グレーテル「二人で話し合ってメニューを決めたわ」
ヘンゼル「ボルシチはメインディッシュ、最初はマカロニから、ね」
ヴェロッキオ「ケッ、クソガキどもが。どういう風の吹き回しだ?」
バラライカ「茶番だけど、それなりのものを用意してもらわないと困るわよ」
張「やれやれ、なんで俺まで……」
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ヘンゼル「さて、まずはマカロニだけど……どうしようか、姉様?」
ヘンゼル「マカロニをそのまま皿に乗せて出すだけじゃ、つまらないよね」
グレーテル「マカロニといえば、やっぱりグラタンだわ」
グレーテル「マカロニグラタンを作ってあげましょう」
ヘンゼル「それはとてもいいアイディアだね」
グレーテル「それじゃ、さっそく調理開始ね」
グレーテル「まずは鶏のもも肉と玉ねぎを切りましょう」
ヘンゼル「任せてよ」シャキンッ
ヘンゼル「鶏もも肉を小さめに切るよ。筋に沿って、ね」ザクッザクッ
グレーテル「いい手つきだわ、兄様」
ヘンゼル「人の肉より切りやすいよ、姉様」
グレーテル「次は玉ねぎを薄切りにするのよ」
ヘンゼル「うん」ザクザク
ヘンゼル「うわっ、目にしみるよ! 手伝ってくれない?」ポロポロ…
グレーテル「男の子が簡単に涙を見せてはいけないわ、兄様」
グレーテル「それじゃ、今切った肉と玉ねぎをお鍋に入れて炒めましょう」ジャッジャッ
ヘンゼル「玉ねぎがしんなりしてきたね」
グレーテル「そしたら、小麦粉を入れて混ぜてしまいましょう」マゼマゼ
ヘンゼル「脳みそをこねるようにね」
グレーテル「さらに、牛乳、スープの素、マカロニを入れて煮詰めるの」グツグツ…
グレーテル「うふふ、内蔵みたいにとろけてきたわ……」
ヘンゼル「大量に血を失った死体みたいに白くてキレイだね、姉様」
グレーテル「ここで塩コショウで味付けして……」パッパッ
グレーテル「グラタン皿に入れて、チーズを乗せて、いよいよオーブンで焼くのよ」
ヘンゼル「人の肉を焼くと、とてもいい香りがするよね、姉様」
グレーテル「ええ、シャネルなんかよりもよっぽど上等な香りよ」
グレーテル「だけど、グラタンを焼くとさらにいい香りがするのよ」
ヘンゼル「僕らは贅沢だね」
グレーテル「こんがり焼けたら、完成よ」
ヘンゼル「わぁっ、とてもいい香りだね」
グレーテル「あとはパセリとブロッコリーをふりかけて……完成っ!」
ヘンゼル「とてもおいしそうに出来たね、姉様」
グレーテル「はい、召し上がれ」コトッ
ヴェロッキオ「ガキどもが、いっちょまえに待たせやがって……」
ヴェロッキオ「どれ……」モグッ
ヴェロッキオ「!」
グレーテル「どぉう?」
ヴェロッキオ「う、うまいじゃねェか!」ハフッハフッ
ヴェロッキオ「熱々のチーズと具が混ざり合い、絶妙なハーモニーを醸し出してやがる!」
ヴェロッキオ「特にこのマカロニのコリコリとした食感がたまらねえ!」
ヴェロッキオ「これほどの快感、一流のコールガールを抱いたところで味わうこたァできねェ!」
グレーテル「やったわ、兄様」
ヘンゼル「やったね、姉様」
モレッティ「……」ゴクッ
モレッティ「あの……ボス」
ヴェロッキオ「なんだ?」
モレッティ「俺にも一口、分けてくれませんか」
ヴェロッキオ「……モレッティ」
ヴェロッキオ「三下のおめェが親に向かって、ずいぶんな口を叩くじゃあねェか」
ヴェロッキオ「“わきまえ”って言葉はどこだ? どこかに落としてきたのか? あ?」
ヴェロッキオ「いいか、よく聞けクソ野郎!」ドガッ バキッ
ヴェロッキオ「一口だってやらねェよ!」ドゴッ ドカッ
ヴェロッキオ「たとえてめェがパレルモの親分衆だったとしてもな!」ドカッ ガスッ
グレーテル「あら、可哀想に」
ヘンゼル「仕方ないよ、姉様」
グレーテル「じゃあ、いよいよメインディッシュのボルシチにとりかかりましょう」
ヘンゼル「あ、そうだ。一度ここでボルシチについておさらいしておこうよ、姉様」
グレーテル「そうね」
グレーテル「ボルシチは、ウクライナの伝統料理で世界三大スープの一つともされるわ」
グレーテル「ロシアを始めとした、東欧諸国で広く食されているの」
ヘンゼル「僕らが生まれたルーマニアでも食されてるみたいだね」
グレーテル「ボルシチは家庭料理でもあるから、決まった作り方はないのだけど……」
グレーテル「私たちは私たちのやり方で作りましょう」
ヘンゼル「うん、分かったよ」
グレーテル「さ、調理開始よ」
ヘンゼル「いっぱい野菜が並んでいるね。まるで野菜畑だ」
グレーテル「ええ、ボルシチはたくさんの野菜を煮込む料理だから」
グレーテル「さっそく、ジャガイモ、セロリ、ニンジンを一口サイズに切るわ」ザクザク
ヘンゼル「なら僕はビーツ(赤カブ)とキャベツを切るよ」ザクザク
グレーテル「ボルシチの赤いスープは、ビーツによるものなのよ」
ヘンゼル「どうりで。血の色みたいでとてもキレイだもの」
グレーテル「本当ね、兄様」
グレーテル「お鍋を用意しましょう」
ヘンゼル「おとぎ話に出てくる魔女の釜みたいでステキだね」
グレーテル「まずは、牛肉、セロリ、ジャガイモ、ニンジンを油で炒めるの」ジャッジャッ
グレーテル「それから水を加えて、ベイリーフを入れて20分煮込むわ」グツグツ…
ヘンゼル「20分か……長いね」
グレーテル「トランプ遊び(ジンラミー)でもしましょうか?」
バラライカ「火を扱っている時に、火の元から目を離すな」ギロッ
グレーテル「怒られてしまったわ」
ヘンゼル「仕方ないよ、姉様」
グツグツ… グツグツ…
ヘンゼル「20分経ったね」
グレーテル「ビーツとキャベツを入れてしまいましょう」サッサッ
ヘンゼル「さらに、赤ワイン、トマトペースト、バルサミコ酢、ケッパーも入れよう」サッサッ
グレーテル「ここからさらに煮込むのよ」
ヘンゼル「わぁ、お鍋の中が、真っ赤になってきたよ。とても美しいね」
グレーテル「ええ、ホント。食べちゃうのが勿体ないくらい」
グツグツ… グツグツ…
グレーテル「ふうっ、やっと煮込み終わったわ」
ヘンゼル「長かったね」
ヘンゼル「それじゃ、スープを皿によそってしまおう。いい香りがするね」スッ
グレーテル「サワークリームとディル(ハーブの一種)を散らして、出来上がり!」
ヘンゼル「やったね、姉様」
グレーテル「やったわね、兄様」
グレーテル「どうぞ、召し上がれ」
ヘンゼル「血のように真っ赤なボルシチを、たんと味わってよ」
バラライカ「ボルシチは久しぶりだわ」
バラライカ「どれ……」ズッ
バラライカ「あら、スープと野菜が溶けあっていて、非常に美味だわ」
バラライカ「一口飲むたびに、体だけでなく心まで温かくなっていくような感覚ね」
バラライカ「質は量に勝る、というけど、このボルシチは質も量も兼ね備えている」
ヘンゼル「好評だね、姉様」
グレーテル「時間をかけたかいがあったわね、兄様」
ボリス「大尉殿」
バラライカ「なんだ、同志軍曹」
ボリス「我々にも一口頂けたら、と」
メニショフ「どうかお願いします」
サハロフ「是非」
バラライカ「……本音をいえば、一人で全部食べてしまいたいところだが」
バラライカ「お前たちは大切な戦友だ……許可しよう」
三人「ありがとうございます!」
ラプチェフ「おい、バラライカ」
バラライカ「ん?」
ラプチェフ「俺もブリヌイを作ったから食ってみてくれ」
バラライカ「あら、KGB(チェーカー)崩れにしては気がきくじゃない」モグッ
バラライカ「……」
ラプチェフ「どう?」
バラライカ「……一つ忠告しといてやろう、クソ野郎」
バラライカ「私はな、冷えたブリヌイが我慢ならんのだ!」ドカッ バキッ グシャッ
ラプチェフ「ぐげええっ……!」
ヘンゼル「あーあ、仲間割れだ」
グレーテル「ボルシチみたいに真っ赤な血が飛び散ってるわね、兄様」
張「……」
張「ところで、お嬢ちゃんたち」
グレーテル「なにかしら?」
張「俺には何かないのか?」
張「さして器もでかくもない俺の胃袋だが、さすがに待てなくなってきたようだ」グゥゥ…
グレーテル「もちろんあるわよ」
張「そりゃありがたい」
張(いったいどんな料理が……? 今までの流れからいくと、中華料理になるんだろうが――)
ヘンゼル「はいこれ」ドサッ
グレーテル「フライドチキンのバーレル」
張「……」
張「徹夜明けにゃ、ちと重いな……」ムシャムシャ
― END ―
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