【艦これ】霜月に降る初雪と (15)
初雪「……さむい」
布団の中で目覚めて開口一番、初雪はそう呟いた。
既に同室の住人はいないようだ。そのせいか、部屋の中はやけに静かに感じられる。
しばらくして、部屋の外から話し声が聞こえて来たかと思うと、ガチャリと部屋の扉が開かれた。
吹雪「あ、おはよう初雪ちゃん」
白雪「おはようございます」
初雪「……おはよう」
かけ布団から頭だけを出した状態で、初雪は挨拶を交わす。起きようとする気配すら感じられない。
二人は厚手の防寒着にマフラー、手袋、耳当てと、万全の防寒態勢。
吹雪「雪が降ってるんだよ! 初雪だよ、初雪!」
上着を脱ぎながら、吹雪が興奮した様子で話す。その服に、雪がちらほら付いているのが見える。
初雪「……初雪?」
カーテンが開かれた窓から外を窺うと、白い雪がしんしんと降っていた。外一面雪景色だ。
初雪「……どおりで寒い訳だ」
そう言って、頭の上まで布団を被る。
吹雪「ちょっと初雪ちゃん! もう起きないとダメだよ!」
白雪「頑張って起きてください!」
姉二人の必死の説得に、初雪は重い体を起こす。というのも、毎朝毎朝いつものことなのではあるが。今日はそれに加えて、寒さが身に凍みる。
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深雪「おっ、おはよう初雪」
叢雲「おはよう。……初雪、あんたいつもに増して酷い顔ね」
磯波「おはようございます」
部屋を出てすぐ、隣の部屋から出てきた吹雪型の妹たちと鉢合わせた。
初雪「……おはよう」
深雪「今日は初雪だぜ! 初雪!」
いつも元気のいい四番艦は、早すぎる降雪にも大喜びのようである。
叢雲「降るとは言っていたけど、まさか本当に降るとはね……」
磯波「びっくりですよね……」
季節外れの初雪に、艦娘たちは浮かれているようだった。食堂でも、今日は雪遊びしようとか、寒いから部屋でゆっくりしたいとか、そんな話ばかり飛び交っていた。
深雪「なあ初雪。せっかくだし、一緒に外で遊ばない?」
初雪「あー、……パス」
深雪「……そっか」
初雪「……じゃあ」スタスタ
深雪「…………はー」
初雪は、しばらく一人部屋にいたのだが、そのうち部屋にいるのにも飽きてきたので、特に行くあてもなく部屋を出た。
廊下を歩いていると、外から雪にはしゃぐ声が聞こえてくる。
少し羨ましいような、そんなもどかしい気持ちに苛まれる。が、そんな気持ちを胸の奥に無理やり押し込めながら、一人窓の外を見ていた。
そうして、窓の外に降る雪をぼんやり眺めていると……。
提督「おっ、初雪」
初雪「……司令官」
提督「よっ。雪見か?」
初雪「……うん。司令官は? サボり?」
提督「失敬な。仕事ならちゃんと終わらせたぞ」
初雪「……そう」
提督「……今日は寒いな。もう冬って感じだ」
初雪「そもそも、十一月に雪が降るなんておかしい」
提督「まあ、そう言うなって。……俺は嫌いじゃないな。この季節に降る初雪も」
初雪「……ん」
提督「……外、出てみないか? 見てるだけじゃなくてさ。他の娘は楽しく遊んでるぞ」
初雪「……絶対寒いし、ヤダ」
提督「……俺は行くぞ」
そう短く言うと、提督は一人駆け出した。
提督「ああっ! さ、寒い!!」
初雪「…………」
初雪はその場から逃げるように立ち去ろうとしたが、少し思い直して自分の部屋に足を向けた。
初雪「……やっぱ寒い」
はあ、と息を吐くと、煙のように白く色づいてふっと霙雪の中に消えていった。
提督「とりゃあ」
と叫び声が聞こえた直後、ぼふっと顔に何かがぶつかった。それからワンテンポ遅れて、冷たさがじんわりとやってくる。
提督「ふははー。どうだ初雪!」
既に防寒態勢を整えていた提督はそう言いつつ、次弾装填済みである。
提督「いくぜ――ボホッ」
今度は、提督の顔に雪玉がぶつかった。
深雪「深雪さま参上! 大丈夫か、初雪?」
初雪「……深雪」
提督「……新手か。やってやるぜ――ゴホッ」
バスバスと複数弾が顔に着弾。
吹雪「やった!」
夕立「決まったね!」
睦月「にししー」
初雪「……ふふふ」
提督「……いいだろう。まとめてかかってこい!!」
各々別々の場所で遊んでいた娘たちも集まってきて、雪合戦が始まった。
島風「みんなおっそーい」
天津風「……あんたそれで寒くないの?」
雪風「それっ!」シュッ
不知火「」バスッ
不知火「……ふふふ。不知火を怒らせたわ――」
時津風「それー」シュッ
不知火「――ぬい」バスッ
清霜「それー!」シュッ
深雪「とりゃあ!」シュッ
涼風「てやんでぇー!」シュッ
提督「もうやめてくれー!!」バスバスバス
初雪「…………」
提督「はあー、楽しかった」
初雪「……司令官、子供みたいだった」
提督「はっはっは。何事も楽しまなくちゃあな」
初雪「……」
提督「こういうのもさ、悪くないだろ?」
初雪「……」フイ
吹雪「さっ、初雪ちゃんも一緒にやろうよ」
白雪「きっと楽しいですよ」
初雪「え、えっと……」
提督「……行って来い。ほら」
提督は自分のマフラーを外すと、初雪の首にかけた。
初雪「……ん、ありがと」
そう言うと、初雪は駆け出していった。
叢雲「あんたって、ほんと世話焼きよね」
提督「そうか?」
叢雲「どっからどう見てもそうでしょうが」
提督は少し考えた後、ふと言った。
提督「……多分、俺とあいつが似てるから、かな」
叢雲「……ふーん」
叢雲(なんとなくわかるような……)
初雪(司令官……ありがと)ギュッ
深雪「深雪スペシャル! いっけー!!」シュッ
初雪「わぷっ! ……やったな」シュッ
深雪「ははは!」バスッ
深雪(司令官……サンキューな!)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
カーテンの隙間から射す朝日が、容赦なく初雪を襲う。
かと思えばサッとカーテンが開かれ、その光は一気に凶暴性を増した。
吹雪「初雪ちゃん起きて! 朝だよ!」
初雪「うう……もうちょっと」
そう言いながら布団にもぐる初雪。
白雪「起・き・る!!」バサッ
初雪「……うう……」
掛け布団を失ってはどうしようもないというふうに、重い瞼を擦りながら、初雪は体を起こした。
吹雪「今日は出撃があるんだから、シャキッとしないと!」
初雪「……え?」
白雪「もう、忘れていたんですか?」
初雪「……うん」
白雪「……」
深雪「みんな、おはよう!」
叢雲「おはよう」
吹雪「うん、おはよう」
磯波「おはようございます。今日はいい天気ですね」
白雪「おはようございます。そうですね」
叢雲「昨日雪が降ったなんて嘘みたいよね」
初雪「……おはよう」
吹雪「さあ! 今日も一日頑張ろう!」
吹雪型一同「おー!」
初雪「……おー」
ローマに良く似た雪だるまが、日の光に当てられて溶けていた。
昨日とは打って変わっての快晴だ。その眩しいほどの光に、初雪は溶けるんじゃないかとさえ思った。
叢雲「何言ってんのよ」
吹雪「さあ、みんな行くよ! 第十一駆逐隊、吹雪! 出撃します!」
初雪「……」チラ
提督「……」フリフリ
初雪「……」ドキ
初雪(私だって、本気を出せばやれるし)
初雪(だから……見てて)
吸い込まれそうなほど蒼い空の下、彼女たちは漣立つ海に飛びだしていった。
少し早い初雪は、まだ溶けきっていない。
終わり
明日から本気出すと言い続けて今日に至った訳ですが、気付けば初雪溶けきっちゃってますね。
読んでくださった皆様、ありがとうございます。
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