テレビ『まもなく平和式典が始まろうとしています!』
テレビ『会場は大盛り上がりで――』
男(そういやこの式典、わりと家から近いところでやってるんだよな)
男(でも、今日の俺はそれどころじゃない)
男「テレビうるさいから消しとくか」ピッ
プツッ…
男「さて……始めるか」
男「悪の組織のボスごっこを!」
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男「まずはスーツだ……」
男「この日のためにAOKIで買った黒スーツ!」
男「ワイシャツ着て、ズボン履いて……」
男「やべっ、やっぱ長い! 見栄張らず、すそ上げしてもらうべきだった……まぁいいや」
男「ネクタイを締める!」ギュッ
男「上着を羽織る!」バサッ
男「そして、このGATSBYのワックスでオールバックにすれば……」サッ
男(あれ? なかなかオールバックにならねえ……)サッ
男(もっと強いワックス買うべきだった……!)サッ
男「よし、できた!」
男「おお……結構悪のボスっぽく見えるじゃん!」
男「続きましては、この女のマネキン!」
男「デパートで処分するのを、安く譲ってもらったんだ」
男「これをここらへんに立てておこう」ドンッ
男「やはり、悪の組織のボスたる者、秘書がいなきゃならんからな」
男「次はお待ちかね、ニトリで買ったこの一人用ソファ!」
男「こいつに座る!」ドカッ
男「おお、安いの選んだけど、結構フカフカで気持ちいい!」
男「おお~、おお~」フカフカ
男「おお~、おお~」フカフカ
男「……いかんいかん、目的を見失うところだった」
男「この葉巻!」ジャン!
男「葉巻ってそこらで買えるもんかと思ってたけど、結局売ってなくて通販に頼っちゃった」
男「これをくわえる」ハムッ
男「おお、いいねいいね!」
男「もちろん火はつけない! ……俺はタバコ吸えないからな」
男「いよいよ、ウーロン茶をブランデーグラスに注ぐ!」トクトク…
男「いいね……ブランデーグラスがウーロン茶の琥珀色を美しく引き立てる」
男「で、こいつを下から持って回す」ユラユラ…
男「おお、それっぽい!」ユラユラ…
男「やっべえ……俺マジ悪の組織のボスっぽいんだけど! っべえ!」
男「なぜ本物のブランデーじゃないかって? 俺は下戸なんだよ!」
男「仕上げは猫!」
男「悪の組織のボスに、猫は欠かせないからな!」
男(俺は元々猫を飼っている。名前はタマ。雑種だが、なかなか可愛い奴なのだ)
男「おーい、タマー!」
猫「ニャン?」
男「俺の膝に来なさい」ポンポン
猫「ニャン」プイッ
男「なっ!」
男「いいから来るんだ!」
猫「フーッ!」
男「今日は多めにエサあげるから! ね?」
猫「ニャン♪」タタタッ
男(くっそ……俺って完全にこいつにナメられてるよな。まあいいや)
男「黒スーツ! オールバック! 秘書! ソファ! 葉巻! ブランデー! 猫!」
男「≪悪のボス七つ要素≫が完璧に揃った!」
男「よぉ~し、じゃあ本格的に悪の組織のボスごっこを始め……」
バーンッ! パァンッ! バーンッ!
男「!?」ビクッ
バシャッ
男「やっべ、ウーロン茶こぼした!」
猫「ニャーン!」スタタタッ
ガチャーンッ
男「グラス割れた!」
ボトッ
男「葉巻落ちた!」
ズルッ
男「俺、葉巻でこけた!」
ベチャッ…
男「床にこぼれたウーロン茶にスーツごとダイブした!」
猫「……」ジョロロ…
男「タマ、ショックで漏らした!」
男「……」
男(スーツもソファもウーロン茶まみれ……床にはガラスと小便が散らばり……)
男(せっかく今日のごっこ遊びのために色々と準備してきたのに……)
男「ふざけやがってぇ……!」
男「なんなんだ、今の轟音は!?」ガラッ
パァンッ! バーンッ! パパァンッ!
男(そうか……平和式典の花火ってやつか……)
男「ゆ、許せん……!」
男「よくも俺の悪の組織のボスごっこを台無しにしやがったな!」
男「俺は……平和を許さないッ!!!」
――
――――
ボス「……ん」
側近「ボス、お目覚めですか」
ボス「ああ、ついウトウトしてしまった。夢を見ていたようだ」
側近「ほう、どんな夢を?」
ボス「私が平和というものを憎み、この悪の組織を設立するきっかけになった事件の夢だ」
側近(ボスはその驚異的な能力とカリスマ性で、たった数年で世の悪人を束ね上げ――)
側近(今や誰もが恐れる悪の帝王として、裏社会に君臨しておられるが……)
側近(一体どんな壮絶な過去が……! 知りたい……!)
側近(しかし、やめておこう。そんなパンドラの箱にわざわざ近づくこともあるまい)
側近「ところで、ボス」
ボス「なんだ?」
側近「タマ様が遊んで欲しいらしく、あちらで駄々をこねておられます」
ボス「やれやれ、仕方ないな……ネコジャラシで遊んでやるとするか」
<終わり>
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