――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「すごい……。思ってたより、なんていうか……かぼちゃなんだね」
高森藍子「かぼちゃですね。かぼちゃの形の、ラテアート」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第33話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「風鈴のあるカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子さんと」高森藍子「7月25日のカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「暑い日のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「また同い年になって」
お久しぶりです。
加蓮「これってさ。私、あんま分からないんだけど……飲む物なの?」
藍子「ぱしゃっ♪ ふふ――はいっ。飲んじゃう物なんです」
加蓮「……飲んでいい物なの? これ」
藍子「飲んでいい物なんですよ」
加蓮「……これを?」
藍子「これを。あ、飲む時には、軽くかき混ぜた方がもっと美味しくなりますよ」
加蓮「かき混ぜるの!?」
藍子「ふふ、加蓮ちゃん、まるで昔の私みたいっ」
加蓮「……さ、さすがカフェに慣れた人、言うねー」
藍子「……気のせいか、言葉にトゲがあるような?」
加蓮「あはは、ちょこっとだけね。藍子にリードされてるのって無条件でさー、ムカつくっていうか悔しいっていうか」
藍子「えー……。いっつも私のこと、カフェマスターだ! なんて言ってくれるの加蓮ちゃんじゃないですか」
加蓮「それとこれとは別。私が言うのと藍子が言うのとじゃ違うんだってば」
藍子「もうっ。とにかく、ラテアートは飲んでいい物なんです。飲んでいい物というか……うーん……」
加蓮「ふんふん」
藍子「ラテアートって、すごく難しいバランスでミルクを淹れないといけないんですよ」
藍子「前に体験教室に参加させてもらったことがあったんですけれど……簡単な物を作るまで、すっごく時間がかかっちゃいました」
加蓮「藍子でも難しいんだー」
藍子「作るための機械もあるんですけれど、それでもなかなかできなくって」
加蓮「へぇ。藍子ならちょちょいのちょい、ってできちゃいそうかなって思っちゃったんだ、実は」
藍子「あはは。……ホントに簡単に作っちゃったら拗ねちゃうくせに」
加蓮「何か言ったー? んー?」
藍子「何も言ってませんよー」
加蓮「藍子って嘘つくのド下手だよね、相変わらず。もうちょっと隠す努力してみなさいよ」
藍子「はぁい」
加蓮「……隠すつもりくらい見せなさいよ」
藍子「加蓮ちゃんになら見透かされちゃってもいいかな? なんて」
加蓮「いや見透かしたっていうか、見えちゃったからこそなんだけど私。ほら、口の端がさ、さっきこう、ピクって」
藍子「ふふ、見てましたよ♪」
加蓮「アンタもいい性格してるね……」
藍子「加蓮ちゃんに影響されちゃったんですねっ」
加蓮「…………」ヒクヒク
藍子「…………♪」ニコニコ
加蓮「……。……作るのが難しいんだね、ラテアートって。じゃ、しっかり飲んであげなきゃ」
藍子「あ、それもありますけれど、そうじゃなくて。ええと――」
藍子「バランスがいいからすっごく美味しい、ってことでもあるんですよ」
加蓮「あー、そゆこと」
藍子「苦すぎないで、でも甘すぎでもなくて。飲んだらつい、おかわりが欲しくなっちゃうような……ラテアートって、そんな素敵な飲み物でもあるんです!」
加蓮「ううっ、なんか藍子の話聞いてると今すぐ飲まなきゃって気持ちに! ……えーでもかぼちゃが崩れるんだよね。うわー……悩む!」
藍子「ラテアートって、まるで魔法みたい」
加蓮「魔法?」
藍子「店員さんがコーヒーに魔法をかけるんです。楽しんでもらえますように、って! ふふっ♪」
加蓮「あははっ。魔法、魔法かー」
藍子「ごくごく……」
藍子「ふうっ。うん、やっぱり美味しい♪ 加蓮ちゃんも魔法にかかっちゃいましょうよ、ほらほらー♪」
加蓮「私はー……や、やっぱもうちょっと眺めてたいかなー?」
藍子「えー」
加蓮「だってさ、これ、かぼちゃじゃん。かぼちゃの絵じゃん。ハロウィンだからかぼちゃじゃん」
加蓮「コーヒーの中に絶対かぼちゃが入ってるよこれ。入ってるっていうかもうさ、かぼちゃが"居る"よこれ」
藍子「それなら、飲んだら悲鳴をあげられちゃいそう?」
加蓮「きゃー飲まないでー! ……いや、もっと飲んでー! って歓声が聞こえたりするのかな」ノゾキコム
藍子「コーヒーの気持ちってどっちなんでしょう」
加蓮「どっちなんだろうねー」
藍子「でも、美味しく飲んでもらえるなら……きっとコーヒーさんも喜んでくれると思いますよ」
加蓮「だねー。……コーヒーさんってなんかメルヘンだねー。絵本の世界とか、そーいうの」
藍子「きぐるみのお仕事とか、絵本の世界を再現するお仕事とか。色々ありますよね」
加蓮「魔法使いとか妖精とか、あとはなんだろ。動物?」
藍子「動物の絵本っていっぱいありますよね。猫さんや犬さんが喋ったりしてて」
加蓮「ねー」
藍子「絵本、お仕事で手に取ることがあったんですけれど……つい、読み込んじゃいます」
藍子「それに、最近の絵本ってすごいんですよ。パラパラ漫画みたいになってたり、絵が飛び出るようになってたりっ」
加蓮「そんなのあるの?」
藍子「はい。最初に見た時、びっくりして、つい声が出ちゃって……」
藍子「うぅ、あの時、スタッフさんにちょっぴり笑われちゃいました」
加蓮「私も見たかったなー」
藍子「それなら今度、探してきま――」
加蓮「あ、絵本じゃなくて。その時の藍子の反応」
藍子「いやですっ」
加蓮「飛び出す絵本、か。そっか、そーいうのがあるんだね」
藍子「売り場で体験できるものもあるんですよ。本屋を見かけた時、たまに絵本コーナーに立ち寄ってみるんです」
加蓮「どう見えてるかなー。近所の子どもの為に絵本を選んであげるお姉さん? ……いや、むしろお母さん?」
藍子「さすがにお母さんって見られるには早すぎますっ」
加蓮「だねー。いやでも着飾ってさ、Pさんと一緒ならこう、新婚の夫婦とかに見えるかもよ?」
藍子「しんこん……!?」
加蓮「あはははっ、顔真っ赤!」
藍子「…………う~~」
加蓮「ごめんごめん。ほら、唸らないの。店員さんが変な目でこっち――変な目じゃないねアレ。はいはいいつものって顔だね……」
加蓮「絵本を捲るのもだけど、藍子は絵本とか童話とか、話の中にいる方がイメージできるかな」
加蓮「森の奥で木に腰掛けて本を読む役……とか、やっぱり似合いそうだよね、藍子って」
藍子「じゃあ加蓮ちゃんは……みんなに絵本を読んであげるお姉さん!」
加蓮「藍子ちゃん藍子ちゃん? 私、こう見えてもファッション系雑誌の表紙を持ったことあるんだけど?」
藍子「ちいさな子ども向けの雑誌の表紙も飾れますね。新しい加蓮ちゃんが見れちゃいそう」
加蓮「似合わないと思うけどなー。子ども向けの雑誌ってさ、アレでしょ、お母さんとかが読むんでしょ?」
加蓮「私が出てもしょうがないって。っていうか、私が出ちゃいけないって」
藍子「こう……理想のお姉さん像!」
加蓮「それならどう考えても藍子の方が良さそうだけどね。……いやー、やっぱり藍子は森で木に腰掛ける方がいいのかな?」
藍子「森の中の撮影、またしてみたいなぁ……」
加蓮「高森だけに」
藍子「藍子ですっ」
加蓮「こんにちは高森さん。お元気ですか?」
藍子「こんばんは、北条さん。元気ですか?」
加蓮「……今すっごい溝を感じた。藍子との間に溝を感じた」
藍子「私も、言っていてすっごく変な気持ちでした……。ざらっとするくらいに濃いコーヒーを飲んだような」
加蓮「最近飲んだの?」
藍子「……家でコーヒーを淹れる時、色んな考え事をしていたら、つい」
加蓮「じゃりじゃり言いそう」
藍子「砂糖をいっぱい入れたら、口の中で砂糖がじゃりじゃりって言ってました……」
加蓮「うっわ、ある意味飲みたいかもそれ……やっぱやめとこ。絶対にヤバイ」
藍子「加蓮ちゃんが飲んだらひどいことになっちゃいそうですね」
加蓮「じゃりじゃりするかぁ。最初から名字でなんて呼んでなかったもんね。高森さんかー」
加蓮「高森さん、高森さん……あ、これはこれでアリかも。……いややっぱナシ」
藍子「北条さん……って、なんだか歴史の偉人さんみたい?」
加蓮「私は今を生きる偉人になる!」
藍子「ふふ、加蓮ちゃんならきっとなれますよ」
加蓮「……ちょっとは茶化してよ。ノリで言ったんだから」
藍子「ごめんなさい~」
加蓮「しょうがない、許してあげよう。で何の話だっけ? 森の話とかしてたよね、私たち」
藍子「森と言えば、そろそろ森のお散歩ができる季節になってきたんですよ」
加蓮「涼しくなってきたよね。って言ってもちょっと前まですっごく暑かったけど」
藍子「ここ最近、暑くなったり涼しくなったりで大変ですよね」
加蓮「10月なのにさー、なかなか秋物用意できなくてさ。困っちゃったよ」
藍子「加蓮ちゃん、体調は大丈夫でしたか?」
加蓮「最初がそれ? 大丈夫大丈夫、あんだけ周りから耳タコで言われたらさすがにね」
藍子「うーん……でもやっぱり心配です」
加蓮「ま、たまには加蓮ちゃんを信じてよ」
藍子「うーん……」
加蓮「加蓮ちゃんが大丈夫って言ってるんだから大丈夫!」
藍子「……はいっ。じゃあ、今日は信じることにしますね」
加蓮「ってことは明日は信じてくれないと」
>>9 5行目の加蓮のセリフを一部訂正です……。
誤:Pさんと一緒ならこう、
正:モバP(以下「P」)さんと一緒ならこう、
藍子「信じてないんじゃないですっ。信じることと心配になっちゃうことって、きっと別物ですから……」
加蓮「うん、それは分かるかも」
加蓮「……私だってときどき藍子のことが心配になるんだよ? 大丈夫かな、悪い大人に騙されてないかな、って」
藍子「ダマされたりしませんっ。お仕事はちゃんとPさんが用意してくれますし、スタッフさんはみんな優しいですから」
加蓮「でもねー……藍子を見てるとやっぱりさ。ほわほわしてるし、騙されてることにも気づいてないってことすらありそうだし」
藍子「お父さんやお母さん、それにPさんに、あと友だちや学校の先生にもよく言われちゃいますけれど――」
加蓮「わーお」
藍子「でも大丈夫ですっ。お陰さまで」
加蓮「そか」
藍子「ふふ、お互い様ですね。私は加蓮ちゃんが心配で、加蓮ちゃんは私を心配してくれます」
加蓮「しょうがないよねー」
藍子「じゃあ、心配しちゃう気持ちを安心させてあげるために、またここに来ましょうっ。一緒にお話したら、不安もなくすことができると思いますから!」
加蓮「あははっ。私は事務所で藍子を見るだけでいいよ? あ、今日も楽しそうにやってるな、って。それを見るだ――」
藍子「ね?」
加蓮「けで…………、」
藍子「…………」プクー
加蓮「…………」
加蓮「えー、っと」ポリポリ
加蓮「……あー、ごほんっ。あーやっぱり藍子ってどこかボケてて天然で抜けてて簡単に騙されそうだから見てるだけじゃ不安だなー色んな話したら安心できるかもなー」
藍子「すっごく棒読みです……」アハハ
加蓮「わざと」
藍子「しかも悪口をいっぱい……。それ、今考えたんですか?」
加蓮「頑張った」
藍子「……私、加蓮ちゃんが一番"人をダマす悪い人"だと思うんです。大人じゃなくて女の子ですけれど」
加蓮「やった、藍子に褒められた♪」
藍子「褒めてない……」ガクッ
加蓮「『高森さんの森の写真』」
藍子「……?」
加蓮「や、なんとなく思い浮かんだっていうか……うーん、あんまり可愛くないなぁ」
加蓮「ほら、散歩した時の写真集とかさ。どうかな? って」
藍子「加蓮ちゃん……あ、加蓮ちゃんプロデューサーっ」
加蓮「え、私いつの間にプロデューサーさんになったの?」
藍子「ごめんなさいっ。お散歩は趣味で、私と、みんなで楽しむくらいがちょうどいいかな、って……」
加蓮「……。――おっほん。アイドルたる者、それで生き残れると思っているのかね?」
加蓮「使える物は何でも使う。それくらいの意気込みは見せたまえ」
藍子「きゃーっ。こ、これだけは勘弁してください!」
加蓮「…………」
藍子「…………?」
加蓮「……や、なんか調子出ないんだよねー。最近マジな役作りっていうかシリアス系ばっかりだったからかなー……」
藍子「ふふっ」
加蓮「なんで藍子が嬉しそうなのよ。……たまにはかるーい気持ちでやりたいなぁ。ね、そんな役って何かない?」
藍子「私に言われても……」
加蓮「譲ってよー」
藍子「今度、Pさんにお話してみましょうか」
加蓮「えー……それは、なんかヤダ。やめとく」
藍子「はーい」
加蓮「藍子、風景写真とかSNSにアップしてたでしょ」
藍子「あれはPさんがそうした方がいいからって……。実は、みなさんに見せる写真を選ぶ時、1時間も2時間も悩んじゃうんですよ」
加蓮「え、そんなに?」
藍子「ちょっとでもいい写真を見せてあげたくて。友だちやアイドル仲間に見せる時は、失敗した写真も笑い話になりますけれど……」
藍子「アイドルとしてファンに見せる時は、できるだけいい写真を見せてあげたいですから」
加蓮「おー……。プロだ。藍子がプロのアイドルだ」
藍子「私だってアイドルですっ」
加蓮「今、生まれて初めて藍子のプロ意識を見た」
藍子「ひどいっ」
加蓮「いや割とマジでびっくりしたかも。そっか、じゃあ写真集とかは難しいかもね」
藍子「きままに歩いて、いいな、って思ったものを撮って……そうやってのんびりするくらいの方が、私は好きですから」
加蓮「ふふ、藍子らしい」
藍子「ごくごく……♪ ラテアート、冷える前には飲んであげてくださいね」
加蓮「はーい。うわ、カップがもう冷たくなっちゃってる……。ちょっとほったらかしにしすぎたかなぁ」
加蓮「じゃ、私も飲んでみよ、っかな……」テニトル
加蓮「…………」
加蓮「…………あと10分」
藍子「10分?」
加蓮「10分」
藍子「また見たくなったら、店員さんにお願いしたら作ってもらえますよ」
加蓮「えー、なんかそういうのってありがたみなくならない?」
藍子「加蓮ちゃん加蓮ちゃん。見てください、これ」スマフォヲミセル
加蓮「なにー?」カオヲダス
加蓮「画像フォルダ? ……なんか『ラテアート』って名前のフォルダがあるんだけど」
藍子「はい。色んなカフェのラテアートを写真に撮って、いっぱい保存しているんですよ」
加蓮「あはは、それならありがたみがーなんて言わなくなっちゃうか」
藍子「ふふ、そうなっちゃうんです」
加蓮「藍子にとっては見慣れた物なんだねー」
藍子「初めて出会った物が、慣れた物になって。加蓮ちゃんの言う"ありがたみ"が、失われていってしまって」
藍子「それは、少し寂しいかもしれませんけれど……でもそれって、もっと身近になるってことなんだと思います」
藍子「身近にある幸せがいっぱいある方が、毎日、きっと楽しくなりますから」
藍子「加蓮ちゃんにも、身近な幸せがいっぱい増えますように――」
加蓮「……身近に……か」
藍子「あ、あはっ、ちょっと恥ずかしいことを言っちゃいました。でも本音ですからっ」
加蓮「んーん。そんなことないよ。……身近な幸せ、か……」
加蓮「…………」ジー
加蓮「…………うんっ」マゼル
加蓮「ごくごく」
藍子「!」
加蓮「……! ホントだ! これすっごく美味しい!」
藍子「でしょっ!?」
藍子「あ、口の回り、泡がいっぱいついちゃってますよ」フキフキ
加蓮「ん、ありがと」
加蓮「大丈夫? ……うん、よかった」
加蓮「あーあ、かぼちゃが変な形になっちゃった。あ、見て見て。ここだけはまだ口っぽく見えない?」
藍子「本当だ……うふふ♪」パシャ
加蓮「って写真! 撮り忘れてた! 私も撮っとけばよかった!」
藍子「私の写真、送りましょうか?」
加蓮「それはなんか違うでしょ!? こう……自分で撮るのがいいんだって!」
加蓮「藍子だって綺麗な景色の写真を人からもらうのと自分で撮るのと別物って感じしない!? するでしょ!」
藍子「それは……確かに?」
加蓮「決めた。後で絶対おかわりしよ。また作ってもらお」
加蓮「あー、でも今度は別の絵にしてもらう方がいいのかな……。同じのって面白くないっていうか……でもかぼちゃのコーヒーの写真……うううぅうううぅぅぅ……!」
藍子「……うふふっ♪」
加蓮「ごちそうさまでした。……飲むのにだいぶかかっちゃった。美味しくて、なんか一気に飲んだらもったいない気がしちゃって」
藍子「私も、ラテアートにしてもらうと、いつもより何倍も飲むのにかけちゃいますよ」
加蓮「こういうのってよくあるじゃん。ほら、見た目が可愛いお菓子とか、パンとか」
藍子「猫さんのパンや、兎さんの形のお菓子とかですか?」
加蓮「そういうのそういうの。ああいうのってさ……食べにくくない?」
藍子「食べにくいですよね。なんだか、かじっちゃうのがかわいそうな気がして」
加蓮「だよねだよね。どうしても一口で食べないとって感じがしてさ。でもパンとかだとおっきいじゃん。すごく困っちゃうよね」
藍子「私は、食べる時にはできるだけパンやお菓子を見ないようにして……えい、って、目をつぶっちゃいます」
加蓮「なるほどー。それいいかもっ。……でもさ、食べた後、っていうか食べてる時に思い出しちゃわない?」
藍子「思い出す?」
加蓮「今私の口の中で猫が、」
藍子「いやあああああああ! 駄目! 駄目です加蓮ちゃん! パンが食べられなくなっちゃいますから!!」
加蓮「あ、ごめん」
藍子「ううううっ。わ、忘れなきゃ……。……加蓮ちゃんのお話を忘れたいって思ったの初めてです……」
加蓮「……ホントごめん」
藍子「…………うん、大丈夫ですっ」
加蓮「あー……」
藍子「まあまあ。大丈夫ですから、そんなに気にしないでくださいっ」
加蓮「……ん。許してくれるなら……話、変えちゃおっか」
藍子「はい、変えちゃいましょう」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……はい藍子さんネタふりどうぞ」
藍子「えっ!? ええと、えーと……」
藍子「あー……ごほんっ」
藍子「加蓮ちゃん、何か食べませんか? 私、さっきから少しだけお腹が空いちゃいました」キリッ
加蓮「――あはははっ!」
藍子「えええぇ!?」
加蓮「ごめ、ごめっ……ど、ドヤ顔で、キリってしながら何か食べませんかって……フツーのことを……当たり前のことすっごいドヤ顔……あは、あはははははっ……うくくくっ…………!!」
藍子「……。すみませーんっ。『おばけクッキー(ハロウィン)』と」
藍子「『パンプキンケーキ』を、すっごく甘くしてお願いします」
加蓮「待って」ピタッ
藍子「……くすっ。はい、店員さん。そういうことです♪」
加蓮「タンマ。ちょっとタンマって。藍子? 藍子ちゃーん? そーいうジメジメした嫌がらせは私よくないと思、」
加蓮「って店員さんもすっごくいい笑顔で頷かない! 何藍子と一緒にサムズアップしてんのよ! こらーっ!」
□ ■ □ ■ □
……。
…………。
加蓮「クッキーうまーっ」
藍子「パンプキンケーキ、甘くて美味しい……♪」
加蓮「んぐんぐ。……なんていうかさー、藍子ってさー」
藍子「?」モグモグ
加蓮「ん、なんでもない」
藍子「……??」モグモグ
加蓮「ハロウィン仕様、特製お化けクッキー。そして2杯目のラテアートもこれまたかぼちゃ」
藍子「テーブルの上いっぱいに、ハロウィンの世界が広がってますね……♪」
加蓮「31日が来たら、もう疲れちゃってそう」
藍子「その時は、いっしょに静かなハロウィンを楽しみましょ?」
加蓮「静かなハロウィンかー。こう……黒魔法……とかやってるイメージしか出てこないや」
藍子「もうちょっと穏やかにっ」
加蓮「じゃ白魔法にしとこっと。……っとと、忘れないうちにかぼちゃラテアートを撮っとかなきゃ」パシャ
藍子「ん~~~~♪ 加蓮ちゃんもひとくち、どうですか?」
加蓮「ひとくちだけもらうね。あー」ムグ
加蓮「んぐんぐ……甘゛っ。……あ、でもこれ、かぼちゃの味がするー」
藍子「いつも食べるケーキとはぜんぜん違ってて……目をつぶったら、いっぱいのかぼちゃが広がるみたい……♪」
加蓮「白魔法でぜんぶクッキーとケーキにしちゃえ」
藍子「何日もハロウィンパーティーが開けちゃいます」
加蓮「にしても、ハロウィンっていつから流行りだしたんだろ?」
藍子「ごくんっ。仮装する人、いっぱいいますよね」
加蓮「コスプレパーティーとかやっててさー。って私たちも似たような物っか」
藍子「10月になって、色んなところでかぼちゃを見るようになりましたっ」
加蓮「なったなったー」
藍子「この前、ロケで遅くなった日に夜道を歩いてたら、かぼちゃのイルミネーションがすごい家があったんですよ」
加蓮「うわ、それって結構怖くない?」
藍子「はい。すっごく怖かったです」
加蓮「あれだよね、目とか口とかが……ほら、このクッキーみたいにお化けみたいな形になってて」ヒョイ
加蓮「これがぜんぶ光ってるんだよね?」パク
藍子「光っちゃってます」
加蓮「幽霊屋敷だ。中に入るといっぱいのゴーストがお出迎えだよ。日付が変わる頃に謎の物音がするよ」
藍子「加蓮ちゃん、おおげさですよ~」
加蓮「やっぱり?」
藍子「でも迫力がありますよね。次に通った時は、頑張って写真を撮ろうって決めているんです」
加蓮「ってことは藍子が見つけた時は」
藍子「逃げました」
加蓮「だよねー」
藍子「全力疾走でした」
加蓮「お化けが追っかけてきたりは?」
藍子「……た、たまに振り返ってみましたけれど大丈夫でした」
加蓮「振り返ったりしたんだー?」ニヤニヤ
藍子「からかわないでくださいよぅ……。家に帰った時、もうすっごく汗だくで。お母さんにびっくりされちゃったんです」
加蓮「藍子なりのトリート、ってヤツだね」
藍子「ふふ。おんなじこと、お母さんにも言われちゃいました」
加蓮「変なとこでシンクロしたー。……誰がババ臭いだー!」
藍子「誰もそんなこと言っていませんよ!?」
加蓮「目が言ってた」
藍子「思ってもいませんから!」
加蓮「あはは。でもホントに迫力ヤバそうだよねー、かぼちゃの家。私でも逃げる。絶対逃げる」
藍子「加蓮ちゃんなら、逆にワクワクしながら意地悪に笑ってそう……?」
加蓮「もしくはみっともなく藍子を盾にして隠れるか」
藍子「ふふ。加蓮ちゃんに頼られたら怖くなくなるかもしれません」
加蓮「シャッターチャンスの出来上がり? あ、私じゃなくてハロウィンデコレーションの家をね」
藍子「うまく撮れたら、Pさんやみなさんにも見せちゃいましょう」
加蓮「Pさんは駄目だよー。写真なんて見せたら怒られるもん。夜遅くに何やってんだ、遅くなるなら電話で呼べ! とか」
藍子「きっと言われちゃいますね……」
加蓮「……でもやっぱりPさんには話してあげたいなー。あ、ずるい、自分も! って思わせたいんだ」
藍子「それも……面白そうかも?」
加蓮「あわよくば夜のデートに誘えるチャンスだよ。うっわー、夜のデートなんて藍子やらしー」
藍子「ぜんぶ加蓮ちゃんが言っちゃってますっ。デート……とかは、その……あはは」
加蓮「決めセリフは『かぼちゃを見に行こう!』で」
藍子「それだけじゃPさん、きっと分からなくて、ぽかん、ってしちゃいますよ?」
加蓮「何言ってんの藍子。これ、アンタが数ヶ月前に言ったヤツだよ」
藍子「私……?」
加蓮「私の家に来るなりいきなり『虹を見に行きましょう!』ってさ。ホント、ぽかーんってしちゃったよ、私」
藍子「あ。確かに、おんなじですね。……ふふ、覚えててくれたんですね」
加蓮「藍子うっさいー」
藍子「ごめんなさーい♪」
加蓮「ぽかんとさせられるより、ぽかんとさせたいな。今度一緒にPさんに言おう……いや、私が言って、藍子は後ろからPさんを撮るの」
加蓮「呆けた顔、なんとしてもゲットするよ!」
藍子「あは、趣旨が変わっちゃってる……。写真、加蓮ちゃんが撮らなくていいんですか?」
加蓮「へ? 私が? うーん……確かに藍子が言った方がPさんびっくりするかな。私が言っても、あーはいはい、って済ませちゃいそう」
藍子「ううん、そうじゃなくて。撮った写真を送ってもらうのと、自分で写真を撮るのは別だって、さっき言ってたから……」
加蓮「あー」
加蓮「でもカメラマンって言ったらやっぱり藍子なんだよね……」
藍子「それなら、2人で言って2人で撮っちゃいましょう! こう、一緒に。ぱしゃっ♪ って!」
加蓮「そうしちゃおっか。どっちが上手く撮れるか勝負だよ!」
藍子「勝負なんてしないで、一緒に見せ合うんですっ」
加蓮「いーや勝負するの。勝った方がPさんとの夜のデートを誘う権利……うわ、藍子ってばやらしいんだー」
藍子「それさっきも聞きました……」
……。
…………。
加蓮「ごちそうさまでした」
藍子「ごちそうさまでした!」
加蓮「あーあ、ハロウィンパーティー終わっちゃった」
藍子「終わっちゃいましたね」
加蓮「次は何のラテアートにしてもらおっかなー」
藍子「ふふ、何にしましょうか?」
加蓮「ねー」
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
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