高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「滑って転びそうな日のカフェで」 (44)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「やほっ」

高森藍子「加蓮ちゃんっ。もー、遅いですよー」

加蓮「ごめんごめん。今日も暖炉(ストーブ)の前に座ってるんだ」

藍子「店員さんが、待っている間に是非どうぞ、って」

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第37話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ラテアートを注文しながら」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「秋染め?」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「秋の日のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「早い早雪のカフェで」

加蓮「じゃ、私も藍子の隣に座ろっと。……あったかー♪」

藍子「加蓮ちゃんが遅れちゃうなんて珍しいですね。何か、あったんですか?」

加蓮「ごめんね? ほら、この前からすごく寒くなったじゃん。地面がさ、ツルッツルなんだよね」

加蓮「すっ転んだりしたら恥ずかしいし。気をつけてゆっくり歩いてたら遅くなっちゃった」

藍子「なるほどー」

加蓮「結局、ちょこちょこって感じで歩くことになって……やっぱりかっこ悪くなっちゃうんだけどね」

藍子「ちょこちょこ?」

加蓮「ちょこちょこ」

藍子「ふふっ。見てみたいかもっ」

加蓮「……こんな感じ?」チョコチョコ

藍子「本当にちょこちょこ歩いてる♪」

加蓮「もうずっとちょこちょこ歩いてたよ。誰にも見られてないといいんだけどなぁ……」

藍子「可愛いっ、って思いながら見ていた人がいるかもしれませんね」

加蓮「マヌケなだけだよ。可愛くないってば」

藍子「加蓮ちゃん加蓮ちゃん。凍りついた路面って、ペンギンっぽく歩くと転ばずに済むみたいですよ」

加蓮「ふんふん」

藍子「…………♪」キラキラ

加蓮「…………」

藍子「……」ニコッ

加蓮「……やんない」

藍子「ちぇー」

加蓮「そのアドバイスは転ぶこと専門の巫女さんにでも言ってあげなよ」

藍子「もう。転ぶこと専門だなんて言い方しちゃダメです。歌鈴ちゃん、いつも気にしているんですから」

加蓮「気にしてることを敢えて言うのがポイントだよ」

藍子「こらっ」

藍子「……それに、私は今、加蓮ちゃんとお話しているんですよー?」

加蓮「へ? あー……あははっ、そうだね」

加蓮「ペンギンっぽくか。……ペンギンってどう歩くっけ?」

藍子「それは」

加蓮「それは?」

藍子「……ペンギンっぽく歩きます」

加蓮「説明になってないよ」

藍子「ペンギン歩き?」

加蓮「や、だからそのペンギンはどういう風に歩いてたっけって聞きたいんだけど」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「……ペンギン歩きってどんな感じでしたっけ?」

加蓮「いや、だからそれは私が今聞いて……」

……。

…………。

――動画で確認しました。――

加蓮「そうそう、こんな感じこんな感じ」

藍子「意外としっかり歩いているんですね。私、もうちょっと小刻みに歩いている物だって思っていました」

加蓮「手もこう、左右に広げた方がいいのかな」

藍子「あとは衣装をそれっぽくすればっ」

加蓮「今日からあなたもペンギン系アイドルに!」

加蓮「……ごめん、どういうこと?」

藍子「いや言ったの加蓮ちゃんじゃないですか」

加蓮「そうだけどさ」

加蓮「さすがに手をペンギンっぽくするのはやり過ぎかなぁ。キャラ作ってるみたいになっちゃうし」

藍子「そうですか?」

加蓮「外だとね。アイドルとしてならまぁ……」

藍子「ペンギン系アイドル……ペンギン系アイドル?」

加蓮「とりあえず、もふもふはしてそうだね」

藍子「お腹に抱きつくと気持ちよさそう」

加蓮「鳴き声は何にしよっか」

藍子「ペンギンだから……ペンっ! とか」

加蓮「藍子、今のもっかい」

藍子「へ? ……ぺ、ペンっ?」

加蓮「ぷくくっ。変な顔してるー」

藍子「……ペンっ」ペチッ

加蓮「痛い痛い」

藍子「ペンギン系アイドルって、こうやってツッコミを入れることを言うんですねっ」

加蓮「違う違う。そもそもボケ100%の藍子が何言ってんの」

藍子「私ボケじゃないですよー」

加蓮「天然ボケ」

加蓮「あ、思い出した。ペンギンって仁奈ちゃんがやってなかったけ? だいぶ前に」

藍子「うーん。確か……フェスティバルの時にやっていたような? 帰ったら写真を探してみますね」

加蓮「お願いー。動物の気持ちになるって言ってるし、聞けば分かるかな」

藍子「ですねっ」

加蓮「仁奈ちゃんの気持ちになるでごぜーます」

藍子「うくっ……」

加蓮「え、なんかウケる場所あった?」

藍子「それ、仁奈ちゃんの口癖なのに……仁奈ちゃんが仁奈ちゃんの気持ちになるって……! おかしっ、おかしいですっ」アハハッ

加蓮「そこまでウケるとは」



加蓮「あったかー……♪」

藍子「……♪」

加蓮「それに、やっぱり静かだよね……。今日もお客さんあんまりいないし」

藍子「加蓮ちゃんが来てからは、出入り口の鐘も鳴っていませんね。ちょっぴり待ち遠しそうに見えちゃいます」

加蓮「鐘が?」

藍子「鐘が」

加蓮「ふうん。変なのー」

加蓮「ふわ……この前の藍子じゃないけど、ぼうっとしてたら眠たくなっちゃうよ」

藍子「もし眠っちゃったら、今度は私が膝を貸す番ですねっ」

加蓮「えー、いいよ。藍子の膝で寝てる私とか絶対変な顔になってるもん」

藍子「変じゃないですよ? すっごく安心したような表情で……それと、たまに楽しそうに笑っていて。すっごく可愛いですっ」

加蓮「少なくとも外で見せたくはないなぁ。それに、せっかく藍子といるのに寝ちゃうなんて勿体無いし」

藍子「……こ、この前は寝ちゃってごめんなさい」

加蓮「え? あはは、いいっていいって。それはそれで楽しかったしー……あれ、ってことは寝ても勿体なくない?」

藍子「じゃあ、一緒にお昼寝しちゃいましょう」

加蓮「喋ってたら目が覚めて来たから大丈夫」

藍子「そうですか~」

加蓮「……」

藍子「……」

藍子「……何か、お話しましょうか?」

加蓮「んー?」

藍子「ほら、ずっと静かだったら寂しくなっちゃいそうです。ふふ、私、ちゃんとお話するネタは用意しているんですよっ」

加蓮「おー、用意周到だね」

藍子「実は、夏の頃から用意していて、まだお話していないこともあったり……」

加蓮「夏の頃から!? 何それ、すっごく気になるんだけど」

藍子「でも、このお話は来年の夏までおあずけですねっ」

加蓮「ちょっ、なくない!? それ、なくない!? 気にさせておいて来年までって……なくない!?」

藍子「スイカは夏に食べるのが一番美味しいですよね。それと同じで、夏のお話は夏にするのが一番いいんです!」

加蓮「こたつに入ってアイスを食べるのはぜんぜんアリだと思う! てかこの前一緒に食べたじゃん! 私の家で!」

藍子「あはっ、この前ですよね。確か……加蓮ちゃんがこたつの中で寝ちゃって、起きた時に電気コードを、こう、はむっ、て――」

加蓮「思い出すなーっ! あれっ、写真撮った挙句にばら撒いたのアンタでしょ!」

藍子「えー? わたしそんなことしていませんよー?」

加蓮「棒読み!」

藍子「えへっ」

加蓮「というか、あの場にいたのアンタだけだし!」

藍子「ふしぎですねー」

加蓮「ホントに不思議だね!」

加蓮「もぉ……後から凛とか奈緒とかからすっごいいじられて恥ずかしかったんだからね、アレ」

加蓮「いじられるだけならまだしも! 気にするなよ、よくあることだから! ってすっごいいい笑顔で肩ポンされた時とか……!」

藍子「奈緒ちゃんからですか?」

加蓮「奈緒から! すっっっっっごいニヤニヤしてた!」

藍子「ふふ。珍しいっ。いつもは逆なのに♪」

加蓮「……くうぅ、思い出して来たら余計ムカついてきた……! 奈緒のくせに……!」

藍子「うふふ♪」

加蓮「それもこれも藍子のせいだよ!」

藍子「私、この前言いました。加蓮ちゃんの写真も撮ってやるーっ、って! 言ったことは、ちゃんとやらなきゃっ」

加蓮「それ電気コード事件より後のことだよね!?」

藍子「そうでしたっけ?」

加蓮「そうでした!」

加蓮「ってことは……まだ物足りないってこと!?」

藍子「昨日の加蓮ちゃんは昨日だけの加蓮ちゃんで、今日の加蓮ちゃんは今日だけの加蓮ちゃんですから♪」

加蓮「なんかそれっぽいことを!」

藍子「それと実は、モバP(以下「P」)さんから頼まれちゃったんです。加蓮ちゃんの色々な写真を撮って欲しいって」

加蓮「は……?」

藍子「だって加蓮ちゃん、いつもすました顔とか、綺麗な姿とか。でもファンの皆さんは素の加蓮ちゃんも見たいだろうから……って、Pさんが」

加蓮「それ絶対Pさんが見たいだけでしょ!?」

藍子「あ、やっぱりお見通しなんですね。小声でそう言っていましたよ」

加蓮「もしもしPさん!? 藍子に余計なこと――留守電だこれ……」

藍子「えへへっ♪」

加蓮「…………」グニグニ

藍子「いひゃいいひゃいっ」

藍子「大丈夫です。本当に見せられないような写真は、秘密の場所にしまっておきますから」

加蓮「そんなのあるの?」

藍子「はい。秘密のアルバムです。今は……3冊目だったっけ……?」

加蓮「さ、3冊……。意外とたくさんあるんだね……」

加蓮「つまり、藍子はそれだけアイドルの弱みを握っていると」

藍子「弱みなんてそんなっ」

加蓮「いーや藍子のことだ。ダークサイドに寝返ってその写真を悪用するに違いない」

藍子「寝返りませんっ」

加蓮「いつかの盗賊役を思い出して、人をハメる快感に取り憑かれた藍子は……!」

藍子「わ、私は?」

加蓮「くっくっく……この写真で、お前のアイドル人生を"停止"させてやる――!」

藍子「きゃーっ! ……って私どんな人になってるんですかっ」

加蓮「停止ってあたりがポイントだよ。ゆるふわ空間と時間泥棒の合わせ技だね」

藍子「ゆるふわはそういう風に使う言葉じゃないです!」

加蓮「でも大丈夫。藍子がどんなことになっても、私はついててあげる」

藍子「どんなことにも、って……」

加蓮「堕ちるなら一緒に堕ちようよ。1人じゃ寂しいし、辛いだけだから」

加蓮「藍子がどうなっても、私はどこまでもついていくよ。絶対に――!」

藍子「加蓮ちゃん……、……ってだから堕ちるって何ですか!? 加蓮ちゃんの中で私はどうなっているんですか!?」

加蓮「藍子にだってダークサイドがあってもいいじゃん」

藍子「ありません~っ! 私にだって、って言うなら、加蓮ちゃんにはあるんですか?」

加蓮「無いように見える?」

藍子「……見えないです」

加蓮「えー。誰が腹黒よー。藍子ちゃんがそんな風に思ってたなんてショックだなー」

藍子「き、今日の加蓮ちゃん……!」ヒクヒク

加蓮「今日の藍子がやたら意地悪だからからかってみたくなっちゃって」

藍子「意地悪なのは加蓮ちゃんの方ですよ、もうっ」

加蓮「で、何かあったの?」

藍子「うーん。……加蓮ちゃんが遅れて来ちゃったから、ちょっとだけ仕返し?」

加蓮「だからそれは地面がツルツルだったせいなんだってばっ」

藍子「それでもですっ」

加蓮「むー」

藍子「もっと自信を持つといい、って、よく加蓮ちゃんが言ってくれるじゃないですか」

加蓮「うん」

藍子「だから……」

加蓮「うん?」

藍子「……わ、私を待たせた加蓮ちゃんには当然の報いですね!」

加蓮「…………う、うん」

藍子「…………」

藍子「やっぱりこんなの私じゃないです……」

加蓮「うん、お疲れ。努力は認めるよ」ポン

加蓮「待たせちゃったのはホントのことなんだし、じゃあ今日は私が奢ってあげよう」

藍子「えー。それはなんだか嫌です」

加蓮「じゃあ何がいい?」

藍子「何が……うーん……思いつきは、しませんけれど……でも、遅れたからって加蓮ちゃんの奢りにするのは……」

加蓮「前は普通に奢ったり奢られたりしてたけどね。遅れた方が奢ってた筈なんだけど」

藍子「前と今では違いますもん。そうやってお金のお話にしちゃうの、なんだかイヤです」

加蓮「そう?」

藍子「それよりは――」

加蓮「それよりは?」

藍子「……やっぱり、思いつきませんけれど」

加蓮「もー。じゃあ、思いついたら言ってね?」

藍子「貸し借りなんて気にしないのに……」

加蓮「今は何かしたい気分なの。遅れたからごめん、とかじゃなくて。正直……それを言い訳にしてる、って感じ?」

藍子「ふふっ。加蓮ちゃんがやりたいだけなんですか?」

加蓮「そだよー。私がやりたいだけ」

藍子「そういうの大嫌いだって、前に言っていたのに」

加蓮「藍子を見てたらそういう自分勝手なのも悪くないかなって思っちゃって」

加蓮「もういいやー、考えすぎても面倒くさーい、って。たまにはやりたいって気持ちに素直になってもいいかな、って思っちゃったの」

加蓮「ってことで藍子。何かやらせてー」

藍子「じゃあ……12月の限定スイーツ、一緒に食べましょうっ」

加蓮「ごめんそれはパス」

藍子「なんでですかーっ!」

加蓮「いや、別に何でもやるって言った訳じゃないし? 甘ったるい物を食べたい気分じゃないんだよねー」

藍子「…………」ヒクヒクッ

加蓮「……あ。……さすがにゴメン」

藍子「いえ……。今日の加蓮ちゃんが、いつもより何倍も厄介なのは分かってましたから……」

加蓮「めんどくさいモード」

藍子「ホント、加蓮ちゃんは加蓮ちゃんなんですね」

藍子「どうしても何かやりたいなら……じゃあ、写真、1枚だけ撮らせてください」

加蓮「そんなのでいいの?」

藍子「…………」ジトー

加蓮「……うん、ホントにごめん」

藍子「……ふふっ。ほらほら、暖炉をバックに……もうちょっと右に寄ってっ。笑顔、ちょっぴり堅いですっ。もっと自然体で――」

藍子「はい、チーズっ」パシャ

藍子「……」ウーン

加蓮「1枚だけ、っての撤回してもいいよ?」

藍子「じゃあ、もう1回だけっ! はい、チーズ――」

□ ■ □ ■ □



――席に座りまして――

加蓮「まさか1時間も撮影会になるとは」

藍子「あはは……。あれからやってきたお客さんに、アイドルの撮影かって聞かれちゃいましたよね」

加蓮「だねー。それなのにさ。私を見てさ、どこかで見た顔……って思い出そうとして、思い出せてなかったよね」

藍子「アイドルのことをあまり知らなかった方なのかな……?」

加蓮「何か渡せる物とか持ってきておけばよかったなぁ。悔しー」

藍子「渡せる物って、名刺とか?」

加蓮「それはPさんの専売特許だし。私なら……ネイル?」

藍子「男の人なのに?」

加蓮「最近は男の人がネイルをつける時代なんだよー」

藍子「そうなんですか? 今度、Pさんにも教えてあげようっと♪」

加蓮「残念、私がもう教えた」

藍子「先回りされちゃってました」

加蓮「すっごい神妙な顔でさ。いや、俺はいい、って断られちゃった」

藍子「残念ですね」

加蓮「あ、店員さん。ミルクココアありがとー」

藍子「ありがとうございます。さっきは、はしゃいじゃってごめんなさいっ」

加蓮「写真? 私の写真が欲しいの……? スマフォで撮ったからプリントとかはできないし。私はいいけど、どうしよっか、藍子」

藍子「それなら今度、またここに来た時に現像した物をお渡ししますね。……はいっ。約束です♪」

加蓮「ふふっ。その代わり、次来た時には安くしてね?」

藍子「こらっ。そういうズルはダメですよ、加蓮ちゃん」

加蓮「いいじゃんー、せっかくなんだし。ねっ、店員さん♪」

……。

加蓮「スキップしながらあっちに帰っていっちゃった」

藍子「とっても嬉しかったんですね」ゴクゴク

加蓮「あんなに喜ばれると……ねー。……えとさー……」

藍子「?」

加蓮「……勘付いては」

藍子「……」ジー

加蓮「……藍子、ちょっとあっち向いて。いや私があっち向くからちょっと待ってて」フフッ

藍子「じゃあ私は、そんな加蓮ちゃんの先に回り込んじゃいます」スッ

加蓮「こらっ。こっち見んなっ」ジロ

藍子「目が睨んでても口元が緩んでますよ~」

加蓮「楽しそうに言うなっ」スッ

藍子「加蓮ちゃん、可愛いです♪」

加蓮「可愛いとか言うなー」

……。

…………。

加蓮「ごくごく……」

藍子「ごくごく……」

加蓮「ふうっ」

藍子「ふうっ」

加蓮「もう12月だねー」

藍子「もう、12月ですね」

加蓮「またクリスマスケーキをいっぱい食べることになるんだろうねー。いろんな番組とか、収録とかで」

藍子「差し入れをもらっちゃうこともありますよね」

加蓮「正直、ちょっと困っちゃうよ。ご飯とかは用意してるんだし」

藍子「あはは……私なら、それでも食べちゃうかも」

加蓮「そして42kg同盟から脱落者が1人」

藍子「体重は維持してますからっ」

加蓮「もうちょっとお肉をつけてもいいと思うけどね」

藍子「お仕事によって色々なケーキを頂けますよね。ショートケーキだけじゃなくて、フルーツの物とか、チョコケーキとか……」

加蓮「チーズケーキに抹茶ケーキにロールケーキに……うぇ、食べてもないのに胸焼けがしちゃった」

藍子「コーヒーが手放せなくなっちゃう時期です」

加蓮「もうお仕事のない日は毎日ここに来てコーヒーを飲んでもいいかも? ふふっ。カフェのコーヒーだけなら、藍子よりも詳しくなれちゃうね」

藍子「えー。私は誘ってくれないんですか?」

加蓮「さすがにオフをぜんぶ合わせるのは無理でしょー」

藍子「うぅ、そうでした」

加蓮「今度、美味しいコーヒーの淹れ方とか調べてみよっと。あ、そうだ、Pさんに聞いてみるのもいいかな?」

藍子「Pさんの淹れるコーヒー、すっごく美味しいですよね! なんだか安心できる味で……ぽかぽかになっちゃいます」

加蓮「淹れる人が上手いんだろうね」

藍子「Pさん、いつも飲んでいますから。きっと慣れていますよね」

加蓮「……んー。ならさ、Pさんには内緒で淹れ方を練習してビックリさせてみたい」

藍子「加蓮ちゃんの淹れるコーヒーなら、Pさん、きっと大喜びすると思いますけれど……」

加蓮「それは藍子もでしょー? それに、どうせなら美味しく淹れたいじゃん」

加蓮「『お、このコーヒー美味えな。そうか、加蓮が淹れたのか』」キリッ

加蓮「『じゃあ次からは、コーヒーを淹れるのは加蓮に任せてしまおうかな』」キリッ

加蓮「なんちゃって」ウヒヒ

藍子「……加蓮ちゃーん。顔がすっごいニヤけちゃってますよー」

加蓮「はっ」キョロキョロ

加蓮「だ、誰も見てないよね?」

藍子「私が見ちゃいましたっ」

加蓮「つまり藍子のスマフォをコーヒーに沈めれば証拠は残らない」

藍子「し、写真は撮ってませんっ」

加蓮「大切な物は?」

藍子「心のファインダーにっ」

加蓮「歩くアルバム、高森藍子!」

藍子「いえいっ♪」

加蓮「……んー」

藍子「いまいちですか?」

加蓮「いまいち」

藍子「残念」

加蓮「歩くカメラ……歩くゆるふわ……、……歩くお散歩?」

藍子「歩いてる時点でお散歩ですよ」

加蓮「歩く藍子」

藍子「それ、普通のことになっちゃってますっ」

加蓮「あははっ、確かに」

藍子「でも、歩く加蓮ちゃん、って言うと、なんだか特別な感じがするような……?」

加蓮「それなら"走る加蓮ちゃん"の方が特別な気がしない?」

藍子「うーん……。私は、歩く加蓮ちゃん、の方が好きかも」

加蓮「そっかー」

加蓮「キャッチフレーズとかって考えるの難しいよね。でも藍子だったら普通くらいがちょうどいいのかな?」

藍子「加蓮ちゃんは逆に、かっこいい感じなのがちょうどいかもしれませんね」

加蓮「コーヒーを淹れるのが上手いアイドル、ベスト3! とかじゃダメ?」

藍子「急に庶民的になっちゃいましたね」

加蓮「コーヒーを飲むのが上手いアイドルTOP3! とかならちょっとは格好つけられるかもしれないけどね」

藍子「まさにクールアイドルっ」

加蓮「……私より似合いそうなクールアイドルが山ほどいるなぁ」

藍子「じゃあ、練習しちゃいましょうか」

加蓮「このカフェで?」

藍子「このカフェで!」

加蓮「じゃあ藍子が教師役だね」

藍子「びしばし指導しちゃいますよ~っ」

加蓮「びしばし」

藍子「びしばし!」

加蓮「……10分後、わがままな生徒に振り回されて困り顔になる藍子ちゃんの姿がそこに」

藍子「……わ、私だってしっかりする時にはしっかりするんですから」

加蓮「眉をふにゃっとさせて言ってもねー」

藍子「先生役は、加蓮ちゃんに譲っちゃいます」

加蓮「先生って言うならPさんの方が似合いそうじゃない?」

藍子「前にちょっぴりふざけてみて、先生っ、って呼んでみたら、すっごく嬉しそうでした」

加蓮「あー、それは絶対ニヤケ顔になる。Pさんニヤケ顔になるよ」

藍子「あの時の嬉しそうなPさんの顔……えへへ……♪」

加蓮「藍子までニヤけるんだ。なんかムカつくー」

藍子「もうっ、どうしてですか。私にだってニヤけさせてくださいよー」

加蓮「人の幸せを妬む系アイドル、北条加蓮」

藍子「むー……」

加蓮「……あぁそっか、これじゃ完璧に藍子の敵になっちゃうよね」

藍子「……それはそれで面白そう、って言いたそう」

加蓮「えー、なんで分かるの」

藍子「さっきから加蓮ちゃん、すっごく分かりやすいです」

加蓮「気が緩んじゃってるんだろうねー。ここ、すっごく暖かいもん」

藍子「たまには心を休めてゆっくりしていきましょ?」

加蓮「だね」

加蓮「それより12月の話だよ。12月の話。藍子はやり残したこととかないの?」

藍子「やり残したこと……うーん。やりたいことは、だいたいやってしまったような……」

加蓮「カフェ巡りとか」

藍子「それは来年にもやりますから」

加蓮「じゃあ、新しいお散歩コースの発掘とかっ」

藍子「それも来年にやりますっ」

加蓮「むぅ。藍子が反抗期だ」

藍子「私だって16歳ですから」

加蓮「私だって16歳だけど、反抗期なんてとっくの昔に置いてきたよ」

藍子「……私、加蓮ちゃんは今も反抗期だと思います」

加蓮「やっぱり?」

藍子「加蓮ちゃんこそ何かありませんか? 12月のうちにやっておきたいこととか」

加蓮「藍子の敵になって何かやりたい」

藍子「それ、まだ続いてるの……?」

加蓮「なんてね。っていうか、藍子と敵対して勝てる気が全くしないし」

藍子「そんなことないですよ。私の方こそ、加蓮ちゃんに勝てる気がしませんもん」

加蓮「だってさー、藍子に手を出したら後ろから何人出て来ることか。女って怖い」

藍子「加蓮ちゃんがそれを言うんですか。……ひ、ひとりくらいは加蓮ちゃんの味方になってくれる人だっているハズですっ」

加蓮「うーん……とりあえず凛と愛梨を味方につければ勝てる気がする」

藍子「凛ちゃんと愛梨さんですか?」

加蓮「なんか強い感しない?」

藍子「うーん……?」

加蓮「ゲームで言うところの……なんだっけ……チート、だっけ? チートキャラって言うんだっけ、こういうの」

藍子「それは分かりませんけれど、確かに凛ちゃんと愛梨さんは強敵になっちゃいそうですね」

加蓮「私からすれば藍子も十分に強敵なんだけどね」

藍子「そんなことないと思うけど……」

加蓮「ま……こんな私でも、ドジ巫女にだけは負ける気がしないけど」

藍子「もー、またそうやって歌鈴ちゃんのことをっ」

加蓮「あははっ」

藍子「歌鈴ちゃんだって、いっつも頑張っているんですよ。そんなことばっかり言ってたら、それこそ追い抜かれちゃいますよ?」

加蓮「その時は気合と意地で抜き返す。私のキャラじゃないけど」

藍子「加蓮ちゃんにはいっぱいライバルがいそうですね」

加蓮「ホントホント。大変なんだよ? 凛でしょ? 奈緒でしょ? 奏に美嘉に……正直、歌鈴もそうだと思ってるし」

加蓮「私にとっては藍子もライバルだよ。未央と茜もそう」

加蓮「いつ仕事が取られるか分からなくて、これでもヒヤヒヤしてるんだよ?」

藍子「加蓮ちゃんなら大丈夫ですよ。いつも頑張ってるじゃないですか~」

加蓮「頑張ればいいって問題じゃないし。……いっそ相手が高いところにいすぎたら、こうして焦ることもなくなるんだろうけどね」

加蓮「張り合うのも馬鹿馬鹿しいって思えるなら、簡単に諦めがつくのに――」

藍子「……」

加蓮「……あ、アハハっ。なんてね。ほら、最近は小さい仕事ばっかりだから、ちょっと柄にもないことを言っちゃった」

藍子「…………」

藍子「……もし加蓮ちゃんが諦めちゃったら、私、Pさんと一緒に叱るんですから」

藍子「加蓮ちゃんはそんな子じゃないハズだーっ、って。きっと、Pさんも……それに、みなさんもそう思っていますよ。きっと」

加蓮「うん。……その時は遠慮なくぶっ叩いてよ。思いっきり凹んで、それから立ち直るから」

藍子「へこんじゃったら、ぎゅって抱きしめてあげますね」

加蓮「叱るのも立ち直らせるのも藍子がやるの? それじゃ私、まるで藍子がいないとダメになるみたいじゃん」

藍子「ふっふっふー、加蓮ちゃんをダメにしちゃいますよ~」ジリジリ

加蓮「や、やめろーっ。なんかリアルでありそうだからやめろーっ」

□ ■ □ ■ □



加蓮「そろそろ暗くなりそうだし、帰ろっか」

藍子「はーい。あ、そうだ。今日、加蓮ちゃんの家に行ってもいいですか?」

加蓮「ん? いいけど……またアイスが食べたくなっちゃった?」

藍子「加蓮ちゃんのベストショットをもうちょっと撮りた――」

加蓮「えーと、確か藍子の帰り道はこっちだっけ」

藍子「じ、冗談ですよ~。やだなぁ~」

加蓮「せめてその泳ぎまくってる目をどうにかしてから言いなさいって」

藍子「ほらほら、一緒にお風呂で温まって、一緒に寝ましょうっ♪」

加蓮「アンタとお風呂に入ると簡単にのぼせちゃうからなー。ま、いっけど」

藍子「……あ、そうだ」

加蓮「ん?」

藍子「ほら、12月のうちにやりたいことのお話。1つ、思い出しちゃいました」

加蓮「お、言っちゃえ言っちゃえ」

藍子「きっと前にも言ったかも? ううん、でも、もう1度」

加蓮「うんうん」

藍子「加蓮ちゃんと、クリスマスのお仕事。また、一緒にやりたいですっ」

加蓮「……」

藍子「えへへっ♪」

加蓮「……よし、Pさんに連絡して、2ヶ月くらいかかる長期ロケの仕事がないか相談を、」

藍子「なんでですか~~~~っ!!」



おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

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