島村卯月「え？」

本田未央「ん？　あれ、プロデューサー。どうしたの？」

P「ああ、3人ともレッスンお疲れさま。いや、テレビのリモコンが壊れちゃって。9チャンネルが映らなかったんだ」

凛「なんだ……」

卯月「？」

ちひろ「……困りましたね。しばらくは+－ボタンでチャンネル回さないといけないみたいです」

P「他の番号はいいんですどね。9チャンだけがね……」

凛「……」

未央「……」ｼﾞｰｯ

P「3人ともレッスンお疲れさま。凛はこれから帰るんだったな」

凛「え、ああ。うん。今日は夜に家の用事があって。その前に、お母さんと買い物にも行くから……」

凛「じゃあ、お先に」

他「お疲れ様ー！」

ｶﾞﾁｬ ﾊﾞﾀﾝ

他「……」

未央「しぶりんの様子、なんか変じゃなかった？」

ちひろ「……確かにちょっとおかしかったです」

P「レッスンの時もあんな感じだったのか？」

卯月「いえ、レッスンの時は何事もなかったです。というより、部屋に入ってくるとき、プロデューサーさんの言葉に変に反応したというか……」

ちひろ「言葉？」

未央「『9チャン』って言葉に反応していたよね」

卯月「はい」

P「9チャン……？　きゅーちゃん……」

ちひろ「きゅーちゃん……」

未央「きゅーちゃん……」

卯月「きゅーちゃん……」

P「うーん。思い当たるところは……皆なさそうだね。とりあえず思いつく限り、ホワイトボードに書いてみよう」

・9チャン

ちひろ「私たちが言ったのはこの意味ですよね」

P「はい。テレビの9番のチャンネルという意味ですね」

卯月「でも、9チャンネルと言ったときには凛ちゃん、小声で「なんだ……」って安心していた様子でしたよ」

ちひろ「では、テレビの9番のチャンネルというより、『きゅーちゃん』という言葉に意味があるみたいですね」

未央「うーん、きゅーちゃんにトラウマがあるのか……」

・Qちゃん
マンガ『オバケのQ太郎』の主人公、Q太郎のあだ名。

P「俺が思いつくのはこれですね」

ちひろ「私もそっちを思いつきました」

P「凛って漫画読んでいたっけ」

卯月「奈緒ちゃんからかりた漫画は読んでいたみたいですけど、少女漫画が主だったような」

未央「そうそう。どっちかっていうと、かれんが昔のアニメ見ているみたいだけど、でも二人がアニメの話をしたところ見たことがないし…」

ちひろ「高橋尚子選手とかどうですか？」

未央「誰？」

卯月「何の選手ですか？」

ちひろ「えっ」

未央「えっ」

卯月「えっ」

P「じゃあ、違うな」

・キューちゃん
お酒のおつまみ

未央「私が思いつくのはこれかな」

P「きゅうりのお漬物だな。あれはごはんのおかずでもおいしいぞ」

未央「そうなんだ！　よくお父さんが晩酌で食べているのを見るよ」

ちひろ「でも、凛ちゃんときゅうりのお漬物って接点ありますか？」

未央「うーん……」

卯月「あっ！？　もしかしたら、これと関係あるかもしれません」

・キューちゃん
牛久市観光協会のマスコットキャラクター

未央「……なにこれ？」

卯月「茨城県の牛久市観光協会のマスコットキャラクターです！」

P「知らんわ！」

ちひろ「でも、きゅうりと何の関係があるんですか？」

卯月「きゅうりをもった河童のキャラクターなんです。牛久市は河童の地としても知られています」

未央「へぇ、そうなんだ」

P「いやいや、きゅうりもマスコットも違うだろ！」

ちひろ（なんで高橋選手は知らなくて、牛久市観光協会のマスコットキャラクターは知っているのかしら……）

ちひろ「わからないままですね」

未央「かみやんとかれんにもきいてみる？」

P「うーん、でもあの様子だとあんま広げない方が良いなあ。あの反応は、ちょっと心配だけど」

未央「だよね……」

卯月「でも、何があったんでしょう」

ｶﾞﾁｬ

凛「ごめん。忘れ物しちゃって……」

他「あ……」

凛「ん？」

凛「このホワイトボードに書かれているの、何？」

P「ああ、いや……その、さっき、皆が妙に凛の反応がおかしくて。それで妙にきゅーちゃんという言葉に反応していたのが気になったんだ……」

凛「あ……」

未央「あの、ごめんね、しぶりん！」

卯月「ごめんなさい、凛ちゃん！」

凛「え、あ……」

ちひろ「ごめんなさい。でも、どうしても気になって、心配になってしまったんです」

P「俺も悪かった。でも、みんな、お前のことが心配で気になってしまって、妙な詮索をしたつもりはないんだ」

凛「いや、あの、その……」

凛「あだ名……」

未央「へっ？」

凛「私のあだ名だったの。きゅーちゃんって。中学生の頃の」

卯月「なんで、きゅーちゃんなんですか？」

凛「それはね、字にすると……」

　9ちゃん

凛「……こうなの」

ちひろ「9ちゃん？」

凛「うん」

―――　凛　中学1年1学期頃

女子友達A「あたしねー、こないだの日曜、渋谷駅前に行ってきたんだ！」

女子友達B「へえ、どこいったの！？」

友達A「109！」

友達B「いいなあ！」

凛「ねえ、何の話？」

友達A「あっ、渋谷さん！」

友達B「そうだ。渋谷さんの苗字も渋谷だね！」

凛「？」

友達B「渋谷さん。渋谷　イチマルキューだから、今日から9ちゃんね！」

凛「え？」

友達A「あっ、いいね！　かわいい！　9ちゃん！」

凛「……ということがあったの」

未央「あー……」

凛「中学の頃のあだ名はずっと9ちゃんだった。一気に広まって、いきなりみんなに呼ばれたから、戸惑っちゃって……」

卯月「それは大変でしたね……」

凛「うん。正直困った。でもね……この際だから言うけど、いちばんきつかったのは……」

―――凛　小学生の頃

クラスメート男子A「俺、こないだお父さんと一緒にお台場のフジテレビいってきたんだ！」

男子B「すげー！」

男子C「俺も汐留の日本テレビいってきた！」

男子B「いいなあ！」

男子A「……なあ、NHKってどこにあるの？」

男子B「なんだ、いきなり」

男子C「おれ知ってるー！　渋谷にあるんだぜ」

男子A、男子B「へぇー！」

凛「ねえ、掃除してよ」

男子A「うっせーぞ、渋谷。おまえはNHKでも放送してろよ」

男子B「そうだぞ、NHKは黙ってろ」

男子C「NHKはニュースでもやってろよ」

凛　ｸﾞｽﾞｯ

女子A「あー、渋谷さんを泣かしたー！」

女子B「ちょっと男子。いい加減にしてよ、渋谷さん泣いちゃったじゃない！」

男子A「うるせえよ。やーい、NHK!」

P「そうだったのか」

未央「……ねえ」

凛「ん？」

未央「もしかして、『しぶりん』って呼ばれるのも嫌だった？　ごめんね」

凛「いや、そんなことないよ。むしろ、しぶりんってファンの人からも呼ばれるし、未央から呼ばれるのもすごくうれしいんだ」

凛「私、あだ名にいい思い出がなかったけど、未央にしぶりんって呼ばれた時、はじめてあだ名っていいなって思った」

卯月「凛ちゃん……」

凛「だから、これからも『しぶりん』って呼んで、未央」

未央「ありがとう、しぶりん」

ﾌﾟﾙﾙﾙ　ﾌﾟﾙﾙﾙ

ちひろ「はい、こちら……はい、そうです。わかりました。少々お待ちください」

ちひろ「プロデューサーさん、凛ちゃんにテレビ出演のお仕事の依頼です」

卯月「すごい！」

P「念願のテレビ出演だ。頑張れよ」

凛「うん……！」

未央「頑張ろう、しぶりん！」

凛「うん！」


P「はい、変わりました……渋谷凛のテレビ出演の仕事についてとのお話と伺いました。……はい、仕事内容についてお聞きしたいと……はい、え」

P「NHKさんの情報番組で、渋谷109と東海漬物のキューちゃんの特集ですか……出演者は……高橋尚子さんと牛久市観光協会のマスコットキャラクター、キューちゃんですか？」


おわり