乙雅三「もしも『チープ・トリック』とうまく共存できていたら」 (20)

乙雅三を本にした露伴。

露伴「ふむふむ……こいつの名は『乙雅三』」

露伴「電話したヤツに間違いないようだな」

露伴「――ん!?」


「近頃、背中に変なヤツがとりついた。『チープ・トリック』と名乗っている」


露伴「こ、こいつッ! まさか……スタンド使いかッ!」

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露伴「一体どんな能力なんだ!?」ペラ…


「能力はしゃべるだけ」


露伴「しゃべるだけ……だと?」

露伴「パワーもないようだし、大したスタンドじゃあないな……」

露伴(他のページを読んでみても、特にぼくに敵意や悪意はないようだ)

露伴(こいつに家の修復を任せて問題はなさそうだが……)

露伴(念のため、この露伴には攻撃できないと書いておくか)サラサラ

乙「……ん?」

乙「あれ、わたし、どうかしてましたか?」

露伴「いや、なんでもない」

露伴「さっそく打ち合わせを始めたい。焼けた部屋を見て、修復費用を見積もってもらおうか」

乙「かしこまりました!」ニコッ

……

……

乙「この焼け具合からですと……二千万は見てもらわないと」

露伴「二千万!?」

露伴「冗談じゃあないぞッ! 建て直した方がマシなんじゃあないかッ!」

乙「そうおっしゃられても……」

チープ・トリック『ね? 二千万で妥協しとこ? ケチってもいいことないって、ねっ』

露伴「う~む、そうだな。二千万でお願いするか……」

露伴(――ん? 今なにかこの設計士の声ではない声がしたような……)

乙「ご安心下さい! 見違えるようにしてごらんにいれます!」

露伴「分かったよ。じゃあ二千万で――」

チープ・トリック『ところで、今何時?』

露伴「今? 今は昼の三時だな」

チープ・トリック『三千万で商談成立! ねっ』

乙「ではお見積りは三千万ということで、契約に入らせていただいてよろしいでしょうか?」

露伴「ああ、かまわないよ」

乙「では、この契約書にハンコを……」

露伴「ああ――」

露伴「ちょ、ちょっと待ったッ! やっぱり三千万というのは高すぎるんじゃあないかッ!」

乙「ええっ、そ、そんなッ!」

チープ・トリック『チィッ! おしい!』

露伴(やっぱりそうだ……ぼくがボケてるんじゃなけりゃ、見積もり金額は二千万だったはずッ!)

露伴(いつの間にか三千万に……!)

露伴(たしか、さっきのは……落語の『時そば』を真似た手口だ……)

露伴(そうか、あの乙雅三の背中にいる小さなスタンド……あれのせいだッ!)

露伴(あいつのささやきで、ぼくの調子が狂わされているんだッ!)

露伴「三千万なんて金額じゃあ、ぼくは契約しないッ! 他の建築士を探すッ!」

チープ・トリック『じゃあさ、いっそ四千万でいいよね? ね?』

チープ・トリック『家を建て直すんだもん……ケチケチしてたら、またすぐ壊れちゃうもんねっ』

乙「そうですとも! ここは前より豪華にする勢いで改装を……」

露伴「ふざけてんじゃあないぞッ!」

露伴「さっきまでは二千万だったはずだ! 二千万でなければ、契約はしないぞッ!」

乙「……お」

乙「終わりだよ……わたしはもう終わったんだ……」

乙「四千万で仕事を引き受けてもらえないと……」

乙「わたしはもう終わりなんだよォォォォ――――ッ!!!」

露伴「お、落ち着けよ……。悪かったよ……! ちょっと言いすぎたよ……」

チープ・トリック『値切るなんてやめよ? ね?』

チープ・トリック『ポコチンついてるんだから、男らしくドーンとお金出そ?』

露伴「分かったよ……四千万でいいよ……」

露伴「!」ハッ

露伴(まずい……まずいぞ)

露伴(この設計士の背中についてるスタンドの話術で、どんどん値がつり上がっていく!)

露伴(『ヘブンズ・ドアー』で乙雅三に命令して安く見積もらせるのは簡単だが……)

チープ・トリック『おい露伴、まさかスタンド使って値切るなんてマネはしないよね?』

チープ・トリック『岸辺露伴ともあろう者が、そんなズルみたいなことしないよねっ?』

チープ・トリック『だってぼくらはただしゃべってるだけなんだぜ? フェアじゃないよね?』

露伴(ぐっ……! こんなこといわれて、『ヘブンズ・ドアー』を使うわけにはいかないッ!)

乙「じゃあ、四千万で契約ということで……」

チープ・トリック『いーや、一億だ!』

チープ・トリック『ね、露伴? 一億でいいよね? マンガで稼いでんだし、パーッと散財しよ?』

露伴「一億!?」

露伴「いい加減にしろッ! 一億も出すんだったら、新しく豪邸でも建てた方がマシだ!」

露伴「この露伴に、お前の怪しげな話術はもう通じない! お前の能力は封じられたんだッ!」

チープ・トリック『ぐッ……!』

チープ・トリック『じゃあ五千万でいいや』

露伴「なに、半額だと!? よし……五千万でいいだろう」

乙「ありがとうございます!」

露伴(まさか半値になるとは……ゴネてみるもんだな)フフフ…

露伴(――ん!? いや待て、なんかおかしくないか!?)

露伴(あのスタンド、『最初に無茶な要求をしてから、本当に通したい要求を話す』という)

露伴(セールスマンや詐欺師御用達のテクニックを使いやがった!)

露伴(こんなチープなトリックに、この露伴がしてやられるとはッ!)

露伴(なんとか、五千万から少しでも値切らないと……)

チープ・トリック『もう一声! もう一声! もう一声! もう一声! もう一声!』

乙「いかがでしょう? もう一声……」

露伴「ええい、やかましいッ!」

露伴「分かったよ、六千万で契約してやる! ほらハンコ!」ポンッ

露伴「だからとっとと帰ってくれ! 耳障りだッ!」

乙「ありがとうございます」ニコッ

乙「では、今日のところはこれで……」バタン



露伴「…………」

乙「いやー、ありがとう!」

乙「君のおかげで、値段をチョッピリボッたくるどころか、だいぶボッたくることができた!」

チープ・トリック『ねっ? ぼくが背中にくっついてよかったろ!』

乙「ああ、わたしにはとてもあんなメチャクチャな値上げ交渉はできないよ」

チープ・トリック『でもね? ぼくをあこぎな商人みたいにいうのは、お前の勝手だけどさ』

チープ・トリック『ぼくを産み出したのは、お前の精神なんだからね? それ忘れちゃダメね』

乙「分かっているよ」

乙「さて、君も疲れたろう。今日はもう帰ろう」

チープ・トリック『彼女いないから、今日も一人で晩ご飯だねっ』

乙「うるさい」

チープ・トリック『でもぼくがいるから、寂しくないよね?』

乙「うん……ちょっとやかましいけど」

……

……

康一「露伴先生? ずいぶんやつれてますけど、どうしたんです?」

康一「ハッ、まさか……スタンド攻撃を受けたんじゃあ!?」

露伴「受けたといえば受けたけど……大丈夫だよ。ぼくはいたって無事だよ」

康一「そ、そうですか」

露伴「それより、吉良吉影の件について話したいことがあってね」

康一「あっ、何か分かったんですか!?」

露伴(『チープ・トリック』……しゃべる以外なにもしないが、おそろしいヤツだった……)





―おわり―

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