女「多分…好き」男「そっか」 (25)

とある国にお姫さまと王子さまがいました。


「ねえねえ、好きってどんな気持ちなの?」


お姫さまは王子さまに聞きました。


「君は僕のことが好きじゃないの?」


王子さまは少し残念そうでした。


「うーん…きっと好きだけど…よく分からないの」


王子さまは少し嬉しそうな顔をしてお姫さまを抱きしめました。


「どう?」


お姫さまはちょっとびっくりしながら答えました。


「あったかい」


王子さまは満足そうに言いました。


「これで良いんじゃない?」


お姫さまは王子さまを抱き返しました。


「うん、このあったかさだけで十分ね」


2人が一緒に暮らすのは、もう少し先のお話です。


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女「ねえねえ、今日一緒に帰らない?」

男「良いけど…どうして?」

女「理由がないとダメ?」

男「ううん、良いよ。掃除が終わったら教室で待ってて」


彼は気づいているだろうか。


男「お待たせ。帰ろっか」

女「うん」


私のこの気持ちに。


女「あのさ…私たちって何なのかな?」

男「なんなのって?」

女「クラスで付き合ってるって思われてるじゃん」

男「あーそういう…。なんだろね、幼馴染?」

女「だよね。一応女友には付き合ってないよって言ったんだけど…」

男「そっか、まあ変な噂が立っても困るし。ありがとね」

女「えぁ…うん」


好きなのかは分からない。

それでも一緒にいたいとは思う。

不思議な感情だ。

そのせいか彼のさっきの

「変な噂が立っても困る」

という発言は少し残念だった。

最初に否定したのは私だから何も言えないけど。


女「あ、あのさ…」

男「うん?」

女「あ…あの…えっと…」


ああ、ダメだ悪いクセ。

大事なところで緊張してちゃんと話せなくなる。


男「いいよ、ゆっくりで」


その何気ない一言にどれだけ救われただろうか。

考えると少し涙が出そうになる。


女「私とそういう噂が立つのって…イヤ……?」

男「うーん…イヤじゃないよ?でも事実じゃないことを言われるのは少し困るかなって」

女「そっか…ありがと」


これはどう処理したら良いんだろう…。

もう少し突っ込むしかないのかな。


女「じゃあさ…」

男「なに?」

女「ううん、やっぱり何でもないや」

男「気になるなぁ…まあいっか」


私は男を「たぶん」好きなんだろう、と思った。

でも「本当に」好きだと思えないままに、

なんとなく「そうだろう」と思って言うのは

少し違う気がして言うのをやめてしまった。


女「じゃ、また明日ね」

男「ん、じゃあね」


一緒に帰るのは久しぶりだったのに

あまり大したことは聞けなかった。

ダメだなぁ。


夜。布団の中で考える。

彼は私のことをどう思っているんだろう。

「幼馴染?」と言っていたけど私の求める答えは違う。

でもどうなんだろう?

仮に付き合うことになったとして、

私は彼に心の底から「好きだよ」と言えるだろうか。

それ以前に私は本当に彼を好きなんだろうか。

好きってなんなんだろう?


女「ねぇ、お昼一緒に食べない?」

男「んー…いや、友だちと食べるから。ごめんね」


女「あっ、あのさ…今日も一緒に帰らない?」

男「ちょっと用事があってさ」

女「そっか…ううん、しょうがないよ」


女「ねぇ今日は…?」

男「あーごめん今日も…」

女「………そっか…」


一緒に帰った翌日から突然私と関わらなくなってしまった。

なぜだろう?

いつも通り元気そうなのに。


あれ、手作りのお弁当食べてる。

高校に入ってからは大体コンビニのおにぎりとかだったのに。


ちくり、と心に何かが刺さった。

嫌な予感。

そんなバカな、

信じないよ、信じたくないよ、

心の中で何度も唱えた。


男「ん、メールだ」

女『ちょっと話があるんだけど今から行ってもいい?』

男「あのさー、女が来たいって言ってるんだけど…」


彼から返信が来てから向かう。

深呼吸をして呼び鈴を鳴らした。


男「珍しいね、夜に来るなんて」

女「いきなりごめんね」

男「ううん、大丈夫」


彼は部屋の中をちらっと振り返ってから話を続けた。


男「それでどうしたの?」

女「うん…あのさ…」


つっかえつっかえでどうにか話した。

一緒に帰った翌日から私を避けるようになったこと。

手作りのお弁当を食べていたこと。

私のことを嫌いになったのならそう言って欲しいということ。

全部言い終えるのに5分ぐらいかかった。

終盤は少し涙目になっていたので

バレないように俯いて話した。


男「あーそれは…」


彼が口を開いた時だった。


「おとこー?大丈夫ー?」


奥の部屋から女の人が出てきた。

かなりの美人。

キリッとした感じで下手な女優よりもずっと綺麗だった。

……あんまり言いたくないけど胸も大きかった。


「あんまり遅いから心配しちゃったよ?っと…あんた泣かせたの?」

男「いやそんな…」

「大丈夫?」

女「だ、大丈夫ですっ…!ごめんなさい帰りますっ…!」


「また」という発言でなぜか涙が零れてしまった。

最近私を避けていた理由。

手作りのお弁当。

親しげな話し方。

全てが繋がってしまった。

ここは私のいる場所ではない。

そう感じて話も半ばで帰った。


「女ちゃんだよね?今の」

男「そうだけど…」

「何の話してたの?」

男「最近私のことを避けていないか、あの手作り弁当は何なんだって」

「あー…勘違いされてるよ」

男「何が?」

「あんたに彼女ができたと思ったんだよきっと。それで家に来た。そしたら謎の女が出てきた。ね?」

男「ね?って…。でもそれは困るなぁ…どうにかして誤解を解けない?」

「とりあえず女ちゃんの家に行くしかないでしょ。ほら行くよ」



お姫さまと王子さまがもう少し小さい時のお話です。


「あのねー、お父さまに聞いたんだけど、私たちって結婚するんだって」


お姫さまは嬉しそうに言いました。


「けっこん?なにそれ」


王子さまは初めて聞いた言葉に戸惑っています。


「うーんとね、結婚するとね、ふうふになって一緒に暮らすんだよ」


お姫さまは自慢げに話しました。


「一緒にってずっと?」


少し期待するように聞きました。


「うん、ずっとだよ」


お姫さまは嬉しそうに言いました。


「じゃあ今のお父さまとお母さまみたいになるのかな?」


王子さまはもっと嬉しそうに言いました。


「そうだよ。あ、あとねー、キスもするんだって」


ニヤニヤしながらお姫さまが言いました。


「きす?なにそれ」


王子さまは不思議そうな顔をしています。


「こうするんだよ」


王子さまの唇に自分の唇を重ねました。


「へぇ…これ、なんかいいね」


そのあとしばらく、2人の挨拶はキスだったそうです。



女「………話って…?その女の人まで来て…。見せつけに来たの?」

男「あー違うよ…あの……」

女「いいよもう!別に…もう……」


泣き止んだと思ったのにまた泣き出してしまった。

なんて脆いんだろう。

弱虫だ。


「だからあんたは…いいよ、あたしが説明したげる」

女「……誰ですかあなた…」

「ほんとに覚えてないんだ?」


は?覚えてないって?

こんな美人さんあったことないし…。


「男の叔母だよ?」

女「叔母…?おばさん…?えーっと……ああっ!?」

「思い出したみたいね。まあ最後に会ったのも3つの頃とかだし覚えてろって方が無理よね」


涙の勢いがさらに激しくなった。


「あーあー…あとはあんたに任せたよ、しっかりヤりなさいよ?」

男「なんか違うニュアンスが含まれてない?」


泣き止んでから男を部屋に招き入れた。


女「そういえばおばさんは?」

男「帰ったよ。あとは若いのに任せるって言って」


そこから彼は丁寧に事情を説明してくれた。

出張で1週間こっちに来ることになり、

目的の場所がこの近辺だったので男の部屋に泊まっていたこと。

タダで泊まるのも申し訳ない、ということでご飯とお弁当を作ってくれていたこと。

そんな感じだった。


女「そっか…じゃあ私を避けてたのは…?」

男「あーそれは……」

女「なによ…いいよ……」

男「あーごめん…」

女「じゃあ説明してよ…」

男「うー…それは…」


やけに歯切れが悪い。

やっぱり何かあるんじゃない。


男「ほら、明後日さ、誕生日じゃん?」

女「誕生日…?あっ……」


そうだ。明後日は私の誕生日だ。

でもそれと何の関係があるのだろう。


男「サプライズをしようと思ってさ、友だちに聞いたり色んな店に行って何がいいか品定めしてたんだ」


???

品定め…?

ただでさえおばさんの登場で混乱している頭がさらに混乱してきた。


男「ごめんね、なんか勘違いさせちゃって」


彼がどうして謝るんだろう。

謝らなくてはならないのは私の方なのに。


女「謝らないで。悪いのは私だから。ごめんなさい」


女「あのね…私、思ったんだ」


ふっと口が勝手に動き出した。

やめなよ。

傷つくだけだよ。

彼にはもっと素敵な相手がいるよ。

今ならまだ戻れるよ。

やだよ。

私は信じるの。

男を好きだってこと。

逃げない。

その答えが思っていたのと違っても

言わないで後悔するよりずっと良い。

だから言うの。

邪魔をしないで。


女「ずっと…考えてたんだ。この気持ちは何なんだろうって」


女「あのね…」


女「私、男のことが好きなの…」

男「そっか…よかった…」

女「えっ…あのそれって…」

男「ほんとは誕生日に告白するつもりだったんだけど…」




今日は結婚式の日。2人とも嬉しそうです。


「あなた、カッコ良いわよ」


優しく微笑んで言いました。


「君こそ…うん、綺麗だ」


ちょっと恥ずかしそうに言っています。


「それでは誓いのキスを…」


神父さんが言いました。


2人は顔を近づけてそっとキスをしました。


「あなた…?」


「どうしたの?」


「大好き…とってもね」



おしまい

短いですが。何かを拾ってくれる人がいれば良いな、そんな風に思います。

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