十時愛梨「ずっと好き。ずうっと大好き」 (18)

 プロデューサーさん。

 ねぇ、プロデューサーさん。

 私、不安なんです。

 不安。

 不安で、不安で、不安。

 不安なんです。

 いつも。

 いつも、いつでも、いつだって。

 私は不安。

 不安で胸が、心が、何もかもがいっぱいなんです。

 何をしていても。

 甘いケーキを食べていても、大変なレッスンをこなしていても、大切な友達とお話をしていても。

 不安。

 何を思っていても。

 楽しいこと。嬉しいこと。喜ばしいこと。キラキラ輝く、温かくて眩しいアイドルの夢を思っていても。

 不安なんです。

 ずっと。ずっとずっと、ずうっと。

 不安。

 私はずっと、不安なんです。

 ……ただ。

 ただ、貴方と過ごすその時だけを特別な例外にして、その時以外はずっと。

 ずっと。起きてから眠るまで。眠ってから起きるまでの間でさえ。

 不安。不安で不安で、不安なんです。

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 だから、私にとって今このここのこれは、特別。

 他の何にも代えられない、とてもとっても特別な時間なんです。

 貴方と過ごすこと。

 こうして貴方と触れ合って、こんなにも貴方を感じながら、こんなふうに貴方と同じ時間を過ごすこと。

 それが、それこそが、私にとってかけがえのない何よりも大切で愛おしいこと。

 好きで大好きで恋しくて、そして何より愛おしいこと。

 だって、貴方は溶かしてくれる。

 私の不安を緩めて、解いて、そうして優しくそっと溶かしてくれる。

 貴方はそんな人だから。

 貴方はそんな、私にとって唯一の特別な人だから。

 貴方と触れ合えば不安が消える。

 貴方を感じられれば不安なんて忘れられるし、貴方と一緒に居られたなら私の中の不安は幸せに変わってしまう。

 溶かされ、解放されて、尊く温かな幸せへ。

 だから、この時間は特別。貴方は、特別なんです。

 私にとって何より大切で、何より恋しく愛おしくて、何よりずっと特別な人なんです。

 それは、何もかもぜんぶが素晴らしいわけじゃありません。――素晴らしくても、素晴らしすぎて、ただ単に素晴らしいだけじゃありません。

 悪いところもあります。欠点。それも、すっごく重大な欠点。

 貴方にも悪いところ。

 私を、こうまで不安にさせてしまうこと。

 不安を抱いて貴方へ寄り掛かる私を優しく抱き止め受け入れて、そうして癒して。

 でもそれと一緒に不安も、どうしようもない不安も私へ贈る。

 重なる度、それまでのどんなものよりも大きくて温かい幸せをくれる貴方。

 でもそれと一緒にそれまでのどんなものよりも大きくて冷たい不安も貴方は私に届けて渡す。

 私の不安は、貴方がくれるこの幸せを知ってしまったが為のもの。この温かさを、心地よさを、愛おしい幸せを失うことになる未来がいつかくるんじゃないか、っていうものだから。

 不安がる私を、それまでのどんな何よりも素敵な幸せで癒してくれて。でも、だから、それだから、私はその度それまでのどんないつのそれよりも大きな不安に包まれる。

 寂しくなる。

 一人、何も解消されるわけじゃないのに延々と、貴方の名前を呟いてしまう。

 悲しくなる。

 一人、もしこのかけがえのない大切な幸せを失ってしまうことになったなら、そんな未来を思い描いて喉を詰まらせてしまう。

 苦しくなる。

 一人、楽になるどころかどんどんだんだん苦しさを募らせるだけなのに、それでもぎゅうっと枕を強く抱き締めて、閉じた瞼の中へ貴方を夢見ることをやめられなくなる。

 そんな、どうしようもなくどうにもならない駄目な姿になってしまうくらい、私は、もう、ずっとずっと不安なんです。

 プロデューサーさん。

 私はもう、貴方が居ないと駄目なんです。

 貴方が居ないと嫌。貴方が居てくれないと不安で不安で潰れてしまう。貴方が私の傍に居てくれないなら、私はもう、きっと、生きていくことだって出来ないんです。

 きっと。きっときっと。

 そのくらい、貴方は私にとって大切な存在なんです。

 大切な、大切な、私の何より誰より大切な、大好きで愛おしい人。

 私はもう、こうなんです。

 心も、身体も、もう私はこうなんです。

 貴方に染められて、塗られて、満たされて。

 そうしてもう、私っていう何もかもはもう、すっかり貴方に魅せられてしまったんです。

 貴方無しではいられなく、なってしまったんです。

 ねえ、プロデューサーさん。

 私は強い子です。

 貴方が傍に居てくれたなら、きっと、どんなことだって叶えられる。

 私は、なんだって出来るんです。

 でも、プロデューサーさん。

 私は弱い子です。

 貴方が傍に居てくれないそれだけで、きっと、どんなことさえ叶えられない。

 私は、何も出来ないんです。

 ――プロデューサーさん。

 好きです。

 好きで好きで好きで、大好きです。

 好きで、大好きで、恋しくて、そして、誰より愛しています。

 ずっと好きでした。ずっと、好きになり続けます。

 ずっと恋をしていました。ずっと、恋に落ち続けます。

 ずっと愛していました。これから先もずっと、きっと永遠の先まで、私は貴方を愛し続けます。

 これまで。今。そしてこの先。

 きっと、ずっと、もっと、私は貴方を想い続けます。

 好きです。

 大好きです。

 愛しています。

 プロデューサーさん。

 大好きで愛おしい、私の大切な人。

 ねぇ、プロデューサーさん。

 だから、どうか。

 ずっとずっと、もっともっと、きっときっと、私は貴方を想い続けます。

 だから。

 だから、どうか。

 居てください。

 私の傍に。私の隣、私の一番近くに。

 居てください。

 どうか、どうか。

 私を、愛してください。

 好きになってもらいたい。恋しく思ってもらいたい。愛して、もらいたいんです。

 プロデューサーさん。

 他のどんな誰でも何でもない貴方に、私は。

 ――プロデューサーさん。

 大好きな貴方の特別にきっとなれるまで、ずっと恋をして愛し続けて、貴方のこと、抱き締め続けさせてもらいますから、ね。

「……」

「……」

「……あの、愛梨」

「んー……? なんですかぁー……?」

「や、その、そうして気持ちよさげに蕩けてるところ悪いんだけどさ」

「けど、なんでしょう」

「こう――さ、そろそろ、離れない?」

「えぇー。なんでですか、嫌なんですか?」

「いや、嫌だとかそういう問題じゃなくてさ」

「嫌じゃないならいいじゃないですかぁ」

「僕は良くないと思うんだよなぁ。主に場所と、時間と、というかこの行為そのものも結構なんというか」

「でも、いつものことですよ?」

「まあそれは。……愛梨に求められるとどうにも断れなくって。駄目なところなんだけどもさ」

「駄目なんかじゃありません。私のことを優しく受け入れてくれるプロデューサーさんのこと、私、大好きですよ」

「ありがとう。でも、あんまりそうやって『大好き』を安売りしないようにね。僕なんかにもったいない」

「プロデューサーさんだから、なのに」

「またまた」

「むぅ……。そうやって、ぜんぶ本当は分かってるくせに分からないふりをするところ、ちょっとだけ嫌いです」

「まぁ、プロデューサーだからね」

「ぶぅー」

「ほら、そんなぷっくり膨れない」

「ぶー……ん、ぎゅ、うー」

「かといって力を強くしないの。……もう、離れてくれる気はないのかな」

「ありません。だって、一週間も放っておかれたんです」

「それは、急な出張で空けちゃったのは申し訳ないと思ってるけど」

「寂しかったです」

「お願いされた通り、毎日ちゃんと電話でお話はしたでしょ?」

「それはしましたけど。して、そしてとっても楽しかったですけど。でも、足りません」

「あんなにしたのに?」

「したのに、です。――どんなに長くお話できたって、触れられないなら……こうして、いっぱいぎゅっとしてたくさんくっついていられないなら、それじゃ全然足りません。足りなくて、足りなかったんです」

「……」

「だから、こうしてぎゅってするんです。一週間分、直接顔を会わせて言えなかった大好きを伝えて。温かさを柔らかさを、感触を感覚を、ずっとずうっと想うだけで感じられなかったプロデューサーさんの身体を抱き締めて。そうして、想いの限りを尽くすんです」

「愛梨は変わらないね」

「変わりません。だって、プロデューサーさんとのことなんです。だから、それなら、私は絶対いつまでだって」

「こんな僕なのに?」

「そんなプロデューサーさんだから、です。――応えてはくれない。応えられない。でも、それでも、私のことをちゃんとぜんぶ受け入れてそして想ってくれるプロデューサーさんだから」

「……なんというか、まぁ」

「だから、私はこうなんです。そして、だから、私はとってもわがままだから、だからこのまま離れません。大好きなプロデューサーさんを抱き締めたこのまま、ずっとずうっと」

「そっか」

「はい」

「とはいえなにもこんな、僕用の個室内とはいえ人の賑わう真昼の事務所の中じゃなくても」

「……だって、一週間ぶりのプロデューサーさんと会えたのがここだったんです。我慢、できなくて」

「場所を変えるとかは?」

「や、です。もう、離れたくありません」

「愛梨は困ったさんだなぁ」

「こんな私は嫌いですか?」

「嫌いになれたなら、そもそもこんなふうに受け入れてないよ」

「えへへ。――やっぱり、プロデューサーさんは優しいです。私のこと、許してくれて」

「あんまり甘いのも良くないんだけどなぁ。ちひろさんからとか、もう何度注意されたことか」

「甘くたっていいじゃないですかぁ。私、甘いの大好きです。プロデューサーさんも、そうですよね?」

「それはまた意味合いが……。まあうん、好きだけどさ」

「でしょう?」

「うん」

「えへへ。――それなら、んっ。あまあま愛梨をもっともっとプレゼントです。ぎゅうーっ」

「……ん、愛梨」

「あ、ごめんなさい。苦しかったですか?」

「いや、苦しくは――柔らかさがある意味苦しいっていうのはあるけど、べつに大丈夫。大丈夫、なんだけど」

「けど?」

「その、ただでも強かったのを更に突然強められると……」

「駄目なんですか?」

「駄目というか。……ほら、こんなくっついてるのにそうしてもぞもぞ動くから、服も乱れて捲れちゃってるし」

「あ、本当……でも、熱くて暑かったからこれで」

「良くないでしょ。女の子がそんな、無防備に外で肌を晒すようなこと」

「でも事務所の中ですし」

「それでも」

「それに、今こうしてここにいるのはプロデューサーさんだけですから。……プロデューサーさんになら、私、ぜんぶ見られたって構わない。……むしろ、見てほしいくらい、なんです」

「……また、そういうことを」

「だって本当のことなんですもん。ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ」

「……」

「プロデューサーさんが好きなんです。大好きで、恋しくて、そして愛してるんです」

「愛梨」

「こうしてずっと抱き締めて一緒にいたい。好きになってほしい。キスしたい。恋してほしい。結ばれたい。愛してほしい。プロデューサーさんにとっての唯一人、貴方のお嫁さんに、私を選んでほしい。ぜんぶぜんぶ、ぜんぶが本当で、私は本気なんです」

「……」

「だから私はやめません。こうしてプロデューサーさんに触れること。心も身体もぜんぶの私をたくさんいっぱい贈ること。そうして、いつか貴方が私を大切な特別にしてくれるまで」

「僕にそれを、叶えてあげられるのかな」

「はい、きっと。……だって、プロデューサーさんは私にとってこんなにも特別な人なんですもん。私をシンデレラにしてくれた、私にとっての魔法使い。私にお姫様を夢見させてくれる、私にとっての、王子様。だから、信じてます」

「……そっか」

「プロデューサーさんに私のぜんぶを尽くしたい。プロデューサーさんのぜんぶを私に受け入れさせてもらいたい。ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶを抱き合いたい。……きっと叶います。叶えてくれるって信じてますし、叶えてみせるって決めてます」

「愛梨からそこまで想ってもらえるなんてね。なんというか、まぁ」

「私をこんなふうにしたのはプロデューサーさんなんですよ?」

「それはまた、悪いことをしちゃったね」

「はい。――だから、ちゃあんと責任、取ってもらうんです」

「責任かぁ」

「責任です」

「いつになったらその責任、取ってあげられるのかなぁ」

「いつまでだって待ちます。プロデューサーさんのこと、いつまでだって好きですから」

「……いつまでだって、か」

「いつまでだって、です」

「それはまた参ったなぁ。――愛梨は強いから、きっと本当にいつまでだって想いを変わらずに抱き続けていられるんだろうね」

「もちろんですっ」

「でも愛梨は弱いからなぁ」

「えー?」

「我慢とか、苦手でしょ。すぐ堪らなくなっちゃうんだから」

「む、それは……確かにちょっとは苦手かも、ですけど」

「いつになるかも分からないことを、そんないつまでだっていつまでも我慢できるのかなーって」

「で、できます。できますもんっ」

「本当かなぁ」

「本当ですっ。他のことならともかく、プロデューサーさんとのことですし」

「僕とのことなら大丈夫なんだ?」

「はい、大丈夫なんですっ」

「……」

「……」

「…………」

「…………うー……んぅ、むー……」

「もう、どうしたの、そんなまたくっついてきて」

「……ごめんなさい。やっぱり駄目です。プロデューサーさんとのことですけど、プロデューサーさんとのことだから、他のことならともかく、私、溢れちゃって我慢できそうにありません」

「――愛梨は可愛いなぁ」

「あ、う、プロデューサーさん……」

「ん?」

「そんな、いきなり……抱き返して、頭を撫でて、そんなのずるいです……」

「嫌だったかな?」

「嫌なんかじゃありません。……嫌なんかじゃなくて、その逆で、だから、その……私、我慢が……」

「堪らなくなっちゃった?」

「……はい」

「愛梨はえっちだなぁ」

「むっ。むーむー!」

「ごめんごめん」

「……もう、プロデューサーさんは酷いです」

「酷い男でごめんね」

「本当ですっ……もう、だったら、それなら」

「うん?」

「私も酷い女になります。プロデューサーさんが酷いプロデューサーさんになっちゃうなら、私も酷い愛梨になっちゃいます」

「酷い?」

「酷い、です。――もう、我慢しません。いつまでだって待ちます。ずっと大好きなまま待ち続けます。でも、待ちますけど、だけど我慢はもうしません。もう、何も何も」

「それは、今みたいに?」

「そうです。抱き合いたい。結ばれたい。一番になりたい。プロデューサーさんへのいろいろを、もう何も我慢しません。何も。――このまま、キスしたいっていう気持ちも」

「……まだ応えてはあげられないよ?」

「分かってます。だから応えてくれなくても構いません。応えてもらえるかどうかは関係なく、ただ我慢しないだけ。やめないだけ、ですから」

「――愛梨」

「大好きです。好きで好きで大好きで、愛してます。――だから、プロデューサーさん。私の、愛梨のこと、どうか貰ってください、ね――?」

以上になります。
お目汚し失礼いたしました。

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もしよろしければどうぞ。

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