさつすると,すでに紹介を済ませ座っていた士郎の横に座る.
俺も一応サーヴァントを見せておいたほうがいいか.
藤丸「ライダー,出てきてくれ.」
牛若丸「了解です,主殿!」
俺の呼び声に応じ,牛若丸が姿を現す.
藤丸「彼女はライダー,俺のサーヴァントだ.」
牛若丸「ライダーと申します.
主殿のお仲間である間は誠心誠意尽くさせていただきます故,どうぞよろしくお願いします.」
俺は牛若丸を紹介し,牛若丸はそう言ってお辞儀をする.
凛「そういえばまだ挨拶してなかったわね.へぇ,あなたもライダーなの・・・ま,いいわ.
さてと,お互いの紹介もある程度終わったところで,さっきの話を衛宮君にも教えておかなきゃね.」
凛は一瞬怪訝な顔をしたものの,すぐに切り替えてさっきの話を士郎に話し始めた.
ヘラクレスの十二の試練は凛のアーチャーが突破するということ.
しかしそれを行う際には自身を守っている余裕がないため,セイバーと牛若丸の二人でバーサーカーを押しとどめる必要があるということ.
そして万全の態勢で挑むため,アーチャーが回復するまでは極力戦闘を行わないということ.
凛「特に衛宮君,セイバーの消耗は容易に回復できないんだから,気を付けてよね.」
最後に凛がそう釘を刺し,席を立とうとしたそのとき
ドスン!
「■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!!」
車が事故を起こしたかのような大きな物音と,続いてうなる獣のような声が聞こえた.
凛「嘘,早すぎる・・・!!」
凛が絶望に近い顔で外に出ていき,俺たちもそれに続く.
すると玄関には・・・
「皆さんこんばんは」
白銀の少女と,それに対なすように黒い肌をした巨人が立っていた.
英雄ヘラクレスと,そのマスターである.
「あれ,リンとシロウだけじゃないのね.
かわいそう,運がないのね.一緒にいなければもう少し寿命が延びたのに.」
白銀の少女は俺を見てそうつぶやいた.
・・・あのセリフはきっと冗談じゃない.
「・・・やっちゃえ!バーサーカー!」
ヘラクレス「■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!!」
少女の号令を受け,ヘラクレスが全速で突っ込んでくる.
牛若丸「ちぃっ!」
牛若丸が応戦する.
敵の攻撃をすんでのところでかわしながら攻撃を加えるが,焼け石に水である.
ヘラクレス「■■■■ーーー!!!」
牛若丸「しまっ!」
ドスッ!
鈍い音を上げながら,ついにヘラクレスの横薙ぎが牛若丸に命中する.
牛若丸「がっ・・・はっ・・・」
藤丸「ライダー!!」
あまりの威力に吹き飛ばされた牛若丸に駆け寄ると,腹部からひどい出血をしていた.
バーサーカーはそんな牛若丸にさらに追撃を仕掛けようと飛びかかる.
藤丸「っつ・・・オシリスの壁!」
キィン!
俺は魔術礼装を展開,バーサーカーの攻撃をわずか一撃ではあるが止めることに成功した.
だが,もう魔術礼装は使えない.
そんな中,再び追撃を加えようとヘラクレスが迫ってくる―――!!
凛「バーサーカー!あんたのマスターがピンチだけどいいの?」
凛の声にバーサーカーは動きを止め,振り返る.
そこには,白銀の少女を拘束する凛と,剣を構えるセイバーがいた.
凛「ちょっと姑息だけど,まぁしかたないわよね!」
セイバー「すみませんお二人とも,私の反応が遅れたせいでこのような・・・」
士郎「大丈夫か,二人とも!!」
牛若丸が飛び出してくれたおかげで,三人とも無事だったようだ.
ほっと安心するのもつかの間,
ヘラクレス「■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!!」
雄たけびとともに,今度は三人の方へ突進を始めるヘラクレス.
セイバー「はぁああああ!!!」
それに真正面から立ち向かうセイバー
いくらセイバークラスでもそれは無茶だ・・・!!
ガキィン!!
セイバーの見えない剣とバーサーカーの剣のような何か.
両者の武器が正面からぶつかる.
セイバー「くっ・・・」
魔力放出により出力を上げていた最初はよかったものの,鍔迫り合いを続けるにつれセイバーが明らかに押されはじめている.
ダヴィンチ「藤丸君!メジェドの眼をセイバーに使うんだ!
ライダーはともかく,セイバーの魔力放出をうまく使えばまだやりあえる!
あの巨体だ,マスターが消費する魔力量を考えるとそう長時間は戦えないはず!」
ダヴィンチちゃんが通信を送ってくる.
俺はその指示に従ってセイバーへメジェドの眼を開いた.
セイバー「これは・・・!はあああああああああああ!!!」
藤丸「セイバー!悪いがあとは任せるぞ・・・!」
メジェドの眼の恩恵を受けたことにより再び魔力放出を展開し,バーサーカーを押し返すセイバー.
セイバーへメジェドの眼を開いたことですべての魔術礼装を使い切った俺は,牛若丸を抱きかかえた.
牛若丸「主殿・・・すみません・・・」
牛若丸の腹部からは,今も大量の血が噴出している.
・・・両断されていなかったことだけが救いか.
藤丸「今は喋らないで,傷に障る.」
牛若丸「・・・ありがとう,主殿.」
牛若丸はそう言うと,目を閉じ眠りについた.
サーヴァントの生命力は人よりずっと高い.
きちんと処置さえできれば十分生き残れるはずだ.
凛「イリヤスフィール!バーサーカーを止めなさい!さもないと・・・」
イリヤ「無駄よ.今日止めたところで,わたしはまた明日あなたたちを殺しに来るわ.
本当に止めたかったら今ここで,わたしを殺しなさい.」
凛が牛若丸の惨状をみて白銀の少女を脅すが,それも意に介さないといった風に白銀の少女は続ける.
彼女の言い分ももっともだ,あの化け物を止めるには,現状それしか手段がない.
・・・だがいいのか?俺たちが生き残るために少女を殺すことが許されるのか?
「そうか,ではここで,奴の息の根を止めねばな.」
凛が決意を固めかけたその時,その声とともに現れたのは
アーチャー「待たせたな,リン.
さて,化け物退治を始めよう.」
現状において奴を殺す唯一の手段であるアーチャーだった.
アーチャー「セイバー,そのままそいつを足止めしろ.
俺がとどめを刺す.」
アーチャーはそう言うと弓を構えた,矢として番えたのは,絶世剣デュランダル.
アーチャー「さて,反撃の始まりだ.」
その言葉とともに放った弓は,バーサーカーの頭に深々と突き刺さった.
ヘラクレス「■■■■!」
デュランダルが頭に突き刺さったことで数刻動きを止めたバーサーカー.
アーチャー「さて,次だ.」
アーチャーはその隙に2本目の矢を取り出す.
ヘラクレス「■■■■・・・■■■■■■■■ーーーーーーーー!!!!」
しかしヘラクレスもそうはさせないと狙いをアーチャーに変え,飛び掛かる.
セイバー「・・・っさせない!」
アーチャーへ飛び掛かるヘラクレスであったが,セイバーに妨害され狙いがそれる.
その背中を,アーチャーが再び射抜いた.
イリヤ「バーサーカー!」
白銀の少女が叫ぶ.
2射目を受けたバーサーカーは,1射目を受けた時と同様数刻動きを止めた.
アーチャー「もらった!」
自らの魔力を削り,矢を番え,放つアーチャー.
自らを盾に,アーチャーを守るセイバー.
自らの体を捨て,アーチャーを殺しにかかるバーサーカー.
三者の攻防は続いた.
ヘラクレスは強大だった.
2人の英霊を相手に一歩も引かず,セイバーとアーチャーに幾度となく攻撃を試みた.
一撃,たった一撃をアーチャーに与えるだけで勝てる.
―――そして,その時は訪れた.
バギッ!
セイバー「ぐっ・・・」
幾度となくバーサーカーの攻撃を受けて動きが鈍っていたセイバー.
彼女はついに十一度の死を迎えたヘラクレスから直撃を受ける.
セイバー「ここまで来て・・・すまない・・・」
倒れ伏すセイバー.
優勢がついに崩れた瞬間だった
アーチャー「クソッ・・・だが!」
アーチャーが最後の一矢を放つ.
が,しかし.
ヘラクレス「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!!」
ガキン!
咆哮と共にその矢を打ち落とすヘラクレス.
それと同時にアーチャーの場所に飛ぶ.
アーチャー「ここまでか・・・ッ!」
アーチャーはまだ矢の装填を終わらせていない.
万事休すかと思ったその瞬間.
士郎「さっせるかぁ!!!!」
凛「衛宮君!?・・・ああもう!!」
士郎と凛,二人のマスターがアーチャーをかばう様に立ちふさがった.
凛「衛宮君!絶対に正面から受けないで,なんとか受け流して!
無理かもしれないけど,できなきゃ死ぬだけよ!」
士郎「ああ!無茶は得意だ!」
ヘラクレス「■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!!」
ヘラクレスが彼らへ突進していく.
俺は・・・
牛若丸「主殿,暇を戴きます.」
その声で気が付く,牛若丸が俺の手から消えていた.
牛若丸「わが人生・・・受けてみよ!遮那王流離譚!」
SN鯖についてですが
アルトリアは剣を隠しているため気づかれないという設定があったのでエアを解くまではそのままで通そうと思っています.
ライダーについては序章で会っていたのを完全に失念してました,すみません.
あと石化については当初普通に石化させるつもりでしたが,牛若丸のステータス(魔力B,対魔力C)と
メドゥーサのキュベレイの性質的にワンパン石化はしないのかなぁと考えてスタンにとどめました・・・という言い訳です,にわかですみません・・・
結果を言えば,俺たちはあのバーサーカーに勝利した.
だがしかし,勝利の代償は大きかった.
セイバーは多くのダメージを受け,魔力放出を使いすぎたため魔力も大きくすり減らしている.
さらに,マスターからの魔力供給も受けられない状態らしく,回復に相当時間がかかるとのこと,
アーチャーはダメージこそ受けていないものの魔力の枯渇が著しい.
ランクA相当の宝具を複数扱っていたから当然であるが,しばらくは実体になるのも厳しいようだ.
そして牛若丸は・・・
凛「肉体的ダメージに加え無理な魔力使用での魔力枯渇.
サーヴァントとして存在しているのが奇跡なレベルね.」
看病を終えた凛がふと言葉を漏らす.
藤丸「・・・イリヤスフィール?だっけ,あの娘は?」
凛「衛宮君が面倒を見ているけど・・・かなり消耗しているみたいね.」
凛はそう言うと部屋から出て行った.落胆している俺に気を使ってくれたのだろうか.
牛若丸の状態は凛が言ったとおりだった.
腹部の傷は深く,内臓もいくつか破損している.
そしてほとんど休みなしでサーヴァントとの3連戦.
挙句の果てには宝具真名開放での魔力枯渇.
特異点への旅の際は,このような傷もカルデアからの魔力供給があったが故耐えられていた.
しかし,現在カルデアからの魔力供給はない.
俺個人の魔力では到底補いきれない損傷だ.
ダヴィンチ「いや,そんなことはないよ.」
藤丸「ダヴィンチちゃん・・・どうしたんですか?」
突然入ったダヴィンチちゃんの通信.
ダヴィンチちゃんは申し訳なさそうに続けた.
ダヴィンチ「先に伝えておくけれど,ごめんなさい.
ちょっと私が出しゃばりすぎたせいでこれ以上のアドバイスはできなくなってしまった.
試練にならないって魔術協会の人間に怒鳴られてしまったよ.
だから最後のアドバイスだ,よーく聞いてほしい.
キミのその手に刻まれた令呪,それは魔力の結晶だ.
それを解放することで,キミはサーヴァントに膨大な魔力を分け与えられる.
その力・・・今のキミこそ,使うべきなのではないかい?
それじゃ,幸運を祈ってるよ.」
ダヴィンチちゃんからの通信をうけ,腕の令呪を見る
絶対命令権,監督権としての令呪.
しかし凡人である俺に,彼らを監督することはできない.
であればこれは,彼らを助けるために使うべきであろう.
藤丸「令呪解放,霊基復元.」
すっ・・・と.
令呪のうち一画が音もなく消え去り,彼女はゆっくりと目を覚ます.
牛若丸「・・・あ,主殿?」
藤丸「牛若丸・・・!!」
牛若丸「そうですか・・・私,主殿を守れたのですね・・・!」
無傷の俺を見て安堵した牛若丸から流れた暖かい涙.
これでやっと,俺たちの勝利だ.
第二章 完
ダヴィンチ「はぁ・・・」
藤丸君との通信を終わらせた私は,この状況に思わず嘆息する.
藤丸君を冬木に向かわせたことは失敗だった.
こんなことにも気づけなかったなんて,ロマニに聞かれたら笑われてしまう.
奴らが消そうとしているのはあの時代の3人の力ではなく藤丸君の方だった.
ダヴィンチ「ロマニに合わせる顔もないな・・・」
・・・だがまぁ,これで終わるダヴィンチちゃんじゃないさ.
あいつら,私を使える駒程度に思っているんだろうけどそうはいかない.
天才が天才たるゆえんを見せてあげようじゃないか!!
第三章【死が二人を分かつまで】
セイバー「私は反対です.」
牛若丸と同様の方法でセイバーの霊基を修復し,魔力が少々回復したアーチャーに無理を言って再び話し合いの場を設けた六人.
そこで俺は,本当の目的である大聖杯の破壊を皆に告げた.
凛「ま,いいんじゃない?その話が本当なら,そんな聖杯必要ないし.」
アーチャー「私も構わんよ.
生憎聖杯に掛ける願いなど持ち合わせていないからね.」
アーチャーがこのように同意してくれ,あとは士郎とセイバーだけだったのだが・・・
セイバー「私は聖杯にかける願いを持った上で聖杯戦争へ参加しています.
命の恩人であるフジマルには悪いですが,これだけは受けられません.」
このように真っ向否定だ.
取り付く島もないとはこのことだろうか.
士郎「セイバー,この聖杯じゃセイバーの願いはセイバーの望む形では叶わないかもしれないんだぞ.
それでもいいのか?」
セイバー「元より叶わないはずだった願いです.私は機会があるのであれば,その可能性に掛けてみたい.」
士郎の問いに,セイバーははっきり答える.
まぁ,おそらくこれが正しいサーヴァントの感性であろう.
アーチャーの目的は不明だが,聖杯に掛ける願いもなく聖杯戦争に参加するサーヴァントというのは,稀な存在なのではないだろうか.
士郎「・・・と言っているけど,どうする?」
士郎はついにお手上げといったように俺たちに話を振ってきた.
凛「衛宮君次第よ.もし衛宮君が私たちに賛同するなら,こういう場合令呪で言うことを聞かせるものだけど・・・」
セイバー「仮に令呪を使った場合,私の力は半分ほどしか発揮できなくなるでしょう.
私は常に命令に抗い続けようとしますので.」
凛「らしいわよ.
どうするの,衛宮君」
凛は士郎を見る.
凛はアーチャーを令呪で縛っているが,そこのところはどうなのだろうか.
アーチャーは,何も言わずに座っている.
士郎「俺は・・・」
士郎は悩んだ後,顔を上げた.
士郎「俺は・・・セイバーの意思を尊重したい.」
顔を上げた士郎は,セイバーに同意する旨の回答を出した.
その目に宿る意志は固い.
凛「・・・ふぅ~ん?
で,その理由は?」
凛の追求に対して,士郎はきっぱりと答えた.
士郎「俺は,特に願いなんてものは持ち合わせていない.
だとしたら,俺はセイバーのために戦いたい.
俺の声に答えてくれた,セイバーのために戦いたい.」
セイバー「シロウ・・・」
凛「・・・そ.」
凛はふぅと一息つくと
凛「邪魔したわね,衛宮君.
行きましょ,アーチャー,藤丸君
・・・次会ったときは,もう言わなくてもわかるわね.」
そう言って出て行ってしまった.
それに続いてアーチャーは無言で霊体化する.
藤丸「・・・」
牛若丸「主殿,行きましょう.」
牛若丸に促され,俺もその場を立ち去ろうと席を立った.
衛宮士郎とセイバー.
次に会うときに,果たして俺は彼らに刃を向けられるだろうか.
凛「さてと.」
外に出ると,もうすっかり朝になっていた.
凛「一度解散しましょうか.
藤丸君,なんだかんだで全く休んでいないんでしょ?」
藤丸「確かに・・・」
指摘され気づくが,倦怠感が尋常ではない.
凛「最大の脅威であるバーサーカーは倒した以上,今日一日休んだところで大きく状況が動くことはないと思うわ.」
凛の言葉で,俺は残りのサーヴァントを思い出す.
剣士,セイバー
弓兵,アーチャー
槍兵,ランサー
魔術師,キャスター
暗殺者,アサシン
このうちセイバー,アーチャー,アサシンはすでに遭遇済みであるが・・・
藤丸「キャスターとランサーについて,何か情報はないのか?」
別れる前に,一度情報の共有をするべきじゃないかと考えた俺は,そんな疑問を口にした.
凛「その言い方・・・アサシンについては情報を握っているみたいね.」
彼同意見だったのか,俺の話に食いつく凛.
どうやらこの反応からすると,情報を握っていないわけではなさそうだ.
凛「そうね,じゃあ私の家で少し情報交換しましょうか.休息はそのあとでいいかしら?」
この提案に対し俺は二つ返事でうなずき,凛の家に向かった.
凛「なるほど・・・アサシンのサーヴァントは佐々木小次郎,か.」
俺の情報を聞いた凛は,何かを考える.
凛「佐々木小次郎ってあれよね,宮本武蔵と戦った人.」
藤丸「ああ,一度戦ったが,相当な剣の使い手だった.」
俺は当時の状況を思い出せる限り鮮明に話す.
話が進むほど,どんどんと凛の顔が険しくなっていった.
凛「宝具じゃなくて剣技かあ・・・純粋に高い技量,っていうのも厄介ね.」
ふぅ,と一度深呼吸して,凛はこっちを向いた.
凛「ありがとう.じゃあ,次はこっちの番ね.
私たちはランサーと1度戦闘をしているわ.
今回のランサーは文字通りの槍兵,素早く間合いを詰め,その槍を的確に心臓に突き立ててくる.
人柄は遊びや油断が一切ない,優秀な兵士って印象よ.
特徴はとにかく足の速さ,俊敏性ね.あと,あのランサーには射撃が効かないわ.
近接戦闘が可能な私のアーチャーだから何とかしのげたけど,普通のアーチャーだと成す術なくやられるかもしれないわね.
・・・総評すると,とにかく一対一が強いサーヴァント,そういう感じかしら.」
凛はそこまで話すと,ふぅと一息つく.
凛「少し疲れたわね.続きは明日にしましょう.」
凛はそう言って目をこする.
お互い,そろそろ限界のようだ.
藤丸「ありがとう.じゃあ,また明日.」
凛「お疲れ様,まだ戦争は続いているわ.
くれぐれも気を付けてね.」
そう言って凛の家を後にしようとしたところで
ぐらり,と.
世界が反転する.
藤丸「あ,やば・・・」
牛若丸「主殿!!」
牛若丸の声をどこか遠くで聞きながら,俺はそのまま倒れこんだ.
藤丸「ここは・・・」
ふと目覚めると,俺は見慣れない部屋にいた.
見慣れない部屋にいること自体は特異点への旅で慣れているのだが,いかんせん眠る前の記憶がはっきりとしない.
牛若丸「主殿!」
目を覚ました俺に気が付いた牛若丸が駆け寄ってくる.
そんな牛若丸を眺めながら,眠る前の記憶を手繰った.
藤丸「そういえば俺,気を失って・・・」
凛「気を失って,玄関で倒れたのよ.相当疲労が溜まってたみたいね.」
俺の言葉を遮るようにそう言って,部屋に入ってきたのは凛.
そうか,ここは凛の家の一室か.
藤丸「ありがとう,迷惑掛けたね.」
凛「いいわよ,あなたのサーヴァントには助けられたし,これでおあいこ.」
俺の謝罪など意にも介さないといった風に手を振った凛は,
凛「じゃ,起きたんならさっさと昨日の続きよ.」
とだけ言うと部屋から出て行った.
牛若丸「主殿,お体は大丈夫でしょうか?」
牛若丸が心配そうに見上げてくる.
ボロボロになって消えかけていた牛若丸に心配されるなんて,やきが回ったな.
藤丸「じゃあ,そろそろ・・・」
凛「藤丸君!ちょっと来て!」
そろそろ出ようと思ったところで,何やらただ事じゃない様子の凛に呼ばれる.
凛「霊体化した状態のアーチャーに町の偵察を頼んでるんだけど,昨日から集団で意識を失う事件が相次いでるみたい.
・・・おそらくサ―ヴァントの仕業よ.」
凛の話によると.
サーヴァント・・・
俺は気絶していた自分を悔いる.
凛「ついにほかのサーヴァントたちも動き始めたってことね.
残ってるサーヴァントから考えて,おそらくキャスターの仕業でしょう」
藤丸「そうだな・・・」
俺は力なく答える.
そんな俺を見かねたのか
凛「・・・はぁ.
別に藤丸君が気にするようなことでもないでしょ.
それに,幸いまだ死者は出てない.
つまり・・・叩くなら今なんじゃない?」
凛はそう言い俺の背中をたたいた.
彼女並みに励ましてくれるんだろうか.
藤丸「・・・そうだな.」
今ならまだ間に合う.
だったらできることは一つ.
藤丸「―――キャスターを倒す.」
ダヴィンチ「さて・・・」
私は,奴らにばれないように秘密裏に進めていた計画をついに実行に移す.
幸い彼らのことは常に観測しているから,彼らがこれを受け取れるように座標を指定することは容易い.
・・・藤丸君の介入で,歴史が大きく変わってしまった.
すでに間桐慎二,イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの両名が生存したうえで聖杯戦争から脱落している.
この時点で両名が生存していた世界線は存在しない.
このままだと未来がどうなるか・・・
ダヴィンチ「最低でも,藤丸君には勝利して聖杯を破壊してもらわないとね.
歴史を変えてしまったのは仕方がないし,であれば,あとは彼の未来を保証してあげないと.」
私は誰に告げるでもなくそうつぶやくと,送信を開始する.
ダヴィンチ「藤丸君・・・人理は守られた.次は,自分を守る番だね.」
凛「アーチャーの偵察で,キャスターが柳洞寺にいることはわかっているわ.」
凛に連れられ,キャスターの根城へ急ぐ俺たち.
気づけば,最初にアサシンと戦った階段の前に来ていた.
そしてそこにはやはり
小次郎「また来たか.」
アサシン―――佐々木小次郎がいた.
柳洞寺と呼ばれるこの場所の話を聞いたときに,なんとなくそんな気がしていた.
・・・アサシンとキャスターが手を組んでいると.
小次郎「一人で勝てないからと仲間を連れてきたようだな.」
小次郎は横で構えるアーチャーを見据えて言う.
凛「悪いけどあんたに用はないの.卑怯で悪いけど二人掛かりで―――」
牛若丸「いえ,あなたとは私が1対1で勝負します.」
凛の言葉を遮り,牛若丸が構える.
凛「はぁ!?アンタ馬鹿なの!?一度負けた相手なんでしょ!?」
凛が牛若丸を怒鳴るが,牛若丸は答えない.
・・・どうやら,牛若丸の意思は固いようだ.
凛「はぁ・・・行くわよ,アーチャー」
牛若丸を説得するのが無駄だと悟ったのか,凛はアーチャーとともに足を進める.
小次郎「私は門番,そう簡単に通せるわけがなかろう.」
威嚇のように小次郎は刀を抜くが,凛は歩みを止めない.そして
小次郎「行くぞ.」
ダッ!
藤丸「・・・ライダー!」
牛若丸「承知!自在天眼・六韜看破!」
小次郎が踏み込んだタイミングで牛若丸が宝具を展開.
宝具の力で小次郎は階段下,俺たちは階段上,門の前へと移動させられる.
凛「・・・死ぬんじゃないわよ.」
転移が済んだ彼女はそう言い残すと,アーチャーとともに寺の中へと消えていく.
小次郎「この門を通すとは少々侮ったか.
―――であれば,本気を出さざるを得ないな.」
小次郎は感心したように一言告げると,刀を構えた.
奴の奥義,燕返しの構えだ.
これが出た以上,彼に油断はない.
小次郎「いざ・・・参る!」
その声とともに小次郎は駆ける.
牛若丸「壇ノ浦・・・八艘飛び!」
それに応じるように,牛若丸も宝具を展開,階段という不安定な足場をものともせず超スピードで階段を下っていく.
二人が間合いに入るまであと―――
小次郎「間合いの差で私の勝ちだ,死ね.」
牛若丸が間合いに入ったその刹那,小次郎が魔剣を展開する.
・・・回避不能の魔剣.
藤丸「魔術礼装,オシリスの壁!」
これらが三連撃の魔剣だったら防ぐことは不可能であっただろう.
しかし,三つの斬撃が「全く同時」なら,牛若丸の体すべてをたった一瞬守るだけでいい.
小次郎「な・・・すべて体で受け,なぜ倒れん!?」
最後の一撃が入るその刹那,牛若丸はほんの一瞬だけいたずらっぽく笑った.
牛若丸「私は一対一で戦うといったな.
・・・すまぬ,あれは嘘だ.」
ズバッ,と.
牛若丸が放った横薙ぎの刀は,確かに小次郎の命を刈り取った.
藤丸「遠坂さん!」
凛「・・・遅かったわね.」
俺たちが門をくぐると,そこではキャスターとアーチャーが激しい戦いを繰り広げていた.
アーチャー「・・・ぬん!」
キャスター「・・・はぁ!」
アーチャーの矢とキャスターの魔術が激突し,周りに大きな衝撃波を放つ.
凛「もうすぐ終わるわ.
あのキャスター,魔力の大部分を失っているみたい.」
凛の言葉通り,キャスターは魔力切れを起こしているのか,肩で息をしていた.
アーチャーにも疲れが見えるが,彼は事前の準備である程度魔力の消費を抑えられるとのこと.
お互いの一発の消費量から見るに,キャスターの敗北は明確だった.
キャスター「宗一郎様・・・私・・・」
最後の一撃と思しき魔術を打ち消されキャスターが力を失いかけたその時,背後から声がした.
「騒がしいな,何事だ.」
キャスター「は・・・!?」
気が付くと,背後に見慣れないスーツの男性が立っていた.
牛若丸「マスター,お下がりください!」
牛若丸が男と俺の間に割って入る.
男は感情のこもらない目で俺たちを見て,キャスターを見た.
思わぬ闖入者に,あのアーチャーまでもが攻撃の手を止めている.
「これは・・・お前の敵か?」
俺たちを一通り見渡しぼそり,と男が呟く.
キャスター「宗一郎様!ここからお離れください!ここは危険です!」
それに応えキャスターが叫ぶ.
宗一郎「そうか,つまり彼らは敵・・・なのだな」
宗一郎と呼ばれた男はキャスターの声を聴くと,見たことのない構えで,牛若丸に対峙する.
男のことを宗一郎様と呼ぶキャスター,お前の敵という物言い,おそらく彼はキャスターのマスターなのであろう.
・・・ということは,つまり.
藤丸「人間,なのか・・・?」
俺のその言葉に答えぬまま,宗一郎は牛若丸に襲い掛かった.
牛若丸「ぐ・・・!」
突然の奇襲に,牛若丸は成す術もなく敵の攻撃すべてを受けてしまう.
・・・が.
牛若丸「驚いた,あなたがサーヴァント,あるいは私が人間なら,私は殺されていた.」
・・・やはり彼は人間だったのだ.
すべてを受けなお無傷である牛若丸はそう告げると,刀を抜く.
キャスター「貴方・・・やめなさい!!!」
叫び声とともに,キャスターから魔術が飛んでくる.
既に魔力が枯渇しているキャスターは,自身の体を犠牲に魔力を抽出しており,彼女には,既に腕がなかった.
アーチャー「・・・ぬん!」
彼女が決死の思いで放つそれを,アーチャーがすんでのところで打ち落とす.
そして牛若丸は,そんな二人など意に介さないかのように宗一郎に近づき,
「許せ.」
彼を峰打ちで沈めた.
キャスター「ああ・・・宗一郎様・・・」
既に半身を失いながらも宗一郎に駆け寄り,息がある宗一郎を見て安堵するキャスター.
彼女は最後の力で宗一郎に口づけをし.
「・・・ありがとうございました,愛しの貴方.」
そうささやいて,キャスターの姿は消え失せた.
アーチャー「よかったのか?」
戦闘を終えたアーチャーがそう問いかける.
殺さなくてよかったのか,ということだろう.
藤丸「一人でも多くの人を救うことが,今回の目的だからさ.」
俺はそう言って宗一郎を見る.
・・・確かに,宗一郎を殺せば,宗一郎自身は救われたのかもしれない.
しかし,彼を殺すと,きっとあのキャスターは救われないだろう.
あるいは,どちらでも変わらないのかもしれない.
ただ・・・最後のキャスターのあの笑顔は,俺がしてきたことにきっと意味があったんじゃないか,と.
そう思わせる笑顔だった.
だから俺は
藤丸「救いの概念なんて人それぞれ.
だったら俺は俺のエゴで,人の「命」を救うことにするよ.」
生き残った人間がどんなにその時絶望しても,きっと前を見て進みだすことができる.
人間はそんな強さを持っていると思うから.
アーチャー「そうか.好きにしたまえ.」
俺の言葉を聞いたアーチャーはそう告げると,
アーチャー「魔力を使いすぎた.リン,先に戻っているぞ.」
凛「あ,ちょっとアーチャー!」
彼は一足先に霊体化して消えていった.
凛「もう・・・じゃ,先に戻ってるから.
また後で,私の家に来て.」
アーチャーの奔放な態度に呆れたのか,そう言って凛も戻っていった.
俺も戻ろうと思ったところで,倒れている宗一郎に気が付く.
・・・あいつら,宗一郎のアフターケアから逃げたな?
牛若丸「主殿・・・どうされますか?」
藤丸「寺に預けて帰ろう.彼に対して俺たちができることはないと思う.」
俺は牛若丸にそう告げると,彼を二人掛かりで寺の母屋へ運び,その場を後にした.
柳洞寺を出たところで,物資の補給が届くとの連絡が入った.
どうやら柳洞寺がこの近辺の龍脈だったらしい.
少し待っていると,見慣れたボックスが一つ届いた.
牛若丸「開けてみましょう.」
ワクワクする牛若丸とともに,箱を開けてみる.
中には生活必需品が複数と,あとは・・・
牛若丸「?なんでしょうこれ・・・」
牛若丸が取り出したのは,小さな指輪.
カルデアからの支給品だし,魔術礼装の一種だろうか.
そう思って試しにつけてみると・・・
ダヴィンチ「やぁ!」
突然,途絶えていたはずのダヴィンチちゃんからの通信が入った.
ダヴィンチ「おっと,声は出さないでくれよ.
一応スタッフたちには伝えてあるけど,さすがに一人でぶつぶつ言ってたら上層部に隠しようもないからね」
そう前置きした後,ダヴィンチちゃんは続ける.
ダヴィンチ「その指輪は君の脳内に直接呼びかけるための装置さ.
魔術協会の彼らの眼を逃れるために急造ながら作ってみたんだ.
ただ,残念ながら君の心を読めるほどの代物にはできなくてね・・・
キミが声を出せない以上そちらの望む情報を提供するということができない.
でもそれでも敵サーヴァントの情報については可能な限りサポートするつもりさ.
実のところ,彼らは君を試練にかこつけて君を殺そうとしている.
でも私は絶対にそれを許さない,全力でキミを守るつもりだ.」
ダヴィンチちゃんはそういうと,最後にはいつもの調子で
ダヴィンチ「なーに,いつも通りこの天才にドーンと任せなさい!」
そう言いながら,いつものように笑っている彼女の姿が脳裏に浮かんだ.
・・・ありがとう,ダヴィンチちゃん.
第三章 完
続きは明日です.
いろいろと突っ込みありがとうございます!
突っ込み
途中で送信してしまいました,すみません
いろいろと突っ込みありがとうございます!
Fateの知識もSSの知識も乏しい自分ですので,いろいろとご指導いただければ助かります.
ID変わってますが>>1 です
みなさんご意見ありがとうございます.
サーヴァントについては,最初自由に出し入れできると聖杯戦争のバランス的にどうか・・・と思いこの設定にしたのですが,それだと藤丸立花である意味がないというのはごもっともな意見だと思いました.
ただ,書き直しに関しては,ひとまずこれをで書き上げた上で,よりFate/GrandOrderのシステムに近いものを描けるようトライしてみようと思います.
(半端なものでも書き上げることが大事だとおもうので)
具体的には
・特異点1~7で出会ったサーヴァントたちを召喚可能(SNで召喚されているサーヴァントとまったく同一のものは除く(例:三章のヘラクレス))
・サーヴァントは召喚サークルにいるときのみ自由に切り替えられる,なお連れて歩けるのは1体まで.(藤丸の魔力量を考えたうえで)
冬木の霊脈は柳洞寺にありますが,柳洞寺を取る=キャスターとアサシンを倒すということなので柳洞寺以外の場所に置くべきか柳洞寺に置くべきかを悩んでいます.アイデアいただけると嬉しいです.
・藤丸の魔力のみを利用するためカルデア召喚時に比べ各ステータスがワンランク落ちる(宝具は据え置き).
・魔術礼装はカルデア(瞬間強化,応急処置,緊急回避を各一日に一回)
という設定を考えております.
「ここがおかしい!」とか「この設定が必要!」「この設定は不要!」というものがあれば意見いただけると幸いです.
Fate/GrandOrderの醍醐味であるクロスオーバーに関してもかなり重要な要素で,これを抜かしたのは大きなミスだったと書きながら感じています.
(FGOらしさが全然ないなぁというのは,私自身痛感しております.)
これについても次回は各サーヴァント(自分,他人の問わず.)別霊基での情報として記録が蓄積しているという形に,また藤丸に関しても特異点上で接触したサーヴァント(イベント除く)を覚えており,彼らと接触した際には何かしらのリアクションを取るようにするつもりです.
(例:ライダー「・・・あなたは気づいていないでしょうが,私とあなたは既に出会っているのですよ,カルデアのマスター.」
藤丸「メドゥーサってことはお前,アナ・・・なのか?」)
人類史を救った藤丸の抹殺については本文中での説明が不足していましたが,協会側は人類史を救うほどの大事を成した藤丸の力を恐れており,彼が偉大な魔術師になってしまう前に潰してしまおうという発想のもと始まっています.(完全に妄想です,異論はあるかと思いますが見逃していただければと思います.)
最後となりましたが,つたない文章を読んでレスをつけてくださり,ありがとうございます.
アドバイスはできる限り生かしていこうと思いますので,気になることがあれば遠慮なく指摘していただけると嬉しいです.
では,本編は今夜更新します.
第四章【宣戦布告】
凛「ランサーを倒すわ.」
凛の口から,次なる方針が発表された.
残るサーヴァントであるランサーとセイバー.
そのうちのランサーを先に始末するという話だ.
凛「セイバーは強力なサーヴァントだけど,幸いなことにマスターである衛宮君との魔力のパスが通ってない.
だから彼女は長期戦でじっくりと少しずつ削るべきなのよ.
そのためには,まず後顧の憂いを立って置くべきと思うの.」
なるほど.
以前話していた,「セイバーの消耗は容易に回復できない」というのにはこういうカラクリがあったのか.
凛「それに,前にも話したと思うけど,ランサーは一筋縄ではいかない相手なの.
射撃はスキルでほぼほぼ避けられるし,近接戦闘の技術も疑いようのない一流.
そしてすべてのサーヴァントの戦いを見た今だから言えるけど,彼は今回召喚された英霊の中で最も”戦闘に慣れた”英霊といってもいいわ.
佐々木小次郎が”一流の剣士”,キャスターが”一流の魔術師”であるなら,彼は”一流の槍兵”といったところね.
戦況を把握する力,純粋な戦闘力,相手に対する遠慮の無さ,そして潔さ.
そのどれを取っても一級品よ.」
凛が改めて冷静にランサーを分析する.
一流の兵士・・・か.
藤丸「そんなに強力なサーヴァントを,どうやって相手取るんだ?
俺のライダーと凛のアーチャーで二対一とはいえ,アーチャーの支援が意味をなさない以上アドバンテージは大きくないと思うんだけど・・・」
仮に牛若丸とアーチャーが歴戦のコンビであったら話は変わるんだろうけど,そうではない.
まだ出会って日が浅い二人がコンビを組んだところで,お互いを邪魔するだけで終わってしまう可能性も少なくはない.
凛「問題はそこなのよね・・・
せめて誰なのかわかれば話は違うんだけど・・・」
俺の問いに凛はため息を返す.
どうやら彼女も有効な策を思いついてはいないようだ.
ダヴィンチ「ふっふーん,であればこのダヴィンチちゃんの出番だね!」
俺たち二人が苦い顔でうなっているところで,満を持してといった様子でダヴィンチちゃんが現れた.
ダヴィンチ「さっき彼女が語った情報を総合した結果,敵の英霊に心当たりが出来たんだ.」
それはすごい,天才の面目躍如といったところだろうか.
俺がそんなことを思っているのを知ってか知らずか,ダヴィンチちゃんは詳細を語りだす.
ダヴィンチ「最初に出会ったサーヴァントに見覚えがないせいですっかり失念していたが,そこは特異点F,冬木なんだ.
となると,現れるサーヴァントに同一性があってもおかしくない.
事実としてそこのアーチャー,そして君たちが倒したライダーは特異点Fにいたシャドウサーヴァントと似た姿をしているしね.
となると,ランサーは特異点冬木にいたサーヴァントではないかと私は予想を立てた.
ただ,あそこにいたランサーは武蔵坊弁慶,しかし彼は遠距離攻撃を無効化するスキルなどは持っていない.
じゃあ違うじゃないかって?慌てない慌てない.
・・・実はね,あそこにはもう一人槍兵がいたんだよ.
マスターとして未熟だったキミとマシュを支えてくれた英雄,あのオーダーにおける最初の協力者.
―――光の御子,クーフーリンがね.」
その言葉で俺は彼のことを思い出す.
・・・厳しくも優しく,俺たちを導いてくれたあの英雄を.
ダヴィンチ「光の御子,クーフーリンといえば,彼の愛槍ゲイ・ボルグの逸話は有名だろう.
影の国で彼が修行をしたのち,師匠であるスカアハから譲り受けた魔槍ゲイ・ボルグ.
その特性は事象を歪め,相手の心臓に命中する結果を確定したのちに槍を放つ,不可避の魔槍だ.
そんな宝具を持つ彼は,先ほど彼女が言った特徴にも一致する.
戦闘に長けたアルスターの戦士であり,矢除けの加護という遠距離攻撃を無効化するスキルを有している.
特異点Fに彼がいたことも考えるとおそらくは間違いないだろう.」
ダヴィンチちゃんが間違いないといった風に告げる.
ダヴィンチちゃんのの話が続く中,彼とのつながりを思い出す.
そういえば,黒化した彼と戦闘をしたこともあったな.
・・・待て,最強の槍兵に,俺は既に一度勝っているじゃないか.
アメリカの地で出会った仲間とともに,正面から戦って.
藤丸「・・・そうだ.」
何をうじうじ悩んでいたのだろうか.
俺はいつだってそうだったじゃないか.
凛「・・・何かつかんだみたいね,藤丸君」
気づけば凛が俺の顔を見ていた.
彼女とアーチャーだって,今では立派な仲間だ.
だったら,あの時と一緒だ.
藤丸「ランサー・・・クーフーリンは,正面から倒す!」
ご意見ありがとうございます.
指摘がありました通り,神霊は現界させないつもりです.
理由としてはパワーバランス的な問題とそもそも藤丸の魔力量の問題が大きいです.一部を除いて純粋に強すぎますし,藤丸一人では宝具を使えるだけの魔力を回せると思えないという理由ですね.
あと記憶に関してですが,以前の召喚時の情報は座に戻った時点で記録として収集される,という設定があったと思うので当事者意識はないけど藤丸というマスター,そして彼の成したことは知っている.という風な形にするつもりです.(設定に誤認があったらすみません.その際は指摘いただけると嬉しいです.)
凛「クーフーリン・・・
確かに彼がそうだとすれば,すべて説明できるわね.」
俺の言葉を聞いた凛がなるほどといったように頷く.
凛「それに,正面から戦うというのもいい案だと思うわ.
彼のゲイ・ボルグは怖いけど,それと同じくらい彼のルーン魔術も怖いし.
こっちの企みがバレて対策する暇を与えてしまうとかえって不利になりかねないわ.」
確かに,以前の冬木で,彼はかなり高等な魔術を使っていたように思う.
ダヴィンチ「キミのその発想は正しいよ.
クーフーリンという英霊はとにかく回りくどいことが嫌いだ.
仮に君たちがそういう手段に出た時,彼がどう出てくるか想定ができない.
と,なると,正々堂々正面からねじ伏せるというのは,最悪手のような最善手なんだ.」
ダヴィンチちゃんからも賛同を得られた.
これで決まりだろう.
凛「仮にランサーがクーフーリンとするなら.ランサーもセイバーも,一般の市民に被害を与えるようなサーヴァントじゃないわ.
今日一日は休んでしっかりと魔力を回復して,そして明日・・・ランサーを倒しましょう.」
方針は決まった,戦いは明日だ.
凛「さて,私は準備をするわ.
クーフーリンは,あのバーサーカーに負けずとも劣らない英霊だし.
藤丸君も,準備は怠らないでね.」
凛はそう言って何かを並べだす.
・・・そうだな,彼の怖さは俺自身痛いほど知っている.
準備のし過ぎということはないだろう.
牛若丸「...主殿,一つ,質問があります.」
対クーフーリン戦の準備をしようと思ったところで,牛若丸が声をかけてきた.
振り返ると神妙な面持ちで俺を見る牛若丸と目が合った.
藤丸「どうした?
何か不安なことでもあるのか?」
牛若丸の只ならぬ様子に困惑しつつ応答する.
そんな俺の問いに,牛若丸は首を横に振る.
牛若丸「い,いえ!主殿に対して不安はありません.
・・・私が質問したいのは,先ほどのダヴィンチ殿との会話です.」
そう言われて得心が行く.
俺とパスがつながっている以上,魔力を介して転送されてくるダヴィンチちゃんとの会話が届いたのだろう.
そして牛若丸は,ダヴィンチちゃんの話で出てきた,かつて自分の従者であった武蔵坊弁慶の身を案じているのだ.
藤丸「武蔵坊弁慶とは,この冬木で戦ったよ.
その時,彼は既にシャドウサーヴァントだったけれど・・・」
牛若丸「そうですか,彼が・・・」
牛若丸は俺の言葉を聞くと俯いてしまった.
従者がシャドウサーヴァントになってしまった,ということに思うところがあるのだろう.
・・・もしかして.彼女はそれに対して追い目を感じているのだろうか.
藤丸「特異点Fでは,セイバーであるアーサー王に敗北した彼を含め複数のサーヴァントが,シャドウサーヴァントとなり彼女に仕えていたんだ.
アーサー王の聖杯を回収するつもりだった俺たちは,その道中で彼と戦うことになった,というわけだ.」
牛若丸「・・・そうですか.
倒されて,ということは,自分の意志ではないのですね.」
そういうと.牛若丸はすっきりしたように顔を上げた.
彼女の顔にもう陰りはない.
牛若丸「それならもう,大丈夫です.
自分の僕が主殿に対し粗相をしていたのなら,主殿の力になる資格がない,そう思いました.
ですが,杞憂だったようですね,安心しました.」
彼女はにっこりと笑う.
その目には,純粋な思いが込められている.
牛若丸「私の憂いは消えました.
あなたの剣として,貴方の道を切り開きましょう.」
一日経ち,クーフーリンとの決戦の日の夜.
凛「準備はいい?」
俺は凛の言葉に黙って頷く.
ランサーの位置はダヴィンチちゃんがすでに特定してくれている.
・・・いや,戦いが好きな彼のことだ.
あえて位置を明かしているのかもしれない.
藤丸「・・・いこう!」
迫りくる戦いに気合を入れ,俺たちはまっすぐ彼の位置へと移動を開始した.
ランサー「よう,遅かったじゃねぇか.」
たどり着いたのはかつてライダーと戦った学校のグラウンド.
やはり,彼はそこで待っていた.
クーフーリン「今更言葉はいらねぇよな.
・・・じゃあ,始めようぜぇ!」
クーフーリンは言葉を終えるや否や,とびかかってきた.
さぁ,小細工なしの戦闘開始だ.
藤丸「アーチャー!ライダー!まずは距離をとれ!
奴のゲイ・ボルグは発動した時点で終わりだ!」
俺の言葉を聞いた二人はクーフーリンと一定の距離を取りながら左右に分かれる.
クーフーリン「ほう・・・宝具が割れてるってことは,俺の真名も割れてるってことか?
そのうえで正面から掛かってくるとは,おもしれぇじゃねぇか」
クーフーリンはククッと笑うと,槍を構えなおす.
クーフーリン「ランサー,クーフーリンだ.
・・・その心臓,貰い受ける!」
その言葉とともに,ランサーの槍が形状を変える.
最初からトップギアということだろう.
凛「・・・早い!」
構えたクーフーリンが飛んだ先にはアーチャー.
まずは能力をある程度把握しているアーチャーを倒すつもりなのだろう.
・・・予想どおりだ.
アーチャー「・・・干将莫邪!」
ガキン!
二本の刀を取り出し,応戦するアーチャー.
クーフーリン「捉えたぜ!」
射程範囲内に入ったアーチャーに対し,宝具を展開しようとするクーフーリン.
その背中をめがけ,
牛若丸「隙ありッ!」
縮地を用いた高速移動で接近していた牛若丸が切りかかった.
クーフーリン「うぉっ!あぶねぇ!」
素早く宝具の展開を解除し,飛んで逃げるクーフーリン.
牛若丸はそれを逃さず追撃を仕掛ける.
ガキン!
空中で回避行動がとれず,牛若丸の刀を槍の柄で受け止めるクーフーリン.
そのクーフーリンを狙って,アーチャーが切りかかる.
クーフーリン「ぐっ・・・!」
アーチャーの双剣が,クーフーリンの背中を切り裂く.
傷そのものはまだ浅いが,確実に優勢だ.
クーフーリン「くそっ!そっちの女剣士,なかなか早いな・・・!」
一度体制を立て直すべく,距離を取るクーフーリン.
そして,彼を挟むように左右から様子をうかがうアーチャーと牛若丸.
クーフーリンが宝具を展開できず,且つお互いがお互いのサポートができるぎりぎりの距離を取る.
これは・・・勝てるんじゃないか?
クーフーリン「仕方ねぇ,初めて見るサーヴァントもいることだし,ここは引くか.」
そうつぶやいたクーフーリンが撤退の姿勢に入る.
は?
いやいや・・・ここで逃げられるとまずい.
奴は戦術においても間違いなく一流だ.
この程度の戦術など,次の戦いではもう通用しないだろう.
凛「っ・・・」
口には出さないものの,凛からも焦りが見て取れる.
どうする・・・
アーチャー「フッ・・・口ほどにもないな.」
不意に.アーチャーがそんなセリフを口にする.
クーフーリン「・・・あ?」
その言葉に,撤退の足を止め反応するクーフーリン.
アーチャー「口ほどにもないと言ったんだよランサー.
光の御子,クーフーリンともあろうものがこの程度とは,正直拍子抜けだよ.」
やれやれ,と.
アーチャーは頭を振る.
クーフーリン「・・・気が変わった,テメェは殺す.殺したうえで退いてやる.」
クーフーリンの槍が再び戦闘態勢に入る.
先ほどとは比べ物にならない殺気を放ち,槍を構えるクーフーリン.
彼はその場で,槍に怒りと魔力を込める.
ダヴィンチ「まずい!クーフーリンを止めろ!ゲイ・ボルグが来る!」
バッ!
ダヴィンチちゃんの言葉が終わると同時に,クーフーリンが飛んだ.
・・・真上に.
ダヴィンチ「彼のゲイ・ボルグは本来投げ槍なんだ!
武器を失うことになる以上簡単には使わないと高をくくっていたが・・・
クソ,完全に油断していた!」
・・・投げ槍.
クーフーリン「この一撃,手向けと受け取れ!突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ!)」
叫びとともに彼の手から,アーチャーへ向け槍が放たれる.
放たれた槍は無数に枝分かれし,アーチャーに襲い掛かる.
藤丸「くっ・・・魔術れいそ―――」
アーチャー「必要ない,熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!」
ゲイボルグを防ぐべくオシリスの壁を展開しようとする俺を遮り,花の形を模した盾を展開するアーチャー.
ダヴィンチ「ローアイアスだって!?
彼はギリシャの英雄アイアスだったのか!?」
ダヴィンチちゃんが驚きの声を上げる.
アーチャー「何をしている!
そこのランサーは今最大の武器を失っている!倒すなら今だろう!!」
牛若丸はその言葉を聞き,クーフーリンへと切りかかる.
クーフーリン「・・・チッ,そういうことかよ!」
クーフーリンは,高速で接近してくる牛若丸をルーン魔術で迎撃する.
牛若丸はそれらを受けながらもスピードを緩めず,ランサーとの距離を詰める.
散々挑発を繰り返していたアーチャーの目的は,自らを盾に奴を丸腰にすることだったのだ.
あえて俺のオシリスの壁を遮ったのは,おそらく少しでも長い間槍を自分のもとにとどめることが目的だったからだろう.
アーチャー「ぐっ・・・」
おそらく最終兵器であろう彼の盾を持ってしても,最大出力のゲイボルグを抑えきることはできない.
彼の盾である花の花弁は一枚,まだ一枚と削れていく.
アーチャー「決めろ!ライダー!」
牛若丸「はぁぁぁぁ!!!」
パリン.
ランサーの最後の一枚が割れると同時に,牛若丸がクーフーリンに致命的な一撃を与えた.
×ランサーの最後の一枚が割れると同時に,牛若丸がクーフーリンに致命的な一撃を与えた.
〇アーチャーを守る花弁の最後の一枚が割れると同時に,牛若丸がクーフーリンに致命的な一撃を与えた.
クーフーリン「ちっ・・・まずっ・・・たか・・・」
クーフーリンが仰向けに倒れる.
刀で胴を両断されまだ消滅しないあたり,相当な耐久力だ.
凛「アーチャー!!」
ゲイボルグを受け,血だらけのアーチャーに駆け寄る凛.
アーチャー「私は問題はないよ,凛.
防げないようならこんな無茶はしないさ.」
心配して駆け寄る凛の声に,アーチャーはいつものやれやれと言いたげな顔で答える.
どうやら,アーチャーの方は,出血が見られるものの消滅するほどの傷ではなさそうだ.
クーフーリン「・・・あいつも残っちまったか,俺も焼きが回ったもんだ.」
舌打ちをし,唾を吐くクーフーリン.
彼は悔しそうに告げるが,その顔はどこか晴れやかだった.
クーフーリン「なぁ,お前さん,カルデアのマスターだろ?」
ふと,クーフーリンが俺に声をかけてくる.
クーフーリン「わかっちゃいるだろうが,お前と旅をしたのも,お前と戦ったのも別の俺だ.
だが,その記憶は記録として共有されてるし,お前が成し遂げたことを俺は知っている.
・・・まぁ,なんだ.あくまで部外者である俺が言うことじゃねぇかもしれねーが・・・よくやったな,お前さん!」
クーフーリンが大きな声で笑う.
敵でもあり,ともに戦った仲間でもある彼のねぎらいに,思わず泣きそうになる.
クーフーリン「それと・・・ありがとよ.正面から戦いに来てくれてよ.
おかげで,結構楽しかったぜ.
・・・まぁ,二対一はちっと卑怯だと思うがな!」
お礼を言いたいのに言葉を出せないでいると,逆にお礼を言われてしまった.
いやそんなことは・・・
言いたいのに,言葉が出ない.
彼は豪快に笑うと,別れの挨拶を告げた.
クーフーリン「・・・あの赤いのは気に食わねぇが,お前さんのサーヴァントにやられたんなら,まぁしょうがねぇってことだ!
じゃあな!」
藤丸「クーフーリン!俺は・・・」
俺が感謝を伝える前に,彼の体が消滅する.
最後まで豪快に,彼は消えていった.
アーチャー「・・・終わったかね.」
応急処置を終えたアーチャーと凛がこちらへやってくる.
俺たちを待っていてくれたということは,彼なりに気を使ってくれたのだろう.
アーチャー「あの青いサーヴァントとは少々縁があってね.
多少私も体を張ったが,君が倒してくれて助かったよ.」
アーチャーが珍しく礼を言ってくることに驚く.
そんな彼の顔も,消える前のクーフーリン同様どこか清々しかった.
アーチャー「特異点で負けた借りは返したぞ,クーフーリン.」
誰に向けるわけでもなく告げられたその言葉は,聞かなかったことにしておこう.
そう考え,帰ろうと校門を向いたその時,校門に人が経っていることに気が付く.
真夜中の校門に立っていたのは,黄金の鎧を着た男であった.
彼の姿を見ただけで,思わず冷汗がどっと出てくる.
「この程度の雑種ごときに後れを取るとは,所詮は威勢だけの駄犬か.」
男は特に興味もなさそうに告げると,つかつかとこちらへ歩みだした.
あのような黄金の男を誰かと間違えるはずがない.
藤丸「ギルガメッシュ・・・!!」
現れたのは,災害ともいえる存在.
すべての宝具の原点の所持者.
―――英雄王,ギルガメッシュだった.
第四章 完
最終章【人理改変】
ギルガメッシュ「さて.」
ギルガメッシュがこちらへ歩いてくる,
アーチャーはゲイ・ボルグで負傷しており,戦えないだろう.
藤丸「ライダー!」
牛若丸「承知!」
奴の戦い方から考えて,気取られる前に動かないと勝ち目はない.
俺は奴の唯一の弱点である慢心を突き,牛若丸に奇襲をかけさせる.
ギルガメッシュ「雑種如きが,温いわ.」
が,そんな奇襲も意に介さないというように,宝物庫から取り出した刀でそれを退け,
ギルガメッシュ「失せよ.」
返す刀で宝物庫のから宝具の雨をたたきつける.
牛若丸「が・・・ぐっ・・・」
牛若丸は射程から逃れるためにこちらへ離脱するが,彼の宝具の雨のすべてを回避しきることはできず,傷を負ってしまう.
ギルガメッシュ「他愛もない.」
ギルガメッシュは宝物庫から宝具を抜き,傷を負った牛若丸に近づく.
藤丸「やめろ!!!」
とっさに,俺は牛若丸を庇い前に出る.
こうしたところで殺されるとわかっていても,体が自然に前に出ていた.
ギルガメッシュ「邪魔だ,失せよ雑し・・・」
意外なことに,ギルガメッシュが障害物を切り捨てようと剣を構え俺を見たところで動きが止まる.
ギルガメッシュ「・・・不思議な縁も或るものよ.」
彼はぼそりと何か言うと手にした武器をしまい,
ギルガメッシュ「興が冷めた.」
一言放ったのちに踵を返し,元来た道を帰っていった.
凛「そう,つまりあなたは,既に彼らと出会っていたのね.」
ギルガメッシュが立ち去った後,俺はものすごい勢いで説明を求める凛にすべての事情を打ち明けた.
牛若丸は現在アーチャーが面倒を見てくれている.
凛「世界を救った,というのはなんだが眉唾な話だけど.
まぁあの金色のサーヴァントやランサーと知り合いである当たりまんざら嘘でもなさそうね.
・・・あなた,実はすごい魔術師なの?」
凛はそう言いながら,俺の顔をまじまじと見る.
今更ではあるが,彼女はものすごく美人であり見られることに少々の恥じらいを感じる.
藤丸「俺の話はもういいだろ,で,どうするんだ?」
俺は恥ずかしさのあまり顔をそらし,話題を変える.
どうするんだ,とはもちろんあの英雄王のことだ.
あの危険な存在を,まさか放置するわけにもいかないだろう.
凛「英雄王,ねえ・・・
正直,あらゆる宝具を扱う英霊なんて規格外すぎ.
対策も何も浮かばないわよ.」
これに対し,凛はアーチャーの真似をし,首をすくめる.
・・・まぁ正直な話,完全に同意見だ,あんな化け物に対策も何もあったもんじゃない.
凛「まだ敵が残っている以上,聖杯の解体に取り掛かるわけにもいかないし・・・困ったわ.」
アーチャー「それに,敵はギルガメッシュだけではないぞ.」
凛の言葉を遮り,牛若丸の手当てを終えたアーチャーも話に加わる.
そうだ,忘れていたがまだセイバーも撃破できていないのだ.
問題山積,会議は明日まで終わらなさそうだ.
アーチャー「・・・さて,最後の仕上げだな.」
ふと,対策会議の中そう言ったアーチャーの顔は,今までに見せたことがない悲壮な表情だった.
凛「ダメ・・・
全く対抗策が浮かばないわ,」
会議を始めてから数時間,有効な策が出ることもなく,俺たちはただただ時間だけを浪費していた.
藤丸「いっそあいつは無視して,大聖杯を解体してしまうのはどうだ?」
凛「それは無理.
今回の聖杯戦争における七騎のサーヴァントはすでに出揃っているの.
となると,彼は藤丸君のライダーと同じで,あの聖杯で呼び出されたサーヴァントじゃない可能性が高いわ.
そして仮にそうなら,聖杯を解体してアーチャーという戦力を失うのは得策じゃないし.」
凛のいう通りだ.
あの英雄王に対してこちらの戦力が牛若丸一人では,勝つ見込みが少ない.
彼の有能さ,万能さは古代ウルクで嫌というほど経験しているのだから.
ダヴィンチ「英雄王ギルガメッシュ.
彼のことが書かれているギルガメシュ叙事詩は,世界最古の文学と言われており,すべての英雄の原点と言われる所以はそこにある.
彼の特徴と言えば,バビロンの宝物庫内に彼がため込んだ無数の宝具だ.
・・・正確には宝具の原典というべきかもしれないけど,どちらにしても脅威であることには変わりない.」
凛「・・・セイバーに助力を頼むしかないのかしら.」
俺が改めてダヴィンチちゃんからの説明を受け終わったところで,凛がひっそりとつぶやく.
たしかに,サーヴァント3人がかりならいかに英雄王といえど簡単には倒せないだろう,だが.
藤丸「そもそも,セイバーは協力してくれるのか?」
凛「そこなのよねぇ・・・
彼女たちとは目的が正反対である以上,協力を取り付けるのは容易じゃないわ.
ギルガメッシュの話だって,彼女たちが信じてくれるかもわからないし.」
俺の問いに更に難しい顔をする凛.
確かに,イレギュラーな存在である俺たちを知っているとしても,さらにもう一人サーヴァントがいるという話は彼女らにとって眉唾物だろう.
場合によっては奇襲するための罠だと思うかもしれない.
凛「ま,この案はひとまず置いておきましょ.
ほかには・・・侵入者!?」
ドカン!
突然話を止めた凛が叫ぶと同時に,遠坂邸に響く突然の爆発音,そして・・・
「リン!」
噂をすれば影,というか.
土煙の中現れたのは,件のセイバーであった.
セイバー「先ほど,突然サーヴァントに襲撃されました.
辛くも撤退させることはできましたが・・・シロウが連れ去られてしまいました.
・・・私の力が足りないばかりに.」
ギルガメッシュの指定した場所へと急ぐ途中,事情を話したセイバーは悔しそうに告げる.
ギルガメッシュはあの後,セイバーたちに接触しにいったのだろう.
セイバー「敵の名はギルガメッシュ.
私とは少々因縁のある相手で,彼はシロウを盾にある条件を提示しました.
・・・聖杯の泥を飲み干すことで受肉し,彼の妻になれ,と.」
セイバーから,信じられない言葉が飛び出す.
サーヴァントが受肉するだって?
それに・・・聖杯の,泥?
凛「聖杯の泥・・・?」
セイバー「はい.
聖杯の泥とは,聖杯の中に満ちる邪悪な魔力のことです.
前回の聖杯戦争で,彼は私が破壊した聖杯からあふれた泥を被り消滅した,はずでした.」
凛「けど,アイツは生きていた.」
セイバー「はい,言動から察するに,彼は本当に前回の聖杯戦争で受肉しているようです.」
俺が口を挟む間もなく,凛とセイバーが話を続ける.
彼女らの話をまとめると,前回の聖杯戦争に敗退したはずのギルガメッシュが,受肉し肉体を得たうえで再び姿を現した,ということか.
あいかわらずチートすぎるだろう,あいつ・・・
ダヴィンチ「驚いた.
聖杯の泥,というワードも気になるがそれ以上に,それを飲み干して受肉するとは・・・規格外にもほどがある.
・・・聖杯の泥か,少し調べてみるよ.」
話を聞いていたダヴィンチちゃんがそう告げて通信を切ったところで,俺たちは目的地の教会へとたどり着いた.
ギルガメッシュ「待ちくたびれたぞ,セイバー,それに・・・」
町はずれの教会,その入り口前に奴は立っていた.
ギルガメッシュはセイバーにそう告げると次に俺を見た.
ギルガメッシュ「藤丸・・・だったか.
成し遂げたのだな,貴様は.」
ギルガメッシュは表情の読めない顔でそうつぶやいた.
その顔に,以前ウルクで出会ったギルガメッシュ王とが重なる.
やはり彼にも,ウルクのときの記録が残っているのだろうか.
ギルガメッシュ「何を驚いている.
我とて人の心を持ち合わせていないわけではない.
我がウルクでの勝利を共に祝った者に,何も思わんわけがなかろう.」
ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている俺にそう告げるギルガメッシュ.
やはりそうだ.
彼は,間違いなくウルクで共に戦ったあのギルガメッシュ王だった.
藤丸「ギルガメッシュ王,それは・・・」
伝えようとした感謝,しかし続きが出てこない.
あの場で伝えきれなかった様々な言葉は,しかしすべて喉元で止まってしまう.
ギルガメッシュ「・・・気が変わった.」
そんな俺を見た彼は何を思ったのか,一言だけそう告げると.
ギルガメッシュ「この町にも,雑種どもにも興味はないが・・・貴様にはいまだ尽きぬ興味がある.
―――今度は我が,貴様に手を貸してやろう.」
急転直下,驚きのあまり言葉も出ない.
ギルガメッシュ王は,なんと俺に力を貸すと申し出てきたのだ.
アーチャー「馬鹿な!?」
誰よりも先にリアクションをとったのはアーチャーだった.
そりゃそうだ.
こんな状況誰だって驚く,俺だって驚いてる.
アーチャー「何を考えている,ギルガメッシュ.
仮に彼に手を貸すのなら,セイバーを嫁にするという話はどうするんだ?」
アーチャーの問いにフハハと笑うギルガメッシュ.
アーチャー「・・・何がおかしい.」
ギルガメッシュ「いや,なんだ.雑種とはつくづく下賤なことを考えるものだと感心してな.」
ギルガメッシュの応答を受け,態度が変わるアーチャー.
そんな彼の態度など意に介さないかのようにギルガメッシュは続ける.
アーチャー「・・・何?」
ギルガメッシュ「なるほど,それはそうだ.
正面から殺すより,後ろから殺すほうが何より楽とは,いかにも雑種らしい発想だ.
―――貴様,我が先ほど連れてきた小僧を殺す気であろう.
否,それこそが貴様の目的なのであろう?」
次々に信じられないことを口にするギルガメッシュ.
全てを見通す千里眼を持つ彼は,直近の未来訪れる出来事を予見したのだろう.
その言葉の真偽は,焦りを浮かべるアーチャーの顔を見ると明白だった.
凛「衛宮君を殺すって・・・どういうこと!?」
ギルガメッシュ「簡単な話よ.
彼奴が此度の聖杯戦争に参加した理由は,ひとえにあの小僧を殺すため.
彼奴からすれば,ここであの小僧を殺せれば勝ち負けなどどうでもよいのだろうよ.」
ギルガメッシュの言葉を受け,アーチャーに詰め寄る凛.
遠坂凛という少女は,魔術師であるが同時に人間でもある.
きっと彼女は,理由のない殺しや,関係ない人間を巻き込むということを何より嫌うだろう.
アーチャー「・・・」
凛「”答えなさい!”アーチャー!」
沈黙を貫くアーチャーにしびれを切らしたのか,凛は令呪によるギアスで回答を強制させる.
令呪による命令には抗えないのか,アーチャーはぽつぽつと語り始めた.
アーチャー「かつて.衛宮士郎は世界を救うべく自らの全てを差し出した.
多くの人を守るために,多くの人を殺した.
しかし,一人の正義の味方だけでは,世界は何もかわらなかった.
争いを諫めたはずの彼は,争いの元凶として処刑された.
とすれば彼に残が残したものはなんだ?
彼が残したのは・・・多くの人間の屍のみだ.
お前のせいでと罵られながら処刑された彼は,きっと世界にとって悪であったのだろう.
であれば,その悪が大きく,深くなる前に,私は奴を殺す.」
彼が語ったのは,未来の話だ.
この後衛宮士郎がたどる運命.
そしてそれを語る彼は,きっと・・・
凛「・・・それって.」
アーチャーはそれ以上は何も語らず,ギルガメッシュを見る.
ギルガメッシュはそんな彼の主張を一蹴した.
ギルガメッシュ「下らん,善悪の判断など雑種如きに下せるものではなかろう.」
アーチャー「・・・そうだな,だからこれは,きっと私のエゴなのだろう.
―――私は私のために,衛宮士郎を殺す.」
その言葉を最後に,アーチャーが弓を構える,
それは,俺たちに対する決定的な敵対を示していた.
アーチャー「凛,止めたいのなら躊躇わず令呪で私を殺したまえ.」
凛「私は・・・」
凛は,アーチャーの話,アーチャーの決意を聞いたことで迷っているようだ.
ギルガメッシュ「構えよカルデアのマスターよ.
其方の女はともかく,貴様は相も変わらず雑種どもを救うためにここにやってきたのだろう.
であれば,ここで小僧の命一つ,守ってみせよ!」
・・・自分は拉致しておいて,よくいったものだ.
藤丸「ライダー!」
ギルガメッシュに促されるように,俺は牛若丸を呼ぶ.
呼び声に応じた牛若丸は俺の前に立ち,刀を構える.
セイバー「この場は私も助太刀します.
・・・共にアーチャーを倒しましょう.」
牛若丸の横に並び立つセイバー.
俺たちは弓を構え,距離をとるアーチャーを見据える.
アーチャー「・・・いくぞ!」
いうや否や,アーチャーは矢を取り出し,自らの弓に番えた.
アーチャーが弓に番えたのは,矢と呼ぶにはあまりにも歪な,捻じれた剣.
アーチャー「偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」
躊躇のない一撃,それはマスターである俺たちに向けられていた.
牛若丸「くっ,主殿!」
セイバー「リン!」
完璧な一撃だった..
カラドボルグは着弾点を中心に周りの空間を捩り,削る.
回避,あるいは防御しなければ一撃で戦闘不能になりうる攻撃だ.
牛若丸の最大の防御である「弁慶・不動立地」,俺の「オシリスの壁」は,いずれも一人しか守れない.
そして様子を見る限り,セイバー,凛の二人には防御手段がない・・・!
ギルガメッシュ「・・・ふん,カラドボルグ,これか?」
そんなピンチを救ったのは,ギルガメッシュだった.
彼は宝物庫から取り出した宝具をアーチャーが放ったカラドボルグにぶつけ相殺した.
ギルガメッシュ「ふははははは!真っ向からでは勝てないからと,自らのマスター諸共マスターを殺しにかかるか!
よほど必死と見える.」
アーチャー「チッ・・・」
ギルガメッシュの妨害で奇襲が失敗に終わったアーチャーは顔をしかめる.
ギルガメッシュ「セイバー,あとはライダー,だったか.
人間どもの子守りは我に任せよ.」
ギルガメッシュが二人のサーヴァントにそう告げる.
二人は無言でうなずき,アーチャーに向き直った.
アーチャー「もはや,出し惜しみしている場合でもないか・・・」
奇襲を退けられたアーチャーから膨大な魔力が発せられる.
仕掛けてくる・・・!
「I am the bone of my sword. 」
牛若丸「させん!」
切りかかる牛若丸,その攻撃は空中から降ってきた多数の剣により中断される.
「I have created over a thousand blades. 」
セイバーが切りかかるが,これも防がれる.
「Unknown to Death.」
目を閉じ,呪文の詠唱を続けるアーチャー.
中断を試みるが,そのことごとくを退け,彼は唱える.
「Nor known to Life. 」
彼の詠唱が進むにつれ,彼が世界を徐々に浸食していく
「Have withstood pain to create many weapons. 」
浸食され,暗転した世界は,広大な荒野へと変わっていく.
無数の刀が付きたてられた荒野.
「Yet, those hands will never hold anything. 」
そして,その中心でアーチャーは
「So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. 」
ただ俺たちを見据えていた.
彼がゆっくりと手を挙げる.
すると,荒野に刺さっていた無数の剣が彼の頭上に浮遊する.
スッ・・・
その手をこちらに向けると,無数の剣は一斉にこちらに襲い掛かった.
ギルガメッシュ「ちっ・・・!
人間は引き受ける!サーヴァントは己の力で何とかせよ!」
ギルガメッシュが,俺たちの前に幾重にも宝具を重ね叫ぶ.
アーチャーはギルガメッシュを見て皮肉っぽく笑うと,
アーチャー「その程度で防ぎきれると思ったか?」
彼は再び手を振り上げる.
その言葉を告げた彼の背には,再び並べられた無数の剣がこちらを向いていた.
ギルガメッシュ「・・・雑種がぁ!!!」
そこからは先はまさしく壮絶だった.
お互いがお互いの宝具を打ち落としあう死闘.
隙を見てセイバーや牛若丸がアーチャーに切りかかるも,一瞬で宝具の一つを手に取り往なし,反撃を仕掛ける.
三騎のサーヴァントを抑え込むアーチャーの実力,それはまさしく圧倒的だった.
が,しかし.
アーチャー「ぐっ・・・」
そのアーチャーの顔が苦悶に歪む.
おそらくこの固有結界が彼,衛宮士郎の宝具なのだろう.
これだけの空間を維持し続けるのには相当な魔力量が必要となる.
凛「アーチャー!もう・・・!」
アーチャーが血を吐き,凛が叫ぶ.
飛んでくる宝具の数も減っている.
誰から見ても,彼はすでに限界だった.
それでも彼が宝具を展開しているのは,ひとえに彼の執念からだろう.
ギルガメッシュ「・・・藤丸よ,彼奴をどう思う.」
アーチャーの宝具を打ち落としながら,ふと,そんな疑問を投げかけてくるギルガメッシュ.
彼はこう続けた.
ギルガメッシュ「王たる我には,奴の気持ちは理解できん.
で,あれば,奴を救えるのは・・・人理を救った英雄.
カルデアにおいて正義の味方である,貴様だけではないのか?」
アルトリアについて,彼女が特異点の記録を持っていないのには,SNでの彼女はまだ座に至っていない人間であるから,というのが私なりの理由です.
解釈が正しいかはわかりませんが,座に至っていないアルトリアはほかのアルトリアと記録を共有できないのではないか,と考えています.
(そうなるとメドゥーサはなんで記憶を持ってないんだって話になると思います.完全にミスです,すみません.)
藤丸「俺が・・・?」
ギルガメッシュ「貴様は本物の正義の味方であろう.
であれば,貴様の存在そのものが奴にとっての理想になりうるはずだ.」
そういえば・・・以前にアーチャーに聞かれたことがあった.
宗一郎,キャスターのマスターを殺さなくてよかったのか,と.
つまり,これは・・・
藤丸「・・・」
俺は一歩,前へ踏み出した.
依然としてアーチャーの宝具は降り注いでいるが,そんなものはどうでもいい.
牛若丸「お送りします,主殿!」
俺には,頼もしい仲間たちがいるのだから.
アーチャー「何のつもりだね?」
すっかり弱り切ったアーチャーのもとへ,一歩,また一歩と近寄っていく.
空中の宝具はギルガメッシュが,打ち落とされ降ってきた宝具は牛若丸がはじき,道を開いてくれる.
藤丸「アーチャー,正義の味方になるためすべてを差し出したといったな.」
一本の剣が俺の頬をかすめる,
アーチャーからの最後通牒だろう.
・・・それがどうした.
藤丸「逆なんだよ.アーチャー.
俺たちは,一人じゃ何もできない.
そんな一人分のすべてを差し出したって一緒なんだよ.」
俺は,アーチャーのしてきたことを真っ向から否定する.
藤丸「一人じゃ何もできないから,手を取るんだ.
一人じゃ戦えないから,仲間を作るんだ.
一人じゃ手が足りないから,みんなでみんなを支えるんだ.」
これは,俺が特異点をめぐるうちに見つけた一つの答え.
かつて英雄と呼ばれた彼らだって,一人だとあっという間に破れ,消えてしまう.
俺とマシュだって,二人だけだったらきっとこの冬木の特異点ですでに敗れ去っていただろう.
でも,多くの人に支えられ,多くの人と助け合ってきたからこそ,人理を救う英雄になれた.
俺とアーチャーの,決定的な違いはそこだ.
藤丸「アーチャー,正義の味方を目指したお前は間違ってない.
ちょっとアプローチを間違えただけだ.
そしてそのミスは,今の衛宮士郎はまだ取り返せる.」
俺は最後に彼を肯定し,そのうえで否定した.
アーチャー「・・・詭弁,だな.」
彼は力なくそう答える.
気が付くと宝具は消え去り,場所は元の教会前へと戻っていた.
藤丸「ああ,詭弁さ.
でも・・・俺は世界を救ったぞ,アーチャー.」
アーチャー「・・・フッ,そこを突かれると痛いな.」
俺の言葉に,アーチャーは笑みを返す.
彼の足元は,既に消え去っていた.
アーチャー「・・・凛.」
消えゆくアーチャーが,自身のマスターを呼ぶ.
凛「なに?」
アーチャー「オレ・・・いや,衛宮士郎を頼むよ.
奴は一人だと選択を間違えがちだからな.」
凛「・・・任せなさい,しっかり矯正してあげるわ.」
凛の言葉を聞き満足したのか,一度だけいつものように笑うと,
エミヤ「・・・やれやれ」
サーヴァント,アーチャーは気怠そうに,だがどこか満足そうに座へと帰っていった.
ギルガメッシュ「世界を救った,か.
・・・ふははははは!!!
やはり貴様は面白いな.」
アーチャーが消えた後,ギルガメッシュが笑う.
これは彼なりの賛辞なのだろうか.
凛「英雄王,衛宮君はどこなの?」
凛がそう問いかける.
任された以上,無下にはしない.
遠坂凛はそういう人間なんだろう.
だからこそ,アーチャーは自身を彼女に任せたのだろう.
ギルガメッシュ「ああ,小僧なら・・・」
「彼なら,ここだよ.」
ぞわっ・・・と.
ギルガメッシュの話を遮った声を聴き,全身が総毛だつ.
ギルガメッシュ「なんだ,言峰か.」
声のするほうを向くと,神父と士郎がそこに立っていた.
士郎の方は立ってはいるもののこちらを見ようとはしない.
ただ立っているだけなのに何か不吉なものを感じる彼に対し,俺はひそかに警戒を強める.
言峰「いやはや,よくやってくれた.」
言峰と呼ばれた神父は,俺たちに向けて拍手をする.
サーヴァントではない人間であろう彼からは,しかし人間とは思えない不吉が漂っていた.
俺は奴の一挙手一投足に目を光らせる.
言峰「かくして,聖杯戦争は終結.勝者はそこのセイバーというわけだ.」
彼はセイバーを指し,彼女をたたえる.
言峰「よかったな,セイバー.
10年越しの悲観がようやく叶うではないか.」
凛「アイツは言峰綺礼.
この聖杯戦争の監督役よ.
ついでに言うと,10年前の聖杯戦争にも参加してる元マスターよ.」
凛が耳打ちしてくる.
どうやらこの聖杯戦争は,あの言峰という神父が仕切っているようだ.
言峰「ではいこうか.すでに聖杯は用意してある.」
歩き出す言峰,しかしその聖杯はまっとうな聖杯ではないはず.
藤丸「待ってください.」
俺は彼を呼び止める.
もし彼がそれを知らないとしたら,それを伝えればきっと聖杯の解体に手を貸してくれるはず.
言峰「なんだね,見慣れないマスター.」
言峰が振り返る,
その顔から表情は読み取れない.
藤丸「この冬木の聖杯は狂っています.
通常の聖杯であれば,泥,と呼ばれるものをまき散らすはずがありません.
事実このギルガメッシュ王は,一度聖杯の泥にのまれかけています.」
俺は彼にそう伝える.
しかし,彼は眉一つ動かさず
言峰「それがどうした.」
と言い捨てた.
・・・やはり彼は,すでに聖杯が狂っていることを知っていたのだ.
言峰「10年前は不幸にも聖杯が破壊されてしまったため,あのような事態に陥ってしまった.
それは事実である.が,それはあくまで,行き所を失ったエネルギーが泥という形で放出されたに過ぎない.
そのうえ,聖杯の願望機としての力はいまだ健在である.
・・・であれば,勝者に使用の権利をゆだねるのは当然だろう?
なぁ,衛宮士郎?」
そう言って言峰が士郎を見る.
士郎はうつろな目のままゆっくりと口を開く.
嫌な予感が全身を駆け巡る.
士郎「・・・俺は,聖杯を使って,10年前の聖杯戦争をなかったことにする.」
言峰「・・・と,いうことだ.」
士郎の一言に,俺と凛が凍り付く.
士郎「俺はセイバーの願いをかなえて,そのあと10年前の聖杯戦争の存在そのものをなくす.」
再び士郎が繰り返す.
セイバー「そういうことでしたら.」
士郎の言葉を聞いたセイバーが,士郎のそばへ移動する.
これにより,俺と士郎・セイバーとは完全に袂が分かたれた.
藤丸「くっ・・・行かせはしない!」
再び教会へと歩みを進める二人を止めるべく,俺は牛若丸とともに走る.
セイバー「行かせはしません!」
・・・しかしそれは,セイバーが放った斬撃に止められる.
セイバー「シロウ,先へ進んでください.
私は彼らを撃退し,すぐに後を追います.」
セイバーが立ちふさがる.
セイバーに促され,再び教会へと足を進める二人.
が,思わぬ障害に二人は足を止めた.
ギルガメッシュ「・・・であれば,我の出番か.」
二人の前に立ちふさがっていたのは,ほかでもないギルガメッシュだった.
言峰「ギルガメッシュ・・・貴様.」
ギルガメッシュ「安心せい.殺したりはせん.
貴様らの覚悟とあの男の覚悟,どちらが強いかを見せてもらうだけよ.」
静かに怒りをあらわにする言峰に,ギルガメッシュがそう告げる.
口ではそう言いながらも,あれは彼なりの協力の姿勢なのだろう.
言峰「・・・よかろう.
衛宮士郎,最後の試練だ.
聖杯戦争を勝ち上がってきたマスターとサーヴァントを葬り,自らの力で過去を変えるのだ!」
言峰のその言葉とともに,最後の戦いが幕を開けた.
サーヴァントの性能では,おそらくセイバーの方が高い.
・・・となると,俺には自分が持つ3つの魔術礼装をフルに生かすことが要求される.
セイバー「はっ!」
彼女の戦い方は幾度となく目にしている.
魔力放出を用いた爆発的加速と強烈な斬撃.
下手な防御は防御ごと切り捨てられるようなそんな一振りだ.
牛若丸「せいっ!」
対して牛若丸は,ヒット&アウェイを基礎とする一撃離脱戦法.
縮地で距離を詰め一撃を与え,撤退して様子を見ることを繰り返す.
キィン!
既に牛若丸の攻撃は幾度となくセイバーを襲っているが,彼女はひるむ様子を全く見せない.
その理由は,彼女がその第六感ですんでのところで攻撃をそらしているためだ.
そしてついに
セイバー「もらった!」
牛若丸「っ!!!」
攻撃を防がれ,返す刀での致命的な一撃が牛若丸を襲う.
牛若丸「なんの!喜見城・氷柱削り!」
その攻撃が当たるすんでのところで,牛若丸が宝具を展開する.
回転により攻撃をそらし,そのまま反撃に移る.
セイバー「くっ!」
牛若丸の奇襲を受けたセイバーは肩口に傷を負い,思わず後退する.
セイバー「・・・これで決めます.」
傷を負ったことで何かが切れたのか,彼女はそう言うとまとっていた風を解放し,自らの剣を解き放った.
吹きすさぶ疾風から現れたのは・・・聖剣,エクスカリバー.
セイバー「マスターを狙う,ということには抵抗があります.
・・・がしかし,既に手段を選んではいられません.」
聖剣エクスカリバーを携えた彼女がそう言い放ち,その聖剣に魔力を集中させる.
彼女は,特異点Fで冬木の大聖杯を守っていたのと同じ・・・
藤丸「アー・・・サー・・・」
騎士王アーサー,その人であった.
牛若丸「・・・」
牛若丸の顔が険しくなる.
そうだ,彼女は特異点Fにてアーサー王が弁慶を倒していることを知っている.
武蔵坊弁慶は彼女の一番の従者であるだけに,彼を倒した相手,というものには思うところがあるのだろう.
アーサー「この一撃で,マスター諸共貴方を吹き飛ばします.
既に逃げることは不可能です,
・・・あきらめるつもりはありませんか?」
牛若丸にそう呼びかけるアーサー.
彼女の聖剣はすでに魔力で光輝いており,いつでもとどめの一撃を俺たちに加えることができるのだろう.
牛若丸「・・・笑止.」
牛若丸はアーサーからの最後通牒ともとれる発言を切り捨てる.
牛若丸「主殿は,カルデアの力を用いてすべてを防ぐ魔術が扱える.
であれば,主殿の身の安全が保障されている以上,この牛若が引くわけにはいくまい!」
牛若丸はそう言うと迷いなくセイバーに飛びかかった.
牛若丸「我が人生,受けてみよ!遮那王流離譚!」
アーサー「来るというのであれば,遠慮はしません.エクス・・・カリバー!」
宝具を展開し,超スピードで接近する牛若丸.
間合いまであと一歩,というところで聖剣が振り下ろされる,
当然俺は・・・
藤丸「魔術礼装,オシリスの壁!」
持てる限りの魔力を持って,牛若丸を守った.
・・・そりゃそうだろう.アーサーを倒せば俺たちの勝ちだ.
たとえ俺が死んでも,あとは凛と牛若丸が再契約してくれれば聖杯の破壊は遂げられる.
オーダー,完遂だ.
ギルガメッシュ「相も変わらず・・・我使いの荒い男だ・・・!」
アーサーの聖剣を受け消え去ったかに思えたその時,目の前に立ちふさがる一人の男がいた.
藤丸「ギルガメッシュ!どうして・・・!?」
あの英雄王が持ちうるかぎりの盾を惜しみなく展開し,また自身も壁になって俺を守っていた.
ギルガメッシュ「決まっていよう・・・!
此度貴様に協力したのはウルクで俺の国を守った礼.
そしてこれは,我のモノである人理を救った礼よ・・・!」
その理由は,世界全てが自分のものであるという彼らしい理屈だった.
牛若丸がセイバーにとどめを差し,聖剣の光が消える.
その光とともに,騎士王アーサー,そして英雄王ギルガメッシュは消えていった.
戦闘が終わり,凛が士郎にことの顛末を話した.
聖杯が汚染されていたことや,それを破壊するということだ.
話を聞き終えた士郎は,ひどく憔悴しきっていた.
セイバーがいなくなったこと,やり直せると思っていたことが無理だとわかってしまったのだし,当然ではあると思う.
そんな士郎に対し,凛は言った.
アーチャーとの約束を守るために.
凛「いい,衛宮君.
過去をやり直そうなんて思わないで.
起きてしまったことは,あなたが何をしても変わらない.
無責任で悪いけど,私にはあなたの過去がわからないから,その重さを肩代わりすることはできない.
・・・でも重さで苦しんでいるあなたとともに歩んでいくことはできるわ.
苦しい過去があるなら,その過ちを繰り返さないように努力しましょう.」
凛の台詞は,俺がアーチャーに言ったセリフと同様身勝手なものであった.
・・・それでも,士郎その言葉にうなずいた.
士郎にこれを飲み込める強さがあるのなら,アーチャーが避けたかった未来は訪れないだろう.
最終章 完
エピローグ 【変曲点F】
あの後,藤丸君は衛宮士郎,遠坂凛と共に大聖杯を無事破壊することに成功,物語は一応幕を閉じたんだ.
これまでの特異点と最も大きく異なる点は,彼は本当に歴史を変えた,というところだろう.
事実として,カルデアの外では既に冬木の聖杯戦争の認識が大きく変わっている.
曰く,「参加者以外に死者が出ていない,かなり理想的な聖杯戦争.」らしい.
・・・聖杯戦争に理想もクソもあるかって話ではあるんだけど,そこはそれと割り切ろう.
それに,藤丸君の介入の結果はそれだけじゃない.
あの戦争に参加したマスターたちの顛末も大きく変わっている.
例えば
聖杯の器であったイリヤスフィールは聖杯戦争の期間中に,蓄積したサーヴァントの魔力に耐え切れず深い昏睡状態におちいってしまった.
しかし今回の聖杯戦争が比較的短い期間で終わったことと,言峰綺礼が生きていたことが幸いした結果,何とか一命はとりとめている.
今は本国で養生しているらしい.
葛城宗一郎,キャスターのマスターの代理のようなことをしていた彼は,教職に復帰したらしい.
曰く,少しだけ笑うようになったとの話もある.
ライダーのマスター,間桐慎二は,彼が聖杯戦争時に利用していた偽臣の書と藤丸君が使った魔術礼装を元に,魔術回路がなくとも扱える簡易術式の作成に取り組んでいるらしい.
彼を突き動かしているのは純粋な復讐心らしいが,ともかくその結果として彼が立ち直ったのなら何よりだ.
言峰綺礼は,イリヤスフィールの治療を済ませるとどこかへ消えてしまったそうだ.
その行方は依然として知れない.
アーチャーのマスター,遠坂凛はあの後,ロンドンの時計塔に留学する運びになったらしい.
2017年現在では,彼女は誰もが認める一流の魔術師だ.
そのうち出会うこともあるかもしれない.
そして衛宮士郎,彼は遠坂凛と共に今も世界中を回っている.
世界中の紛争や格差をなくすために,自分にできることからコツコツ勉強をしているそうだ.
そうそう,藤丸君に関しては,無事今回の成果が認められたよ.
私の指輪はバレてしまったけど,まぁ何とかお目こぼしをもらえた感じだ.
まぁなんにせよ,これにて無事オーダーは終了.
世界は今日も,大して変わらず回り続ける.
・・・藤丸君が救った世界が,ね.
Fin
というわけで,つたない文章にお付き合いいただきありがとうございました.
これにて一応の閉幕です.
よりFGO感の増した別バージョンは,また後日投稿させていただきます.
個人的には書いててすごく楽しかったのですが,いかんせん自分の読み込みの甘さに反省することも多かったです.
次回投稿するときは,もう少しFateを深く知ったうえで今回よりは矛盾なく面白くかければなぁと思います.
SSスレを立てたのが初めてということもありいろいろつたない点も多かったと思いますが,皆様の暇つぶし程度にでもなれれば幸いです.
このSSまとめへのコメント
うーん…やっぱり纏めきるのは難しいとよくわかるSSやったしゃーない
こんな程度で普通の道に戻れるなら聖杯戦争とか関係なく自然な日常で普通になってるやろうなって
それ以外は良かった