【モバマスSS】時には昔の話を【藤原肇】 (16)

きっかけは肇の実家から届いた二つの段ボールだった。

同封の手紙曰く、

【春に田植えを手伝ってもらったお米が出来たので、野菜と一緒に送ります。大きな段ボールはいつもお世話になっている寮に、小さな方はプロデューサーさんへ渡してください】

とのこと。

これが葛篭(つづら)だったら大きな方は開けられないかな、なんてことを考えてしまった肇だったが、もちろん妖怪が収まっているなどということはなく。

野菜が高騰していることもあり、新米と野菜の詰め合わせは寮母さんを大変喜ばせた。

そして翌日、肇は事務所へP宛の段ボールをえっちらおっちらと運んで行った。

昔話とは逆に、小さな箱の方に彼女を驚かせるものが入っているとも知らずに。

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肇「かくかくしかじかで実家から野菜とお米が届きまして。よろしければPさんにと」

P「わざわざすまないな、ありがとう。しかし少し田植えを手伝わせてもらっただけなのに、なんだか申し訳ないな」

肇「ふふ、でしたら来年もまた一緒にお手伝いに行くのはどうでしょう?」

P「そうだな、お礼を伝える時に相談してみようか」

話の流れから自然に来年の約束を取り付け、心中でグッとガッツポーズを決める肇。

アイドルには小さなチャンスも逃さない心構えが欠かせないのである。

肇「それと母からの言伝で、Pさん宛の手紙が荷物に入っているから渡した時に読んでもらうように、とのことでした」

P「そういうことなら早速開けようか」

段ボールにはお米と野菜がぎっしりと詰まっており、その上にちょこんと手紙が乗せられていた。

P「どれどれ…」

肇としては少々内容が気になるが、P宛の手紙を覗くわけにもいかない。

なんとなく段ボールの中身を眺めると、お米の袋の横に収まっている赤い物が目に留まった。

なんだろうと思い手を伸ばしかけたその時、手紙を読み終えたPがひょいとそれを取り出した。

肇「あの、Pさん、それは一体…?」

P「あれ、肇は中身を聞かされてなかったのか」

肇に手渡された母からの手紙にはこんなことが書かれていた。

【平素より娘が大変お世話になっております。

 以前手伝って頂きましたお米が無事に実りましたので、最近収穫できた野菜と一緒に送らせていただきました。是非ご賞味ください。

 また、押入れを整理している際に肇が小さかった頃のアルバムを発掘いたしました。

 親バカな意見とは存じておりますが、大変可愛らしい肇の姿をプロデューサーさんにも是非見てもらいたいと思い、アルバムを同封いたしました。

 肇と一緒にご覧になっていただければ幸いです。

 冷え込みが厳しい季節となってきております、どうぞお身体にはお気をつけください】

肇「……」

肇が絶句してしまったのも無理はないだろう。

P「あー…なんだ、肇が良かったら、一緒に見ないか?」

肇「そ、そうですね、折角ですから、そうしましょうか」

人を形作るのは過去、なんて言葉もある。

Pが自分のアルバムに興味を持ってくれるのは、肇にとって決して嫌な事では無かった。

気恥ずかしさやどんな写真が収められているのか分からない不安もあったが、そこは母の裁量を信じることにした。

こんなサプライズを仕掛けてくる母親を信じてしまう辺り、純粋な娘さんである。

二人で並んで座りアルバムを開こうとした瞬間、ノックの音が飛び込んだ。

あまりのタイミングに驚く肇と対照的に、Pは慣れた様子で来客を迎えた。

P「どうぞー」

周子「どーも、おはようございまーす。あれ、先客がいたんだ、肇ちゃんもおはよ」

紗枝「おはようさんどすー。あらま、お邪魔してしまいましたやろか」

肇「そっ、そんなことは!」

P「あまりからかってくれるなよー。それよりどうした、二人してこんな早くから」

周子「明日は紗枝ちゃんと一緒に仕事でしょ?その確認でちょっとね」

紗枝「ついでにれっすん前に事務所でお茶でもしましょかーって、周子はんと約束しとりましたんよ」

そう話す二人の視線は、Pと肇の手元に釘付けであった。

周子「まあそれは後でいいとして。しゅーこちゃんは二人が何を見ようとしてるのかが気になるなー」

P「あー、実はな、かくかくしかじか」

紗枝「これこれうまうま、いうことやの。肇はんの小さい頃の写真となると、きっとかいらしいんですやろなぁ」

周子「ねえねえ肇ちゃん、よかったらあたし達も仲間に入れてくれない?」

肇「それは構わないのですが、あまり期待されるとプレッシャーが…」

P「それじゃあ二人とも見えるところに来てくれ、俺は早く見たいんだ」

紗枝「せっかちさんどすなぁ。気持ちは分からなくもありまへんけど」

肇「もう、Pさんまでそんなことを…」

早くも頬が赤くなり始めた肇の傍に羽衣小町の二人が並び、改めてアルバム鑑賞会が始まった。

周子「それじゃあ早速、ご開帳ー」

アルバムを開くと、そこには幼少期の肇の写真がずらりと並んでいた。

幼稚園に通うくらいの年頃だろうか、写真の肇はどれも大変愛らしく、そして古今東西可愛いものを見た女性の反応はそう変わらないものである。

紗枝・周子「……可愛いー!!!」

紗枝「えぇー、なんですのんこれ、かいらしすぎますやろ…このぬいぐるみを抱きしめとる肇はんとか、もうあかんですやろ…あかんわぁ、ほんまあかんわぁ…」

元々可愛いものが好きなのだろう、テンションが上がりすぎた紗枝は普段のはんなりした雰囲気をかなぐり捨て、様子のおかしい関西人と化していた。

周子「それも可愛いけど、こっちの着物できりっとしてる肇ちゃんも素敵やね…あ、横にコメントがある。七五三かー、いいねいいねー、こういう写真もっとないかな」

紗枝に比べれば落ち着いている周子も、普段に比べると興奮している様子であった。

ページを捲るたびにあがる歓声、高まるテンション、しれっとその輪に加わるP。

ちなみに肇はさらに赤くなって縮こまっていた。

紗枝「なぁなぁ、Pはんはどの写真がええと思う?」

P「そうだなぁ。どれも可愛いんだが、とりあえずこの写真の詳細が気になるな」

そう言ってPが指差したのは、肇が祖父の右腕に抱きついている写真だった。

それだけであれば微笑ましい一枚なのだが、祖父は左手で自分の顔を隠そうとしており、指の隙間から見えるおでこに何やら書かれているのが気になったのだ。

写真のメモには【肇のおじいちゃん】とだけ書かれており、なぜか【の】が強調されていた。

周子「うーん、確かに気になる、なんかメモも意味深だし」

紗枝「せやねぇ…肇はん、この写真についてなにか分かりまへん?」

肇「えっと、撮影は○○年だから…小学校入学の年…? あっ!」

その時肇に電流走る。

肇母『なんで寝ているおじいちゃんのおでこに落書きなんかしたの?』

はじめ『落書きじゃないもん!名前だもん!』

肇母『あら、どういうことかしら?』

はじめ『学校で先生が、持ち物にはちゃんと名前を書きましょう、って言ってたの。おじいちゃんは肇のおじいちゃんだもん!』

肇母『そういうことだったのね…おじいちゃん、叱ってるんだからまんざらでもなさそうな顔しないで』

祖父『まぁええじゃろ、洗えば落ちるじゃろうし』

肇母『…ねえ肇、油性ペンよねそれ』

はじめ『○ッキー(極太)だよ!』

祖父(…石鹸で落ちるじゃろうか…)

肇母『…まあいいわ、折角だから写真に撮りましょうか』

祖父『なっ…』

はじめ『わーい!(抱き着き)』

肇母『はい、チーズ。それとね肇、【め】は最後をくるっとしないの。おじいちゃんのおでこの文字だと【はじぬ】になっちゃうわよ』

はじぬ『…えへへー』

肇母『晩ごはんまでにひらがなの書き取りノートを3ページ、やりましょうか』

はじめ『えー、やだー!!』

肇母『間に合わなかったら晩ごはんのおかずがちょっぴり減っちゃうかも…』

はじめ『ノート取ってくる!』

肇「…なんてことがあったと、母から聞かされたことが…」

周子「あはは、肇ちゃんってば意外といたずらっ子さんやったんやねー」

P「なるほど、メモの【肇の】ってのはそういうことか。微笑ましいなぁ」

紗枝「小さい肇はん、ほんまにかいらしいどすなぁ…ビデオとかありまへんやろか」

肇「うぅ、恥ずかしい…」

その後もアルバム鑑賞会は大変盛り上がるのであった。

楽しい時間は過ぎるのが早いもので、気付けばアルバムは最後のページとなっていた。

P「いやー、堪能したな」

周子「そういえばPさん、しゅーこちゃんのアルバムを見せた時もめっちゃ食いついてたよねー。もしかしてー…ロリコンさんなん?」

紗枝「あらー、それはあきまへんなぁ、早苗はんはもう事務所に来てはりますやろか」

P「いや、二人の方が散々盛り上がってただろう…確かに写真の肇はどれも可愛かったけど、変な意味ではなくだな…」

周子「あはは、冗談冗談。でもこれだけ可愛いんだから、Pさんがくらっときてもおかしくないかなーって」

肇「ですからそんなに可愛い可愛いと言われるのはその…困ります…」

肇の顔はこれ以上ないほどに赤くなってしまっていた。

紗枝「ふふ、ほんまにええもの見せてもらいましたわぁ。ところでお二人はどの写真が一番かいらしいと思います?うちはこれやなぁ」

周子「あたしはこれかなー」

P「うーん、そうだな…」

悩みつつちらりと肇を見ると、真っ赤になりながらもPがどれを選ぶのか見守っていた。

P「…うん、どの写真も可愛かったが、恥ずかしがってる今の肇が一番可愛いな」

肇「…ぷしゅう」

肇がオーバーヒートしてしまったのは誰も責められないだろう。

そして対照的に、羽衣小町が絶対零度のオーラを纏ったのも無理のない事であった。

紗枝「あー、せやなぁ、Pはんはしれっとそういうことを言うお人でしたわぁ…」

周子「せやねぇ、これはちょーっと女の子のちゃんとした扱い方についてオハナシする必要がありますなぁ…」

P「ん、どうした、なぜ二人して腕を掴む…え、どこに連れて行く気だ!?ちょ、肇、ヘルプ、ヘルプ!」

へんじがない、きぜつしているようだ。

肇が目を覚ますのは、Pが羽衣小町の教育的指導を受けた後のことであった。

以上になります。読んで頂きありがとうございました。

デレラジスターで肇さんが紹介されたのが嬉しすぎて羽衣小町と合わせて書かせていただきました。

紗枝さん、様子をおかしくしてしまってすまない。中の人のオーラがにじみ出てしまったんだ…

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