高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「秋の日のカフェで」 (42)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「ごくごく……ふうっ」

北条加蓮「お茶が美味しいねー……」

藍子「美味しいですね……」

加蓮「はふぅ……」

藍子「はふぅ……、……」チラッ

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第35話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「暑い日のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「また同い年になって」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ラテアートを注文しながら」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「秋染め?」

加蓮「笑われるかもしれないけどさ」

藍子「笑いませんよ?」

加蓮「……いや笑ってよ」

藍子「笑い飛ばしたくなっちゃうお話ですか?」

加蓮「でも笑われたら怒るかも」

藍子「どっちですか~」

加蓮「さーね」

加蓮「たまにさ。たまーになんだけど、急にこう、何かやりたくなることってない?」

藍子「急に?」

加蓮「急に」

藍子「うーん……そういえばこの前、急にお散歩に行きたくなって、」

加蓮「……急に?」

藍子「隣の隣の町まで行っちゃいました」

加蓮「へー――隣の隣!? いや、それってお散歩じゃなくて普通に遠出……」

藍子「前に、モバP(以下「P」)さんから教えてもらったんです。オススメのカフェがあるって」

加蓮「ふんふん」

藍子「すごくオシャレなカフェだから行ってみるといいぞー、って教えてくれたこと、ちょうどこの前のオフの時に思い出して……」

藍子「行ってみたら、確かにオシャレなカフェだったんですけれど……ふふ♪」

加蓮「お、意味深な笑み。なになにー?」

藍子「入り口のところに、猫さんが集まっててっ。思わず店員さんに聞いてみたら、いつも集まってにゃーにゃー言ってる、って教えてくれたんですよ」

加蓮「猫カフェってヤツ?」

藍子「ううん、猫カフェではないんです。でも、カフェの前にいっぱい猫さんがいるんですっ」

加蓮「へー……。あれ? でもPさんはオシャレなカフェって言ってたんだよね? 猫のことは教えてくれなかったの?」

藍子「はいっ。それで、帰ってきた後……ええと、次の日だったかな?」

藍子「Pさんに聞いてみたら、あー、とか、そうなんだなー、ってはぐらかされちゃいました」

加蓮「んん……? 怪しいね、それ」

藍子「絶対、何か隠していますよね?」

加蓮「隠してるよねー」

藍子「Pさんの態度が、あまりにもわざとらしくて……つい、笑っちゃいましたっ」

加蓮「うんうん、分かる」

藍子「すっごく目を右上に向けてて。それまでは休憩していたのに、急にお仕事だって言い出して」

加蓮「私だったら我慢できないでお腹抱えて笑っちゃうかも」

藍子「でも、言わない方がいいのかな? って思って……加蓮ちゃんにお話したら、また気になってきた……」

加蓮「何々? 実はPさんは猫が好きでした?」

藍子「そう……なのかな? でも、どうして隠しちゃうんでしょうか?」

加蓮「かっこつけだよー。もっと追及しちゃっていいよ。実は猫が好きなんでしょー? って。こう、覗き込みながら」

藍子「覗き込みながら……」フム

加蓮「逃げようとしたら反対側に回り込む」

藍子「回り込む」フムフム

加蓮「普通に猫好きな男子とかいくらでもいるのに、Pさんって変なところで古風なんだねー」

藍子「そういえば……前に、もっとお酒が強くなりたいって苦笑いしながら言ってました」

藍子「その方が、男らしくなれるかも、って」

加蓮「ふふっ、変なところにこだわるんだね」

藍子「今度、猫さんの置物とか探してみようかな……?」

加蓮「うーん、それは……」

藍子「だめですか?」

加蓮「Pさんに認めさせてからの方がいいかも。何で知ってんだ!? って驚かれちゃうかもしれないし」

藍子「確かに……。誰にも教えていない好きな物とかをもらっちゃったら、びっくりしちゃいますね」

加蓮「藍子はそういうのある?」

藍子「うーん……。加蓮ちゃんは?」

加蓮「ポテト」

藍子「みんな知ってますよ~」

加蓮「ハンバーガー」

藍子「それも知ってますっ」

加蓮「これでもミステリアスアイドルとか行けそうだと思ってるんだけどなぁ」

藍子「じゃあ、何か作ってみますか?」

加蓮「作るって……誰にも知られてない私の好きな物?」

藍子「はい。今から好きになっちゃっても、いいじゃないですか。それは、誰にも秘密なこと――」

加蓮「藍子が知ってる」

藍子「私も、一緒に秘密にしますからっ」

加蓮「藍子が秘密に、ねぇ」ジー

藍子「…………あ、あはは……秘密にしてますから。ね?」

加蓮「ぼろっと言いそう」

藍子「い、言いません」

加蓮「未央とか茜とかに嗅ぎつけられてバラしそう」

藍子「ばらしません。……たぶん」

加蓮「たぶん」

藍子「たぶん」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「Pさんにはさ、藍子が問い詰めてみなよ」

藍子「問い詰める……?」

加蓮「猫の話」

藍子「あ、そうでした。私たち、Pさんの猫さんのお話をしていたんですよね」

加蓮「そうそう。あはっ、なんかPさんが猫を飼ってるみたいになってるよー?」

藍子「実は……飼っていたり?」

加蓮「実は家は家が猫屋敷」

藍子「雨の日にずぶ濡れの猫さんに傘をあげているPさん……」

加蓮「うっわ、すっごくありそう。そんで自分がびしゃ濡れになるんだよ」

藍子「Pさん、面倒見がいいですから、ペットがいてもおかしくないです」

加蓮「すっごい動物に懐かれそう。もしかしてさー、藍子に教えたカフェに行った時、猫に懐かれたとか?」

藍子「ふふっ。猫さんとお話できたら、教えてもらえたのに」

加蓮「藍子は相変わらず変なとこでメルヘンっぽくなるねー。猫に聞くより人間に聞く方が早いと思うよ?」

藍子「Pさんがずっと内緒だって言ったら、私、あんまり強く言えそうにないかも……」

加蓮「じゃあ私が見といてあげるよ」

藍子「緊張しちゃいそうっ」

加蓮「んで、藍子がPさんに負けそうになったら私の顔を見てこう思うの」

加蓮「『ここで引いたら加蓮ちゃんに……』げふんげふん」

藍子「加蓮ちゃんに!? 加蓮ちゃんに何されちゃうんですか私!?」

加蓮「それは、こう……ね?」

藍子「ひゃあっ……。そ、それならPさんからも聞き出せるかも……!」

加蓮「どーせなら私も手伝うし。ふふ、Pさんのカミングアウトが聞けそうかもー。面白そう!」

藍子「そうしたら今度、3人で猫さんを見に行きましょう!」

加蓮「えー? 藍子に譲るよ? 元々、藍子が聞いた話なんだし。私だってそこまで野暮じゃないってば」

藍子「ううん。加蓮ちゃんのお陰でもあるんですから」

加蓮「そっか」

加蓮「……藍子とPさんをくっつける方にしようかな、それとも藍子の邪魔してやろっかな」

藍子「……加蓮ちゃん、ぜんぶ聞こえてます」アハハ...

□ ■ □ ■ □


藍子「……」

加蓮「コーヒー飲もーっと。すみませーん。藍子、何か飲む?」

藍子「……」ジー

加蓮「藍子?」

藍子「あ、はいっ。じゃあ、アップルティーで!」

加蓮「お願いしまーす」

加蓮「……気になってる?」

藍子「……ばれちゃってました?」

加蓮「さっき言ってたPさんの話ほどじゃないけど、藍子、たまに目が泳いでるもん」

藍子「やっぱり……。加蓮ちゃん。その指、どうしたんですか?」

加蓮「さっき言ったじゃん。急に何かやりたくなることってない? って」

藍子「言っていましたね」

加蓮「でさー……」

加蓮「ベタなんだけどさー……」

藍子「ベタなんだけれど?」

加蓮「…………」

藍子「加蓮ちゃん、思い切って言っちゃってくださいっ。さあ、どうぞ!」

加蓮「……なんでか自分でもよく分かんないんだけどさー……」

藍子「じらさないで~っ」

加蓮「たまたまオフで、両親どっちも帰り遅くて……」

加蓮「台所見てたらさー、急にやりたくなったんだ。…………料理」

藍子「!?」プフッ

加蓮「笑ったでしょ! 今笑ったでしょ! ……そこで目ぇ逸らしてごまかせるって本気で思ってる!? ってか今もなんか顔ひくひくしてるし! 何!? 私が料理ってそんなに笑えること!?」

藍子「ちがいますちがいます、笑ってな……っ……!」プルプル

加蓮「肩震えてる! 口元手で押さえてるし!」

加蓮「って、あ、店員さん。あーうん、ありがと……」

藍子「うくっ、うくくくっ……」

加蓮「ねえ藍子、私が料理ってそんなにおかしい?」

藍子「ふ、ふーっ、ふーっ……。ご、ごめんなさい。その、あまりにも意外すぎて……!」

加蓮「…………」プクー

藍子「うぅ、ごめんなさい~! ほら、コーヒーを飲んで、機嫌治してください。ね? あっ、どうせなら交換しちゃいますか? アップルティーの方がすっきりするかもっ」

加蓮「……ま、いいけどね。笑われるとは思ってたし」

藍子「笑ってませんから~っ」

加蓮「なんか……なんていうんだろ。最近、無難なことばっかりしてるっていうか……」

藍子「無難なこと?」

加蓮「アイドルはいつも通り。ううん、もちろんお仕事は楽しいし、大変なこともあるんだよ? 油断はできないし、体力は相変わらずでキツイし、Pさんとかファンのことを考えたらやる気は出るもん」

加蓮「でも私さ、なんか"できること"しかやってないんだ。最近」

藍子「できること……」

加蓮「昔はできないことだらけでさ。あーあ、もっと自由になれたいいのになー、とか思ってて」

加蓮「アイドルになった頃は、なんで自分はこんなポンコツなんだろ、って何度も思ったし。……正直、みんなが羨ましかったなー」

加蓮「でも、できるようになったらなったでさ、できなかった頃が懐かしくなるの」

加蓮「無茶したくなって……できないことをやりたくなって。ただ、限界を超える! みたいなのって私のキャラじゃないし、藍子にも怒られそうだし」

藍子「……はい。怒っちゃいますね」

加蓮「で、そうしたら絶対できないことがやってみたくなっちゃった」

藍子「それで料理なんですか?」

加蓮「うん。野菜と味噌を入れたら味噌汁になるかな、って思ったけど……手を、うん」

藍子「切っちゃったんですね……」

加蓮「生のにんじんってすごく固かったんだね……。ムキになって力を入れ過ぎたら、さくって」

藍子「い、痛そうっ」

加蓮「お母さんに話したらちょっとポカーンってなって、それからすっごい大笑いされちゃった。……そんなに私と料理って似合わないかなー」

藍子「加蓮ちゃんは、美味しそうに食べてる方が似合いそうです」

加蓮「やっぱり?」

藍子「でも、料理も楽しいですよ! 加蓮ちゃん器用だから、練習すれば上手くできると思うから……私、教えましょうか?」

加蓮「……なんかすっごい笑われそうだからヤダ」

藍子「笑いませんってば~」

加蓮「笑った。さっき笑った」

藍子「もう笑いませんから!」

加蓮「……藍子、さっき笑ってないって言った。うそつきー」

藍子「あぅ。それはその……」

加蓮「いーよいーよ。私は食べる方専門だもん。藍子が作って私が食べるの」

藍子「私が作るんですか?」

加蓮「ポテト作ってー」

藍子「ポテト……ふふっ。やっぱりポテトなんですね」

加蓮「揚げたてのポテト。藍子が作って、私とPさんと一緒に食べるの」

藍子「Pさんも一緒なんですね」

加蓮「前にさ、コンビニでポテト買ったんだって。Pさん」

加蓮「そしたらタイミングが悪かったみたいで、すっごいしなってしてたって」

加蓮「しなっとしたポテトってマズイねー、って話したんだ。Pさんもちょっとポテト通になってたみたい」

藍子「きっと加蓮ちゃんのお陰ですよ」

加蓮「あははっ。だから藍子、これはプレッシャーだよ」

藍子「プレッシャー?」

加蓮「試練だよ」

藍子「試練」

加蓮「私とPさんも満足できないようじゃ、ポテトマスターの道はまだまだ遠く険しいよ!」

藍子「ポテトマスター?」

加蓮「うん、ポテトマスター」

藍子「……それはどんなマスターさんなんですか?」

加蓮「私とPさんを満足させられるポテトを作れるマスターさんです」

藍子「ってことは、加蓮ちゃんの言っている試練をクリアできれば……」

加蓮「おめでとう、今日から藍子はポテトマスター! 外で堂々と名乗れるよ。やったねっ」

藍子「ふふっ。次のラジオの時に、本当に名乗っちゃおうかな?」

加蓮「やっちゃえやっちゃえ。そのうちジャンクフード業界からオファーが来るよ」

加蓮「……ってそれは藍子には似合わないっか」

藍子「それなら、ゲストは加蓮ちゃんですね♪」

加蓮「ふふっ、そういうのもいいかもしれないね」

□ ■ □ ■ □


加蓮「んー……」ゴクゴク

加蓮「なんか苦いコーヒーじゃないなぁ」

藍子「苦いお話をしちゃったからかもしれませんね」

加蓮「次は辛い(からい)話がいいかな?」

藍子「辛い(つらい)お話をしちゃったら、加蓮ちゃんまで辛く(つらく)なってしまいますよ?」

加蓮「甘い話をしたら苦い物が食べたくなるんだよねー。それかコーヒーか」

藍子「えー。甘いお話に甘い物の方が好きですっ」

加蓮「スイーツ女子め」

藍子「ふふっ。甘さひかえめのお菓子、今度作ってみようかな?」

加蓮「うんうん。よく考えたらポテトばっかりっていうのもアレだもんね。せっかく秋なんだし」

藍子「食欲の秋っ」

加蓮「藍子を見習ってみました」

藍子「加蓮ちゃんは、結局なにの秋なんでしたっけ」

加蓮「アイドルの秋」

藍子「冬になってもおんなじことを言っていそうですっ」

加蓮「わかんないよ? 冬になったら突然こたつにハマってしてアイドルやめちゃうかも」

藍子「…………」ジトー

加蓮「何その絶対にあり得ないだろって顔」

藍子「事務所に戻ったら、こたつを探してみましょうか」

加蓮「じゃー私はみかんと猫を探してくる」

藍子「ふふっ、Pさんの家からですか?」

加蓮「ぷっ! ……あ、藍子~~~~っ!」

藍子「ひゃあっ」

加蓮「今の、今のなんか分かんないけどすっごい面白くて……藍子~~~~~~~っ!!」

藍子「なんで恨みがましい目で見てくるんですかーっ」

加蓮「思ったんだけどさ、こたつにみかんっていうのもベタすぎるよね」

藍子「別の果物にしてみますか? りんごとか、バナナとか」

加蓮「お、いーね。あとアイスとかもよくない?」

藍子「アイスっ。こたつに入ったら食べたくなっちゃいますよね」

加蓮「食べてたらよく呆れられるんだよねー、親から。別にいいじゃん、夏に鍋を食べようって言ってる訳じゃないんだし」

藍子「体力をつける為に、暑い日に暑い物を食べるのもいいそうですよ」

加蓮「そんなだけで体力がついたら苦労しないってー」

藍子「秋には何を食べましょうか?」

加蓮「暑い物でも冷たい物でも……私は暑い物派。藍子はー?」

藍子「残念。昨日、夏に食べ残していたアイスを食べちゃいました。お風呂上がりに」

加蓮「アイスってなんか余っちゃうんだよね。1つか2つくらい」

藍子「のんびりお風呂に入りすぎちゃって……とっても暑くて。そうしたら、アイスのことを思い出して、つい」

加蓮「藍子ってお風呂上がりにタオルとか巻いてそーだよね」

藍子「タオル?」

加蓮「や、なんとなく」

藍子「ちゃんと脱衣所で体を拭いて、服を来てから食べましたよ?」

加蓮「なんとなくだってばー」

藍子「加蓮ちゃんは……こう、ちょっと濡れたままでも構わず脱衣所から出てきちゃいそうですね」

加蓮「こらこら。どーしてちっちゃい加蓮ちゃんのことを知ってるの」

藍子「なんとなく、ですっ」

加蓮「ったくもー。……あ。そういえば、うちにもアイスが1つ余ってたような気がする……」

加蓮「藍子、食べる?」

藍子「いいんですか?」

加蓮「いーよいーよ。お風呂上がりにタオルでも巻いて食べなよー」

藍子「タオルは巻きませんけれど、じゃあ今度、もらいに行っちゃいますね」

加蓮「んー」

藍子「あ。それなら、加蓮ちゃん用のアイスを探しておかなきゃっ」

加蓮「……ん? ん……んん? それ……意味なくない?」

藍子「え? だって、一緒に食べたいじゃないですか」

加蓮「いやアイスが余ってるからあげるって話で、私が食べるなら私がそのアイスを食べればいい訳で……んんん?」

加蓮「……実はアイスは口実で藍子と遊びたかっただけなんです。よし、これで行こう」

藍子「くすっ。誰に言っているんですか?」

加蓮「実際さ、藍子って最近あんまりうちに来てくれないじゃん。なになに、もう加蓮ちゃんに飽きちゃったの? この女たらし!」

藍子「飽きてなんていませんよ~」

加蓮「そんなこと言って! 実は裏で浮気してるんでしょ!」

藍子「……私、加蓮ちゃんと付き合っていたんですか?」

加蓮「そこは知らないけど、とりあえず藍子が浮気してる設定」

藍子「ええぇ……。……うーん。……、……ご、ごめんなさい、あれはちょっとした思いつきだったんです!」

加蓮「そこは思いつきじゃなくて過ちとかついやっちゃったとかじゃない?」

藍子「そうなんでしょうか……」

加蓮「付き合ってもないのに浮気する人の気持ちはちょっと、」

藍子「想像できないですよね」

加蓮「恋愛とかアドバイスとか言われても困るよねー。大人っぽいからそういうの詳しいと思ってさー、とか。勝手なイメージ押し付けてきてるのそっちでしょって」

藍子「私も、たまに相談されちゃいます……。前にPさんと一緒にお仕事に行っていたのを、見ていた友だちがいたみたいで」

加蓮「そーいう時は久々に思っちゃうなぁ。この贅沢物! って」

藍子「ぜいたく?」

加蓮「告白だってできるのに。付き合うことだってできるのに。私よりよほど叶う確率の高い恋でしょ?」

加蓮「……なーんて。ま、いいんだけどね。叶うか怪しい恋だけど、叶わない恋じゃないんだから」

藍子「……??」

加蓮「藍子ちゃんにはちょっと難しいかなー?」

藍子「むぅ。そう言われちゃうと、もっと詳しく聞きたくなってしまいます」

加蓮「ここでこーして藍子とのんびりしているのと同じような物だよ」

藍子「はあ……」クビカシゲ

加蓮「藍子もやっぱり相談されちゃうんだー」

藍子「あは……話しやすいから、って」

加蓮「それは分かるなー」

藍子「お話を聞いてあげたら、それだけで大丈夫って、笑顔になってくれるんです」

加蓮「きっと話を聞いてほしいんだろうね」

藍子「誰にもお話できなくて、でもお話したくなること、できちゃいますよね」

加蓮「大丈夫。藍子の分は加蓮ちゃんが気づいてあげる。で、藍子がどれだけ嫌って言っても引きずり出すから」

藍子「……はいっ♪」

藍子「私も、加蓮ちゃんに相談したくなる気持ちは分かるなぁ……」

加蓮「早速恋の相談? 別にいいけど半分譲ってね」

藍子「そういうことじゃないですっ。加蓮ちゃんに相談したら、なんだかこう……すぱっ! と解決しちゃいそうで」

加蓮「すぱっと」

藍子「すぱっと!」

加蓮「買いかぶりすぎだよー。……まあぶっちゃけ、クラスメイトとかの悩みとか盗み聞きしてるとさ、何くだんないことに悩んでんだか、って思うこともあるけどさ」

藍子「ふふ……」

加蓮「……なんかおかしい?」

藍子「いーえ。加蓮ちゃんらしいなぁ、って思ってただけですよ」

加蓮「そ。まあくだんないことでも悩みは悩みだよね。笑うことなんてできないし、そんなこと言ったら私の悩みだって藍子やPさんからすればくっだんないことなのかもしれないし」

藍子「加蓮ちゃん、なんだか頼れるお姉さんって感じですね」

加蓮「まーたそのネタ? せめてお姉"ちゃん"にしてよ」

藍子「お姉さんじゃなくて、お姉ちゃん?」

加蓮「そこポイントだから」

藍子「加蓮お姉ちゃんっ。……加蓮ちゃんっ」

加蓮「何ー。ご機嫌取ってもお菓子くらいしか出ないよ?」

藍子「それなら、私も駄菓子屋さんで見つけたお菓子をお裾分けしますね」

加蓮「なら私は雑貨屋で見つけたヘアリボンを買ってあげる。きっと藍子に似合うよ」

藍子「靴屋さんで見つけたランニングシューズを買っちゃいます。足に負担が少ないみたいだから、加蓮ちゃんも疲れなくて済んじゃいますね」

加蓮「……藍子藍子。キリがない」

藍子「ですねっ」

加蓮「相談室とかやってみよっか」

藍子「相談室、ですか?」

加蓮「なんか解決しないといけない話は私が聞いて、とりあえず話したいってだけのことなら藍子が聞いて。面白そうじゃない?」

藍子「うふふ♪ 加蓮ちゃんと一緒なら、難しい相談でもうまく聞ける気がしますっ」

加蓮「暇な時は藍子が何か作って私が食べる」

藍子「じゃあ、加蓮ちゃんが食べているところを私が撮っちゃいますね」

加蓮「可愛く撮ってよ?」

藍子「それと、加蓮ちゃんの料理の練習も!」

加蓮「それはやんないってば」

藍子「料理、楽しいですよ~。やってみましょうよ~」

加蓮「相談者第一号の加蓮ちゃんです。最近、パッションなアイドル仲間がゴリおししてきます。上手くかわすにはどうしたらいいでしょうか」

藍子「時にはかわさず受け入れてみるのもいいと思いますっ」

加蓮「はい次、藍子の番」

藍子「私ですか?」

加蓮「練習だよ、練習」

藍子「じゃあ――ご、ごほんっ。相談者第二号の藍子ですっ。最近、加蓮ちゃんが……」

加蓮「加蓮ちゃんが?」

藍子「加蓮ちゃんが……」

藍子「……加蓮ちゃんなんです」

加蓮「はい?」

藍子「加蓮ちゃんが加蓮ちゃんなんです。どうしたらいいでしょうか」

加蓮「……まずはパッションな頭をどうにかしたらいいと思います」

藍子「パッションな頭って何ですかー」

加蓮「まあまあ」

□ ■ □ ■ □


加蓮「んー……」

藍子「~~~♪ ……? どうしたんですか、加蓮ちゃん」

加蓮「ん、いやどーでもいいことなんだけどさ。……いや、やっぱりすごく大切なこと」

藍子「大切なこと」

加蓮「ずっと気になってるっていうか、モヤモヤしてるっていうか」

藍子「どんなことですか?」

加蓮「さっきの話だけど……藍子が裏で浮気している相手、誰にしたらいいと思う?」

藍子「そこ大切なことでしたか!?」

加蓮「すっごい重要だよ。相手によって悲劇のヒロインになるか復讐のヒロインになるか決めないといけないんだから」

藍子「……ち、ちなみに、誰が相手なら悲劇になって、誰が相手なら復讐に……?」

加蓮「某ドジっ娘巫女と某お花畑の住人(顔担当:ようせいさん)ならもう全力だよね」

藍子「やっぱり……」アハハ

加蓮「未央とか茜が相手なら悲劇のヒロイン一直線。凛とかなら開き直って笑っちゃうかも」

藍子「あんまりケンカはしないでくださいね?」

加蓮「じゃれあいじゃれあい」

藍子「……って、どうして浮気相手がみんなアイドル仲間なんですか」

加蓮「あ、やっとそこ突っ込む」

藍子「加蓮ちゃんが自然に言うから、まるで当然のことのように考えちゃってましたっ」

加蓮「Pさんとかクラスメイトの男子とか言うと生々しいじゃん。それなら多少ありえない話くらいの方がいいって」

藍子「なるほどー……」

加蓮「……逆にさ、それを当たり前のことだって捉えちゃう藍子ってつまり――」

藍子「冗談が冗談っぽく聞こえないから、そう思っちゃうだけですっ」

加蓮「やっぱし?」

藍子「ドラマみたいなお話ってことなら、最初に言ってくださいよ~……。私まで、真剣に考えちゃいました」

加蓮「じゃあマジな話、藍子は誰と浮気したい?」

藍子「もう質問がめちゃくちゃになってますよ!?」

加蓮「あ。ホントだ。誰と浮気したい、って……あはは、意味不明すぎる……!」

藍子「あ、あはは……。でも、言っていて自分で分からなくなることって、よくありますよね」

加蓮「確かに藍子はよくそうなっちゃうよね」

藍子「そうなっちゃった時は、深呼吸をしたり、一度、頭の中をリセットしたり……」

加蓮「急に別の話を振るのもアリだよね。あ、でもシリアスモードの時はそういう訳にはいかないっか」

藍子「結局、何が言いたいのか分からなくなっちゃうことの方が多いんですけれどね」アハハ

加蓮「ね。もう私も何が言いたいのか訳分かんなくなっちゃってたし」

藍子「それなら、話を変えちゃいましょう。そうだ、今度、加蓮ちゃんの家に行く時の予定――」

加蓮「でもさー、藍子に似合う浮気相手って誰だろ、なんて美味しいネタ、あっさり捨てるのも勿体無いんだよねー」

藍子「もったいなくありません! 勢いよく捨てちゃいましょう!!」

加蓮「えー」

藍子「それにまた話が変なことになってます! 似合う浮気相手ってもうめちゃくちゃすぎます!?」

加蓮「似合う浮気相手。うん、今冬のトレンドは決まった」

藍子「アイドルがそんなことトレンドにしちゃダメ~~~~~っ!」

□ ■ □ ■ □


加蓮「くぁ……。ん~~~、結構暗くなっちゃってる。今何時?」

藍子「今は……わ、もう7時になっちゃってますっ。そういえば、ちょっぴりお腹も空いたような?」

加蓮「相談室さん相談です。私のアイドル仲間が私の時間を奪っていくんです。どうしたらいいでしょうか」

藍子「……あ、諦めてください」

加蓮「開き直りおってー! ……あ、そうだ。どうせなら今日食べに来る? ほら、アイス」

藍子「それもいいかもしれませんね♪ でも、加蓮ちゃんの家は大丈夫なんですか?」

加蓮「んー、まあ大丈夫でしょ、たぶん」

藍子「それなら……帰りに加蓮ちゃんの分も買っていきましょう。そして、一緒にゆっくりお風呂に入って、一緒に食べるんですっ」

加蓮「たまにはのぼせるくらいに入っちゃおっか」



おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。



些事ですが、神社巡回の為の交通費+αと喉の診療代の方が高くつきました。1日中泣いていました。

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