高垣楓「眼福」 (18)
P「ふぅ…楓さん何頼みます?」
楓「そうですね…先にPさんに決めてもらいましょうか」
P「じゃ、とりあえず俺は生で。楓さんは好きなもの頼んでいいですよ」
楓「好きなもの…と言われると迷いますね」
P「嫌いなものでもいいですよ」
楓「嫌いなもの…じゃあ私の嫌いな芋焼酎で」
P「あー出た出た。楓さんの一番嫌いなやつですね」
楓「いつも頼みすぎてお財布が厳しくなるので…ニクいやつです」
P「今日は俺が出すんで気にしなくていいですよ」
楓「あら…嬉しいお話ですが、その…大丈夫なのでしょうか?」
P「まあ…お陰様で儲かってますんで。額は言えませんが、今回のボーナスは弾んでもらえましたし」
楓「ふふ…お役に立てているなら光栄です」
P「いや本当に楓さん効果っていうか…あ、すみませーん!芋と生一つずつ貰えますか!?」
店員「かしこまりましたー!」
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P「今日の撮影もスムーズにいきましたねー。さすが元モデルというか」
楓「いえそんな…皆さんのお陰ですよ」
P「謙虚ですねぇ」
楓「自分に自信が無いだけかもしれませんよ」
P「一回自信満々で調子に乗ってる楓さんを見てみたい気もしますが」
楓「そのくらいポジティブになれればいいんですが…」
P「人間、簡単には変われないですよね」
楓「あっ、ところでPさん」
P「何ですか?」
楓「彼女さんとはうまくやってらっしゃるんですか?」
P「まあボチボチですね…今日は楓さんと打ち上げするって話をしたら拗ねてましたが」
楓「あら…それは申し訳ないことを…」
P「いやいや!楓さんが気にすることじゃないですよ。22時までに帰れば許してくれるらしいですし」
楓「今日は時間厳守ということですかね」
P「そんな感じでお願いします。すみませんね、こっちの都合で」
楓「いえいえ。仲の良いことで…」
P「付き合いだけは長いですからねぇ」
楓「彼女さんはその…芸能界ではなく一般の方でしたっけ?」
P「そうですね…ごく普通の会社員ですよ」
楓「すごく美人とか」
P「いやいや事務所のアイドルと比べたら全然。なんかカワウソみたいな顔してますし」
楓「すごく料理が上手とか」
P「いや…料理の腕は俺とあんまり変わらないですかね」
楓「じゃあすごく優しいとか」
P「どうでしょうね…結構な頻度でケンカもしますし」
楓「ふぅん…」
P「腐れ縁的なアレなんじゃないですかね」
楓「ずっとお付き合いされてるんですよね?」
P「そうですね。5年?6年?割と長いとは思います」
楓「長いですねぇ…」
P「お互い色々工夫してますからね…プレゼントに凝ったりとか、ケンカした時のルール決めたりとか」
楓「きっと大変なんでしょうけど…なんだか楽しそうですね」
P「楽しい…と言うかまあ、彼女のいない生活はあんまり想像できないですね。少なくとも今は」
楓「家族みたいなものなんでしょうか…」
P「そうですね…恋人というよりは同居人っていう感覚ですかね…」
楓「でも好きなんですよね?」
P「いえ、まあ…嫌いではないですよ」
楓「ふぅん…」
楓「ご結婚とかも考えてらっしゃるんですか?」
P「うーん…タイミングが無いんですよね」
楓「タイミング…」
P「タイミングというか…きっかけかな。今のままでも特に不便は無いですし…」
楓「でも…向こうもそういう話を切り出してくれるのを待ってるんじゃないですか?」
P「返す言葉も無い…遅いよりは早い方がいいってわかってるんですけどね」
楓「可哀想なカワウソ…」
P「それ言いたかっただけですよね?」
楓「あら…本当に彼女さんには同情してますよ」
P「反省はします。ところで俺が聞くのも変な話ですけど、楓さんはいい人いないんですか?」
楓「いい人…そうですねぇ…」
P「いる、って言われたらそれはそれで困るんですけど…まあ楓さんならその気になりゃいくらでも見つかると思いますが」
楓「私が好きになる人って…いつも既に恋人だったり、決まった相手がいるんですよね」
P「そりゃまた大変ですね…」
楓「略奪愛とかそういう柄でもないですし…早苗さん辺りには叱られちゃいますけどね。『欲しいものを手にするためなら手段は選ぶな』って」
P「ハハ…さすが早苗さんは豪気だなぁ」
楓「それに…なんだか満足しちゃうんですよね、見てるだけで」
P「見てるだけ、って言うと…?」
楓「好きな人が幸せそうな表情をしてくれて、それを傍で見れるならもう十分かな、って…」
P「ほー…立派ですね…俺がそういう立場だとたぶん嫉妬心を抑えられない気がします」
楓「嫉妬ならしてますよ、ずっと…羨ましい、と言った方が適切かもしれませんが」
P「なんか今も好きな人がいるみたいな口ぶりですね」
楓「どうでしょうね」
P「すごく気になるんですが…」
楓「恋人がいる人には教えません」
P「おっアレですか。輝子的な『リア充爆発しろ』思考ですか」
楓「輝子ちゃんとは違う理由ですが…とにかく教えません。黙秘します」
P「楓さんの口を割らせる自信は無いですし…教えてくれるまで待ちますよ」
楓「あら…一生教えないかもしれませんよ?」
P「一生!?それはちょっとヘコみますね…」
楓「知らない方が良いこともある、ということで…」
P「まあ何にせよ…その好きな人とうまくいくといいですね」
楓「ええ、本当に…」
P「しかし楓さんがデートとかしてる姿は想像つかないですね」
楓「そうですか?たぶん平凡なデートをしてると思いますが…」
P「どこに行きたいとか、あります?」
楓「お酒が飲めればどこでも」
P「元も子も無い」
楓「あら…幸せなことですよ、好きな人と一緒にお酒が飲めるのは。最近よく実感しますし…」
P「それはまあ…一理ありますね」
楓「ふふ…安心して酔える、というのは素敵なことですし」
P「なんか心配になる台詞ですね」
楓「大丈夫ですよ。私、Pさん以外の男性と飲みに行くことはほとんどないですし」
P「えっ、そうなんですか?」
楓「前にも言ったかもしれませんが、私あんまり友達いないんですよね…今の事務所に入る前はなおさらでした」
P「なんででしょうね。独特のオーラのせいなのか…」
楓「単に口下手なだけなんですが…お高く留まっているように見えるんでしょうね」
P「はー…美人も大変ですな」
楓「得することもあるんですけどね。お酒をサービスしてもらえたりとか」
P「にしても、楓さんくらいの美人なら彼女持ってる相手でも誘惑すりゃ何とかなるんじゃないですか?」
楓「それでも靡かない人もいるんですよ」
P「贅沢なヤローですね」
楓「仰る通りです。それに、とても鈍感な方ですから」
P「鈍感はダメですね。相手の気持ちを汲もうっていう努力が足りない」
楓「まったくです。その人に聞かせてあげたいくらい」
P「何ならソイツ呼び出してくださいよ。俺が説教してやります」
楓「それは無理かと…」
P「無理?なんでですか?」
楓「なんででしょうねぇ…ご自分の胸に聞いてみてはどうでしょうか」
P「えー…楓さんは大事なところをはぐらかすからなぁ」
楓「とにかく…鈍感な人はどうしようもないってことです」
P「それに関しては同意しますが…」
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楓「っていう話が昔ありましたよね」
P「あったな」
楓「まあこの3日後にPさんは当時の彼女さんにフラレたわけですが」
P「ちょっ…それはもういいだろ!仕事優先しすぎたのがマズかったよなぁ…」
楓「今の相手は仕事に理解のある人で良かったですね」
P「それは本当助かってるよ…まあ自分で言うことじゃないとは思うけどな」
楓「うふふ」
P「それより楓さん、あの時『見てるだけでいい』って言ってたけどあれは嘘だったのか?」
楓「嘘ではないですよ?見てるだけで十分です」
P「えっ」
楓「ただまあ…もう少しだけ近くで見たくなっただけです。鈍感でどうしようもない人を」
おわり
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