勇者「出来損ないの魔法使い?」2 (701)

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9章 故郷と魔法使い


—— 御祭りの国 謁見の間 ——


祭り王「——ふむ。すなわち、魔王は大戦争をすべく兵を集めておるというのだな」

勇者「その通りです」


祭り王「……ならばまず、偵察せねばなるまい」

勇者「そんな悠長なことを言っている場合では!」

エルフの騎士「そうだ人間の王よ!」

魔法使い「……」


祭り王「わかっておる。だからこそ、今は確かな情報収集が必要なのだ」

勇者「どうしてですか。そのような事をしている間にも魔王軍は……」


祭り王「もし、その吸血鬼が嘘の情報を言っておったらどうする」

勇者「そんな事はっ」


祭り王「仮に嘘の情報だったとしようぞ」

祭り王「戦争となると、各地域に派遣している兵隊はこの城へ結集しなければならないのだ」

祭り王「そのとき、その地域は無防備状態となる。そこを付け狙われたら容易く村や町は滅ぶぞ」


勇者「……」

祭り王「それにだ、問題はまだ山積みなのだ」


エルフの騎士「何が問題なのだ」

祭り王「何から説明したらよいか……。そうだな、まず魔王城に一番近い国はどこだ」


勇者「おそらく、山岳の国かと」

祭り王「そうだ。山岳の国だ。あの国は、山岳の間に建てられている。周囲は自然の要塞となっている国だ」


エルフの騎士「その国が何なのだ」

祭り王「山岳の国に、偵察兵を依頼せねばらならない。命懸けの任務だ。滅多に行わないことを、他国から依頼されたらどうする。何を保険にすればいい」

エルフの騎士「……情報が嘘だった場合の謝礼の要求か」

祭り王「そうだ。また国同士の信頼問題にも発展するだろう」

エルフの騎士「その通りだ……」


祭り王「今回の場合における偵察任務は、非常に危険かつ重要になる」

祭り王「その分、情報が正しかった場合、嘘であった場合のそれぞれの対処法を考える必要がある」

祭り王「容易に他国へ依頼などできんのだ」


勇者「くっ」

魔法使い「……」


勇者「ならば俺たちだけでも魔王城へ行きます」

祭り王「無謀じゃ」


勇者「なぜ!」

祭り王「本当に魔物が大結集しておったら、死地につっ込むことになるぞ? 多勢に無勢だ」

勇者「……」

祭り王「勇者は経験が浅すぎる。だからそのように浅はかな考えしか思いつかないのだ。その年齢で勇者とは、若すぎる気もせんではないが……」


勇者「……よく言われます」

エルフの騎士「我が君……」


祭り王「海路が使えれば、魔王城の裏手に直接行くことはできるんだが」

勇者「海路……。今は使えない海路なのですか?」


祭り王「常に海が荒れておってな。魔物すら寄り付かないという」

魔法使い「……魔物すら」


エルフの騎士「人間の王よ。質問がある」

祭り王「なんだ、言ってみろ」

エルフの騎士「感謝する。もし、大戦争になったとして人間に勝ち目はあるのか」


祭り王「正直に言おう、それはわからん」

エルフの騎士「弱気だな」


祭り王「まず、兵隊が足らん。我が国で寄せ集めたとして精々3000人程度。山岳の国ではおよそ3500人が限界じゃなかろうか」

エルフの騎士「3000だと……」

祭り王「一国の兵力としてはこの程度だ。勇者がいた光の国では、およそ6000人の兵がいたと聞いておる」

勇者「おそらく間違いありません。……ですが、もう滅んでしまいました」


祭り王「わかるか? かの強国、光の国ですら魔物によって一夜で滅ぼされたのだ」

祭り王「この国でも、他国に比べるとまだ兵士はいるほうだ」


エルフの騎士「……王は、魔物がどれほどいると考えている」

祭り王「大結集ならば、容易に万単位であると想像できるな」


エルフの騎士「そんな」

祭り王「じゃがな、山岳の国における自然要塞は凄まじく強固なものだ。しかし、その要塞自体を上手く使える人員がおればの事だが……」

勇者「それは山岳の国の兵士が一番上手く使えるのではないのでしょうか」


祭り王「山岳の国の兵士は、自国の誇りと名誉にかけてそう言うだろう」

祭り王「しかし、既に手はばれておる。新しい戦術が必要になるだろう」


勇者「……軍師というわけですね」


祭り王「戦力不足、戦術不足、使えない海路……。これでも、勝ち目がないと言うわしは、弱気だろうかエルフの騎士」

エルフの騎士「……」


勇者「……王は、これから何をなさるつもりですか」

祭り王「まず、山岳の国に偵察兵を頼む。それだけだ」

勇者「……偵察兵の依頼は行ってくれるのですね」

祭り王「わしも、少しは勇者を信じておる。だが、今のわしにはこれが限界だ」


王子「そんな姿勢では、負け戦になるのも必中! 父上よ、それではいけない!」

祭り王「どうした王子。先ほどからずっと黙っておったというのに」


王子「もう黙ってなどおられません! 兵を集めましょう。この国だけでも、戦争の準備をしないと!」

祭り王「王子よ、わしの話しを聞いておったか? 周辺地域を危険にさらす可能性もあるのだぞ」

王子「聞いておりましたとも。ですが、私は我が麗しの君が言うことを信じる。大結集をしているのであれば、おそらく周辺地域は安全です!」


エルフの騎士「あの人間……」

魔法使い「……」


祭り王「よいか。これは遊びではない。国の、民の、人の命が懸かっている大問題なのだぞ」

王子「百も承知です! ですが、人を信じられず何が王族ですか!」

祭り王「わしに王族のなんたるかを説教するのか! 小童が!」

王子「私はもう子供ではありません!」


祭り王「……」

王子「……」


祭り王「……そこまで言うならば、よろしい。ならば、お主が集めてみせよ」

王子「父上?」


祭り王「お主が兵を集め、統率してみせよ」

王子「……」

祭り王「お主も王族であるならば、気概を見せよ! そして示すがよい。次代の王の威光を」

王子「……わかりました。この国の兵力、3000を集めてみせましょう!」


勇者「宜しいのですか、王子」

王子「平気ですよ。全ての責任は私が取ります」


祭り王「では、偵察兵を依頼しよう」

祭り王「おそらく半月後には、結果が出る」


勇者「もし戦争になったとして、山岳の国まではどれほどの時間で移動できますか」


祭り王「どれだけ急いでも半月程だ」

勇者「半月……」


王子「それでは既に戦争が始まっている可能性があります!」

祭り王「じゃが、これはどうしようもないことだ」

王子「くっ……」


祭り王「それにだ王子よ。お主は半月で各周辺地域に派遣される3000人の兵を集めねばならないのだぞ」

王子「……わかっております、父上」

祭り王「ならばよし」


祭り王「さて、本日はこれにて謁見を終わりとする」






—— 御祭りの国 城 通路 ——


エルフの騎士「私たちはこれからどうするんだ」

勇者「俺たちは……」


エルフの騎士「それに我が君のその傷。まだ完全に癒えきっていないではないか」

勇者「……」


??「おおー!! 久しぶりにお会いすることができましたね麗しの君!」

エルフの騎士「そそそそ、その声は……」

王子「ああ、再び会えるときを待ちわびておりました!」


エルフの騎士「そ、そうか」

王子「その瞳、声、鼻、唇。一時も忘れはしませんでしたよ」


エルフの騎士「なんと言えばよいのか……」

王子「はははは!」


勇者「お話しの途中で申し訳ないのですが、王子。用はなんですか」

王子「そうでした。重要なことを忘れていました。これも、麗しの君の罪」

エルフの騎士「私のせいにするな!」


勇者「ははは……。それで、重要なこととは?」

王子「はい。私は依頼にきました」

勇者「依頼ですか。しかし、今の俺には何も……」


王子「いえ、用があるのは勇者殿ではないのです。麗しの君、あなたに」

エルフの騎士「わ、私なのか!?」


勇者「エルフの騎士に何か」

王子「用件はは一つ。私の護衛をしていただきたい」

勇者「護衛、ですか」


王子「エルフの騎士、私とともに兵力を集めて頂けないでしょうか。その間だけでよろしいので、護衛をお願いしたいのです」

エルフの騎士「どういうことだ」


勇者「説明はしてくれますか?」

王子「もちろんです。立ち話しも何ですので、こちらへ」


—— 応接間 ——


王子「そちらへお掛け下さい」

勇者「ああ」


エルフの騎士「ふかふかだ」

魔法使い「うん」


勇者「それで、エルフの騎士を護衛にしたいというのは?」

王子「はい。……私は遅くても明日には、兵力を集めにいかねばなりません」

勇者「それとエルフの騎士がどう関係するんだ」


王子「兵力を集めるには、本来であれば令書を送るのです」

王子「しかし今回ばかりは時間があまりに惜しい。そこで、私自身が赴き兵たちに声を掛ける次第です」

王子「そのためには護衛が必要なのです」


勇者「話はわかった。しかし何故エルフの騎士なんだ」

エルフの騎士「そうだ。それに私は人間に従順する気などない。あくまで我が君のために」


王子「まぁそう仰られるずに」

エルフの騎士「……むぅ」


王子「まず、各周辺地域への移動に関して、少数精鋭でなくてはなりません」

エルフの騎士「確かに。人員が多いほど移動に時間は掛かる」


王子「はい。また、麗しの君がエルフ族であることも大きな理由となるのですよ」

エルフの騎士「エルフ族が?」


王子「王族がエルフを従えてやってきたら人間はどう思いますか、勇者殿」

勇者「……何か際立つものを感じるな」

王子「はい。私の威厳を示すことにもつながります。ましてやエルフ族の中における騎士。その影響力は小さくはありません」


エルフの騎士「ならば私に偶像になれと言っているのか」

王子「有り体に言えば」


エルフの騎士「……この私を、道具扱いするのか人間」

王子「麗しの君をこのように扱うのは不本意です。しかし今は時間が足りない。何をしてでも兵力を集めねばなりません」

エルフの騎士「……」


王子「どうか、お願いします」

エルフの騎士「……断る」

王子「……」


王子「ならば、これでどうでしょうか……」

勇者「何をするつもりですか」


王子「私にできるのは、お願いだけなので」

魔法使い「……うそ」


勇者「や、止めてください! 王族が、民衆に土下座など!」

王子「民の命のためならば、恥じも外見もプライドもかなぐり捨てましょう」

エルフの騎士「……」


王子「お願いします」


エルフの騎士「……私は人間に従順しない」

王子「……そうですか」

エルフの騎士「だが! 我が君の命ならば、それに従おう」


勇者「エルフの騎士!」

エルフの騎士「か、勘違いするな! 私はこの人間は気持ち悪いと思っているし、人間に従順などしない!」

王子「なんと、気持ち悪い……」


エルフの騎士「だが、その王族としての気概、民への思いやり、そういう所だけは評価してやらんでもない」

王子「流石は、麗しの君」

エルフの騎士「それは止めろ! あと、いい加減頭を下げるのも止めてくれ」


王子「では……」

エルフの騎士「まだだ。我が君はまだ命令を下していない」


王子「勇者殿」

勇者「はい」


勇者「エルフの騎士、祭り王子の護衛の任に当たれ」

エルフの騎士「承知した。我が君のために」


王子「ありがとうございます。これで、旅の心配は減りました」


エルフの騎士「だが、私が王子の護衛をしている間、我が君はどうするんだ」

勇者「まずは傷を癒そうと思う」


エルフの騎士「そうだな。それが賢い選択だ」

勇者「ああ」


王子「では、麗しの君はこちらへ」

エルフの騎士「なんだと」


王子「早くて今日、遅くて明日には出発なのです。麗しの君には準備をして頂かなくては」

エルフの騎士「そんな!」


王子「さぁ、こちらへ」

エルフの騎士「ま、待て! まだ我が君との別れに対する心の準備が!」


王子「今は一刻を争います」

エルフの騎士「だ、誰だ貴様らは!」

王子「この国の女中ですよ」


女中A「うふふ」
女中F「エルフ族を弄れるなんて、楽しみだわぁ」


エルフの騎士「こいつら眼が怖い!!」

王子「心配なさらずに」


エルフの騎士「離せ、離せーーーー!! 我が君ーーーー!!」

王子「では、私たちは行きます。さようなら」





勇者「…………」

魔法使い「勇者さま?」

勇者「……はっ! ど、怒涛の展開に呆気を取られていた!」

魔法使い「……はい」


勇者「さてと、俺たちはどうするかな」

魔法使い「……あの、帰りましょう」


勇者「帰る? 宿屋にか?」

魔法使い「いいえ……。私の故郷にです」

勇者「魔法使いの故郷?」


魔法使い「私の故郷は、この国から近いところにあります。そこでゆっくりと傷を癒しましょう。平和な村です」

勇者「なるほどな。じゃあ、行ってみるか」

魔法使い「はい。私も、母さんに会いたかったので、嬉しい」


勇者「母親が好きなんだな」

魔法使い「うん」


勇者「じゃあ、明日にでも行くか。今の俺じゃ、戦うこともできないからな。この国に残っても、仕方ない」

魔法使い「では、明日向かいましょう。馬ならおそらく1日程度で付くと思います」


——
——
——

—— 翌日 草原 ——


魔法使い「もう少しで、私の故郷です」

勇者「そうか。それにしても、二人旅なんて久しぶりだな」


魔法使い「そうですね。ところで勇者さま、旅立ちの前に何かしてました。何を?」

勇者「色々とな」

魔法使い「気になります」


勇者「いいじゃないか。それよりもさ、魔法使いの故郷はどんな所なんだ」

魔法使い「むぅ。……私の故郷は麦の村と呼ばれる、のどかな場所です。麦の大収穫祭は本当に楽しかった」

勇者「へぇ」


魔法使い「でも、馬がいて本当によかった」

勇者「人よりも速いからな」

魔法使い「思ったよりも早く着きそうなので、村でゆっくりすることができると思います」

勇者「そうか」


魔法使い「村に着いたら、是非私の家に来てください」

勇者「魔法使いの家に?」


魔法使い「はい。母さんも歓迎してくれると思います」

勇者「そうだといいんだけど」


—— 麦の村 ——


魔法使い「わぁ、懐かしいな……。学院にいた頃以来」

勇者「ここが魔法使いの故郷なんだ」

魔法使い「うん」


勇者「まずはどこへ行けばいいんだ」

魔法使い「この村には一応、旅人の宿泊する場所はありますが……。そんなところに行くより、私の家に行きましょう」

勇者「いいのか?」

魔法使い「はい」





爺「おー、魔法使いちゃん帰ってきてたのかい!」

子供「お姉ちゃんだー! お帰りー!」


魔法使い「ただいま」

勇者「なんだか明るいな」


魔法使い「やっぱり故郷に帰ってこれるのは嬉しいです」

勇者「そうか。……あれ、じゃあいつから人見知りになったんだ?」


魔法使い「そ、それは……。学院で……」

勇者「なるほどな」

魔法使い「はい。やっぱり、出来損ないだったから……」

勇者「おーい! ごめん、落ち込むなー!」

魔法使い「……」


勇者「と、ところで魔法使いの家はどこにあるんだ?」

魔法使い「え? あ、それならもうすぐ付きます」


勇者「楽しみだな」

魔法使い「普通の家です。楽しめるようなものは何もありません」

勇者「いや、魔法使いがどんな所で育ったのか気になるじゃないか」


魔法使い「それって……」

勇者「どうした」

魔法使い「……いえ、何でもないです」

勇者「そうか?」

魔法使い「……うぅ」


—— 魔法使いの家の前 ——


魔法使い「ここが、私の家です」

勇者「へぇ」


魔法使い「じゃあ入りましょう。きっと母さんもいるはずです」

勇者「ああ」





魔法使い「た、ただいま」

母「その声は……。もしかして魔法使い?」

魔法使い「えっと……。うん、ただいま母さん」


母「やっと帰ってきてくれたのね。ああ、嬉しい……!」

魔法使い「く、苦しいよ母さん……」

母「ごめんね。でも、今は許してっ」


魔法使い「あのね母さん。その、実は私」

母「……んーん、知ってる。あなた、勇者さまと旅に出たんでしょ」

魔法使い「どうして」

母「学院から手紙が届いてね。とてもびっくりしたわ……」

魔法使い「ごめんなさい」


母「で、その勇者さまはどこにいるのかしら」

魔法使い「えっと、そこ」


母「え? あ、あらあらー……」

魔法使い「……」


勇者「ど、どうも。俺、勇者です……」

母「そんなかしこまらないで下さい。……娘が、世話になっています」

魔法使い「やめてよ母さん」


勇者「そ、そうですよ! それに、半ば無理やり俺が連れ出したようなもんだったし!」

母「でも、きっと決めたのはこの子自身よね」

勇者「それは、はい」


母「そう。……でも、本当に嬉しいわ。あなたが無事に帰ってきてくれて」

魔法使い「……母さん」


母「あ、あら。ごめんね……。歳のせいかしら、涙が……。いやね、まだ若いつもりだったのに」

勇者「俺、ちょっと外にいます」

母「ごめんなさい……」


魔法使い「母さん」

母「ああ……。私の娘、可愛い娘……」


勇者「やっぱり母娘だな。どことなく似ていた」

勇者「……いいな」





魔法使い「もう、大丈夫です」

勇者「そっか」


母「ごめんなさい。恥ずかしいとろこを見せてしまったわね」

勇者「そんなことないですよ」


母「それで、今日はどうして帰ってきたのかしら?」

魔法使い「それは、療養のため」

母「あなた、怪我をしているの?」

魔法使い「私じゃない。勇者さま」


母「勇者さまが?」

勇者「その、さま付けは止めてください。ちょっと魔物との戦いで傷付いて」

母「そうなのね。わかったわ、いくらでもこの家で休んでいってちょうだいね」

勇者「迷惑になるんじゃ」

母「そんなことはないわよ。部屋も一つ余っているんだし」


勇者「それならお言葉に甘えて」

母「ええ。娘が世話になったんだもの、これくらいのお礼はするわ」


魔法使い「もう、母さん」

母「うふふ」


勇者「感謝します」

母「ゆっくりしていってね」

勇者「はい」


魔法使い「……私、ちょっと」

母「トイレかしら?」

魔法使い「母さん!……もう!」

母「もうお年頃の女の子になったのね。知らない間にこんなに成長してくれたなんて……」

魔法使い「知らないっ」




母「ねぇ勇者」

勇者「な、なんですか」

母「気にならない?」

勇者「な、何がですか?」

母「うふふ。おいで、教えてあげるわ」


魔法使い「……もう。あれ、母さん、勇者さま?」



ウフフ
カワイイナ


魔法使い「も、もしかしてっ!」




母「ほら、このぬいぐるみ。名前があるのよー」

勇者「ぬいぐるみが多いんですね」


魔法使い「母さん!! なんで私の部屋に……っ」


母「いいじゃない。減るもんじゃないでしょー」

魔法使い「で、でもっ」

母「ほら、勇者も可愛い部屋って言ってくれてるわ」


魔法使い「だからって、だって……。と、とにかく出て行って」

母「あらあらー」

魔法使い「もう……」


勇者「……えっと」

魔法使い「勇者さまも出て行って!」


母「追い出されてしまったわぁ」

勇者「やっぱりダメだったんじゃ」

母「でも、昔のあの子のこと、気にならないのかしらー」


勇者「それは、まぁ」

魔法使い「そうなの」

勇者「魔法使い!?」


魔法使い「……」

勇者「あ、あはは」


母「まぁまぁ。そうだわ、お父さんにも挨拶してきなさい」

魔法使い「父さんに?」

母「ええ。それに、まさか今日帰ってくると思ってなかったから、何も準備できてないのよ」

勇者「そんな、気を使わないでください」

母「久しぶりのお客さんなのよ。ちょっとくらいは頑張っちゃう」


魔法使い「……わかった」

勇者「俺はどうしたらいいんだ」


母「いっしょに行ってきてもらっていいかしら」

勇者「行く? お仕事でもしているんですか」

母「行ったらわかるわよ」


勇者「そういうことなら」

魔法使い「行ってきます」


母「はいはい、行ってらっしゃいー」






—— 墓場 ——


魔法使い「ただいま、父さん」

勇者「これは、お墓。そういうことか……」

魔法使い「はい。父さんはここに眠っています」

勇者「……」


魔法使い「私が小さい頃、魔物から母さんと私を守って」

勇者「魔物か……」


魔法使い「だから母さんは、東の魔法学院に私を入学させました」

魔法使い「最低でも自分を守る力を身に付けさせるために」


勇者「それであの学院にいたのか」


魔法使い「学院では本当に辛いことばっかりだった」

勇者「ああ」


魔法使い「それでも、母さんが頑張ってくれていたし、父さんのようになりたかった」

魔法使い「だからずっと一人で頑張った」


勇者「魔法使い……」


魔法使い「父さん、ただいま。私、ちょっとだけ強くなれたよ」

勇者「ああ。魔法使いは強くなった」

魔法使い「うん」

勇者「俺やエルフの騎士を何度も守ってきた」

魔法使い「はい……」


勇者「……どうして泣いてるんだ?」

魔法使い「え? あ、あれ? 私、なんで……」


勇者「大丈夫か?」

魔法使い「……はい。ちょっとだけ、色んな気持ちが膨れ上がっただけです」

勇者「そうか」


魔法使い「あの、勇者さま……。少し甘えてもいいですか」


勇者「ああ、いいよ」

魔法使い「ありがとうございます……」

勇者「……」


魔法使い「勇者さま、あったかい」

勇者「そうかな」

魔法使い「うん」

勇者「……好きなだけ、こうしてるといいさ」


魔法使い「は、い……。うぅ、うああ……」







魔法使い「——あ、ありがとうございました……。なんだか、照れくさい」

勇者「いいよ。またいつでも甘えてくれ」

魔法使い「……ん」


勇者「さてと、じゃあそろそろ家に戻るか」

魔法使い「そうですね。もう、すっかり暗くなっちゃいました」


—— 魔法使いの家 ——

——
——


母「いっぱい食べてくれて嬉しいわー」

魔法使い「母さんの料理、美味しかった」

勇者「ごちそうになりました。特に、麦のスープは絶品でした」


母「ふふふ」



勇者「料理に、お風呂まで頂いて本当にありがとうございます」

母「いえいえ。この程度しか御持て成しできなくて悪いくらいだわ」

勇者「そんなことないですよ」


魔法使い「勇者さまはこの部屋を使ってください」

勇者「本当に何から何まで……」


魔法使い「気にしないで」

母「そうよ。気軽にしていって欲しいわ」


勇者「ありがとうございます」


母「さぁ、もうお休みなさいね。夜更かしはいけないわ」

魔法使い「子ども扱いしないで」

母「何を言ってるのかしら。あなたはいつまでも私の子供よ?」


魔法使い「そういうことじゃなくて……」

母「どういうことかしら?」


魔法使い「もう……母さんのばか。もういいもん」

母「あらー、本当に子供みたいねぇ」

魔法使い「……えへへ」

母「うふふ」


勇者「じゃ、じゃあ俺はもう休ませてもらいます」

母「あら? うふふ、娘といちゃいちゃし過ぎたかしら?」

魔法使い「えっと……」


勇者「あ、あはは……。その、失礼しますね」

母「自分の部屋だと思って使ってちょうだいね」

勇者「はい。そうさせてもらいます」


魔法使い「私も、お休みなさい」

母「ええ、お休みなさい」


—— 勇者の部屋 夜 ——


コンコン


勇者「はい?」


母「私よ。入っていいかしら?」


勇者「もちろんです」




母「もう寝るところだったかしら?」

勇者「そろそろ寝ようと思っていたところですが。大丈夫ですよ」

母「ごめんね? その、ちょっとだけいいかしら」

勇者「全然気にしないで下さい。何ですか?」


母「……聞きたいことがあるの」

勇者「聞きたいこと?」


母「あの子のこと。旅のことをね」

勇者「わかりました」


母「あの子は、旅の間も元気だったかしら」

勇者「色々ありました。でも、元気だったと思います」


母「そう……」

勇者「それに、すごく頼もしいです」

母「足を引っ張ったりはしていない?」

勇者「むしろ助けてくれています」

母「それはよかったわ」

勇者「はい」


母「…………」

勇者「…………」

母「…………」

勇者「……え、えっと」


母「……ダメね。本当は、聞きたいこと以上に、お願いしたいことがあるの」

勇者「お願いですか」


母「単刀直入にお願いするわ。あの子を、私の娘を……もう連れて行かないで……」

勇者「……っ!?」


母「私には、もうあの子しかいないの」

勇者「母さん……」


母「この部屋に来る前に、あの子にも話しを聞かせてもらったの」

母「何度も危ない目にあったり、人を殺したり……。可愛い娘に、そんなことをさせたくない」

母「いつか夫のように魔物に殺されてしまうんじゃないかと、そう思うだけで夜も眠れない」


勇者「……」

母「お願いします。その怪我が癒えたら、娘をここに置いて去って下さい」


勇者「どうしても、ですか」

母「……」


勇者「……」

母「いきなりこんなお願い、本当に悪いと思っているの。でもね、わかって」


勇者「……はい」


—— 一週間後 村の近くの草原 ——


勇者「……どうしたんだ魔法使い? こんな所に呼び出して」

魔法使い「あの」


勇者「ん?」

魔法使い「完成しました」


勇者「何が完成したんだ?」

魔法使い「薬莢付きの、銃弾」

勇者「本当か!」

魔法使い「そのお披露目を」


勇者「魔法使い、ずっと頑張って作っていたもんな」

魔法使い「時間は掛かった。でも、構造はわかりました」

勇者「それはすごいな」


魔法使い「これで、もっと私は役に立てます」

勇者「……そうだな」


魔法使い「では、実際に使ってみます」

勇者「頼んだ」


魔法使い「目標物は、あの一本だけ生えている木です」

勇者「ちょっと待て。あんなの、届くはずないだろ」


魔法使い「距離にすると、だいたい5、6kmはあります」

勇者「仮によしんば届いたとしよう。でも、威力は……」


魔法使い「見ていて」

勇者「魔法使い?」


魔法使い「……すぅ、はぁ」

勇者「……」


魔法使い「すぅー……はぁ……。んっ」



ズバァァンッ!!



勇者「うるせえ!! な、なんて音だ!?」

魔法使い「手が、痺れた」


勇者「手が痺れたって……」

魔法使い「実際にあの木を見に行ってみましょう」


——
——


勇者「そんな、嘘だろ……。反対側まで貫通してるぞ」

魔法使い「これが、この銃の本来の力だと思う」

勇者「すごいな」


魔法使い「……私は、当たり前のことの気付かなかった」

勇者「当たり前のこと?」


魔法使い「勇者さま。例えば、武器を改造する目的って何ですか」

勇者「そうだな。やっぱり、より強く、より使いやすくするのが一番の目的になるんじゃないか」


魔法使い「そうです。この銃も、そういう目的で魔法回路を組み込んだんだと思います」

魔法使い「より強く、銃の限界を超えて行くために」


勇者「そうだったのか」

魔法使い「はい。この銃は、火薬が要らないんじゃない。魔法で打ち出すために作られた銃じゃない」

勇者「完成された銃を、さらに強くするために魔法を使うだけか」


魔法使い「そうです。銃や銃弾、それと魔法の力、この二つが合わさってこそ本領発揮となる」

勇者「すごいな。通りで、火竜が伝説の武器って言うわけだ。桁外れの威力だ」


魔法使い「これで、私はもっと役に立てるはずです」

勇者「ああ」


魔法使い「これだけの火力、他に誰にも出せるとは思えない」

勇者「魔法使い?」


魔法使い「……いえ。それだけです」

勇者「まぁ確かに魔法使いの言う通りだ。でも、魔法使いがこれだけ自身に満ち溢れるなんて珍しいな」


魔法使い「……。私を連れて行っても、きっと邪魔には……」

勇者「一度も邪魔なんて思ったことはないさ」

魔法使い「勇者さま……。じゃあどうして……」


勇者「ん、何か言ったか?」

魔法使い「……なんでもない」


勇者「そうか?」

魔法使い「うん。……戻りましょう」

勇者「わかった」


勇者「これだけの距離だと、移動だけで大変だな」

魔法使い「ごめんなさい。怪我をしているのに」


勇者「いいよ。魔法使いがやっと完成させた武器だ。このくらい平気だよ」

魔法使い「本当に?」


勇者「本当だよ。それにさ、傷もだいぶ癒えた。もうほとんど完治しているよ」

魔法使い「すごい」

勇者「この治癒能力だけは、自分でも人間離れし過ぎていると思うよ」

魔法使い「そんな……」


勇者「それにしても、今日も言い天気だ。この村、本当にのどかな場所だな」

魔法使い「……それだけが、この村の取り得なのです」

勇者「そっか」


魔法使い「……あの。勇者さま。私は……」

勇者「どうした?」

魔法使い「……ううん、なんでもない」

勇者「ん?」


魔法使い「……」

勇者「……?」


魔法使い「あの。聞いてもいいですか」

勇者「何をだ」


魔法使い「その……勇者さまの故郷のことを」

勇者「俺の故郷? 別にいいけど、何が聞きたいんだ?」

魔法使い「故郷の様子とか、勇者さまがどう過ごしたのか」

勇者「……」


魔法使い「勇者さまが故郷のことを話したがらないのは知っています」

魔法使い「でも、それでも私は勇者さまのことが知りたい……」


勇者「……楽しい話じゃないぞ?」

魔法使い「私は、勇者さまがどうして魔王討伐を目指しているのか、どうして勇者であることに拘るのか知りたいです」

勇者「……」


魔法使い「今聞いておかないと、きっと後悔すると思う」

勇者「どうして」

魔法使い「聞けるときに、聞かないと……」

勇者「俺が話したくなくてもか?」


魔法使い「……私は、勇者さまのことを何も知らない。だから」

勇者「……わかった。話そう。でも、少し長い話しになると思うぞ?」

魔法使い「構いません」


勇者「わかった。じゃあ、今夜俺の部屋にきてくれ」

魔法使い「そこで話して頂けるんですね」

勇者「ああ」



—— 魔法使いの家 ——


母「お帰りなさい」

魔法使い「ただいま」

勇者「お邪魔します」


母「さっきすごい音が聞こえてね。びっくりしちゃった」

魔法使い「……」

勇者「あ、あはは」


母「ところで魔法使い、その鞄はなぁに?」

魔法使い「私の武器」

母「武器? ああ、この前教えてくれた銃って武器のことね」

魔法使い「そう」


母「じゃあさっきの音は、その銃の音かしら」

魔法使い「うん。ごめんね」


母「いいのよ。でも、すごいのね。見せてもらってもいいかしら?」

魔法使い「わかった」


—— 夜 魔法使いの家 ——

コンコン


勇者「魔法使いか?」

魔法使い「はい」


勇者「いいよ、入っておいで」

魔法使い「お邪魔します」

勇者「ああ」


魔法使い「あの、昼間の約束は」

勇者「忘れてないよ。もちろん、話すつもりだ」


魔法使い「……お願いしておいて何ですが、本当にいいんですか?」

勇者「もちろんだよ。それに、魔法使いにならいいかなと思ってる」


魔法使い「え? それって……」

勇者「これだけいっしょにいたんだ。少しは信用しているって所を見せないとな」

魔法使い「……」


勇者「どうした?」

魔法使い「な、なんでもない」


勇者「じゃあ、話すぞ」

魔法使い「うん」


勇者「あれは、今からちょうど5年前になる……。俺が12歳の頃かな、勇者に選ばれたのは」




〜〜 5年前 光の国 〜〜


少年「やあああ!!」

??「甘い! お前の剣は隙だらけだ!」


少年「うわああっ」

??「……まったく。むやみにつっ込むな」

少年「いつつっ……。もう少し手加減しろよ……」


師匠「馬鹿を言うな馬鹿を」

少年「この鬼女……」


師匠「聞こえているぞ!」

少年「いってぇ!! なんだよ、木刀で殴ることないだろ!」


師匠「お前はもう少し礼儀も知れ」

少年「うっせぇよ!」

師匠「どうして、こんなガキが勇者に選ばれたんだ……」

少年「知るかよ……」

とりあえずここまで。前スレはHTML化依頼だしました
次の投稿で9章は終わると思うー。忙しいけど、時間あったら投稿するよー
読んでくれるような優しい人がいたらあざーした

意外と多くて驚いた。今、暇だし一気に最後まで投稿するよ


師匠「本当に、王族の神官どもは何を考えてこんなガキを勇者に……」

少年「ガキガキ言うな!」

師匠「はいはい。ほら、さっさと構えろ」


少年「嘘だろ!? もう立てねぇって!」

師匠「そんな言い訳、戦闘で通じるとでも思ってるのか」


少年「いってえええ!! これ以上その木刀で殴られたら折れる! 腕も足も折れるから!」

師匠「知らん」

少年「この鬼!!」


師匠「私はお前を強くする義務があるんだ。非常に面倒くさいが」

少年「愚痴りながら殴ってくるな!……あっ」


師匠「……はぁ。気絶したか」


兵士「あの、師匠殿。これは少しやりすぎでは」

師匠「おお。お前か」


兵士「あなたはこの国で随一の剣術を持つ方。こんな子供にあなたの指導は……」

師匠「私が知ったことではない。まったく、勇者計画なんて面倒くさいものを……」

兵士「勇者計画。なんですかそれは」

師匠「おっと。お前は知らなくていいさ」


兵士「師匠殿! どちらへ!」

師匠「私は部屋に戻る。そのガキが目覚めたら、城の外周を10周程度走れと伝えてくれ」


兵士「10周!? ただの一般兵でも5周で息があがるというのに!」

師匠「ガキの体力はすごいんだよ」

兵士「そんな……」


師匠「もし、ちゃんと伝えなかったら痛い目を見るのはその糞ガキだ」

兵士「……」




少年「……ぐっ。いってぇ」

兵士「目覚めたか」


少年「お、兵士!」

兵士「お、兵士! じゃない!」


少年「俺、気絶してたのか」

兵士「大丈夫なのかい?」

少年「こんなもん、へっちゃらだよ」


兵士「へっちゃらって……。下手したら本当に骨が折れているんだぞ」

少年「そんときはそんときだよ」


少年「それで、あの鬼女はどこいきやがった」

兵士「部屋に戻ったよ。伝言があるんだ。城の外周を……5周だってさ」


少年「なるほど。10周か」

兵士「っ!? どうして!」


少年「あの女が5周程度で許すたまかよ」

少年「でも、まじで10周かよ……。せめて8周程度にしてくれよ。また血を吐きながら飯だな」


兵士「君はどうしてそこまで」

少年「そんなもん、国の病院にいる母さんのために決まってんだろ」

兵士「そういえば。君の母君はこの国で治療を受けているんだったな」


少年「俺が勇者に選ばれたおかげだな」

兵士「だが、その代わりに君が……」


少年「さてと、行くかー」

兵士「まさか、今から走るつもりか!?」


少年「当たり前だろ? じゃないと、晩飯に間に合わないからな」

兵士「しかし!」

少年「うっし! 行ってくるぜ!」


—— 翌日 ——


師匠「おい、寝坊すんな」

少年「昨日寝たのが遅かったんだよ」


師匠「言い訳をするな糞ガキ。ほら、火炎魔法」

少年「あちちちち!! そ、それって魔法か!?」

師匠「そうだ。今日は魔法の練習をしてみようと思ってるんだが」


少年「俺、魔法使ったことなんてないぞ」

師匠「普通はそうだ。ほら、手を出せ」


少年「やだ」

師匠「ひねくれるな糞ガキ」

少年「ちっ。わかったよ」


師匠「さて……」

少年「なんだよ。いきなり手を握るなよ、気持ち悪いなぁ」

師匠「……」


少年「いたたた!! ごめん、謝るって! だから握りつぶそうとするな!」

師匠「まったく、お前という奴は」


少年「ふーふー……。おー、いてぇ」

師匠「……ふむ」


少年「今のでなんか判るのかよ」

師匠「お前、魔法の素質ないな。何にも感じ取れなかったぞ。普通は何か素質を感じ取れるんだがな」

少年「なんだ、俺魔法使えないのか?」


師匠「魔法というのは、使えるか使えないか、それだけで分かれるんだ」

少年「んで、俺は使えない方ってわけか」


師匠「そうだ。色んな意味で使えないな、お前」

少年「もっと言い方ってあるだろ……」

師匠「なんで私がお前程度に気を使わないといけないんだ」

少年「……鬼」


師匠「だから聞こえていると言っているだろ」

少年「あっついってば!!」


師匠「まったく……。少しは学習しろ」

少年「知るかよ! じゃあ学校に行かせろよ!」

師匠「そんな所に行く暇などお前にはない」


少年「……どうせあんたも、俺が農家出身だからって馬鹿にしてるんだろ」

師匠「はっ。私がそんな程度で。舐めるな」


少年「ぜってぇそうだ!」

師匠「農家出身だろうが、王族だろうが貴族であろうが。私には関係ないことだな」

少年「それって本気で言ってんのか」

師匠「愚問だ」


少年「ぐ、ぐも? なんだ?」

師匠「……はぁ。当然だ、当たり前だ、その通りだ」

少年「なにがだ?」


師匠「こ、このっ!」

兵士「まぁまぁ」

師匠「お前!」


兵士「いいか? 愚問っていうのは、馬鹿なことを聞くな、って意味だよ」

少年「おお! 流石は兵士だ! わかりやすいぞ!」

兵士「そうかな? それはよかったよ」


師匠「……」

兵士「あなたも、相手は子供なんですよ……」

師匠「知るか」


兵士「まったく」

師匠「はぁ……」



兵「おーおー、やってんなぁ」
兵「すげぇよな。こんな平和な国で、よくもまぁあれだけ」
兵「くわばらくわばら」



師匠「……あの腑抜け共め」

兵士「……」


少年「んで、今日は何をするんだよ鬼女」

師匠「減らず口だな。まぁ、私相手にそこまで言えるのは腑抜けではないということか」

少年「ああ? なんだそれ」


師匠「なんでもない。さて、お前に魔法の手ほどきは必要ないことは判った」

師匠「だからお前はひたすら剣術を鍛えるぞ。基礎をとにかく積むからな」


少年「わかった! よし、こい!」

師匠「こいって……。私から攻撃してもいいのか?」

少年「あ」


師匠「では、お言葉に甘えて」

少年「ま、待て! さっきのちがっ、てぇいってええええ!!!!」


—— 昼休み ——


兵士「だ、大丈夫か?」

少年「……う、うん」


兵士「これは酷いな……。ほら、回復魔法だ」

少年「いつもありがとな、兵士」


兵士「これくらいしか僕にはできないからね」

少年「それにしても、なんであの女は俺に厳しいんだろうな」

兵士「やっぱりそう思うかい」


少年「当たり前だろ? だって、他の兵はずっと休んでるんだぞ?」

少年「たまにちょっと訓練してるかなって思ったら、王族が視察に来たときだけだし」


兵士「……この国は、魔物と積極的に戦ってきたわけじゃないからね」

少年「戦争中なのに?」


兵士「この国がさ、魔王城から一番離れているのも理由だと思うよ」

少年「なんで」

兵士「魔物の脅威……っと、簡単に説明すると魔物があまり攻めてこないってことだよ」

少年「ふーん」


兵士「それに、なんか師匠殿が勇者計画なんて言っていたなぁ」

少年「勇者計画? なにそれ」


兵士「僕は知らなくてもいいって言われて、何も教えてもらえなかったな」

少年「だっせー」


兵士「そ、そういう事は言わないでくれよ」

少年「そんなんだからずっと偉くなれないんだよ」

兵士「まぁ。僕もそう思うよ……」


少年「でも、あの鬼女に唯一口答えできるからすげぇよ!」

兵士「そりゃあ、幼馴染だからね」

少年「まじかよ!」


兵士「隣に住むお姉さんだったんだよ」

少年「まじか……」


兵士「昔っから厳しい人だったなぁ」

少年「あんな女子がいたらこえぇよ」

兵士「怖かったなぁ……」


少年「やっぱりか……」


〜〜 現在 〜〜


勇者「俺が勇者に選ばれた頃は、こんな感じだった」

魔法使い「……」


勇者「どうした?」

魔法使い「その、今と全然性格が違うっていうか……」

勇者「ああ。それはもう少ししたら判るよ」

魔法使い「……うん」


魔法使い「あの、すごく厳しい鍛錬だったのですね」

勇者「そうだな。今思い返してもかなりきつかった。生きていることが不思議なくらいだ」

魔法使い「その師匠さん、どうしてそんな厳しく……。それに、勇者計画というのは?」


勇者「……そういえば言ってなかったな。勇者計画のこと。国家機密だよ、王族と神官しか知らない」

勇者「これも、故郷のことを話すのに説明が必要なんだ。あまり故郷のことは話したくなかった理由の一つかな?」


魔法使い「勇者計画……。それは一体」

勇者「これもあとで話に出てくるよ」

魔法使い「はい」


勇者「……それにしても、あの頃は本当に大変だった。毎日が地獄だった」

魔法使い「でも、兵士さんが優しい」


勇者「そうだな。物心ついたときには父さんは居なかった」

勇者「だから、兵士は俺の父親代わりみたいなもんだったよ」


魔法使い「勇者さまも?」

勇者「よくある話さ」

魔法使い「……うん」


勇者「さてと、話は一気に飛んで4年前になるんだ」

魔法使い「どうして?」

勇者「1年間ずっと訓練、鍛錬だったからさ」

魔法使い「それだけ?」

勇者「それだけ。少し話が進展するのが、俺が勇者に選ばれて1年経った頃だ」


魔法使い「その頃に、何があったんですか」

勇者「母さんが死んだんだ」

魔法使い「そんなっ」


勇者「病気に負けてしまったんだよ。これもよくある話だ」

魔法使い「……」


勇者「俺はそのとき、勇者を続けることに意味を見出せなくなったんだ」

魔法使い「……うん」


〜〜 4年前 光の国 〜〜


師匠「おい腑抜け」

少年「なんだよ」


師匠「親が死んだ程度で腑抜けるな」

少年「黙れ……」


師匠「敵は親が死んだ程度では待ってくれないぞ」

少年「じゃああんたは俺の敵だって言いたいのかよ!」

師匠「お前はそう思っていたんじゃないのか?」


少年「……くそ」


兵士「師匠殿。それは流石に……」

師匠「これは私の教育だ。口を出すんじゃない」

兵士「しかしっ!」


師匠「ふん。めそめそしている暇があるなら、剣を取れ。鍛錬だ」

少年「……いやだ」


師匠「なに?」

少年「もう嫌だ。俺は勇者を止める」


師匠「お前の意見なんて聞いていない」

少年「うっせぇよ」


師匠「いいからこっちにこい!」

少年「離せ!」

師匠「腕を捉まられたくないなら、きりきり歩け」


兵士「どこへ行くのですか!」

師匠「なに。こいつには教育をするだけだ」

兵士「ですが!」

師匠「私を信じろ」






少年「……自分で歩く」

師匠「そうか。私も、お前みたいな糞ガキの腕を掴むのは嫌だったんだ」

少年「つくづく嫌な女だな」


師匠「ふん。女であることなど、とっくに捨てたがな」

少年「女を捨てたのか」

師匠「魔物に犯されてからな」


少年「あんたみたいな女が、嘘だろ」

師匠「悲しいかな。本当。子供の頃の話だ。そのときからだ、強さを求めたのは」

少年「そんなことが……」

師匠「気付けば国で一番強い剣士になっていたよ」


少年「……珍しいな。あんたが自分の話をするなんて」

師匠「言われてみればそうだな。なに、気まぐれさ」


少年「へー」

師匠「なんだ? こんな美人が犯されたって話なんだぞ? 興奮したらどうだ」

少年「興奮? ざまぁみろってことか? いくら俺でも、そこまでは思えねぇぞ」

師匠「そういうことじゃないんだが……。ガキだな」

少年「なんでガキ扱いになるんだよ。ところで、犯されるってなんだ?」


師匠「……はぁ。色も知らない糞ガキが。兵士はナニを教えていないのか?」

少年「意味がわからねぇぞ」

師匠「そのうちわかるさ」


少年「ちっ……。それで、俺はどこへ連れて行かれるんだ」

師匠「私の部屋だ」


—— 師匠の部屋 ——

少年「……ここが、あんたの部屋か」

師匠「あんたって言うな。私のことは師匠と呼べといつも言っているだろ」

少年「じゃああんたも俺のことを勇者を呼べ」


師匠「まさか。お前程度のガキを勇者なんて認めるかよ」

少年「じゃあ俺もあんたを認めない。それに、俺はもう勇者辞める」


師匠「だから、そんな簡単に辞められないって言ってるだろ」

少年「もう嫌なんだ。血のおしっこが止まらない夜もあったんだぞ」


師匠「それがどうした」

少年「……本当に鬼女だな」

師匠「いくらでも言え」


少年「それで、どうして俺はここに連れてこられたんだ」

師匠「あまり他の連中に聞かれたくないんだ」


少年「何をするつもりだ」

師匠「ナニをしてもいいんだが。どうだ? するか?」

少年「意味がわからないことを言うな」

師匠「……純情過ぎるのもどうかと思うぞ」

少年「なんだそれ」


師匠「まぁふざけるのも大概にするか」

少年「そうだ。結局、何なんだ」


師匠「いやな。お前には話しておかないと思ってな」

少年「話し?」


師匠「ああ。勇者計画のことをな」

少年「勇者計画? なんだそれ。兵士も言ってた気がする」

師匠「ああ。勇者計画っていうのは、大体200年前から始まった計画だ」


少年「200年前? 初代勇者が選ばれたころか?」

師匠「なんだ、それは知っていたのか」

少年「舐めるなよ。兵士に勉強を教えてもらってるんだからな」

師匠「勉強なぞお前には不必要なんだがなぁ」


少年「あんたがそう言うから! 俺、周りの同い年が知ってることも知らないんだぞ!」

師匠「同い年? そんな連中と会う暇なんてあったのか」

少年「兵士が休みに町へ連れていってくれるんだ」


師匠「……あの馬鹿」

少年「っていうか、早く教えろよ。その計画のこと」


師匠「そうだったな。勇者計画っていうのは、魔王討伐の人材を育てる計画だ」

少年「魔王討伐? 人材?」


師匠「勇者っていうのは、人間の中でも一番強い奴がなるもんだ」

少年「知ってる」


師匠「じゃあ、その人材はどこから見つけ出す?」

少年「神官が勇者を選ぶんだろ?」

師匠「表向きはそうだ」

少年「じゃあ裏向きがあるのか?」


師匠「神官に選ばれた人間は、勇者の素質を持つと言われているんだ」

少年「へぇ」


師匠「その素質を持つものを国家規模で育て上げ、育成する。見つけるよりも育成した方が確実だからな」

少年「それが勇者計画?」


師匠「まだあるぞ。勇者計画は、お前が旅に出てからも続く」

少年「なんで」

師匠「お前に近い、もしくはそれ以上の強さを持つ人間を集めるんだ」

少年「そんなに強い人間ってごろごろいるのかよ」


師匠「いないな」

少年「じゃあどうやって集めるんだ」


師匠「だからこそ、お前は旅に出るんだ。旅先で、強い奴を仲間にしていくんだ」

少年「面倒だなー」

師匠「そうだろうな。下手したら、10年経っても仲間が一人も集まらないかもしれない」

少年「ちょ!」


師匠「だが、お前には仲間を集めなくてはいけない」

少年「仲間なんか集めて何をするんだ」

師匠「魔王討伐だ。集めた仲間とともに、魔王討伐を実行するんだ」

少年「なんかそれ……暗殺者軍団みたいだな」


師匠「あながち外れでもないな」

少年「勇者がそんなんでいいのかよ」

師匠「仕方ないだろ。これは約200年前から続く計画なんだから」


少年「その計画が終わるときはあるのか

師匠「もちろんだ」


少年「それはどんなときだ」

師匠「一つは、お前が死ねば今回の勇者計画は終わる」


少年「……」

師匠「もちろん、死にたくはないだろ?」

少年「当たり前だ」


師匠「あとは、魔王が討伐されたときだ」

少年「でも、今まで魔王討伐が成功したことはないんだろ」


師匠「よく知っているな」

少年「これでも勇者の端くれだからな」

師匠「威張るな、糞ガキ」

少年「いちいち癪にさわる女だな」


師匠「はいはい」

少年「いつか泣かす!」

師匠「そのときを待ってるよ」


少年「でも、俺はもう勇者を辞めるけどな」

師匠「ここまで話を聞いてもなお判らないのか? お前は勇者を辞めることはできない」


少年「どうしてだよ!」

師匠「これは、国家の計画だ。お前一人に掛けた費用、時間は無駄にできない」


少年「そんなの知るか!」

師匠「我が侭を言うな。私や兵士がお前にくれてやった時間、思いやり、全部を無駄にしたいのか」

少年「っ!」


師匠「お前の母親は、お前が勇者として世界に貢献することを切に願っていたんだぞ」

少年「それは……」


師匠「逃げ出すつもりか、臆病者」

少年「そんなつもりじゃ……っ!」


師匠「それとも、今さら修行や鍛錬がきついと泣き言を言うつもりか」

少年「……」

師匠「お前も男ならば、気概や根性を見せろ。ここまで来たんだ、最後までやりぬけ」


少年「……なんで」

師匠「どうした」

少年「なんで俺にそこまで言うんだよ……。今までずっと厳しくしてきたのに」


師匠「そんなもん、簡単だ。私のしたことを無駄にしたくないだけだ」

少年「それだけ?」


師匠「お前は私にどういう返事を望んでいるんだ」

少年「それは……」


師匠「こう言って欲しいのか? 頼む、勇者を辞めないでくれ。そのためには何だってしよう」

師匠「母の死がつらいのは今だけだ。私が慰めてやろう、と」


少年「な! 馬鹿にすんじゃねぇ!」

師匠「……」


少年「なんだよ、なんで抱きしめるんだよ……」

師匠「母の死は悲しいものだ」

少年「さっきは腑抜けるなって言った……」


師匠「ああ」

少年「あんた、言ってることめちゃくちゃだよ」

師匠「判ってる。でも、これが私だ。今さら性格など変えれん」

少年「知るか」


師匠「ただな、鍛錬にまで影響を及ぼすんじゃない」

少年「……ごめん」


師匠「なんだ、素直だな」

少年「うっせぇ……」


師匠「ん? 泣いているのか?」

少年「……泣いてない」


師匠「まったく、お前という奴はどこまでひねくれてるんだ。さっきは素直に謝ったじゃないか」

少年「……うるせぇよ鬼女」


師匠「こんなときまで減らず口か……」

少年「……」






師匠「落ち着いたか?」

少年「俺はずっと落ち着いてたぞ」

師匠「目を真っ赤にしているくせに」


少年「み、見るなっ」

師匠「ははは」


少年「…………」

師匠「なんだ、間抜けな顔をして」

少年「あんたが笑っているところ、初めて見た」

師匠「私だって笑うさ。いや、お前の前では初めてだったか?」


少年「鬼が笑った……」

師匠「黙れ」

少年「いってぇええ!!」

師匠「はぁ……」


少年「……とりあえず、もう少し勇者は続けるよ」

師匠「そうか」

少年「そんで、あんたを倒す」」


師匠「いつか泣かしてくれるんだろ?」

少年「絶対にだ!」

師匠「よくぞ言ったな。初めてお前を弟子にしてよかったと思った」


少年「なんでさ」

師匠「弟子に倒すなんて言われたら、そりゃ嬉しいだろ?」

少年「よくわかんねぇ」


師匠「やっぱガキか」

少年「ガキじゃねえ!」

師匠「意地になるなよ。……また明日から鍛錬してやるよ」


少年「……頼んだ」


〜〜 現在 〜〜


魔法使い「師匠さん、実は優しい人だったんですね」

勇者「すごく厳しい人だったけど、温かい人だったよ」


魔法使い「優しい人じゃ」

勇者「あれは鬼だ。優しいところなんて何もなかった」

魔法使い「……」


勇者「でも、あの厳しい鍛錬があったからここまで生きてこれたんだと思う」

魔法使い「うん」

勇者「そう考えたら、あの厳しい鍛錬もありがたかった」

魔法使い「そうですね」


勇者「ただ、本当に思い出すのも嫌なような地獄の鍛錬だったんだ……」

魔法使い「勇者さま、目が……」

勇者「ははは……」

魔法使い「そ、その話の続きをお願いします」


勇者「ああ、そうだった……。それから話は3年前。魔物襲撃の直前に遡る」

勇者「あれは剣術大会の日だったかな」


〜〜 3年前 〜〜


兵士「今日の剣術大会。とうとう決勝戦ですね」

師匠「ああ」

兵士「やっぱり今年も師匠殿が優勝するんですかね」

師匠「さあな」


少年「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るな」

師匠「やあ糞ガキ」

少年「うっせぇ鬼女」


兵士「そういえば、決勝戦の相手は君だったね。14歳の少年が決勝に残るなんて、すごいよ」

少年「この国の兵が弱すぎるんだよ」


師匠「確かにそうだ。平和ボケしすぎだ」

少年「そうだよな」


兵士「あ、あはは」

師匠「お前も笑っている場合じゃないぞ。初戦でこんな糞ガキで負けるなんてだらしない」

兵士「……何も言えません」


少年「でも、兵士はそこそこ強かったぞ」

師匠「そりゃあそうだ。お前を弟子にする前は、私がこいつに指導していたんだからな」

少年「通りで」


兵士「まぁ、君ほど厳しい指導じゃなかったけどね」


師匠「さぁ、決勝戦を楽しみしているぞ」

少年「こっちこそ。絶対に負かす」


師匠「どうだろうな」

少年「首を洗って待っていろ」







審判「では、両者構えて」



師匠「……」

少年「……」



審判「始め!!」



少年「やああ!!」

師匠「しっ!」

少年「うりゃあ!!」


師匠「少しは成長したようだな」

少年「もう腕力だけならあんたより強いぞ」


師匠「糞ガキでも、その異常な身体能力だけは認めてやろう」

少年「言ってろ! おりゃああ!!」

師匠「はっ!」



兵士「すごい……」


兵「なんて戦いだ」
兵「あの子供、やっぱ勇者に選ばれただけあるな」
兵「ほらほら、賭けた賭けた!」


兵士「それなのに、この国の兵ときたら……」


少年「この2年間、みっち基礎を教わったからな!」

師匠「剣筋は認めてやろう」

少年「素直じゃねぇな鬼女!」

師匠「お前に言われてしまったらおしまいだ!」


少年「うおおおお!!」

師匠「甘い!」


少年「なっ!」

師匠「そこっ!」


少年「こっなくそぉ!」

師匠「……ほう。あれを避けたか」


少年「這い蹲ってでも、あんたには勝つ」

師匠「ほほう。それに息も上がっていないとはな」


少年「そりゃあ毎日城の外周を15周も走らされたらな……」

師匠「よくここまで育ったな。だが、まだまだだ!」


少年「剣術ならもう負けていない!」

師匠「ふんっ。ほざくな! しっ、はぁ!」

少年「やぁあ!!」



兵士「あれが子供の戦い方なのか……。一端の剣士みたいだ」



師匠「しっ、はっ!」

少年「くっそ、うお!」



兵士「だが、もうすぐ勝敗は付く」


師匠「もう負けを認めろ」

少年「うっせぇ。あんたの力、速度にはもう追いついてんだよ」


師匠「詳しいがそれも認めよう。身体能力だけならば、私と同等だ。その体でよくもまぁ」

少年「全部あんたのおかげだ。地獄のような特訓だったけど、おかえでこんなに戦えるぜ」


師匠「……はぁ。ルールとはこれほど厄介だったとはな」

少年「何か言ったか?」

師匠「いいや。お遊びお遊戯にも飽きてきたところだ」


少年「負けそうだからって、負け惜しみかよ!」

師匠「……剣術だけが戦いじゃないんだがな」


少年「ぐちぐち言ってないで、行くぞおりゃあ!!」

師匠「その掛け声だけはどうにかならんか……しっ!」

少年「この方が力が入るんだよ!」

師匠「そうなのか! はぁっ! やぁ!!」


少年「うおおおおお!!」

師匠「そこだ!!」


——
——


兵「あの二人、いつまで戦うつもりなんだ」
兵「もうかなり時間が経っていると思うぞ」
兵「そろそろ俺たちも飽きてきたな」


兵士「兵たちは、この戦いを見ても何も思わないというのかっ」




少年「おりゃああ!!」

師匠「元気が有り余りすぎだ、糞ガキ!!」


少年「おんどりゃああ!!!!」

師匠「なっ!」



審判「そこまで!」



少年「……ハァハァ。うっしゃ! 俺の勝ち!」

師匠「……私の剣が、吹っ飛ばされてしまった」


少年「こ、これであんたは戦えない。俺の勝ち……だ……」

師匠「おい!……なんだ。気絶したのか……」


兵士「やっぱり子供だ。無茶をし過ぎたんだな」



審判「では、これより勝者の」

師匠「いい」


審判「はい?」

師匠「私はこの馬鹿弟子を介抱してくる」

審判「し、しかしこれから表彰と賞金の授与式が」

師匠「それはあとで私の部屋に送れ」


審判「そうは仰られましても……」

師匠「命令だ」


審判「……くっ。わかりました……」




師匠「こんな試合。勝とうが負けようが悔しくなど……」

少年「すーすー……」


師匠「いいや。悔しいな。まさかこの私が、弟子に……しかもこんな子供に負けるなんてな。でも、よくやったぞ……勇者」

少年「んん……。ざま……みろ……鬼……。へへ」

師匠「寝言でも減らず口か。流石だ」


—— その日の夜 ——


少年「……ん、ここは」

師匠「やっと起きたか」


少年「うお!? あ、あんたなんで!? それに近い!!」

師匠「喚くな。ここは私の部屋だ。それと私のベッドの中だ。いっしょに寝ている」


少年「なんでだよ! っていうか、戦いは……!」

師匠「いいから落ち着け。お前は勝ったさ。……この私に」

少年「え」

師匠「忘れたのか? 私の剣を吹っ飛ばしたじゃないか」


少年「……そうだった。そうだった! やった、やった!」

師匠「でもその後直ぐに気絶したけどな」

少年「……そうだった」


師匠「戦いの後で気絶するなど、恥じをしれ」

少年「うっせぇ。これじゃあ試合に勝って勝負に負けたみたいじゃねえかよ……」

師匠「難しい言葉をよく知っているな。その通りだ」


少年「……なんだよ。俺、勝ってないじゃん」

師匠「だがルールの中では勝ったぞ?」


少年「なんか、納得できない」


師匠「ま、そんなもんだろう」

少年「ところで、なんでいっしょのベッドに入ってるんだ」

師匠「お前は気絶していた。だからベッドに寝かした」


少年「俺の部屋でもよかっただろ」

師匠「そうだったかもな」

少年「……んで、なんであんたもいっしょに横になってるんだ」


師匠「私も疲れたから休んでいただけだよ」

少年「変な奴」

師匠「これ、言葉遣いは考えろ」


少年「ふんっ」

師匠「まったく。せっかく私が優しくしてやっていると言うのに……」

少年「面倒くさいことは嫌いじゃなかったのかよ。2年前と言ってることが全然違うぞ」


師匠「これだけいっしょに居るんだ。少しくらい情が移ってもいいだろ?」

少年「……そういうもんか?」

師匠「そういうものさ。それに、お前を見ていると母性が湧いた」


少年「あんたに母性なんてあるのかよ」

師匠「失礼だな。いくら私が子供の作れない体でも、言い過ぎだぞ」


少年「……子供ができない?」

師匠「魔物に犯されたせいで、そういう機能が壊れたらしい」

少年「結婚したら子供ってできるんじゃなかったのか?」


師匠「……」

少年「なんで笑いをこらえてるだよ!」


師匠「いやいや、すまない。そうだ、水でも持ってきてやろう」

少年「気持ち悪いくらい優しいな」

師匠「お前は仮にも私を負かした男だ。ちょっとは認めてやるぞ……勇者」


少年「あ! 今勇者って言った、勇者って言った!!」

師匠「知らんな」

少年「ぜってぇに言った!!」


師匠「黙れ糞ガキ。さて、私は水を用意しようかな」

少年「ちょっと待てって! ってええええ!? なんであなた裸なんだ!!」


師匠「私は寝るとき、いつも裸体だが?」


少年「ばっ……」

師匠「なんだ? 女の裸を見るのは初めてか?」


少年「……」

師匠「そっぽを向くな」

少年「うっせぇ、何か着ろ!」

師匠「知らんな。ここは私の部屋だ。好きにして何が悪い」


少年「……ふんだ」

師匠「むくれるなよ。さてと、水でいいか?」

少年「……うん」


師匠「ははは。初心だな、お前」

少年「だまってろ」


師匠「確かコップはこっちに……」

少年「……」

師匠「なんだ、やっぱり私の裸体が気になるのか」

少年「あ、いや。その……傷だらけだなと思って」


師匠「ああ、この体中の傷跡のことか?」

少年「なんでそんなに……」


師匠「戦い続けてきたからさ。この腹の傷は、オークに。この足と腕の傷はローパーに」

少年「豚と触手か」

師匠「他にも、この胸の傷は——」

少年「わわわっ!」


師匠「恥ずかしいのか? お前だって母親のおっぱいを吸って生きてきたのに」

少年「な、なんでか分からないけど仕方ないだろ!」

師匠「ふふ」

少年「笑うな! なんか、あんた今日すっげぇご機嫌だな……」


師匠「それはそうだ。なんたって弟子が私を超えたのだからな」

少年「……あんた」


師匠「続いてこの下腹部の傷だが」

少年「……あんまり生えてないな。あ、でも兵士はもじゃもじゃだぞ? いっしょに大浴場に入ったとき、見た」

師匠「そこを見るなそこを。あ、あと……そういう情報はいらないからな」


少年「なぁ? 俺にも生えるのか?」

師匠「まったくお前という奴はガキか……。いや、ガキだったな……はぁ」


少年「ガキって言うな!」

師匠「ならば大人にしてやろうか?」


少年「なんだよそれ」

師匠「知りたいか?」





〜〜 現実 〜〜


勇者「それで」

魔法使い「少し待って下さい」


勇者「ん、どうした?」

魔法使い「その、勇者さまは……えっと。あの……」

勇者「……」

魔法使い「お、大人に、その、あの……」


勇者「そ、それは秘密だ!」

魔法使い「……教えて下さいっ」


勇者「あー、えっとー……知りたいか?」

魔法使い「重要なことです!」


勇者「そ、そんなに大きな声を出さなくてもっ」

魔法使い「あ、すみません……」


魔法使い「……あの、どうなったのですか?」

勇者「なんでそんなに知りたいんだよ……」


魔法使い「そ、それは……うぅ」

勇者「まぁ、恥ずかしいから秘密だ」


魔法使い「……大人になったんですね」

勇者「ひ、秘密だってば! と、とにかく話はそのまま深夜になるんだけど」

魔法使い「……けだもの」


勇者「けだものって……」

魔法使い「……ふんだ。それでは、話の続きをお願いします」


勇者「はぁ……。続けるが、その日の深夜に魔物の襲撃が起きたんだ」

魔法使い「……はい」


〜〜 3年前 剣術大会後の深夜 師匠の部屋 〜〜


少年「すぅすぅ……」

師匠「……これはよくない気配が集まってきているな」


少年「んん……、ふあー、どうしたの?」

師匠「寝ぼけるな。なんだか様子がおかしい。支度しろ」

少年「……わかった」


カンカンカンカン


師匠「これは警鐘の音!?」

少年「なにそれ」


師匠「敵が来ているということだ! 馬鹿な……ここ数年間は鳴らなかったのに」

少年「と、とにかく外に出よう!」

師匠「裸で出られるか! さっさと着替えろバカもの!」


師匠「なんだこれは!」

少年「城が、崩壊しかけているなんて……」


魔物「グアアア!!」


少年「あ」

師匠「ぼさっとするな! はぁ!!」


魔物「ギャアアア……」


少年「こ、これは……」

師匠「魔物だ! 見たことくらいあるだろ!」

少年「で、でもこんな間近に見たのは初めてだ……」


魔物「グルルル」
魔物「ガルルル」
魔物「オオオオ」


師匠「なんて数だ……」

少年「俺にも剣を!」

師匠「糞ガキがいきがるな! お前は私の後ろに隠れていろ!」

少年「でも俺は国一番の剣士だ!」


師匠「調子に乗るな糞ガキ。一対一の戦いしか知らない未熟者が」

少年「だからってここで指を咥えて見てろって言うのかよ」


魔物「ガアア!!」

師匠「邪魔だ! 火炎魔法!」

魔物「ギャア!!」


少年「すげぇ……」

師匠「とにかく、城の外へと行くぞ!」

少年「う、うん」



師匠「はぁ!!」

魔物「グオオオ……」



少年「……強い」

師匠「当たり前だ。私を誰だと思っている?」

少年「……知るかよ」

師匠「いい加減、私を師匠と認めろ」

少年「うっせぇ」


師匠「ここからは走るぞ。出口はすぐそこだ」

少年「王さまはどうすんだよ」

師匠「この様子じゃとっくに死んでるだろうな」


少年「薄情者だな」

師匠「じゃあお前はあの王に情を移せるのか?」


少年「……ああ」

師匠「優しいんだな。お前のことなんて勇者選択の儀式以来、一度も会っていないというのに」

少年「でも、同じ人間だ」

師匠「……そうか。お前は優しいのだな」


少年「あ、出口だ!」

師匠「ま、待て! 走るな!!」


少年「城下町の様子を早く見に行かないと!」

師匠「だから待て、この糞ガキ!!」


魔物「グオオオオ」

== 魔物は少年におそいかかった ==

少年「うそ、だろ?」


師匠「くそ、間に合わないっ!」



ブシュ



少年「な、んで……」


兵士「うおおおお!!」

魔物「ギャアアっ」


少年「なんで兵士が俺なんかを庇うんだよ!!」

兵士「…ははは。なんでだろうね」


少年「傷が! 血が……」

師匠「兵士!! 大丈夫かお前!」


兵士「この傷はちょっと……。回復魔法も無意味ですね……」

師匠「ばか者!! 自己犠牲なんか意味がないだろうに!」

兵士「……僕の性格、知っているくせに」


少年「ごめん、俺のせいだ……」

兵士「そんなことないさ。僕は僕の意思で、君を助けたんだ」


師匠「お前……」

兵士「……僕はもう、だめだ。早く行ってくれ……」


師匠「……わかった」

少年「あんたって女は本気で鬼か!? なんでそんなこと言えるんだよ!!」


師匠「魔物の攻撃は、兵士の大きな血管を傷つけている。もうすぐ、出血多量で死ぬ」

兵士「あ、あはは……。相変わらず容赦ない、ですね」


少年「でも!!」

師匠「行くぞ」


少年「待て、待てって!! 離せ、俺だけでも兵士を担いで行くからさぁ!!」

兵士「行ってくれ……。頼む」


少年「兵士!! 離せってば!!」

師匠「っ!!」


パァン


少年「え? なんでぶつんだ?」

師匠「甘ったれるな! 私だってなぁ! 幼馴染を見捨てるのは辛いんだ……」

兵士「師匠殿……」


師匠「だからこそ、兵士の気持ちを汲んでやってくれ……」

少年「……」


師匠「じゃあな。あの世で会おう」

兵士「はい。少年、君もお達者で」


少年「……」


—— 城の敷地の外 ——

師匠「これは、なんという」

少年「街が燃えている……」


師匠「どうしてだ。この国の常備軍は何をしているんだ……」

少年「……みんな死んでる?」


師匠「くそ、このままじゃ私たちもいずれはお陀仏だ」

少年「どうするんだよ」

師匠「……」

少年「おい」


師匠「逃げるぞ」

少年「逃げるだと! この町の住人はどうすんだよ!」

師匠「もう助からんさ。それよりも、お前は生きなくちゃいけない」


少年「俺なんかの命よりも、住人の命に決まってるだろうが!」

師匠「お前は糞ガキでも、勇者だろ!! ここで死んでいい男じゃない!!」


少年「あ、あんた……はっきりと俺のことを勇者って」


師匠「そうだ。私は認めている。この2年間で、お前は勇者になれる男だと信じられるようになった」


少年「……うそだろ」

師匠「本当だ。お前には本当に悔しい思いばかりさせられる。私の25年間の剣術が、たった2年で追い抜かれるしな」


少年「でも」

師匠「お前は勇者になれ。そして、もっと大勢の人間を救うんだ」

少年「そんな……。だって俺はまだ!」


師匠「でも、だってなんて言い訳を言うな」

少年「……鬼女」


師匠「……」

少年「なんだよ。いつもみたいに俺を殴れよ」

師匠「そうだな」

少年「調子が狂うだろ」


師匠「……次はこっちだ」

少年「そっちは馬宿だろ」


師匠「いいから来い」

少年「いちいち手を掴むなって!」


—— 馬宿 ——


師匠「よし、一頭だけ生き残っていたか」

少年「こいつ、運がいいな」


師匠「確かお前には馬術も教えてはずだ」

少年「そうだけど」


師匠「お前はこの馬に乗って、光の国から逃げるんだ」

少年「な、なんで!」

師匠「もうこの国は助からないだろう。城は崩れ、町は燃えた」

少年「あんたはどうすんだ」


師匠「私もある程度魔物を倒したら逃げるさ」

少年「じゃあ今いっしょに逃げようよ」

師匠「私はここである程度魔物を引き止めておく。お前が安全に逃げられないだろうが」


少年「俺はあんたを置いて行きたくない!」

師匠「なんだ? 一晩で私に惚れたか?」


少年「そんなんじゃ……」

師匠「ははは」

少年「笑ってる場合じゃない!」


師匠「……そうだな」

少年「一人で逃げるなんて嫌だ……」


師匠「大丈夫。すぐに追いつくよ」

少年「……」


師匠「いいか? 東門から出て、真っ直ぐ行くと一つの廃墟がある。神殿だ」

師匠「そこには魔物が寄り付かない不思議な結界が昔から張ってあるんだ」


少年「……神殿」

師匠「そこで落ち合おう。なに、私もすぐに向かうさ」

少年「あんたは……」


魔物「キシャーーー!!」


師匠「もう発見されたか! 行け糞ガキ!!」

少年「くそっ!」


魔物「ガルルル」
魔物「グオオオ」
魔物「ハーハー」


師匠「……こいよ魔物。私が相手だ」

少年「やっぱりあんたもいっしょに!」

師匠「いいから行け!! 師匠の言うことは聞け、馬鹿弟子!」


少年「……わかった。でも、絶対に来いよな!!」

師匠「そうだ。一つ言い忘れていたことがあった」


少年「なんだよ、こんなときに」

師匠「もう少し礼節を知れ。それだけだ!」


少年「……考えとくよ!! じゃあな!!」


師匠「ああ! また会おう勇者!!」




魔物「グアアアア!!」
魔物「ギャアアア!!」
魔物「グルルルルル!!!!」


師匠「さてと、一仕事だ! うおおおおお!!!!」







少年「もっと速く走れ、駄馬!!」

馬「ヒヒーン」

少年「もう一度、あの女に会うために俺は死ねないんだよ!!」


少年「無事でいろよな……」


〜〜 現実 〜〜


勇者「それから、俺は三週間、その神殿で待ち続けた。師匠の言った通り、神殿には魔物が寄り付かなかった」

魔法使い「……」


勇者「ちょうどその神殿で、その銃を見つけたんだ」

魔法使い「この銃を……」


勇者「俺はずっと待っていた。でも結局師匠は現れなかったよ」

魔法使い「そんな」

勇者「もちろん、崩壊したあとにも国には行ったさ。だけど、師匠の死体すら見つけることはできなかった」

魔法使い「っ」


勇者「王さまの死体らしきものだって見つけることはできたのにな」

魔法使い「……」


勇者「そして決心したんだ。師匠が言い残したことをしようって」

魔法使い「それが、今の勇者さまの存在意義なんですね」

勇者「ああ。礼節っていうのはまだまだだけど、それでも勇者らしくあるために、そう考えてやってきた」


勇者「その身を偽性にして俺を守ってくれた兵士」

勇者「俺を逃がすために、一人魔物の大群にに立ち向かった師匠」

勇者「……そんな二人の意思を、俺は引き継ぎたい。勇者として、俺個人として」


魔法使い「うん」


勇者「一度も師匠って呼べなかったのだけは、心残りだ」

魔法使い「……」


勇者「もうすっかり夜中だ。魔法使いは部屋に戻るんだ」

魔法使い「……はい」


勇者「今日話したことは、誰にも言わないでくれ」

魔法使い「わかりました。でも、どうして」


勇者「俺は、自分の国がそんなに好きじゃなかったんだ。でも、あの二人は大好きだった」

勇者「だからさ、この思い出は俺の大切なものなんだ。誰にでも語り聞かせたいもんじゃないんだ」


魔法使い「そうだったんですね……。ごめんなさい、無理を言って」

勇者「魔法使いにだったら、話してもいいと思っただけだよ」

魔法使い「それって……」


勇者「深い意味はないさ。さぁ、お休みだ」

魔法使い「……わかった」


勇者「いい夢を、魔法使い」

魔法使い「勇者さまも」





勇者「……さようなら。魔法使い」


—— 深夜 ——



勇者「さてと、行くかな」

母「娘は、置いていってくれるのね」


勇者「……母さん。起きていたのですか」

母「そろそろ旅立つんじゃないかと思ってね。でも、本当にいいのかしら」


勇者「……仕方ないです」

母「……ごめんなさい」

勇者「気にしないで欲しい。あなたの気持ちを考えると……」

母「親は、やっぱり子供が大切なのよ。きっとあなたのお母さんやお父さんも同じことを思っているでしょう」


勇者「そうでしょうか」

母「きっとそうよ」


勇者「でも、俺は勇者です。戦いは止められません」

母「……」


勇者「では。短い間でしたがありがとうございました」

母「何もできなくて、悪かったわ」


勇者「そんなことないです。とてもゆっくりできました。それに、料理に薬草を混ぜてくれていたじゃないですか」


母「気付いていたのね」

勇者「お陰で、傷もすぐに癒えました」


母「この村の、特産品よ。回復の麦。娘から何も聞いてなかったのね」

勇者「…………」

母「仕方ないわ。滅多に取れない貴重種だもの。知っているのはこの村の大人くらいよ」


勇者「そんな貴重なものを」

母「……あなたも、私にとっては息子のようなものだったからね」

勇者「そう言ってもらえると、嬉しいです」


母「……」

勇者「そろそろ俺は行きます」


母「ごめんなさい。それと、今まで娘を守ってくれてありがとう」

勇者「いえ。じゃあさようなら」

母「気をつけてね」


勇者「はい」





勇者「さてと、行くかな」


—— 草原 ——


勇者「一人旅なんて、本当に久しぶりだな」


勇者「……魔法使いには悪いことをしたな」

馬「ヒヒーン」

勇者「どうどう」



勇者「まぁ、仕方ないか……」




勇者「エルフの騎士に、なんて言われるかな」

勇者「あーあ」




パカラパカラ

勇者「ん? あ、あれはまさか!」




魔法使い「勇者さま!!」


勇者「どうして追いかけてきた!」

魔法使い「そっちこそ、どうして私を置いてっ!」


勇者「それは……」

魔法使い「母さんに言われたから……ですか」

勇者「……」


魔法使い「私のことは、私が決めます」

勇者「魔法使い、これ以上母親に心配をかけるもんじゃない」

魔法使い「でも! 私は勇者さまといっしょにいたい!」


勇者「魔法使いは母を守るんだ」

魔法使い「……そんなこと言われたら」


勇者「じゃあな、さよならだ」

魔法使い「……」




勇者「…………」


魔法使い「…………」


勇者「どうしてもついて来るのか」

魔法使い「私は、勇者の隣にいたい」


勇者「母さんはどうするんだ?」

魔法使い「……母さんなら分かってくれるはず」

勇者「二度と帰ることができないかもしれないぞ」


魔法使い「でも、勇者さまにこの銃は必要」


勇者「必要じゃない」

魔法使い「嘘。火竜との戦いで、言ってくれた。この銃で魔王を倒すって」


勇者「……」

魔法使い「それに、私の銃は飛躍的に強くなった。役に立てる」


勇者「……」

魔法使い「お願い。必要だって言ってください」

勇者「魔法使い……」


魔法使い「じゃないと、泣いちゃいます」

勇者「な、泣く!?」


魔法使い「勇者なのに、女の子を泣かしていいの?」

勇者「……はは」


魔法使い「というか、今だって泣きそう」

勇者「……」


魔法使い「どうして? 私、やっぱり足手まといだった?」

魔法使い「出来損ないだから?……でも、やっと役に立てると思うんです」


勇者「……」


魔法使い「お願い」

勇者「どうして、そこまで」


魔法使い「……それは」

勇者「それは?」

魔法使い「ひ、秘密です! でも、私は勇者さまといっしょにいると決めました」

勇者「本当にいいのか?」


魔法使い「学院を出たあの日。全ての覚悟は決めました」

魔法使い「何があっても、私はあなたの武器となる。いっしょに強くなるって」


勇者「そうか。……わかった」

魔法使い「勇者さま!」


勇者「いっしょに行こう」

魔法使い「うん」


勇者「……でも、母さんにはどう説明するんだ?」

魔法使い「あとでしっかり叱られます」

勇者「は、はは」













—— 魔法使いの家 ——


母「やっぱり、行ってしまったのね……」

母「……性格だけはあの人に似たのかしらね?」




—— 9章 故郷と魔法使い 終わり ——

9章はここまで。あと3章でこのSSも終わるなぁ
スイス綺麗だなー。画像検索で幸せになれた
残りの章で、レスでもらったネタとか要望とか、いっきに使っていくつもりです。でわー

おつー
何時の間にか9章か、なんだかんだではやいなー
「・・・けだもの」が最高の良かった!ぜひ言われたい!!

あと魔法使いちゃんの絵をいくつか書いて見たけどいまいちイメージ通りに書けなかったよ

>>110
出せ、とにかく出せ
例え他の誰がナニを言おうと俺だけは絶対に笑わない。だから出せ下さい

今日、人生の山場を一つ乗り越えたので来週から続きを書きます(これだけで、何があったか分かったらお友達)
プロットの完成もまだなので、ちょっと時間かかるかもです

時期的に受験ですかね。
楽しみにしてます

>>136
正解です。国家試験だったんですよ……。きっと合格しました。これで、心置きなくSSが書ける、いやマジ嬉しいです
テンション超絶上がってます
あと、プロポーズする相手いねぇ……

理学療法士

今週の水曜日くらいに、ある程度書き溜めれたら投稿しますね!ごめんなさい、もう寝ます

※ネタバレ注意






三行でわかる9章のあらすじ

 1、故郷に到達
 2、魔法使いの過去と勇者の過去がわかる
 3、怪我治ったから、御祭りの国に帰る ←いまここ


10章 王国連合軍と魔法使い


—— 御祭りの国 近くの草原 ——


勇者「……あれは」

魔法使い「兵士たちです。ですが、少し様子がおかしいような……」


勇者「そうだよな。兵にしては、身なりというか……。とにかく、王子やエルフの騎士は順調に兵を集めているってことだな」

魔法使い「おそらく」

勇者「でも、どうして野営なんだ?」

魔法使い「……何故でしょう」


勇者「とりあえず俺たちは城に急ぐか。まだあの二人は戻ってきていないと思うけど」

魔法使い「そうですね」




勇者「たった数日しか離れていないのに、なんだか久しぶりに訪れた気分だ」

魔法使い「私もそう思います」


勇者「さてと、あと少しだ」

魔法使い「はい」


——
——

—— 祭り城 ——


勇者「10日ぶりになるのかな」

魔法使い「うん」


勇者「少しずつだけど、城の中がぴりぴりし始めている気がする」

魔法使い「大戦争が起こるかもしれないから」


エルフの騎士「我が君ーーーー!!」


勇者「うお!?」

エルフの騎士「会いたかったぞ我が君!!」


魔法使い「エルフの騎士。どうしてここに?」

エルフの騎士「魔法使いも久しぶりだな! といっても、10日ぶりだが」


勇者「と、とにかく離れろ!!」

エルフの騎士「いいじゃないか。私は役目を果たしたんだぞ……?」


魔法使い「それって」

エルフの騎士「わずか10日で、あの王子は任務を遂行したんだ!」


勇者「じゃあ」

王子「ええ。御祭りの国の兵、3000人は既に結集済みです」

勇者「王子! あなたも戻っていたのですね」


王子「はい。周辺地域に派遣していた兵、常備軍、あわせてこの国の兵の3000人はこの城にいます」

勇者「3000人がもう……」


王子「全ては麗しの君がいてくれたおかげです。エルフ族の、ましてや騎士をお供にすると、誰もが驚き、そして敬いの念を送ってくれました」

勇者「エルフ族というのは、人間にとってそこまで影響を及ぼすものなんですね」


エルフの騎士「やはり、エルフ族が他種族を嫌っているせいだと思うぞ。そのエルフ族が、どうして人間といっしょにいるんだ、などとよく言われた」

勇者「そういうこともあるのか」


王子「麗しの君の言う通りです」

エルフの騎士「だが、それ以上に王子の演説が素晴らしかったと思うが」


王子「いえいえ。そんなことは」

エルフの騎士「そんな風に謙虚になる必要はないだろ。人の心を惹きつけるカリスマ性を感じ取ることができた」


王子「では、ご結婚をお願いしても?」


エルフの騎士「それとこれは話が別だ!」

王子「なんとも連れない……」


勇者「でも、やはり驚きは隠せません」

王子「ははは。ですが、まだ驚くのは早いです」


勇者「それは一体……」


王子「それよりも、まずは父上に謁見です」

勇者「そうでしたね」


王子「おい、父上との謁見は可能か」

兵「はっ! 問題ありません!」


勇者「……ところで、どうして兵たちには野営を?」

王子「あんなに大勢の兵、この城の領地には入りきれませんからね」


勇者「それだけですか?」

王子「いいえ。まぁ、それも王との謁見の際に、お話ししましょう」

勇者「はい」




魔法使い「楽しかった?」

エルフの騎士「まさか……。何度私の弓矢で射抜こうかと思ったか……」

魔法使い「そ、そう」


エルフの騎士「そっちはどうだったんだ」 

魔法使い「……私の故郷に。療養をしてた」


エルフの騎士「そうだったのか。何か伸展はあったか?」

魔法使い「秘密」


エルフの騎士「なんだ。怪しいぞー!」

魔法使い「えへへ」


—— 謁見の間 ——


祭り王「帰還したか王子」

王子「はい」


祭り王「勇者もよくぞ戻った」

勇者「はっ。ありがたきお言葉」


魔法使い「……」

エルフの騎士「……」


祭り王「して、兵はどうなった」

王子「今、御祭りの国の兵は、3000人程の結集を完了しています」


祭り王「なんと。わずかこの短期間にか」

王子「はい」


祭り王「なんとも……。じゃが、3000人の兵はいまどこに」

王子「野営をさせています」

祭り王「なぜだ」


王子「知れたことです。この城で3000人を超える人員を入城させることができないまで」

祭り王「お主はこの城を狭く思っているのか」


王子「いえ。御祭りの兵3000人。それと別に、傭兵団2000人もいるからです」


祭り王「なに!?」

勇者「っ!」


祭り王「お主、傭兵を雇ったのか」

王子「急場ですので、致し方ありません」

祭り王「なんということを……」


勇者「どうして、そこまで頭を抱えるのですか」

祭り王「傭兵は、報酬さえあれば働く集団だ。じゃが、その報酬はどこから出すというのか」


王子「問題はありません。民が、その善意で報酬を出してくれました」

祭り王「巻き上げたの間違いではないのか」


エルフの騎士「祭り王よ! それは違うぞ!」

祭り王「ふむ」


勇者「エルフの騎士!!」

祭り王「よい。申してみよ、エルフの騎士よ」


エルフの騎士「感謝する。だが、王子は決して民を脅したりなどはしていない!」

王子「麗しの君」

エルフの騎士「それはいい加減に止めてくれ」


祭り王「して、王子はどのように民から報酬を得たというのだ」


エルフの騎士「王子から民に訴えたのではない。民、自ら報酬を出すと言ったのだ」

祭り王「俄かに信じ難い。戦争が激化したこの頃において、民にそのような余裕などあるはずがない」


エルフの騎士「だが、一人の傭兵が王子の演説に心を打たれたのだ」

エルフの騎士「その傭兵が、民と傭兵に訴えかけてくれた。民は報酬を、傭兵は最低賃金を認めてくれた」


祭り王「ほう。ならば、その傭兵が傭兵団を纏め上げたということになるぞ」

エルフの騎士「それは違う。王子がいなければ、その一人の傭兵もおそらく……」


??「ああ、その通りだ」


兵「何奴!!」

王子「……あなたは」


??「私はね、そこの王子の演説があったから、民衆や傭兵を説得しようと思っただけだ」

??「傭兵は最低賃金で働いてくれる奴を集めただけにすぎないさ」


祭り王「そちは誰ぞ」

女戦士「女戦士っていうんだ。2000人の傭兵団の頭をやってる。寄せ集めだけどな」


王子「どうしてここに」

女戦士「いやさ、折角だし挨拶はしておこうかなと思ってね」

王子「そうでしたか」


祭り王「だが、傭兵など信じるに値するのか」

女戦士「私の傭兵団は、寄せ集めだが横繋がりのある連中ばかりだ。裏切るなんてしない」


祭り王「信じていいのだな」

女戦士「大船に乗ったつもりでいてくれ、王さま」


王子「これで、3000人の祭り兵、2000人の傭兵団の5000人が揃いました」

祭り王「ふむ」


兵「王さま!」


祭り王「なんだ。今は重要な話をしているのだぞ」

兵「そ、それがっ! 空にグリフォンや大怪鳥の群れが!!」

祭り王「魔王軍か!」


王子「とにかく、一度外へ!」



—— 
——
——


祭り王「あれは……」

王子「兵よ!! すぐに撃退の準備を!!」


魔法使い「待ってください!!」


王子「魔法使い?」

魔法使い「あれは……そんな、どうして……」


勇者「来てくれたのか」

エルフの騎士「どういうことだ我が君」


バサバサバサ


エルフの騎士「くっ、来るか!」

女戦士「……っ」



学院長「ホッホッホ、久しぶりじゃのぉ魔法使い」

魔法使い「学院長!!」


魔女「私もいるわよー! ひっさしぶりだねー、魔法使い!」

魔法使い「魔女さんまで……。どうして」


学院長「そこの勇者に呼ばれてのぉ」

魔法使い「勇者さまに?」

魔女「私も呼ばれたのよー! んで、学院の大怪鳥にいっしょに乗ってきたの」


勇者「はい。戦力不足ということで、伝書鳩を送らせてもらいました」


エルフの騎士「は、初めまして。私はエルフの騎士だ」

学院長「ほほう。エルフ族とはな。わしは東の魔法学院の学院長をしておる」

魔女「私は東の森に住む魔女よ。薬物とか、魔道具を専門にしているわ」


王子「私はこの国の王子です」

祭り王「久しいな魔女。今さらだが、折角だ自己紹介をしよう。わしはこの国の王じゃ」


女戦士「わ、私は女戦士!」


祭り王「東の魔法学院。魔法を教育する学院の中でも、最も大きいと言われる。偏狭の地にあると聞いた」

学院長「ほほう。わしの学院もそこまで有名になったのか」


勇者「この度は、俺の呼びかけに答えてくれてありがとうございます」

学院長「なに。わしの可愛い生徒が頑張っているのだ。わしらが動かんでどうする」


魔法使い「わしら? 学院長の他にも……」

教師「が、学院長!! 勝手に動かれては! おおー! お前は魔法使いじゃないか!」


魔法使い「……先生」


学院長「わしら東の魔法学院。教員陣100名の魔術師および50匹の翼獣、ここに協力するために馳せ参じた」

学院長「どうじゃろうか。力になれぬか?」


祭り王「……なんと」

王子「これは心強い! あの空いっぱいの翼獣たちが味方とは!」


魔女「本当に久しぶりね魔法使い! 元気にしてたかしら?」

魔法使い「う、うん」


魔女「今度こそ、いっしょにお風呂入ろうね!」

魔法使い「……ごめんなさい」

魔女「そ、そんなぁ……」


エルフの騎士「なんだか、置いていかれている気分だ」

女戦士「確かに……」


王子「これで、5100人と、50匹」

王子「かなりの人員が集まりましたね」


兵「……王さま」


祭り王「次はなんだ……」

兵「それが、謁見の間に……水の街より使者が」


勇者「彼らも来てくれたのか」





祭り王「待たせたな」

水の神官「いえ。ところで王さま、先ほどの魔物。放っておいて宜しいのですか?」


勇者「神官さま!」

水の神官「勇者さま。あなたの手紙、しかと受け取りましたよ」


船乗り「どもーっす!」

魔法使い「あ」


船乗り「勇者さま、会いたかったっすー!」

勇者「船乗りじゃないか! って、船乗りも抱き付いてくるな!!」

魔法使い「むぅー!」


エルフの騎士「そ、その人間の女は誰だ!」


船乗り「私のことっすか? 私は水の街で船乗りをしているっすよ!」

水の神官「私はそこの父親です。娘がどうしても言うので、つれて来ました」


エルフの騎士「そんな理由で自分の娘を……」

水の神官「いやはや」


祭り王「それにして、ふむ。先代の勇者一行が二人も再びここに集まるとは」

祭り王「……考えもしなかった」


魔女「そうね! 久しぶりじゃん!」

水の神官「あ、あはは……。私はあなたと二度と会いたくなかったですがね」

魔女「冷たいねー。娘も連れてきているくせにさー」


水の神官「私は反対しましたが」

船乗り「お父さんも勇者一行だったんすよね? なら、私だって勇者さまのために働きたいっす!」


水の神官「……こう言われてしまっては」

船乗り「むふふー」


魔法使い「……来なくていいのに」

船乗り「私、勇者さまのこと本気っすから!」

魔法使い「むぅっ」


エルフの騎士「あ、あの二人怖いな」

女戦士「私、エルフの騎士と仲良くなれそうかも」

エルフの騎士「それはよかった……。こちらこそ宜しく頼む」


祭り王「水の神官は、娘と二人で来たのか?」

水の神官「いえ。私は水の街の兵隊を500人、連れて参りました」


魔女「あんたも偉くなったのねー」

水の神官「小娘に言われたくありませんね」


魔女「あんときは10代だったけど、もう20代とっくに超えたんだから小娘はないでしょ」

水の神官「……もうそんなになりますか」


船乗り「勇者さま勇者さま!」

勇者「なんだ?」

船乗り「えへへ」


魔法使い「……」

勇者「えっとー」


王子「あ、あの。話を戻しても宜しいですか?」


水の神官「す、すみません」

勇者「悪かった」


王子「ありがとうございます。……父上よ、今現在の兵力はほぼ2倍です」

祭り王「兵は現時点で総勢5600人。まさか、これほど増えるとは」

王子「これで魔王軍との戦いも、十分に対抗できるのではないでしょうか」


祭り王「しかし、このような人数をあと数日待機もさせるつもりか」

王子「まさか。私たちは早速山岳の国へ向けて出発します」

祭り王「じゃが、まだ山岳の国の偵察兵は帰ってきておると聞いていない」


王子「ですが、戦争が始まってからは遅すぎます」

祭り王「無駄足だったらどうする」

王子「そのときは、そのときです。私の首でも差し上げましょう」


祭り王「問題はそのように簡単ではない」

王子「……しかし」

祭り王「兵はそれでよいとしよう。しかし、その他の連中はどうだ。移動だけでどれだけの労力が掛かると思っている」


女戦士「王さま。そうは言うが私の傭兵団は、戦争が起きようが起きまいが構わない」

女戦士「例え無駄足でも、傭兵たちはじっとしていられないんだ。腐った連中でも、守りたいものがあるんだ」


学院長「わしらは、魔法使いを、可愛い生徒を信じるまでじゃ。じゃからな、無駄足だろうともついていくまでよ」


水の神官「今度こそ、勇者一行のために力を振るいたい。水の街の兵隊も同じ気持ちです」

魔女「今度こそ、ってのは私情でしょうが。でも、それは私も同意」

船乗り「私だって力になりたいっす!」


王子「皆さん……」

祭り王「どうしてそこまで」


女戦士「私は、そこの王子は信じているだけだ」

学院長「わしらは、勇者と魔法使いを信じている」


水の神官「先代ではできなかったことを、今度こそ遂行したいだけです」

魔女「同意よ」

船乗り「私は勇者さまが好きなだけっす、えへへ……」


魔法使い「……勇者さまは、私のものだもん」

勇者「なんか言ったか?」

魔法使い「なんでもない」


エルフの騎士「……はぁ」

女戦士「あんたも苦労してんだな」

エルフの騎士「分かってくれるか?」


王子「本当にありがとうございます」

祭り王「ふむ。なるほど……。王子、勇者、二人には人を惹きつける何かがあるのだな」


王子「父上。……私たちは、これから山岳の国へ向かいたいと思います」

祭り王「……わかった。山岳の国には、魔鏡でわしが伝えておこう」

王子「父上!? あ、ありがとうございます!」


祭り王「しかし、これだけ大事にしたんだ。もし吸血鬼による戦争の報告が虚偽のものであった場合は」

王子「先ほど申したように、私の命であろうと何だろうと差し出す所存です」


祭り王「……わかった。すまぬが、わしは城に残る。お主が兵隊を引き連れて行くんだ」

王子「もちろんです」


—— 草原 ——


勇者「これだけの人数の大移動になると、壮観だな」

王子「はい。私でまとめきれるかどうか……」


勇者「きっと大丈夫でしょう」

王子「本当にそうでしょうか」

勇者「信じてください。それに、俺もいます」


王子「はい。ところで、麗しの君」

エルフの騎士「な、なんだ!」


王子「どうして勇者殿の近くに。もっと私に近づいてください」

エルフの騎士「こ、断る!」


王子「なんと連れない……」

エルフの騎士「だってお前、すぐに私に触ってくるじゃないか!」


王子「軽いスキンシップです」

エルフの騎士「スキンシップで肩を抱いてくる奴がどこにいるんだ!」


王子「はて? 我が国では」

エルフの騎士「もう騙されないぞ!」


勇者「エルフの騎士はどんな旅を……。それに王族をお前呼ばわり……」

王子「いえいえ。私は気にしていませんよ」


エルフの騎士「と、とにかく私に近づくな!」


王子「嫌われてしまったのですね……」

エルフの騎士「あ、いや。そこまで落ち込まなくても」


勇者「エルフの騎士も、もう少し気を許してもいいんじゃないのか?」

エルフの騎士「だが……我が君。この人間はっ」


勇者「肩を抱かれる以外に何かされたのか?」

エルフの騎士「気持ち悪い台詞で口説こうとしてくるくらいだ……」


勇者「それくらいなら別にいいんじゃないのかな」

エルフの騎士「他人事だと思って!」


王子「……おや。魔法使いの姿が見えないのですが」

勇者「ああ。魔法使いなら、学院の人たちの所だと思います。挨拶をしてくるとかで」


王子「なるほど。確かにあの場では挨拶する時間も十分にありませんでしたから」


エルフの騎士「私も魔法使いといっしょに行けばよかった」

勇者「どうしてだ?」


王子「そうですよ麗しの君。そのような寂しいことを言わないでください」

エルフの騎士「貴様のその態度が嫌なんだ!」


勇者「しばらく見ない間に、すっかり仲良しになったんだな」

エルフの騎士「これが仲良しに見えるのか我が君!?」


勇者「あはは」

エルフの騎士「いじわるだぞ……」


王子「私としては、もっと仲良くなりたいのですが」

エルフの騎士「王子のことは、その人間性の素晴らしさは認めているぞ。それに、民を思いやる心に関しても」


王子「そのように褒められると、求愛するしかなくなります」

エルフの騎士「それさえなければ……」


勇者「これがなければ、求愛を受けるのか?」

エルフの騎士「そ、そういう意味ではない!」


王子「しかし、愛の言葉をあなたに囁けなくなるなんて、それは私にとって死を宣告されるのと同じ……」

エルフの騎士「どうしてそうなるんだ……。それに、私なんかのどこが良いというんだ」


王子「どこが、ですか」

エルフの騎士「確かに私の体は、自分で言うのもあれだが素晴らしいと思う。肌も綺麗だし、体格も騎士であるながら女性らしさを失っていない」


王子「確かにそこにも惚れています。ですが、私はあなたを知るほど、その根本的な部分。その性格、人間性ならぬエルフ性に惚れているのですよ」

エルフの騎士「私の性格? こんな男勝りな性格なのにか」


王子「私を、王子だからといって特別扱いしない。でも、王族らしさを認めてくれる。また騎士としての誇り、気品を兼ね備えている」

王子「普通の人ならば、私が王族であれば王族として扱う。かと言っても、普通の人と同じように扱われるのも私は嫌だ。王族としての誇りは私にもある」


エルフの騎士「なるほど。だが、王子をせめて普通の人のように接する人くらいはいたんじゃないのか」

エルフの騎士「それに、相手にお願いすれば接し方だって変わる」


王子「そういう女は、自分を売り込むための演技をしてくるのですよ。だから、素の性格で、私をそのように扱うあなたがもっと好きになった」

エルフの騎士「そ、そういう事を言われると……。我が君、私はどうすれば」


勇者「俺に助けを求めないでくれ……。聞いてて恥ずかしいんだからさ」


エルフの騎士「わ、私はその……。恋愛、なんてしたことがない。それに、人間とエルフの間に恋が成就したなど聞いたことがない」

王子「海の向こうの大陸では、ハーフエルフ、人間とエルフの間に生まれた子供がいると聞いていますよ?」


エルフの騎士「どうして知っているんだ」

王子「調べましたので」


勇者「抜け目がないですね」

王子「全てはこの恋を成就させるためなのですよ」


エルフの騎士「くっ……。だ、だが! 今は魔王討伐が一番の目的だ! 恋にうつつなど抜かせぬ!」

王子「はぁ。少しくらいはいいじゃないですか」


エルフの騎士「そうは行かない! そうだよな、我が君!」


勇者「んー……」

勇者(同じことを魔法使いに言ったなんて言えない……)


エルフの騎士「我が君!!」


王子「はははは。いやはや、あなた方といると本当に楽しい」

勇者「しかし、戦争前というのに余裕に満ち溢れているのですね。先ほどの心配はどこへ行ったのやら」


王子「いえいえ。勇者殿や麗しの君といっしょにいるからこそです」

王子「今だって、手が震えそうになるのを必死にこらえて、この馬の手綱を握っているのですから」


勇者「王子……」

エルフの騎士「そうだったのか。だが、緊張しすぎてもよくないからな」

王子「ええ。ですから、あなた方は私にとって本当に在り難い存在なのです」


王子「山岳の国への道のりはまだ長い。今から緊張なんてしていられませんよね」

小休憩
またあとで投稿再開します


—— 学院サイド ——


魔法使い「あの、まだ挨拶がしっかりできていないので……その……」

学院長「ほっほっほ。別にかまわんよ」


魔法使い「ありがとうございます」

学院長「それよりも、勝手に学院を出て行って驚いた。まぁ、勇者といっしょに行ったのはすぐに予想がついたがのぉ」

魔法使い「す、すみませんでした」


学院長「どうじゃ、魔法使いもわしのグリフォンに乗るか?」

魔法使い「いえ。私にはこの馬で十分です」


学院長「そうか。なにやら、思い入れがあるのじゃな」

魔法使い「人からもらった馬なんです」


学院長「……ふむ」

魔法使い「どうしましたか?」

学院長「どうやら、見ない間にすっかり成長したなと思っての」

魔法使い「私が、成長?」


学院長「あれほどおっかなびっくりな性格であったのに、その影もすっかり見えぬ。わし相手に、こんなに話せるようになったのじゃからな」

魔法使い「……うん」

学院長「よくぞ、頑張った」

魔法使い「はいっ!」


??「久しぶりね、出来損ないの魔法使い」

??「ちょ、ちょっとあんた! 私ら、命助けてもらってんだから……。それに、謝るって言ってたじゃん!」

??「そ、それは……」


魔法使い「あ、あなたたち……」


??「えっと、げ、元気だった?」

??「今さら、許してもらおうなんて思ってないけど……。あんた、頑張ってるって聞いたし……」


魔法使い「……誰?」


水女(元・生徒B)「元・生徒Bよ! 見た目がすっかり変わったからって、酷くない!?」

雷女(元・生徒C)「同じく元・生徒Cよ! あんたを苛めてた人を忘れるんじゃないわよ!」


魔法使い「え、うそ」

水女「あとね、生徒Aも誘ったんだけど、すっかり逃げ腰でついてこなかったわ」

雷女「よわっちぃ男よねぇ」


魔法使い「なんで、どうして……」


雷女「そりゃあ、あんたが足を引っ張るんじゃないかなぁって思って」

水女「雷女! 素直になりなよ!」

雷女「……うっ」


学院長「そうじゃぞ。お主が、魔法使いに言いたいことがあるからと言うから、無理をして連れてきたというのに」

雷女「学院長まで……」


魔法使い「……なにかあるの?」


雷女「えっと……。その、今まで……ああもう!」

水女「プライド高いよー!」


雷女「あんたは黙ってなさい!」

水女「おーこわ」


雷女「魔法使い!」

魔法使い「うん」


雷女「……ごめんなさい」

魔法使い「え」


雷女「苛めてごめんなさい! 命を助けてくれてありがと! あの後、学院長に教えてもらったの!」

魔法使い「学院長が?」


学院長「ほっほっほ。せめて、この二人には教えておこうと思っての。見下していた相手が、主らの命を救ったのじゃと」

魔法使い「……どうして」


学院長「魔法使いが、善意のみで動いていたこと。そういう所を、見習って欲しくてな」

魔法使い「しかし、何故二人がここに」


雷女「学院長たちが、勇者に呼び出されたって聞いてね」

水女「盗み聞きしたんだよねー」


雷女「それだけよ!」

魔法使い「そうなんだ」

水女「違うよ! 雷女、あんた絶対に謝らなきゃって私を無理やり巻き込んだじゃんー!」


雷女「そ、それは言わない約束だったでしょ!!」

水女「もう……。あのね、魔法使い。私もごめんなさい」


魔法使い「生徒B……」

水女「今は水女なの! 水魔法を学年で一番使えるようになったの!!」


魔法使い「すごいね。上級生すら超えたんだ、生徒B」

水女「もーーーー! ぜーーったい、まだ怒ってるよね!?」


魔法使い「……」


雷女「はぁ……。でも、許してもらおうなんて鼻ッから思ってなかったわよ」

魔法使い「水女は許した」

雷女「私は!?」


魔法使い「……」

雷女「ちょっ!!」


水女「あとさー、あの……これ、受け取ってくれないかな」

魔法使い「なに?」


水女「その、あんたから巻き上げたお金とか、あと慰謝料として水の魔道具。この魔道具は」

魔法使い「いらない」


水女「どうして?」

魔法使い「私には、もう武器がある」


水女「それって……あの、私たちを助けるのに使ってくれた魔道具?」

魔法使い「魔道具じゃない。でも、そう」


水女「そっか。そんな強い武器があるなら、私の水の魔道具なんて要らないよねー……」

魔法使い「あっ」


水女「いいよいいよ。どうせ、魔力を込めた分だけの大量の水を発生させるだけのしょぼい奴だし」

魔法使い「えっと」


水女「なんてね! 冗談だよ。でも、お金だけは受け取って欲しい。これも断られたら、私たち、物凄く惨めだから」

魔法使い「水女……」


雷女「私からもお願い。せめてもの償いなの」

魔法使い「雷女まで」


水女「許してくれるって言ってくれたけど、ダメだよ。そんな簡単に許されるような生易しいことをじゃなかったじゃん」

雷女「うん」


学院長「じゃが、二人は魔法使いが去ったあと、風紀委員として学院の秩序を守ってくれていたんじゃぞ?」


雷女「そんなの、免罪符にもなりません」

水女「そうです」


魔法使い「なんだが、二人が別人みたい……」


雷女「なっ!」

水女「あははー! だよねー、この傲慢で我が侭なうちらが、こんな風になっちゃったなんて」


魔法使い「でも、そっちの方がいい」


雷女「あんたにそんなこと言われるなんてね。光栄よ……」

水女「うちらさ、本当にあんたを尊敬してるんだよ。苛めてた相手すら助けるなんて、どこまで善人なんだっつの」


魔法使い「私はそんなんじゃ」

学院長「じゃがな。魔法使いの行動が二人を変えた。それだけは認めるんじゃよ?」


魔法使い「学院長」

学院長「人とは、どこで何が変わるかわからん。じゃから教育とは楽しいし、飽きることがない」

魔法使い「……」


雷女「そんな訳で、うちらもこの戦争に協力する。あんたの手助けをするだけ」

魔法使い「でも、危ない。罪滅ぼしのつもりならもう」


雷女「それで死ぬなら、私は構わない。これはあんたに関係なく、私らの自己満足。自分勝手な行動ってこと」

水女「そうそう。勝手に行動して、勝手に死んでもそれはあんたのせいじゃない。うちらが勝手にしたこと」


魔法使い「だって、本当に死ぬかもしれないから」


雷女「知ってる? いやな奴ほどしぶとく生き残るもんよ」

水女「あるある! こんなけ生き残るフラグ立ててるうちらが死ぬはずないじゃん」


魔法使い「むしろ、死亡フラグのような……」


雷女「……うっ、言うわね」

水女「まーまー。どっちゃにしても、魔法使いは気にするなってことよ!」


学院長「ほっほっほ! なぁに、わしらの名誉にかけて生徒たちは傷一つ付けさせぬよ」

魔法使い「ありがとうございます」


雷女「なぁーんであんたがお礼言ってんのよ……」

水女「相変わらず面白いね!」


魔法使い「じゃあそろそろ私、勇者さまのところに戻ります」


雷女「うんー。じゃあね」

水女「ばいばい。また会おうね!」


学院長「魔法使いも気をつけての」

魔法使い「はい。さようなら。ばいばい、二人とも」


水女「ところでさ、あんたは魔道具渡さなくてよかったの?」

雷女「これ、実は結構危ない奴なんだよね……。だから、もしもの時は私が使うよ」






魔法使い「あれ……これ、お金が余分に……。こんなにも」


—— 水の神官 魔女 ——


魔女「ほんっとに久しぶりよねー! 10年ぶりじゃないかしら」

水の神官「当たり前です。あの日、祭り王に報告してから解散をした以来ですから」


魔女「んで、あんたは娘といっしょに過ごしているわけだ」

水の神官「ええ。あのとき、娘を置いて旅に出てしまったのでね」

魔女「ふーん。いっしょに居られなかった分、今いっしょにいるって訳ね」


水の神官「それに、妻が煩かったのもあります」

魔女「そういえば水の神官の奥さん、ちょー怖かったよねー……」

水の神官「まったく、どうしてそういう所ばかり覚えているのか」


魔女「でも、水の神官もすっごく怖かったけどなぁ」

水の神官「それは何故?」


魔女「笑顔で魔物を駆逐しているあの場面は、今でも夢に出るよ」

船乗り「へぇ、やっぱりなんすねー」


魔女「わっ! あなたがこの男の娘ね!」

船乗り「へへ! よろしくっす!」


水の神官「これ! 大人しくしていなさい!」

船乗り「いいでしょー! お父さんの昔の話聞きたいもん!」


魔女「うふふ。いいわよ、教えてあげる」

船乗り「まじっすか! やった!」


魔女「何が聞きたい?」

船乗り「お父さんが一番怖かったときの話っす!」


魔女「よ、よりによって……」

水の神官「私は常に笑顔を絶やさず、神の使徒たる姿勢を崩していないというのに」

魔女「そこが怖いっての。神の名のもとに、ってなんでもしちゃってさー」


船乗り「それで、どんなときのお父さんが一番怖かったんすか?」


魔女「そりゃあ、私らが当時の勇者に置いていかれたときよ」

船乗り「どういうことっすか?」


魔女「そういえば、先代勇者の末路って民衆には単純に行方不明としか伝えられていないんだっけ?」

水の神官「はい、そうです」


船乗り「え? そうじゃないんすか?」

魔女「私たちは、置いていかれたのよ。当時の勇者にね」

水の神官「あの方は、どうして……」


魔女「そんときが一番怖かったわ。魔物がさらったとか言って、私らに襲いくる魔物を……うー、思い出すだけで吐き気が」

船乗り「もしかして、魔道具、間欠泉っすか?」

魔女「違うわ。魔道具、毒水よ」


船乗り「な、なんすかそれ?」

水の神官「……」


魔女「水魔法っていうのは、ただの水を発生させるだけってのは知ってるわよね?」

船乗り「当たり前っす」

魔女「でもね、こいつの場合、魔道具を使うことで毒水を作り出すの。一滴でも飲めば、動けずにそのまま死ぬ。まさしく必殺ね」


船乗り「でも、お父さんそんな魔道具使ったところ見たことないよ?」

水の神官「あれだけ水が溢れている場所で、もしも毒水が混ざったらどうなる」


船乗り「そっか。危険だよね」

水の神官「そうだ」


魔女「でもさ。あの魔道具、本当にえげつないわ。苦しみもがく魔物を断末魔……うぅ、さむ」

船乗り「あ、あはは……」


魔女「笑顔で、間欠泉と毒水を同時に使って魔物を倒すのよ?」

魔女「怖ろしいったらありゃしなかったわ。簡単に言うと、毒水の水蒸気が発生するの」


船乗り「お父さん……ぐろいっす」

水の神官「人の害をなす化物を倒すことこそ、神の意思であると信じていましたので」


魔女「ほんっとに思考回路が危ない人ね」

船乗り「お母さんにまた怒られるっすよ?」


水の神官「うっ。で、ですがもうあのような事はしないと決めましたので!」

魔女「本当? でも、キレたらするんでしょ?」

水の神官「まさか」


船乗り「でも、どうして当時の勇者さまはお父さんたちを置いていったんすかね?」

魔女「それが分かれば苦労しないわよ」


水の神官「そうですね。確か、あのときは魔王討伐の準備をしているときだったか……」

魔女「ええ。ちょうど、山岳の国で準備をしていたのよ。明日、魔王城を目指して出発だ! って言ってたのに」


船乗り「そうだったんすか?」


水の神官「次の日、目覚めたら勇者はどこにもいなかった」

魔女「最初は何の冗談かと思ったわ」

水の神官「しかし、置いていかれたと気付いたのは3日も経ってからだった」


魔女「認めたくなかったわ。そのときの仲間は、本当につわもの揃いだったのに」

船乗り「でも、やっぱり怖くなったとかじゃ」


魔女「その可能性は、真っ先に浮かんで、真っ先に消えた。当時の勇者ってね、結構あくどかったけど、それでも一応は勇者だったもの」

魔女「だから、敵が怖いからって逃げるような人間じゃなかったわ」


船乗り「……んー。じゃあ、仲間を危険に晒したくなかったとか」

魔女「それもないわ。平気で仲間に死ね、っていう勇者だったからね」


水の神官「そうでしたね。魔物の軍勢、300匹に一人で挑めと言われたときは流石に死を覚悟しました」

船乗り「よ、よく生き残れたね」

水の神官「全ては神の加護だ」


魔女「いやいや。水魔法を駆使してたよね!? 戻ってきたら300匹は死んでるし、その真ん中で一人立つあんたは悪魔かと思ったわよ」

水の神官「失敬な」


魔女「いや、本当に」


船乗り「ねぇ、質問いいっすか?」

魔女「ん、なぁに?」


船乗り「当時の仲間って、魔女さんと、お父さんと当時の勇者さまってことっすか?」

魔女「あと一人、戦士や騎士顔負けの屈強の男がいたわ」

船乗り「へぇ。どんな人だったんすか」


魔女「商人っていうのが最後の一人ね。そいつ、商人だってのに、武器が大好きで、しかもそれを専門に商売をしていたわ」

船乗り「その商人さんもすごかったんすね」

魔女「そうよ? 商人なのに、武術大会でいっつも優勝していたもの。本当の意味で一騎当千だってできたんじゃないかしら」


船乗り「でも、今回はいないんすね」

水の神官「そういえば。戦争があれば、真っ先にこちらへ向かっていそうな人だったのに」


魔女「死んだのよ。ちょうど3年前にね」

水の神官「嘘ですよね? 彼がそんな簡単に死ぬとは……」

魔女「本当よ。商人の娘が、3年前に私のもとに訪れたの。そのときに聞いたわ」


水の神官「商人の娘、ですか」

魔女「私も最初はびっくりしたわ。でもね、あの眼光、頭の切れ……。立派にお父さんの能力を受け継いでいたわ」


水の神官「そうでしたか。しかし何故死んだのでしょうか」

船乗り「お父さん、昔の仲間が死んだって知ったのに、なんか冷たい」


水の神官「死とは、神の世界への旅立ち。悲しいことではない」

魔女「はぁ……。こいつの奥さん、こんな男のどこが良かったのかしら」

船乗り「私にもわかんないっす」


魔女「確かね、流行り病であっさりだったらしいわ」

水の神官「なるほど……。ですが、いつ娘が生まれたのでしょう? 私は知りませんでした」


魔女「私たちが集まった13年前、商人は旅立つ寸前に自分の妻に仕込んだらしいわ」

水の神官「ふむ、そこから十月十日。今はおよそ12歳の少女ということになりますね」


魔女「ご明察。商人は、私たちが解散してから7年で一つの団体を作ったらしいの。その団体を、当時9歳の少女が引き継いだってわけ」

水の神官「それはすごい」


魔女「彼女自身、本当にすごい人間よ? 本当に12歳なのかしら、って会うたびに思うもの」


船乗り「あのー。話がよくわかんないっす! その、当時の仲間である商人さんはもう死んでいて」

船乗り「その娘さんが今は12歳で、お父さんの後を引き継いでるってことっすか?」


魔女「ええ。それで正しいわ」

船乗り「すごいっすね。あ、ところで私、16歳っす!」


魔女「若いわねー……」

水の神官「確かあなたは……」

魔女「女性に年齢を聞くのは失礼よー?」


水の神官「10年前で17歳だったから」

魔女「死ね!!」


水の神官「つっ!? め、目潰しをしようとしないで下さい!」

魔女「まったく……」


船乗り「27歳なんすね!」

魔女「こ、この親子はっ」


船乗り「魔女さんは結婚しないんすか?」

魔女「わ、私に見合う男がいないだけよ!」


水の神官「まさか、まだ勇者のことを」

魔女「……さあね」


船乗り「ところで、やっぱり魔女さんもすごい能力を持ってるんすか? 魔女って言うからには、魔法とかすごく強いんすか?」

魔女「いいえ、違うわ。だって私、魔法を使えないもの」

船乗り「え? じゃあなんで魔女なんて」


魔女「私の専門は、この前も言ったとおり薬物と魔道具なの」

魔女「この世に存在するあらゆるものを調合して、いろんな効果を持つ薬物を作ったり。他には魔法回路を解析して、魔道具の性質を調べたりね」


船乗り「そうだったんすか」


水の神官「でも、あなたの薬物は本当にすごい。魔力やら攻撃力が上昇するなんて、どんな調合をしたら作れるのですか」

魔女「知りたい? 後悔しない?」


水の神官「……やっぱり聞くのを止めておきます」

魔女「ええ。私もそっちをオススメするわ」


船乗り「あ、あはは……。あ、そうだ! 私勇者さまのとこ行ってくるっす!」

魔女「そう?」


水の神官「これ、お前という奴は」

魔女「いいじゃない? こういう青春、今の間だけでもさせてあげましょう」

水の神官「まったく……」


—— 勇者 ——


王子「おや?」

勇者「どうしましたか」


王子「どうも、馬が疲れてきたようです」

勇者「なるほど。確かに、もう何時間も歩きっぱなしです。一度休みますか」

王子「そうしましょう」





王子「さて、麗しの君」

エルフの騎士「ひっ」


王子「どうぞ、こちらへ」

エルフの騎士「こ、断る! 我が君ー……」


勇者「お、俺の後ろに隠れるな」

エルフの騎士「だって……」


王子「どうしたものか……はぁ」


船乗り「勇者さまー!!」

勇者「船乗り!?」


船乗り「勇者さま? 私というものがありながら、エルフ族といっしょにいるなんて……」

エルフの騎士「我が君? この人間とはどういう関係なのだ?」


勇者「あ、いやこれは」

船乗り「私のキスを……差し上げたっす……きゃー」


エルフの騎士「な、なんだと!?」

勇者「いや。それはほっぺたにだろ!」

船乗り「むー」


エルフの騎士「我が君、あなたと言う人間は……魔法使いというものがいながら!」

勇者「ど、どうしてそこで魔法使いが出てくるんだよ?」


船乗り「エルフさん、離れるっすー!」

エルフの騎士「そっちこそ、我が君にくっつくな!」


勇者「えっとー……」


エルフの騎士「確か、船乗りだったかな?」

船乗り「そちらはエルフの騎士さんだったすね! 王国の謁見の間で、すっごく綺麗なエルフだなぁって思ったっす」

エルフの騎士「なんだ、良い人間じゃないか」


勇者「ちょろいなエルフの騎士!?」

船乗り「まーまー」


エルフの騎士「もしかして、船乗りも我が君が好きなのか?」

船乗り「そ、それはー……っす……。って、もってどういうことっすか!?」

エルフの騎士「あ、いや。これは言葉のあやというか」


エルフの騎士(私ではないが、きっとあいつは我が君のことが好きだろうからな……)


勇者「た、助けてください王子」

王子「英雄、色を好む。ですか」


勇者「違います!」


魔法使い「……勇者さま」

勇者「魔法使い!?」


魔法使い「どうして、女の子に抱きつかれているの」

勇者「ちがっ! これは別にそんなんじゃ!」


魔法使い「ふーん」

勇者「ま、魔法使い?」


魔法使い「鼻の下伸ばしてます」

勇者「伸ばしてなんか」


エルフの騎士「ま、魔法使いが怖い」

船乗り「っすね……。えっと」


魔法使い「二人とも」


エルフの騎士「な、なんだ!」

船乗り「は、はい!」


魔法使い「破廉恥」


エルフの騎士「は、破廉恥……」

船乗り「……ちょーっと、はしたなかったすかね」


魔法使い「……勇者さまー」


勇者「ん、なんだ? って、どうして魔法使いが抱き付いてくるんだ!?」

魔法使い「……ふん」


船乗り「あー! なんすかそれ! 私も抱きつくっす!」

エルフの騎士「ついでだ、私も抱きつこう。ハーレムだぞ、我が君?」


勇者「お、お前ら……っ!」

王子「ふむふむ。勉強になります」

勇者「傍観してないで、助けてくださいっ!! って、うわあっ!」


王子「おお、倒れてしまうとは情けない」

勇者「いつつっ……。これは押し倒されたんです!」


魔法使い「痛い」

エルフの騎士「っつ」

船乗り「痛いっすぅ……」


エルフの騎士「ははは、楽しいな我が君!」

勇者「遊んでいるだろ、エルフの騎士。それに、あとの二人とも」


エルフの騎士「ばれてしまったか」

勇者「あと、魔法使いと船乗りもどくんだ」


船乗り「……はぁ。失敗失敗。でも、案外楽しかったっすね!」

勇者「まったくもう」


魔法使い「……」

勇者「魔法使い?」


魔法使い「何かが、向こうに」

勇者「なに!?」


王子「敵襲ですか!? 兵たちよ、戦闘準備!!」

魔法使い「待って。取り囲まれてます」


王子「なんですと……」


魔法使い「ちょっとずつ、近づいてきています……。あれは、もしかして」







エルフの騎士「我が同胞ではないか! 族長、久しぶりだな」

エルフ族長「久しぶりだな、エルフの騎士」


王子「まさか、この周囲の者全てが……」

族長「エルフ族だ」


王子「……エルフの騎士は、説得に成功していたのですね」


勇者「どういうことですか」

王子「私たちは、エルフの樹海にも赴いたのですよ。そして、エルフ族にも協力をお願いしました」


エルフの騎士「私が一人で森に戻ってな。だが、そのとき人間には協力できないと言っていたじゃないか」


族長「我らはそのつもりであった。しかし、こやつがな」

エルフの少女「お姉ちゃん」


勇者「あのときの……」

エルフの騎士「あと、久しぶりだねお兄ちゃん!」


勇者「ああ。久しぶり」

エルフの騎士「少女じゃないか」


族長「少女に説得されてしまったよ。誇り高きエルフ族が、恩も返さずに何が誇りだとな」

エルフの騎士「少女……」


少女「だってね? お兄ちゃんがいたから、樹海のきけんはなくなったんだよ? じゃあ、お礼しなきゃ」

族長「まさかこんな少女に教えられるとはな」


エルフの騎士「二人とも……」


王子「して、エルフ族の族長。どれほどのエルフが此度の戦争に協力して下さるのですか」

族長「我ら樹海のエルフ、およそ1000だ」


王子「1000ものエルフが……。人間よりも遥かに高い潜在能力を持つ、エルフたちが。これは心強い」

族長「ここに宣言しよう。我ら樹海のエルフ族は、人間たちに協力しようではないか」



エルフ「「「「おおおおおおお!!!!」」」」



勇者「ははは、すごいなこれ」

魔法使い「うん」


船乗り「こんなにエルフ族がいるなんて、普通はないっすよ」


少女「お兄ちゃんー! えへへ」

勇者「おー。よしよし」

少女「んー!」


魔法使い「……」

エルフの騎士「相手は子供だぞ」

魔法使い「何が言いたいの?」


エルフの騎士「いや、まぁ……」

魔法使い「……もう」


船乗り「いいなぁ。私もして欲しいっすー……」

エルフの騎士「船乗りはぶれないな」


族長「我らは、一人100本の矢をたずさえ、10万本の矢を取り揃えた」

エルフの騎士「10万の矢。樹海の総戦力じゃないか」


族長「当たり前だ。協力するのに、手を抜くなど恥さらしだろ」


王子「協力、本当に感謝致します」

族長「これからしばらくの間だが、よろしくお願いする」


王子「それにしても、エルフ族とは美しい方が多いのですね」

族長「我はこんな身なりでも男だ。見た目はお主と変わらぬが、齢130になる。あと、性は雄だ」


王子「男なのですか……。これは、驚いた」


少女「ちなみにしょうじょははっさい!」


勇者「なに!?」

魔法使い「え」

船乗り「う、うそっすよね?」


エルフの騎士「何を驚いているんだ?」

勇者「いや、普通驚くだろ……。こんな幼い子が戦場に来るんだぞ!?」


族長「なに、いずれは立派な戦士になるための修行だ。何事も経験だな」

少女「うん!」


エルフの騎士「エルフ族はこうでなくてはな。きっと少女は将来立派になるぞ」

勇者「いいのかなぁ……」


族長「我らが力、思う存分使うといい。だが、勘違いするな。協力と従順は異なるぞ」

王子「あはは、分かっていますよ」


王子「さて、あと数日もすれば山岳の国に到着します」

王子「気を引き締めていきましょう!」



一同「おおおお!!」

今日はここまで
書き溜めでは、あと数レスでこの章は完成すると思うので、明日最後まで投稿できるかもしれないー

あと、上の方でレスをくれた人、いろいろとありがとうございました。普段からレスくれる人にも感謝

訂正
>>197
×族長「我はこんな身なりでも男だ。見た目はお主と変わらぬが、齢130になる。あと、性は雄だ」

○族長「我はこんな身なりでも男だ。見た目はお主と変わらぬが、齢130になる」

今から投稿だよ
今日の投稿で、10章は終わると思うよー


—— 山岳の国 ——


王子「国の門に到着しましたね」


勇者「……これは、すごい景色だ」

魔法使い「剣の先みたいな山がいっぱい」

エルフの騎士「斜面も急だし。それが、水平線の向こうまで続いている」


魔女「久しぶりね、ここに来るの」

水の神官「……」

魔女「ちょ、ちょっと!? あのときのこと思い出して怒ったりしないでよね!?」

水の神官「おっと」

船乗り「お父さんやっぱこえぇ……」


女戦士「……我ら傭兵、心構えはいいか?」

傭兵たち「おおお!!」


学院長「歳を取ると、いろんなもんが見れるもんじゃ」

教師「教育の一環として連れてくるのもいいかもしれないですね」


水女「……学院よりも、険しいんじゃない」

雷女「山のことよね? 主語を忘れないでよ……」


少女「わぁー! すごぉい!」

族長「これ、はしゃぐな。佇まいも凛々しくだ」

少女「はぁい」


王子「では、さっそく入門……。とはいきません。代表者を連れて、兵たちの入門の許可を国に貰いに行きましょう」

勇者「わかりました」


王子「では、勇者殿。東の魔法学院の学院長殿。エルフの族長殿。水の街の水の神官殿。東の森の魔女殿。傭兵団団長、女戦士殿」

王子「それぞれの兵の代表殿、および先代勇者の一行。私を含めた8名で山岳王に会いにいきましょう」


エルフの騎士「私たちはどうすればいいのだ」

王子「申し訳ありませんが、少し待っていてください」


エルフの騎士「わかった」

魔法使い「はい」


船乗り「じゃあお父さん、がんばって」

少女「ぞくちょぉー」


水の神官「わかっている」

族長「心配するでない」






山岳兵「むっ、あなた方は誰ですか。これほど大勢の兵士を引き連れて」

王子「私は御祭りの国の王子。山岳王に謁見を求めにきた」

山岳兵「御祭りの国ですと!? まさか、そのような方がこんな地に……」


王子「こちらは、勇者殿です」

勇者「これが勇者バッチだ」


山岳兵「何が起こっているんだ……。と、とにかく山岳王へお伝えせねば!」

山岳兵「あと、そちらの勇者バッチも確認させて頂きます」


王子「やはり、今すぐという訳にはいきませんか」

勇者「仕方ありません」


王子「とにかく、まずは国に入らなければ」

勇者「はい」


学院長「ほっほっほ。隣国の王子と勇者が突然現れては、一般兵じゃどうしようもないじゃろうな」

族長「人間とは面倒な生き物だ」

水の神官「仕方ありません」


女戦士「なんだろ、場違いな気がしてきた……。がんばれ、私」

魔女「まーまー」







山岳兵「もももももも、申し訳ありません!! 王子さまの確認が取れました!」

山岳兵「魔鏡で王子さまの訪問があるとは知りませんでした。どうかお許しください!」


王子「気にしていませんよ」

山岳兵「感謝致します! そ、それと勇者バッチのほうも確認が取れましたのでお返し致します!」


勇者「ありがとう」

山岳兵「で、ではこちらへ! 城へと案内させて頂きますっ」


族長「あの人間、どうしてあそこまで緊張しているのだ」

魔女「そりゃ、この面子じゃ緊張するなって方が無理でしょ……」


—— 山岳の国の城 謁見の間 ——


山岳王「これはなんという。勇者に加えて、エルフ族まで」

王子「山岳王よ、突然の訪問申し訳ありません」

山岳王「大丈夫だ。訪問については魔鏡で祭り王から聞いていた」


魔女「あれ、あんた王さまになったんだ?」

水の神官「私たちが旅をしていたころは、まだ王子だったはずですね」


山岳王「なななななっ!? ま、まさか……」


魔女「久しぶりね。先代勇者一行の魔女よー」

水の神官「同じく、当時は賢者として一行に加わっていました」


山岳王「ああ……なんという」


王子「大丈夫ですか? お気分が優れないようですが」

山岳王「き、気にしないでくれ……」


魔女「元気だったかしら」

山岳王「以前ならば露知らず、今の俺は王だぞ?」


魔女「知ってるわよ。でも、あんたは10年前のイメージが抜けないよのねぇ」

山岳王「……くっ」


水の神官「それくらいにしましょう。ねぇ、山岳王?」

山岳王「そ、その寒気がする目を向けるなっ!」

水の神官「ふふふ……」


山岳王「と、とにかく気を取り直して。王子よ、此度は何故このような軍勢を連れてきた」

王子「魔王軍が大戦争の準備を始めているからです」


山岳王「だがな、偵察兵がまだ帰ってきていない。ゆえに、その真偽はどこにあるのか」

王子「確実な証拠などありません。しかし、事が始まってからでは遅いのです」


山岳王「もし、大戦争が虚偽であった場合、どうするつもりだ」

王子「言うなれば、保障と賠償ですね」


山岳王「俺もあまりこういうことは嫌だが、これでもこの国の王だ」

山岳王「国外に存在する大勢の軍勢。我が国の国民は不安と恐怖に支配されている。事は、大きくなっている」


王子「もし戦争の報告が虚偽であった場合、私は国税で賠償金を支払い、その後首を切ります」

山岳王「なるほど」


王子「覚悟はできています」

山岳王「わかった」


勇者「王子……」


魔女「偉そうになって」

水の神官「仕方ないです」


学院長「なんとも」

族長「……これが、人間か」


女戦士(私、空気だなぁ)


バタン!!


山岳王「騒がしいぞ!」

兵「も、申し訳ありません! しかし、たった今、偵察兵が帰還しました! その報告です!」


山岳王「……なん、だと」

兵「不躾ではありますが、この場にて申し上げます!」



一同「…………」



兵「魔王軍は、魔王城に15万もの兵力が大結集しています!」

兵「うち、7万5千の兵がここを目指して進行中とのこと! おそらく、一週間以内には到達すると思われますっ」

兵「魔物は、世界各地から海、陸、空を経由して大結集していたとのこと」



山岳王「なんということだ……。7万5千の兵……」

王子「戦争は、確実に起きます。魔王城に最も近いこの国が、一番最初に狙われても仕方ないかと思われます」


山岳王「……疑ってすまなかった。そして、改めてお願いしたい」

山岳王「この国の未来のため、共に戦ってくれないだろうか」


魔女「いきなり手の平を返されてもねー……?」

水の神官「はい。神はこのようなこと、見過ごすはずはありません」


王子「お二方?」

勇者「えっと……」


山岳王「……俺に何を望むんだ」

魔女「確か、山岳の兵って今どれだけ動かすことができるのだったかしら」


山岳王「だいたい3500人だ」

水の神官「今の兵を合わせて、1万100人の兵がいるわけですね」


山岳王「それがどうした」


魔女「話は簡単よ? 総大将を、御祭りの国の王子にして欲しいだけ。ね、水の神官?」

水の神官「ええ。ここに来るまでも、6千600人の兵を問題なく連れて来た実力がありますし」


王子「あ、あの」


魔女「まぁ、今はそれくらいかしら? あとそうね……。6千600人の兵を養う兵舎とかの用意もお願い」

水の神官「あとはそれぞれの役職もこちらで決めさせて頂きます」


山岳王「す、少しばかり勝手すぎないか!?」


魔女「じゃあ、私たちは帰るわよ?」

族長「確かに。我らはそこの人間に協力を決めた。お前ではない、山岳王」

学院長「ほっほっほ。じゃあわしらもそうしようかの」

女戦士「私たち傭兵は、この王子だからこそ協力しているんだ」


山岳王「……くっ、わかった。総大将は、御祭りの国の王子にお願いしたい」

王子「私が……総大将……?」


勇者「胸を張ってください。王子はそれだけの実力があります」


王子「……わかりました。総大将の任、謹んでお受けいたします」



パチパチパチ



山岳王「……」

魔女「ま、あんたもまだまだってことよ」

山岳王「……ああ」


水の神官「前代の王はどうしたのですか」

山岳王「父は、7年前に亡くなった。だから俺が跡継ぎとして、王となった」


魔女「あの王さまがねぇー」

水の神官「商人も死んだし、10年も経つと大きく変わるんですね……」


山岳王「商人も死んだのか」


魔女「3年前に、流行病で無くなったと聞いているわ」

山岳王「なるほど……」


王子「山岳王よ」

山岳王「ん、なんだ」


王子「では、外で野営をしている兵たちを入国させてもらえないでしょうか」

山岳王「了承した」


——
——
—— 山岳の国 ——


勇者「兵たちは無事に入国できそうだな」

王子「ええ」


エルフの騎士「我が君! 大丈夫だったか?」

魔法使い「……」


勇者「大丈夫かって、なんでだよ」

エルフの騎士「もしかしたら、打ち首になったりしていないかと思ってな」

勇者「それこそなんでだよ!」


魔法使い「あの」

勇者「ん、どうした」


魔法使い「……なんでもないです」


エルフの騎士「魔法使いは会えない間、寂しさと心配で落ち着かなかったんだよな」

魔法使い「なっ!」


勇者「そうなのか?」

魔法使い「し、知らないっ」


エルフの騎士「それにしても、この国は山間にあるせいか周囲がすごいな」


勇者「城下町も、山に囲まれているおかげで城壁という城壁がないな」

エルフの騎士「だが、入門するときのあの門は、すごく大きかった」


勇者「おそらく、山岳地帯の側方にだけ城壁を立てているんだろう。あとは山が囲ってくれる」

エルフの騎士「なるほど」


魔法使い「武器屋が多い」

勇者「最も魔王城に近い国だからだろ。魔物との戦いも激しいと思うからな」


魔法使い「そっか」

エルフの騎士「みんな、それぞれの兵舎に移動しているな。私たちはどうするんだ?」


勇者「俺たち。まぁ勇者一行とそれぞれの隊長クラスたちはみんなお城に寝泊りするんだ」

エルフの騎士「隊長クラスというのはなんだ」


勇者「東の魔法学院、魔法隊の隊長は学院長って感じだ」

エルフの騎士「なるほどな。ならば、エルフ族の場合では族長か」

魔法使い「傭兵団なら女戦士さん」


勇者「水の街の兵および王国の兵たちは、山岳王が率いるらしい」

エルフの騎士「ならば、御祭りの国の王子は何をするんだ?」


王子「総大将です」


エルフの騎士「うわっ! い、いたのか王子……」

王子「はい、麗しの君」


エルフの騎士「お、王子が総大将なのか?」

王子「ええ。ひょんなことから、決まりました」


勇者「こんな所にいていいのですか? 先に城に行った方が」

王子「はい。ですので、私は先に行きます」


勇者「ではどうして俺たちに声をかけたのですか?」

王子「それはもちろん、麗しの君に会いにきたのもあります」


エルフの騎士「魔法使いー……」

魔法使い「私には助けられない」


勇者「も、ということは他にも何かあるんですね」

王子「ええ。少し、この街を歩いていて欲しいのです」


勇者「それはどうして」

王子「山岳王と私とエルフ族の族長で会議をするので、その暇つぶしをお願いしたい。おそらくその間に、部屋の準備なども終わるでしょう」


勇者「なるほど。わかりました」

エルフの騎士「この街を探索するのか。それは楽しみだ」

魔法使い「うん」


王子「では、私は急ぎますのでここで」

エルフの騎士「さっさと行け」


王子「いっしょに来てくれないのですか?」

エルフの騎士「あ、当たり前だ!! 私は我が君とともにある!」


王子「連れませんねー……。照れ屋なんですから」

エルフの騎士「そんなんじゃない!!」


王子「では、また後でお会いしましょう」

勇者「はい」






エルフの騎士「なんだかここは、灰色っぽいイメージがあるな」

勇者「言われてみると」


魔法使い「山が高いから、雪がよく積もるのかな。それで草木があまり生えてないのかも」

エルフの騎士「今は雪がないが、なるほど。確かにそうかもしれない」

勇者「魔法使いは賢いなぁ」


エルフの騎士「厳しい自然の中だというのに、国が大きいから人も多い」

勇者「山岳の国は初めてきたけど、想像していたよりも遥かに大きいな」


エルフの騎士「兵たちも順調よく入国を済まして、それぞれの兵舎に移動しているな」

勇者「ともに来た6千600名の入国だ。問題がないのはいいことだな」


魔法使い「……」

勇者「どうした、魔法使い?」


魔法使い「ちょっと、人酔い……」

エルフの騎士「流石に混雑しているからな。少しこの場を離れようか」


勇者「そうだな」

魔法使い「ありがとうございます」


——
——
—— 城下町 広場 ——



勇者「ここは人が少ないみたいだ」

エルフの騎士「やっぱり皆、兵たちの入場を見に行っているのだな」


勇者「きっとそうだろう。あんな光景、なかなか見られないからな」

エルフの騎士「そうだな我が君」


魔法使い「……」

勇者「大丈夫だったか魔法使い?」


魔法使い「心配をかけてごめんなさい。でも、もう大丈夫」

勇者「そうか。それならよかった」


エルフの騎士「でも、今はゆっくり休んでくれ」

魔法使い「そうする」


勇者「少し寒いかな」

魔法使い「たぶん、高度のある山から冷たい風が下りてきているかと」


エルフの騎士「ふむ。森暮らしの私にとっては結構冷える」

勇者「大丈夫か?」


エルフの騎士「暖めてくれるのか、我が君?」

勇者「どうやって?」

エルフの騎士「もちろん、こう抱きしめて」


魔法使い「だ、だめっ!」

エルフの騎士「ははは、冗談だよ」

魔法使い「もう」


勇者「とりあえず、のんびりするか」



??「雷魔法!!」

ビリビリビリ



勇者「うおっ!?」


金髪「勇者じゃねぇか! やっと見つけたぞ!」

勇者「き、金髪!? じゃあ、もしかして女商人もここに?」


金髪「そうだぜ! ま、その前にいっちょ勝負だ。ルールは前と同じだ」


エルフの騎士「なんだあの人間は!! 敵か!?」

魔法使い「大丈夫」


エルフの騎士「そうか」

魔法使い「……え? 簡単に信じるの?」


エルフの騎士「魔法使いが私に嘘をつくはずがないからな」

魔法使い「エルフの騎士……」


金髪「で、そこのめちゃんこ可愛いエルフ族のおにゃのこは誰?」

勇者「俺の仲間だ」


金髪「ほっほぅ。殺す、勇者てめぇをぶっ殺す!! べ、別に悔しいとかじゃないんだからなっ!?」

勇者「殺気が本気なんだが……」


金髪「じゃあいくぞ! 雷魔法!!」


ビリビリビリ


勇者「はっ!」

金髪「前に飛んできたのか! でもよ、それじゃあ俺の石つぶての餌食だ!」


金髪「ほらよ!!」

勇者「しっ、はぁ!!」


金髪「ちょ! 俺の石つぶてを全部剣で叩き落しすとか……まじかよ!?」

勇者「おりゃああ!!」


金髪「タンマタンマ!! うおおっ!?」

勇者「……」


金髪「は、はは……。首筋に剣が……」

勇者「俺の勝ち、でいいんだよな?」


金髪「少し見ない間に、身体能力も一気に上がったんだな」

勇者「あとさ、やっぱり下手に戦術を考えるよりも、俺は俺の戦い方で行くほうがいいと思っただけだ」


金髪「ああ、それでいいんじゃないかな」

勇者「さてと……。ところで、やっと見付けたって?」


金髪「そうだった! 勇者、こっちに来てくれ! もちろん、そちらの可愛こちゃんたちもな」


魔法使い「え」

エルフの騎士「ところでこの人間たちは誰だ」


——
——
—— 宿屋 ——


女商人「んふふ、久しぶりじゃぁーないか勇者!」

勇者「女商人……」


女商人「ははは! たいていの奴は、2度目に会うときはそんな顔つきになるな。嫌われ者だな私は」

勇者「あ、いや! そういうわけじゃないんだ!」


女商人「なんてな、嘘だよ嘘」


エルフの騎士「だから、この人間たちは誰だ」

女商人「おっと、そちらは初対面かな? 自己紹介が遅れて申し訳ない。私は女商人というものさ」


エルフの騎士「女商人……。ああ、なるほど。君がそうなのか」

女商人「この旅団の団長をしている。以後、よろしく」


エルフの騎士「私はエルフの騎士だ。……それにしても、こんな少女が」

女商人「子供も子供、がきんちょのひよっこさ」


勇者「あのとき、魔女さんがこんなひよっこいるかよ、って言った理由がわかったかも」

魔法使い「うん」


女商人「そーそー。ところで魔女もこっちには来ているのかな」

勇者「ああ。どうして知っているんだ?」


女商人「魔女に呼び出されたからだよ」


金髪「そうだぜ勇者。なんだよ、こんな楽しそうなイベントをどうして教えてくれなかったんだ!」

女商人「戦争なんて稼ぎ時じゃないか、なぁ?」


技師「ははは、全く持ってその通りだ」


魔法使い「技師さん!」

技師「久しぶりだ、嬢ちゃん。元気だったかい?」


魔法使い「うん。あなたに作ってもらった弾倉は、すごく役に立ってる」

技師「それは嬉しいねェ。作った甲斐があったってもんだ」


女商人「さて、私たちがこっち来た理由は魔女が伝書鳩を私に飛ばしてくれたからだよ」

女商人「あと1日でも遅れていたら、私は拠点から次の商売に出かける所だった」


勇者「そうだったのか。女商人は旅団だから、どこに伝書鳩を飛ばしていいか分からなかったんだ」

女商人「そうだと思った。んで、勇者。ここからが本命だ」


勇者「なんだ」

女商人「私たちは戦争のために来た。もちろん商売人だ、損得勘定だってきっちりしたい」


勇者「回りくどいぞ」

女商人「商売人ってのは、たいていはこんなもんだよ」


勇者「それで、何が言いたいんだ」

女商人「私たちの持ってきたものを、この国で買って欲しい。もちろん、勇者からの紹介ってことで」


勇者「それはできないな」


女商人「そう言うと思った。でも、私はこの国を勝たせることができる」

勇者「どういうことだ」


女商人「私が持ち込んだものは、武器と油と火薬。この国では圧倒的に足らないものじゃないかなぁ」

勇者「武器は分からないが、油と火薬が足らないなんてないだろう」


女商人「この国は、これから戦争だ。だからこそ、足らない」

勇者「言っている意味がわからない」


女商人「いいか? 物資があれば、それだけ戦術の選択枝が増えるんだ」

女商人「だからこそ、この商売はお互いにとって有益なものになる」


勇者「ふむ」

女商人「さらに、兵糧になる水や食物を微量ながら持ち込んだ。私が所有する馬車7台、いっぱいにな」


勇者「一人1台の馬車で持ってきたのか」

女商人「流石に疲れたよ。まぁ私は私の近衛に馬車を任せたけどね」


勇者「……」

女商人「一端の商売人が、王族と……ましてや王さまと謁見なんてできない。だから、私を紹介して欲しいんだ」


勇者「……じゃあ、一つ条件だ」

女商人「なに、言ってみて」


勇者「この戦争に協力してくれ」

女商人「その対価は」


勇者「そちらの物資を買うように王族たちを説得しよう」


女商人「なるほど、それは素晴らしい。どちらにしても私たちの益になる」

勇者「戦争に協力してくれるのか」


女商人「もちろんだとも。でも、どんな風に協力すればいいの?」

勇者「軍師になってくれ」


金髪「うえ!?」

魔法使い「勇者さま?」

技師「なんだそりゃぁ、はっはっは」

エルフの騎士「正気か我が君!? こんな少女に軍師をお願いするなど!」


女商人「それはそれは素晴らしい。つくづく素晴らしい。でも、そんな簡単に事は運ぶのかな」

勇者「大丈夫さ。総大将に頼めば、十中八九上手くいく」


女商人「総大将は山岳王になると考えていたんだけど」

勇者「御祭りの国の王子さ」


女商人「へぇ。王さまじゃなくて、他国の王子さまがねぇ? 何があったのかなー」

勇者「それは秘密、といっても魔女さんや水の神官さまに聞いたらわかるだろうな」


女商人「ああ。親父の昔の仲間ね」

勇者「その二人が、山岳王を説得して、王子が総大将になった」


女商人「簡単に想像がつく。ふーん、これは楽しくなるかもね」

勇者「……女商人は本当に子供なのか」


女商人「えへ!」

勇者「似合わない」

女商人「……自分でも思った」


勇者「じゃあ、またこっちから連絡するよ」

女商人「よい返事を待っている」






エルフの騎士「すごい人間たちだったな」

魔法使い「でも、すごく優しい」


勇者「それは言えてるが、ちょっとぶっ飛んでいる所もあるかな」

エルフの騎士「子供が戦争で稼ぐことを考えるなんて、正気の沙汰ではないな」


勇者「さてと、そろそろ城に行くか」

魔法使い「うん」

エルフの騎士「戦争まで、あと一週間程か」


勇者「だが、1万弱の兵と7万強の魔物。どうするつもりだろう」

エルフの騎士「どうもこうもない。魔物は全て倒さなければ。そうしないと、里で死んだ隊長たちに顔向けできない」


勇者「エルフの騎士……」

エルフの騎士「だが、憎しみや復讐心に囚われている訳ではないから安心しろ我が君」


勇者「そうか。それならばいいんだが」

エルフの騎士「任せろ」


魔法使い「大丈夫?」

エルフの騎士「心配するほどでもないさ」


—— 山岳の国 城 ——
 山岳王 王子 族長



山岳王「——しかし、どうして今さらこんな大戦争を」

王子「ここ5年で、戦争は一気に激化しました」


山岳王「光の国が滅んだ日から、魔物の勢力は活発化した」


王子「戦争自体は、300年続いています。しかし、これほど激化したのは珍しい」

族長「そうなのか」


山岳王「ああ。我ら人類がこの大陸に上陸したときから、戦争が始まったと聞いている」

族長「ふむ」


王子「我が国の歴史では、この国に上陸して暮らしを始めた頃、魔物が沸いて出てきたとされています」

山岳王「史実など、その真実はどこにあるのかわからんな」


族長「人間とは曖昧なのだな」

王子「それを言われてしまったらどうしようもないですね。さて、私たちはそれぞれの民族、国の代表として集まりました」


山岳王「ああ」

族長「うむ」


王子「此度の戦争において、これから会議なのですが——」

山岳王「先ほどの話では、我が国の戦術はもはや知り尽くされてしまっている可能性が高いのだったな」


族長「らしいな」


王子「はい。ゆえに、新たな戦い方が必要になるかと」

山岳王「どうしたものか……。我が国では、投石器を用いて戦ってきた。もちろん、それだけではなく、弓矢で翼獣どもも蹴散らしてきた」


族長「城壁を破られる心配はないか」

山岳王「それはきっと大丈夫だろう。建設されて200年余り、この国の城壁は破られずにいる」


王子「それほど凄い城壁なのですか」

山岳王「断崖絶壁という言葉が似合うような城壁だからな」


族長「このような地に、そんなものを作るとは人間はすごいな」


山岳王「だが、当時の犠牲者は凄まじいものだと史実では書いてある」

族長「偽性の上に成り立った平和か」


王子「……」

山岳王「此度の戦の総大将は王子だ。あれだけの人望を集めるお前だ。俺もできる限り協力しようと思う」


王子「いいのですか? 年下にそこまで」

族長「ならば我はどうなる」


山岳王「ちがいない。はっはっは」

族長「くくく」


王子「……そうですね。ふふ」

王子「さてと、まだ話は続きますが……」


コンコン


山岳王「誰だ、入れ」

勇者「俺です」


王子「勇者殿。どうしてこちらに」

勇者「少しお願いしたいことがありまして」


山岳王「ふむ。なんだ言ってみろ」

勇者「一人、軍師を推薦したい人がいるんですが」


王子「それは本当ですか!」

山岳王「どのような人材だ」


勇者「少し若いのですが」

王子「一度連れてきて貰って宜しいでしょうか」


族長「勇者が推薦する人材か」

山岳王「勇者計画……」


族長「なんだそれは」

山岳王「いや、なんでもない」


王子「……」

勇者「……わかりました。連れてきます」


——
——


山岳王「……それで、どうしてお前たちまでいるんだ」


魔女「そりゃあ、商人の娘が王族会議に出席するなら」

水の神官「保護者が必要でしょう」


山岳王「商人の娘? ま、まさか……っ」

女商人「はぁーい。父がお世話になったようで」


山岳王「あの商人の娘か!! どこまでお前たちは……」

勇者「では、俺はこれで」


山岳王「ま、待て! 待て勇者ーーーー!!」


魔女「ふふふ」

水の神官「くくく」

女商人「んふふー」


族長「な、なんだこの人間たちは……」

王子「これが、暴れまわった先代の勇者一行たちおよびその子孫……」


女商人「私が軍師になったからには、この国の勝利を確実なものにしようじゃないか」

山岳王「まだお前が軍師になったという訳では。それにまだ子供じゃないか」


族長「年齢なんて関係ないだろう」

王子「ええ。能力が伴うならば、私には関係ありません」


山岳王「……こんなことでいいのか」


魔女「融通が利かないなー。そんなんだから、まだまだなのよ」

山岳王「くっ」


水の神官「その程度にしましょう。また泣かれては困ります」

山岳王「泣くか!!」


女商人「あと、商談もあるのだが」

山岳王「……もう、勝手にしてくれ」


王子「では、これから宜しくお願いします」

女商人「いいのか? まだ、何の実力も示してないのに」


王子「勇者殿が推薦する人材です。断る理由がありません」

族長「我はお前の目を見て、只者ではないと思った。だから、頼ることにした」


女商人「んふふー! いいじゃない、私の本気、見せ付けてあげましょう! 王族の皆様方」


王子「期待しています」

族長「思う存分振るってくれ」

山岳王「……ああ、もう」


魔女「あとは、ここに先代勇者がいれば」

水の神官「止めましょう。それはあまりに無意味です」


魔女「……ん」


—— 3日後 山岳の国 各地 ——


山岳兵「戦争の準備って大変だな」

山岳兵「そうだよなぁ。でもよ、なんでうちの王さまが総大将じゃないんだ」


山岳兵「さぁな。とりあえず、つべこべ言わずに作業だ」

山岳兵「しっかしよぉ。王子さまも何を考えているか全然わからん」


山岳兵「こんな戦法より、古来から続く戦いかたの方がいいだろう」

祭り兵「……よいしょ」


山岳兵「お、祭り兵の。あんたはどう思う?」

祭り兵「そうだなぁ。俺らは単純に王子さまを信じてやるだけだし」


山岳兵「それだけ王族を信じられるのもすごいな。給料が安いとか、そういう文句とかないのか」

祭り兵「そういうのはないなぁ。うちの王子は、俺たちのような下っ端にも気を払ってくれるし」


山岳兵「いいなー」

祭り兵「とにかく手を動かそうぜ。じゃないと怒られちまう」


山岳兵「そりゃあごもっともだ」

祭り兵「でも、こんなに穴開けてどうすんだろう」


山岳兵「下っ端の頭にゃわからねぇすげえ策があるんだろうな」

祭り兵「だろうなぁ」


—— 山


教員「水魔法!」

山岳兵「それくらいでいいんじゃないすかねぇ」


教員「いやいや。まだまだ、水魔法!」

山岳兵「……しっかしまぁ、こんな戦法をよく考えたもんだ」



—— エルフ


エルフ「弓矢に、これを塗るのか」

エルフ「……うぅ、ぬめぬめする……」


エルフ「我らの矢が……こんな……」

エルフ「族長の命令じゃなかったら、絶対にしないよね」


エルフ「仕方ない。我らだけ勝手な行動を取るわけにはいかない」



—— 城


女商人「私が表に立つわけにはいかない」

王子「わかっています。だからこそ、知恵だけ出してください。命令は私が出します」


女商人「それと、各隊長たちとの作戦会議も開かねばなるまい」

王子「ええ。それは今日の夜に行われます。もちろん、出席してもらいますよ」


女商人「んふふ、任せなさーい」


—— 勇者


勇者「流石に皆慌しいな」

魔法使い「うん」


エルフの騎士「私たちは何をすればいいのだろう」

勇者「今日の夜、作戦会議が執り行われるらしい」


魔法使い「決戦は4日後なのに」

勇者「でも、その間にかなり準備が進んでいる。具体的名作戦は立っていなくてもな」


エルフの騎士「不思議だな」

勇者「きっと、女商人が裏で何かをしているんだろう」


魔法使い「なんだか、悪いことしてるみたい」

エルフの騎士「そうだな。裏で手を引く謎の陰、ってやつだな」


勇者「それが正しいんだから、驚きだよな」


エルフの騎士「さてと」

勇者「どこかに行くのか?」


エルフの騎士「同胞たちの手伝いに行ってくる。流石に、じっとしていられない」

勇者「じゃあ俺も」


エルフの騎士「我が君はゆっくりしていてくれ。これは、私たちの仕事だからな」

勇者「……そうか」

とりあえずここまで
いつになるかわからないけど、今日中にまた投稿します。そんときは最後まで

再開ー


エルフの騎士「では、失礼する」

勇者「がんばれよ」

魔法使い「ばいばい」




勇者「……手持ち無沙汰だ」

魔法使い「はい」


勇者「でも仕方ないか。俺たちにもきっと仕事はくる。今は待とう」

魔法使い「勝手に動くほうが迷惑」


勇者「だよな」

魔法使い「うん」


勇者「じゃあ、会話でもするか」

魔法使い「は、はいっ」


勇者「なんで緊張するんだ?」

魔法使い「してません!」


勇者「それならいいんだけど」

魔法使い「……」


勇者「そのさ、決戦が近づいているけど、気持ちの方はどうかな」

魔法使い「平気、とは言えない」


勇者「普通はそうだよな」

魔法使い「勇者さまもですか?」


勇者「流石にこれくらい大きな決戦になるとな。……そもそも、戦争に参加すること自体が初めてだ」

魔法使い「え……」


勇者「勇者は基本的に単独行動だからさ。軍と行動するなんて、滅多にないと思う」

魔法使い「勇者計画」


勇者「そう、それだ。だからこそ、自分がこの決戦でどう動けばいいかまだ分からないんだ」

魔法使い「……」


勇者「情けないな。勇者だっていうのに、ここに来て何も分からない、何もできないなんて」

魔法使い「大丈夫。勇者さまは、きっと勝てます」


勇者「そうだろうか」

魔法使い「はい」


勇者「なんだかごめんな。いきなり弱音を吐いてしまって」

魔法使い「いいえ。そういうところがあっても良いと私は思います」


勇者「そうか……」

魔法使い「それに、私だって勇者さまによく甘えます」


勇者「魔法使い?」

魔法使い「例えば……。今だって、二人きりだから頭を撫でてもらいたいとか思って……その、えっと」


勇者「……」

魔法使い「わ、忘れてください!」


勇者「……おいで」

魔法使い「……はい」


勇者「よしよし」

魔法使い「……んっ」


勇者「この決戦で、絶対に死者は出るだろう」

魔法使い「……勇者さま」


勇者「逃げてもいいんだぞ、魔法使い」

魔法使い「嫌です」


勇者「即答だな」

魔法使い「何度も言っていますが、私は勇者さまの傍にいます。いつ如何なるときでも」


勇者「ありがとう。頼もしいよ」

魔法使い「……そんな」


勇者「……魔法使いの髪、綺麗な黒色だ」

魔法使い「……本当ですか?」


勇者「嘘をついてどうするんだよ。なんでそう思った?」

魔法使い「だって、汚らしい黒と言われた事があったから……」


勇者「そうなのか。でも、俺にとってはすごく綺麗だよ」

魔法使い「勇者さま……」


勇者「……それに、良い匂いだ」

魔法使い「匂いなんてかがないで下さいっ」


勇者「嫌だったか? ごめんな」

魔法使い「……でも、勇者さまになら」


勇者「……」

魔法使い「……」


勇者「……」

魔法使い「あ、あの」


勇者「どうした?」

魔法使い「私、その……勇者さまのことが……」


勇者「ん?」

魔法使い「すすすす、あぅ……す、すっ!」


勇者「お、落ち着け! なんか呼吸がおかしくなってるから!」

魔法使い「……うぅ、ごめんなさい」


勇者「俺は逃げないよ」

魔法使い「はい」


勇者「それで、どうしたんだ?」

魔法使い「はい。あの、驚かないで聞いて下さい」


勇者「ああ」

魔法使い「私は、勇者さまのことが……す、す……」


バタン


魔法使い「——っ!?」


少女「おにいちゃーん! 助けてー!!」

勇者「エルフの少女!?」


少女「おねえちゃんが怒るのぉー!」

エルフの騎士「待て少女!! 逃げるな、ちゃんと手伝え!!」


少女「いやだぁー! あんなぬめぬめしたの触りたくなぁい!」

エルフの騎士「私だって手伝いに行って後悔しているんだからな!」


少女「ふええ……」

エルフの騎士「まったく、行くぞ」


勇者「どうしたんだ。しかもなんだ、そのぬめぬめって」

エルフの騎士「……油だ。おそらく、火矢にするつもりだろう」


勇者「火矢? でも、どうして油なんだ?」

エルフの騎士「それがよく分からない。でも、女商人の知恵らしい」


勇者「へぇ。頑張れ」


エルフの騎士「そこは手伝うって言うところだろう我が君!?」

少女「おにいちゃん……」


勇者「お、俺も油を触るのは嫌かな……」


エルフの騎士「薄情者過ぎやしないか!?」

少女「そうだよぉー」


族長「二人が逃げたと聞いたのだが、まさか勇者のところにいたとはな」


エルフの騎士「ぞ、族長!?」

少女「うわぁー!」


族長「行くぞ二人とも」

エルフの騎士「わ、私は逃げてきたわけじゃっ!」


族長「知らぬな。さっさと足を動かせ」

エルフの騎士「は、はい!」

少女「わかりましたぁ!」


族長「……すまなかったな。では」

勇者「あ、ああ」






勇者「なんだったんだろ」

魔法使い「……」


勇者「おっと、そうだ。話ってなんだ?」

魔法使い「もう……いいです。……はぁ」


—— 作戦会議 ——


女商人「改めて、此度の戦争で軍師をすることになった女商人だ」


魔女「……まったく、私にあんなもの作らせるなんて」


女商人「そこ、愚痴愚痴しない!」

魔女「はぁい……」


女商人「では、今回の決戦についてだ」

王子「お願いします」


女商人「今回の戦場は、2箇所になる」

山岳王「どういうことだ! この国での籠城戦以外でも、戦闘があるというのか!」


女商人「そうだ」

山岳王「そうだ、などと悠長なことを言っている場合では!」


王子「落ち着いてください」

山岳王「……そうだったな。すまない」


族長「そのもう一つの戦場はどこになるんだ」

学院長「さすがのわしらでも、戦場が二つにもなると厳しい」


女商人「……一つは、ここでの防衛戦だ」

女商人「そしてもう一つは、こっちから攻めて行くんだ」


山岳王「攻め、だと」


女商人「船乗りはいるかな」

船乗り「ここにいるっすよー!」


女商人「水の神官」

水の神官「御前に」


女商人「この二人と、勇者一行」


勇者「ああ」

魔法使い「……」

エルフの騎士「どうした」


女商人「勇者一行には、この二人とともに、荒れ果てる海路を通って直接魔王城に向かってもらう」

山岳王「それは危険すぎる! あの海路は、旅立ったもの誰一人として帰ってはこれない死の海路だ!」


女商人「でも、勇者たちが魔王を倒さねばこの国は2日で滅ぶと考えている」

山岳王「なにっ!?」


ガヤガヤ


女商人「落ち着いてくれ」

女商人「だが、魔王さえ討伐できれば戦況は大きく変わると考える」


女商人「私が考えるに、この戦争を勝つにはその方法しかない」


船乗り「私は全然平気っすよ。船の操縦ならば、誰にも負けない自信があるっす」

船乗り「それに、勇者さまを絶対に無事に魔王城へ届けると約束するっす」


水の神官「娘がここまで言っているんです。私にだって何かができるはず」

水の神官「それに、水魔法のエキスパートとして勇者一行と娘の船旅をサポートできるはずです」


王子「……そこまで言われるならば」

山岳王「ならば、俺たちは勇者が魔王を討伐するまで耐えなければならないのか」


女商人「そういうこと。およそ1万とおよそ7万5千。さらに向こうは翼獣もいる」

学院長「こっちにも50匹ほどの翼獣がいるが、足りんじゃろうな」


女商人「そうだ。学院の調教された翼獣でも、魔王軍との戦いで全滅する可能性があるんだ」

女商人「一言だけ言おう。こっちの戦場では生き残れば勝ち、死んだら負け。それだけになる」


一同「…………」


女商人「私たちが死に絶える前に、勇者一行が魔王を討伐すれば生き残れる可能性がある」

女商人「それだけの微弱な可能性にかける、なんとも損だけの戦いだ」


王子「そんな……」

山岳王「絶望的ではないか」


女商人「だから、総大将。あんたはここで言う必要がる。逃げたいものは逃げろ、と」

王子「……」


山岳王「ふん。俺たちはこの国が故郷だ。だからな、たった一人になろうとも戦い抜くさ」

族長「少しばかり見直したぞ人間。私たちは、もとより死ぬ覚悟で赴いた」


女戦士「傭兵たちを舐めるなよ。私たちは、死んでも敵の首に噛み付いてやる」

水の神官「水の街の兵も、決して逃げません。水の精霊の使途の名にかけて」


学院長「わしらの命で誰かが助かるならば、喜んで死のう。子供を守れるならば、さらにじゃ」

魔女「私らが魔王を倒さなかったせいでこうなった。なら、尻拭いも私たちがすべきよね」


王子「皆さん……」


女商人「んふふ。やっぱり皆そう言うと思った」

山岳王「試したのか、俺たちを」


女商人「そういう訳じゃないよ。でもね、覚悟は必要だ」

山岳王「ああ」


王子「……戦争が始まります。きっと、たくさん死にます」

王子「それでも、生き残ってください。この国が勝つ条件は、それだけです」


山岳王「そうだな。200年続くこの国のしぶとさを見せ付けてやる」

学院長「左様。わしらの魔法は誰かを生かし助けるためにあるんじゃ」


族長「エルフ族は、長寿だ。それはな、死なないからだ」

水の神官「私も娘も死にません。何故なら、精霊の加護があるからです」


女戦士「傭兵たちの正への執着心だけならば負ける気がしないな」

魔女「私だって生き残って、先代勇者に説教しなくちゃいけないんだからね!」


勇者「もちろん、俺たちも生き残って帰ってくるさ。魔王を討伐してな」

魔法使い「うん」

エルフの騎士「絶対に勝つ。魔物になんて負けないさ」


王子「ええ。皆で生き残りましょう」


山岳王「ならば、そろそろ兵たちにも演説をしてくれ。戦意を向上させてやってくれ」

王子「それは一体どういう……」


山岳王「こっちだ、付いて参れ」

王子「……わかりました」





王子「こ、これは!」

山岳王「城下町を見下ろすことのできる場所だ。ここで声高らかに演説をすれば、集まった民、兵たちに伝わる」



オウジー!!
オレタチハヤルゾー!!
マモノナンテコワカネー!!

ウオーー!!
ウオーー!!


王子「これは、すごい」

山岳王「兵や民たちが、この作戦会議を固唾を呑んで見守っていたのだ」


王子「ですが、私で宜しいのですか?」

山岳王「総大将だろう。見せてやれ、お前の闘志を。伝えてやれ、皆の気持ちを」


王子「わかりました」


勇者「俺も、応援しています」

王子「はい。しっかりと見ていて下さいね。特に麗しの君」


エルフの騎士「な、なんだ?」

王子「これが、私の王族として晴れ姿です」


エルフの騎士「王子……」


学院長「ほれ、魔道具による声拡張の装置だ」

王子「ありがとう」





王子「山岳の国の民よ!! 御祭りの国、水の街、東の魔法学院、エルフ族の民たちよ!! また、傭兵のつわものたちよ!!」


王子「今、この国に向けて魔王軍が押し寄せてくる!!


王子「数だけならば圧倒的な差があるかもしれない。だが、私はあなたたちを信じている」


王子「決して負けぬ、屈さぬその精神力を信じている」


王子「私たちは今まで何度となく魔物からの被害を受けてきた。魔物に愛する家族を失われた者もいるだろう」


王子「その魔物たちが今! 家族だけでなく、隣にいる者、愛する者、それらに飽き足らずこの国を飲み込もうとしている」


王子「魔物によって里を滅ぼされた者も既にいるだろう。未来ある子供を危険に晒された者もいるであろう」


王子「ただ無差別に、魔物ではないという理由だけで奴らは私たちを迫害してきた」


王子「この憤怒、この悲しみ、この絶望。その象徴が、軍勢を成してここへ進行してきている」


王子「さあ剣を持て、弓と矢を持て、魔法を放て!! 家族の笑顔を守るために、愛する人を守るために!!」


王子「生き残るのだ! 生き残らせるのだ!!」


王子「もちろん、逃げたい者は逃げればいい。私は笑わない。生きていることが何よりも大事だからだ」


王子「だが!! もし、愛する者と共にありたいと願うならば、私たちと共に戦って欲しい」


王子「生きるための戦いをしよう。生き残らせる戦いをしよう!!」




ウオオオオオオ
ワアアアアアアアア
オオーーーーーー!!!!!


——
——
—— 翌日 ——


勇者「俺たちはそろそろ出発か」

エルフの騎士「先駆けで出発しないといけないからな」


魔法使い「どういう道のりになるのかな」


水の神官「まず、この港町から出発します。馬でおよそ1日でつきます」

水の神官「そこから、およそ2日で魔王城の裏側に回ることができます。そこからが、スピード勝負になります」


船乗り「その海路こそが、荒れ果てる海路。私が船長をするっす」


勇者「大丈夫なのか」

船乗り「大丈夫っす! 任せて下さい。私、絶対に勇者さまを届けるっす」


勇者「頼りにしているぞ」

船乗り「その、成功した暁には結婚してくださいっす……」


魔法使い「なっ!?」

エルフの騎士「お、おおう……」


船乗り「えへへー」

勇者「えっと……ほ、保留でっ」


船乗り「焦らしプレイっすか!?」

魔法使い「勇者さま!?」


勇者「い、いや。こんなこと言われたの初めてだし……。どう返したいいか分からないっていうか……」

船乗り「今はそれでもいいっす!」


水の神官「黙って聞いていれば、何を言っているんだ船乗り!」

船乗り「いいじゃんお父さん。だって、もしかしたら……」


水の神官「……」

船乗り「ごめん、不謹慎だったよ」


勇者「俺は……」

船乗り「いいんすよ。私が勝手に言っただけっすから」


魔法使い「……」

船乗り「それに、私もう……負けてるかもしれないっすからね」


勇者「それはどういうことだ」

船乗り「なんでもないっすよーだ! えへへ……」


水の神官「ところで、私たちはもう出発しなければなりません」

勇者「そうですか。……みんな、準備はいいか?」


魔法使い「うん」

エルフの騎士「問題はない」


船乗り「私も、完璧に準備はできているっす!」


水の神官「ならば、王子に報告した後に行きましょう。港町へ」


—— 山岳の国 本陣 ——


勇者「山岳王、王子。俺たちはこれから出発しようと思います」


山岳王「うむ」

王子「わかりました。どうかお気をつけて」


学院長「おお。やっときたか。こちらへ」

勇者「学院長? 何故こちらへ?」


学院長「そろそろ、出発の報告をする頃合だと思ってのぉ。これはわしからの餞別じゃ」

勇者「この指輪は?」


学院長「それは魔道具、インビジブルじゃ」

勇者「魔道具ですか。こんな高価な物をいいのですか」


学院長「これはわしが作った特別性の魔道具じゃ」

魔法使い「学院長が作った魔道具……」


技師「へぇ。魔道具を作るなんて凄いんだねェ」

魔法使い「え」


女商人「私たちもいるさ。本陣だから当たり前だな」

魔法使い「そっか」


勇者「ところで、この魔道具の効力はどういったものですか」

学院長「ほっほっほ。それは勇者も知っておるじゃろう」


勇者「俺が、ですか」

学院長「……初めて会ったときに、これを使ったんじゃがなぁ」


勇者「もしかして……。姿を消す魔法!?」

学院長「正解じゃ!」


魔法使い「そんな凄い魔法が……」

学院長「わしが開発した魔法じゃよ。それを込めた魔道具。きっと役に立つじゃろう」


エルフの騎士「絶対に役に立つだろうな」

学院長「3人分しか用意できんですまなんだ」


水の神官「いえ。私たちは船にいるだけです。魔王城に突入する勇者さまたちが使うべきです」

船乗り「そうっすよ!」


学院長「本当に申し訳ないのぉ」

水の神官「気にしないでください」

船乗り「逆に恐縮っす!」


学院長「そう言ってもらえると、助かるわい」


技師「おっと、そうだった。俺たちからも魔法使いにプレゼントがあるんだ」

女商人「きっとびっくりするだろうねー」


魔法使い「私に?」

技師「ふふふ」


魔法使い「なに」

女商人「んふふー」


勇者「もったいぶらないで、早く言えよ……」

女商人「もうー! そんな男はモテないぞー!」


勇者「……」

エルフの騎士「お、抑えるんだ我が君!」


女商人「まぁそうだな。ほら、これを見てくれないか」

魔法使い「そ、それは……」


技師「超古代文明の、魔道具。魔銃だ! これはベレッタというものでだな」

女商人「そこまでの説明はいらんだろう……」


技師「おっと。すまないお嬢。確かにそうだった」

女商人「まったくー」


魔法使い「どうしてそれを」

技師「そりゃあ、魔銃ならばあるだろうよ。嬢ちゃんも学院の図書室で色んな魔銃に関する本を見たんだろう?」


魔法使い「うん」

女商人「じゃあ、魔法使いの銃じゃない本物の魔銃がどっかにあるってことだよな」


魔法使い「どこでこんな物を……」

女商人「それは話すと長いから置いておこう! でも、プレゼントがあるのはほんと」


技師「これを受け取ってくれ」


魔法使い「これは?」

技師「これは魔銃のライフル。嬢ちゃんのそれは……確か俺、ライフルって言ったか?」


魔法使い「うん」

技師「あの発言は忘れてくれ。そりゃあ、ライフルかどうか、俺にゃわからねェ」


魔法使い「違うの?」

技師「それは、きっとそういう銃なんだろうな」


魔法使い「そっか」

技師「で、嬢ちゃんにはこのライフルを、魔銃のライフルをプレゼントしようかなと思って」


魔法使い「射程範囲は?」

技師「だいたい2kmだ」


魔法使い「じゃあいらない」

技師「どうしてだ? 嬢ちゃんの出来損ないの銃よりも遥かに」


魔法使い「今、この銃の射程範囲は最低6km」

技師「なんだって!?」


魔法使い「それは、薬莢付きの銃弾を使える?」

技師「そんなもん、使っちまったら魔銃に負担がかかりすぎて壊れてしまう」


魔法使い「この銃は、薬莢を使うことで飛躍的な威力の増強ができた」

技師「……そりゃあすげぇ」


女商人「あっはっは! 命懸けで手に入れた私らの武器が、結局それよりも劣るって!」

女商人「お、面白すぎるっ! あははは! あんなに自慢げに語ってた技師を見せてやりたいなぁ!」


技師「笑うなよ、お嬢……」

金髪「どんまい」


勇者「やっぱり魔法使いの銃はすごいんだな」

エルフの騎士「ああ」


技師「じゃあせめて、これくらい受け取ってくれないか」

魔法使い「これは?」


技師「スコープっていう奴だ」

魔法使い「なにそれ」


技師「これは、小さな望遠鏡だと思ってくれ。これをその銃に取り付けることで、より照準を合わせやすくなるだろう」

魔法使い「どうやって付けることが……」


技師「大丈夫だ。たぶん付けることができる、んじゃないかな?」

魔法使い「……」


勇者「あはは……」

エルフの騎士「いいのかそれで」


魔法使い「ありがとう。これ、もらうね」

技師「おお! じゃあ、気をつけてくれや」


勇者「さてと、そろそろ行くか」

エルフの騎士「ああ」


水の神官「いよいよですね」

船乗り「うっす!」


魔法使い「……うん!」


王子「では、本当にお気をつけて」

山岳王「頼んだぞ」


勇者「はい」

エルフの騎士「任せてくれ」


女商人「勇者たちが負ければ、こっちは完全に敗北なんだからな」

技師「プレッシャーをかけるんじゃねぇよお嬢」

金髪「あはは!」


少女「おねえちゃーん! おにいちゃーん!」

エルフの騎士「少女!?」


族長「我らも、お前たちの出発に激励を送ろうと思ってな」

エルフの騎士「族長、感謝する」


魔女「ハァハァ! ま、間に合った!」

勇者「魔女さん?」


魔女「こ、この薬草……私の、特別性だから……う、受け取って、ゼェハァゼェハァ……」

勇者「あ、ありがと……。落ち着け……」


水の神官「では、行きましょう」

勇者「そうですね」


女商人「こっちは任せろ」

王子「次に再会するときは、笑顔で」

山岳王「じゃあな」


勇者「では、行って参ります」

エルフの騎士「勝利を、私たちの手に」

魔法使い「うん」












—— 10章 王国連合軍と魔法使い 終わり ——

ここまでー、次の投稿はいつになるかな
あと、雑談とか予想とか馴れ合いとかなんでも好きにしてもらっていいですよー!前スレでも言いましたがー!
荒れさえしなければ好き勝手してくだしあ、ではー

予想だけしないで下さい、お願いしますっ!!
すまん!

大雑把な予想くらいなら全然いいんだけど。もしかして、こうなるんじゃね?みたいな
でも、細かい予想されると困るかも……。うっはwwwwwwってなる
次章と最終章は、おおまかに妄想済みなんでー!特に、伏線を予想で回収されたら、くぬぅってなる

まだ予想のレスで伏線回収されたことないけどね!
でも、そういう予想レスからネタを広げたりしているから、俺としてはなんでもレスしてくれると嬉しかったりするんだからねっ。というか、レスもらえるだけで嬉しい、本音

11章、やっと半分くらい書けた
この調子なら来週くらいに完成するかな、して欲しい。あと意外とこれを読んでる人が俺と同じような漫画が好きで嬉しい
次の投稿、来週の火曜日か水曜日を目指しているだけー

投稿ー
※注 王=山岳王 伏線とかじゃなく、分かりやすさのためにしています

※ネタバレ注意

〜3行でわかる10章のあらすじ〜












 1、今までの登場人物再登場
 2、戦争準備完了
 3、勇者たちは魔王城へ、王子たちは山岳の国で戦う


11章 決戦


—— 決戦当日 本陣 ——


王子「状況は如何に」

女商人「そうだねぇ。国の前方に、およそ3万の魔物軍。さらに後方に3万5千の控えと1万の翼獣が見えるって報告だったかな」


山岳王「対する、国外に備えさせた我らの兵は5千人。絶望的な状況だ」

族長「しかし、よいのか? この城に立てこもり、日にちを稼いだ方が安全ではなかろうか」


女商人「それだと、万の魔物にあっさりと城壁を破られちゃうよ」

族長「……今回の軍師は、お前だ。だから、我はお前に従おう」


女商人「ありがと」


王子「……とうとう、始まるのですね。勝機は、ありますか」

女商人「正直、五分五分」


山岳王「この兵力差でも五分五分と言えるならば、むしろ素晴らしいぞ」

女商人「そのために、今まで兵たちを酷使して戦争の準備をしたんだからね」


王子「ええ」

女商人「傭兵団2000、御祭り兵3000、山岳兵3500のうち、5000人を城壁の外に構えさせた」


山岳王「……さてと」

女商人「どこへ行くのかな?」


山岳王「指揮官がいなければ、兵は動かんだろう?」

女商人「へぇー。じゃあ、王さまが直接戦地へ赴くんだ」


山岳王「ああそうだ」

女商人「ちょっと見直したよ」


王子「では、私も」

女商人「王子はダメに決まってるでしょ」


王子「しかし」

女商人「総大将は、一番安全な所にいないとね。王子が死んだら、それだけで兵の戦意は下がる」


王子「……わかっています。そんなことくらい」

族長「それでも、じっとしておられんということか」


王子「はい」

族長「気持ちはわかる。だが、耐えろ」


女商人「族長の言うとおりだよ」

山岳王「ああ。俺は、今回は総大将ではない。だが、王族として兵たちを鼓舞してくる。なぁに、俺に任せろ王子」


王子「……ありがとうございます」


女商人「さあ、みんな戦闘準備だ!」


族長「ああ。我も、指定された場所へ移動しよう」

山岳王「俺もだな。城壁の向こうへ出るなんて、久しぶりだ」


王子「どうかお気をつけて」

女商人「王子も、これから忙しくなるんだ。私の作戦を、王子が皆に伝えなければならない。これは王子にしかできない仕事」


王子「はい。よろしくお願いしますね、女商人」


—— 戦場 ——


祭り兵「な、なんだよあれ……」

山岳兵「目と鼻の先に、魔物の軍勢がいやがる」

傭兵「び、びびってんじゃねぇよ!」


女戦士「だらしないぞ男ども!!」


傭兵「だ、団長!」

女戦士「私のことは隊長と呼べと言っているだろう! 今回の連合軍、兵士隊隊長はこの私なんだぞ!?」


傭兵「うっす団長!!」

女戦士「こ、こいつらはー……っ」


祭り兵「だけど隊長、こんなのやっぱり……」

女戦士「おいおい。大将が言っていたろ? この地形、山間に向かって狭くなるこの戦場では一度に襲いくる魔物の数も制限されるって」


祭り兵「ですが……」

女戦士「なぁに! それにたかだか3万程度。一人6匹倒せばそれで終わりなんだろ?」


祭り兵「簡単に言いますけどねーっ!?」

傭兵「そっか! 団長、いやいや……隊長って頭いいな!!」


女戦士「そうだろそうだろ!? あっはっは!」

山岳兵「……ま、物事は前向きに考えるか」


女戦士「そういうことだ!」


祭り兵「でもよ、いつになったら開戦なんだ」

山岳兵「ああ。いつまでこの緊張感の中、待機し続ければ……」


女戦士「開戦の合図は、向こうが突撃してきたらだ」

傭兵「このまま帰って欲しいんだけどなぁ」


女戦士「そんな弱気でどうするんだ、まったく」

王「その通りだ」


女戦士「山岳王!? どうして王がこんな所に!?」

王「俺も戦いにきたんだ。指揮官としてな」


女戦士「へー! ま、安心してよ。私らはそんな柔じゃない」

王「当たり前だ」


山岳兵「お、王さま! このような危ない場所に来てはっ! 早くお戻りください!」

王「はははは!! そうびびるなよ。俺だって、たまには暴れたいんだ」


祭り兵「暴れたいって……。なんて王さまだ」

傭兵「だよなぁ」


王「兵士隊隊長」

女戦士「そ、その役職名で改めて呼ばれるとなんだかくすぐったいよっ」


王「決して、負けぬぞ」

女戦士「誰にものを言ってるのかねぇ。もちろんさ! なぁ、野郎ども!!」


兵たち「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」


王「これは心強い」

女戦士「王の兵たちも、やる気十分だ。王がこっちに来てくれただけで、兵たちの闘争心は上がった」


女戦士「そうだろ、みんな?」


山岳兵「そ、そりゃあ王さまが来るってなったら良い所見せないとな! そんで給料アップだ!!」

祭り兵「王族とともに戦うなど、兵としてこれほど誉れ高いことはない」


傭兵「団長ーーーー!!」
傭兵「うおおお!! 団長ーーーー!!」
傭兵「だ、ん、ちょ! だ、ん、ちょ!」


女戦士「……私の傭兵団ときたら」

王「いいじゃないか。楽しそうだぞ?」


女戦士「そんな問題じゃ……。あー、恥ずかしい」

傭兵「あねさーん!」


女戦士「誰だあねさんって言った奴! 出てこい、切り捨ててやる!!」

傭兵たち「あはははは」


王「微笑ましいな」


山岳兵「あ、あれでいいのか……」

祭り兵「俺にはわからん」


女戦士「ええい! もっと気を引き締めんか!!」

王「はははは」


女戦士「……ま! ぴりぴりし過ぎてもだめか!」

王「ああ。だが、油断はするなよ」


女戦士「当たり前だろ山岳王」

王「……生き残るぞ」


女戦士「もちろんだ。それだけが、私たちの勝利だからな」

王「わかっているならば、よい」


女戦士「今回の決戦、合言葉は生存だ」

王「その通り。生きてこそ、だ! 生きてこその未来なのだ!」


女戦士「……さぁ、勝負だ」

王「魔物と人間、どちらが勝つか」


山岳兵「負けられません」

祭り兵「絶対に生き残ります」


傭兵「俺らの生への執着心を舐めてもらっちゃ困るよな」

傭兵「そうだそうだ!」


王「……槍を構えろ!」

兵たち「おおおおお!!!」


女戦士「敵を見逃すなよ!!」

兵たち「おおおお!!!!」


—— 城壁の上 ——


族長「エルフ族よ。弓矢は構えたか」

エルフ「準備は万全だ、族長」


族長「我ら弓矢隊で、10万本の矢の全てで敵を射抜くぞ!」

エルフたち「おおおお!!」


学院長「さすがは弓矢隊隊長じゃな」

族長「魔法隊隊長ではないか」


学院長「わしら100人の学院の教員陣。精一杯の支援をしようぞ」

教師「ええ」


族長「頼りにしている」

学院長「ああ、わかっておる。わしらの魔法、しかと目に焼き付けるんじゃな」


族長「言ってくれるな、人間」

学院長「流石にわしでも血が滾るんじゃよ」


教師「学院長はもう歳なのですから、ご自愛ください」

学院長「なぁに! まだまだ若いもんには負けんわい!」


族長「老人でも、気骨を見せねばな」

学院長「そういえば、族長は齢130を超えるんじゃったな」


族長「ああ。年寄りだってまだまだ現役であると見せ付けないとな」


学院長「教員たちよ、杖は持ったか」

教師「教員陣、杖を持ちました」


族長「さあ弓を持て」

エルフ「はっ!」


少女「はぁい!」

水女「はい!」

雷女「はい!」


族長「少女も闘志が漲っているな」

少女「うん!」


学院長「二人とも、どうしてここに。何も本当に戦うことなどないじゃろうに」

雷女「戦います。例え役に立たなくても、いさせて下さい」


学院長「最悪死ぬかもしれんのじゃぞ」

雷女「死にません。生き残ります」

水女「私もです、学院長」


雷女「あの魔法使いなんて、一番危険な所に行っているんです。だったら私だって、戦いたい」

水女「あの子にばっかり大変な思いをさせたくないっていうか」


学院長「……わしらの役目を知っているのか」

雷女「飛んでくる翼獣の撃退ですよね。なら、私の雷魔法で打ち落とします」

水女「私だって、私の水で押し流してやるんだから!」


学院長「……気をつけるんじゃぞ」

雷女・水女「「はい」」


—— 本陣 ——


王子「……さあ、開戦です」

女商人「魔物どもが雪崩のように押し寄せてくる」







—— 城壁 ——


学院長「さぁ、守りきるぞ」

族長「来るならこい、魔物たちよ!」







—— 戦場 ——


山岳王「来たぞ!!」

女戦士「行くぞ、ものども!! 勝利を我らの手に!!」







魔物「「「「「「「グオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」」」」」」」


女戦士「では行ってくる。指揮官殿は」

王「わかっておる。俺はここで指揮を出す」





女戦士「うおおおおおお!!!!」


山岳兵「おおおおおおおお!!!!」
祭り兵「わあああああああ!!!!」
傭兵「おんどりゃああああ!!!!」



魔物「グアアア!!」

女戦士「はああ!!」


山岳兵「くっそがぁあ!!」

魔物「ギャア!!」

山岳兵「うわあああ!!!!」


祭り兵「大丈夫か、山岳の!? やああ!!」

傭兵「他人の心配している場合かよ!! うりゃあ!!」


女戦士「そこだあ!!」

魔物「ギャアっ! グオオオ……」


傭兵「流石は姉さんだ!」

女戦士「まだまだ! 次だ!」


山岳兵「大丈夫か兄弟!」

山岳兵「……こんなの、かすり傷だい!」


—— 本陣 ——


王子「とうとう始まりましたね」

女商人「……ぐちゃぐちゃだな」


王子「はい。多勢がぶつかり合ったのですから……」

女商人「あれは翼獣どもか。今近づけさせるのは得策ではない。東の魔法学院の教員陣を出発させろ」


王子「はい」

女商人「頼む」


王子「魔法隊を出せ」

兵「はっ! お伝えしてきます!」


女商人「いざ始まると、流石に緊張してきたよ」

王子「私もですよ」


女商人「んふふ。でも、逃げたりはしないから安心して」

王子「その年齢で、ここまで出来ること自体が凄いですよ」


女商人「そりゃあ、尊敬する親父の跡を引き継いだんだ。泣き喚き、逃げ出すようなら、地獄にいる親父に笑われちゃうよ」

王子「そうですか」


女商人「もうきっと誰か死んでるんだろうな」

王子「……」


女商人「そして私は兵たちを死地へ送る軍師。親父に負けず劣らずの鬼畜だ」

王子「大丈夫です。そういう意味での鬼畜具合なら、私も負けていませんので……」


—— 城壁 ——



学院長「まずはわしらの出番か」

教師「はい。ですが、学院長の出撃はまだですからね」


学院長「わかっておる。気をつけて行くんじゃぞ」

教師「わかっていますよ」


教師「行くぞーーーー!!」

教員「うおおおおお!!!!」


教師「全員、翼獣にまたがれ!」


水女「私たちは?」

雷女「まさかここで指をくわえて見ていろって言うんですか!?」


学院長「お主らは、翼獣に乗っての戦い方を知らぬじゃろ? 見ておれ、あれが東の魔法学院の本当の戦い方じゃ」


水女「え?」

雷女「は、はい……」


学院長「さあ、見せてやれ。わしらの力を。翼獣すら従えることのできる、わしらの戦闘技術を!」







教員「我が大怪鳥、炎を吐け!」

大怪鳥「グオオオ!!」


ガーゴイル「ギャーーース!!」


教員「爆破魔法!!」


ガーゴイル「……ギャアアアッ!!」


水女「すごい。火の息吹でひるませて、爆破魔法で追撃するなんて……」

雷女「あんな状況で魔法を唱えることができるなんて。先生たちってやっぱすごい」


学院長「あんなの、序の口じゃよ」



学院長「隊列!!」





教師「隊列だ!!」

教員「了解!!」




教師「一斉放射、放てーーーー!!」

教員「火を吐け!」
教員「かまいたち!」
教員「氷の吐息だ!!」




翼獣「グオオオオ!!」
翼獣「ギャアア!!」

翼獣「グギャヤアアアア!!」





水女「……味方の翼獣が、一斉に息吹系を吐き出すなんて」

学院長「まだじゃ」


教師「教員陣、追撃魔法を放てーーーー!!」


教員「広範囲火炎魔法!!」
教員「広範囲爆破魔法!!」
教員「広範囲雷魔法!!」
教員「広範囲風魔法!!」



翼獣「ギャギャギャギャギャ!!」
翼獣「ギャアアアア!!」

魔物「グギュウアウアアアア!!」





水女「みるみるうちに敵が減って行く!」

雷女「これならもしかすると!」


学院長「いいや。せいぜい100体程度の魔物を減らした程度にしか過ぎん」

学院長「じゃがな、今は全力を持って空の戦線をあの位置で死守しなけらばならん」


水女「……」

雷女「……」


学院長「心配はいらんぞ。学院の教員陣は決して負けぬ。それに、最悪はわしが……」

族長「それはいけない」


雷女「エルフの族長……」

族長「あなたは、作戦のかなめを担う一人。どうかご自重してくれ」


族長「……うむ」


族長「それに、我らは空ばかり見ていてもいけない」

学院長「そうじゃな」


少女「どういうことなのぉ?」


族長「陸地を見てみろ。数の暴力に押され始めている」

少女「あ」


水女「あれ、大丈夫なの!?」

雷女「やばいんじゃない!? 押されまくってるじゃん!!」


学院長「信じるんじゃ。今は、それしかできぬ」


水女「でも!」

雷女「……水女、学院長がこう言ってるんだし、信じるしかないよ」


水女「……わかった」

雷女「そだよ……。でも、本当に大丈夫なの? あんなに周囲を囲まれて」


族長「……」

学院長「……」


少女「ぞくちょー?」

族長「そろそろ、我らの出番が訪れるかもしれん」


学院長「わしも準備をするかのぉ。奴らが、こっちまで来るからな」


水女「それって……」

雷女「まさか、陸地の戦線をこちらまで引かせるってこと!?」


—— 陸地 ——


女戦士「やあああ!!」

魔物「ギャアアア!!」


女戦士「斬っても斬ってもまったく減らないとか……ハァハァ!」


山岳兵「いてぇ、いてぇーよぉ!」

女戦士「大丈夫か!」


山岳兵「腕が、おいらの腕がぁああ!!」

女戦士「落ち着け! 一度お前は退」


魔物「グルルルルウオオオオオ!!」

山岳兵「ひっ! うぎゃあああああーーーー!!」


女戦士「山岳兵!? くっそおおおお!!」

魔物「ギャアアっ!」


女戦士「だ、大丈夫か!?」

山岳兵「…………」


女戦士「流石に……ダメだったか……」


傭兵「どうすんすかこの状況!?」

女戦士「残りの兵はどれくらいだ!」


傭兵「わからねぇ! でも、まだ大きな損害じゃあない!」

女戦士「そうか……」


祭り兵「くっそおおお!!」

魔物「ギャアア、グオオオオ!!」


山岳兵「ちくしょう……。兄弟の仇だあああ!!」

魔物「グオオオ! グルルルル!!」

山岳兵「こっ、なくそぉ!!」


女戦士「落ち着け!! 協力し合うんだ!」

傭兵「俺に任せろ!」


魔物「グギャアー……っ」


山岳兵「助かった!」

傭兵「へへ! 仲間じゃねぇかよ!」




女戦士「しかし、そろそろ……」






王「頃合か。誰か鏑矢を放て」

兵「はっ!」



ヒューーーーーーーーーーーーー!!!!


女戦士「合図だ!! 撤退、撤退だ!!逃げるぞ!!」

傭兵「おう!」







族長「陸地の戦線はとうとう引き始めたか」

学院長「……空の戦線も退かせるかの」


少女「それってあぶないんじゃないのー?」


水女「そうです! だって、敵の翼獣だってあんなに残ってるのに!」

雷女「それこそ敵の侵入を許しちゃいます! 私でもそんなことくらい分かるのに!」


学院長「……教師、退けい!!」









教師「学院長の命令だ!! 退くぞ!!」

教員「了解!」



教師「その前に置き土産だ! 隊列!!」

教員「はっ!!」



教師「翼獣、魔法隊、一斉に全てをぶち込んでやれーーーー!!」


水女「すごすぎる……。空が、色を変えるなんて」

雷女「私、もう先生をバカにしない」


学院長「ほっほっほ。すごいじゃろ。あれが、わしらの力じゃ」


族長「さてと、次は我々の出番だ」

族長「準備はいいか!」


エルフ「当たり前だ族長」

エルフ「待ちかねた」


少女「うん!!」


族長「少女もやる気十分だな」

少女「えっへん!」


水女「……」

雷女「可愛いから、いいか……な?」


学院長「泣き出さないとは、強いんじゃのぉ」

少女「エルフの騎士のおねえちゃんはもっとつおい! わたし、おねえちゃんやおにいちゃんみたいになりたいもん!」


族長「……弓矢を構え」

エルフ「「…………」」


少女「ええい……っ」


水女「あれ、その矢って……」


—— 本陣 ——


王子「ここまでの戦局はこちらの思惑通り」

女商人「だが、次の作戦が通用するかどうかはわからない」


王子「大丈夫。私は、あなた方を信じています」

女商人「ありがと」


女商人「しかしまぁ、魔物どもが基本的に阿呆だったことが救いだよ。つくづく思う」
 
王子「ええ」


女商人「きっと奴らは猪突猛進に逃げる女戦士たちを追いかけるだろう」

王子「空も同様。二つの撤退のタイミングを重ねることが重要なのですよね」


女商人「……女戦士と山岳王、学院長と族長の息が合わさったとき、この作戦は成功する」

王子「成功の確率は如何ですか」


女商人「この面子だ。絶対に成功するさ」

王子「疑ってはいないのですね」


女商人「じゃあ王子は信じないの?」

王子「まさか。私ほど兵を信じている者はいないと自負しています」


女商人「言うね言うねー! でも、それは私もおんなじ。最初の作戦は絶対に成功するさ」

王子「……そうです、その通りですよね」


女商人「さあ! 一つ目の策だ! 喰らいやがれ魔物ども!!」


—— 陸地 ——


女戦士「撤退だーーーー!! 全力後退!!」



魔物「グオオオオオ!!」
魔物「ギャアア!!」
魔物「シャーーーー!!」






—— 城壁 ——


学院長「そろそろじゃな……」

族長「お願いする」


少女「なんだろー」


水女「学院長がこんなに集中しているってすごいかも」

雷女「何が起きるのかしら……」








山岳王「さあ、帰ってこい女戦士。半円を描くように回り込まれているが、それでいい」

山岳王「空も、多い尽くすほどの翼獣が飛んでいる。全ては女商人の思惑通りだ」


魔女「私にあんなものを作らせたんだからね。私の薬物は、ちょーっときついわよ!」

山岳王「なんだ。こんな所にいたのか」


魔女「流石に隅っこでじっとしてられなくてね」


—— 戦場 ——



女戦士「よし! 全員退いたな!」

傭兵「うっす!!」



魔物「ギャアアア!!」
魔物「グオオオオオ!!」



翼獣「キーキーキー!!」
翼獣「ギャアアス!!」




女戦士「さすがに陸地の魔物は盾を上に構えて弓矢の対策をしてきたか」

王「だが、俺たちの本命は空じゃない!」



魔物「グオ? グオオオオオ!!」



女戦士「古典的な策の一つ、落とし穴だ」

王「それも、浅い落とし穴をたくさん作った。足止めだ」



魔物「グルルル!!」
魔物「ウオオオオオオ!!」



女戦士「でも、流石に這い上がってくるか」

王「……」


—— 城壁 ——


水女「ちょっとー!? あんなちっちゃな落とし穴じゃ全然足止めになってないんですけどー!!」

雷女「そもそも落とし穴って……。なんで!?」


族長「翼獣どもも、そろそろ我らの矢の射程圏内か」

少女「う、うん」


水女「学院長ーー! これやばいってーー!!」

雷女「こら! 学院長は今、魔法発動のために精神統一しているんだから!」


水女「でもぉー!」

雷女「……わ、私だって怖いわよ! もうすぐそこに魔物も翼獣も来ているんだから!」


族長「落ち着け人間の娘。我らはまだ、何も問題を起こしていない」

少女「そだよぉー……。信じようよぉ!」


雷女「……こんなちっちゃな子に言われちゃったら、おしまいね」

水女「そ、そだね……。私、信じる!」


族長「それでよい。まだだ、まだ早い……矢を射抜くにはまだ」

少女「うん」


水女「ああ……。女神様」

雷女「……どうか」


族長「……」

少女「……」


族長「……やっとか」

少女「え?」


族長「見てみろ、あの陸の魔物どもを」


水女「そんな悠長なことを言ってる場合じゃ! あと数百メートルもしたら城壁に!」

雷女「ちょ、ちょっとよく見て! なにあれ、魔物たちがどんどん倒れていくんだけど……」






—— 本陣 ——


王子「魔女の毒薬」

女商人「小さい落とし穴には、毒薬を塗った杭がたくさんささっている。流石は魔女、いい仕事をしてくれるね」





—— 戦場 ——


王「壮絶な光景だな」

女戦士「だが、これほど上手くいくとは」


魔女「私が作った速効性の毒薬だもの。私が毒薬作るの嫌いなこと知ってて、あの子ったら作らせるんだから……」


祭り兵「先行して倒れた魔物が邪魔になっていて、進軍が少し遅れています!」

山岳兵「しかし、いくつかは落とし穴を越えてこちらに!」


王「さあ! 第2陣だ!! 残りの兵隊3500人を合流させて、この防衛線を絶対に後退させぬぞ!!」


一同「おおおおおお!!」


—— 城壁 ——


雷女「動かない魔物がたくさん……」

族長「落とし穴と毒薬の効果か。古典的だが、魔物相手にはよく通用するということか」


翼獣「ギャアアア!!」
翼獣「キーキーキー!!」


水女「悠長なこと言ってる場合じゃないよー! もうそこまで来てるってばーーーー!!」

族長「大丈夫だ、心配なし。さぁ、見せてくれ人間よ。人間の魔術師の最高の力を!」





学院長「……超級広範囲魔法。大火炎魔法!!!!」


ボワアアア!!!!




少女「すごぉい!」

雷女「火の壁が、空一面に……」



族長「エルフたちよ!! 矢を放て!!」

エルフ「はっ!」


シュシュシュシュッ
シュシュシュシュッ


少女「あ、あわわ! しょうじょもー!!」


水女「どうして火炎魔法の中に矢を放ったの……?」

雷女「見て! 火炎魔法の中を矢が飛んだことで、火がついてる!」


族長「これはただの矢ではないぞ。油をたっぷりしみ込ませた布を巻いた特別性の矢だ」

族長「わずかに飛距離は落ちるが、さしたる問題ではない」


少女「ぬめぬめいやだったよぉ」


学院長「……ふう。流石にこれは何発も撃てんわい」


水女「学院長、大丈夫ですか!?」

雷女「あんなすごい魔法を放ったら、精神力が一気に持ってかれるんじゃ!」


学院長「なあに。わしにはこれくらいしかできんでな」


学院長「教員陣よ、再度飛び立て!! 空の戦線はこちらがわずかに押した! このまま一気に押し込むんじゃ!」

教員陣「了解です!!」


雷女「でも、どうして火矢を打ち込む必要があったの」

水女「ね、ねえ……陸地がすごいことになってる、よ……?」


雷女「え?……うわ」

族長「これがあの人間の商売人の思惑とするならば、どこまで残酷だろうか」


—— 戦場 ——


魔物「ギャアアアアーーーーっ!!」
魔物「ググギャギャギャギャギャ!!」

魔物「オオオオオ……」





女戦士「毒薬で倒れた魔物たちが、火矢によって燃え上がっている」

王「しかも矢には油がしみ込んでいる分、そう簡単には消えない」


魔女「魔物の肉槐が次々に引火して、炎の壁みたいになってるわね……」

魔女「こんなこと思いつくなんて、やっぱり女商人も、あの商人の娘ってわけね」





魔物「————っ!!」
魔物「————っ!!」

魔物「————っ!!」





女戦士「生きながらにして焼かれるとは、想像できない苦痛なんだろうな」

王「……ああ」


魔女「これで、当分は目の前からの進軍は遅くなるわね。その間に、翼獣たちを教員陣が殲滅できればいいのだけれど」


王「あの学院長も、ある程度回復したら空に飛び立つらしいから、きっと大丈夫だろう」

女戦士「なるほどな。……さて、私はもう一度戦地へ赴くよ。この策から逃れた魔物がいるからな」


魔女「敵にとっては背水の陣ならぬ、背火の陣ってことからしらね」

一旦休憩


—— 本陣 ——


兵「報告します! およそ5000匹の魔物の撃退に成功したとのこと! 我が兵の損害はおよそ880人!!」


女商人「これで単純計算、2万5千くらいまで減らすことができたのかな」

王子「おそらくもう少し減っているはずです。最初の白兵戦でも、いくつかは切り捨てることができたはず」


女商人「兵たちには背中を守らせるように戦わせ、あえて深い突撃をさせなかった分、被害は抑えられたのかな」

王子「880人でも、抑えられた、ですか……」


女商人「単純に5千対3万だったんだ。数時間で全滅していても可笑しくなかったさ」

王子「……仰る通りで」


兵「見張りより、魔王軍が一部軍勢を引き連れて山を登り、側壁から進行を始めているとのこと!」


女商人「んふふ」

王子「……あなたの仰る通り、側方からの進軍もありましたか」


女商人「魔物は阿呆だ。ならば、こっちもその阿呆どもが考えることを想像できる阿呆にならなくちゃいけない」

女商人「そうやって考えたら、戦術なんて簡単に思い浮かぶさ」


王子「ええ」

女商人「さあ! もっともっと倒すぞ! 初日でどれだけ減らすことができるかで、明日を生き残れるかどうか決まるんだからな」


王子「そうですね」


王子「兵よ」

兵「はっ!」


王子「火の壁が消えるまでの間に、翼獣どもの勢いを抑えろと伝令してください」


兵「御意!」



女商人「次の策を施行するよ」

王子「わかっています。頼みましたよ、水の兵たち」





—— 山 ——


水の兵「やっと俺たちの出番か」

水の兵「連日、山に水を流し続けた甲斐があるってものだね」


水の兵「では手はずどおりに」




水の兵「火薬を爆破させよう」






ドゴォォォオオン!





魔物「ギャギャギャ!?」

魔物「グオオオオオ!!」
魔物「グアーーーっ!」


—— 城壁 ——


少女「きゃあ! な、なになに!?」


雷女「両側の山が、土砂崩れを起こしてる!」

水女「なんで!?」


学院長「ほっほっほ。やはり横からも魔物たちが押し寄せておったのか」

族長「女商人の慧眼には驚かされるな」


水女「だ、大丈夫なんですか!?」


学院長「もちろんじゃ。あれは軍師の策。山を登り攻めて来る魔物がいるじゃろうから、その対策というわけじゃな」

族長「おそらくあれだけで、山にいた魔物は滅んだだろう」


少女「すごい……」


雷女「めちゃくちゃな……」

水女「でも、水の魔法をずっと使い続けて地盤を柔らかくすれば。だけど、そんな量の魔法なんて……」


学院長「500人の水の兵、100人の教員陣が協力し合い、山に水を流し続けた。それだけじゃなく、大量の火薬を使っているんじゃよ」

族長「加えて魔女の薬物。魔法力上昇で、効果を倍増させながらの作業だったからな」


学院長「もちろん、わしらも貰っておるがの」

族長「秘蔵の薬物の造り方を皆に公開してくれたので、それを元に民たちが精一杯作ってくれたらしい」


水女「……私、何も知らなかった」

雷女「私も」


—— 戦場 ——


女戦士「魔王軍が分断されたから、数ではこっちが有利になった!!」

女戦士「ここで一気に駆逐するぞ!!」


傭兵「うおおおおお!!」








王「俺も出よう」

山岳兵「王さま!?」


王「俺だってそれなりに剣の心得がある」

魔女「へぇ。あんたがねぇ……」


王「まあ見ていろよ。惚れるなよな」

魔女「私にそんな口を聞けるんだ。……見せてもらおうじゃないの、王さまの力」


王「ははは。度肝を抜かすぞ」

魔女「まさか。でも、気をつけてね」








女戦士「はああ!! うりゃあああ!!」

魔物「ギャアアー……っ!」


王「戦果はどうだ! 女戦士!」

女戦士「山岳王!? どうしてここに!?」


王「なぁに。俺もいっちょ戦おうと思ってな」

女戦士「むちゃくちゃな! 指揮官が倒れたらどうするんだ!」


王「倒れるかよ」


魔物「グオオオオオ!!」
魔物「グオオオオオ!!」
魔物「フシュルルルル!!」


女戦士「そっちに三体いったぞ!」


王「わーってるよ」

王「はあああ!! はっ! やあ!!」


魔物「グギャアア!
魔物「ギャアー……っ」
魔物「グオオオオ……っ!」


女戦士「まさか、三体同時に倒すなんて……」

王「鍛えているからな!」


女戦士「そんな問題か!?」

王「……ところでよ、あいつはなんだ」


女戦士「あいつ?」

王「ほら、そこで馬型の魔獣にまたがってこっちを見てくる、あの魔物だ」


女戦士「ただのオークだと思うけど……」

王「……違うな。あれは、この魔王軍の先陣部隊の隊長格じゃないのか?」


女戦士「どうしてそう思う」

王「ただのオークにしては、装備が全然周りと異なる」


オーク「……」


王「なんだ、魔物よ!」

オーク「……俺は、この大隊の隊長だ」


女戦士「なっ!」


オーク「今回の戦い、まるで俺たちの作戦が全て読まれていたようだった」

オーク「圧倒的な数の暴力から逃げ出したかと思えば、小さな落とし穴を用意している」


オーク「俺たちは小さな傷ならば気になどしない。だが、まさか毒薬を塗った杭だったとはな」


王「魔物のくせにえらく流暢な喋り方をするんだな」

オーク「……俺たちは、このままじゃ魔王さまに顔向けできん。お前は、おそらく指揮官だな」


王「よくわかった。俺こそ、指揮官だ」

オーク「せめてお前の首だけは持ち帰ろう」


女戦士「……」

オーク「なんだ女。邪魔だ」


女戦士「私は兵士隊隊長! 指揮官を守る役目がある!」

オーク「……お前の戦いぶりは遠くから見させてもらったが、なるほど。通りで強いわけだ」


女戦士「私が相手になろう」

オーク「ふむ。相手にとって不足なし!」


王「大丈夫か」

女戦士「はっ! 私を誰だと思ってるんだい!」


オーク「ならば、行くぞ!!」

女戦士「こい!!」



オーク「グオオオオオ!!」

女戦士「はあああああ!!」


オーク「はぁ!」

魔獣「ブルルル!!」


女戦士「ちぃっ! その魔獣が邪魔だ!!」


オーク「フハハハ! 俺の自慢のペットだ!!」

女戦士「なにをおおおお!!」





王「女戦士!」


傭兵「うわあああ!!」

魔物「ギャオオオス!」


兵「どうしますか指揮官!! 分断されたとはいえ、魔物の勢力は弱まっていませんっ」


王「くっ! 第5部隊、第3部隊に合流して援護だ! 左翼が薄くなっているぞ! 中央は捨て置いて、左翼への支援!!」

山岳兵「はっ!」


女戦士「そこおお!!」

オーク「ハハハ、甘いぞ!! 俺の斧の餌食となりやがれ!!」


女戦士「はっ! 寝言は寝て言え!!」


オーク「なに!? 俺の斧を受け止めただと!?」

女戦士「これでも馬鹿力だけはあるんでね!!」


オーク「……人間の女、本当にそれだけか?」

女戦士「さと、頼れる仲間からの贈り物の効果もあるかな」


オーク「筋力上昇か!! だが、その程度で俺の斧を受け止めきれると思うな!!」

魔獣「ブルルル!」


女戦士「ぐっ、ぬぅ!!」

オーク「どうした! ほらほらほら!!」


女戦士「こんのぉぉぉおおおお!!」

オーク「やはり人間ごとき、魔物とは比べ物にならんな!!」


女戦士「な、っめんじゃない!!」

オーク「むっ?」





王「このままではっ!……くっ、次、第7部隊は中央へ! 次いで第14部隊は解散して、うち5人は左翼、うち4人は第1部隊へ合流!」

王「右翼の魔物勢力は大きく弱まった! 右翼から左翼、中央へいくつか兵を!」

魔物「ガオオオオオ!!」


王「なに!?」


祭り兵「指揮官殿!! うわああああ!!」

王「祭り兵!?」


傭兵「大丈夫ですか王さまーーーー!! こいつめえええ!!」

魔物「ギャアアっ!」


王「俺よりも、祭り兵の!?」

祭り兵「…………」


王「死んでいるか。……ありがとう、助かったよ」


山岳兵「くっそおおお!! 行くぞーーーー!!」

王「火の壁が消えるまでが勝負だ!! 絶対に倒しぬくぞ!!」


兵たち「おおおおお!!」


王「はあ!! やあ!!」

魔物「ギャアアアアっ!!」





女戦士「私だって、闘士だあああ!!!! こんなところで、負けていられるかあああ!!」

オーク「ヌオオオ!? な、なんだと!? 俺の斧を押し返した!?」


女戦士「あいつらだって頑張ってるのに、私だけこんな所で足踏みしてられない!!」

オーク「小癪だぞ人間風情がああ!!」


女戦士「やああ!!」

== 女戦士は魔獣をこうげきした ==


魔獣「ブルルルルっ!!」

オーク「魔獣!? なっ、しまった! バランスが……っ」


女戦士「そこだああああ!!」

オーク「なっ!? ギャアアアアアアア!!!!」


女戦士「ハァハァ……。大隊長オーク、討ち取ったーーーー!!!!」



魔物「グオオオ!?」
魔物「グルルル?」

魔物「オオオオオオ!」





王「よし! 今だ! 中央、左翼に集まった魔物どもを一掃しろ!!」

兵「おおおおおお!!」







—— 本陣 ——


王子「陸地はこれで勝利でしょうか」

女商人「十中八九間違いない。後は空だね」


王子「……そろそろ、学院長が出ます」

女商人「あの老人は、化物級の力を持つからなぁ」


王子「ですが、おそらく……」

女商人「そうだね。学院長は間違いなく、自分の命を燃やしている。流石は火炎魔法最強の使い手ってことかな。自分の命の火まで燃やすなんて」


王子「…………」


—— 城壁 ——


学院長「わしもそろそろ出る頃合かのぉ」

族長「もう平気なのか」


学院長「もちろんじゃよ。超級魔法はかなり精神力を使うが、わしともなればへっちゃらじゃい」


族長「ふふ、若者ばかりに任せてはおられんからな」

学院長「そういうことじゃ」


学院長「グリフォン!」

グリフォン「キャシャーー!」


水女「お、おっきい……」

雷女「こんな翼獣を従えるなんて、学院長ってやっぱり凄いかも」


学院長「こやつは、わしが学生の頃からの付き合いでのぉ!」

グリフォン「……」


学院長「では、腰を下ろしてくれグリフォン。久しぶりに、共に戦うぞ」

グリフォン「ギャオオオオン!!」


少女「すごお」

水女「学院長って何者なのよ……」


学院長「ほっほっほ。2代前の勇者一行に加わっておった頃が懐かしいわい」

雷女「え!? そうだったの!?」


学院長「さてと、無駄話しもこれくらいにして。では、行くぞ!」

グリフォン「ギャオオオ!!」




族長「さあ、我らも空から陸地へ矢の雨を降らすぞ!」

族長「あの空の防衛線を乗り越えてこちらに来る魔物には、火矢を食らわせろ! 松明の準備は万全か!」


エルフ「おおおおおお!!」

少女「わああああ!!」



水女「私たち、もしかしてすることない?」

雷女「……でも、ここからどっか行ける?」


水女「無理。戦えないくせに、って思われても仕方ないけど。安全な所で終わるのを待ちたくない」

雷女「だよねー!」








教師「学院長!!」

学院長「わしも参戦じゃ! こやつらを打ち滅ぼすぞ!」


教師「はい! 行くぞ我ら教員陣!」

教員陣「了解!! やああああ!!」


学院長「ゴホゴホっ」

教師「学院長?」


学院長「なぁに。少しむせただけじゃい」

教師「それならば良いのですが」


学院長「わしなどの心配をするよりも、目の前の敵に集中じゃよ」

教師「了解です!」



学院長「さあ!! わしの奥義、火の鳥を見せてやろうではないか!」

グリフォン「ギャオオオ!!」


学院長「灼熱魔法!!」

グリフォン「シャーーーー!!」



教師「あれが、学院長の奥義。自らに火をまとい、またグリフォン自身の灼熱魔法をまとうことで、火の鳥と化す……」



学院長「やああああ!!」

グリフォン「ギャオオオオ!!」






族長「凄まじいが。あれは……命を燃やしているのか……」

少女「ぞくちょー……」


族長「あの二人、人間の小娘には言うな。おそらくそれは、学院長の望みだろう」

少女「うん」


—— 門前 ——


技師「俺らの出番が無いことを祈るんだけどねェ」

金髪「そりゃ無理っしょ」


技師「兵たちが逃した魔物のお掃除なんて嫌な仕事だと思わんか?」

金髪「傷付いた魔物ばっかだし、いーんじゃねえの?」


技師「そうかそうか」


魔物「ギャア!」
魔物「グオオオ!」


技師「おいおい。健気にも血を流しながらこっちに走ってくるぞ」

金髪「一発で終わらせてやるのが、情けってもんでしょ」


技師「そうだねぇ……」

金髪「ほら、撃たないと」


パァンッ!! ガシュ
パァンッ!! ガシュ

ブシューー
ブシューー


技師「お陀仏さん」


魔物「ギャア……」
魔物「グアアア……」


金髪「さてと、じゃあ俺はこれを使うか。っと、重いなこれ」


技師「そりゃあ役立たずじゃねえか」

金髪「なんだっけこれ?」


技師「名前なんて覚えてねぇよ。しっかし、昔はよくジャムったと言われてるやつだな」

金髪「ふーん。美味しそうだな」


技師「意味が全然違うんだが……。まあいいか。薬莢がないから、ジャムることなんてねぇしよ」

金髪「まあなんでもいいや。さてと、撃ってみますか」


パァンッ!!
ブシュ

魔物「ギャアア!!」



金髪「えっと、次はこのレバーを引くんだっけ? めんどっちいなぁ」

技師「仕方ないだろ。それはそういう武器なんだから」


金髪「まぁ、従来の一発ずつしか撃てない鉄砲と比べると、まだマシか」

技師「近距離射撃なら、5発装填のリボルバータイプが隣の大陸で開発中らしいが」


金髪「はいはい! あんたのその銃器教室はいっつも長いんだから止めてくれ」

技師「むぅ、そうかい」


魔物「グププププ!」
魔物「ゴルルル!」
魔物「シャアー!」
魔物「ギョオオオ!!」
魔物「オオオオ!」


金髪「ちょ、ちょっと待て! なんか一気に現れたぞ!」

技師「落ち着きなさいな」


金髪「ったくよぉ! 兵たちは何をしてんだか……」

技師「んじゃ、次はこいつの出番だな」


金髪「これもあそこで拾った奴だっけ?」

技師「そうだ。古代文明の魔銃の一つ、機関銃だ」


金髪「拠点の工房で弾を作るだけで、数週間掛かったあれだよな」

技師「こういうときにこそ使わないとな」


金髪「まあしゃーないか。いっちょやりますかね」

技師「ああ! ぶっ放せ」



パラララララ


魔物「」
魔物「」
魔物「」
魔物「」
魔物「」



金髪「おおおお! あれだけいた魔物の群れが一気に逝きやがった!」

技師「さすがは古代文明の機器!」


金髪「ちょーっとだけ、あんたが古代文明にロマンを感じている理由がわかったぜ」

技師「そうかそうか! ならば、この戦争が終わったら」


金髪「遠慮します」

技師「そうか……」


—— 本陣 ——


女商人「あいつらもよくやってくれている」

王子「あなたの仲間も強いのですね」


女商人「そりゃあ、命懸けで手に入れた武器だからね」

王子「なるほど」


女商人「そんなことよりも今は戦況だ」


王子「そうですね。どうなっていますか」

兵「はっ! 分断させた魔王軍は、その殆どを殲滅とのこと! 空の戦いも、学院長殿の活躍にて勝利!」


女商人「さて、今日の戦いはこれくらいで終わるだろう」

王子「そうなのですか」


女商人「見てみて。魔王軍が後退を始めているでしょ? 一度立て直しをするつもりだよ」

王子「どうして分かったのですか」


女商人「もうすぐ日が落ちる。暗やみの中を進軍する気になれないだろ、こんな戦況じゃさ」

王子「確かに。敵にすれば、何が待ち構えているのか分からない今の状況の中、無理に進軍するのは得策ではない」


女商人「今日は守りきれたってことさ」

王子「……感謝します。ありがとうございますね」


女商人「んふふ。でも、本当の勝負は明日だ」

王子「はい」


——
——

—— 夜 本陣 ——


女商人「今日はご苦労だった」

王子「あなた方のおかげで、最低限の犠牲者ですみました」


女戦士「兵士隊、およそ1500人の負傷だ。でも、敵は最初に3万いたんだから、少ないといえば少ないのかな」


学院長「流石のわしも、少し疲れたのぉ」

族長「大丈夫か」


学院長「ほっほっほ」

女戦士「あんたの戦い、地上からも見えたよ。すごかった」


学院長「ありがとうのぉ」


王子「して、明日からの作戦なのですが……」

女戦士「わかってる」


王子「申し訳ありません」

女戦士「王子が気にすることじゃないよ」


山岳王「そうだ」

王子「山岳王……」


女戦士「地獄の中でも、絶対に諦めない」


女商人「怖くはない?」

女戦士「まさか」


王子「どうか、生き残ってください」


女戦士「任せろ。でも、仮に死んだとしてもそれは名誉ある死だ」

女戦士「私ら残った7000人のうち、5000人で城壁の前に陣を取り、門を守り抜く」


女戦士「万であろうと、億であろうと、私らは負けない。屈さない!」


女商人「私を恨むかな」

女戦士「そんなことはしないね。戦場での死は名誉ある死。結局のところ、兵たちは誰かを守るために死ににいくようなもんだよ」


女商人「私としては死んで欲しくないんだけどね」

女戦士「だから言ってるでしょ。死なないって」


族長「頼もしいな」

学院長「若いとは素晴らしいのぉ」


女戦士「へへ!」

王子「どうか、気をつけて」


女戦士「私らより、空はどうなんだ」

学院長「空の戦線は、決して負けぬよ。心配などいらんわい」


族長「しかり。我らの弓矢は翼獣どもを貫き落とす」

学院長「空からの侵入は絶対にさせぬよ」


王子「さて、明日の編隊なのですが」

女商人「側方の山間は土砂崩れで移動が不可能。だから、水の街の兵は街の中に待機させる」


女商人「遊軍として、その場の状況に合わせて動かさせる」


山岳王「了承した」

学院長「わしらは同じように空からの襲撃に対して備える」


族長「ああ」


女戦士「そして、5000人は戦場で陸地から攻め来る魔物を撃退。残りの2000人の兵は国内で待機」

女商人「その通りだ。あと、国民たちには引き続き薬物の製作および支援を頼みたい」


山岳王「それは滞りなくさせている。だが、物資が少ない」

女商人「可能な限り、戦場に赴く兵たちに回してくれ」


山岳王「言われるまでもない」


女戦士「すまない」

女商人「んふふ、気にするな」


王子「ところで、もし明日魔物が国内に入ってしまったらどうするのですか」

女商人「待機させている水の街の兵、および兵士隊で撃退」


王子「耐え切れるのでしょうか」

女商人「無理だ」


山岳王「なっ!?」


女商人「侵入されたら最後。内側から門を開けられたらなお最悪だ」

山岳王「しかし! 我が国の守りは!」


女商人「一度でも国内に入られたら、それはすなわち守りに穴があったということ。そこを重点的に攻められたら、逃げ道は無い」

女商人「今の兵たちの配置は、そういう穴が絶対にないように作ってある」

女商人「それなのに侵入されるということは、見落としていた場所があるということだよ王さま」


王子「どうにもならないのですか」

女商人「白兵戦のための兵は、ほとんどが城門の外。待機させる兵は、今の守りでも漏れて入ってきた数匹の魔物を倒す程度の役目」


山岳王「……くそ。200年以上守り通したこの城壁が、この国がこんなに容易く滅亡の危機に陥るとは」

族長「仕方あるまい。万を超える敵だ。1日で滅んでいてもおかしくは無い」


山岳王「空前絶後の事例だ。でも、本当にどうして今さらこんな……」

王子「今その話をしても意味がありません。今はどう耐え切るか、それが勝負です」


女商人「王子の言うとーり! そういう討論は、ただの現実逃避にしかならない」

山岳王「くっ……」


女商人「さて、明日は投石器を使用したいのだけど」

山岳王「……それは問題ない。城壁から、地上へと支援攻撃ができるはずだ」


女戦士「頼りにしている」

山岳王「任せろ」


王子「……では皆さん、明日に備えましょう」

山岳王「そうだな」


—— 山岳の国 広場 ——


少女「わあー、星がきれー」


水女「はいはい……。もう、なんで私らが子供のお守りなんて」

雷女「愚痴らないの。何も役に立ってないんだし、これくらいいいでしょ」


水女「あんた本当に性格変わったよねー」

雷女「……うっさい」


少女「わー」

水女「おーい、上ばっかり見て歩いてると危ないよー?」


少女「だいじょー、わっ!」

水女「ちょっ!」


魔女「おっと! 大丈夫?」

少女「あー! まじょー!」


魔女「はぁいー」

少女「はーい?」


水女「なに、知り合い?」

少女「うんー! ぞくちょーに紹介してもらった!」


魔女「ええ。仲良くさせてもらってるわ」

金髪「魔女のあねさん! 好き勝手歩くの止めてくださいよー!」


金髪「ん、そっちのお嬢さんたちは誰だ?」

魔女「東の魔法学院の生徒よね。いっしょに来たときに見かけたわ。私は魔女よ」


水女「私は水女です」

雷女「私は雷女」


金髪「俺は金髪ってんだ。ところで、魔法使いと同じなのか」

雷女「魔法使いのこと知ってるの?」


金髪「そりゃああんな可愛こちゃん、一目見たら忘れないって」

水女「じゃあ私らは?」


金髪「もちろん可愛いぜ?」

魔女「こいつ、嘘を付くときは語尾がぜになるのよね」


金髪「うえ!? そ、それは言いがかりですよ姉さん!」


水女「ふーん」

雷女「へぇ」


金髪「ちょっと!? いや、本当に違うから!」

魔女「あははは!」


金髪「本当に魔女ですね、姉さん……」


魔女「そういえばずっと気になってたんだけど、なんでいっしょに来たの? ただの学生でしょ?」

少女「ねー」


魔女「いや、あんたはもっと何でって感じだからね」

少女「えー!」


雷女「えっと。私たちは、魔法使いの力になりたくてきました」

魔女「へぇ。でも、ただの学生がそんな事でここまで来るものかしら?」


水女「それは……」

雷女「魔法使いを苛めてたの。だから、その罪滅ぼしのつもりでここまで来ました」


水女「雷女!?」

雷女「……」


魔女「そうなんだ。ふーん」


雷女「……」

水女「あ、えっと……」


魔女「んで、あんたに何ができるの?」

雷女「わかりません。でも、この魔道具を使えば……」


魔女「魔道具? それ、地獄のいかずちを召喚するって言われてる……」

雷女「はい。私の家に代々伝わる魔道具です。地獄のいかずちを召喚するもの。一目で分かるなんて、すごい」


金髪「すごくないか!?」

水女「それってそんなものだったの!? じゃあなんで魔法使いに渡さなかったのよ!」


魔女「あなた、まさかそれを使う気じゃ……」

雷女「まさか。これは最後の手段です」


少女「んー?」


魔女「……ま、いいわ。使わないことを祈ってるわね」

雷女「優しいんですね」


魔女「まさか。私の魔法使いを苛めてたなんて、今すぐぶっ飛ばしたいくらいよ」

雷女「……」


魔女「でも、あの正義感の塊みたいな魔法使いはきっと嫌がるだろうし、私は何もしないわ」

金髪「姉さん……」


魔女「ただし! また似たようなことをしたら、次はどうなるか分かってるのかしら」

雷女「そんなことありません」


魔女「ふーん。……まいっか! ちょーっと意地悪だったかしら」

雷女「え」


魔女「そんなぴりぴりしないの! 折角のつり目が台無しよ?」

雷女「そ、それって褒めてるんですか?」


魔女「さ? じゃ、私らはそろそろ行くわねー」

金髪「ちょっと姉さん! そろそろ薬物を作る作業に戻らないと!」


魔女「あんなの、造り方教えたんだし勝手にすればいいのにぃー!」

金髪「そういう訳にもいかないでしょ!」


少女「ばいばーい」

魔女「はいはい。ばいばーい! あなたたちもねー! 夜更かしはお肌の天敵よー!」


雷女「なんだったのかしら……」


水女「あ!」

雷女「な、なに!?」


水女「エルフの族長が言ってた魔女って、さっきの人のことだったんだ!」

雷女「そういえば……。薬を作ってくれたとかなんとか言ってたわね……」


水女「ところで、さっきの魔道具の話だけど」

雷女「えー! その説教モードやめてよー!」


水女「だまらっしゃい!……あれ、少女どこいったんだろ?」







少女「おねえちゃん、おにいちゃん、無事かなぁ」


少女「それにしてもお星様、きれいだなー。あいた!」

銀髪の男性「……」


少女「あ、ごめんなさい」

銀髪の男性「構わない。でも、気をつけるんだ」


少女「ありがと!」

銀髪の男性「……」


顔の隠れた女の子「ねえ」

銀髪の男性「ああすまない。行こうか……。さらばだ」





少女「なんだったんだろー?」

今日はここまでー
近日中に最後まで一気に投稿するよ、ではー

投稿するよー


—— 2日目 本陣 ——


王子「——して、戦況はいかに」

女商人「陸地の戦場はおおよそ予想通り。いや、少し押されている程度かな」


王子「……兵たちは大丈夫でしょうか」


女商人「城壁にたどり着かれたら、その時点で終わり。国に侵入されても同じ」

女商人「それが判っているからこそ、兵たちは決死の思いで戦っているよ」


王子「私はここで何もできないのですね……」

女商人「そうでもないさ。王子がいるから、兵たちは動いてくれる。これは王子にしかできない」


王子「そう言って貰えると助かります」

女商人「もっと自信を持って。私みたいな小娘だって、王子だからこそ真剣に協力しようと思ったんだから」


王子「……わかりました」


女商人「そんなことよりも、空の戦況はどうなっているんだろうね」

王子「先ほど、兵からなんとか戦線を後退させずに済んでいるとのことでした」


王子「しかし、やはり少しの偽性は出ている模様。数匹の翼獣の侵入を許しているようです」

女商人「それは待機させている兵が撃退にあたっているはずだよね」


王子「その通りです。まだ国内に大きな損害は出ていません」

女商人「ならばよし。この国の民、兵が一人でも生き残ればそれが私たちの勝ちだ」


王子「わかっています」


女商人「……さてと、私もそろそろ行くかな」


王子「どこへ?」

女商人「城壁。もうここで情報を待つだけじゃ間に合わないからさ」


王子「ならば私も」

女商人「そうだね。そっちの方が、命令の伝達も上手くいくかもしれない」


兵「本陣はどうされますか」


女商人「本陣は城壁へ移動。そこで、兵たちの戦況、民の状況を集める」

王子「ということなので、お願いします」


兵「はっ!」


女商人「さてと、私の旅団たちも城壁で頑張っているはずだけどな」

王子「そうなのですか?」


女商人「数名は、城壁の上。数名は門の前で待機させているんだ」

王子「なるほど」


女商人「城壁には、狙撃手として技師、金髪の二人を置いているんだが……」

王子「何か問題でも?」


女商人「やはり、仲間というのは大切でさ。少し心配」

王子「あなたの仲間ならば、きっと大丈夫でしょう」


女商人「そうだといいんだけどね」


—— 戦場 ——


王「この戦線を絶対に後退させるな!!」

山岳兵「「おおおおお!!」」



女戦士「やああ!!」

魔物「ギャアア!!」


女戦士「くっ。流石に厳しい……。魔女から貰った薬を……。不味いが、体力と筋力は必要だな」


傭兵「姉御!!」

女戦士「あねさんとか、姉御って呼ぶなといつも言ってるだろうが! あと団長もだ!」


傭兵「へい、すんません! でも、あれ……」

女戦士「なんだ?……な、なんだよあれ」


王「あれは! あの向こうに見える黒い虫みたいな塊が、全部魔物だと言うのか……!?」

女戦士「……ははは。確かに、女商人が門にたどり着かれたら負け、って言ってた意味がよくわかるな……」


祭り兵「なんだよあれ……」
山岳兵「わああっ!」


王「怯むな!! 俺たちが諦めたら、国の民はどうする!!」


傭兵「で、でもよ王さま……」


王「案ずるな!! 俺もいっしょに戦う。お前たちを無駄死になんてさせない!」

王「一人の命が、大勢を救うと思え!!」


女戦士「よくぞ言った! 女の私でさえこうして戦っているんだ!! 腑抜けるな、男ども!!」


祭り兵「そ、そうだよなっ」

山岳兵「お、俺だって、俺だってやるときゃやるんだ!!」


兵たち「「うおおおおおお!!!!」」


王「よし! 行くぞ!!」

女戦士「みんな、付いて来い!! 私が先陣を切ろう!!」





魔物「「「グオオオオオオ!!!!」」」

女戦士「やああああああ!!!!」




王「俺たちも続けーーーー!!」

山岳兵「わあああああ!!」


祭り兵「おおおおおお!!」

傭兵「さっすが姉御!!」




女戦士「うりゃあ!!」

魔物「ギャアーーース!!」


女戦士「まだまだあああ!!」

魔物「グオオオオオ!!」




王「なんという戦いぶりだ! 俺も負けてられんな! お、あれは!!」


—— 城壁 ——

族長「弓矢、放てーーーー!!」


エルフ「しっ!」

シュッ
シュッ


族長「少しでも陸戦を優位に立たせるのだ!! 我らの弓ならば、敵のみを射抜くことも容易い!!」

学院長「ほっほっほ。矢がまるで雨のように降っておるわ」


族長「おや。今日はあの二人組みはいないのか」

学院長「雷女と水女は、中で国民たちの誘導などを手伝ってくれておるよ」


族長「なるほど。自分たちに何ができるのか考えたというわけか」

学院長「あやつらもわしの可愛い生徒じゃ。自分で考えて自分で行動する。当たり前のことなどすぐにできよう」


族長「流石だな」

学院長「ほっほっほ。じゃが、そちらもあの少女がいないではないか」


族長「あの少女は、既に疲労し切っている。だから、街の中に退避させた」

族長「……さて、我らは翼獣の相手をするか」


学院長「わしが出撃できればのぉ……」


族長「人間。お前はまだ回復し切れておらんだろ」

学院長「じゃが、教員陣に全てを任すのも困ったもんじゃよ」


族長「……老体ゆえか」

学院長「悔しいもんじゃわい」


族長「さあ、次の矢を……ん、あれは何だ?」

学院長「……まさか!」




ドラゴン「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」




学院長「あれは、伝説級の魔物じゃ!! ドラゴンじゃ!!」

族長「なんだと!?」


王子「なんということでしょう……」

女商人「あれは流石に想定外だ……っ!」


学院長「なんと!? 何故お主らがここにおるんじゃ!?」


王子「もはや本陣で待っていても仕方ないことなので」

女商人「しかし、こっちに来て正解だったね。あれの対処をするのに、情報を待ってからの行動じゃ間に合わない」




ドラゴン「ギャオオオオオオオオオ!!!!」




女商人「……教員陣、ドラゴン撃退に行動を移せ。そして翼獣どもはエルフ族、および投石器で対応だ」

王子「それでは! かなりの量の魔物を国内への侵入を許してしまいます」


女商人「でも、ドラゴンが近づいてしまえば城壁を壊される!!」


技師「そうだよななァ。ここは、お嬢の言うとおりにしてくれないか」

王子「あなたは確か、技師殿……」


技師「それに、俺たちには武器がある。その武器を使うためにここに待機してたんだからよ」

金髪「そうだぜ!」


王子「確か、魔銃でしたね。ですが、この距離では届かないのでは……」


女商人「学院長。グリフォンを貸してくれ」

学院長「わしのをか? じゃが、グリフォンは誇り高いから、初対面の人間を背になど乗せぬ」


女商人「とりあえず呼んでくれ」

学院長「……うむ。グリフォン!!」


グリフォン「ギャオオオオオン!!」


技師「おお、こんな近くで翼獣を見たのは初めてだ」

金髪「すげぇえ!」


女商人「こいつらは……」

王子「しかし、どうするのですか」


グリフォン「…………」


女商人「王子、グリフォンに頼んでくれ。王子が命令すれば、きっと言うことを聞いてくれるはずだ」

王子「私が?」


女商人「あんたには、何かを従わせる不思議な力がある。カリスマ性がある。私はそれを信じている」

王子「……わかりました」


学院長「グリフォン、こっちじゃ」

グリフォン「…………」


王子「誇り高き翼獣、グリフォンよ。この二人の人間を背に乗せてはくれないだろうか」

グリフォン「…………」


技師「うお!? なんか睨まれたぞ」

金髪「やっぱ無理じゃねえのか」


王子「頼む……」

グリフォン「シャーー!!」


技師「こ、こっちに来るぞっ」

金髪「うおおお!?」


学院長「落ち着くんじゃ」


グリフォン「……」

族長「グリフォンが、あの二人の人間の前で腰を下ろしただと」


学院長「おそらく、乗れと言っているんじゃな」


技師「はは、マジかよ……」

金髪「でも、俺たちにゃ乗りこなせないぞ?」


学院長「お主らが戦う相手は、あのドラゴンなんじゃろ。ならば、グリフォンは戦いやすいように動くまでよ」

グリフォン「ギャオオオ!!」


技師「はっはっは。じゃあ信じるぜ。頼んだよ、相棒」

金髪「大の大人二人が乗っても平気かぁ?」


グリフォン「グフン!」


女商人「粋がいいな! じゃあ頼んだぞ。気をつけて」


技師「お嬢にそんなこと言われるたァ、長生きはするもんだねぇ」

金髪「中年のおっさんが何を言ってるだか」


技師「じゃ、ちょっくらドラゴン退治に行ってくるよ!」

金髪「お土産にドラゴンの肉を持って帰ってきてやるぜ、お嬢!」






族長「……教員たちが皆、ドラゴンへ向かったな」

女商人「こっちには翼獣が一気にやってくる。皆、気を引き締めて」


学院長「わしも戦うぞ。この命、燃え尽きるまでのぉ!」

王子「ありがとうございます」


学院長「なぁに! ほっほっほ!」


女商人「……ちょーっと厄介な事になってるかもね」

王子「女商人、どうしましたか?」


女商人「いま、望遠鏡でずっと向こうを見てたんだけどさ……」

女商人「翼獣どもが、魔物を乗せてこっちに来ている。あいつら、ドラゴンが来たことで、戦い方を変えてきやがった!」


族長「問題などない! 我らが一気に落としてみせる!」

女商人「……1000のエルフで、あの空を覆いつくす翼獣を落としきれるか?」


族長「造作もないこと!」


翼獣「ギャオオオオオ!!」

魔物「グオオオオオ!!」



兵「た、大量の魔物たちが!!」



女商人「うろたえるな!!」

族長「エルフ隊、矢を放てーー!!」


シュシュシュッ
シュシュシュッ


魔物「ギャアアアア!!」
翼獣「ギャオオオオン!!」

翼獣「ガルルルルウウウウオオオ!!」




族長「くっ、やはり全てを射抜くことはできないか!」


王子「投石器、放て!!」

山岳兵「はっ!!」


ガコン、ドォォン
ガコン、ドォォン


翼獣「ギャアアっ!!」
翼獣「キャーキャーキー!!」


王子「なんという……。数が多すぎる!」

女商人「くそっ!」


魔物「ギャアアス!!」

翼獣「キャシャーーー!!」


王子「しまった! 侵入された!!」

女商人「待機させている兵たちに撃退させろ!!」


王子「兵よ!! 伝令だ!!」

兵「ははっ!!」


女商人「間に合えばいいんだけど……」









少女「っ!! まものがくる!!」

雷女「え? それって本当!?」


少女「なんか、そんなかんじがする……。そらとりくから!!」

雷女「空と陸? もしかして、侵入された!?」


水女「嘘でしょ……」


少女「しょうじょ、まものにさらわれた事あるからわかる! このかんじ、まもの!!」


国民「嘘でしょ!?」


山岳兵「嘘を言うな嘘を!」

少女「ほ、ほんとうだもん!」


雷女「私の友達が嘘を言ってると思ってるのかなぁー」

バチバチバチ


山岳兵「お、脅しているのか!?」


水女「へぇー。うちらにそんな態度取るんだー?」

バシャバシャ


山岳兵「うっ……」

雷女「いいから言う事を聞けよ!! ああん!?」ビリビリビリ!!


水女「うおー。久しぶりにあんたのそういうの見たわ……」


山岳兵「わ、わかったから! しかし、じゃあどうすればいい!?」

国民「魔物が来るの!? ねぇ、どうなのよ!!」


少女「……あっちからくる! だいじょーぶなのは、おしろのほうこう!」


山岳兵「わかった! とにかく国民たちよ、城へ避難するんだ!」

国民「わ、わかったわ!」


水の街の兵「あのエルフの少女が言っていることは本当なんだろうね?」


少女「ほんとうだもん!」

水女「らしいよ!」


魔女「ま、そのエルフの少女が言ってることを信じましょう」


少女「まじょー!」

魔女「ふふふ。あの族長が目にかけているんだから、実はすごい子かもしれないわよ」


水の兵「なるほど……。では、今は君の言うとおりにしよう」






魔物「ギャアア!!」

翼獣「キシャーーーー!!」






山岳兵「な!? 本当に来ただと!? 戦線はどうなっている!」

魔女「今はそんなことよりも国民の避難でしょ! さっさとする!!」


山岳兵「そ、そうだった! とにかく国民はこっちへ!」

国民「きゃああ!!」


魔女「叫び声なら、魔物に負けてないんじゃない?」

雷女「そんな悠長なことを言ってる場合じゃないでしょ!」


魔女「あら、いたの?」

雷女「こ、こんのっ!」


—— 本陣 ——


王子「国民の状況は!」

兵「それが、上手く避難ができているみたいです!」


王子「それは本当ですか!」

兵「はっ! エルフの少女が、真っ先に魔物の侵入に気付き、避難通路を誘導してくれたようです」


族長「なるほど……。あやつ、気配を察知する能力が高いのか」

学院長「それはすごいのぉ」


族長「エルフ族はそういう能力が長けているのだ」

族長「しかし、一度魔物にさらわれたらしいから、より一層力に目覚めていたのかもしれん……」


女商人「それは得策だ。さて、私たちは……」

王子「ええ。空の防衛と、陸への支援です」


族長「……どこまで戦えるか」

女商人「もちろん、最後の一兵まで」


族長「……ふふふ、そうだったな人間!」


王子「ドラゴンの状況はどうですか」

女商人「望遠鏡で見てみたけど、なんとか戦えている感じかな。教員陣はかなり墜ちたみたいだけど……」


学院長「……そうじゃな。わしも、視力上昇の魔法で見ておったよ」

族長「仲間が墜ちるのは悲しい。だが、我らがすべきことはただ一つだ」


学院長「左様。なんとしても、勇者たちが魔王を倒すまでここを守りぬくことよ!」


—— 空の戦線 ——


ドラゴン「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」



技師「そんなに叫ばんでもいいだろうに!」

金髪「愚痴ってないで撃て撃て!!」


技師「弾がもうほとんど無いんだよ!」

金髪「じゃあ俺の雷魔法でも食らわせてやるよ!」


教師「大丈夫ですか!?」


技師「おお、あんたか! 隊列を組んで魔法の一斉射撃ってのは無理なのか!?」


教師「残念ですが、それをするとただの的です!」

金髪「世知辛いなぁ」



ドラゴン「ギャオオオオオス!!!! グロオオオオ!!!!」



技師「火を吐いてくるぞ!! 避けるんだグリフォン!」

グリフォン「キャシャーーー!!」


教師「くっ!」

金髪「逃げろ、教師さん!!」


教師「もはや、ここまでか……」

== 教師は火につつまれた ==


金髪「教師さん!? くっそがああああ!!」

技師「落ち着け!! とにかく、撃て!!」


パァンッ!!

パァンッ!!

パァンッ!!


金髪「んだよあの鱗!!」

技師「大丈夫だ! 少しずつ傷を負わせているはずだから!」



教員陣「うおおおおお!!」



ドラゴン「ガオオオオオ!! グルラアアアアアア!!」



金髪「けど、見た目はぴんぴんしてやがる……」

技師「どうしたもんか……」


金髪「くっ、墜ちていった教師さんも気になるけど」

技師「このクソったれをどうするか考えねぇとなあ!!」



ドラゴン「ギャオオオオオス!!」



金髪「くそが!!」

グリフォン「ギャオオオオ!!」


—— 戦場 ——


女戦士「やああああ!!」

魔物「ギャアアアアっ!!」


王「出すぎだ!! 自重しろ!!」


女戦士「はっ!! 戦場で死ねるならば、本望だよ!!」

王「馬鹿か!! 周りを見ろ!!」


女戦士「わかってるよ。すっかり囲まれてしまったなぁ」

王「待っていろ! すぐに助けに行く!!」


女戦士「大丈夫だ。指揮官殿は兵たちを動かせ。私一人程度に気を払うな」

王「ぬかすな小娘!!」


女戦士「もう立派な大人だっつーの!」

王「しかし!!」




魔物「フルルルル」
魔物「ガルルル!!」

女戦士「それに、こんな状況で王さまにこられても困るって感じさ」

魔物「ワオオオオン!!」
魔物「フシュルルルル!!」




王「女戦士!!」


女戦士「王さま」

王「なんだ!」


女戦士「私が死んでも、あんたは生き残ってくれよな」

王「馬鹿なことを言うんじゃない!! 兵たち、女戦士を助けに行け!!」


山岳兵「言われなくてもわかっています!!」

祭り兵「俺たちだって! だけど、魔物が!」


傭兵「姉御ーーーー!! どけぇ、どきやがれ魔物めぇ!!」


王「くっ、ならば俺が!!」


女戦士「ダメだって!! って、くそ、こういうときは空気読んで攻撃してくるなっての!」

魔物「ガオオオオ!!」


女戦士「やぁっ!! はあああ!!」

魔物「ギャアアっ!」

魔物「グラアアアア!!」


女戦士「うおおおお!!」

魔物「シャアアア!!」


女戦士「っつぅ!! くっんなくそぉおお!!」


王「持ちこたえろ!! すぐに行くからな! 邪魔だ、どけええ!!」

魔物「ギャアアア!!」


山岳兵「第12部隊、壊滅しました!」


王「ちっ! 第4部隊を再編成! 第15から第20部隊を解散させ、少人数編成で部隊数を増やせ!!」

山岳兵「はっ!!」



女戦士「ほら、王さまには王さまの仕事があるだろう!!……やああ!!」

魔物「ギュロロロロ!!」



王「だけど!!」

女戦士「……ここまでかな。……ばいばい王さま。あんた、王族だったけど、割と気に入ってたよ」


王「女戦士!!」





魔物「ギャオオオオス!!」

魔物「グロロロロロ!!」

魔物「フシャアアア!」

魔物「ギャオオオン!!」

魔物「ブルルルル!!!!」


女戦士「儚い命だねぇ。でも、最後にこんな大役と大舞台を揃えてもらったんだ。最後まで戦い抜いて、死のう」



王「女戦士ーーーー!!」

休憩ー

再開ー


—— 山岳の国 ——


山岳兵「国民のほとんどは城内へ避難できたぞ!」

兵長「しかし、我らは孤立してしまった……。どうすればいい……」


水の兵「城の外や、街には魔物たちがうようよ居る」


少女「ふええ……」


水女「どうにかならないの!?」

水の兵「そう言うが……。俺たちは水が無ければ何もできない役立たずなんだ……」


水女「水? 水さえあればどうにかなるの!?」


水の兵「水流の力で、魔物たちを一つの場所に固めることくらいなら、もしかすると」

水女「わかった。じゃあ水を造りましょう」


雷女「あんた、何を言ってるの」

水の兵「そうだ。一人の魔術師が作れる水の量なんて、たかが知れている」


水女「この魔道具を使って。魔力を込めた分だけ、普通の水魔法よりも多く水を発生させることができる魔道具なの」

水の兵「これは……。湧き水の魔道具」


水女「それも私の家の純粋性よ? 私の家、水魔法の家系で有名な貴族なの」

水の兵「もしや! 水魔法の貴族!?」


水女「ええ。だからさ、その魔道具使って」

雷女「腐っても私らは貴族だもんね」


水女「そこ少し余計なこと言いすぎ!」


水の兵「では、この魔道具を使わせてもらいますね」

水女「お願い!」


水の兵「しかし……」

水女「どうしたの」


水の兵「魔物を一箇所に集めたとして、次にどうするか……」

水女「倒すことはできないの?」


水の兵「なにせ、水魔法はただの水流だからな」

雷女「じゃあ私に任せて。とっておきの雷の魔道具があるから」


水女「雷女! そう言えば、地獄のいかずちを召喚する魔道具があったんだよね!」

水の兵「そうなのか!?」


雷女「うん」


水の兵「……よし、ならばそれで一時とは言えど、状況はマシになるはずだ」

水女「じゃあ、ちゃちゃっとやっちゃいましょう!」


雷女「……そだね。魔物たちを、国の中央に集めて! そこまでなら、きっと隠れて行けるはず!」

少女「じゃあしょうじょもてつだう! しょうじょなら、ぜったいにみつからない!」


雷女「お願いするね、少女」

少女「うん!」


水の兵「……では、いざ!」

水女「私も手伝う!!」




魔女「……そう。その魔道具を使うのね」


—— 本陣 ——


兵「国内に侵入した魔物はおよそ5500!! なおも増加中!!」

王子「どうにかなりませんか!」


兵「現在、国民のほとんどは城内に避難。城門を守るように兵たちが戦っていますが……」


女商人「ちょっと! あれはなに!?」



ザザーン!!



王子「城下町が、水で満たされているなんて……」

族長「あれが人間の魔法なのか。そうなると、なんと凄いことか……」


学院長「おそらく水の街の兵たちが、あの水流を操っておるんじゃな。魔物を中央に集めておるわ」


兵「こんなもの、報告の中には……」

王子「魔物たちが流されていきますね。……しかし、一体どこへ向かって」


翼獣「ギャアアアス!!」

族長「はぁっ!!」


シュッ!


翼獣「ギャアアーー!!」

族長「これ以上、侵入を許してなるものか!」


女商人「冷静に分析する暇もないなぁ!」


—— 国内 ——


少女「つぎはこっち」

雷女「ありがと」


少女「ちょっと待って……」



魔物「グルルル」

魔物「ガルルル」



少女「……次はこっちだよ」

雷女「あなたって本当にすごいんだね」


少女「えっへん!」

雷女「将来有望だわ……。才能って奴からしらね。私にもそういうの一つでも欲しかったなー」


少女「でも、お姉ちゃんの雷魔法、つよいよ?」

雷女「それでも大人には負けるし、教員たちには歯も立たない」


少女「だけど、手をつないでるからわかう。お姉ちゃん、すっごい素質をもってると思う」

雷女「そんなに?」


少女「うん! 大人になったら、きっと誰よりもつおい雷魔法をつかえるとおもう!」

雷女「あはは、そりゃあ楽しみね」


少女「あ、すとっぷ!」

雷女「ん」


魔物「グロロロロ!!」

魔物「ギャアアアア!!」

ザザーン!!



少女「わあ! まものがながされてる……」


雷女「水の街の兵って、すごいんだね。数百人もいるのに、全員で一つの魔法を使うなんて」

少女「そだね。にんげんって、そういう力をあわせるのがすごい」


雷女「身体能力が人間の全てを超えるエルフに言われてもねー」

少女「え、えっと! えっと!」


雷女「なんてね。私、実はすっごくいじわるな性格なの」

少女「あわわわわ」


雷女「……ま、それも反省したんだけどね? 自分より優れている人間がいるからって、劣っている部分を頑張って探しても仕方なかったなぁ」

少女「……?」


雷女「ただの愚痴よ。少女もね、自分よりよくできた奴がいても、嫉妬しないで仲良くしなさい」

雷女「そんでね、いっしょに成長するの。……っつっても、私の場合は勉強とか技術で負けてたから、どうにかして見下そうと必死だったわけ」


少女「よくわかんないけど、わかった!」

雷女「ははは」




雷女「……さてと、ここまででいいよ」

少女「そなの?」


雷女「うん。これから使う魔法は、すごく危険だからさ、逃げててね」

少女「わかった!」


魔物「ギャオオオン!」

魔物「グロロロロ!」

魔物「ガオオオ!!!!」



雷女「……怖い。すっごく怖い」


雷女「一度だけ、魔物に捕まったことがあったけど……。そのときより、怖い」


雷女「手を伸ばしたら、すぐそこに魔物がいるなんて」


雷女「……逃げたいな」


雷女「でも、私が出来損ないって呼び続けたあいつは、ずっとこんなのと戦い続けてたんだ」


雷女「……すごいな」






雷女「じゃあ、いくよ。魔道具、いかずち!!」



ピカッ!

ドゴォオオオオオオオオン!!



雷女(さようなら、みんな……)



魔物「————っ!!!!」
魔物「————っ!!!!」
魔物「————っ!!!!」


—— 城壁 ——

ピカッ!

ドゴォオオオオオオオオン!!





女商人「次はなに!?」


王子「国内中央に、大きな雷が落ちました……」

族長「なんと大きな雷だろうか」


学院長「あれは魔道具いかずちじゃなかろうか!!」


女商人「何よそれ!!」


学院長「それはの、使用者の命と引き換えにして、地獄からいかずちを召喚すると言われるものじゃ」

学院長「わしも若い頃に一度だけ見たことがある。そのときは、雷魔法を得意とする貴族が使っておったはずじゃが……。どうしてここに」


族長「雷魔法、貴族……」


学院長「もしや……もしや!! 雷女、お主なのか……?」

王子「確か、あなたの生徒では……」


女商人「でも、これで国内に侵襲した殆どの魔物を一掃することができたはずよね!」

王子「おそらく……」


学院長「……」

族長「……我ら老人ばかりが生き残っても仕方ないというのにな」


学院長「わしも、最後の炎を燃やすかのぉ」

族長「人間、何を考えている」


王子「学院長殿?」

女商人「今さら何をしようと……」


学院長「————」


族長「止めるんだ。それ以上精神力と体力を使ったら、取り返しの付かない事になるぞ」

王子「お止め下さい! これ以上の偽性は!」


女商人「……」

王子「あなたも何か言ってください!」


女商人「もし、学院長がもう一度だけでも超級広範囲魔法を使えば、空の翼獣どもはかなりの数を殲滅できるはず」

女商人「私の使命は、生き残りを一人でも多く増やすことだし……だって、そんなの!」


王子「女商人?」

女商人「はっ!……ハァハァ、ふぅ。っと、クールに。親父の言いつけどおりにしないとね。ごめん、ちょっと弱音吐きそうになった」


族長「仕方あるまいよ。お前とて、まだ少女なのだから」

女商人「ごめん。やっぱまだまだガキんちょね」


王子「……いえ、よくやってくれています。ですが、学院長殿は……」


女商人「仕方ないよ。翼獣を殲滅できればまた時間を稼ぐことができるはずだからね」

族長「時間稼ぎで精一杯という訳ですか……」


王子「……勇者殿たちを信じたいのですが、私は」

女商人「それ以上言っちゃいけない。信じるしかないよ」




学院長「——はぁ、超級広範囲灼熱火炎魔法!!」




族長「魔法の二重掛けだと!?」

王子「学院長殿!! それはいけません!!」



学院長「はあああああ!!!!」


女商人「……人類最強の火炎魔法の使い手」





翼獣「グオオオオっ!!」

魔物「————っ!!!!」
魔物「————っ!!!!」





学院長「……これで、よい。……——」

族長「人間!!」


王子「無事ですか!!」


学院長「……」

女商人「しっかりして!」


王子「どうか……」


学院長「……ほっほっほ、生き残ってしまったわい」

女商人「学院長! よかった……っ」


王子「……学院長、あなたの最後の炎、無駄にはさせません!」


族長「エルフよ!! 矢を放て!! 死んでも放て!!」

王子「投石器を使え!! 翼獣を一歩たりとも国内に侵入させるなああああ!!」


兵「うおおおおおおおおおお!!」










ドラゴン「ギャオオオオオオオオオオオオオ!!」


技師「あっちはなんか盛り上がってるなあ!!」

金髪「でっけえ水と雷と火かよ!! こっちは風ん中死に物狂いで戦ってるってのにさあ!!」


教員陣「うわあああああ!!」
教員陣「くそおおおおお!!」


ドラゴン「グオオオオオオオオ!!!!」


技師「くっそ、また教員たちが墜ちやがったっ。クソッたれが、これでも喰らいやがれ!!」

金髪「こっちもだ!!」

グリフォン「ギャオオオン!」



パァンッ!!
パァンッ!!


—— 戦場 ——

ザシュ!!


女戦士「……王さま、あんた」




王「一兵の命すらも大切にする、それが俺だ。見たか! 俺の剣技を!!」

魔物「ギャアアアアアア……」



女戦士「でも、いっしょに囲まれてちゃ意味ないよね」

王「はっはっは! 言うな言うな!」


女戦士「笑ってる場合でもないんだけどさ!!」

王「背中は任せたぞ!!」


女戦士「兵たちの指揮はどうするのさ!」

王「もうほとんどいない! あとは俺たちだけみたいなもんだ!」


女戦士「……そっか。でも、最後にかっこいい王さまといっしょに戦えて幸せだったよ!」

王「これが最後ではない!! 勝利の祝杯を交わすまでは死なん!」



魔物「グルルルル」
魔物「ガオオオオオオ」
魔物「フシュルフシュル」

魔物「キシャアアア」



女戦士「じゃあ、行くか」

王「おうよ!!」


—— 本陣 ——




女商人「どうする。どうすれば……陸地はほとんどが死に兵だ。どう考えてもあと数時間は待たない」

女商人「じゃあ退かせるか? いや、門は硬く閉ざしているから、退くことも増援も不可能」


女商人「ならばここからエルフたちに陸地への弓矢攻撃を集中させるか」


女商人「そんなことをしては、翼獣たちの侵入を容易く許してしまう……」

女商人「でも、翼獣のほとんどが殲滅できた今、一部兵力を陸地に集中させても平気か?」



王子「大丈夫ですか」

女商人「今考えてる! 大丈夫だ、私にかかればこんな戦……」


王子「あなたはまだ子供だ。少しは大人を頼ってください」

女商人「……」


兵「報告します!! 我が人間の領土から、赤いドラゴンが飛んできたとのこと!!」


女商人「なんだと!? ここにきて、新たな増援だと……っ」

王子「流石にこれは……」


族長「絶望的だな」







赤いドラゴン「————!!」






女商人「あれが……。はは、なんて大きさだ。技師たちが戦っているのよりも、遥かに大きい……」

学院長「……もう、わしには魔法を放つ力すらないというのに」


—— 空の戦場 ——


技師「なんだぁありゃあ!!」

金髪「もう一匹ドラゴンかよ!!」




火竜「わしの名は火竜! 貴公らの使うその武器を貰い受けに来た!!」

ドラゴン「ガオオオオ!!」


火竜「なんだ、うるさいの。あやつの分身のくせに生意気な、消え去れ」

== 火竜は火を吹いた ==


ドラゴン「ギャアっ!!……——」

== ドラゴンはたおれた ==



技師「お、おいおい嘘だろ……」

金髪「どうしろって言うんだよ……!」

グリフォン「っ!! ギャオオオオ!!」


技師「うおおお!? どうしたグリフォン!?」

金髪「落ち着けって!!」


火竜「逃げるのか。待て、何も命を奪おうなどとは!」


技師「俺に言うな、こいつに言えってんだ!」

火竜「そうか? おい待て、そこのグリフォン」


グリフォン「ギャオオオン!!」


—— 本陣 ——


火竜「して、この武器を扱う頭領が貴公というわけか」

女商人「ははは……。なんだこれ、なんで連れて来た」


技師「そ、そうは言ってもよォお嬢。こいつが勝手に……」

金髪「って、学院長どうしたんだよ!!」


グリフォン「…………」ペロペロ

学院長「……大丈夫じゃよ」


族長「最後の火炎魔法を放って、精神力が尽きた。なんとか命だけは助かったが」


技師「ああ、それでグリフォンが……。なるほど」

金髪「おかげで、新しいドラゴンを連れてきちゃったっす」


女商人「きちゃったっす、じゃない!! あのドラゴンはどうしたのよ!」


火竜「あれか? 焼き尽くしたが」

女商人「うそ!?」


火竜「あんな弱い魔王の分身、わしの相手ではない」

女商人「あのドラゴン、魔王の分身だったんだ……。じゃあ、魔王は竜ってこと?」


火竜「そんなことは今はどうでもよい。貴公らの銃器をよこせ」


王子「火竜は女商人たちが使う武器が気になるのですか」

火竜「それはわしの銃器だからな」


女商人「……ふむ。くれてやってもいい」


火竜「そうか。ならば」

女商人「でも、私たちがこれをどこで手に入れたか気にならないか」


火竜「ならば教えろ」

女商人「商売人が損得勘定なしに誰かに何かをすると思ってるのか」


火竜「ならば殺すまで」

女商人「私たちがこの武器を手に入れたのは、とても複雑な場所だったの。あなたに見つけられるかな」


火竜「……確かに。わしが数千年かけても見つけることのできなかった場所があるということか」

女商人「すごく長い間、銃器を探し続けていたんだね。それでも見つけることのできなかった場所に、これらはある」


火竜「それはどこだ」

女商人「タダで情報をやることはできないねぇ」


王子「まさか、女商人はドラゴン相手に取り引きしているのですか!?」

族長「怖ろしい人間だ……」


学院長「なんという奴じゃ」


技師「流石はお嬢」

金髪「普通はやらねえよなぁ……」


火竜「……何が望みだ」

女商人「この戦の手助けを望む。それだけだ」


火竜「わしは争い事を好かんのだ」

女商人「それでもだ。私たちはあなたを利用してでも生きたい」


火竜「……」

女商人「……」


王子「どうなるのでしょうか」

族長「わからん」


グリフォン「…………」


技師「グリフォンが頭を下げてる」

金髪「魔物が魔物に頼みごとなんてするんだな……」




火竜「……仕方ない、わかった。わしは何をすればいい」

女商人「流石だ!! あなたは魔物、翼獣たちを1匹残らず殲滅してくれ!」


火竜「また骨の折れることを。だが、貴公も約束は守れよ」

女商人「もちろん! それと、私たちが知る限りの古代文明に関する情報を与えよう、ここに約束する!」


技師「お嬢、それは!」

金髪「はいはい。まずは命だからな技師」


火竜「では、久しぶりに本気で戦うとするか」

女商人「頼む。人間を勝たせてくれ」


火竜「勝たせるかどうかは約束できん。だが、銃器のためならば仕方あるまい」

女商人「それでいい」


火竜「……覚悟しろ魔物ども。貴公らに恨みはないが、全てはあの方との約束を守るため」


—— 山岳の国 城下町 ——


少女「おねえちゃん……、あとちょっとで、おしろだからね!」

雷女「…………」


少女「そ、そしたらきっと、、なおるから! め、さませるはずだかあ!」

雷女「…………」


少女「おきてよぉ、うぅ……ぐす……」

雷女「…………」


少女「おねぼうさんは、おこられるだよ? ねえ……ひっく、ううう……」

雷女「…………」


少女「まだ、まだないてないもんっ! なかないもんっ!!」

雷女「…………」


少女「い、いじわるすぎるよぉ! おきてってば、ねえ!」

雷女「…………」


少女「……あと、ちょっと」

雷女「…………」


魔女「エルフの少女!! 雷女!」


少女「あ、まじょのおねえちゃん!!」

魔女「危ない!! 後ろ!!」


少女「え?」

魔物「ギャオオオオス!!」


少女「そんな……っ」

雷女「…………」


魔女「くっ! この距離じゃ火炎瓶も届かない!」



ザシュ
ブシャーー

魔物「ギャアアっ……」


少女「おじさん!」

銀髪の男性「……」


魔女「……うそ。あなた、もしかして」


銀髪の男性「久しぶりだな。魔女」

魔女「勇者!!」


少女「勇者? おじさん、おにいちゃんなの? すごっくかわった?」

魔女「そいつはあんたの知ってる勇者じゃないわ! 先代勇者、人でなしの勇者よ!!」


白銀の剣士(銀髪の男性)「ははは、懐かしい名だ。だが、勇者の名は既に捨てた。今は、白銀の剣士と名乗っておくかな」


女の子「……」

魔女「そ、その女の子は誰? それに今までどこをほっつき歩いて!!」


白銀の剣士「今さら……何を言う必要がある? それに、俺は暇じゃないんだ。お前と会話を楽しむこともできぬくらいにな」

魔女「何を言ってるの? こっちへ戻ってきてよ! どれだけ心配したことか!」



子竜「ギャオオオオ!!」

子竜「グオオオオオ!!」

子竜「ギャーース!!」


魔女「ど、どうしてドラゴンがこんな所に! さっきも赤いドラゴンが飛んできてたし、一体どうなってるの!?」


白銀の剣士「おおむね、姿を消す魔法を使ってここまで来たんだろ。こいつを奪い返すために」

女の子「……。あれ邪魔」


白銀の剣士「わかっている。だが、少しだけ伝えねばならないこともあるのだ」


白銀の剣士「分身を通して聞いているのだろう魔王。こいつは人間ではなく……俺が奪った」


魔女「ねえ!! 何がどういうことなの!? 私の話しを聞いてるの!?」

少女「お、おじさん?」


白銀の剣士「さと、用は済んだことだし……邪魔な子竜を滅ぼすか。はあ!!」

ザシュズバザッシュ


子竜「ギャアアアっ!」

子竜「グアアアア……っ」

子竜「オオオオ……」


魔女「ち、小さい竜とは言え……ドラゴン族を一瞬で倒すなんて……。10年前と、剣筋が全然違うし……」

白銀の剣士「所詮は分身か」


魔女「ちょっと! あんた本当に何を言ってるのよ!? さっきからめちゃくちゃよ!?」

白銀の剣士「……もはや、お前には関係のないことさ」


女の子「白銀の剣士、行こ」

白銀の剣士「……そうだな」


魔女「ま、待ちなさい!! あんたには話したいことがたくさん!」

白銀の剣士「さらばだ」


白銀の剣士「では、頼む」

女の子「転移魔法」


魔女「待って!!」





魔女「……転移魔法。伝説の魔法じゃない……。どうして、あんな子が……」


少女「まじょー!」

魔女「少女……。って、雷女?」


少女「あのね、このおねえちゃん、ねむったままおきないの……。おきて、っていってうのに」


魔女「……その子、もう死んでるわ」

少女「うそ!! ぜったいにいきてうもん!」


魔女「本当よ。地獄のいかずちを召喚する魔法。召喚魔法っていうのはね、術者の命と引き換えなのよ」

少女「うぅ、まじょのいじわる!! うそつきなんてだいきらい!!」


魔女「とにかく城へ戻りましょう。国内の魔物はほとんど倒せても、まだ残党がいるからね。さっきみたいに」

少女「うー!」


魔女「雷女は私が連れて行くわ。それでいいよね?」

少女「……わあった」


魔女「いい子」

少女「……ん。でも、いきてうもん……」






魔女「……やっと見つけたと思ったのに、また消えてしまった。勇者、あんたはまるで手の隙間を取りぬける水のようにつかめない……」


—— 城内 ——


水女「……ねえ、これどういうことよ……」

水女「どういうことって聞いてるのよ!!」


魔女「さっき説明した通りよ」

水女「なんであんたはこうなるの知ってて止めなかったの!! この人でなし!! うわあああああああ!!」





魔女「人でなし、か。10年前はよく言われたわね……」

少女「まじょ……だいじょうぶ?」


魔女「私は平気よ。それに、あんたも泣きたいなら泣いたほうがいいわよ。子供のくせに、やせ我慢なんてしないの」

少女「……ううん」


魔女「そっか」





魔女「……私は、城壁へ向かうことにするわ」

水の兵「しかし!」


魔女「ここにいても、何もできないもの。それに国内の魔物はほとんどが死んだ。平気よ、安心して」

水の兵「……わかりました」


山岳兵「どうかお気をつけて」

魔女「ありがと」





水女「うわああん! あああ! そんな、いっしょに生き残る、って約束、した、じゃんかっ! ばかばかばか!! ああああ!!」

雷女「————」


—— 戦場 ——


山岳王「ハァハァ、ま、魔物たちが逃げていくぞ!」

女戦士「ぜぇはぁ、そりゃあ、あんなでっかいドラゴンがいちゃ、逃げるしかないでしょ」




火竜「燃え尽きろ」

== 火竜は辺り一面を燃やし尽くした ==




山岳王「何故かわからんが、あれは俺たちの味方か」

女戦士「もしかすると、勝利できたんじゃないかな」


山岳王「ほとんどの魔物は逃げていなくなった。さてと、俺たちも帰るか」

女戦士「そうだね。流石にもう、戦えない……」


山岳王「……最終的な残存兵力はどれくらいだ」


兵「はっ! 山岳兵がおよそ340、祭り兵がおよそ230です! 傭兵団は400程度かと!」


山岳王「……ぎりぎりだったな」

女戦士「なんて数の被害だ……」


兵「ですが、魔物はもうほとんどいません。おそらく、我々の勝利かと」

山岳王「そうか……」


女戦士「たった一つの戦力で、こうまで戦況が変わるとはな」

山岳王「それだけ、あの赤い竜の力は壮絶なんだ。それか、魔王が死んだか……」


女戦士「ほら、城壁の上に総大将がいるぞ」

山岳王「あれか……。そろそろ、勝鬨を上げてくれないだろうか」


女戦士「……ああ」

山岳王「流石に、疲れたな……」


女戦士「山岳王? あんた、その傷どうしたんだ!!」

山岳王「……お前を庇ったときに一撃もらってたんだよ」


女戦士「どうしてそれを先に言わない!! 早く治療を!!」

山岳王「さっきから、魔女特性の薬草を塗りたくってるだけど、血が止まりやしねぇ……」


兵「王さま!!」


女戦士「衛生兵!! 回復魔法だ!!」

兵「は! すぐに呼んで参ります!!」


山岳王「ははは、これくらい何てことないさ」

女戦士「その傷で立っている方が不思議だ! とにかく、横になれ!」


山岳王「王族がこんな所で寝転がれるかよ」

女戦士「いいから言う事を聞け!!」


山岳王「おー、怖い怖い」

女戦士「ふざけている場合じゃない!」


山岳王「……死にはしないさ。この国の未来を背負わないといけないんだからな」

女戦士「王さま……。あんた、すごくかっこいいよ……」


山岳王「こんな美人に褒められて、悔いは無し、って感じだな」

女戦士「ばか……」


—— 城壁 ——


女商人「……もういいだろう。想定外だったが、魔物は逃げ去った」

王子「ええ」


族長「我らの被害は」

エルフ「生き残りは437だ」


族長「そうか」


魔女「……やぁ」

女商人「魔女か」


学院長「……聞きたいことがあるんじゃ魔女。あのいかずちはまさか……」

魔女「察しの通りよ。雷女よ」


学院長「左様か……。老人ばかりが生き残っても、仕方あるまいというのにのぉ……おお……」


女商人「……被害は大きかった。でも、なんとか諦めなかったおかげで、私たちは勝ったのだ」

王子「その通りです。もし、少しでも諦めていたならば、この勝利は無かったでしょう」


女商人「魔物撤退が、魔王の死か、それとも火竜の登場によるものか。定かではないが、勝利は勝利だ」

王子「わかっています」


女商人「さあ! 勝鬨を上げてくれ総大将!!」

王子「もちろんですっ!」


学院長「……ほれ、声拡張の魔法を込めた魔道具じゃ。わしはもう魔力がなくて、使えぬが」

族長「ならば我が魔力を込めよう。さあ、人間よ、勝鬨を上げてくれ」


王子「ありがとうございます」


王子「国民および兵たちよ!! 我らの勝利だ!!」

王子「えい! えい! おーーーー!!」




えいえいおおおおおおおお!!
えいえいおおおおおおおお!!




山岳王「えい! えい! おおおお!!」

女戦士「じっとするんだばか!! ああもう、折角塞がった傷口がああぁぁぁっ」




えいえいおおおおおおおお!!
えいえいおおおおおおおお!!




少女「えいえいおー!」


水女「うちら、勝ったんだよ……。ほら、いっしょに手を掲げよう……。えい、えい、おーって」

雷女「…………」






えいえいおおおおおおおお!!
えいえいおおおおおおおお!!




技師「えい、えい、おおおお!! まさか、こんな事を言うなんてねェ」

金髪「えい、えい、おおおお!! ま、こういうのもいいんじゃないの?」


族長「えい、えい、おおおお!!」

学院長「えい、えい、おおおお!!」


グリフォン「ギャオオオオ!!」






魔女「……」

女商人「何ぼーっとしてるのよ。ほら、いっしょに手を上げよう!」


魔女「そうね!」

女商人「えへへ!」


魔女「おっ、歳相応の笑い方をしているところ、初めて見た」

女商人「あ! うっ……」








王子「あとは、勇者殿一行が戻ってくるのを待つだけですね」

女商人「そうだな」









魔女「……先代勇者、どこに行ったのよ」


—— 11章 決戦 終わり ——

戦争なんてわかんねーよ、初めて書いたよ
それでも楽しんでもらえたり暇つぶしになれたら嬉しいよ、でわー


予想は荒れるかもだから、控えたほうがいいかなーって

今回は王道狙ったつもりだったから、仕方ないかもだけどねー。でも、こんなSSでも読んでくれる人がいるのは嬉しいことだよ!



あと、さっき最終章のプロット完成したよ! あとは書くだけだよ! でもプロットだけで今までの2倍になったよ……
もうすぐニート生活が終わっちゃうよ……やだー

最終章は小出し気味になるよー、すまん! 
今からちょこっとだけ投稿!

最終章 ……と魔法使い



〜 決戦開始より2日前 〜



—— 港町 ——


船乗り「やっと到着っす! さあ、この船に乗って下さいっす!……あれ、この船ってもしかして」


勇者「ありがとう」

魔法使い「うん」


水の神官「ここから、魔王城までおよそ2日だと、地図上では計算できるんだが」


エルフの騎士「……あくまでも、単純計算のうちでは、か」


船乗り「魔王城に到着するころは、ちょうど魔王軍が山岳の城にたどり着く頃じゃないっすか」

水の神官「最悪でも、決戦初日の夜くらいですね」


勇者「そうですか」


魔法使い「……っ」

エルフの騎士「どうしたんだ魔法使い?」


魔法使い「い、今から船……怖いかも……」


船乗り「そういえば魔法使いさん、水が怖いんすよね?」

魔法使い「水の街みたいな、川なら慣れた。でも……」


船乗り「次は海っす。しかも、荒れ果てる海路。すごく揺れると思うっすよ」


魔法使い「うぅ……」

勇者「大丈夫だ。俺が守る」


魔法使い「勇者さまっ」

勇者「だから心配するな。な?」





船乗り「……ちぇ、なんすかあれ」

エルフの騎士「あはは」


船乗り「笑い事じゃないっすよぉ……。うー、諦めたつもりでも、諦めつかないっていうかー……」

エルフの騎士「そうとう惚れこんでいるんだな」


船乗り「当たり前っす! あんなにカッコいい人、他にはいないっすもん!」

エルフの騎士「そうか。船乗りもそう思うか!」


船乗り「まさか、エルフの騎士さんも……」

エルフの騎士「いやいや、それはないよ。私はただ、忠誠を誓うだけだ。これはそういう感情とはかけ離れている」


船乗り「ふーん」

エルフの騎士「疑い深いなぁ……」



水の神官「そろそろ乗り込みましょう」



勇者「はい」

魔法使い「ごめんなさい」


エルフの騎士「そうだったな」

船乗り「気合入れるっす!」


—— 船 ——


女船長「お初にお目にかかります。女船長と言います」


女船長「あと、久しぶりね。お元気だったかしらー」

水の神官「ええ。あなたもお元気でしたか?」




勇者「あの女性は誰かな。神官さまと知り合いみたいだけど」

船乗り「私のお母さんっす! どっかで見たと思ったら、やっぱりお母さんの船だったみたいっす!」


魔法使い「うそ……」

エルフの騎士「見た目、まだ20代だぞ!?」


船乗り「私、お母さんのように立派な船長になりたくて船乗り目指したんすよ」

船乗り「でもまさかここにお母さんがいるなんて思わなかったっす……」



女船長「久しぶりねー」

船乗り「そだね! 元気そうでよかったよ。でも、まだ海賊やってるの?」



勇者「海賊!?」

エルフの騎士「なんだそれは!」

魔法使い「……」


水の神官「お恥ずかしながら……。海賊だった彼女に惚れてしまいまして、私」

エルフの騎士「先代勇者一行とは一体どんな人間の集まりだったんだ……。想像がつかんぞ……」


女船長「うふふ」


船乗り「で、どうなの?」

女船長「流石にもう止めたわよー!。でも、今はある人のお仕事を手伝っているくらいね」


女船長「で、その人が私に協力を要請したの。だからここにいるのよ?」


船乗り「それって、もしかして女商人じゃ……」

女船長「あら、よく分かったわね?」


船乗り「あ、あはは……」

水の神官「まさか、あの商人の娘の手助けをしていたとは……」


女船長「こっちの業界は、一度入ると世間が狭くてねー」


勇者「こっちの業界?」

女船長「裏の業界よ? 興味あるのかしらー。……ところであなたは?」


勇者「興味ないです。あと俺は勇者です」

魔法使い「……ま、魔法使い……」


エルフの騎士「エルフの騎士だ!」

女船長「これはこれはー、よろしくねー?」


船乗り「ところで、お母さんもそろそろうちに帰ってきてよー」

女船長「ごめんねー? でも、出来るだけあなた達に迷惑をかけたくないのよー。裏の業界じゃ、けっこー恨まれてるのよねぇ。わ、た、し」


水の神官「流石は私の妻だ」

女船長「もぉー、あなたったらー!」


エルフの騎士「なんだこの一家は……」

勇者「……早く出航して下さい」


女船長「あら、私ってばー……。じゃあ、舵を握るわねー?」


船乗り「あ、勇者さまたち覚悟しておくっすよ」

勇者「え?」




女船長「すぅー……。野郎どもおおお!!!! ちんたらしてねぇで、さっさと持ち場につきやがれクズどもが!!」

女船長「あたいらは勇者さまたちをクソッタレのファッキン魔王の城の届けなきゃなんねぇんだぞ、わーってんのか!?」


船員たち「イエス、マム!!」




勇者「え」

魔法使い「……!?」


エルフの騎士「おおおー……」


水の神官「ああ、やはり惚れ惚れします……」

船乗り「私の両親、ぶっとびすぎっすよねぇー……——」


勇者「こ、これは一体」

船乗り「お母さん、舵を握ると性格変わるんすよ」


勇者「性格どころか、さっきまでの朗らかな雰囲気すら変わっているような……」

船乗り「びっくりっすよねー。あ、私も持ち場につかないとお母さんに怒られるっす」


勇者「船乗りは何をするんだ?」


船乗り「私の仕事は、お母さんの補助および風を読むことっす。風を読む力だけなら、お母さんを超えるっすからね」

勇者「すごいな」


船乗り「えへへ、もっと褒めてくれてもいいんすよぉー!」

魔法使い「むぅ」


勇者「あ、あとでな!」

船乗り「そんなぁっ」


女船長「おら船乗り!! さっさと持ち場につけ!! てめぇのようなクズでも仕事だけは一人前じゃなかったのかよ、ああ!?」

船乗り「ひえー! わ、わかったからそんなに怒鳴らないでよぉーお母さぁん!」


水の神官「さてと、私は波を見てきますか」


勇者「……すげぇ」

エルフの騎士「ああ」


魔法使い「……」


勇者「大丈夫か、魔法使い?」

魔法使い「あ、はい!」


エルフの騎士「でも、これだけ気合が入っている人間たちなら安心して船旅を任せられそうだな」

勇者「それは確かにそうだな」


女船長「うふふ、そうでしょー?」

勇者「ひっ! お、女船長さん!?」


女船長「今、舵はあの子に任せているのよー。だから、私はゆっくりするわー……ふああ」


勇者「そ、それでいいんですか?」

女船長「流石は私の娘ねー。もう船員たちを使えているもの。そろそろ私も引退かしらー」


エルフの騎士「そんなに若いのにか」

女船長「あら、これでもきっと勇者さまの2倍以上は生きているわよー?」


勇者「俺が今17歳だから……」

女船長「こらこらぁ。女の歳なんて数えないの、うふふ」


魔法使い「……」

女船長「こんにちわ」


魔法使い「あ、その。はい」

女船長「大人しいのねー? 女商人から話は聞いてるわー。すごい武器を持ってるらしいわね?」


魔法使い「えっと……」

女船長「うらやましいわー。私、武器って言っても何も扱えなくてねぇ。せいぜい船を操るので精一杯なのよー」


魔法使い「その……」

女船長「気分悪いの? 元気がないみたいよー? 船室で横になる?」


魔法使い「あ、……あう」

勇者「あの、魔法使いはちょっと緊張しているみたいで」


エルフの騎士「そうなんだ! ほら魔法使い、こっちにおいで!」

魔法使い「うぅー……」


女船長「あらあらー。悪い事をしちゃったかしらぁ」

勇者「気にしないで下さい! いつもの事ですから!」




魔法使い「エルフの騎士ー……」

エルフの騎士「おー、よしよし。初対面の相手によく頑張ったねー」




女船長「さてと、あと半日もしたら荒れ果てる海路に入るわー。そんときは、私が舵を取るわね」

船乗り「わかってるよ」


勇者「流石に女船長さん自身が舵を取るんですね」

女船長「嵐の中の風を読むのは非常に難しいのよぉ。もちろん、その中で舵を取るのもねー」


船乗り「それだけじゃなくて、波の流れを予測するのも大変なんすよ!」


水の神官「だからこそ、私たち一家の総動員で荒れ果てる海路を突き抜けなくてはいけません」

女船長「そういうことなの。でも心配しないでねー? ぜーったい、届けてあげるから」


船乗り「私ら一家の名誉にかけて!」

水の神官「女神様と水の精霊さまの加護があれば」


船乗り「あ」

水の神官「しまった!」


女船長「あーなーたー! いつも言ってるでしょー! そうやって信教ばっかりじゃなくて、人の力も信じなさいって!」

水の神官「いや、これはですね! ただの言葉のあやというか、社交辞令というか!」


船乗り「あーなったら、当分はお説教モードっすねー」

勇者「どうして女船長さんはあんなに怒ってるんだ?」


船乗り「お父さん、神の名においていっぱい魔物殺したんすよ」

船乗り「それ以来、お母さんが、何でも神さまって言えばいいと言うな、って本気で怒ったことがあって。それからっすね、あんな感じなのは」


勇者「そうだったんだ」


船乗り「でも、私知ってるんすよ。お父さんは神の名において魔物を殺したって言ってるけど」

船乗り「本当は魔物に囲まれてるとき、私を身ごもったお母さんを助けるためだったらしいってことくらい」


勇者「そうなのか?」

船乗り「ひっそりお母さんに教えてもらったんすよ! だから、あんな両親でも自慢の両親っす!」


勇者「そっか。それはよかったな!」

船乗り「えへへ!」






魔法使い「むー!」

エルフの騎士「どうどう」


魔法使い「私は馬じゃないもんっ」

エルフの騎士「そんなことわかってるからぞ」


魔法使い「いい雰囲気で何を喋ってるんだろ……もぅ」

エルフの騎士「大変だな、魔法使いも……」


—— 荒れ果てる海路 ——



女船長「取舵いっぱーい!! とにかく、目の前の突き出た岩を避けろおおおおお!!」


船乗り「もうすぐ風が南南西に変わるっす!!」

水の神官「波が……。あの辺り一帯は座礁の危険があります!! 大きく迂回してください!!」


船員「うおおおおおおおおおお!!」
船員「やーーーーーーーーーー!!」
船員「だーーーーーーーーーー!!」
船員「イエスマムーーーーーー!!」



魔法使い「ずっと向こう、大きな高波が見えます」

女船長「ありがとーよ!! 野郎ども、高波が来るぞーーーー!! 船頭を北北西に向けるぞーーーー!!」





エルフの騎士「……私たちは、出番がないな」

勇者「いや。ほら、倒れている船員の手助けと、帆を張ったり直したりを手伝えるはずだ」





女船長「いよっし!! 高波は抜けた!! 大きく右周りに迂回すっぞ!! わーーったか!?」

船員たち「イエエエエヤアアアアア!!」



女船長「はっはー!! なぁにが荒れ果てる海路だ!! あたいら一家に掛かれば、こんなもんちょろすぎだなぁあ!!」

水の神官「油断大敵です。左右に大きな渦潮が発生する恐れがあります」


船乗り「後方からたぶん竜巻がやってくる! 急がないと大変なことになるよお母さん!!」

女船長「はっはーーーー! 忙しいったらありゃしない!! おおい船乗り、次はどうすればいいんだ!?」


船乗り「そうっすね……。たぶん、後方からの竜巻は前右方に進行してくると思うっす」

船乗り「だから、取舵を取りながら右回りに迂回していくと、座礁地帯を超えた辺りでかち合うかと思うっす!」


女船長「やだねぇ! うおおい、野郎ども!! 飛ばすぞ!!」

船員たち「「やぼーーーーる!!」」


女船長「さぁて!! 久しぶりに魔道具を使うかね!」

水の神官「久しぶりに、この船の魔道具を見られるのですね!」


勇者「魔道具? この船にもあるのか」

水の神官「むしろこの船そのものが魔道具です。まあ見ていてください」



女船長「野郎ども!! わーーってるか!? いくぞ、スクリューを回せ!!」



勇者「スクリュー?」

船乗り「おっきな回転する金属の塊っす。なんでも、昔の船を参考に作ったらしいっすよ」


勇者「へぇ」

船乗り「たぶん、この感じだと作ったのは女商人に旅団かな……。ずっと秘密にされてたけど、今ならわかるっす」


女船長「その通りだ船乗り!! あんたにゃ、裏の業界に関する情報は一切与えなかったからね!」

女船長「でも、無駄話はそこまでだ! 魔道具ハイドロジェットも用意!! うらうらうら!! 魔力を込めやがれ!!」


船員たち「「アイマアアアアムーーーーー!!」


女船長「いいねいいねぇーー!! おら勇者!!」

勇者「俺!?」


女船長「あとエルフの騎士!!」

エルフの騎士「私もか!?」


女船長「なんもすることないなら、帆をたためぇーい! 急げ急げ!! 死にたかねぇだろ、ああん!?」


勇者「あ、アイマム!」

エルフの騎士「あああ、アイマムっ!」


勇者(アイマムってなんだ?)

エルフの騎士(私に聞かないでくれ我が君……)





女船長「一気にいけえええ!!!!」


一同「「「うおおおおおおおお!!!!」」」






魔法使い「ひぃっ。すごく速い……」

エルフの騎士「おいで、魔法使い」


魔法使い「こわいよぉーっ」

エルフの騎士「おぉ、よしよし」






勇者「むぅ」

船乗り「えっと……。こ、こわいっすー」


勇者「どうかしたか?」

船乗り「……なんでもないっすよー」


女船長「いちゃこらすんな野郎どもおおおおお!! あとちょっとだぞ!!」

水の神官「波の流れが! そこに波に隠れた岩があるかと!!」


女船長「一気に飛ばせーーーー!! 空を飛ぶぞ!! 高波を利用しやがれーー!!」

船員たち「「イエス、マム!!」」





勇者「船が、空を飛んでる!?」

魔法使い「もうやだぁっ」


エルフの騎士「すごいな。人間とは……」


水の神官「流石は私の妻だ!」

船乗り「かっちょいいっすよーーーー! さっすがお母さん!!」





女船長「はっはーーーー!! 改めて私の凄さを知ったか!! このまま一気に魔王城まで突っ切るぞ!!」





〜 数時間後 〜


水の神官「……おかしい」

女船長「やっぱあんたもそう思うかい」


水の神官「ええ。海の様子が……どこか普通じゃない」


女船長「ああ。なーんか、嫌な空気だね。荒れ具合、時化は全然変わらないけど

水の神官「どうも、不穏な空気がしますね」


女船長「さっき、やっとこさ一山超えたと思ったのに……やだねー」

水の神官「そうですね……」


船乗り「お母さん」

女船長「なんだい」


船乗り「風が、怯えてる感じがする。あの先の一帯だけ、風の流れが読めない」

船乗り「ううん違う。風があそこに集められるように吹き荒んでいるような。普通は有り得ないんだけど……」


水の神官「波もあそこへ向かっています。このままでは、吸い寄せられるようにあの場所へ辿りついてしまう」

女船長「こういう海だ、何があっても不思議じゃない。……覚悟を決めるしかないね」


船乗り「……了解」


女船長「それにしても、長らく海にいるけどこんなのは初めてだよ! あなたとの初めての夜を思い出すねぇ!」

水の神官「陸地ではしおらしいくせに、可愛いですよ女船長」


船乗り「うあああ!! 両親のそういう話は聞きたくなかったーーーー!!」






女船長「野郎ども!! 聞こえているか!!」

船員たち「「やーー!」」


女船長「どうも、嫌な感じがする! 何があってもいいように準備だけはしっかりしておけ!」

船員たち「「だーー!!」」


—— 荒れ果てる海路 風無き一帯 ——


女船長「これは一体どういうことかしらー」

水の神官「……ここだけ、嵐がないですね」


船乗り「それに周囲にはたくさんの船があるよ」


エルフの騎士「……まるで、ここに閉じ込められたまま死んでいったかのようだ」

勇者「静か過ぎる」


魔法使い「怖い……」


水の神官「とりあえず、この一帯から出て行きましょう。なんだかよろしく無い感じがします」

女船長「そうねー……。うっしゃあ!! 行くぞ野郎ども!! 嵐へ、前へ前へ前へ!!!!」


船員たち「イエスマム!」











女船長「あ、あらー……」

水の神官「まさか、帰ってきてしまうとは……」


船乗り「風がここに吸い寄せられているから、帆を張るとどうしても帰ってきちゃうっす」

水の神官「波の流れもこちらへ向かっているから、同じです。ここへ誘われているような気がしますね」


勇者「これは一体全体、どういうことなんだ」

女船長「わからないわー。……んー、もしかすると、何かしらの力が働いているのかもしれないわねー」


魔法使い「だから水は怖い……うぅ」


勇者「……このままじゃ埒があかないぞ」

エルフの騎士「さっきみたいに魔道具を使って脱出は出来ないのか?」


女船長「この船の魔道具を使うと、船員たちの精神力がかなりもってかれちゃうのー。だから、そんなに何度も使えないのよー……」


エルフの騎士「そうだったのか」

女船長「ごめんねー」


エルフの騎士「いや、あなたが悪いわけではない。……しかしどうしたものか」


勇者「他の船もたくさんここに浮かんでいるな。見た感じ、かなり古そうだけど」

女船長「きっと遭難船ねー。ここから出られないまま、ずっと放置されているのよー」


勇者「そうなんですか」

女船長「でも、この数はどう考えても異常よー? 十隻以上はあるわね……」


エルフの騎士「それに、かなりボロボロになっている」

水の神官「ええ。あれは時間の経過でというよりも、何か争ったような痕跡ですね」


船乗り「どうするっすか」


勇者「女船長さん。あの一際大きな船に寄せてください。乗り込んでちょっと調べてみます」

女船長「わかったわー。船乗り、舵をお願いね?」


船乗り「ん、わかったお母さん……」


エルフの騎士「我が君が行くのであれば、私ももちろん行こう」

魔法使い「わ、私はっ」


勇者「魔法使いはここに残ってくれ」


魔法使い「いいの?」

勇者「ああ。何かあったら走って戻ってくるから、安心してくれ」


魔法使い「勇者さま……」

勇者「大丈夫さ」


船乗り「限界ぎりぎりまで近づけたっすよー!」


勇者「さてと、行くか」

エルフの騎士「そうだな、我が君」


魔法使い「気をつけて」

船乗り「そうっす。何かあったらすぐに戻ってくるっす!」


勇者「わかってるよ」

エルフの騎士「では!」







—— 遭難船 内部 ——


勇者「大きな船だ」

エルフの騎士「なんの船だろう」


勇者「おそらくは海賊船だろう。さっきから武器がそこらじゅうに散らばっている」

エルフの騎士「そういえば、海賊とはなんだ?」


勇者「海賊っていうのは、海を拠点にして里や村を荒らす盗賊の集団みたいなもんだよ」

エルフの騎士「なるほど。人間にはそういう者もいるのか……」


勇者「でも、どうしてこんな所に海賊船が」


エルフの騎士「我が君。気になることがあるのだが」

勇者「なんだ」


エルフの騎士「どうして白骨化した死体が一つもないんだ」

勇者「……それは俺も気になっていた」


エルフの騎士「それに、争ったかのように色んなところに大きな穴がある」

勇者「この穴はどうしてできたんだろうな」


エルフの騎士「ほら、大砲とかいう奴を使ったのではないか?」

勇者「大砲ができたのはつい最近だぞ? この船が機能していた頃は、きっとまだ剣と矢と魔法で攻防してたはずだ」


エルフの騎士「詳しいのだな」

勇者「技師に教え込まされた」


エルフの騎士「ああー……」


勇者「そんなことよりも、船が沈没していないのが何よりも不思議だ」

エルフの騎士「ふむ。これだけボロボロなのに、何故沈んでいないのだろう」


勇者「とりあえず船底に向かってみるか」

エルフの騎士「ああ」


勇者「……そうそう。なんだかここ、幽霊船っぽいよな」

エルフの騎士「ゆゆゆゆゆ、幽霊だと!?」


勇者「え?」


エルフの騎士「ば、馬鹿なのか我が君は!! 幽霊などいるはずがないだろう!!」

勇者「エルフの騎士、もしかしてお前……」


エルフの騎士「違う!! 断じて違う!! 決しておばけなんて怖くない!!」

勇者「あっ!」


エルフの騎士「いやーー!! な、なんだなんだ!! 何があった我が君!?」

勇者「なんでも?」


エルフの騎士「……我が君ー?」

勇者「あっはっは!」


エルフの騎士「我が君などもう知らん!」


勇者「ああ!!」

エルフの騎士「もうその手には引っかからな——」


勇者「いや、ほら。そこの染みが人の顔みたいじゃないか?」

エルフの騎士「ぎゃああああ!! うわああああ!!!! ばかああああ!!」








ギャアアアア!! ウワアアアア!! バカアアアア!!


女船長「あらー、なんだか楽しそうねー」

船乗り「え、そういう感想になるの!?」


水の神官「大丈夫でしょうか……」

魔法使い「エルフの騎士……おばけ怖がってるのかな」


エルフの騎士「もう!」

勇者「ははは、ごめんごめん」


エルフの騎士「……とりあえず、船底に到着したが」

勇者「ああ。……なんだ、これ」


エルフの騎士「ぶにぶにしてるな」

勇者「何かの触手みたいな……」


エルフの騎士「少しぬめっとしている。気持ち悪いな」

勇者「不思議な物体だ」




ゴゴゴゴゴゴ




エルフの騎士「な、なんだ!? 船が揺れだしたぞ!!」

勇者「危ないかもしれない! 早く外へ出るぞ!」


エルフの騎士「言われなくても分かっている我が君!」

勇者「なんだよこれ!」




ゴゴゴゴゴゴ




エルフの騎士「急げ急げ!」

勇者「次はこっちだ!」


ゴゴゴゴゴ



女船長「遭難船の船の様子が……」

船乗り「勇者さま、エルフの騎士さん、早くするっす!」


水の神官「沈んでいるのでしょうか」


魔法使い「どうか……無事でいてっ」







勇者「待たせたな!!」

エルフの騎士「そんなこと言っている場合か我が君!!」


女船長「二人とも、よく無事でー!」

水の神官「はやくこちらへ乗り移ってください。飲み込まれないように船を遠ざけます」


船乗り「魔道具発動!!」

船員たち「「おおおおお!!」」




ザプーン!!



勇者「間一髪ってところか」

エルフの騎士「危なかったな……」


女船長「一体何があったのかしらー?」


勇者「それが、何かぶよぶよしたものを触った急にああなって」

エルフの騎士「あと少しぬめっていたな」


女船長「なにかしらー……」


水の神官「女船長! 海底の様子がおかしい!! 何か浮上してくるぞ!!」

女船長「本当ー?……野郎どもおおおおお!! 対衝撃姿勢だ!! 何か来るぞーーーー!!」






サザーン

クラーケン「グポポポポポ!!」






女船長「ありゃ……もしかしてクラーケンじゃねえのか!?」

勇者「クラーケン?」


女船長「船に乗る者たちに伝わる伝説さ!! 全てを海底を引きずり下ろすと言われる、強大な怪物のことさね!!」

女船長「いや、まさか……。はっはーー!! この目で伝説を見るなんて、驚きだねぇ!! 高ぶってキターーーー!!」


船乗り「さっきまで周囲に浮かんでいた船が全部沈んだっす!!」

女船長「おおよその予想はつくよ!! あれは全部罠だったんだ! 人がきたことを察知するために、あえて浮かばせておいたんだろ」


水の神官「なるほど。船に誰かが近寄ったり乗ったりしたとき、それが受容器として本体に知らせる役割をしていたのですね……」


女船長「戦闘準備だ!! あたいの船にゃ、大砲なんて最新の武器はないけど、古典的な戦い方で撃退すっぞおらあ!!」

船員たち「「うらああああああ!!」」


クラーケン「グポポポポ!!」


エルフの騎士「まるで触手の塊だな」

女船長「全員、矢と鉄砲を構え!!」


勇者「鉄砲あるのか!」

女船長「あたぼうよ! あたいらは元海賊だよ? んなもん、100挺くらいあらあ!!」


船員たち「それ言いすぎ」


女船長「知るかよ!! さっさと持ち場につきな! 来たよ……!」



クラーケン「グッポポポポ!!」



女船長「汚らしいねぇ。泡を吹いてやがる……」

女船長「全員、ってええええ!!」



シュシュシュシュ
パン!
パン!
パン!



クラーケン「グププププ!!」



女船長「全然きいちゃいねぇなぁ!」

水の神官「私の魔道具も、毒水程度しか使えませんが……。いけ、毒水!!」



クラーケン「グプポポポ!」


女船長「いよっし! 少し動きが鈍ったか!?」


エルフの騎士「さてと、私も矢を放つか……」

エルフの騎士「なるほど、矢は大量にあるのか!」


女船長「全部使いきれるもんなら使ってみな!」


エルフの騎士「ならばお言葉に甘えて! はああっ!!」

== エルフの騎士はいちどにたくさんの矢をはなった ==


女船長「ひゅー、やるねぇ!」

船乗り「うわわわ! 揺れる、揺れるっすぅ!」


魔法使い「……っ!」

勇者「そんなに震えなくて大丈夫。絶対に守るから」


魔法使い「勇者さま!」

勇者「心配するな。いつも言ってるだろ」


魔法使い「でもっ」

勇者「だって、も禁止だぞ」


魔法使い「だって! あっ。はい……」




船員たち「接触します!」

女船長「きな! あたいの船は絶対に沈ませたりはしないよ!!」


クラーケン「グポポッポッポッポ!!」


ダダーン


船員たち「うわあああああ!!」

船員たち「離せ、離せよおおおお!!」



女船長「お前ら!! くっそおおおお!! これでも喰らいやがれ!」

パン!



勇者「そんなよわっちい鉄砲じゃだめだ! 俺が行く!! うおおおおおお!!」

クラーケン「グオオオオ!!」



船員たち「た、助かったっ」

船員たち「ありがとう勇者さま!」



勇者「まだまだ!! そこおおお!!」

クラーケン「グププププポポ!!」



エルフの騎士「流石は我が君だ。クラーケンの体に乗って戦うなんて……」

水の神官「なんて身体能力でしょうか」


船乗り「きゃー! 勇者さまかっこいいっす!」

魔法使い「……っ」


魔法使い(足手まといはいやだ!)


船乗り「魔法使いさん!? なんで船内に……」

エルフの騎士「信じろ! 魔法使いは絶対に怖くて隠れたわけじゃない!」


船乗り「それくらいわかってるっす! きっと銃を組み立てにいったんすよね!」

エルフの騎士「なんだ、わかってるじゃないか」




勇者「どおおおりゃああああ!!」

クラーケン「グプププ!!」




エルフの騎士「さてと、私だってぼぉっとはしていられないな……。雨のように貫け、私の矢!!」

== エルフの騎士はおおくの矢をそらに放った ==


船乗り「ひええ、すごいっす……。矢がまるで雨のように……」

エルフの騎士「これくらいはできないと、勇者一行として恥ずかしいからな」




女船長「おらおら!! 船を沈められたくなかったら船を動かせ!! 魔道具、スクリューにハイドロジェットだ!!」

船員たち「「アイマム!!」」




勇者「……船が動く。一度退くか……!」




女船長「すごいねぇ、流石は勇者だ!」

勇者「でも、あいつはまだぴんぴんしています!」


クラーケン「プポポポポ!!」




女船長「なんだあの鳴き声は。気が抜けちまうよ……」

勇者「ちょっとはダメージが入ってるってことだといいんですけど」


船乗り「でも、どうするのお母さん。このままじゃ」

女船長「女は度胸! 船ごとつっ込むよ!!」


船乗り「ええええ!?」

水の神官「それは……なんという」


エルフの騎士「大丈夫なのか!?」

勇者「勝算はあるのですか」


女船長「どうせ表面はやわっこいんだ! 突進しりゃあ、この船の先でぶち貫けるさ!!」


船乗り「そんな上手くいくんすかね……」

女船長「度胸だっつってんだろ! なあ野郎ども!?」



船員たち「…………」



女船長「うぉい!!」

船乗り「やっぱり無茶だよぉ! お母さん!!」


勇者「いや、意外と行けるんじゃないか」

船乗り「えええええ!!!! 勇者さままで!?」


勇者「剣で斬った感じ、そんなに硬度がある訳じゃないというのが分かったんだ」

勇者「じゃあ、この質量の物体を一気にぶつけたらもしかすると」


水の神官「しかし!」

勇者「このままじゃどっちにしても海底かあいつの餌食です。ならばすることは決まっています!」


女船長「いい男だね!! 惚れそうだよ!」

水の神官「え!?」


女船長「冗談さ! マイダーリンはあんただけだよ!」

水の神官「女船長……」


船乗り「はいはいそこまで! とーにーかーく! そうと決まったら突進っすね!」


魔法使い「私も手伝う」

女船長「魔法使い!? なんだそりゃ、なんつーでっかい鉄砲だ!」


魔法使い「この子で、お腹を撃ちまくる。脆くなったそこの部分を、船で貫いて」


女船長「よっしゃあ!! よくわかんねーけど、それで行こう!! わーったか野郎ども!!」

船員たち「「うらああああああああ!!」」


女船長「よっし! 魔道具に魔力を込めろ!! ありったけだ!! 全速前進!!」


エルフの騎士「私も、せめて矢を射ることにしよう」

勇者「俺は船員たちを守ることに専念しようかな」


クラーケン「グポッポポポポオポオポオ!!」




魔法使い「すぅー……はぁ……」

魔法使い(薬莢付きの銃弾5発の連射……。試すには、いい機会かもしれないっ)


魔法使い「んっ……!」




ズバァァァァン!!

ズバァァァァン!!

ズバァァァァン!!

ズバァァァァン!!

ズバァァァァン!!



クラーケン「ギャアアアアアアアア!!!!」




女船長「いっけえええええええええ!!!!」


== 船がクラーケンの胴体を貫いた ==


女船長「いよっしゃあああああ!!!! このままこの一帯を抜けるぞ!!」

船員たち「「「うおおおおおおおお!!!!」」」


船乗り「風向きが変わったっす!! 行けるっす!」

水の神官「波の流れも変わりました! この一帯からの脱出が可能です。おそらく、あのクラーケンが風と波を操っていたのでしょう……」


女船長「どんなもんじゃい!!」

勇者「よし!! 犠牲者はいるか!?」


船員たち「幸いにもいません! 全員無事です!!」


勇者「なおよし!! このまま魔王城まで頼みます!」

女船長「言われなくてもわかってるさ! いくぞ野郎ども!! 今回限りは最高だぜお前ら!!」


船員たち「「やぼおおおおおおるうううう!!」」







魔法使い「はぁはぁ……」

エルフの騎士「大丈夫か魔法使い?」


魔法使い「すごい反動だった……。でも、耐えられないほどじゃないことはわかった」

エルフの騎士「そうか」




勇者「魔法使い」

魔法使い「勇者さま?」


勇者「よくやったよ。頑張ったな。偉かった、かっこよかった」

魔法使い「は、はい!」



船乗り「なんなんすかあれぇー……」

エルフの騎士「まあまあ」



エルフの騎士(あれ、私はいつの間にこんな役所になったんだ?)

とりあえずここまでー!
最終章は本当に長くなりそうだから、書けるときに書いて、投稿できるときにキリが良い所まで投稿する形にするよ

あと、11章の簡単なあらすじを書き忘れてたから書いておくよ、いらないかもだけど



※ネタバレ注意
〜三行でわかる11章のあらすじ〜













 1、戦争勃発
 2、最初は善戦だけど、後半で苦戦
 3、勝った ←いまここ


——
——
—— 魔王城 裏手の崖 夜中 ——


女船長「ごめんねー。私たちはここまでしかこれないのよぉ」


勇者「いえ。ここまで連れて来てくれて感謝しています」

エルフの騎士「しかし、おそらく山岳の国は決戦初日の夜だろうな」


船乗り「みんな無事だといいんすけど」

水の神官「神のご加護を……。女神の祝福を……」


勇者「……女神、ですか」


女船長「どうせ1日で戻ってくるのよねー? じゃあ、ここで待ってるわー」

船乗り「そうっすよ!」


勇者「それは危ない!!」

エルフの騎士「そうだ! ここはもう魔物の領地! 今すぐにでも逃げ帰るべきだぞ!」


魔法使い「うん」


女船長「あらー。私たち、そんな薄情者じゃないわよぉー」

水の神官「その通りです。私たちはここで勇者さまたちの帰りをお待ちしています」


船乗り「愛する人を置いて逃げられないっすからね!」


勇者「皆……」

エルフの騎士「情の厚い人間もいるのだな……!」


女船長「でも、早く帰ってきてねー?」

勇者「わかりました」


エルフの騎士「さあ我が君。学院長からもらった指輪を付けるときがきたぞ」


勇者「でも俺は魔力を持たない人間だぞ? 大丈夫かな……」

エルフの騎士「ならば私と手を繋いで行こう。そうすれば大丈夫だ」


魔法使い「うん。私の魔力は弱いから、そっちのほうがいいと思う」


勇者「そうだな。じゃあ行くか」

エルフの騎士「ああ!」


魔法使い「うん!」




女船長「勝って帰ってきてねー」

水の神官「女神の加護を。勇者さま一行に」


船乗り「ぜーったいに戻ってくるんすよみんな!!」




勇者「はい。……エルフの騎士、頼む」

エルフの騎士「ああ」


魔法使い「……え? どうして私の手を握るの?」

エルフの騎士「見えなくなるんだろ? じゃあ、はぐれないようにしないとな」


魔法使い「そっか」

エルフの騎士「さあ、消えるぞ」


女船長「……本当に消えちゃったわねー」

水の神官「すごい魔法です」


船乗り「……どうか、無事で!」












勇者「あっちから登れそうだな」

エルフの騎士「ああ。少し遠回りになるが、崖を手で登るよりかはマシだ」


魔法使い「同じく賛成」











勇者「向こうを見てみろ。なんて数の魔物だ」

エルフの騎士「山岳の国に集まった連合軍よりも遥かに多いぞ」


魔法使い「まだこんなに控えの兵隊がいるなんて」


勇者「……ん、あれは」


ドラゴン「グオオオオオオ!!」


黒い子竜「ガオオオ」
黒い子竜「ガオオオ」
黒い子竜「ガオオオ」







エルフの騎士「ドラゴン……竜」

魔法使い「山岳の国に向かっているの……? まさか火竜が言ってた魔王じゃ……」


勇者「違うと思う。火竜と比べてもまだ小柄だ。もし火竜と同じような竜族なら、魔王はもっと大きいと思う」

勇者「きっとあれは分身じゃないかな」


エルフの騎士「確かに……。言われてみればそうか」

魔法使い「じゃあ魔王まだあの城の中にいるということですね、勇者さま」


勇者「そういうことだろうな。魔物に気付かれずに行くぞ」

エルフの騎士「わかっている。幸いにも今は夜中だ、魔物も野営で眠っているだろう」


魔法使い「うん……。視力上昇の魔法で確認したら、そうだった」


勇者「やっぱり魔法使いはすごいな」

魔法使い「そんなことないです……私なんて……」


エルフの騎士「それくらいにしておけ魔法使い。自虐するほど、君は弱くない」

魔法使い「ん、ありがと……。エルフの騎士」


——
——
——

〜 明け方 〜


勇者「もうすぐだ」

エルフの騎士「しかし、おかしい。城の近くになるにつれて魔物の数が減るなんて」


魔法使い「なんでだろ」


勇者「もしかしたら、全軍を投入しての決戦をしているのかもしれないな」

エルフの騎士「……それでも無防備過ぎないか」


魔法使い「奇襲なんて絶対にこないと考えてるのかな」


エルフの騎士「ならば人間もエルフも舐められたものだな」

勇者「しかしその油断があったからこそ、こうして安全に城までたどり着けたんだろ」


エルフの騎士「それもそうだ」


魔法使い「……姿が見えない相手と喋るのって、なんだか不思議」

勇者「いまさらか」


エルフの騎士「手のぬくもりだけはしっかりと伝わるぞ。我が君と魔法使いのな」


魔法使い「エルフの騎士の手、ちょっとひんやりしてる」

勇者「そうだな。俺もそう思ってた」


エルフの騎士「……酷くないか」


勇者「さあ、魔王城も目の前だ」

魔法使い「……とうとうここまで来たんですね」


エルフの騎士「これで、隊長の仇が取れるのだな」


勇者「やはりと言うべきか、かなり大きいな……。だけど、想像していたのとはちょっと違う感じだ」

魔法使い「うん」


エルフの騎士「もっとおどろおどろしいかと思っていたが……。まるで人間の城みたいだ」

勇者「確かにそうだ」


魔法使い「でも、ここに魔王がいるのは本当」

勇者「ああ……。勇者計画の終わりの場所」


エルフの騎士「勇者計画?」

勇者「魔王を倒すための全てを勇者計画と言うんだ」


エルフの騎士「なるほど。人間とは本当に不思議なことばかり考えるのだな」

勇者「ははは、確かにそうだな。俺もそう思うよ」


魔法使い「……たぶん、あそこから入れます」

勇者「そうか。じゃああっちに向かおう」


エルフの騎士「了解した。私が手を引っ張って先導しよう」

勇者「頼んだ」


魔法使い「お願い」

エルフの騎士「ああ、任せろ」


—— 魔王城 ——


勇者「……もう指輪を外しても平気そうだな」

エルフの騎士「そうだな。魔物の気配が一切しない。逆に不気味すぎる……」


魔法使い「……うん」


勇者「魔王がいるとするなら、きっと一番奥になるだろう」

エルフの騎士「謁見の間、みたいな所があるのだろうな」


魔法使い「先に銃を組み立てます」

勇者「そうしてくれ。いつでも戦えるようにした方がいい」







魔法使い「お待たせしました」

勇者「終わったのか」


エルフの騎士「……待っている間も魔物の気配がしなかった」

魔法使い「本当に城を空にしたのかな」


勇者「それは分からない。でも、体力が温存できると考えておこう」

エルフの騎士「ああ」


魔法使い「はい」

勇者「じゃあ、注意深く進んでいこう……」


エルフの騎士「了解」

魔法使い「うん」


——
——
——

勇者「……なあ、この建物の造り。どこかに似てないか」


エルフの騎士「わかる。火竜がいた火山の坑道の遺跡や炎の神殿だろ」

魔法使い「うん。よくわからないモノでたくさん」


勇者「もし魔王が竜ならば、古代文明と深い関わりを竜は持っているということになるのかな」


エルフの騎士「それはわからない。だが、そんな気もする」

魔法使い「……」


勇者「古代文明、人間だった女神。女神が作ったエルフと魔物、それに魔法。魔法使いの銃……。竜族の関わり……」

エルフの騎士「昔の者が考えたことなどわからないぞ我が君」


魔法使い「うん」

勇者「……それもそうだな」


エルフの騎士「それに我が君にはそういうのは似合わない」

勇者「なっ!」


魔法使い「ふふ」

勇者「魔法使いまで……」


エルフの騎士「……っと、そんな楽しく会話をしている場合じゃなかったな」

勇者「……分かれ道か。上か、真っ直ぐか……」


魔法使い「どっちだろ」


勇者「……上に行ってみよう」

エルフの騎士「了解だ」


——
——
——


勇者「……ここは、なんだ」

エルフの騎士「うすっぺらい箱に、大きいガラスの筒?」


魔法使い「このロープみたいな、でも見たことの無い素材で作られてるものはなんだろ……」


勇者「ん、この壁に何か彫ってある」

エルフの騎士「見たことのない文字だ」


魔法使い「……これ、学院にあった古文書と同じ文字」


勇者「それはつまりどういうことだ」

魔法使い「きっとここは古代、機械文明の地で間違いないと思います……」


エルフの騎士「解読はできないのか」

魔法使い「辞書がないから、難しいけど……。ちょっとだけやってみたいと思う」





魔法使い「……か、ウラ……きけん? しょうさい……レポ……?」





エルフの騎士「何のことかさっぱりわからんな」

魔法使い「ごめんね」


勇者「いいや、仕方ないさ。壁もボロボロだし」


魔法使い「あ、ここに……なんだかすごく硬い紙があります」

勇者「……古代文明って数千年前のものなんだよな」


魔法使い「はい」

勇者「それ、全然劣化してないじゃないか」


魔法使い「何か特別な舗装がされているみたい……」

エルフの騎士「過去の人間の技術だろうか」


魔法使い「これなら、ちょっとは解読できるかも」

勇者「時間は惜しいが、頼んだ」


魔法使い「はい。単語を拾う程度なら……」




全・・・・人・が死・・・る事・・多発
おそらくは・・・・・・・・・女・・・
・・・・・ば・・いた
・・・・・感染・・・・は、・・・・・から・・・・・・死・・・・・
・・・・・不思議・現象・生まれた
・・・おとぎ・の魔法の・・・

生き残った・・・・勢力が、・・力を・・・・・・・造り、・・女の・・・・・・・・・・・
・・友・、・・手紙・気付いた・・・——




魔法使い「ふぅ……。このくらいです」

勇者「ありがとう」


エルフの騎士「解読できた単語を拾うと、全ての人が死ぬ事が多発した?」

勇者「よくわからないな。でも、魔王に関する記述ではなさそうだ」


魔法使い「私もそう思います」

勇者「じゃあ、これはここに置いていこう」


エルフの騎士「ああ。……次はさっきの道を真っ直ぐ行くんだな」

勇者「そうだ。……これは、きっとここにいた誰かの手紙なんだろうな」


魔法使い「数千年も残したい手紙だなんて……」

エルフの騎士「そのとき、とても重要なことを誰かに伝えたかったんだろう」


勇者「その伝えたかった相手に、俺たちは含まれない」

魔法使い「……うん」


エルフの騎士「時代が違いすぎるからな」

勇者「数千年前はどんな時代だったんだろうな」


魔法使い「想像もつかない文明技術だったと思う」

エルフの騎士「ああ。この建物を見ていると、そう思う」


勇者「だろうな。さてと、感傷に浸るのもこれくらいにしようか」


魔法使い「はい」

エルフの騎士「ああ!」


勇者「俺たちは今を生きなくちゃいけないんだからな」

魔法使い「そうです」


エルフの騎士「生き残る戦い、それが私たちの合言葉だからな」


——
——
——


勇者「次はこっちの道だな」


エルフの騎士「奥へ奥へと進んで行っているから、とりあえずは間違いないと思う」

魔法使い「これだけ広いと、左手の法則も使えない」


勇者「……凄く長い通路だ」

エルフの騎士「火が灯っているのは、やはり魔物の居住区でもあるからだろうな」


魔法使い「うん。壁のたいまつはまだ新しい。きっとそう」

エルフの騎士「たいまつの火を消すことすらできないほど、切羽詰っているのだろうか」


勇者「山岳の国に残った皆が善戦しているからだと信じたいな」

エルフの騎士「ああ」


魔法使い「……気をつけて下さい。所々崩れています」

勇者「ありがとう」


エルフの騎士「この先には何があるのだろうな」

魔法使い「わからない」


勇者「何があっても、魔王にたどり着くまでは死なないさ」

エルフの騎士「もちろん、魔王と出会ってからも死なないけどな」


魔法使い「うん」


勇者「大きな扉だ」

エルフの騎士「如何にもだな」


勇者「ああ。この先に魔王がいるのかもしれない」

魔法使い「っ!」


勇者「そんなに緊張するな。それだと、普段の実力が出せないぞ」

魔法使い「……」


エルフの騎士「深呼吸だ魔法使い」

魔法使い「すぅー、はぁー」


勇者「落ち着いたか?」

魔法使い「はい……なんとか」


エルフの騎士「……でも、実は私も緊張している」

勇者「ははは。俺もだよ……」


魔法使い「え」


エルフの騎士「緊張しないはずがないだろ? この先に魔王がいるなんて考えたら……」

勇者「そうだよなぁ」


魔法使い「そうだったんだ……。いっしょ」

エルフの騎士「ははは」


勇者「実は、魔法使いが一番きもが据わっているのかもな」


魔法使い「そんなことっ!」


勇者「……さてと、俺たちも少しは落ち着いたろ」

エルフの騎士「ああ。魔法使いのおかげだ」


魔法使い「えっと」


エルフの騎士「魔法使いはいつだって私を支えてくれているんだぞ」

エルフの騎士「火竜との戦いじゃ、私が鼓舞されたくらいじゃないか。もっと自信を持って誇っていいと思う。エルフの士気を上げたと」


魔法使い「あのときはそんなつもりじゃ」

勇者「そんなことがあったのか」


エルフの騎士「ああ! あのとき、私は魔法使いに対して尊敬の念を抱いた。これは私の宝物だ」

魔法使い「は、恥ずかしいから止めて」


勇者「俺も魔法使いからは色んなものを貰ってるよ。立ち向かう勇気とかさ」

魔法使い「勇者さままで……」


勇者「さあ!! いざ扉の向こうへ!」

エルフの騎士「ああ! いくぞ、魔法使い!」


魔法使い「もう……。うん、やっつけようね!」


勇者「……」

エルフの騎士「……」

魔法使い「……」

ここまで
またある程度書き留めたら投稿します

魔王軍との会戦編の分も含めておつー
終了するまでに魔法使いの絵をあげたいがやっぱり納豆がいかない


—— 広間 ——


エルフの騎士「なんだここは……。どうしてこんなに開けた場所があるんだ」

勇者「……ここに魔王はいないのか」


??「そうだ!! その通りだ!! よくぞ来た、勇者とその仲間たちよ!!」


勇者「誰だ!!」

側近「私は魔王さま一の側近!! ふっ、この闘技場は私の芸術作品の一つ……」


エルフの騎士「……あれが? あんなキザ野郎が?」

魔法使い「二階から見下ろしてる……。狙撃しますか?」


勇者「狙撃しろ、魔法使い」


側近「ちょ、ちょっと待て!! 少しは私の話を聞くという気にはなれんのか!」

勇者「……めんどくさいなぁ」


側近「聞こえているぞ! ふっ、だがお前たちの命ももはやこれまで」

エルフの騎士「いちいち煩わしい奴だ。魔法使い、頼んだ」


魔法使い「わかった。すぅ……」

側近「よくわからんが待てと言ってるだろ!! それになんだそのでっかい鉄の筒は!?」


勇者「お前が知る必要はない」

側近「こんのっ!!……ふっ、まさかこの私を怒らせて、思考回路を鈍らせようという作戦なのだな」


勇者「もうそれでいいよ……」


側近「だが!! 魔王さま一の側近のこの絶対で華麗なる美しすぎて魔物も人間もエルフすらも」


ズバァァァンッ!!


側近「ってうお!?」

魔法使い「適当に撃ったから外してしまいました」


勇者「もっとしっかり狙わないと」

魔法使い「弾が一発無駄になっちゃった……」


側近「ほ、ほほう。ふっ。流石の私もとさかにきたぞ!!」

エルフの騎士「しっ!」


シュ!


側近「つ、次は矢か!? それでも勇者一行か!!」

勇者「魔物は敵だが……」


側近「バカにしてバカにして!! 私をこけにしたことを後悔させてやる!! 悔いて懺悔しても許さないからな!!」


エルフの騎士「あれは本当に魔王の側近なのか?」

魔法使い「わからないけど、違うと思う」


勇者「俺もそう思ってたんだよ」


側近「こんのおおお!! ええい、出でよ我が精鋭たちよ!!」

勇者「っ!! 何か来るぞ!!」


エルフの子供?「…………」
エルフの子供?「…………」

エルフの子供?「…………」
エルフの子供?「…………」

エルフの子供?「…………」
エルフの子供?「…………」

エルフの子供?「…………」
エルフの子供?「…………」




エルフの騎士「あれは、樹海でさらわれた子供たちか!? 同胞たちよ、無事だったか!!」

勇者「待て!! どうも様子がおかしい……。それに、肌の色が薄黒い……」


魔法使い「……」




側近「弓矢を構えろ」

エルフの子供たち?「…………」




エルフの騎士「どうしたのだ!! 何故私たちに武器を向けるんだ!!」

側近「ふっ、フハハハハ!! こいつらはエルフなどではない! 私の超可憐な技術によって生まれ変わった、ダークエルフだ!」


ダークエルフ「……」

エルフの騎士「ダークエルフ!? どういうことだ!!」


側近「魔物の羊水で満たした入れ物に浸し、その力でひたすら魔力と身体能力を鍛えた」

側近「さらに私や魔王さまの命令にのみ従うように躾け調教した作品たちだ!」


エルフの騎士「さ、作品だと!? 貴様は我が同胞たちを辱めるだけでは飽き足らず、道具扱いをするのか!! どこまで愚弄するっ!!」


勇者「落ち着けエルフの騎士……っ!」

魔法使い「勇者さまも、落ち着いて。剣を握る手が震えてる……」


側近「まだ数こそは揃え切れなかったが、この人数でも下等なお前たち人間の相手にさせるのは事足りる」


エルフの騎士「外道が……下種が、下賎がぁあ!!」

勇者「落ち着け!! 復讐心に囚われない誓いを忘れたのか!!」


エルフの騎士「……くっ、ぐぅぅぅ!!」


勇者「……」

魔法使い「どうするのですか」


エルフの騎士「我が君、私はもう我慢できないんだ」

ダークエルフ「…………」


エルフの騎士「あの可哀想な子供たちを見ていると、胸が張り裂けそうだっ」


勇者「ああ。俺だってそうだ。……だから、全力をもってあの側近を倒すぞ」

魔法使い「狙撃します。次は絶対に外さない!」


エルフの騎士「我が君、魔法使い!」

側近「ふっ。無駄な足掻きを」


勇者「さあ、行くか」

エルフの騎士「待ってくれ我が君」


勇者「エルフの騎士?」

エルフの騎士「ここは私一人に任せてくれ。……我が君たちは、魔王の元へ急いでくれ」


勇者「だが!」

エルフの騎士「ここで時間を食うわけにはいかんだろう!! 頼む我が君! 私を信じてくれっ」


側近「させるものか!! 行け、ダークエルフども!!」



ダークエルフたち「…………っ!!」

== ダークエルフたちは一斉に矢をはなった ==


エルフの騎士「はあ!! 水魔法!!」

== エルフの騎士は矢をすべて払い落とした ==



側近「なん……だと……っ!」

エルフの騎士「私は負けない、生き残ってまた再会しよう我が君」


勇者「……」

魔法使い「勇者さま……」


エルフの騎士「あの下種は私が倒す。倒さなければいけない……! 我が同胞の弔いのために、私の父代わりであった隊長や、家族のような里の皆のために!」


勇者「……そうか。でも、絶対に生き残るだぞ」

魔法使い「勇者さま!?」


側近「ふっ。だが、このダークエルフたちから囲まれてどうやって抜け出すというんだ」


勇者「……魔法使い、学院長から貰った魔道具は使えそうか?」

魔法使い「ダメです……。一度発動してしまったから、姿を消す魔法が消失しています」


勇者「そうか……。じゃあ、力尽くだな。魔法使い、俺につかまれ」

魔法使い「っ! えっと、その……。重量魔法で、私と勇者さまの体そのものを軽くしますっ」


勇者「無機物限定じゃなかったのか?」

魔法使い「私もちょっとずつ成長しています……」


勇者「そうか! 頼んだぞ、しっかりとつかまれよ魔法使い!」

魔法使い「う、うん……」


エルフの騎士「魔法使い、こんなときまで照れなくてもいいものを……」


側近「逃がすものか!! いけ、ダークエルフども!!」

ダークエルフたち「っ!!」




勇者「やあああああ!!」

魔法使い「っ!」

== 勇者は跳躍した ==




側近「ダークエルフたちの頭上を飛び越えるだと!?」

エルフの騎士「流石は我が君だ!」


ダークエルフたち「……!?」


側近「逃がすな! 追えーーーー!!」

エルフの騎士「おっと、ここからは行き止まりだよ!」


ダークエルフ「…………」

側近「くぬぅ!」


エルフの騎士「我が同胞たちよ!!」


側近「無駄だ! ダークエルフどもに理性などからな、ふっ」

エルフの騎士「どういうことだ!?」


側近「魔物の羊水は、他の種族にとってそれ自体が拷問にも使えるほどの劇物のようなもの」

エルフの騎士「なっ!」


側近「こいつらの顔を見ると思い出す。あの苦痛に歪む美しい顔を。地獄の業火に焼かれるような絶望の悲鳴をっ!」

エルフの騎士「きさまぁああああ!!」


側近「フハハハハ!!」

エルフの騎士「フーフー!」


ダークエルフ「…………」


側近「ふっ、この私の最高傑作たちは先日出来上がったばかりなのだ。美しいだろう?」

エルフの騎士「美しいものか!! 我らの誇りでもあった白い肌が、こんなっ!」


ダークエルフ「…………」

側近「だが、もはやこうなっては遅い。全てを憎しみの感情で染められたこれは、私と魔王さまの魔法でしか操れない!」


エルフの騎士「目を覚ませ同胞!! お前たちは誇り高き種族、エルフ族だ!!」

ダークエルフ「…………」


エルフの騎士「そんな……」

ダークエルフ「…………」


側近「壊れた心など、もはや誰にも治せないさ。ふっ、破壊こそ美、絶望こそ可憐!!」


エルフの騎士「そんなはずはない!! 我らエルフ族は、森を、水を、山を愛し、そこに里を造り暮らす!」

エルフの騎士「本当の美しさは、そういう新たに芽生える何かだ!!」


側近「黙れ!! この芸術を知らぬ愚者が!」

エルフの騎士「何度も言おう!! 貴様の作品は所詮ただの自己満足にしか過ぎない!!」


側近「黙れぇっ!! いけっ、ダークエルフども!!」




ダークエルフ「…………」

エルフの騎士「……これは」




側近「何故動かん!! このエルフを殺すのだ、ダークエルフども!!」



ダークエルフ「……おね……ん」

エルフの騎士「お前!!」



側近「ばかな! ええい、これでもか! 操作魔法!!」



ダークエルフ「っ!!!!」

エルフの騎士「どうした!? 何をしている、止めろ!!」



側近「ふっ、まだ未完成品だったか! ならば体が壊れようが私の命令に無理やりでも従わせるまで!!」

ダークエルフ「————っ!!!!」


エルフの騎士「止めろ……! 止めてくれっ……」


側近「フハハハハハハ!!」


ダークエルフ「——ロ、し——て——」

エルフの騎士「どうした!?」


ダークエルフ「コロ——してっ——」

エルフの騎士「そんなっ!!」


側近「まだ背くか!! 何故だ、私の研究は、芸術は完璧だったはずだ!!!!」

側近「操作魔法!!」


ダークエルフたち「————アアアアアアアアア!!」

エルフの騎士「お前たち!!」







ダークエルフ「——……」


側近「ようやくか、ハァハァ! フフ、フハハハ、フーーハハハハハ!!」

側近「さあ殺せ殺せ!! 魔王さまに背く愚者は惨たらしく殺しつくせ!! ハーッハッハッハ!!」


ダークエルフ「————!」

エルフの騎士「止めろ! 頼む……もう一度だけでいい……返事をしてくれ!」


ダークエルフ「…………っ」

== ダークエルフたちは一斉にエルフの騎士に斬りかかった ==


エルフの騎士「なっ!! くっ……!」


側近「やれやれーー!!」


エルフの騎士「……お前たち、泣いているのか」

ダークエルフたち「…………」


側近「どうせそれは壊れた体の制御が効かない分泌液だ。ふっ、藁にも縋る重いかもしれんが、見苦しいぞ」


エルフの騎士「殺されること、それがお前たちの……望みか?」

ダークエルフたち「…………」


エルフの騎士「そっか……。ならば、今すぐ楽にしてやろう」

側近「この数のダークエルフに敵うものか! いけ!!」




エルフの騎士「安心しろ、私が絶対に救ってやる!!」




側近「フハハハハ!! 殺せ殺せ殺せ殺せーーーー!!」




エルフの騎士「行くぞ!! やあ!!」

== エルフの騎士の こうげき! ==



ダークエルフ「…………っ!」



エルフの騎士「許せ……」

ダークエルフ「オオオ……っ」


側近「たったの一撃だと!?」


エルフの騎士「ダークエルフと言うが、それでもまだ子供だ」

エルフの騎士「成人したエルフに真正面から挑んでも、結果は見えている!」


側近「なんだと!! ならば、チームワークで戦え!!」





== ダークエルフの こうげき! ==
== ダークエルフは やをはなった! ==
== ダークエルフは まわりこんだ! ==
== ダークエルフは ようすをうかがっている! ==





エルフの騎士「ちっ、流石に多い。動きを管理しきれないな……」

ダークエルフ「——!」


エルフの騎士「そこ! 次にそこだ!!」


ダークエルフ「アアアアア!!」

ダークエルフ「オオオオオオ!!」


エルフの騎士「なんて断末魔だ……。それほど、全てを憎み恨んでいるのか……!」


側近「絶望で壊れる心ほど美しいものはない! それと同時に、心ほど脆いものはない! ふっ、心理ならぬ真理だな」

エルフの騎士「貴様のような奴がいるから戦争が終わらないと何故わからない!!」


側近「戦争で散る命とは、涙を流してしまいそうになるほど愛しく狂おしい美しさを持っているではないか」


エルフの騎士「狂ってる……」

側近「芸術家とは常に狂人扱いを受けるものさ。ふっ、でもその後の歴史では絶賛されているもの」


エルフの騎士「貴様のような外道が賞賛されることなど二度とない!」

側近「今にわかるさ……フフフ」


ダークエルフ「————!!」

エルフの騎士「くっ!」


ダークエルフ「……コロシテ、コロシテ、コロしテ」

エルフの騎士「え?」


ダークエルフ「シニタイ……コロシテ……」


側近「ああー、本当に壊れてしまったか……。芸術とは脆くていかん……。そこが美しいのではあるが!」


エルフの騎士「くっそおおおおお!! やあ、はあ!!」

ダークエルフ「オオオオオオオ!!…………り、がと……アア……」


エルフの騎士「ああああ!! どうしてだ、何故!! 何故私が同胞を倒さねばならない!!」


側近「泣いているのか? ふっ、戦場で泣くなど恥を知るのだな!」

エルフの騎士「今は泣き虫女と言われてもいい!! 同胞に、死んでいった同胞の子供たちを傷付けるときに流せない涙など必要ない!!」




ダークエルフ「————!!」

ダークエルフ「アアアアア!!」


エルフの騎士「やあああ!!」

ダークエルフ「アアアア!!……あ、がと……オオオオ……」


エルフの騎士「礼なんて言わないでくれ!! 涙を流しながら刃を向けないでくれ!!」

エルフの騎士「私のことも憎め、恨め、せめて……せめてそうしてくれ……あぁ……っ!」





側近「これはこれは。なんとも美しいっ! 操作される仲間を、しかも仲間の子供を殺しているシーンとはな!」

側近「お互いに涙を流しながら攻撃し合う、殺し合うなんて! どうにかしてこの場面を残せないだろうか! ああ、芸術とは一瞬……儚い!」





エルフの騎士「黙れーーーー!! うおおおおおお!!」

ダークエルフ「オオオオオオオオ!!」


ダークエルフ「アアーーーーーー!!」


エルフの騎士「頼む、殺意を向けろ……!」

エルフの騎士「殺意のない剣など、矢など……。それなのに、殺そうとするなんて……悲しすぎるだろ!!」



ダークエルフ「アアアア!! アアアア!!」

エルフの騎士「その涙を受け止める資格なんて、私には無いんだからっ! はあああ!!」


ダークエルフ「オオオオ……がと……」

エルフの騎士「どうしてだ!! 正気になれ!!


側近「ふっ、それこそ無理だ。ひと月以上も羊水に漬け込んだのだからな!」

エルフの騎士「そんなっ!……もう、頼む。止めてくれ!!」


側近「それも無理だ。死こそ全て、絶望こそ全て!!」

エルフの騎士「下賎が!! つっ、回復魔法!」


ダークエルフ「アアア! アアアアア!!」

エルフの騎士「つぅっ! やああ!!」


ダークエルフ「オオオオ………ごめ、ね……」

エルフの騎士「ハァハァ……くぅ!」




側近「……おや?」

側近「もしや、私の作品が……!? 負けているだと!? ええい、何をしている!! 操作魔法!!」




ダークエルフ「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ダークエルフ「オオオオオオアアアアアアアアア!!!!」
ダークエルフ「アアアアアアアァァァァァァァァ!!」




エルフの騎士「聞きたくないっ」


側近「さっさと殺せぇ!!」

ダークエルフ「おオオオオおオオォォォォォォおォォオォオ!!」



側近「フハハハハ!! それでいい、それでいいのだ!」



ダークエルフ「アアアああアアあアあああアアアアア!!」



エルフの騎士「もういいだろう!? これ以上同胞を壊さないでくれ、お願いだから!!」


ダークエルフ「オアオアオアオアアアアアアアおおおあおあアアアァァアア!」

== ダークエルフたちは 無我夢中で エルフの騎士を こうげきした! ==


エルフの騎士「もはや剣技ですらないじゃないか……!!」

ダークエルフ「コロシテ、コロシテ、コロシエ、コロオオ、オオオオオ!」


エルフの騎士「……わかった。わかったからっ」


側近「ちっ、やり過ぎたか……! これではもはや戦闘もできないじゃないではないか!」

エルフの騎士「貴様にはそれしかないのか!?」


側近「何を言っている? これでは、ただの”出来損ない”だ」


エルフの騎士「出来損ない……だと……!!」

エルフの騎士「ここまでお前が壊して、それが出来損ないだと!?」


ダークエルフ「アアアアあぁぁァぁぁアァァぁぁ!!」


エルフの騎士「もはや心も、何もかも壊しておきながら出来損ないとぬかすか!!」

側近「ふっ。命令も忠実にこなせない作品に、何の意味がある?」


エルフの騎士「生きている!! この子供たちは確かに生きている!! 作品じゃない! ましてや貴様の道具でもない!!」

エルフの騎士「精一杯里で生きていたんだ!! 小さくても大きなその命を大事にしてきたんだ!!」


エルフの騎士「貴様ら魔物はそれを全て奪って壊してきた!! 許せない……絶対に許さない!!」

側近「だからどうしたと言うのだ!!」


エルフの騎士「すまない、子供たちよ……。今は眠れ……」

エルフの騎士「はああああああ!!」



ダークエルフ「オオオオオ……」
ダークエルフ「アァアァァ……」

ダークエルフ「オオアアオアオア……」



側近「な、何をしているダークエルフども!! そいつを早く殺せ!!」

エルフの騎士「もう無駄だ……。貴様は、私の矢で殺す」


側近「ふ、フハハハ! 私とて魔王さま一の側近だぞ!? 矢の一本程度、どうってことはない!」

エルフの騎士「ほざくな。戦えないからそこで高みの見物をしているくせに……」


側近「だ、だがこの距離で届くと思っているのか!?」


エルフの騎士「……子供よ、一本だけ矢を借りるぞ」

ダークエルフ「…………」


エルフの騎士「……すぅ、はぁ……」


側近「や、止めろ!! ダークエルフども!!」

ダークエルフ「オオオオ……——」


側近「何をしている!! 動け、命令を聞けーー!!」


エルフの騎士「……んっ!」

== エルフの騎士は やをはなった! ==


側近「……ふ、フハハハハ!! 外しているではないか!! 所詮はその程度なのだ愚者よ!」



ザシュッ



側近「な、に?」

ダークエルフ「…………」


側近「何故、私の作品が私に……!」




== 全てのダークエルフが立ち上がった ==




側近「まさか! お前は一体として殺していなかったのか!?」

エルフの騎士「当たり前だ……」


側近「それだけ傷だらけになりながらも、何故!!」

エルフの騎士「同胞の子供を殺すくらいなら、死んだほうがマシだからな……」


ダークエルフ「……」

側近「や、止めろ!!」


ザシュ


側近「いでええええ!! うあ、うわああああ!! そ、そう、操作ま、まお、魔法!!」

エルフの騎士「集中力が切れているぞ……。それと、操作魔法の使いすぎで暴走しているんじゃないのか……」


側近「来るな、来るな来るな来るなーーーー!!」


ダークエルフ「…………」

側近「そ、そうだ! 止まれ! はは、フハハハハ!! 私の芸術はやはり完璧なの」


ザシュ


側近「……だ……ハハ……」





エルフの騎士「貴様は、私の矢で殺すと言っただろう…・」






ダークエルフ「…………」
ダークエルフ「…………」

ダークエルフ「…………」
ダークエルフ「…………」

ダークエルフ「…………」
ダークエルフ「…………」





エルフの騎士「操作している術者は死んだというのに……まだ私に剣を向けるのか……」

エルフの騎士「だが、もういい。もう疲れた……。それに回復魔法も精神力が持たない……使えない……」


エルフの騎士「そっか、私もここまでか……」


エルフの騎士「……隊長、今からそちらへ向かいます……。でも、せめて一言だけでもよかったから……父さんと呼びたかったなぁ……」






ザシュ


——
——

—— 勇者 ——


魔法使い「そろそろ下ろしてください」

勇者「そうか?」


魔法使い「はい。気配はかなり遠ざかっています」

勇者「そうか」






魔法使い「エルフの騎士、無事だといいんだけど」

勇者「大丈夫さ。なんたってあのエルフの騎士だからな!」


魔法使い「そうだといいのだけど……」

勇者「仲間を信じなくてどうするんだよ」


魔法使い「でも!」

勇者「本音を言うと、俺だって心配だよ……」


魔法使い「だって、あのダークエルフの数じゃ……」

勇者「それでも、エルフの騎士は俺たちに魔王討伐を託したんだ。信じるしかない……」


魔法使い「でも……」

勇者「でも、だっては禁止だよ……。それは、言い訳だから」


魔法使い「……分かっています。どうにもならないとき、逃げたいとき、使う言葉」


勇者「そう。だから、言い訳なんてしちゃだめだ」

魔法使い「……うん」


勇者「この戦いは、自分だけの戦いじゃないんだ。それに、誰にも言い訳はできない」

魔法使い「……」


勇者「ここまで来たら、やり抜くしかないんだ」

魔法使い「はい」


勇者「ちょっと厳しかったかな?」

魔法使い「んーん、そんなことない」


勇者「そうか」

魔法使い「……私、ここまで来たことを後悔してません」


勇者「それは本当か? 人を殺して、魔物を殺して、こんな危険な場所にまで来たのにか?」


魔法使い「近くに勇者さまがいる。それだけで私は幸せなんです」

魔法使い「それにエルフの騎士や、学院長。魔女さんに、船乗り、女商人……。みんなと出会えた」


魔法使い「エルフの騎士は私を宝物だと言ってくれた」

魔法使い「私にとっても、みんなが宝物です」


勇者「じゃあこの旅も悪いことばっかりじゃないってことだな」

魔法使い「はい!」


勇者「……さあ、あと少しで魔王だ。何となく分かる」

魔法使い「……」


勇者「もうすぐ全てが終わる」

勇者「200年続いた勇者計画。夢半ばに散っていった先代の勇者たちの願いが叶う」


魔法使い「はい」

勇者「師匠、兵士……。二人との約束を果たすんだ」


魔法使い「私も最後までお手伝いします」

勇者「ありがとう」





——〜〜〜♪
——〜〜〜♪





勇者「……これは、唄?」

魔法使い「こっちから聞こえてきます」


勇者「聞き覚えのある……なるほど、そういうことか」

魔法使い「もしかして」


勇者「ああ。ドラキュリーナだろう。俺を誘っているんだろうな」

魔法使い「勇者さま……」


勇者「悪い、少しだけ寄り道だ……」

魔法使い「……はい」


勇者「あいつの父親を殺したのは俺だ。決着をつけなくちゃいけない……全てが終わる前に」

魔法使い「わかっています。こんなこともあろうかと、銀の銃弾は持ってきました」


勇者「それは使わないでくれ……」

魔法使い「勇者さま?」


勇者「これは、俺とドラキュリーナの問題だ……」

魔法使い「ですが!」


勇者「……わかった。どうしても、という時は使ってくれ」

魔法使い「……はいっ」













ドラキュリーナ「〜〜〜〜♪……来たようですわね」

メイド「お久しぶりです……」



勇者「ああ」

魔法使い「……」



ドラキュリーナ「約束通り、貴方の命を吸いにきましたわ。覚悟なさって?」



勇者「すまないが、それだけはできないな……」

終わり

>>494
絵師様(笑)はどうかお帰りください気持ち悪い

>>494
出来たならぜひ見せてくれ

嫌ならクリックしなきゃいいものを、わざわざ見たくせに蛇蠍のごとく毛嫌いして
罵倒してくる糞なんか気にするな

絵師様(笑)はマジで消えろ
下手くそな絵なんて気持ち悪いだけ
たとえ、上手かったとしても気持ち悪い
てか、ssスレで絵をうpするのは御法度な空気があったのに最近普通に上げようとする奴がいるのはなんなの?

もし、絵を上げるならTwitterにでも上げてろ

>>520
サムネってのがあってだな
何で俺が、糞みたいな絵師様()のためにサムネの設定をいじらなきゃならないんだよ
気持ち悪い絵なんか見たくないからクリックなんてするわけ無いだろ

個人的にはすごく見たいです。自分の書いたSSで絵を描いて貰えるのは、嬉しいし
サムネで絵が見えるのも嫌という意見もあるみたいなので、名前欄とメール欄に画像アドレスを貼り付けてくれれば見に行きますよ!
最近は知りませんが新ジャンルの頃は絵師様カモンだったから、自分は気になりませんが……時代って変わるもんだねー……

>>526
それなら目に付かないし良いな
新ジャンルは見てなかったが、ssスレでは絵師様()お断りが多かったが

>>528
あなたはもう絵師関連のレスしない方がいいよ

>>529
せやな

今夜、対ドラキュリーナ戦を投稿できると思います!

訂正


>>515
×勇者「あいつの父親を殺したのは俺だ。決着をつけなくちゃいけない……全てが終わる前に」

○勇者「あいつの父親を殺したのは俺たちだ。決着をつけなくちゃいけない……全てが終わる前に」


>>516
×勇者「これは、俺とドラキュリーナの問題だ……」

○勇者「あのときと同じことを繰り返しちゃいけない」






よく考えたら、ドラキュリーナの父を殺したのは勇者じゃなくて魔法使いだった
たぶん深夜に投稿します


ドラキュリーナ「では、私も[ピーーー]おつもりかしら?」

勇者「それもしない」


ドラキュリーナ「あら。それは何故?」

勇者「紳士との約束だからだ。お前だけには何もしないと」


ドラキュリーナ「甘いですわ!! こちらは、お父様を奪われた悲しみ、憎しみで毎夜毎夜胸が張り裂けそうな思いをしているというのに!」

ドラキュリーナ「絶対に殺して差し上げましょう。私の殺意を思い知れ!」


勇者「ああ。全部受け止めるつもりだよ」


メイド「お嬢様……」

ドラキュリーナ「メイドはここにいなさい。これは、私と勇者一行の問題。私とあの人間たちでつけなければならない決着なのよ」


メイド「しかし……っ!」

ドラキュリーナ「これは命令よ。気高き吸血鬼一族であるならば、この決闘を汚させない」


勇者「流石はあの紳士の娘だ」

ドラキュリーナ「光栄ですわ。お父様を殺した人間に褒め称えられるなんてね」


勇者「皮肉じゃないんだぞ?」

ドラキュリーナ「もちろんわかっているわ」


メイド「ですがお嬢様……。まだお嬢様は!」

ドラキュリーナ「いいのよ。勇者たちが魔王なんかに殺される前に、私が殺さなきゃ」

訂正



ドラキュリーナ「では、私も殺すおつもりかしら?」

勇者「それもしない」


ドラキュリーナ「あら。それは何故?」

勇者「紳士との約束だからだ。お前だけには何もしないと」


ドラキュリーナ「甘いですわ!! こちらは、お父様を奪われた悲しみ、憎しみで毎夜毎夜胸が張り裂けそうな思いをしているというのに!」

ドラキュリーナ「絶対に殺して差し上げましょう。私の殺意を思い知れ!」


勇者「ああ。全部受け止めるつもりだよ」


メイド「お嬢様……」

ドラキュリーナ「メイドはここにいなさい。これは、私と勇者一行の問題。私とあの人間たちでつけなければならない決着なのよ」


メイド「しかし……っ!」

ドラキュリーナ「これは命令よ。気高き吸血鬼一族であるならば、この決闘を汚させない」


勇者「流石はあの紳士の娘だ」

ドラキュリーナ「光栄ですわ。お父様を殺した人間に褒め称えられるなんてね」


勇者「皮肉じゃないんだぞ?」

ドラキュリーナ「もちろんわかっているわ」


メイド「ですがお嬢様……。まだお嬢様は!」

ドラキュリーナ「いいのよ。勇者たちが魔王なんかに殺される前に、私が殺さなきゃ」


魔法使い「勇者さま、本当に私は……」

勇者「ああ。今は何もしないでくれ。吸血鬼の誇り、魂、気高さを重んじるのならさ」


魔法使い「……わかりました」


ドラキュリーナ「あら、少しは話がわかるようね」

勇者「こんなんでも勇者だからな。お前はきっと、最初に俺との一対一の決闘を望むと思った」


ドラキュリーナ「よくお分かりで。少しは認めて差し上げてもよくってよ」

勇者「それは光栄だ。吸血鬼に認めてもらえるなんてな」


ドラキュリーナ「もちろん、勇者を殺したあとはあなたも殺して差し上げます!」

魔法使い「……」


ドラキュリーナ「あなたの銀の銃弾がお父様の心臓を貫いたから、お父様は死んでしまった」

ドラキュリーナ「不死者、ノスフェラトゥであったお父様は再生能力を発動できないままに!」


魔法使い「……っ」

ドラキュリーナ「でもね、その前に……勇者、あなたよ」


勇者「ああ」

ドラキュリーナ「あなたがいなければ、勇者というものがいなければよかった……」


勇者「……」

ドラキュリーナ「あなたの存在がお父様を殺した。そして魔法使い、あなたには大切なものを奪われる苦しみ、悲しみを思い知らせてあげるわ」


魔法使い「……」

メイド「……お嬢様」


ドラキュリーナ「私の吸血鬼としての能力は戦闘向きではないの。私の持って生まれた能力は魅了だからね」

勇者「なに?」


ドラキュリーナ「だから……お父様から受け継いだ力の一部、血を操る能力……!」

勇者「それは……血の剣」


ドラキュリーナ「さあ、決闘ですわ」

勇者「おい、剣だけでいいのか」


ドラキュリーナ「あなたを屠るならば、これで十分過ぎるくらいよ」

ドラキュリーナ「この剣一つで、あなたの心臓を貫いて差し上げますわ」


勇者「そうか……」








ドラキュリーナ「参りますわ、お覚悟!!」

勇者「こいっ!」








魔法使い「勇者さま!」

メイド「お嬢様っ!!」


ドラキュリーナ「やあ!!」

勇者「なっ!?」


ドラキュリーナ「いやああ!!」

勇者「……はあ!」





魔法使い「あれは……」

メイド「……」




ドラキュリーナ「ええい!!」

勇者「……っ」


ドラキュリーナ「そこぉ!! えい、やあ!!」

勇者「……」


ドラキュリーナ「避けてばかりではなく、私にも攻撃をしたらどうなのかしら?」

勇者「……」


ドラキュリーナ「何か言いたいことがあるなら、言ってみてはいいのでは」

勇者「……君は、本当に俺に勝つつもりなのか」


ドラキュリーナ「もちろんですわ!!」

勇者「ならば……。弱すぎる……。悲しいほどに」


ドラキュリーナ「黙りなさい!! それでもあなたは私が殺してみせる!!」


魔法使い「どういうことなの。あれじゃまるで、戦い方を知ったばかりの普通の女の子……」

メイド「魔法使いさまの仰られるとおりです」


魔法使い「え」


メイド「お嬢様は、血を嫌い、戦いを嫌う。吸血鬼には珍しい、心優しい方でした」

メイド「夜の道をおっかなびっくり歩く、大人しい女の子でした……。だから、一族から逃げ隠れるように旅をしながら生きていたのに」


魔法使い「嘘……」


メイド「事実でございます。今は亡きご主人さまが、そんなお嬢様のために、血を飲ませるために何とかしようとしていたのに」

メイド「あの霧の街でお嬢様のためだけに、血を飲まず脆弱だったお嬢様のためだけに頑張っていたのに!! 私だってそうでした、だから狼男を……」


魔法使い「…………」

メイド「私はあなたたちが憎いのです。……瀕死の私を拾ってくださったお嬢様。看病して命を救ってくれたご主人さま」


魔法使い「…………」

メイド「全て、あなたたちが壊してくださいました……。お嬢様も、あんなに変わってしまった」


魔法使い「そんなっ」

メイド「……私は、心苦しいです。あんなに変わってしまったお嬢様を見ていることが」






ドラキュリーナ「やあ!!」

勇者「もう、止めろ……」


メイド「吸血鬼が同族の血を吸って得られるのは、あくまでも能力のみ」

メイド「身体能力までなんて……そんな都合のいい話など……」


魔法使い「…………」








ドラキュリーナ「うああ!!」

勇者「しっ!」


ドラキュリーナ「い、いたいっ!」


メイド「お嬢様!!」

ドラキュリーナ「し、心配いらないわっ……。再生!」


勇者「流石は不死者。再生だけは紳士みたいだな」

ドラキュリーナ「な、舐めないでくださいますか? 私は立派な吸血鬼ですの、この程度のことなんてっ!」


勇者「でも、手も足も震えているぞ……」

ドラキュリーナ「っ!!」


勇者「傷付けられて怖いんだろ……」

ドラキュリーナ「そ、そんなことありませんっ!!」


勇者「…………」

ドラキュリーナ「お父様の仇を取るのよ!! 優しかったお父様の仇をっ!」


———————— ドラキュリーナの回想 ————————
——
——

—— どこかの森 馬車の中 ——



ドラキュリーナ「お父様?」

紳士「ああ、ドラキュリーナか」


ドラキュリーナ「どうされましたの?」

紳士「いや、今日の紅茶は少し味が違うなと思ってね」


ドラキュリーナ「あ、それは……」

紳士「どうかしたのかね?」


ドラキュリーナ「えっと……なんでもありませんわ……」


メイド「ふふ。ご主人さま、今日の紅茶はお嬢様がお入れになったのですよ」

ドラキュリーナ「メイド!?」


紳士「なるほどね。通りで……ははは」

ドラキュリーナ「笑うことなんてないのに……酷いですわ……」


紳士「いやなに。こうして娘の成長を感じ取れるのが嬉しいのだよ」

ドラキュリーナ「お父様……」


紳士「よく考えれば、お前の母親も紅茶を入れるのが好きだったな」

ドラキュリーナ「私のお母様?」


メイド「…………」

紳士「おや、メイドも私の妻について知りたそうだね」


メイド「い、いえっ! そんなことはっ……」

紳士「ははは。そんなに硬くならんでもよいではないか。メイドは人間だが、私は家族のようだと思っているのだよ?」


メイド「そんな! 恐悦至極で御座いますっ」

紳士「そうだな、ドラキュリーナももういい年になったんだ。母親について少しだけ教えてやろう」


ドラキュリーナ「私のお母様ってどんな吸血鬼だったの?」

紳士「優しい吸血鬼だったよ。滅多に人の血を飲まないな」


ドラキュリーナ「私と同じですのね……」

紳士「ああ。私たちは血を飲まないと脆く朽ち果ててしまう……。せめて1ヶ月に大人一人分の血は飲まないとな」


ドラキュリーナ「それって……」

紳士「だいたい一人当たりが5リットルくらいだな」


ドラキュリーナ「そんな……無茶よ……」


紳士「せめて飲みやすそうな血を持つ人を集めてきているんだ。贅沢は言うんじゃないぞ?」

ドラキュリーナ「うー……」


紳士「お前の母も、血を飲むことを嫌った……。だから、お前を出産するときに体力が持たなかったんだ」

ドラキュリーナ「え?」


紳士「お前を産むと同時に、塵となって消えてしまったよ」

ドラキュリーナ「そんな!」


紳士「だけど、私はそれでも誇りに思う」

ドラキュリーナ「……どうして」


紳士「他者の命を重んじる吸血鬼なんて、あいつ以外にはいない。ましてや魔物と呼ばれる私たちは、命を重んじることなどしない」

紳士「そんな中で、あいつだけは一輪の百合のように可憐だった……」


ドラキュリーナ「お父様……」

紳士「私もそんな吸血鬼になりたいと思うよ」


ドラキュリーナ「……私だって」

紳士「お前はもう十分優しいではないか」


メイド「そうですわ。こんなみずぼらしい私を拾ってくださいました」

ドラキュリーナ「あのときは無我夢中だったし……!」


紳士「お前も私の誇りだよ。ドラキュリーナ」

ドラキュリーナ「……有難う御座います、お父様!」


メイド「ふふ……。さてお嬢様、ご主人さま。明日には霧の街に入ります。ご準備を」


紳士「そうだったか」

ドラキュリーナ「どんな街なんだろう……」


紳士「今度こそ血を飲むんだぞ?」

ドラキュリーナ「……はぁい」


メイド「ふぁいとっ、お嬢様!」

ドラキュリーナ「他人事だと思って……」


—— 紅の館 最後の日 ——


紳士「お前はここにいろ!」

ドラキュリーナ「何が起きていますの!? メイドだってスカルナイトを使役しているみたいだし!」


紳士「大丈夫だ、安心しろ」

ドラキュリーナ「あの旅人たちですわね!? 私が説得すれば!」


紳士「それは無理だ。あの連中は勇者一行だからな」

ドラキュリーナ「勇者一行?」


紳士「魔王討伐を目的とする集団だよ」

ドラキュリーナ「そんな! じゃあ、お父様は……」


紳士「ああ、ちょっと戦ってくるよ。魔物だから仕方ないさ」

ドラキュリーナ「お父様!! 危険よ、逃げましょう!」


紳士「逃げても追いかけられて追い詰められるさ」

ドラキュリーナ「そんなっ!」



パァンッ!!



ドラキュリーナ「きゃっ!」

紳士「どうやら、メイドが危ないみたいだ」


ドラキュリーナ「メイドが!? 早く助けに行きませんと!!」


紳士「……お前はこの部屋にいろ」

ドラキュリーナ「でもっ!」


紳士「いいな!!」


バタンッ


ドラキュリーナ「お父様!? 開けて、開けてください!! このドアを開けて!!」

ドラキュリーナ「お願い! お父様、お父様ぁ!!」






…………






ガチャ


ドラキュリーナ「……封印魔法が解けた?」

ドラキュリーナ「お、お父様!! 今そちらに、すぐ向かいますわ!!」






—— ロビー ——


ドラキュリーナ「……お父様!!」


メイド「ドラキュリーナお嬢様!」

ドラキュリーナ「……こ、これは……どういうことなのかしら」


勇者「…………」

魔法使い「…………」


ドラキュリーナ「……お父様。そんな……。……あなたたちが殺したのね」

メイド「…………」


ドラキュリーナ「答えなさいメイド。そこの人間どもが殺したのね!」

メイド「……はい」


ドラキュリーナ「許せない……っ! 私のお父様をよくも! よくもっ!!」


勇者「謝罪はしない」

ドラキュリーナ「——っ!!」



ドラキュリーナ「ああ……。お父様……」

ドラキュリーナ「……お父様」


== ドラキュリーナは紳士の血を啜った ==
== 紳士は塵芥となって消え去る ==






———————— 回想終了 ————————


〜〜〜〜〜〜〜 現在 魔王城 〜〜〜〜〜〜〜


ドラキュリーナ「許さない……私の夜を奪ったお前たちを絶対に許さない!!」

ドラキュリーナ「はあああ!!」


メイド「お嬢様!?」

魔法使い「様子が……魔力が収束しているの……?」


勇者「……」

ドラキュリーナ「はああああ!! 出でよ、使い魔!!」




デーモン「グオオオオオ!!」




メイド「使い魔!? あれはご主人さまのもう一つの能力! それも桁違いの力です!!」 

魔法使い「……ここにきて、覚醒したというの」


ドラキュリーナ「覚悟なさって!」

勇者「……こい」


デーモン「グルルルル!!」

ドラキュリーナ「デーモン、勇者に攻撃なさい!」


デーモン「ガオオオオ!!」





魔法使い「勇者さま!」

メイド「させません! スカルナイト!」


スカルナイト「カタタタ」
スカルナイト「カタタタ」


魔法使い「なっ!」

メイド「もちろん、魔法使いさまがじっとしていて下さるならば危害は加えません」


魔法使い「……っ」


勇者「魔法使いは何もするんじゃない!」

魔法使い「でも!」


勇者「俺を信じろ!」

魔法使い「……わかりました」




ドラキュリーナ「行きなさいデーモン!」

デーモン「グルロオオオオ!!」



勇者「ちっ! ぐっ……だが、遅い!!」

デーモン「ギャオオオ……っ」



ドラキュリーナ「そんな!」

勇者「使い魔は術者に強さを依存しているんだ! これだけ大きな使い魔を召喚できるのは凄いが……まだ力不足だ」


ドラキュリーナ「み、認めませんわ!! デーモンよ、復活なさい!!」

デーモン「——グオオオオ!!」


勇者「流石使い魔、ってところかな」


ドラキュリーナ「やあ!!」

デーモン「グルルルルオオオオ!」


勇者「うおおおお!!」


ドラキュリーナ「まだまだ!! やあ、ええい!」

デーモン「ガォオオオオ!」


勇者「だけど、そんな使い魔じゃ……っ! おりゃあ!!」


デーモン「ギャアアア——!」

ドラキュリーナ「くっ……そんな……」


勇者「……もういいだろ」

ドラキュリーナ「よくありませんわ!! 私の怒り、悲しみはどうなるのよ!!」


勇者「……」

ドラキュリーナ「殺す、絶対に殺す!! やああ!! ええい!!」


勇者「……」

ドラキュリーナ「ぐぬぅー……!」


勇者「鍔迫り合いでも、腕力に差が有りすぎるんだよ」

ドラキュリーナ「デーモン!!」


デーモン「グオオオオオ!!」


勇者「やあっ、はあ!!」

ドラキュリーナ「きゃあ!」


デーモン「ギャオオオォォォ……——」


勇者「今は退いてくれないか」

ドラキュリーナ「それはできませんわ! 魔王があなたたちを殺す前に、私が殺さないと!」


勇者「……俺たちは魔王に勝つ」

ドラキュリーナ「信じられると思って?」


勇者「どうしても、か」

ドラキュリーナ「そうでなくては、私はこんな所にいないもの!」


勇者「……でも、この実力差はどうするつもりなんだ」

ドラキュリーナ「……」


ドラキュリーナ「私の命に代えても……あなたを殺さないと気がすまない!!」


ドラキュリーナ「うおおおお!!」

勇者「しっ! やあ!!」


ドラキュリーナ「いっ!? っつぅ……!」


メイド「お嬢様!!」

勇者「頼む。死なないとはいえ、これ以上お前を斬りたくないんだ! 退いてくれ!!」


ドラキュリーナ「問答無用よ!! やああ!!」

勇者「おおおお!!」


ドラキュリーナ「きゃあああ!! 私の腕が……血がっ……」


メイド「やめてぇーーーー!! お願いします、お願いします!! お嬢様を傷つけないで、後生です!!」

魔法使い「メイド……」



勇者「……」

ドラキュリーナ「黙りなさいメイド!! これは私の戦いよ!!」


勇者「震えた足で立つなんて……」

ドラキュリーナ「こ、これは武者震いよ……! 再生!!」


勇者「……くそ!! どうしてだ!! 君みたいな子は戦いに参加するような事はないのに!!」

ドラキュリーナ「戦いへ誘った本人が何を言うか!!」


勇者「でも!! お前たちが人間を襲うならば俺は勇者として斬るしかなかったんだ!」

ドラキュリーナ「人間人間って言うけれど、私たちにだって日常はあった! 奪い壊したのはお前たち人間だ!!」


勇者「そもそも魔物が人間を襲わなければっ!」

ドラキュリーナ「それは責任転換ですわ!! あなたたち人間も家畜を食して生きているじゃない! 私たちもそれと同じなのよ!?」


勇者「それでも俺は勇者だ! 人間を救うために働かなくちゃいけないんだ!!」

ドラキュリーナ「そんなの関係ない!! 私は、私たちは……生きているの!! 生きていたいの!!」


ドラキュリーナ「人間の都合なんて知らない!! 私たち吸血鬼は誰かの命がないと生きていけないの!!」






メイド「お嬢様……」

魔法使い「…………」






ドラキュリーナ「どうしてもと言うならば、私を殺しなさい。どうせあの女が銀の銃弾を持っているのでしょう?」

魔法使い「……っ!」


勇者「君だけは殺さない。それが紳士との約束だから」


ドラキュリーナ「残された者の苦しみなんて知らないくせに!!」

勇者「……」


ドラキュリーナ「どれだけの後悔を繰り返したか、どうして私には力がなかったのかと……。あなたにはわかるのかしら!?」

勇者「……」


ドラキュリーナ「せめて殺してよ、お父様と同じ場所へ連れて行ってよ……」

勇者「……すまない」




ドラキュリーナ「この、このおおおお!!」

勇者「やあああ!!」


ドラキュリーナ「いやああ!! 足が、足がっ!」

勇者「もう……」




メイド「お嬢様、ああ!! ああ……お嬢様……そんな、そんな顔をしないでっ!」

メイド「…………」


魔法使い「……」

メイド「……人間でありながら、魔物に仕えて……。こんな惨めな思いをするなんて……」


魔法使い「……」


メイド「笑って下さっても宜しいのですよ」

魔法使い「笑わない。私は誰かを笑ったりしない」


メイド「お優しいのですね」

魔法使い「そんなこと、ない」


メイド「……そうでしたね。正義という残忍さを持っておられます」

魔法使い「全部、覚悟してきたから」






ドラキュリーナ「やあああ!!」

勇者「はあ!!」


ドラキュリーナ「くっ! デーモン!!」

デーモン「グロオオオオ!!」


勇者「やああああ!!」

デーモン「オオオオオ!!」


勇者「墜ちろ!!」

デーモン「ギャアアアッ!」


ドラキュリーナ「そこぉ!!」

勇者「甘い!! うりゃあああ!!」


ドラキュリーナ「痛い、痛いっ!!……再生!!」


メイド「……もう、あんなお嬢様も見ていられませんっ」

魔法使い「メイド? どこにいくの!」


メイド「スカルナイト! この魔法使いさまを、一歩を動かしてはなりませんよ」




スカルナイト「カタタタ」
スカルナイト「カタタタ」




魔法使い「スカルナイト……」

メイド「被害は加えません。安心して下さいまし」


魔法使い「どこへ行くの」

メイド「あの戦いを止めに行きます。もう……これ以上悲しい思いをしたくありませんので」


魔法使い「……死ぬつもり?」

メイド「ご明察ですね」






ドラキュリーナ「ハァハァ!! どうして、どうして私の剣が届かないのっ!! お父様の剣がどうしてっ!!」

勇者「……俺も、全てを奪われ、そして大切な人に置いていかれた」


ドラキュリーナ「……」


勇者「だからって俺はお前に対して同じことをしたかった訳じゃないんだ!」

勇者「信じてくれ!……そして、ドラキュリーナ……君の気持ちも、少しはわかるつもりだよ」


ドラキュリーナ「分かった風な事を言うなーー!!」

ドラキュリーナ「うおおおおおお!!」


勇者「無駄だ!! 君の剣の腕じゃ……っ!? 止めろ!! 剣を収めろ!!」

ドラキュリーナ「うるさいうるさいうるさーい!!」




ブシュッ!!


ドラキュリーナ「……え」

メイド「かはっ!」




勇者「メイド!!」




ドラキュリーナ「え、え!? なんで、どうして……メイドがここに……!?」

ドラキュリーナ「それにどうして勇者を庇うように立ちふさがるの!!」


メイド「ふ、ふふ……。勘違いしてはいけませんわお嬢様……。これは、こうしてあなたを抱きしめる為に……」

ドラキュリーナ「……メイド?」


メイド「かはっ!! ゴホ、ごほっ!」

ドラキュリーナ「メイド!!」


メイド「ああ……お嬢様、そんなお顔をなさらないで……どうか、あの月夜のように微笑んで……」

ドラキュリーナ「どうして!! なんでこんなことを——っ」


メイド「もう、憎しみの連鎖を終わらせましょう……お嬢様……」

ドラキュリーナ「それって、私にこの人間たちを許せと言うの……?」


メイド「違います……。でも……憎むのは……。もう……」

ドラキュリーナ「……なんでメイドがそんなことを言うのよ……」


メイド「ふふ……。簡単ですわ……。それは、もう一度……あなたに笑って欲しい、から……」

ドラキュリーナ「メイド!? しっかりして!!」


勇者「くそっ! 魔女さんから貰った特性の薬草を!」

メイド「……それはご遠慮しま、す。どうせもう、助かりっこありませんので……ね……」


ドラキュリーナ「喋らないで!! ああ、どうすれば……!」

メイド「……どうか、私のたった一つの我が侭を聞いて、頂けないでしょうか……」


ドラキュリーナ「何よ、言ってごらんなさい……っ!」

メイド「憎しみの、悲しみの……負の連鎖を断ち切って下さい……。そして、もう一度だけ、笑って……」


ドラキュリーナ「……笑えないわよっ。だって、こんなの!」

メイド「どうか……お願い、いたし……ます……」






ドラキュリーナ「…………」

メイド「ああ……。ありが、と……ご……ます……。あい……して……ます……。お、じょう……さ……——」


ドラキュリーナ「…………っ!!」


勇者「逝ったのか……」

ドラキュリーナ「……」





勇者「行こう、魔法使い……」

魔法使い「え」


勇者「もう、ドラキュリーナに戦う意思はない」

魔法使い「……はい」




ドラキュリーナ「…………」



















ドラキュリーナ「……そんな顔で、死なないでよ。どうして、死の間際に笑えるのよ……」

メイド「————」

終わり
最終章、予定ではここまでで半分くらいー

何時になるか分かりませんが、上手くいけば深夜にまた投稿します


——
——


魔法使い「どこまで進むのでしょう……」

勇者「わからない。でも、強い気配がこっちから漂ってくる」


魔法使い「はい」

勇者「……あと少しだ」


魔法使い「……あの」

勇者「なんだ?」


魔法使い「……いえ」


勇者「ドラキュリーナのことか?」

魔法使い「……」


勇者「優しいんだな」


魔法使い「そんなことない……っ」

勇者「悲しいけど、これは戦争だ……。俺は勇者として、ドラキュリーナは魔物として戦っただけ」


魔法使い「だからってメイドが死ぬことはなかった」

勇者「……ああ」


魔法使い「早くこの戦争を終わらせたい」

勇者「その気持ちは同じだよ」


勇者「こんな戦争、早く終わらせて……。もう誰も悲しむこと無い世界を作りたいな」


魔法使い「はい」


勇者「そのためには、魔王を倒して……」

魔法使い「魔王を倒して、何かが変わるのでしょうか」


勇者「魔法使い?」

魔法使い「だって、魔王を討伐しても……魔物は消えません」


勇者「……」

魔法使い「……ごめんなさい」


勇者「いいさ。俺だって、もしかすると魔王討伐に意味はないんじゃないかって思うときがある」

魔法使い「勇者さまが?」


勇者「それでも俺は勇者だからさ」

魔法使い「……はい」


勇者「そのためだけにここまで来たんだ。魔王討伐のためだけに生きてきた」

魔法使い「……」


勇者「だから、もう後には引き返せないんだ」

魔法使い「うん……」


勇者「もし、逃げたいと今でも思うなら」

魔法使い「そんなことは思いません。最後まであなたの武器として、戦います」


勇者「……ごめんな。学院で安易に誘いさえしなければ」

魔法使い「そんなこと言わないでください!」


勇者「……魔法使い?」


魔法使い「出来損ないの魔法使いと呼ばれ、罵倒され恥辱にまみれた私をここまで強くしてくれたのは勇者さまです」

魔法使い「苦しいこともあったけれど、この旅に出て後悔したこともいっぱいあったけど……」


魔法使い「それでも私はあなたの傍にいます。例え朽ち果てようとも、魂となってあなたを守ります」


勇者「……ありがとう」

魔法使い「あっ……。その、偉そうなことを言ってごめんなさい!」


勇者「ははは」

魔法使い「うぅ、笑わないで下さい……」


勇者「……魔法使い、最後まで頼らせてもらうよ。もちろん、守り抜くからな」

魔法使い「守られるだけの存在じゃない。私も戦います」


勇者「ああ、いっしょに勝とう」

魔法使い「はい」











勇者「ここだな……」

魔法使い「扉の向こうに、大きな力の波動を感じます」


—— 魔王の間 ——




魔王「……よくぞここまできた。我こそ魔物の王、魔王である」




勇者「魔王!!」

魔法使い「——っ!」




魔王「若いな……人間。お前たちの戦いは城の中に設置した魔鏡で見させてもらった。流石は勇者だ」

魔王「それと、この場にたどり着いた勇者はお前で二人目だったな」


勇者「たった二人だと」


魔王「ああ、10年だか5年前だったか……」

勇者「先代勇者か……」


魔王「今はそんな話などどうでもよい。……勇者よ。お前は何故ここに来た」

勇者「知れたこと!! お前を倒すためだ!」


魔王「この我を倒すつもりか?」

勇者「ああ!!」


魔王「フフフ、フハハハハハ!!!! おもしろい!! ならばやってみるか!!」

勇者「なっ!! なんて気迫っ!」


魔法使い「うっ……!」


魔王「だが!……その前に、一つ交渉だ」

勇者「な、なんだっ」


魔王「この我のものとなるか? そうすれば、地位と権力を約束しよう」

勇者「そんなもの要らない!! 俺は勇者だ!!」


魔王「勇者……人間の奴隷か」

勇者「……奴隷、だと?」


魔王「奴隷だろう。お前たち勇者一行は、勇者という立場であるがゆえに、どれだけの苦難を背負わされた」

魔王「それもお前のような年端もいかぬ子供に。その称号は、ただお前を縛る鎖ではないのか」


勇者「……!」

魔法使い「勇者さま?」


魔王「勇者であるがゆえに持て囃されたことはないのか」

魔王「勇者だからこそ、自分の正義を貫かなければならないことは無かったのか」


魔法使い「勇者というだけで魔物を殺めてきたのではないか!!」


勇者「……」

魔法使い「聞いてはだめ!」


魔王「人間とは醜い。他者を見下すことばかり考える」

魔王「自分さえ良いという考えばかりで、だからと言って何もせぬ者ばかり」


魔王「常に誰かの欠点、難点ばかり探す。何かを悪く言わねば気が済まぬ、自分の気に食わない存在ばかりを攻撃する」


魔王「何かに所属しなければ生きていけない脆弱。何にも所属しない者を迫害する集団。それすらも正当化する自他」

魔王「差別をしなければ生きていけぬ下等種族。顔の形や生まれた場所を気にする優劣主義。どこまでも醜いではないか」


魔王「お前たちにも経験はあるだろう」


勇者「……」

魔法使い「……」


魔王「魔物は、我らにそういう考えはない」

魔王「誰かを羨み、嫉妬し、傷付けるようなものはいない」


魔王「さあ、勇者一行よ……。我らと共に歩もうではないか。醜き人間を殺しつくすために」

勇者「断る!!」


魔法使い「同じく」


魔王「……ほう。それは何故だ」

勇者「魔王、お前が言うことは確かに一理ある。だけど、人間はそんなに悪い奴らじゃない!!」


魔法使い「そう」


魔王「何を」

勇者「確かに人間は誰かを傷付けるし、嫉妬や妬みばかりだ!」


勇者「でも! 誰かを羨むからこそ尊敬する! 尊敬するからこそ、自分もそうなりたいと努力する!」

勇者「誰かの悪い所を見つけることができるから、助け合える!」


勇者「弱くても、そうやって誰かと助け合えるから集まるんだ! 自分と違う誰かがいるからこそ、相手を知ろうと思う!」

勇者「自分や大切な誰かを守ろうとできる! 全部必要なことなんだ!」


魔法使い「それに、集団に馴染めなくても……迫害されたって、私は生きている」

魔法使い「生きているからこそ、ここにこうして立っている。死んでしまったら、何もできない……」


魔法使い「だからこそ、人間を殺す魔物たちを許せない!」


魔王「何を言うかと思えば……くだらん」


勇者「くだらなくてもいい! それでも俺はひとが好きだ! そして勇者であることを誇りにしているんだ!」

魔法使い「私も、勇者さまといる自分が誇り」


魔王「ふむ。どうやら交渉は決裂のようだな」


勇者「当たり前だ」

魔法使い「……!」







魔王「ならば、せめてここまで辿りついた人間に敬意を表しよう」

魔王「我の本来の姿で、お前たちを葬ってやろう!!」



魔王「はあああああああ!!」







魔法使い「魔王の姿が……黒い竜に!」

勇者「やはり竜だったか!」







魔王「フハハハハハ!! 我が名は竜王!! 竜族の王にして、魔の王!! さあ、死ぬがよい!」


勇者「そう簡単にやられるかよ!!」

魔法使い「うん!」




魔王「グオオオオ!!」

== 竜王は 火炎の息吹を はいた! ==



勇者「くっ! 魔法使い、つかまれ!」

魔法使い「はい。重力魔法!」




魔王「ほう。重力魔法か……。珍しい魔法を使う」




勇者「この地形はドーム状になっている! 魔法使いは上から狙撃してくれ」

魔法使い「わかりました」


勇者「俺は直接魔王と戦ってくる」

魔法使い「お気をつけて」


勇者「俺は勇者だぞ? 魔王を倒すのはいつだって勇者に決まっているだろ!」

魔法使い「うん!」





魔王「我の前に一人立つとは、愚か者よ」

勇者「そうでもないさ」


魔法使い「……弾倉に、弾は5発装填されてる。ここ、瓦礫が多い……」

魔法使い(狙うべきはどこ?)


魔法使い(……硬そうな鱗)


魔法使い(でも、この弾ならっ)








魔王「グオオオオ!!」

== 魔王は 爪で こうげきした! ==


勇者「これは、避けるしかないかっ……!」


魔王「ちょこまかと煩わしい! くらえ!!」

勇者「なっ!? 尻尾!? ぐっ、うわあああ!!!!」


魔王「フハハハ!!」







魔法使い「躊躇っている場合じゃない!」

魔法使い「すぅ……はぁ……」


魔法使い「……んっ!」


ズバァァァンッ!!

パキン!!




魔王「なんだ?」





魔法使い「え」

魔法使い「嘘、貫けない?」





魔王「……ほう、銃か!」

魔王「だがそんなおもちゃで我を倒そうなどとは言語道断!」


勇者「魔王! お前の相手は俺だぞ!!」

魔王「フハハハ! 勇者を消し炭にしたら、次はお前だ魔法使い!」


勇者「うりゃあああ!!」

魔王「そのような攻撃で我の鱗を貫けると思うてか!」


勇者「ちっ、硬い!」

魔王「次は我の攻撃だぞ!!」


勇者「ぐっ!! うおおおお!!」

魔王「我の爪を受け止めるか! 人間にしてはやりおる!」


魔法使い「勇者さま!!」

魔法使い「やあ!!」


ズバァァンッ!!
ズバァァンッ!!


パキン!!
ブシュ!!


魔法使い「次は……貫いた」

魔法使い「……辛うじて、貫ける程度ってこと?」







魔王「ぐおお! 我が、傷を……? 馬鹿な!! 魔法使い、貴様!!」

勇者「隙有り!! そこだああ!!」


ザシュ!!


魔王「グオオオ!! 貴様、鱗のない腹を狙いおったな!?」

勇者「鱗には剣を弾かれても、皮膚は流石にそうはいかないだろう?」


魔王「小癪な!! 我に傷を付けるなど、許し難いぞ下等種族どもが!!」


勇者「この程度じゃ全然ダメか……!」

魔王「死に晒せ!!」


勇者「まだまだ!!」

魔王「種族の差を見せ付けてやろう!!」


ズバァァンッ!!

ズバァァンッ!!



魔王「煩わしい!!」

魔王「グオオオオ!!」

== 魔王は 灼熱の炎を はいた! ==



勇者「魔法使い!!」









魔法使い「危ない……。瓦礫が多いから、身を隠しながら撃てるからよかった……」

魔法使い「隠れながら移動しなきゃっ」


魔法使い(岩がドロドロに溶けてる……。凄い炎だ)

魔法使い(一度でも直撃したら……危ない!)









魔王「やったか?」

勇者「余所見をするな!! うおおおお!!」


魔王「ふん! 火炎魔法!!」

勇者「くっ、魔法も使うのかっ」


魔王「我をなんだと思っている? 魔の王ぞ!!」

勇者「そんな炎!! はああああ!!」


魔王「剣をふるう風で火炎魔法を薙ぎ払ったか」

勇者「これでも勇者だからな!!」


魔王「流石は女神の祝福を受けたもの!」

勇者「……!」


魔王「次だ! いくぞ、グオオオ!!」

勇者「ちっ!」


魔王「火炎魔法!! 火の粉!」

勇者「火の玉を飛ばす魔法か! だが、見切った!!」


魔王「くくくっ、おおおお!!」

== 魔王は 爪で こうげきした! ==


勇者「なに!?」

魔王「魔法と攻撃の両立だ!! 流石に避けれまい!」




ズバァァンッ!!

ブシュ!!




魔王「ぐっ!」

勇者「助かった魔法使い!!」


魔王「あの小娘、まだ生きていたのか!!」

勇者「うおおおお!!」


ザシュ


魔王「ぐっ!! がああ!!」

勇者「いっ、つぅ……!!」



ズバァァンッ!!
ズバァァンッ!!

ブシュ!!



魔王「魔銃がこれほどの威力だと!?」


勇者「今のうちに、薬草を!」

魔王「させるものか!」


ズバァァンッ!!


魔王「がっ!」

勇者「よし、今のうちに。……少しは楽になった」






魔王「下等種族どもが!! 調子に乗るな!!」

== 魔王は 灼熱の息吹を はいた! ==

== あたりは 火の海に なった! ==


勇者「なんだと!?」

魔王「フハハハハ!! これでは自由に動けまい!!」



???「水魔法!!」

== 火の海は きえさった! ==



魔王「誰だ!!」


エルフの騎士「私は、誇り高きエルフ族の騎士!!」

勇者「エルフの騎士!」







魔法使い「エルフの騎士、無事だったんだ!」







エルフの騎士「貴様が魔王か!」


魔王「エルフ族だと!! 何故エルフがここにいる!」

エルフの騎士「もちろん我が君である勇者のために!!」


勇者「エルフの騎士……傷だらけじゃないか!」

エルフの騎士「はは……。でも、こうして生きて再会できた! 私も戦うぞ!」


魔王「人間にエルフだと……。ダークエルフよ!!」


エルフの騎士「ダークエルフたちは、消えた」

魔王「消えただと!?」


エルフの騎士「知らない人間の女が連れ去った」


魔王「なに!? だが貴様ら下等種族なぞ、我だけで十分だ!!」

魔王「広範囲火炎魔法!!」


エルフの騎士「避けるぞ我が君!」

勇者「ああ!! エルフの騎士は、後方支援で動いてくれ!」


エルフの騎士「わかっている!」




ズバァァンッ!!
ズバァァンッ!!

ブシュー!!




魔王「グオオオオオ!!!!」




勇者「流石に攻撃が効き始めたか!」

エルフの騎士「我が君、回復魔法だ!!」


勇者「ありがとうエルフの騎士!」


勇者「ダークエルフを連れ去った女の人も気になるが、今は魔王が先だな……」

エルフの騎士「後で話そう我が君!」


魔王「小癪な、小癪な!! くらええええ!!」

== 魔王は 魔法使いに 灼熱の息吹を はいた! ==




魔法使い「……移動していてよかった」

魔法使い(自分の体重も重力魔法で操作できるから、思ったよりも移動が早くできる!)




勇者「うおおおおお!!」

魔王「人間が!! 死ねぃ!!」


勇者「いっ、ぐ……っ!」


エルフの騎士「もろに喰らった!! 大丈夫か我が君!!」

勇者「こ、れくらいっ!!」


魔王「火炎の息吹!!」

エルフの騎士「くっ、水魔法!!」


魔王「我が火を消すかエルフ!!」

エルフの騎士「今の私にはこれくらいしかできないんでな!」


勇者「よくやったエルフの騎士!」

エルフの騎士「光栄だ、我が君よ!」


魔王「グオオオ!!」

魔王「灼熱魔法!! 灼熱の息吹!!」

== あたりが マグマにかわった! ==





魔王「フハハハハ! これではどうしようもあるまい!」


エルフの騎士「くっ、流石にこれは水魔法でも消せない……!」

勇者「溶岩をさけつつ、攻撃を繰り返す!」


エルフの騎士「了解した! 回復は任せろ!」


魔王「脆弱な下等種族どもが! 溶岩すら渡り歩けないくせに!!」

勇者「動きが制限されてしまう!」


エルフの騎士「ちっ! 矢を放つくらいならば!」

シュ
シュ


魔王「フハハハハ!! 効かぬ、効かぬわ!!」

エルフの騎士「やはりか……くそ!」


勇者「目を狙え!」

エルフの騎士「はっ! そうか! いくら動き回ろうとも、この距離ならば射れる!」


魔王「できるものか!!」


エルフの騎士「エルフ族の弓矢を舐めるな!!」


魔王「戯言を!」


勇者「うおおおおお!!」

魔王「鬱陶しいぞ!! くたばれ!!」


勇者「ぐっ! しまっ、溶岩が!」

魔王「フハハハハ!! 止めだ!!」


エルフの騎士「我が君!! はあ!!」

シュ


魔王「ちっ!」


ズバァァンッ!!

ブシュ


魔王「ぐおおお!」

勇者「今だ、やあああああ!!」


ザシュ


魔王「ぐはっ! ぐおぉぉぉ、この我が、我が!!」


勇者「これが人間やエルフの力だ! これが力を合わせるということだ!! 思い知ったか!!」

魔王「調子に乗るなよ下等種族ども!!」


ズバァァンッ!!

ズバァァンッ!!

ズバァァンッ!!

ブシューー!!



魔王「ぐっ!!」





魔法使い(移動しなきゃっ!)

魔法使い「きゃっ! しまっ! 瓦礫につまずいて……っ」




魔王「そこかあああ!! 死ねぇぇぇぇ!!」

== 魔王は 灼熱の息吹を はいた! ==




魔法使い「あっ……」




勇者「なっ!」

エルフの騎士「そんな!!」






魔王「フハハハハハハ!!!! 鬱陶しい虫を一人片付けてやったぞ!」


勇者「ああ……。魔王!! くそおおおお!!」

エルフの騎士「くっ! 我が矢を喰らえ!!」


魔王「そんな攻撃、貧弱すぎるわ!!」


勇者「ちっ、隙がない!」

エルフの騎士「矢ではあの鱗を貫くなんてとてもじゃないが……」


魔王「一人消えればもう終わりか! なんとも弱い!」


勇者「でもまだ諦めたわけじゃない!!」

エルフの騎士「ああ!」


魔王「無駄な足掻きよ!! くらえ!!」


勇者「ぐっ! 重い……!!」

魔王「我が爪をどこまで受けきれる!!」


エルフの騎士「我が君!!」


魔王「さあ、終わりだ! 我が火炎の息吹をくらうがよい!」

勇者「くそっ!」


エルフの騎士「させるものか! 水魔法!! はあ!!」

== エルフの騎士は 水魔法を はなった! ==
== エルフの騎士は 矢を はなった! ==


魔王「覚悟しろ! 勇者!」

エルフの騎士「くそ、全然効かない!!」


勇者「——っ!!」

エルフの騎士「我が君ーーーー!!」


ズバァァンッ!!
ズバァァンッ!!
ズバァァンッ!!
ズバァァンッ!!
ズバァァンッ!!

ブッシュ ブシュ ブシャーー!!


魔王「ぐわああああ!! な、なんだと!?」






魔法使い「ハァハァ……。わ、私だって火炎系の魔法を使う者! 一度くらい、耐え切れる!!」 

魔王「下等種族がああああ!! 自らの体に火を纏い、我が炎から身を守ったか!!」


エルフの騎士「火山の坑道で私が使った魔法を応用したのか」

勇者「流石魔法使いだ。魔法技術だけならば、誰よりも優れているな」


魔王「ならば、ならば!! 貴様の防御壁すらも耐え切れぬ我が炎を食らわせてやろう!!」

魔王「グオオオオオ!!」

== 魔王は そらたかく 飛び上がった! ==


魔法使い「重力魔法……逃げる!」

魔王「フハハハハ!! ちょこまかと動いたからと言って避けきれるものではない!」



勇者「何をするつもりだ! くそ、あの距離じゃ剣が届かない!」

エルフの騎士「くっ! 我が矢を喰らえ!!」


魔王「フハハハハ!! 逃げ回っても無駄だ!!」



魔法使い(何をするつもり!?)



魔王「はあああ…………!」


勇者「あれは!! 火竜と同じ、大きな火の玉が頭上に!!」

エルフの騎士「あれを喰らっては!! 魔法使い! 逃げろ!!」




魔法使い「……あれは、逃げ切れない」

魔法使い「じゃあ、私がすることは……」




勇者「どうして立ち止まる!」

エルフの騎士「走れ、走るんだ!!」


魔王「諦めたのか! 潔い!」






魔法使い「誰が、諦めるもんかっ」

魔法使い「すぅー……はぁ……んっ!」


ズバァァァンッ!! ズバァァァンッ!! ズバァァァンッ!! ズバァァァンッ!! ズバァァァンッ!!


魔王「火の玉を壊すつもりか!!」


魔法使い「次の5発を、弾倉に装填……よしっ!」

ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!!




魔法使い「さらに次……。……これでいい」

ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!!





エルフの騎士「見ろ! 火の玉が形を崩している!」

勇者「もしかすると、いけるんじゃないのか!」


魔王「グオオオオ!! その前に、食らわせてやる!!」

== 魔王は 大きな火の玉を 魔法使いに はなった! ==



魔法使い「——っ!!」


勇者「魔法使い!!」

エルフの騎士「避けてくれ!!」


魔王「無駄だ!! 死ね、死ぬがよい!! 燃え尽きろ!!」


ズドオオォォォォオオオン!!



魔法使い「————っ!!」


魔法使い(すごい熱量!)


魔法使い「火炎魔法!」


魔法使い(熱い……熱いっ!! 耐え切れない!)


魔法使い(ここで、終わるの? 私が……勇者さまを残して……死ぬの……?)


魔法使い「……だ」


魔法使い「……やだ、いやだ、いやだ!!」


魔法使い「私は諦めない!!」


魔法使い「こんな炎でやられるような私じゃないもん!!」


魔法使い「勇者さま!!」







== 魔法使いの ネックレスが 光りだす ==



魔法使い「……水の街で貰った、クリスタルのネックレスが!」


ゴオオオオオン!!



勇者「……」

エルフの騎士「そんな……!」


魔王「フハハハハハ!!」




ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!!





魔王「がっ!? な、なに!?」



勇者「魔法使い!?」

エルフの騎士「無事なのか!? あの火の玉の中で生きているというのか!?」



ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!! 
ズバァァァンッ!!


ブッシャー!!
ブシュ!!



魔王「グオオオオオオ!! 何故だ何故だ何故だーーーー!!」


魔法使い「グオオオ…………っ」


勇者「……魔法使いを包み込むように水の玉が」

エルフの騎士「それに、ネックレスが光っている……」


勇者「あのネックレスは、水の街で俺が魔法使いに買ってやった……」

エルフの騎士「水の魔道具だったのか!」




魔王「オオオオ……」




勇者「魔道具すら仕えなかった魔力だったのに」

エルフの騎士「火事場の馬鹿力か!」




魔法使い「勇者さま!! 魔王の眉間を撃ちました!! 脆くなっています、剣で止めを!!」

勇者「わかった!! うおおおおお!!」


魔王「させるものかあああああ!!!! 火炎魔法!!」

エルフの騎士「水魔法!! 炎は消した!! いっけええええ我が君ーーーー!!」




勇者「これで、終わりだあああああああ!!」

== 勇者は 魔王を つらぬいた! ==


魔王「グオオオオオ!! オオオオ!! 負けるのか、この我が、魔の王であるこの我が!!」

魔王「認めぬ、認めぬううう!!」


勇者「うおおおおおお!!」


魔王「ギャアアアアア!!……オオオオ……アア、我が、我がっ……——」

== 魔王は 燃え上がった ==




勇者「なっ! くっ……」

エルフの騎士「無事か我が君!」


勇者「ああ……」

エルフの騎士「回復魔法!」


勇者「……ありがとう」


魔法使い「勇者さま!!」

勇者「魔法使い!?」


魔法使い「ご無事でしたか!?」

勇者「魔法使いのおかげでね」


魔法使い「そんなこと……」


勇者「……魔王が、燃えている」

魔法使い「……はい」


エルフの騎士「ああ」


勇者「……勝ったんだよな」

エルフの騎士「そうだ」


魔法使い「私たちは、勝ったんです」


勇者「……」

エルフの騎士「我が君?」


魔法使い「帰りましょう。山岳の国へ」

勇者「少し待ってくれないか」


魔法使い「勇者さま?」

勇者「確認したいことがあるんだ」


エルフの騎士「それはなんだ」

勇者「こいつは、本当に魔王だったのだろうか……」


エルフの騎士「な、何を言っているんだ我が君?」

魔法使い「うん。……あれだけ大きな竜が、魔王じゃないはずが……」





??「よくぞその魔王の分身を倒したな、現代勇者」





勇者「誰だ!!」

白銀の剣士「俺か? 俺は、先代勇者……。今は白銀の剣士と名乗っている」


エルフの騎士「先代の勇者だと!?」

魔法使い「それに、さっきの竜が魔王の分身……?」


白銀の剣士「よくわかったな。何故、それが魔王でないと思った」


勇者「戦いの最中、こいつは俺に女神の祝福を授かったと言った」

白銀の剣士「それだけで分かるものか?」


勇者「先代勇者よ、あなたも知っているんじゃないのか」

白銀の剣士「……女神なんて、いないということか」


勇者「ああ。俺は、魔王を知るある竜に教えてもらった。もし、本物の魔王であるなら、女神なんていないと知っているはずだ」

勇者「古来から生きる竜であるならば」


白銀の剣士「その通りだ」

女の子「話、長い」


エルフの騎士「女の子?」

魔法使い「どうしてこんな所に……」


白銀の剣士「すまない」

女の子「ん」


勇者「……どうして今さら出てきたんだ」

白銀の剣士「俺はな、待っていたんだ。これが倒されるのを」


勇者「どういうつもりだ!」


白銀の剣士「本物の魔王を倒すのに、無駄に体力を消費したくないだろ?」


エルフの騎士「なんだと!」

魔法使い「本物の魔王?」


白銀の剣士「それとあと朗報だ。山岳の国から魔物は撤退した」

勇者「……そうか」


エルフの騎士「王子たちは勝利したのだな!」

魔法使い「よかった。でも、どうしてそのことを知って——」



ゴゴゴゴゴ

ゴゴゴゴゴ



白銀の剣士「っと、分身でもこの城の主が死んだんだ。崩壊が始まったぞ」

女の子「急ぐ」


白銀の剣士「ああ」


勇者「……」

白銀の剣士「私とこい勇者。魔王殺しだ」


勇者「……」

白銀の剣士「勇者として生きるのならば、付いてくるんだな」


エルフの騎士「我が君……」

魔法使い「……」





勇者「わかった。行こう」

白銀の剣士「ならばこちらへ来い」


勇者「ああ」


エルフの騎士「我が君! 私も付いていくぞ!」

魔法使い「私だって!」



勇者「いいや、二人は来なくていい」



エルフの騎士「なにっ!?」

魔法使い「勇者さま!?」



勇者「二人は戻れ」



エルフの騎士「何を言っているんだ我が君!!」

魔法使い「そうです」



白銀の剣士「仲間を死なせたくない、か」

勇者「……」


白銀の剣士「俺も勇者だったから、少しは分かるぞ。満身創痍の仲間を連れてなど行けない」

勇者「ああ」


エルフの騎士「私は平気だ!!」

魔法使い「私だって……!」



ゴゴゴゴゴゴ
ガラッ!!


エルフの騎士「瓦礫が! 危ない、魔法使い!」

魔法使い「きゃっ!」


エルフの騎士「そんな! 瓦礫が邪魔だ!」

魔法使い「重力魔法を使うから、私といっしょにこの瓦礫を飛び越えて!」


勇者「エルフの騎士!」

エルフの騎士「……我が君?」


勇者「最後の命令だ。魔法使いを連れて逃げろ」

エルフの騎士「……っ!?」


魔法使い「逃げろなんて……」


エルフの騎士「命令らしい命令なんて今までしなかったくせに……。こんな時に、命令するなんて……」

魔法使い「エルフの騎士?」


エルフの騎士「私は、我が君が望むようにするしかないんだ」

魔法使い「いや、離してエルフの騎士!」


勇者「魔法使い、お別れだ」

魔法使い「いやっ!! ここまで来て、こんな別れはいやです!! 最後まであなたの武器でいさせて下さい!!」


勇者「銃弾は残っているのか?」

魔法使い「……っ! そ、それは……」


勇者「大丈夫さ。俺は魔法使いを守るためにも、死なないから」

魔法使い「いや!! お願い、離してよエルフの騎士!!」


エルフの騎士「…………」


白銀の剣士「では行こう。向こうだ」

女の子「……」


勇者「……じゃあな」


魔法使い「勇者さま!!」

勇者「魔法使い?」


魔法使い「好きなんです!! 愛しているんです!! だから、どうか……」

エルフの騎士「……魔法使い」


勇者「……ありがとう魔法使い。俺も、魔法使いのことが好きだよ」

魔法使い「————っ!!」





ゴゴゴゴゴゴゴ

ガラララララ





勇者「行け!! エルフの騎士!!」

エルフの騎士「我が君の望むがままに——っ」


魔法使い「勇者さま!! 勇者さまーーーー!!」


勇者「……」


白銀の剣士「はやくしろ。もうこの城も限界だ」

女の子「最悪、転移魔法を使う」


勇者「すまない……。ばいばい、魔法使い」





















エルフの騎士「くっ!」

魔法使い「いや……うあ……ああっ……」


エルフの騎士「……うぅ、くそ、くそぉ!」

魔法使い「ひっく……ぐす……ああぁ……」





ゴゴゴゴゴ


ガララララ

ガラガラガラガラ!!

終わり

なんかすまん、まだ続くから

次の投稿で最後になります。今夜か深夜に投稿します


——
——

——


——




——





—— 





時は流れて

〜 3ヵ月後 山岳の国 城内 〜


山岳王「もうすっかり冬になってしまった」

女戦士「そうだね」


山岳王「して、お前は本当にいいのか?」

女戦士「なんだい王さま。いまさら自信を失ったのか?」


山岳王「いや……。こんな俺で本当にいいのだろうかと思ってな」

王女(女戦士)「いいんだよ。私の旦那様」


山岳王「……ありがとう。俺の妻よ」

王女「照れるじゃないか……っ」




兵「結婚式はもうすぐでございます! さあこちらへ、王さま、お妃さま!」


エルフの騎士「すごい豪勢だな。これが王族の結婚式か」

王子「ええ。山岳王と女戦士の結婚式です。……いずれは私たちも」


エルフの騎士「いつの間に……。あと、それはないな」

王子「そんなっ! いつになったら私の思いを受け止めて下さるのですか!!」


学院長「ほっほっほ。長生きをすると本当に色んな物を体験できるのぉ」

族長「——ご健在だったか人間」


学院長「おお! 主はエルフの族長!」


エルフの騎士「族長! きたのだな!」

族長「ああ。我らと同盟を組み共に戦った友の祝い事だ。顔を出さない訳にはいくまい」


少女「しょうじょもいるよー!」

エルフの騎士「おおー。久しぶりだな!」


族長「体の調子はどうだ」

学院長「ほっほっほ。もうほとんど魔法が使えぬわい!」


族長「そうか……」

学院長「あの戦いで全てを燃やし尽くしたでな。次に魔法を使えば、死ぬじゃろうなぁ」


族長「……」

学院長「さっさとこの老いぼれ、お迎えは来ぬものかのぉ」


エルフの騎士「……さてと」


少女「エルフの騎士、どっかいくの?」

エルフの騎士「ああ。少しな。人を迎えにさ」


少女「そっかぁ!」

エルフの騎士「ではな」


王子「ああ……。まったく、本当に照れ屋なのですから……」

少女「えー……」








船乗り「うわー! 結婚式だよ結婚式!」

水の神官「これ、大人しくしなさい!」


女船長「結婚式なんて懐かしいわねー。私たちは海賊船の上だったけれどもねー」

水の神官「そうでしたね。あの日のことはいつまでも忘れません」


船乗り「わー……また始まった……」









エルフの騎士「水の街の人間も来ていたのか!」


—— 山岳の国 大通り ——

女商人「さあ!! これほどの商売チャンスはないよ!! 売って売って売りまくるからね!!」


技師「おうよ!」

金髪「任せろお嬢!」


女商人「おっとそこの道行く人!」


モブ「なんですかぁー。ってわぁー可愛い女の子だー!」


女商人「そんなことよりも見てよこれ! 伝説の赤い竜の鱗! きっとこれを持っているだけで幸せになれるよ!」


モブ「すごぉい! どうしよっかなぁー」






エルフの騎士「あれは女商人とゆかいな仲間たちか。ははは、こんな時こそ商売ということか!」


エルフの騎士「流石は商売人だ」


エルフの騎士「いつ如何なるときも何かを売っているのだな」






女商人「あ! エルフの騎士じゃない!」

エルフの騎士「おっと、見つかったか」


女商人「ねーねー! 何か買っていってよ!」


エルフの騎士「ふむ、そうだな……」


女商人「これなんてどう? 水の街で仕入れたネックレスなんだけどさ!」

エルフの騎士「……んー、それはいいかな」


女商人「なんでよ」

エルフの騎士「私にはネックレスなんて似合わないからな。それに、贈る相手もいない」


女商人「そっか」

エルフの騎士「ああ」


女商人「あの王子には?」

エルフの騎士「ごほっごほっ!? な、なんであの人間が出てくる!?」


女商人「実はまんざらでもないんでしょー?」

エルフの騎士「ち、ちがっ! 私には興味のないことだ!」


女商人「でもさー!」

エルフの騎士「もういいだろう!? 私は急ぐから、もう行くぞ!?」


女商人「あっ! あーあ……」


金髪「なぁにしてんだかお嬢」

技師「押し売りはよろしくねェなぁ」


女商人「うるさいそこ! さっさと働け!」


二人「「あーい」」


—— 公園 ——


水女「綺麗だね、この公園」


水女「これさ、あんたがいたから守れたんだよ?」


水女「……私、あんたが誇りだよ」


水女「ちょっと冷えるかな」



魔女「あら、水女じゃない」



水女「魔女さん。来てたんですね」

魔女「ええ。そりゃあ、あの山岳王が結婚だからねぇ」


水女「ふふふ。それで、調子はどうですか?」

魔女「まあまあね。世界が平和になったせいで、商売上がったりけどねー」


水女「あはは」

魔女「それで、雷女の調子はどう? 車椅子に乗せて散歩しているようだけど」



雷女「…………」



水女「ほとんどこんな調子ですね」

魔女「そっか……。ごめんね、あのとき止めることができなくて」


水女「それはもういいんです……。こいつが自分の命を偽性にしてまで守りたい何かがあった。それだけです」

魔女「少しはあなたも成長したのね」


雷女「……あ」


水女「ん、どうしたの?」

魔女「え」


水女「少しだけ、言葉を発したり笑ったりするようにはなりました」


魔女「そう。……その子、きっと凄い潜在能力を持っているのね」

魔女「だから、地獄のいかずちを召喚しても命だけは助かったのよね……」


水女「それだけじゃないと思います」

水女「エルフの少女が必死で生きていることを訴えてくれたから……。それに、魔女さんも必死になって助けてくれました」


魔女「10年前はね、これでも回復の要だったのよ」

水女「へぇ。全然見えませんね!」


魔女「こ、このガキは……っ」

水女「……なんてね!」


魔女「……あはは!」

水女「えへへ!」



雷女「……あはっ」



魔女「あ」

水女「あ、笑った」


—— 街中 ——


子供「わー! すごぉい!」

子供「おねえちゃん、この火の動物ってどうやってるのぉ?」


「気合と根性……かな」


子供「わたしも練習したらできるようになるかな!?」


「ええ。あなたたちは、私よりも強い魔力を持ってるもの」


子供「嘘だぁー!」

子供「だって、やっとちょっとだけ火を出せるようになったんだもん……」


「大丈夫。自分を信じて、ね? もし自分を信じられないなら、私が信じてあげる」


子供「お姉ちゃんがそう言うなら……」

子供「ちょこっとだけ頑張ってみよっかな! へへ!」


「……じゃあ、私はもう行くね」


子供「うん!」

子供「王様のけっこんしきだよね! すごいよね!」


「そだね。……また、火のサーカスをしてあげる」


子供「お姉ちゃん唄も上手だから、すっごく楽しみ!」

子供「待ってる!」


「じゃあね」


子供「気をつけてね!」

子供「お土産もよろしくね!」


「わかった。ふふ……」








子供「お姉ちゃん、最近すっごく笑顔になったね!」

子供「初めて会ったときはすごく暗かったのにね……」


子供「でも、私たちを見ていたら元気になったって言ってた」

子供「僕らって実はすごい!?」


子供「調子に乗らないの!」

子供「うっ、いて! 叩かなくてもいいじゃんー……」


子供「あ、ごめんね?」

子供「いいよ! だって好きだし!」


子供「えへへ。将来は私たちも結婚しようね!」





「ふふ……」


—— 城壁 ——


ズバァァァンッ!!


「……この銃声、届くかな」





エルフの騎士「こんな所にいたのか、魔法使い」

魔法使い「……エルフの騎士」


エルフの騎士「もうすぐ式が始まるぞ?」

魔法使い「まだ時間はあるよ」


エルフの騎士「まぁそうだが……」

魔法使い「ふふ。ちょっとは落ち着いたらどう?」


エルフの騎士「なんだかそわそわしてしまうんだ!」

魔法使い「少しは分かるけど……」


エルフの騎士「だろ!?」


魔法使い「でも、エルフの騎士が結婚する訳じゃないのに、なんでそんなに緊張するの?」

エルフの騎士「それはまぁ……。やはり、憧れとか……いろいろ……」


魔法使い「あの人のこと?」

エルフの騎士「だ、だからどうしてあの王子が出てくるんだ!!


魔法使い「別に王子なんて言ってない」

エルフの騎士「なっ! い、いじわるだぞ!!」


魔法使い「ふふふ……」

エルフの騎士「……まったくもう」


魔法使い「あ、もしかして私を探してきてくれたの?」

エルフの騎士「そうだぞ? もしかすると忘れてやしないかと思ってな!」


魔法使い「そんなことないよ」

エルフの騎士「まぁ魔法使いに限ってそんなことはないと思っていたけれど……」


魔法使い「だって、こんなに嬉しい日を忘れるはず……ないよ……」

エルフの騎士「魔法使い……」


魔法使い「あーあ。勇者さまもいればよかったのに……」

エルフの騎士「…………」


魔法使い「……大丈夫だよ。もう滅多に泣かなくなったから」

エルフの騎士「……そうか」


魔法使い「毎日泣いてた私を励ましてくれてありがとう」


エルフの騎士「……だが、たまに後悔しそうになる。あのとき、我が君といっしょに行けばよかったと」

魔法使い「仕方ないよ。私たちはあのとき、戦力にはなれなかったから」


エルフの騎士「自分の不甲斐なさに失望してしまいそうだ」

魔法使い「それは私も同じ」


エルフの騎士「……」

魔法使い「……うん」


エルフの騎士「……あれから3ヶ月だ」

魔法使い「そだね」


エルフの騎士「その間に、色んなことが変わった」

魔法使い「ん」


エルフの騎士「人間たちは、魔物が大人しくなったおかげで平和に暮らせるようになった」

エルフの騎士「まだ魔物の脅威が完全に消えた訳ではないが……。それでもかなり以前とは違うみたいだな」


魔法使い「戦争が激化する5年前と比べてもそうらしい」

エルフの騎士「全部、我が君が救ってくれたんだよな」


魔法使い「勇者さまが変えてくれた」

魔法使い「……でも、心にぽっかりと穴が開いてしまった」


エルフの騎士「そうだ。大切な人を失うと、いつもそうだ……」


魔法使い「……」

エルフの騎士「辛いか」


魔法使い「ちょっとだけ」

エルフの騎士「そうか……」


魔法使い「でも、皆が生きている。生きているけど……勇者さまがいないだけ……」

エルフの騎士「……」


魔法使い「だけど、泣かない。そう決めた……」


エルフの騎士「強いな」

魔法使い「そんなことないよ……」


エルフの騎士「……」


魔法使い「そうだエルフの騎士」

エルフの騎士「なんだ?」


魔法使い「あの魔王城での戦いのとき、ダークエルフに囲まれて平気だったの?」

エルフの騎士「……強がって、無理にあの戦いを思い出そうとしなくてもいいんだぞ」


魔法使い「ばれちゃった……。でも、教えて……エルフの騎士の戦いを。知りたい」

エルフの騎士「そうか。ならば教えよう」





…………





魔法使い「体力も精神力も尽き果てて、あとは死を待つだけだったの?」

エルフの騎士「ああ。あのときは流石の私も死を覚悟したものだ」


エルフの騎士「辞世の句まで読んでしまった程にな」


魔法使い「……」

エルフの騎士「だが、そのとき知らない人間の女が現れて……——」


———————— 回想 魔王城 ————————
——
——


エルフの騎士「そっか、私もここまでか……」

エルフの騎士「……隊長、今からそちらへ向かいます……。でも、せめて一言だけでもよかったから……父さんと呼びたかったなぁ……」


ザシュ


ダークエルフ「オオオ……——」


??「一体無駄になったか」


エルフの騎士「……貴様は誰だ」

??「名乗る名など持ち合わせていないさ。……まあ、昔は剣術の指南なんてしていたがな」


エルフの騎士「わ、私を助けてくれたのは嬉しい……。だが、子供たちだけは!」

??「そのつもりだ」


エルフの騎士「そうか……よかった……」






??「これが、操作魔法の要になっている指輪か。少し暴走気味だが、まぁ大丈夫だろう」

エルフの騎士「それが……」


??「……ふむ、こうすればいいのかな」

エルフの騎士「……どうして私を助けた」


??「あんたがエルフだったから。もし人間や魔物だったら躊躇なく見捨てていたがな」

エルフの騎士「なに……?」


??「さてと、私は引き上げるかな」


エルフの騎士「ま、まってくれ! せめて子供たちは解放してくれっ!」


??「それはできない。さらばだ」


エルフの騎士「ま、待て!!」














———————— 回想終了 魔王城 ————————



エルフの騎士「それから薬草を体に塗って、魔法使いや我が君のもとに辿りついたという訳だ」

魔法使い「……ダークエルフが連れ去られたってそういう」


エルフの騎士「ああ。……子供たちのことは心配だが。あのときの私では何もできなかった」

魔法使い「うん……」


エルフの騎士「私というのは、ここぞというときに役に立てない」

魔法使い「そんなことない!」


エルフの騎士「魔法使い……ありがとう」

魔法使い「そうだよ。エルフの騎士はいつだって頑張ってる」


エルフの騎士「ところで魔法使い。ここで何をしていたんだ」

魔法使い「空に、銃弾を撃ち上げていた」


エルフの騎士「ああ。さっきの銃声はそれか……」

魔法使い「うん」


エルフの騎士「確か、それをする意味というのは」


魔法使い「あの戦いを忘れないため」

魔法使い「平和になったこの国で、皆が精一杯戦った記憶を残し続けるため」


エルフの騎士「そうだった」


魔法使い「あと……」

エルフの騎士「あと?」


魔法使い「勇者さまに、届けたいの」

魔法使い「私はここにいる。ここで待っている、って……」


エルフの騎士「……そうだったのか」


魔法使い「ずっと言わないつもりだったけど……。いつまでもぐじぐじしてられない」

エルフの騎士「その通りだ。この国は、いや人間たちは明日に向かって歩き始めたんだ」


エルフの騎士「山岳王と女戦士の結婚式は、新たな未来を目指す意味も込められている」

エルフの騎士「だからこそ、これだけ盛大に行っている。色んな場所から大勢の人間が集まっている。新しい未来を見つめる為に」


魔法使い「うん」


エルフの騎士「……行こうか」


魔法使い「……先に行ってて」

エルフの騎士「魔法使い?」


魔法使い「もう少しだけ、ここで空を見つめている」

エルフの騎士「……わかった。でも、遅れるなよ?」


魔法使い「わかってる」

エルフの騎士「ならばよし! では先に行っているからな」


魔法使い「うん」

エルフの騎士「遅れるなよ? ドレスだって着なくちゃいけないんだからな」


魔法使い「着るの?」

エルフの騎士「私は嫌なんだが、あの王子が女中を連れてきて……」


魔法使い「た、大変そうだね」

エルフの騎士「……まあな」


魔法使い「じゃあ気をつけて」

エルフの騎士「どういう意味だ!?」


魔法使い「なんでもないよ?」

エルフの騎士「うっ、なんだかいじわるだぞ魔法使い……」


魔法使い「ご、ごめんっ」

エルフの騎士「なんてな! 絶対に遅れるんじゃないぞ?


魔法使い「うん!」


——
——

——


魔法使い「……勇者さま」


魔法使い「世界は、少しだけ平和になりました」


魔法使い「でもまだ魔物の脅威が完全に消え去った訳じゃありません」


魔法使い「助けを求める人は、たくさんいます」


魔法使い「それに……私だって……」


魔法使い「聞こえていますか?」


魔法使い「大好きな勇者さま」


魔法使い「お慕いしています」


魔法使い「もう届かないのかもしれないけれど、私はここであなたに頂いた銃を鳴らします」


魔法使い「もう待っても意味はないかもしれないけれど、ここでいつまでもお待ちしています」


魔法使い「私はあなたの武器ですから」


魔法使い「使い手がいないと、私はいつまで経っても出来損ないの魔法使いのままなんです……」


魔法使い「でも、最近になって出来損ないでもいいかなと思っています」


魔法使い「だって、出来損ないだからこそ……強くなれたんだから……。でも、これは良い訳かな?」


魔法使い「……ふふ、でもとだっては禁止でしたね」


魔法使い「ここで、何千回、何万回でも私は銃を鳴らしてあなたを呼び続けます」


魔法使い「あなたが素晴らしいと言ってくれた、火炎魔法や爆破魔法で作る小さな動物や花火のサーカス。それと私は唄を歌い」


魔法使い「子供たちの笑顔に囲まれて」


魔法使い「あなたの笑顔を思い出しながら」


魔法使い「いつか私が朽ち果て、空に帰ったとしても」


魔法使い「魂となってここで待ちます」


魔法使い「いえ、魂となったら探しに行きましょうか?」


魔法使い「もし浮気なんてしてたら許しませんからね?」


魔法使い「……愛しています、ずっと」




魔法使い「すぅ……はぁ……。んっ!」




ズバァァァンッ!!




「うるせえ!!」




魔法使い「え?」


「……えっと、ただいま」




魔法使い「あ、あ……っ」


「あのさ……。さっき言ってたけど」


魔法使い「あの……!」


「少しだけ訂正させて貰うぞ」







勇者「出来損ないの魔法使い?」

魔法使い「勇者さま!!」







勇者「いいや。最高の魔法使いだよ!」

魔法使い「はい!」


勇者「待たせてごめんな。大好きだよ」

魔法使い「私もです!」




—— 最終章 勇者と魔法使い 終わり ——

これで、全部終わりです
読んでくれた人がいたならありがとうございました

初めての長編でした
続編は、反響があれば書いてみたいと思いますが……


あと、もしこんなSSをまとめる人がいるなら、あとがきなんてまとめないで下さい!
ではー


読み直すけど師匠遺体が見つからない伏線は回収されたのか?

>>634
いつから
それが伏線だと錯覚していた?

>>635
なん……だと……


普通に師匠敵化や一度あの世に来た勇者を殴って震え立たせるポジだと……

つヒント>>624

先代勇者と師匠はなにしてたん?
先代は何で姿くらましたのか、連れてた少女なんなのか、師匠はなんで生きてたか
その辺は投げっぱなしかよ

>>639
打ち切りじゃないとすると作者の体力や他の事情による駆け足の可能性

>>640
設定はあるけど
それ書き始めたら、マジで続編書かなきゃなんだよ。

>>642
逆に考えるんだよ。『続編を書いちゃえばいいんだ』と


続編を書きたくないならせめて設定集ぐらいは……

せめて、ユンボル(打ち切りの時)一巻みたいに設定をまとめて欲しい

続編書くのは別に苦じゃない。6章の時点で続編のこと考えてた。
でも、これっておもしろいのか? という疑念がある。書く方は楽しいけど。ただ他スレと比べてもなんか荒れやすいし

未完結で終わらせるのが勿体無いのと、ここまで読んでくれる人がいるから感謝の気持ちで書ききった
でも、のんびりと書きたいだけなのに殺伐とした雰囲気になるなら、酉も変えて続編なんて書かず次回作で心機一転しようかと! 
ここでのSSの書き方も慣れたし、ここで書くの楽しいし!

色々と考えたけど、続編はこっそり書くことにするよ
試しにsage進行で書いたら荒れ具合も収まったから、ひっそりとレスもなくsage進行で自己満足に浸ることにしたよ
それでも見かけたらよろしくなー! 

そのときは誰かのレスに、「クズ、氏ね、○○厨」とかの煽り、過剰反応はしないで欲しい
予想されるよりも、そっちの方が書く方としては正直きつい。これが書く気が一番無くなったから……
異論があるならそっ閉じして下さい。でも、読んでくれてありがとうございました

>>1
せめて後日談だけ書いてくれ…
マジで頼むよm(_ _)m

>>657
続編で書く予定ですよー

続編はここで書くのかな?

>>672
別スレを立てて書きますよー
流石にキリが悪いんでー

誘導はどうしようか考えている最中ー

誘導ほすぃ・・(´・ω・`)

>>680
さっきスレ立てしたんで、上から探せばすぐに見つかると思いますよー

勇者「魔王を倒したっていうのに」
勇者「魔王を倒したっていうのに」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363157097/)

なんか申し訳ない気持ちでいっぱいだから、誘導させて頂きます……

今さら遅いけど、転載禁止でお願いします
まさかまとめられるなんて思ってなかった……驚愕した……

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