ちひろ「あがりましたよ、雨」 (10)

ちひろ「雨の中の送迎お疲れさまでした。
    けど、レッスンが終わってから一緒に帰ってきてよかったんですよ。
    わざわざ事務所に戻ってくるなんてよっぽどの事務所好きなんですね」

P「いやー事務所にはちひろさんがいますからねっ」

ちひろ「……それで本当のところは?」

P「ちょっとでも時間があるなら今度の企画案を進めとこうかなと。
  日程逆算すると、結構カツカツなんですよね……」

ちひろ「うちの社長は無茶ぶりが多いですからねー。
    でも企画考えるだけでしたら、別にレッスンの待ち時間中でも良かったんじゃないですか?」

P「俺どうも外だと落ち着かなくて考えがまとまらないんですよ。
  あと、ちょっと行き詰まってて……。
  というわけでちひろさん、なんかアイデアください」

ちひろ「はい……?
    いや急にそんな事言われましても……。
    そもそも私も自分の仕事がありますし」


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P「そこをなんとか!
  これでなんとか!」

ちひろ「そ……それは!?
    うさぎやのどら焼きじゃないですか!」

P「頭を使うなら糖分が必要ですからね。
  これで……一緒に考えてくれますよね?」

ちひろ「う……プロデューサさんがそんなに困ってるなら仕方ありません。
    ちょうど事務仕事もキリがいいところですし。
    いいでしょう。
    というわけでついでにコーヒーも淹れてきてください」

P「そこまで!?
  コーヒーメーカーなんですからそれくらい自分でやってくださいよ」

ちひろ「いえいえ、プロデューサーさんが淹れるコーヒーはひと味もふた味も違うんです!」

P「そんなに力説しなくても……誰が淹れたって一緒ですって」

ちひろ「本当ですからね!」

P「はいはい分かりました。淹れてくるんでちょっと待っててください」

ちひろ「はーい。じゃあ私はどら焼きをお皿に出しておきますね」

P「おねがいしま……って、さっそく一つ食べちゃってるじゃいですか!?」

ちひろ「ひやらっへ」

P「口に物を入れたまま喋らない。行儀悪いですよ」

ちひろ「だってうさぎやのどら焼きと言えば鮮度が命!
    味が落ちる前にしっかり味わっておかないと!」

P「二、三分でそんなに変わりませんって……」
  
ちひろ「命短し食せよ乙女って言うじゃないですかー」

P「それ違いますからね。言いませんからね。
  まったくいい大人が……。
  年少組に見られたら、同じことをしてても注意できなくなるじゃないですか」

ちひろ「大丈夫、他の人がいる所ではこんなことしませんから!」

P「……どうだか」

ちひろ「それよりコーヒーできたみたいですよ!」

P「はいはい。もう少し待っててくださいね」

ちひろ「はやく、はやくっ」

P「はいどうぞ」

ちひろ「それじゃ改めまして、いっただきますっ!」

P「コーヒー熱いですから気をつけてくださいね」

ちひろ「あぁやっぱりプロデューサーさんのコーヒーは格別です。
    私だとこの味は出せません」

P「そんなに違わないですよ……」

ちひろ「いや違いますって。
    なんだろうプロデューサーさんから何か出てるのかな?
    例えばスタドリエキスとか……」

P「あり得ないですし……。
  あれ? ちひろさん、豆換えました?」

ちひろ「はい? ああそうでした。
    最近お気に入りのカフェを見つけまして、そこで買ってきたんですよ。
    今度一緒にい行きません?」

P「いや、俺はそれほどコーヒー好きって訳じゃないんで……」

ちひろ「残念……。
    それにしても、うさぎやのどら焼きを頬張りながらプロデューサーの淹れてくれたコーヒーを飲む。
    甘みと苦みと酸味が口の中で極上のハーモニーを奏でる……しあわせ……。
    私は今死んでも後悔はないっ!」

P「死なないでください……。
  ちゃんと企画考えてください」

ちひろ「そんなにカリカリしてたらいいアイデアも逃げていきますよ。
    リラックス、リラックス。
    それにストレス貯めすぎると禿げますよ?」

P「ヒトの頭を見ながら言わないでください。
  どちらかというと胃腸の方が心配なんですけど」

ちひろ「そうですね、胃腸が弱ってはスタドリ、エナドリの効果半減ですからねー」

P「えっ!? 関係あるんですか?」

ちひろ「さあ?」

P「さあ? ってどういうことなんですか!
  そんな使用上の注意があやふやなものを売りつけてるんですか!」

ちひろ「大丈夫ですって。
    今まで何ともなかったでしょう?
    問題が起こってないなら大丈夫なんですよ」

P「そんな健康には直ちに影響はない、みたいなこと言わないでください!
  原因不明の突然死とかやめてくださいよ!」

ちひろ「昔の人はいいことを言いました、人生五十年」

P「それ京都の人の前の大戦くらい昔の話ですよね!」

ちひろ「六十まで生きれりゃ御の字よ、ってのもありましたねー」

P「現代の日本人男性の平均寿命は79歳ですからね!」

ちひろ「あ、死ぬで思い出しました」

P「唐突ですね! 話そこに戻るんですか!?」

ちひろ「昔見た映画なんですけど。
    人が死んで死後の世界にに行く前に別の場所に行くんですよ。
    そこで自分の一番大切な思い出を選ぶんです。
    その一番大切な思い出を映像にして見せてもらって、それを胸に人は死後の世界に行く。
    という話なんです」

P「なんだかファンタジックな内容ですね。
  タイトルとか憶えてません?」

ちひろ「うーんちょっと思い出せないです。気になります?」

P「少し……。
  で、その映画が死ぬって事とどうつながるんですか?」

ちひろ「いえ、もし今プロデューサーさんが死んだら一番大切な思い出って何だろうかな? と思いまして」

P「えらい飛躍ですね……。
  それはさておき、一番大切な思い出ですか?
  うーん、ぱっと思いつかないな……。
  あ! 今現在はないですけど、将来ならあります、きっと!」

ちひろ「将来? どんなのですか?」

P「こう、うちのアイドルが成長していくじゃないですか。
  それでいろんな場所でどんどん活躍するんですよ。
  最終的に人をたくさん呼んで単独でライブをやるんです。
  その会場で俺の、みんなの夢が叶った瞬間。
  きっとこれが最高の思い出になると思います」

ちひろ「やっぱりプロデューサーさんはプロデューサーなんですね」

P「どういうことですか……?
  ちひろさん、笑ってないで教えてくださいよ!」

ちひろ「一番大切なことはアイドルと一緒ってところがですよ」

P「あ……」

ちひろ「それにその思い出ならまだ先の事でしょうから、まだまだ元気でいないとダメですね」

P「いえ、あいつらならきっとすぐですよ!」

ちひろ「そうかもしれませんね……。
    けど、夢はひとつ叶ったらからって終わりじゃないです。
    そこから新しい夢がまたできて、その夢に向かって進んでいって、叶える。
    そうすれば選びきれないくらいの思い出ができるんじゃないですか?」

P「頑張ります……ってもう迎えにいく時間じゃないですか。
  結局、全然進まなかった……」

ちひろ「私は面白い話が聞けて満足ですよ」

P「そりゃ、ちひろさんはそうでしょうよ」

ちひろ「ほらほら暗い顔してると、あの子たちが心配しますよ。
    それに世の中悪い事ばかりじゃないみたいです」

P「?」


ちひろ「あがりましたよ、雨」



おわり

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