シュルク「わかんないなぁ……」【ゼノブレSS】 (15)


・「ゼノブレイド」のSSです。
・全編地の文形式。





「…………うーん……」
 
 どれぐらいそうしていただろう。
 サイハテ村が誇る花粉工場の隅の一角で、シュルクは板張りの床に胡坐をかき、目の前の機械と睨み合っていた。
 いや、リキはここにあるものは”キカイ”ではないと言っていたから、装置とでも呼ぶべきか。
 とにかく、シュルクは己に課せられた使命……突然の故障で沈黙してしまった工場の装置を修理するため、必死に思考を巡らせていた。

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 切っ掛けは、たまたま立ち寄ったサイハテ村で、リキが人だかり……いや、ノポンだかりを見つけたことだった。
 いつもの『困った人は放っておけない』精神で事情を聴いたところ、どうやら装置の調子がおかしく花粉玉の生産が滞っており、更に装置に詳しい工場の担当者が席を外したままどこにも見当たらないらしい。集まったノポンの中に修理が出来る者はおらず、ほとほと困り果てているようだった。
 ならばその担当者を探しに行こう、と話が決まりかけたその時。

「シュルク、お前機械詳しいよな?」

 何気なく放たれたラインの一言により、全ノポンの目がシュルクに向くこととなった。
 確かに機械いじりは好きだが、ホムスの機械とノポンのキカイではまるで勝手が違う。
 だからそう簡単にはいかないと思う、という説明をする暇もなく、やれ修理の達人だも、救世主だも、さすがは勇者リキのオトモだもと祀り上げられた結果、シュルクは一人、未知の装置と格闘する羽目になったのである。

 ……いや、正確には二人。

「埒が明かないな……もう、誰かさんが無責任なこと言うから」

「……悪い」

 シュルクの後ろで、ラインが大きな体を丸めてしゃがみこんでいた。

「悪いと思うなら、しっかり手伝ってもらうよ。ちょっとそこの板外して持ってて」

「おう。……でも心配いらないだろ。きっとダンバン達が、すぐに修理出来る奴を見つけて戻ってきてくれるさ」

「まあね。でもみんな困ってるんだし、少しでも早く直すに越したことは無いから……よいしょっと」

 直せる確証は無いと分かりつつ、それでも最善を尽くそうとしてしまうのが、シュルクの性であった。身体を器用に装置の下へ滑り込ませ、懐中サイズのエーテル灯で中を照らす。
 部品が壊れている、もしくは外れているところが一目見た場所にあれば話は簡単なのだが、一見した限りではどこにも不備は見当たらない。

「どうだ? 原因分かりそうか?」

 ラインの問いに、シュルクはいや、と短く返す。そもそも、装置の構造の半分も理解出来ていないのだ。コロニーに転がっている、扱い慣れた武器や機械を修理するのとはわけが違う。
 無理難題とも思える状況との対峙を続けるその間にも背後では、

「ホムホム頑張るも!」
「ホムホムしっかりやるも!」
「花粉玉、いつ出来るようになるも?」
「このままじゃ明かりが作れなくなって、昼間も真っ暗だも!」
「お腹もぐーぐーだも?」
「ノポン史上最大の危機だも!」
「穏やかじゃないも!」

 いつの間にか最初の倍ぐらいの数に増えた野次馬ノポン達が、あれやこれやと口を挟んでくる。挙句の果てには、我慢しきれなくなったラインが「今にシュルクが直してやるから、黙って見とけっての!」とまたもや無責任に怒鳴り散らしていた。

 いっそ未来視でも視えてくれれば、とシュルクは思うが、そう甘くは無いらしい。傍の壁に立て掛けてあるモナドは、当然のように沈黙を決め込んでいる。

「なあ」

 別の箇所を見てみようと装置の下から顔を出したシュルクに、ラインの呼び掛けが降ってくる。

「何?」

「こういうのってさ、案外この辺を思いっ切りぶっ叩いてやれば直ったりしねえ?」

 言いながら、ラインは丸太のような腕を振り上げてみせた。

「だ、駄目だよ! ただでさえ調子悪いのに、これ以上衝撃与えて、手の付けようがないぐらい壊れちゃったらどうするの」

「けどよ、物は試しって言うだろ?」

「昔そんなこと言って、フィオルンの家のコンロを爆発させて散々怒られたのは、どこの誰だっけ?」

「…………お前って、そういうことばっかり記憶力良いよな」

「まぁ、あれ直したのも僕だったしね」

 流れるような軽口とは裏腹に、思考はいよいよ煮詰まってきた。素人目に点検出来そうな箇所はあらかたチェックしたつもりだが、これ以上はシュルクの手には負えそうにない。

 どうしたものかと頭を抱えた、まさにその時。

「おーい! シュルクー! ラインー!」

 聞きなれた無邪気な声に、シュルクはほっと胸を撫で下ろした。

「遅えよ、おっさん!」

 ラインが大きく手を振る先で、リキを先頭に旅の仲間たちが階段を上って来ていた。ダンバンの足元をちょこちょこと付いて来ている眼鏡をかけたノポンが、恐らく装置の管理人なのだろう。

「いやー、すまないんだも! マクナに降りて花粉の研究をしていたら、知らない間にモンスターに囲まれてて動けなかったんだも!」

「……だとさ。全く人騒がせなもんだ」

 あっけらかんと言う眼鏡のノポンの隣で、ダンバンがやれやれと肩を竦めてみせた。

「でもよかった。これで解決ですね」

「シュルクでも直せなかったの?」

 フィオルンが意外そうな表情でこちらを覗き込んでくる。シュルクは降参だよ、と諸手を上げた。

「やっぱりマクナのものは、ノポン族の専門家に見てもらうほうがいいみたい」

 シュルクの視線を受け、眼鏡のノポンは「じゃあ早速見てみるも」と装置の点検を始めた。

 と、数刻も経たぬ間に、

「あー、そういうことも。話を聞く限りじゃあ、そうじゃないかと思ってたも」

 もう原因を突き止めたらしい。
 すげえ、と目を丸くするラインの横で、シュルクは感心する反面、少し悔しくもあった。まさかそんなに単純なものだったとは。いくら勝手が違うとはいえ、まだまだ観察力不足だったのかもしれない。

「直せそうかも?」

「まあ見てるも」

 リキとやり取りしながら、眼鏡のノポンが取り出したのは、小ぶりの木槌だった。
 その柄を羽を使ってしっかりと握りしめ、装置の脇に立ち、大きく振りかぶる。

「……え」

 嘘、とシュルクが呟くのと、装置を引っ叩く小気味良い打撃音が響いたのはほぼ同時だった。

 唖然とする一行の前で、問題の装置は一瞬大きく振動した後、何事も無かったように稼働を再開した。黄色い花粉玉が次々と生成され、ベルトコンベアに乗って運ばれてゆく。

「ここが扱ってる花粉は他のより粘着質だから、よく詰まるんだも。そういう時は、後ろを叩いてやれば大丈夫なんだも!」

 眼鏡のノポンがえへん、と胸を張る。

「さすがだも!」
「ノポンの救世主だも!」
「サイハテ村は救われたも!」

 その周りにリキを含めたノポン族たちが駆け寄り、やがて胴上げが始まるのを見つめながら、シュルクは深くため息をついた。隣では、同じく辟易した様子のラインがどっかと腰を下ろす。

「……お疲れさん」

「どうも……」

「まあ、あれだ。……お前もまだまだ修行が足りないってことだよ」

「むしろ、ラインは職人向いてるかもね。……ノポン族専門の」

「……あー……こういうの何つーんだっけ。『鯖折り損のフカヒレ儲け』?」

「……違うよ」

 出来れば二度と、ノポン族の装置に触る機会が来なければといいなと、シュルクは心の中で静かに願った。



おわり


正直需要あるかわかりませんが、書くだけ書いてどこにも出さないのもどうかというワケで。

お付き合いありがとうございました。

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