モバP「コーヒー&シガレッツ」 (15)

『ココアシガレット』



喫茶店


幸子「タバコ吸っていいですか?」

凛「は?」

幸子「これですよ、これ」

凛「え…ああ、なんだ、ココアシガレット。駄菓子か」

幸子「当然です、ボクまだ14歳ですよ?」

ウェイトレス「ご注文はお決まりでしょうか?」

凛「幸子、決まった?」

幸子「コーヒーを」

凛「オレンジジュースとかもあるけど」

幸子「コーヒーで!アメリカンでお願いします!」

凛「ふふ……私も同じのを」

ウェイトレス「かしこまりました」

幸子「私も同じのを……それも大人っぽくていいですね」

凛「なに?大人っぽくなりたいんだ?」

幸子「そんなんじゃないですよ」

凛「それでそのタバコなわけか」

幸子「ああもう……そんなんじゃないですって。ボクらの中で流行ってるんです、ココアシガレット」

凛「ボクらって……輝子と小梅と……」

幸子「それと、卯月さんと響子さんと美穂さんですかね」

凛「ピンクチェックスクールも?」

幸子「お仕事中に美穂さんに聞かれたんですよ。なあにそれって。142sで流行ってるって教えてあげたら、ハマってしまったようで」

凛「それでピンチェに輸入されたわけ?」

幸子「そのようですね。卯月さんなんか、布教活動までしているみたいですよ?バックに2、3箱入れてるみたいです」

凛「へぇ、最近卯月と会ってなかったからなぁ…」

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ウェイトレス「お待たせいたしました。アメリカンコーヒーです」

凛「どうも」

ウェイトレス「ごゆっくりどうぞ」

凛「……ん、熱い」

幸子「凛さんもいかがです?」

凛「うん?」

幸子「ココアシガレット」

凛「ああ、うん、貰おうかな」

幸子「……んぁ、うっすいですね、これ」

凛「そりゃあアメリカンだからね………甘いね、これ」

幸子「そりゃあココアシガレットですからね……ブレンドコーヒーにしておけばよかった」

凛「アメリカン、初めてだった?」

幸子「初めてでした」

凛「大人デビューは失敗?」

幸子「いえ、これはこれで美味しいです。お腹に優しい感じがしますね」

凛「そっか………ブフッ!!!」

幸子「えっ!?」

凛「エホッ!ゲホッ!ゲホッ!」

幸子「ど、どうしたんですか急に!?ああ…ハンカチを…」

凛「エホッ…ん……ごめん、ありがとう……」

幸子「大丈夫ですか…?」

凛「あー、いや……さっきのこと思い出しちゃってさ」

幸子「さっきの?」

凛「テレビ局の控え室で…」

幸子「あー!やめてくださいよ!」

凛「『まあ、ボクは世界一カワイイですからね!』って言ったその後ろから『それって私よりも?』って飛び切りの笑顔の水瀬伊織が………ふふッ!」

幸子「もー……思い出させないでくださいよぉ……」

凛「あの時の幸子の顔といったら……『えッ!?ああいやその…』ってしどろもどろしちゃって」

幸子「あの時は流石のボクも肝を冷やしましたよ……伊織さんもいじわるしなくたっていいのに……もう!」

凛「幸子はからかいたくなるからなぁ」

幸子「なんですか、それ…」

凛「なんだろうね、才能としか言いようがないかも」

幸子「ボクの才能はカワイイことですよ。それ以外にありません」

凛「ふふっ……そういうところかな?」

幸子「………今日は凛さんもいじわるなんですね」

凛「拗ねないでよ、カワイイカワイイ」

幸子「もっと心をこめてくださいよ。ほら、頭を撫でて。撫でながらカワイイって。恥ずかしいのでしたら、目をつぶっていてあげますから。さあ!」

???「カワイイカワイイ」ナデナデ

幸子「ああ、いい感じです。でも、凛さんの声ってそんな声でしたっけ?」

凛「あっはは!幸子、後ろ後ろ」

幸子「え?」

伊織「満足したかしら、カワイイカワイイ幸子ちゃん?」

幸子「ええッ!?ぇあ、なんで!?」

凛「あははははは!」

伊織「ここ、いいかしら?」

幸子「え、ああ……ど、どうぞ」

伊織「ありがとう。ウェイトレスさん、オレンジジュースを」

ウェイトレス「かしこまりました」

伊織「奇遇ね。たまたまここに入ったら、アンタたちが見えたものだから」

幸子「タイミングが悪いんですよぉ、もぉ……」

伊織「なに?私、悪いことした?」

凛「いや、ベストタイミング」

伊織「あらそう?ところで、タバコを吸ってもよろしくて?」

凛「え?」

幸子「あーそれ!ブルーベリーシガレット!」

伊織「あら、知ってるの?な~んだ、ちょっと驚かしてあげようと思ったのに」

幸子「ボクも好きなんですよ。ココアシガレットの方ですが」

伊織「あれはダメね。オレンジジュースに合わないもの」

凛「ブルーベリーもどうかと思うけど…」

幸子「嬉しいですねぇ!シガレットファンがここにもいたなんて…」

伊織「そう?」

幸子「はい!ね?」

凛「え…うん」

幸子「ゴクッ……やっぱりコーヒーにはココアシガレットですねぇ」

『シガービスケット』





事務所


拓海「なぁ、文香」

文香「……………」ペラッ

拓海「……なぁって」

文香「……………」

拓海「本当に読書中になるとまわりの音聞こえねぇんだな…」

文香「……………」

拓海「文香~」

文香「……………」ペラッ

拓海「おーい、文香さーん」

文香「……………」

拓海「しょうがねぇ、奥の手だ」ガアサガサ

文香「……………」

拓海「ほぉーれ、お前の好きなシガービスケットだ……んむっ、美味い」

文香「……………」ピクッ

拓海「………食べたいヤツは口を開けてー」

文香「…………んあ」

拓海「はーい、お上手、まずは一個だ」

文香「んぐんぐんぐ……」

拓海「ほれ、もう一個あるぞ~」

文香「んぐ………んあ」

拓海「よぉーしよし、もう一個やろうな~」

文香「んぐんぐ……」ペラッ

拓海「……聞こえてたな?」

文香「……っ」ビクッ

拓海「聞こえてて無視してたろォ?エェ?もう一個食うか?」

文香「………んあ」

拓海「……いい度胸じゃねェか!」ガサガサガサッ

文香「んッ!?んむむむ!ンむ!?」

拓海「美味いかァ~?まだまだあるぜェ~?」

文香「ふ、ふみまへん……もうひいれふ……」モゴモゴ

拓海「ったくよぉ…」

文香「んぐっ……すみません、ちょっとしたいじわるのつもりで…」

拓海「アタシにいじわるとはいい度胸だ……なッ!」

文香「あっ…あはははは!!!やめ、くすぐらないでくださ……あはははは!!!」

拓海「文香は脇が弱いんだったよなァ~?」

文香「ま、参りました……参りました、私が悪かったですから……あはは!も、もう…やめ……」

拓海「へへっ!分かりゃいいんだ、分かりゃ。コーヒー飲むか?」

文香「はぁ……はぁ……はい、頂きます」

拓海「文香は砂糖2個にミルクたっぷりだったよな」

文香「ええ……拓海さんはお砂糖1つにミルクなし……でしたよね?」

拓海「おう。甘いのは好きなんだけどよ、甘すぎんのはダメなんだ」

文香「ふふ……知ってます。私は……苦いものは好きなのですが……」

拓海「苦すぎんのはダメなんだろ?知ってるよ。ほれ、コーヒー」

文香「ありがとうございます………ん、美味しい」

拓海「だろ?」

文香「……それで、なんのお話しでしょうか?」

拓海「ん?」

文香「……先ほどの」

拓海「ああ……なんだっけか………ああ、そうそう。今度プロデューサーの誕生日だろ?それの相談」

文香「……なるほど」

拓海「プレゼントについてみんな色々考えてるみたいでよ。夏樹と李衣菜はネクタイ、和久井の姉御は名刺ケース、両方とも洒落たヤツだった」

文香「……お仕事用にと選んだのでしょうね」

拓海「で、美嘉は香水で、まゆはタイピンとかいうヤツ。幸子たちは駄菓子セットをあげるとかなんとか言ってたっけな」

文香「……みなさん、思い思いのプレゼントを考えているのですね」

拓海「そうなんだよ、それが悩みのタネでな。ウチの事務所は人が多いだろ?なにかしら選ぶと、どっかしら被るんだよ……」

文香「そういうことでしたか……」

拓海「なあ、なんかいい案ねぇかな」

文香「そうですね………拓海さんのコーヒーを少し頂いてもよろしいですか?苦いコーヒーで頭を冴えさせたいので」

拓海「アタシもそっち貰っていいか?頭使うと、甘いのが欲しくなる」

文香「では……交換で」

拓海「おう……交換な」

文香「ん………にが……」

拓海「ん………あま……」

文香「お返しします……」

拓海「アタシも……やっぱそれ甘すぎ」

文香「……口直しに」

拓海「シガービスケット?」

文香「はい……ちょうど良い味です」

拓海「んむ……確かに」

文香「んむんむ」

拓海「なにがいいかなァ~…」

文香「……本など贈られてはどうでしょうか。以前、お話しした作家の新書が…」

拓海「それは文香が欲しいモンだろ?」

文香「あう……」

拓海「スカジャンとかどうかな。この前、イカしたやつが売っててよォ!」

文香「……拓海さん」

拓海「わーってるよ、アタシが欲しいヤツだ、それは」

文香「ですよね……」

拓海「なにがいいかなァ~……」

文香「拓海さん……あーん」

拓海「あー……ん……んむ……うめぇなあ、シガービスケット」

『シガーケース』




喫茶店

マスター「あい、お待ちどうさん。ウインナーコーヒーは?」

ヘレン「私よ」

マスター「カフェラテは…お嬢ちゃんだね」

奈緒「ありがとうございます」

マスター「はい、お姉さんはエスプレッソ」

時子「どうも」

マスター「これ、お茶請けのビスケット。サービスだから。じゃあ、ごゆっくり」

ヘレン「Sだけにエスプレッソ?」

時子「……帰っていいかしら」

ヘレン「ふふっ、冗談よ。そんなに怒らないで?……ンー、ここのコーヒーは素晴らしいわね。世界レベルだわ」

時子「チッ……」ゴクッ

奈緒「あ…あの」

ヘレン「ああ、ごめんなさい。それで、珍しい組み合わせだけど、今日はどんな用件?」

奈緒「うん……実はこれなんだけど」コトッ

ヘレン「ンーフン?」

時子「…………」

奈緒「家の押入れから見つけたんだ。すごい素敵なデザインでしょ?」

ヘレン「ンーフン?」

奈緒「プロデューサーの誕生日にハンカチを贈ろうと思ってたんだけど、ハンカチだけじゃあれだからこれもセットにしようと思ったんだ。親も好きにしなさいって言うし」

時子「良かったじゃない。あの豚にはもったいないくらい素敵なプレゼントになるわよ」

奈緒「いやあ、そうなんだけど…」

ヘレン「なにか問題でも?」

奈緒「これ、なにに使うものなのかなーって」

ヘレン「……なにに使う?」

時子「そんなこと、貴女の親に聞けばいいことじゃない。こんなことでわざわざ私の時間を無駄にさせるつもり?」

奈緒「聞いたよ。でも、プロデューサーさんに聞いてごらんって。なんか嬉しそうな顔しながらさ」

時子「チッ……だったら解らないまま贈ってやりなさい。あの豚にはそれで十分よ」

奈緒「ん……いや、なんか、変な品だったら嫌だろ?もしかしたら、エ、エッチなものとかだったりして……ウチの親、しょっちゅうそういうことでからかってくるんだ」

時子「チッ!」

ヘレン「なるほどね、それで私たちにこれがなにかを訊ねようってわけね」

奈緒「そう。せっかく素敵なデザインだからさ……分かる?」

ヘレン「当然よ、世界レベルに知らないことなんてないわ」

奈緒「良かった~!で、一体これはなんなんだ?」

ヘレン「そうね……時子、教えてやりなさい」

時子「………アァン?貴女が教えればいいじゃない」

ヘレン「世界レベルの回答をそう簡単に出すわけにはいかないのよ。もしかして、これがなんだか分からないのかしら?」

時子「……バカ言わないで頂戴。この私が分からないとでも?」

奈緒「じゃ、じゃあ教え……」

時子「気に入らないわね」

奈緒「えっ」

時子「貴女、教えてもらう立場で、その態度はなんなのかしら?教えを請うのならば、それなりの態度ってものがあるでしょう?」

奈緒「え~……お、教えてくださいお願いします」ペコッ

時子「ハァ……本当は土下座じゃないと教えないつもりだったのだけれど、まあいいわ。教えてあげる」

奈緒「うん」

時子「これは……あれよ、箱……箱よ」

奈緒「箱?」

時子「箱よ」

ヘレン「そう、箱よ」

奈緒「な、なんの箱?」

時子「なんのって……貸しなさい」

奈緒「うん……・」

時子「あー……これはあれの箱よ…あの…」

ヘレン「あれよね。言いたいことはわかるわ。貸して……あー、見事にあれの箱ね」

奈緒「その横のボタンみたいのってなんなの?」

ヘレン「ボタン?」ポチッ


パカッ

ヘレン&時子「開いた!?」

奈緒「ぇあ!?」

時子「………そう、開くのよ。当然でしょう?」

ヘレン「箱だもの、開いたりもするわ。この中の窪みにね……あれが合うのよ」

奈緒「あ、あれってなんなの?なにかを入れるケースってこと?」

ヘレン「あー……そう。ケースよ。ね?」

時子「そう、ケースよ。分かったでしょう?上等な品だわ。さっさとあの豚にくれてやればいいわ」

奈緒「えぇ……」

マスター「コーヒーのおかわりはいかが?」

奈緒「え、ああ、お願いします」

マスター「おお、それ、シガーケースかい。私と使ってるものと同じだ。これはタバコが良い状態で保たれる、素晴らしい品だよ。良いモン持っとるね」

時子「……そう、シガーケースよ」

ヘレン「シガーケース。ええ、そうよ、シガーケース。タバコを入れるのよ」

奈緒「…………」

マスター「で、おかわりはどうするね」

時子「頂けるかしら?」

ヘレン「うんと熱くね」

『タバコロード』





事務所


奏「……………」ゴクッ

P「ただいま~っと」

奏「あら、おかえりなさい」

P「なんか肌寒くなってきたなぁ」

奏「コーヒーでも?」

P「ああ、悪いな。いつもので頼む」

奏「はいはい、レモンね」

P「そうそう。コーヒーに蜂蜜漬けのレモン」

奏「よくこんなの作ろうと思ったわね」

P「我が家に伝わる由緒ある飲み物だ。婆さんが創始者」

奏「はい、熱いから気をつけて……って、タバコ臭い」

P「そう言うな。営業先での喫煙所談話ほど、手軽な手段はないんだ」

奏「今は煙も臭いもほとんど出ないタバコがあるんでしょ?アイコス?」

P「あれはもうちょっと様子見てからだな。ああいうのはオッサンの方が目ざとい」

奏「というと?」

P「わー、それアイコスってヤツっすか!使った感じどうです?……ってな感じで切り出せば、オッサンたちは嬉しそうに語りだす。これを一通りやってから、自分も○○さんにつられて買っちゃいましたよ~、ってのでまたやる。流行はいい話題のタネだよ。まあ、今アイコスの在庫がなくて手に入れ辛いってのもあるが」

奏「ふぅん」

P「サラリーマンは大変なんだよ、色々と。奈緒からシガーケース貰ったばっかりだしな……うーん、美味い」

奏「でしょう?隠し味が入ってるもの」

P「隠し味?」

奏「キスを少々」

P「最高だね……それは?」

奏「ん……映画よ」

P「白黒なんか観てるのか……なんてやつ?」

奏「タバコロード」

P「ふぅん……面白いの?」

奏「全然。でも好きなのよ。この時代の映画は、お話が単純で良いわ。単純で、純粋で、なんにもない。そういう映画が好きなの」

P「そっか。奏がそれで幸せならなにも言うことはないよ」

奏「ええ………ところで、それってどんな味なの?」

P「え?」

奏「レモンコーヒー」

P「あー、初恋の味、レモンだし」

奏「ひとくち頂戴」

P「あいよ、熱いから気をつけてな」

奏「知ってる」

P「………なあ、やっぱりこの映画つまんねぇよ。変えていい?」

奏「だーめ」



終劇

これにて終了ですー
久しぶりにこんなの書きました


タイトルはジャームッシュの映画か。ジョン・フォードもおもしろいと思うんだけどなあ。

>>12

そうですー
僕もジョンフォード好きですよ。ss内で言ってることはあんまり気にしないでください、適当なので

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