十時愛梨「甘えて、甘えられて」 (19)
「……プロデューサーさん」
「ん……?」
「その……しても、いいですか?」
「いいよ。跡だけ付かないようにね」
「……付けちゃ駄目ですか?」
「駄目。見られたら困るでしょ?」
「……ちゃんと見えないところにしますから」
「やー……見えないところ、でもさ」
「……駄目ですか?」
「ごめん」
「うー……でも、付けたい、です……」
「そう言われても……」
「プロデューサーさぁん……」
「そんな見つめられても」
「むぅー……わたしのあとぉー……」
「……」
「……うぅ」
「……もう、分かったよ。……ちゃんと、見えないところにね」
「っ、はいっ!」
「ん、っと……もう愛梨、そんなに強くされたら苦しいよ」
「あ、ごめんなさい……。嬉しくて、つい。……ん、このくらいで、いいですか?」
「大丈夫、ありがとう」
「えへへ。……と、えっと、それじゃあプロデューサーさん。その、しますから……少し、開けちゃいますね?」
「うん」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「…………プロデューサーさん」
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「ん?」
「……どうしましょう……開けたいのに、でも私、開けられません……」
「開けられない、って……どうして」
「だって開けようとしたら……プロデューサーさんのシャツのボタンを、プロデューサーさんにちゅーってするために開けようとしたら……そうしたら、これ、解けちゃいます……」
「これ?」
「これ、です……。今こうしてソファの上で、プロデューサーさんのことをぎゅーってしているのが、解けて無くなっちゃいます……」
「……ああ、なるほど」
「どうしましょう……」
「んー……それじゃあ、僕が自分で開けようか? それなら愛梨はこのままでいられるでしょ?」
「うー……私は、そうですけど……でも、そうするとプロデューサーさんが解けちゃいます……」
「それはまぁ」
「プロデューサーさんにぎゅーってされてるのが無くなっちゃうのも、私、嫌です……」
「そっかぁ」
「えうぅ」
「どうしよう、キスは諦める?」
「やですー……」
「でもこうしてるのも」
「やめたくありません……」
「んー……」
「うー……」
「……うぅん、困ったね。……愛梨?」
「……」
「? ……あーいーりー?」
「……あむっ」
「んっ……って、ん、愛梨?」
「あむー」
「や、そんな答え方されても」
「あむあむっ!」
「だからって何度も甘噛みされても。……ほら、愛梨」
「ん、むー……」
「もう、急に首に噛み付いてきて……付けようとしたの?」
「……違います。プロデューサーさんが許してくれないことは、私、したくありませんから。……だから、付ける気はありませんでした。……でも」
「でも?」
「我慢、できなくて……。付けるのは駄目だけど、でも、したくて……プロデューサーさんが欲しい、って……その気持ちが抑えられなくて……」
「……そんなにしたいの?」
「したいです。……許してくれないことは私、絶対にしません。しません、けど……でも許して欲しい、って……そう思って溢れちゃうくらい……私、プロデューサーさんに、したいです……」
「……そっか」
「はい……」
「……んー……ねぇ、愛梨」
「?」
「冬は越えたけど、まだまだ今の時期は寒いよね」
「……そうですね。最近プロデューサーさんと居ないときは、全然暑くなったりしませんし……」
「だよね。だからさ、前に愛梨から貰ったマフラー、まだ最近も使ってるんだけど」
「あ、はいっ。使ってくれてるの見てます。二人でも巻ける長めのマフラー……ちゃんと使ってくれてるって、毎朝見る度に嬉しくなって。えへへ……」
「それさ、今はここと家との道中でしか使ってないわけなんだけど……今みたいに事務所の中に居るときにも使ってたら、変かな?」
「? ……そうですねー……変、というか……でも駄目ではないと思いますけど……」
「そっかそっか。……ん、それじゃ、明日からは事務所の中でも一日中巻いてることにしようかなぁ」
「一日中ですか?」
「そ、一日中。首にぐるぐるーって」
「えっと……ん、わ……え、えとっ、それって!」
「巻いてたほうがいいかな?」
「はいっ、良いです! 良いと思いますっ!」
「そっか。……ん、それじゃあそうすることにするよ」
「……えへへ、ありがとうございます」
「いいえー。あ、でもあれ、ちひろさんとかに何か言われたら助けてね。一応誤魔化さないとだから」
「はいっ。室内でも巻いてるんですかーって言われたら、私も一緒に巻きますねっ。二人で巻いて、中で巻いてたって変じゃありませんよ、ほらーって」
「それはそれで問題になっちゃうと思うんだけど……」
「大丈夫ですよー。あれ、二人でも巻けるようにーって思って贈ったマフラーですしー」
「大丈夫の意味合いが……まぁ、うん、いいかな」
「いいんです。……っと、えと、それじゃあ……その、しても」
「うん、いいよ。きて」
「えへへ。……はい、じゃあ……」
「……」
「あー……む、ん……ちゅー……」
「ん……」
「ちゅ……ん、ぅ……あ、ふふっ……」
「……良かった?」
「はい、良かったです……」
「でもまだ?」
「でもまだ、欲しいです……」
「だよね。……もう、そんな蕩けた顔して……ほら、涎が垂れちゃってるよ」
「え、えぅ……ごめんなさい。その、溢れてきちゃって……」
「一度、ちょっと吸っただけなのに」
「うー……私がすぐ溢れさせちゃうの、プロデューサーさんだって知ってるじゃないですかー」
「そうだけど。……ほんと、暑くなっちゃうのと溢れさせちゃうのはすぐだよねぇ、愛梨」
「むー。酷いですよぉ、私がそうなっちゃうの、プロデューサーさんのせいなのに……」
「僕の?」
「そうですっ。……私だって、そんな、何をしててもそういうふうに……暑くなったり、溢れさせちゃったり、そんなことをするわけじゃありません。私がそんなになっちゃうのはプロデューサーさんと一緒のときだけなんです。だから、私がこんななのはプロデューサーさんのせい、なんです」
「そっか、僕のせいかぁ」
「です。……だから、プロデューサーさんには責任を取ってもらわないといけません」
「責任?」
「はいっ」
「責任かぁ……それは、どんな?」
「それは、えっと……うぅん。例えば、私を絶対に捨てたりしないことーみたいな。そういう、こと? とかー」
「そういうことかー。……それなら大丈夫かな。愛梨を捨てる気なんて、そんなもの無いし」
「本当ですかっ?」
「もちろん。愛梨は大切なアイドルだからね」
「……むー」
「うん?」
「それじゃあ駄目です。やです。ちょっと、足りません」
「足りない?」
「足りません。……大切なアイドル、ってそれは嬉しいです。……でも違います。私はアイドルですけど……でも、プロデューサーさんの、アイドルなんです」
「? まぁ、それはそうだけど」
「むーっ」
「そんな、顔をぐりぐり押し付けられても……」
「……私はプロデューサーさんのアイドルで、プロデューサーさんは私のプロデューサーさんなんですー……」
「……もう」
「んっ」
「大丈夫?」
「はい。……気持ちいいです。ぎゅーって、強く、されるの」
「なら良かった。……まぁ、なんていうのかな。愛梨は僕の愛梨だし、僕は愛梨の僕だよ。愛梨が、そう許してくれてる限りはね」
「……えへへ」
「そもそも、こんなふうにすること自体、特別じゃないとしないわけだしさ」
「そうですね。……こうして抱き締めてくれたり、甘えさせてくれて。私を受け入れてくれて。……でも」
「でも?」
「でも、それでも……わがまま、ですけど……でもやっぱり、言葉も欲しいんです。それが貰えないと少し不安で、不満で……」
「それは」
「分かってます。私たちはアイドルとプロデューサーですから。プロデューサーさんが許すことのできない線があるんだろうな、って分かります。今の私の跡みたいに。しちゃうと、口に出しちゃうと駄目なんだーって線の向こうにある言葉もあるんだろうな、って、それは」
「……愛梨」
「私は、プロデューサーさんが許せないことはしません。でも、その、だけどとってもわがままですから。しませんけど、でもしないだけで心の中では欲しいなっ、欲しいなっ、て思っちゃうんです」
「そっか」
「……あ、でもだからって無理して許そうとはしないでくださいね。プロデューサーさんが許せないっていうことは、それはきっと許されちゃうと何かが駄目になっちゃうからなんですし。駄目だぞ、ってちゃんと言ってほしいです」
「ん……分かったよ」
「はいっ。……でも、プロデューサーさん」
「うん?」
「無理して、にならないときは……そのときはその、私のわがまま叶えてほしいなーって」
「それはうん。いいよ、もちろんね」
「えへへ、ありがとうこざいます……。それじゃあ」
「ん?」
「そのわがまま。プロデューサーさんが許してくれた、跡を付けたいって私のわがまま、今日はいっぱい叶えさせてもらっちゃいますね……?」
「うん、どうぞ。……なんというかまぁ、それも本当は許しちゃいけないようなことなんだけどね。あんなふうに思ってもらってるのにこう……本当、愛梨には甘くなっちゃって」
「甘いのはいいことですよー」
「甘すぎるのはちょっとなぁ」
「私はあまーいプロデューサーさんも大好きですもん。いいんです。だいじょーぶーです」
「んー」
「……ふふ。ぎゅーってハグするのも、大好きーって言い合うのも、跡を付けるのも、許してもらえた……。あと……もうちょっと……」
「愛梨?」
「あ、えへへっ、なんでもありませんっ。独り言ですっ」
「そう?」
「はいっ」
「まあうん、全部聞こえてたんだけどね」
「えぅっ!?」
「いや、ぼそぼそ声の呟きとはいえこんなに近かったらさ」
「あうー……プロデューサーさんに本当のちゅーを許してもらうまでの大作戦、バレちゃいました……」
「立案は大学のあの子かな?」
「はいー……まだ許してもらってないからできないけど、でもいつかプロデューサーさんとちゃんとした……唇同士の本当のちゅーしたいなぁ、って言ったら、ならーって」
「許してもらえるまで甘えちゃえ、みたいな?」
「です。プロデューサーさんは優しいから、その……今はまだ駄目なことも、ちょっとずつちょっとずつきっと許してくれるからーって」
「あながち間違ってるとも言えないのがなんともね」
「うー……」
「まぁ、そのキスは流石にちょっとね。さっき愛梨が言ってたみたいに、まだ駄目だぞ、かなぁ」
「……むうぅ」
「膨れないの」
「……したいです」
「だーめ」
「うぅー……どうしても駄目、ですか……?」
「どうしても駄目」
「ずっと絶対に駄目ですか?」
「うん。まだ、駄目だね」
「むー……」
「そんなにしたい?」
「そんなにしたいですー……。大好きなプロデューサーさんと、大好きだーって想いをいっぱいいーっぱい贈りながら、本当の……大好き同士でする、ちゅー……」
「……そっかぁ」
「うー……でもいいです。プロデューサーさんに許されないことはしたくないですし、それに」
「それに?」
「ずっと駄目だとは言われませんでした。まだ、って……そう言ってもらえましたから。だから我慢します。そのまだが終わって、いつか許してくれるその時まで」
「……うん」
「あ、でもっ」
「うん?」
「お願いするのはやめません。欲しい、ください、ちゅーしましょう、って……プロデューサーさんへお願いするのは、ずっといっぱい続けますからねっ」
「うん」
「だから、その……できるだけ、早く、叶えてもらえると嬉しいです。……信じてますから」
「……うん。まぁ、できるだけね」
「はいっ」
「んー……と、それじゃあ」
「?」
「これからもいろいろ誘惑されちゃうらしいのは覚悟しておくとして。とりあえず、ほら。今日許してあげられるのはここまでだから」
「あ……えっと、プロデューサーさん。その……」
「ん?」
「ちゅーはいっぱい……私の跡はたくさん……プロデューサーさんにして、付けたいし……付けますけど……」
「けど?」
「その前に……はいっ、プロデューサーさんも、ですっ」
「……うぅん、僕のほうはべつに」
「だーめ、です。……プロデューサーさんが私を許して甘えさせてくれるみたいに、私もプロデューサーさんをいっぱい許してたくさん甘えさせてあげたいんです。だから、私が甘えた分だけ、プロデューサーさんも」
「んー……とは言われてもなぁ」
「そうですねー……例えば、ちゅーとかー。ほっぺにちゅっちゅってしたり、首元へずっとちゅーちゅーってし合ったり、あとは……その、唇と唇でむちゅーってしたりとかー」
「それは愛梨がしたいって思う願いなんじゃない?」
「プロデューサーさんは私としたくないんですか?」
「そういうことじゃないけど」
「私はこんなにしたいのにー……」
「こら、唇むちゅーっとしないの。……もう、これは思ったよりも大変そうだねぇ。愛梨の誘惑」
「えへへ、お願いするときは思いっきりしなきゃ駄目だーって教わりましたからっ」
「それはまたなんともまぁ。……あぁ、でもそれなら」
「?」
「お願い、あれにしようかな。ほら、いつかの前にもしてもらったやつ」
「いつかの……なんでしょう?」
「膝枕」
「……膝枕」
「ん、あれでさ、頭をぽんぽんーって。僕がやってあげた後、愛梨が自分もやりますーって言ってやってくれたことあったでしょ?」
「それは、えっと、ありますけど……」
「あれじゃ駄目かな?」
「うー……その……駄目じゃないんですけど、えっと……あんまりー……」
「あれ、嫌だったりする?」
「嫌とかでは全然ないんですけど……」
「けど?」
「……うー……だって、こう、前に膝枕したとき、プロデューサーさん眠っちゃったじゃないですかー……」
「あーうん。疲れてたのもあったしね。愛梨に優しくぽんぽんされてたら、いつの間にか」
「あれです。あれ、されちゃうと困るんですー……」
「や、まぁ、勝手に寝ちゃったのは悪かったかもだけど」
「違いますっ。眠っちゃう、ってそれは全然いいんです。私で安心して、私で気持ち良くなってくれたってことですし。嬉しくはなりますけど、それで嫌だーってなるなんて、ありません」
「ならどうして?」
「……だって」
「だって?」
「だって……だって、あんな無防備に唇を晒されたら……私、我慢できなくなっちゃいます……。許してもらってないのに、したくてしたくてどうしてもしたくなっちゃって……プロデューサーさんと、唇とちゅー……勝手にしそうに、なっちゃいます……」
「……なるほど」
「ま、前は本当に大変だったんですからねっ。ぎゅーって手を握っても、他のところへたくさんちゅーしても、全然、したい気持ちが収まらなくて……」
「目が覚めたとき、愛梨が泣きそうな顔で僕の指に吸い付いてたのはそういう」
「危なかったですー……。あとちょっと遅かったら私、約束も何も全部破ってプロデューサーさんとしちゃってました……」
「そっかぁ」
「ですー……」
「してほしかったんだけどなー」
「うー……」
「許してもらえなかったかー」
「む、ずるいですー……そんな、さっきのお返しみたいにー……」
「ふふ、ごめんごめん。……でもそっか、駄目かぁ」
「ごめんなさいー……。その、いつか許してもらえたら、その後にだったら、むしろ私のほうからお願いしますから……」
「ありがとう。いつになるかは分からないけど、楽しみにしておくよ」
「……今すぐ、とか」
「まだ駄目かなー」
「むー……」
「ふふ。……とまぁ、うーん……そうなると、どうしようかなぁ……」
「ごめんなさい。……プロデューサーさんを裏切らずに済むことなら、なんでも、大丈夫なので……」
「そこまで言ってもらわなくても大丈夫だけど」
「うぅー……」
「……」
「……んぅ」
「愛梨」
「……はいー……?」
「そうだね。それじゃあさ……明日、温かい格好をしてほしい。でもいいかな」
「……温かい、ですか?」
「うん。もこもこの、あったかい」
「それは、べつにいいですけど……」
「あ、それと、途中で脱ぐのは駄目ね」
「えっ、えと、それは……」
「できなさそう?」
「うー……プロデューサーさんがそうしてほしい、って言うなら……頑張ってみます、けど」
「そっか。……ん、それじゃあそれでお願いしようかな」
「むぅ、いいですけど……でも、プロデューサーさん。その、甘えるって……そんなことでいいんですか?」
「ん、そうしてもらわないと困っちゃうしね」
「困る?」
「うん。……だって、見られちゃうからさ」
「?」
「温かい格好をして。僕と二人でマフラーを巻いて。……首元を隠して、さ」
「っ、あ、えっと、それって!」
「ねぇ愛梨。僕も、愛梨に付けていいかな?」
「はいっ、もちろんですっ!」
「ふふ、そっか。許してもらえて良かったよ」
「そんなの許しちゃうに決まってますよぉ……私のほうこそ、ずうっとしてほしいって思ってたことなんですもん……」
「喜んでもらえたみたいで何より。……まぁ、明日はともかく明後日は仕事もあるし、あんまり深くは付けてあげられないけどね」
「それでも嬉しいです……。私に、プロデューサーさんの跡……プロデューサーさんに、私をあげられるなんて……」
「甘える分だけ甘えさせてくれるって言ってくれたからね。それならしてくれる分だけ、僕も愛梨へお返しをさ」
「ありがとうこざいますー……」
「もう、そんなうるうるしちゃって……」
「だって嬉しいんですもん、しちゃいますよぉ……」
「……本当、愛梨は可愛いなぁ」
「えへへ、プロデューサーさんの愛梨ですから。……えへ。えっと、うん、それじゃあ」
「ん」
「いっぱいいっぱい、プロデューサーさんの跡、私にくださいね……。たくさんたくさん、私の跡、プロデューサーさんに尽くしますから……」
「うん。愛梨の許してくれる限りまで、いっぱいね」
「それじゃあぜーんぶ真っ赤になっちゃいますねっ。……ふふ、楽しみです」
「限りが広いなぁ。……まぁうん、いっぱい、たくさん、させてもらうよ」
「はいっ。……えへへ、プロデューサーさん」
「うん?」
「大好きですっ。いっぱい好きで、たくさん大好きで……プロデューサーさんのこと、とーっても愛してますっ!」
以上になります。
お目汚し失礼いたしました。
三船美優「許してくれる貴方へ」
三船美優「許してくれる貴方へ」 - SSまとめ速報
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以前に書いたものなど。
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