凛「おとぎ話の」卯月「王女でも」 (33)
<凛>
4月25日、午後4時半。
ライブ開けの学校ではいつも見に来てくれた皆からの感想の嵐で、嬉しいんだけど心が落ち着かない。
毎回のように来てくれる子もいるし、自分は行けなかったけどお兄さんがお父さんが、って事を聞かせてもらえることもあったり。
だから本当は放課後も少し残って皆と居たいんだけど……、でも、今日だけは別。
また明日ね、って早めに別れて、事務所への道を急ぐ。
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「今向かってるよ、電車に乗ったとこ」
って送ると、
「着きました、待ってますね♪」
ってメッセージがすぐに返ってきて。
近くのコンビニでアイスを2つ買って、それから。
……卯月の待つ事務所へ。
昨日ちゃんとお祝い出来なかった卯月の誕生日を、二人っきりで。
昨日の夜、電話で約束したから。
今日は、一緒にアイス食べようね、って。
<卯月>
最初はケーキ、って言おうとしてて、
でもケーキは昨日他のみんなと食べたし、だから凛ちゃんとは二人で別のものが食べたくって。
アイスクリームだったら、近くのコンビニでも売ってましたし。
多分、凛ちゃんはチョコレート味なんだろうなぁ……。また一口、もらっちゃおうかな?
わたしには、どんな味のアイスを選んでくれるのかな。
ちょっと、ドキドキします。
誕生日プレゼントは、昨日のお昼の公演を見に行った時に楽屋で渡して貰ってて。
だから、特別な日の、特別な贈り物を選んでもらうって言うドキドキを昨日味わえて、
今日は、何でもない日の、私のわがままに付き合ってもらうためのちょっとした贈り物って言うドキドキを味わえるんです。
なんだか、贅沢だなぁ、なんて。
<凛>
ちょっと贅沢かな?
色々迷ったんだけど、買っちゃった。
プレミアムチョコレートと、ベリー&ベリー。どっちも期間限定。
……多分、卯月は「やっぱり」って顔、するんだろうなぁ。
結局いつもと同じような選択。卯月の好きなものと、私の大好物。
少しだけグレードは高いけどさ。
どっちなんだろう?それぞれが好きなものを食べるか、それとも交代するか。
卯月の選択次第だけど。
でもきっと、少し食べたらすぐにこっちを見て、「凛ちゃんのも美味しそう……」って言うんだろうね……
そうやって、上目遣いをして、じっ、とこっちを向いて。
「凛ちゃん、一口ちょうだい?」
……私は、それを期待してるんだと思う。
<卯月>
凛ちゃん、もうじき着くかな。
期待とドキドキが膨らんできて、なんだか落ち着かない、感じ。
アイス一緒に食べるの、本当に楽しみだなぁ。
いただきます、をしてから最初の一口目は、大事なんです。
私の、じゃなくて、凛ちゃんの最初の一口目。
気づかれてないと思うんだけど、美味しいものを食べる時の凛ちゃんって……ちょっと、ゆっくりで。
「美味しい」って事を知っていても、
スプーンでゆっくり掬って、恐る恐る、って感じで口に運んで。
はむっ、て口を閉じる。
私はずっと先に食べ進めちゃってるので、その様子を横からこっそり見てるんです。
えっと、私、凛ちゃんの「美味しい」っていう顔を見るの、とっても好きなんです。
例えば、えっと…この間お夕食を凛ちゃんの家でご一緒させて貰った時だとか。
この間?えっと、うーんと……
二週間前でしたっけ?何回か凛ちゃんのお家にはお邪魔しているので、いつだったのかはもう思い出せないんですけど。
本当に美味しいものを食べた時、言葉よりも先に、ふっ、と小さく息を吐いて。
その瞬間、隣に居られてよかったな、って思うんです。
いつも。
<凛>
いつも。
気づけば、私たちは甘いものばかり食べている。
パフェにケーキ、クッキーにチョコレート。
卯月と二人でいる間に、アイドルじゃなくて”女の子”の私が作られていっているみたいで。
甘いものを口実に、二人の世界を作ってる、ってことなのかもね。
今日だってきっとそうなるだろうし。
美味しかったです、また一緒に食べましょうね?
って、そう言いながら、きっとまた次の約束をするんだと思うな。
そうやって……、甘くて・冷たくて・すぐに溶けてしまうものを。
今日も、また次も、って一緒に分かち合うんだろう。
いつか、この関係が溶けてなくなってしまう時まで。
ずっとこうして居られるとは思ってない。
望んでは、いるんだけど。
今は同じ方向を向いているから、同じ道を歩んでいるから、こうやって一緒に居られるんだ、って。
きっとこの恋も、期間限定だ。
卯月は皆から好かれている可愛い女の子だから、いつかちゃんとした王子様が現れるって思ってる。
その時、私は?
”仲の良かった友達”として、彼女の隣に立っているのかな。
それは、……嫌だ。
それだけは、嫌。だけど、
…いつまで、私は卯月の”一番”で居られるんだろう?
卯月が他の誰かを好きになる日が来たら、ちゃんと祝福してあげられる?
…まだ、わからないけど。
考えられないけど。
それでも。
今は、……
<卯月>
……凛ちゃんの、アイドルの道が終わったらどうしよう?
1人で居る時、どうしてもそういうこと考えちゃって。
悲しくなって、会いたくなって。だからいつも、ワガママばっかり言っちゃうんです。
ずっと一緒にいてね、って。
私と違って……、アイドルを、この世界を目指して来た子じゃなくて、
この世界にぱっ、と入ってきた子だから、この世界からぱっ、と消えてしまいそうで、ちょっと怖いんです。
……急にいなくなったり、しないよね?
うーん。
私、ずっと凛ちゃんのそばに居られるのかなぁ。
私だけの凛ちゃんで、凛ちゃんだけの私で、居られるのかなぁ。
……本当は、いつだってずっと一緒に居たいんです。
ずっと、凛ちゃんの声を聞いていたい。卯月、って呼ばれたい。
電話を切る時も、分かれ道でさよならをした後も、淋しさが溢れてきて。
だから、今日みたいに二人っきりで甘いものを食べる時間は、私にとって本当に大事なんです。
ずっとずっと続く時間じゃなくても、ずっとずっと続けられる関係じゃなくなる日が来るとしても。
今はその甘さを、一緒に楽しみたいんです。
だって。
今は……
<凛>
今だけは、私が卯月の王子様だから。
<卯月>
今だけは、私が凛ちゃんにとっての王女様なんです!
終わり。
「アイスクリームの歌」をもとにして書きました
https://youtu.be/KRtEYPSPNn4
遅くなりましたが卯月誕生日おめでとう
遠くない未来での別離の予期という、甘く冷たい絶望を抱えた今の二人の話を書きたかったので
半分嘘ですホントはライラさんがアイスクリームを楽しむSSのはずだったんです
誰か代わりに書いてくださいお願いします
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