佐久間まゆの献身 (15)
限定SSRままゆが引けなかった供養記念
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終電間際の電車を降り、鉛のように重い身体を引きずるようにして事務所に向かう。
帰路につく人の波に逆らい、改札を抜けると、目の前にはどんよりとした雲に覆われた夜空の下、猥雑な明かりを放つ繁華街が視界に映る。
今の俺にはネオンサインの明かり、脳天気な酔っ払い、視界に構成されている全てが不快の的だった。
まるで、担当アイドルである佐久間まゆにまともな仕事を取ってくることが出来ない俺をまるで嘲笑うかの様だ。
自然と事務所に帰る足取りが重くなる。
今日も朝からまゆを売り込みに様々な所に足を伸ばしたが、成果といっていい成果はほぼ得ることが出来なかった。
日々が失敗と徒労で積み重なっていく。
いつしか俺なんかではなくもっと敏腕なプロデューサーがまゆを担当していれば、もっと輝かせることができるのではないか、という思考が脳裏にチラついて離れない。
不甲斐なさと申し訳なさと自身に対するどうしようもない苛立ち。
そんなどうしようもない感情を無理やり押し殺しながら事務所に戻る。
事務所の扉の前まで着くと不審な点が一つ見つかった。
中の明かりが点いている、こんな夜遅くに誰かいるなんて考えにくい。
俺は用心を重ねて扉を開けた。
と、そこにはソファーに座って編み物をしていたまゆの姿があった。机にはサランラップがかかったオムライスとサラダが置いてある。
「お帰りなさい、プロデューサーさん。オムライスを作っておいたのでもし良ければ食べてくれますか?」
ニッコリと微笑みを浮かべながらそう言い、サランラップを外すまゆ。
「お前、今何時だと思って…!」
「お前じゃないです、まゆって呼んで下さい。それにその言葉そっくりそのままお返します。いくら忙しいとはいえ毎日朝からこんな時間までお仕事をしていたら体を壊してしまいます。」
「心配をかけさせてすまない···」
「いえいえ、まゆこそ出しゃばった様な事を言ってしまいごめんなさい。」
俺はまゆに心配をかけさせってしまったというプロデューサーとしての惨めさを感じた。
と、同時にこんな自分を心配してくれるまゆの温もりに心が少し安らいだ。
「まゆが作ってくれたオムライス食べても大丈夫か?」
「プロデューサーさんのためだけに作ったので勿論いいですよ。」
「ありがたい。」
俺はまゆの好意に甘えて隣に腰をかけオムライスを戴く。
ふわっとした卵には微かなバターの旨みが感じられ、そこに具だくさんのケチャップライスが絡みとても美味しかった。
そして、まゆが俺の為に作ってくれたという好意がなにより嬉しかった。
「美味かった。ありがとうな、まゆ。」
「いえいえ、プロデューサーさんのお口にあったようで良かったです。」
「なぁ、まゆ。」
「なんですか、プロデューサーさん。」
「まゆはこんな不甲斐ないプロデューサーにプロデュースされていて不満とかないのか?まゆは容姿も端麗だし、歌も上手い。
言わば天性のアイドルとしての素質みたいな物があると思う。俺みたいなのでなくもっと優秀なプロデューサーだったらとか考えたりしないのか?」
「なんでまゆがそんな事を考える必要があるんですか?まゆはあなたにプロデュースされる為に仙台から出てきたんですよ?」
首を傾げ、きょとんした顔を浮かべたまゆ。
「プロデューサーさんは少し焦り過ぎです。まゆはまゆの為に一生懸命プロデュースしているPさんにとっても感謝しているんですよ。だから、これからも2人で一緒にトップアイドルを目指しましょうね。」
そう言ってニッコリと笑うまゆを見たら心の中のわだかまりがスッと溶けていく感覚がした。
まゆが俺をプロデューサーとして信頼しているという事実。
それが心の支えになり、そしてまゆをトップアイドルに導きたいたいという気持ちが益々強くなった。
「まゆの言う通り俺は焦っていたのかもな…俺もまゆには色々な事を感謝してるし、まゆの担当になれて本当に良かったよ。」
「ありがとうございます、プロデューサーさん。」
「俺のためにこんな時間まで付き合わせしまってすまなかったな。女子寮まで送る車を出してくるから少し待っていてくれるか。」
「はい!」
俺はよいしょっと立ち上がる。
ついさっきからは考えられない程、体が軽く感じられた。改めてまゆに心の中で感謝をする。
そうして事務所の扉に手をかけ、外に出ようとした瞬間、後ろから不意に甘い声が耳に入ってきた。
「まゆは不器用なところも含めてプロデューサーさんの全てが大好きなんですよ。」
俺は今まゆを見たら惚れてしまいそうで後ろを振り向く事が出来なかった。
短いですが読んでくださった方、ありがとうございました。
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