梓「ツルレイシ」 (12)
けいおんSS
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律「……なんで部室に山盛りのゴーヤがあるんだ?」
唯「ゴーヤじゃないよ、ゴーヤーだよ」
澪「わたしたちもわからないんだ。入ってきたら、大量のゴーヤがあって」
唯「ゴーヤじゃないよ、ゴーヤーだよ~?」
律「ムギも梓も知らないんだよな?」
紬「えぇ、わたしたちは澪ちゃんたちの後に来たから」
律「となると、一体誰がこのゴーヤを……?」
唯「ゴーヤじゃないよ、ゴーヤーだよぉーーー!!」
梓「ツルレイシ」
*
梓「で、どうすんですか、この大量のツルレイシ。捨てるにしても勿体ないですよ」
律「だよなあ、腐ってるわけでもなさそうだし」
澪「五人でそれぞれ持って帰っても余る量だぞ」
律「うーん、とりあえず袋にまとめておくか」
梓「うわぁ……ゴミ袋が一杯いっぱいになりましたよ」
紬「改めて見ると凄い量ね。仕掛け人の本気を感じるわ」
律「仕掛け人はツルレイシに恨みでもあったのか?」
梓「むしろ愛していたのでは?」
唯「でもこうして愛の込められたゴーヤーがゴミ袋に詰められている姿を見てると……
まったく食べる気が起きてこないね!」
澪「もう生ごみにしか見えないな」
律「おいなんでゴミ袋に入れちゃったんだ」
梓「それは三十秒前の自分に言ってるんですか?」
*
紬「レジ袋に分けてみたわ」
澪「かなりマシになったな」
律「マシとかいうな、マシとか。
このうち五袋をわたしたちで分けるとして、残り十袋か……」
梓「配れない量ではありませんけど、なんでツルレイシって思われそうで辛いですね」
紬「間違いなく不審者ね」
律「憂ちゃんなら使い切れない?」
唯「できるかもわからないけど、
食卓がゴーヤーまみれになるのはお断りだよ」
紬「朝昼晩、おはようからおやすみまでツルレイシ」
梓「良かったじゃないですか唯先輩、まるで沖縄旅行ですよ」
唯「あずにゃんの中の沖縄にはゴーヤー畑しかないのかな」
*
律「よし、誰がこのツルレイシを配るかを決めるか。
誰かやりたいひとー?」
「…………」
梓「さっき不審者扱いを免れないと言った手前、誰もやりたがりませんね」
律「そりゃそうだよなあ」
澪「律、部長だろ。部室で起きたトラブルは部長が片づけるべきだと思うんだ」
律「おっ、さっそく部長を切り捨ててくるゥ!」
梓「信頼の裏返しですよ」
律「裏返してくれなくていいんだけどな?」
紬「りっちゃんならやってくれるって信じてる!」
律「まっすぐな信頼も辛かった」
*
唯「もう諦めるしかないと思うよ、りっちゃん」
律「いいやまだだ。わたしにはとっておきのワイルドカードがある」
梓「この期に及んでまだあがきますか」
律「唯、お前に言っておきたいことがある……」
唯「うん?」
律「……誕生日、おめでとう」
唯「えっ」
律「このツルレイシが誕生日プレゼントだ。本当におめでとう、唯」
唯「……あの、りっちゃん……
わたしの誕生日は二週間ぐらい前なんだけど……」
律「あぁわかってる。遅くなってごめんな」
唯「遅くなったにしても微妙な時期だよ!」
澪「そうか、誕生日プレゼントって内容はどうあれ断りにくいもんな。
律にしてはいい作戦を考えたもんだ」
唯「なに澪ちゃんは納得してるの!?」
梓「唯先輩、おめでとうございます」
唯「心がカケラもこもってないよ!!」
紬「……唯ちゃん、遅れちゃったけど本当に誕生日おめでとう!」
唯「……まっすぐな言葉も辛かった」
*
その日、
「おいゴーヤー食わねぇか?」
と言って回る不審者が確認されたが、
この一件とは無関係であると
平沢唯は強く心に刻んだという。
*
唯「ただいま~……」
憂「おかえり、お姉ちゃん。
あれ、どうしたの? すごい疲れてるみたいだけど?」
唯「うん、詳しくは言えないんだけど、色々あったんだよ。色々とね……」
憂「そ、そうなんだ……。あ、そういえば今日学校でゴーヤを」
唯「ゴーヤじゃなくてゴーヤー……、いやもう今日はいいかな……」
憂「? あのね、ゴーヤをたくさんもらって」
唯「……えっ? 憂にはあげてないはずなんだけど……?」
憂「それってどういうこと? わたしが貰ったのは和ちゃんからだよ?」
唯「えぇ?」
憂「お姉ちゃんたちにも~って部室に置いておいた、って言ってたけど」
唯「……ちょっと憂。憂のもらったゴーヤーを見せてもらってもいい?」
憂「うん。これ全部だよ」
唯「うわぁ」
憂「すごくたくさん貰っちゃって」
唯「和ちゃん……一人ぶんが多すぎるんだよぉ……!」
*
それから一週間ほど、
平沢家の食卓にゴーヤーが並ばない日はなかった。
平沢唯は後日「これが沖縄の気持ちだよ」と語り、
ある曲を書き上げた。
そうして生まれた曲が『ごーやーはしゅしょく』であり、
そこから派生した曲が『ごはんはおかず』なのである。
ちなみに派生前の曲はツルレイシ派の梓によって握りつぶされた。 ‐おしまい‐
以上です、ありがとうございました
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