――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「ケーキ食べ飽きたー」ダルーン
高森藍子「まだクリスマスまで10日くらいありますよ?」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第38話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「秋染め?」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「秋の日のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「早い早雪のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「滑って転びそうな日のカフェで」
加蓮「でも食べ飽きた。ケーキ食べる番組を何本やったかもう覚えてない。あの白いの見たくない。黄色いのも見たくない」グデー
藍子「はは……。でもそれって、加蓮ちゃんがモバP(以下「P」)さんにせがんじゃったからですよね?」
加蓮「そーとも言うー」
藍子「そうとしか言わないですっ。今年はいっぱいケーキを食べたい、なんて言ったら、Pさん張り切っちゃうに決まってますよ」
加蓮「そう?」
藍子「だって、せっかくの加蓮ちゃんのお願いですもん」
加蓮「……私ってさ、結構ワガママとか言ってる方だと思うんだよね」
加蓮「ほら。いっつも言ってばっかりだから、ありがたみもなくなったりしない? もういいや、って放り投げたりしない?」
藍子「放り投げたりですか。私がPさんなら……しないかな?」
加蓮「えー」
藍子「私が私でも、やっぱりしませんよ」
加蓮「…………私が私でもって?」
藍子「それは、私がPさんなら加蓮ちゃんを放り投げたりしないし、私がPさんじゃなくても加蓮ちゃんを放り投げたりしないってことです」
加蓮「うん。……うんん?」
藍子「私が加蓮ちゃんでも、加蓮ちゃんを放り投げたりしないと思います」
加蓮「ごめん本格的に意味分かんない」
藍子「それに、加蓮ちゃんがPさんにお願いしていたところを見ていたんですけれど――」
加蓮「……ちょい待ってストップ。あの時、藍子、いなかったよね?」
藍子「実はあの時、事務所に入りかけていて、ドアの前でおふたりの会話が聞こえちゃって」
加蓮「またアンタは……」
藍子「加蓮ちゃんのお願いする姿、冗談って感じがぜんぜんしなくて。Pさんも、すっごく真剣な顔になってたじゃないですか」
加蓮「あー……それはちょっとやりすぎたかなーって自覚はしてるよ。つまり藍子は私の自業自得と言いたいと」
藍子「そこまで言うつもりは――」
藍子「……」
藍子「……はいっ。自業自得です♪」
加蓮「…………」ヒクッ
加蓮「……逆にさ、複雑なんだよね」
藍子「複雑?」
加蓮「私がホントに真剣なのか、ホントはマジじゃないのか。Pさんには伝わってないのかな、って」
藍子「ううん……」
加蓮「……一応、私も私のことは分かってるつもり」
加蓮「藍子が言ったことじゃないけどさ。私がPさんで、あの時の私が……ああぁややこしい!」
加蓮「もうっ。えっと、私がPさんだとするよ? 加蓮ちゃんに真剣な顔でお願いされたらさ、真剣になって引き受けるとは思う」
藍子「うんうん」
加蓮「でも……それでもこう、ちょっとだけ疑って欲しいんだよね」
藍子「疑って欲しい……ですか? 信じて欲しい、じゃなくて?」
加蓮「マジ顔して言ってることって"いっぱいケーキが食べたい"だよ? どう考えてもなんかおかしいでしょ、それ」
藍子「うーん……」
加蓮「藍子が私にそんなこと言われたらどうする?」
藍子「……、……いっぱいケーキを用意しちゃうと思います」
加蓮「アンタもか……」
藍子「だって……疑えないですよ」
藍子「加蓮ちゃんにダマサれちゃうのはいいんです。……あはは、その、色々思っちゃいますけれど」
加蓮「ムカついたり」
藍子「べちっ、ってしたくなったり」
加蓮「取っ組み合いのケンカをしたくなったり」
藍子「ほっぺたをつねりたくなったり」
藍子「……って、取っ組み合いってまでは言いませんよ~っ」
加蓮「実はけっこー憧れてるんだよね。マンガとかである、こう、取っ組み合いのケンカとか」
藍子「そこです!」
加蓮「はい?」
藍子「それなんです。加蓮ちゃんの言うことが、加蓮ちゃんのやりたいことなのか、ただの冗談なのか……」
藍子「それを分かる人って、いないと思います。Pさんでも、加蓮ちゃん自身でも、きっと間違っちゃうかな、って」
藍子「だって加蓮ちゃん、やりたいことがいっぱいある、っていっつも言ってるじゃないですか」
藍子「ケーキだって、元気になったからいっぱい食べたい! って言われたら、私、絶対に信じちゃいますよ」
加蓮「そっかー……」
藍子「……………………」
加蓮「ん?」
藍子「ううん。……ってことで、加蓮ちゃん」
加蓮「はいはい」
藍子「諦めちゃいましょうっ」
加蓮「あははー……いい笑顔で最っ高にムカつくこと言ってくれるねー」
藍子「!?」
加蓮「いや、諦めるってすっごい嫌いな言葉だから無条件でね。藍子に悪意がないのは分かってるけど」
藍子「ほっ……」
加蓮「しょーがないなー。こう、駆け引きみたいなこともしてみたかったんだけどね」
藍子「駆け引き?」
加蓮「嘘を見抜いてくれるか、冗談を見抜いてくれるか。私の言うことを、疑ってくれるか」
加蓮「私だって女の子だもん。困らせたいって思う時くらいあるよ」
藍子「……」
加蓮「……私、ちょっと重たくなりすぎちゃったかな」
藍子「…………」
加蓮「…………」
加蓮「……ケーキ飽きた~。藍子、助けて~」
藍子「……それなら加蓮ちゃん、嫌だ、って言っちゃえばいいのに」
加蓮「いやいや。Pさんからもらえる仕事を嫌って言うとか有り得ないし」
藍子「いつもそうやってすっごく真面目だから、冗談や嘘だって疑われもしないんだと思いますよ?」
加蓮「はっ。これが原因!? よし決めた。私、今日から悪い子になる!」
藍子「…………」ジー
加蓮「……な、なによ」
藍子「悪い子」
加蓮「わ、悪い子」
藍子「加蓮ちゃんが?」
加蓮「加蓮ちゃんが!」
藍子「はあ。悪い子」
藍子「……なれるといいですねーがんばってくださいねーかれんちゃんー」
加蓮「何そのアンドロイドみたいな言い方!?」
藍子「高森藍子、今日からアンドロイドになりますっ!」
加蓮「一家に一台藍子ちゃん」
藍子「えへへ。ごほんっ。われわれはー、うちゅうじん……じゃなかった、われわれはー、あんどろいどだー、ですー」
加蓮「新感覚、アンドロイド系アイドル! そんな藍子ちゃんは何ができるのでしょうか!」ズイ
藍子「え? それは……えーっと……う、歌って踊れます」
加蓮「アンドロイドなのにすごく人間っぽく喋るんですね!」
藍子「あっ。……う、うたってー、おどれますー、よー」
加蓮「歌って踊るにしては色々とボリュームが足りないと思うんですがそれは!」
藍子「ええと、12月の限定メニューは……あはっ、やっぱりケーキがいっぱいある♪」パラパラ
加蓮「ごめんなさい勘弁してくださいもうケーキはホント見たくない」
藍子「もうっ。アンドロイドだって、傷つく時には傷つくんですから。……きずつくんですよー」
加蓮「きずついちゃいますかー」
藍子「きずついちゃいますよー」
加蓮「……」
藍子「……」
藍子「……棒読みって、疲れるんですね」
加蓮「分かる。逆に疲れるね……」
藍子「やっぱり私、女の子でいいです」
加蓮「私もー」
藍子「そういえば、コーヒーをいっぱい飲む……淹れる? だっけ? ってお話、どうなったんですか?」
加蓮「アレね……そうそう、聞いてよ。Pさんにさ、コーヒーを淹れたの。淹れ方よく分かんないけどこう、バリスタ? ……だっけ? とかで、なんか本格的なのをさ。雑誌買ってちょこっと勉強して」
藍子「ふんふん」
加蓮「私とPさん、2人分淹れたの。渡してあげたら、すっごく喜ばれて」
藍子「わぁ……! よかったですね、加蓮ちゃんっ」
加蓮「うん、そこまではよかったんだ。なんか思ったより喜ばれたから、私も笑っちゃってさ。しばらく笑い合ってたよ。ふふっ、変な光景だけどね」
藍子「その時の加蓮ちゃんとPさん、撮りたかったなぁ……」
加蓮「そこまではよかったの。でもさ……Pさんと一緒に飲んでみたらさ」
藍子「うんうんっ」
加蓮「……コーヒーが激苦だった」
藍子「あぁ……」
加蓮「ってかぜんぶ飲めなかった。ぜんぶどころか、ぜんぜん飲めなかった」
藍子「加蓮ちゃんが飲めないほどの苦さ……うぅ、想像するだけでも甘いものが食べたくなっちゃう」
加蓮「私だってささやかな反抗はしたんだよ? 私の飲んだ側を向こう側にしてPさんに渡してみたり」
藍子「抜け目がないんですね」
加蓮「すいっ、と無言で押し返された。私が押して、Pさんが押し返して。で、その辺からPさんがニヨニヨしはじめて……」
藍子「それでそれで?」
加蓮「流し台へだばー。ついでに私の口の中もだばー。冷蔵庫から誰のか分からない、なんかレア物っぽいジュースが1つ消えちゃいました」
藍子「ジュース……そういえば前に、誰かが騒いでいたような?」
加蓮「マジ? 後で謝っとこ。騒いでたの誰?」
藍子「うーん……。確か……歌鈴ちゃんだったっけ……?」
加蓮「よし放っとこ。それからさ、Pさんに『まだまだ子供だな』って! なんかもう弱みでも握ったんじゃないかってくらいにすっごいムカつく笑みで!」
藍子「ふふ。加蓮ちゃんもだけれど、Pさんにも子どもっぽいところがあるんですね」
藍子「……あと、歌鈴ちゃんに謝っておきましょうね?」
加蓮「ヤダ」
藍子「そういうことするから、Pさんに子どもだって思われちゃうんじゃ――」
加蓮「私にもプライドがあるの!」
藍子「もっと別の場所で誇ってくださいっ」
加蓮「コーヒーはもういいや。……でもこれで終わりっていうのもなんかヤダなぁ」
藍子「そういう時は練習あるのみですよ、加蓮ちゃん」
加蓮「んー。……また練習してみよっかなぁ。藍子、相手してくれる?」
藍子「相手って……も、もしかして、加蓮ちゃんでも飲めなかった激苦コーヒーを……!?」
加蓮「あはは、さすがにそんなに苦くはならないって。…………たぶん」
藍子「たぶん!?」
加蓮「私、まだコーヒー初心者だし」
藍子「それなら素直にミルクを入れて、カフェラテかカフェオレにしましょうよ……」
加蓮「その手があったか。……でもさー、私のイタズラ心っていうか、困らせちゃえって気持ちがいつ浮かんでくるかも」
藍子「…………」ジトー
加蓮「藍子ちゃん藍子ちゃん。目が怖い」
□ ■ □ ■ □
加蓮「さて、藍子に重大報告があるんだ」
藍子「重大報告?」
加蓮「うん。重大な報告」
加蓮「……」
加蓮「……今朝は急に誘ってゴメンね? 藍子にも予定とかあったでしょ」
藍子「あはっ、急にどうしたんですか。外せない予定があったらちゃんと断ってますよ? 加蓮ちゃんの気にすることじゃないですよ~」
藍子「それに、今日は1日何をしようかな、って考えていた時、ちょうど加蓮ちゃんが連絡をくれたんです」
加蓮「それならよかった。電話やメールって手も考えたんだけどさ……でも……これは、どうしても直接伝えたかったんだんだ」
藍子「伝える……?」
加蓮「大切なことって、やっぱり直接会って、目を見て言わなきゃね」
加蓮「電話だと……話すことは簡単かもしれないし、躊躇わずに済むかもしれない。でも、それって逃げるってことだと思う」
藍子「……あの……加蓮ちゃん?」
加蓮「それに、最初にどうしても藍子に伝えたかったんだ。他の誰でもない、藍子に」
藍子「…………」
加蓮「聞いてくれる?」
藍子「……少しだけ……待ってください」
藍子「…………」
藍子「うんっ。大丈夫ですよ、加蓮ちゃん。改まってどうしたんですか?」
藍子「いつもの加蓮ちゃんなら、そんな前置きなんてしないで――」
藍子「ぽんぽんと、いろんなお話をしてくれるのに」
加蓮「あははっ。隠そうとしても藍子、緊張しているのが見え見えだよ。もう、気を遣っちゃって」
藍子「っ……も、もうっ、いいから早く言ってください! 覚悟、決めちゃいましたからっ」
加蓮「分かった。焦らしても仕方ないもんね」
加蓮「実はさ――」
藍子「実は……?」
加蓮「…………」
藍子「……加蓮ちゃん?」
加蓮「ううん。藍子だって覚悟を決めてくれたもん。私がここで躊躇してたら、想いを踏みにじっちゃうことになるよね……」
加蓮「でも……いざ言うとなると、やっぱり……」
藍子「……悪いお話なのは確定なんですね」
藍子「私は何があってもあなたの味方です。でも、話してくれないと、私には何もできなくなっちゃうから――」
藍子「だから、加蓮ちゃん」
加蓮「うん。今度こそ大丈夫だよ……」
加蓮「実は――」
藍子「……」ゴクッ
加蓮「クリスマスイブにLIVEの仕事が入ったんだ。メンバーも決定済み。だから、藍子と一緒にお仕事っていうのはちょっと難しいかも」
藍子「……」
藍子「は?」
加蓮「ちょっ、何今の地声!? どっから出したの!? っていうかそんな声出せるんだ!?」
藍子「……ごめんなさい加蓮ちゃん。もう1度、言ってもらっていいですか……?」ワナワナ
加蓮「だからさ、LIVEの仕事ができたから藍子が前に言ってた"クリスマスに一緒にお仕事"っていうのはちょっと難し、」
藍子「そんなこと!? そんなことであれだけ溜めたんですか!?」ガーッ!
加蓮「何でブチ切れてんの!?」
藍子「何度も何度も言うのやめてちゃって、ものすごく重たい話って風にして!」
藍子「わっ、私、とんでもないお話が来るんじゃないかって覚悟を決めて……!」
藍子「それで言うことがそれだけ!? ……そ、そんなに私を怒らせたいんですか!?」
加蓮「もうキレてるじゃん!」
藍子「私だって怒る時には怒りますからぁ!」
加蓮「ど、どーどー。ほら、他のお客さんがこっち見てるよ? アイドルバレしちゃうよ?」
藍子「はっ。そ、そうですよね。バレちゃったら私も加蓮ちゃんも困っちゃいますもんね。……すぅー、はぁー」
藍子「……加蓮ちゃんっ!!」
加蓮「落ち着けてないし!?」
藍子「誰だって怒りますよ私だってなんならPさんだって怒ると思います!」
加蓮「あ、あははー、藍子がこんなに声を荒らげるなんてレアな物が見れたなぁ――」
藍子「加蓮ちゃん!」
加蓮「スミマセン」
藍子「……加蓮ちゃんはやっぱりもっと自覚するべきです! やっぱり自覚できていません! 自分がどういう風に見られてるかってこと!」
加蓮「いや、だって――」
藍子「加蓮ちゃん!!!」
加蓮「ゴメンナサイ」
加蓮「……でもその、ほら、もうちょっと冷静になろ? ほらあっちの人とかスマフォでなんか検索してる。たぶんあれ確認してるよ私達のこと」
藍子「……、……外で騒いじゃったら、他の人にも迷惑ですよね」
加蓮「で、でしょー?」
藍子「ふぅっ……」シンコキュウ
藍子「……」
藍子「…………加蓮ちゃ――」加蓮「ストップ! 落ち着いて! ループしてる。ループしてるから話が」
……。
…………。
加蓮「コーヒーとホットココアありがとー。……ごめんね店員さん」
藍子「すみませんでした……」(←だいぶ冷静になれた)
加蓮「はい藍子。ココアどうぞ」
藍子「はーい……」ズズ
加蓮「私はコーヒーを、っと」ズズズ
加蓮「……ぅえー。苦いー。ここのコーヒー、こんなに苦かったっけ……?」
藍子「苦いコーヒーを飲んだ思い出が印象に残っているから、余計に苦く感じちゃうのかもしれませんね」
加蓮「かなぁ。じゃ甘い物……クリーム、イチゴ、チーズ……うぷっ」
藍子「ああっ、食べてもいないのに胸焼けを起こしちゃってる……。大丈夫?」
加蓮「へ、へいきへいき。……激甘か激苦かしかないのか、私の人生は……?」
藍子「うーん。……激辛?」
加蓮「カレーでも食べてみよっかなぁ」
藍子「それもいいかもしれないですね」ズズ
加蓮「藍子ー、作ってー」
藍子「私が作ったら、甘口になっちゃいますよ」
加蓮「ちぇー」
藍子「……ふうっ。やっと冷静になれました。クリスマスLIVEに参加することになったんですね、加蓮ちゃん」
加蓮「うん。前に藍子が何度もさ、クリスマスに一緒に~って言ってたけど……ちょっと無理そうになっちゃって。ごめんね?」
藍子「ううん。そんなことより……LIVE決定、おめでとうございますっ。私、絶対に見に行きますね!」
加蓮「うんうん。来て来てー」
藍子「あっ……でも、私もお仕事があるから難しいかも? いやでも……ううんっ、ちょっとだけでもっ」
藍子「あと、テレビ番組も録画して、お母さんやお父さんと一緒に見なきゃっ。それからDVDにも録画して――」
加蓮「アイドルが熱烈なアイドルファンみたいなことしてる」
加蓮「クリスマスLIVEかー。思い出すなぁ。藍子や菜々ちゃんとステージに上がった時の」
藍子「ふふっ。私も覚えていますよ。お客さんがみんな盛り上がって、ステージごと揺さぶるくらいで……」
藍子「呑み込まれないように一生懸命だったけれど、でもっ、ファンのいっぱいの声、今でも思い出せちゃいますっ」
加蓮「すっごい思い思いに叫んでたもんね、みんな。愛してるよー! だって。……えへへ♪」
藍子「……あはっ」
加蓮「っとと。そうじゃなくて。あの時と同じくらい……ううん。あの時を追い越すくらいに頑張るからね、私」
藍子「加蓮ちゃんなら絶対にできますよ!」
加蓮「なんたってクリスマスLIVEだもん。私からファンのみんなへプレゼント! なんてねっ」
藍子「最高のクリスマスプレゼント、お届けしちゃいましょうっ」
加蓮「うんうんっ」
加蓮「……」
加蓮「……」ズズズ
加蓮「……クリスマスプレゼントかー」
藍子「?」ズズ
加蓮「ううん。ちょっと思い出したことがあって」
加蓮「……昔話とかじゃないんだけどさ。いや、昔話かもしれないけどね」
加蓮「ほら、覚えてる? ずっと前に、病院でLIVEをしたいってPさんにお願いしたら、やっぱり難しいって断られちゃったお話」
藍子「ええと……、確か、テレビのお話でしたっけ……?」
※第11話でそんな会話をしています
加蓮「うん。私がネクロマンサーになる話」
藍子「あぁ……そういえばそんなことも。あの時も加蓮ちゃん、すごいことを言っていましたよね」
加蓮「たははっ。ま、冗談はさておき。最近はスマフォとかネット配信とかが増えてきて、テレビ番組って減ってきてるじゃん。視聴率だって下がりっぱないだし」
加蓮「さすがに今度のクリスマスLIVEはテレビでもやってくれるけど……それでも、たまに思うんだ」
加蓮「私を届けたい人。私の声と想いを――夢は叶うんだ、って気持ちを届けたい相手に、ちゃんと伝わってるのかな、って」
藍子「届けたい相手……」
加蓮「ファンのみんなはすごく優しくて、ステージに上がる度に嬉しくなるんだ。受け入れてくれる、届けられてる、って」
加蓮「でも……私の世界は、そこだけじゃない」
加蓮「もしかしたら、一番届けたいかもしれない相手は、そこにいなくて。それどころか、私を見える場所にいるかも分かんない」
藍子「……病院の人、ですね。昔の加蓮ちゃんと、同じ人たち」
加蓮「うん」
加蓮「テレビ番組が減ってきても、その番組ぜんぶに出てやればいいんだ! ってくらいに気合が入るし、視聴率? 稼げばいいじゃん! ってなるんだけどさ」
藍子「ぜんぶになんて、すごい目標ですねっ」
加蓮「でしょー? ……なのに、この時期だけはちょっとね」
藍子「クリスマス……」
加蓮「近づくにつれて、色々と思い出しちゃって。やっぱり、ちょっと不安になるんだ」
加蓮「……分かってるよ。私は大丈夫。輝けてる。周りにみんながいる。幸せだよ」
加蓮「例えいつか私を絶望に堕とした神様が相手でも、それは堂々と言える」
加蓮「だけど、これは私だけの話じゃない」
加蓮「私が輝いている世界の端で、私が希望の手を差し伸べたい相手は……灰色の世界に埋もれてるだけかもしれない」
藍子「……」
加蓮「それでこの前、またPさんに相談してみたの。病院でLIVEができないか、って」
藍子「Pさんは、なんで……?」
加蓮「やっぱり駄目だって。色々と難しい、ってさ」
加蓮「そもそもスケジュールの問題もあるよね。年末年始だもん。番組とかステージとか、私を待っている場所がいっぱいある。無視なんてできないよ」
加蓮「……初めてだなぁ。アイドル"だから"できないことがある、なんて」
加蓮「後悔とかじゃないんだけど……なんだろ。忘れ物をして、もう取りに戻れない、って感じかな」
藍子「…………」
加蓮「……ん。さすがにアイドル辞めるなんて言い出したりはしないよ?」
藍子「それは……その心配はしてなくて、でも……」
加蓮「……」
加蓮「…………」
加蓮「…………………………」
藍子「……? 加蓮ちゃん?」
加蓮「……もう1つ」
加蓮「こっちは……本当にマジな話。言おうか言わないでおこうか悩んだんだ」
藍子「はあ……」
加蓮「藍子」
加蓮「私って実はすっごく臆病なの」
加蓮「今でもまだ、独りぼっちになる夢を見るんだ」
加蓮「その度に藍子の言葉を思い出すけど、真っ暗な私をやっつけないといけないから、いつもクタクタになっちゃう」
加蓮「今でもまだ、裏切られる夢を見るんだ」
加蓮「必要とされなくなることを恐がってるんだ。自分はアイドルだって思い出すまで、時間がかかって、汗びっしょりになって」
藍子「…………」
加蓮「やりたいことがあって、その為の……リスク、って言うのかな。リスクとか……失敗した時のことを想像すると、本当にしんどくなるの」
加蓮「それでも分かるんだ。やらないと、絶対に後悔する」
加蓮「……」
藍子「……、……私は、何をすればいいですか?」
加蓮「え?」
藍子「加蓮ちゃんの気持ちが分かる――なんて言ったら、加蓮ちゃんに失礼かもしれません」
藍子「でも、私は知っているんです。そういう時に背中を押してくれる人がいる時の、心強さを」
藍子「私は、何をすればいいですか? ……私に何かできるから、加蓮ちゃん、今のお話を聞かせてくれたんですよね」
加蓮「……あはっ……。見抜かれてるんだ?」
藍子「当たり前ですよ。私がどれだけ、あなたとお話したと思っているんですか?」
加蓮「……これでもガクガク震えるのを堪えてたんだけどなー。藍子に拒絶されるのが、恐くて恐くて」
藍子「拒絶なんてしませんよ。……もうっ。もし加蓮ちゃんから突き放されたら、こっちから抱きしめちゃいますから!」
加蓮「あははっ! 苦しくなっちゃいそうだね、それ!」
藍子「苦しくなるくらいに抱きしめますから」
加蓮「そっか。……藍子はそうだったね。……ねえ、藍子」
藍子「はいっ」
加蓮「やりたいことがあるの。クリスマスイブの夜に、予定を空けててくれる?」
藍子「いいですよ。クリスマスイブの夜ですね?」
加蓮「えっ。……いや……さすがに即答されるとちょっと」
藍子「なんなんですかっ。何か手伝ってほしいことがあるんですよね? それとも、実は断って欲しかったっていう、いつものひねくれちゃった加蓮ちゃんなんですか?」
加蓮「そういうんじゃ、っていつものって何」
藍子「いつものはいつものです」
加蓮「むむむ。……あの、予定とか大丈夫なの? 仕事とか……そうじゃなくても、ほら、パーティーとかあるんじゃないの? あとこっそりデートの約束とか」
藍子「ないです。あってもぜんぶ断ります。……こっそりデートとかは、あの、私にはまだ早いです」
加蓮「藍子の愛が重くて怖い」
藍子「愛って……。真面目にお話を聞いてるんだから、加蓮ちゃんも真面目に答えてください。手伝ってほしいんですか? それとも、私は見ているだけの方がいいですか?」
加蓮「……手伝って欲しい」
藍子「分かりました。それなら予定は空けておきますね。何か、準備とかは――」
加蓮「ううん、準備は特には。用意するものはいくつかあるけど、それはぜんぶ私がやるから」
藍子「はーい」
加蓮「あっ」
藍子「……? 何か、準備とか思いつきました?」
加蓮「んー……えーと……笑わないで聞いてね?」
藍子「?」
加蓮「その、さー。ほら、まだクリスマスまで結構時間あるじゃん。10日くらい……。その間にまた、こうして……躊躇ったり、やめようって思っちゃったりするかもしれないから……」
加蓮「その時には藍子、私にびしっと言ってやってよ」
加蓮「……きっと、助けて、って、素直に言えないと思うから。私」
藍子「はいっ」
加蓮「ありがと」
藍子「いいえ。そうなった時は、遠慮なくやっちゃいますから!」
加蓮「お、お手柔らかにでいいよ?」
藍子「まずは、トレーナーさんから指導する時のコツを聞いて……」
加蓮「そこまでマジにならなくていいから!?」
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
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