言峰綺礼「聖杯・戦争(ウォー!)への参加を認めよう」西住みほ「え……」 (138)

―冬木学園艦 教会―

凛「ついにこの日が来たのね……」

桜「姉さん……」

凛「桜はどうするの? 参加するかどうか、決めた?」

桜「わたしは……その……」

凛「まだ1週間わ。ゆっくり決めればいいわよ。参加するなら、覚悟も決めておきなさいよ」

桜「……」

綺礼「意外と遅かったな、凛」

凛「女の身支度は時間がかかるのよ」

綺礼「参加する意志はあるのだな」

凛「当然でしょ。私がなんのためにこの10年、宝石を磨いてきたと思ってるの」

綺礼「そうだな。歓迎しよう。遠坂凛」

凛「一足先に行くわね、桜」

桜「はい……」

綺礼(聖杯・戦争の幕はまだ上がらず、か……)

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―学園艦 大洗女子学園―

優花里「にしずみどのー!! これを見てください!」

みほ「ど、どうしたの、優花里さん?」

優花里「今月の月刊戦車道ではタンカスロンの特集が組まれているのですが」

沙織「なに、それ? 戦車道なの?」

みほ「重量制限がある非公式の試合のことだよ」

華「そのような試合形式もあるのですか」

麻子「ルール無用の戦車道だと聞いたことがある」

優花里「実際見てみると、戦車道というよりは戦車戦って感じですからね」

沙織「なんだか怖そう……」

みほ「そのカンタストロンでなにかあったの?」

華「注目選手は鶴姫さん、ですね。この方になにか?」

優花里「いえ、選手ではなく、この小さな記事を見てください」

みほ「んー? 冬木市で戦車道試合を開催……?」

優花里「冬木市にて戦車道の野試合を行うんですよぉ!? これは事件ですなんですぅ!!」

麻子「何が事件なんだ?」

優花里「冬木市と言えば!! 10年前、大規模な戦車道の野試合を開催して、大事件を起こした場所なんです!! そこでまた戦車道が行われるなんて……!! きっと何かあります!!」

沙織「10年前って私たちはまだ小学1年生かぁ。記憶にないなぁ」

華「大事件とはなんでしょうか」

みほ「聞いたことある。大きな公園が一日で焼け野原になったとか……」

沙織「えぇ? それってヤバくない?」

優花里「多数の怪我人もいたようです……」

麻子「戦車道からはかけ離れた試合をしたようだな」

華「カンタスロンとはかなり危険な競技なのですね」

みほ「うん……」

麻子「で、そんな大事件を起こした土地が10年ぶりに戦車道野試合をするのか」

優花里「はい。また何かが起こってしまうかもしれません……」

みほ「安全性とかはちゃんと見直してるんじゃないかな?」

華「でなければ開催に反発する人も多そうです」

優花里「そうですよね。でも、この冬木市に対してはあまりイメージがよくなくて……」

麻子「戦車道のイメージダウンになるかもしれないということか」

優花里「私も当時のことをよく知っているわけではありませんけど、過去の記事などを見る限り、戦車道ともカンタスロンとも違う何かかと……」

麻子「そんな大事件なら、隠蔽しようとする人が出てきていてもおかしくないな」

沙織「なんで? そんなのすぐにバレちゃわない?」

麻子「大火災自体は隠せなくても、大火災の原因は隠すことができる」

華「なるほど……」

麻子「その原因がよくわからないままに試合をするとなれば、秋山さんのように純粋な戦車ファンは疑念を抱いても不思議じゃない」

沙織「そういうもんかぁ」

みほ(そういえば……丁度、小学校1年生から2年生になるぐらいの時期……お母さんがしばらく家を留守にしてたこともあったような……。冬木の事件と関係あるのかな……)

優花里「西住殿、何か知っているのですか?」

みほ「え? ううん!! 何もな――」

『普通一科2年A組、西住みほ。至急、生徒会室まで来るように。繰り返す、普通一科2年A組、西住みほ。至急、生徒会室まで来るように』

みほ「え?」

沙織「な、なになに? みぽりん、なんかしたの?」

みほ「し、してない! してない!」

―生徒会室―

桃「急に呼び出してすまない」

みほ「いえ。それでなにか……」

桃「お前宛にこのような手紙が届いた」

みほ「手紙……?」

柚子「手紙と言うよりは、招待状みたいなものかな」

桃「悪いが中身は確認させてもらった。差出人が不明だったのでな」

みほ「いえ、構いません。それで、内容は……?」

杏「戦車道非公式試合、聖杯戦への招待状だったよ」

みほ「は、はい? それは……」

杏「冬木市ってところで今度大きな野試合をするんだって。で、西住ちゃんはそのゲストとして参加してほしいって書いてる」

みほ「冬木市……!?」

桃「何かあるのか?」

みほ「あ、いえ……」

杏「10年前の大火災って戦車道が原因らしいね」

みほ「知ってたんですか……」

杏「まぁ、戦車道のことは色々と勉強したからなぁ」

桃「その大火災とは?」

杏「冬木市で戦車道の野試合をしたときに起こった火災。大きな公園で起こって、多くの観客が怪我したんだってさ。死亡者も数名いたらしいね」

柚子「戦車道でそんな事件が……」

杏「まぁ、本物の砲弾や榴弾を使う以上、そういった事故は100パー防げるものじゃないし、カンタスロンに至っては戦車以外の携行兵器の使用も認められてるしねぇ」

桃「そうだなのですか」

杏「で、西住ちゃん?」

みほ「はい」

杏「参加する?」

みほ「……」

杏「これは大洗や私たちは一切、関係がない。西住ちゃんの意志で決めてよ」

みほ「私は――」

みほ「参加、しません」

杏「そっか。それじゃ、破棄しとくよ。差出人不明だし、冬木氏のどこに返送すればいいのかもわかんないしな」

みほ「理由は、聞かないんですか?」

杏「聞いてほしい?」

みほ「いえ、そういうわけじゃ……」

杏「西住ちゃんはこういう試合、あまり好きじゃないだろうし、いいかなって」

みほ「会長……」

杏「かわしまぁ」

桃「はっ。シュレッダーにかけ、最後は燃やしておきます」

柚子「最初から燃やせばいいのに……」

みほ「すみません、会長」

杏「なんで西住ちゃんが謝る必要があるの?」

みほ「なんとなく、お手数をおかけしてしまってますし」

杏「そんな他人行儀に言わなくても。私は西住ちゃんの頼みならある程度は引き受けることにしてっから」

杏「干し芋10年分はきっついけどね」

みほ「あははは、そうですね」

みほ(気にならないといえば嘘になっちゃうけど……これでいい……。無理に参加する必要もないし……)

―冬木学園艦 教会―

綺礼「――どうやら、西住みほは不参加を決めたようだ」

「手紙は灰となったか。王者と聞いたが、やはり塵芥の凡俗でしかなかったようだな、コトミネ」

綺礼「どうかな……」

「何故、その女に固執する」

綺礼「遠坂、間桐、アインツベルン……。三家の参戦に快く思わぬ者もいる」

綺礼「だが、外部の人間、それも著名な人物が混ざることで、疑念の濁りは希釈されることもある」

「そのための西住家か」

綺礼「監督役は見た目ほど楽ではなくてな」

「いつから人間のようなセリフを吐くようになった?」

綺礼「私は人間だ。ただ、見てみたいだけなのだよ」

綺礼「この世に生まれる、純粋たる混沌を」

「混沌か。実にお前らしい」

綺礼「さて、次の手を打つとするか。お前にも働いてもらおう、ランサー」

ランサー「ちっ。くだらねえ役目を押し付けるんじゃねえよ」

―黒森峰女学園―

エリカ「隊長……。その招待状は……」

まほ「聖杯戦の参加を願うと書かれている」

エリカ「10年前にあったあの……」

まほ(お母様も数年間に渡り、原因を調査しても何もでなかったという曰く付きのある野試合だな)

エリカ「参加、されるのですか?」

まほ「悩んでいる」

エリカ「参加するメリットはないように思えますが」

まほ「いや、メリットはある」

エリカ「どのような?」

まほ「優勝者の願いを叶えるとある」

エリカ「……そのような嘘臭い誘い文句で釣られる人間はいないのでは?」

まほ「そうだな。だが、これもひとつの戦車道だ。西住流として参加する意義はある」

エリカ「みほにもその招待状が届いているのでしょうか」

まほ「私に来たのだから、優勝校の隊長に届かない道理はない。だが、みほは参加などしないはずよ」

エリカ「それもそうですね。あの子が参加するとなれば余程の事情がないと」

まほ「ああ。こういった試合を最も嫌いのが、私の妹だからな」

エリカ「間違いないですね」

まほ「一度、お母様に相談をしてみる。エリカ、念のためにこのことは口外しないでくれ。下手に話題になれば参加を辞退できなくなるかもしれないからな」

エリカ「了解です」

まほ「また明日」

エリカ「はい! お疲れさまでした!!」

エリカ(聖杯戦か……。隊長とみほには届いて……私には……)

「よぉ、嬢ちゃん。今、暇か」

エリカ「え? ……なんですか」

ランサー「男が女に声をかける理由は二つしかねえだろ」

エリカ「ナンパなら、お断りです」

ランサー「惜しいねぇ。いつもなら嬢ちゃんみたいな子は俺の上に乗せちまうけどよ。今日の理由は二つ目のほうだ」

ランサー「――わりぃが、ちょいと付き合ってもらうぜ」グイッ

エリカ「な――」

―大洗女子学園―

優花里「あの聖杯戦に招待されたのですか!?」

みほ「う、うん。けど、断ったよ」

優花里「そうですかぁ……」

麻子「それがいいだろうな」

華「みほさんらしくありませんもの」

みほ「ありがとう……」

沙織「それじゃ、私たちはいつもの戦車道をしよ」

優花里「はい!!」

沙織「戦車にのりこめー!!」

麻子「沙織、おちつけ」

華「沙織さん、落ち着いてください」

みほ(これで良かったんだよね。私の戦車道は、ここにあるんだから)

優花里「西住殿ー! はやくのりましょー!!」

みほ「はーい、今いくー」

―夕刻 通学路―

みほ(みんな、やっぱりすごく上手くなってるし、ちゃんと考えて行動できるようになってる……)

みほ(そろそろ紅白戦もやってみようかな……それに次期隊長も――)

エリカ「……」

みほ「え……。エリ……逸見、さん?」

エリカ「みほ……」

みほ「どうして大洗に……?」

エリカ「みほ……にげ――」

ランサー「よう。君が西住みほかい?」

みほ「あ……え……」

ランサー「エリカの知り合いでさぁ、ちょっとこれから三人で遊びにいかないか?」

みほ「えと……」

エリカ「逃げて!! みほ!! こいつはただの誘拐――」

ランサー「っと。余計なこというなよ、エリカ」グッ

エリカ「むぅー!?」

みほ「エリカさん!!!」

ランサー「お前も、大声はやめてくれ。やりたくもねえことをしなきゃならなくなる」

みほ「……!」

ランサー「お前が大人しくついてくるなら、それでいい。エリカも今晩は自分の家でメシが食える」

ランサー「だが、お前が俺にとって不都合な行動をとるってなら、エリカはどうるか俺にしか分からねえ」

エリカ「むぅー!!」

みほ「エリカさんを、ど、どうするつもりなんですか……」

ランサー「良い女を黙らせる手段なんて、俺は知らねえ。知ってるのは、女の悲鳴を喘ぎ声に変えちまう方法ぐらいだ」

エリカ「むぐっ……!?」

みほ「何をすれば……」

エリカ「むー!!」

ランサー「話が早くて助かる。とりあえず、このまま冬木の町まで来てもらうぜ」

みほ「聖杯戦のことですか」

ランサー「察しの良い女だな。お前みたいなやつは好きだぜ」

みほ「……」

―翌日 冬木学園艦 教会―

イリヤ「あら、リン。ごきげんよう」

凛「イリヤだけ?」

イリヤ「そうみたいね。サクラはどうしたの」

凛「まだ参加は決めてないみたいよ」

イリヤ「ふぅん。早くしないと参加できなくなっちゃうのに。サクラも臆病ね」

凛「桜のことは別にいいでしょ。それよりも問題は……」

綺礼「なにか言いたいことでもあるようだな、凛」

凛「あるに決まってるでしょ!! 参加者がたったの二人ってどーいうことよ、綺礼!!」

綺礼「締め切りまではあと六日ある。焦ることはない」

イリヤ「間桐の人間もいないもの。リンの焦る気持ちも理解はできるわね」

凛「この聖杯戦、絶対に中止になんてしないでよ」

イリヤ「まるで出された料理を手づかみで食べようとする蛮族みたいな品のなさね。優雅たれはどうしちゃったの」

凛「開催が正式に決まるまで、余裕なんてないわよ」

綺礼「参加は募っている。そして、ちょうど他の参加者が到着したようだ」

ケイ「――ここが聖杯・ウォーの受付?」

綺礼「ようこそ。ここは全てのモノを受け入れる場所だ」

ケイ「オッケー、それじゃ、エントリーしちゃうわ。サンダース大付属、戦車道受講者代表、ケイよ」

綺礼「君の参加を認めよう」

ケイ「サンキュー、シスター」

凛「サンダース大付属……」

イリヤ「ふぅん。名門から呼んだんだ」

ケイ「ん? 貴方達もこの聖杯・ウォーに参加するの? よろしくっ」

凛「ええ。お手柔らかにお願いします、ケイさん」

ケイ「それで、貴方達はどこの学校から?」

凛「私は、穂群原学園の遠坂凛といいます」

ケイ「穂群原学園……。この学園艦の学校よね」

凛「はい」

ケイ「けど、10年前に戦車道の授業はデリートしたんじゃなかった?」

凛「その通りです。ですので、私は個人で戦車道を嗜んでいるんです」

ケイ「個人で? すごいじゃない。お金持ちなのね」

凛「まぁ、そうですね」

イリヤ「近くの質屋が宝石で溢れかえってたのはなんでなんだろー」

凛「何か言った、イリヤスフィール?」

イリヤ「なにもー」

ケイ「貴方は?」

イリヤ「初めまして。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。以後、お見知りおきを」

ケイ「ご丁寧にどーも。でも、名前が長いから、イリヤって呼んでもいい?」

イリヤ「そのほうが私も嬉しいわ」

ケイ「イリヤはどこの学校? 名前からして留学生?」

イリヤ「いいえ。この聖杯戦のために来日したの」

ケイ「おー。それじゃあ、海外の戦車道がみれるわけね!」

イリヤ「楽しみにしていて。ちなみに、正面から力でねじ伏せるのが好きなの」

ケイ「いいわねー。正々堂々、戦いましょ」

凛(なんか、爽やかな人。ある意味、戦いにくいわね)

ケイ「そーだ。時間もあるみたいだし。シスター、ルール説明してくれない?」

綺礼「いいだろう。だがその前に、ケイ」

ケイ「ん?」

綺礼「私のことはシスターではなく、ファーザーと呼ぶ方が相応しい」

ケイ「修道服着てる人ってシスターじゃないの?」

凛「シスターは尼僧、修道女って意味ですよ」

ケイ「OH、ソーリー、ソーリー。それじゃ、ファーザー、説明宜しくね」

綺礼「……」

イリヤ(案外、テキトーなのね)

綺礼「――この聖杯戦は公式の戦車道とは異なる」

ケイ「タンカスロンみたいなもんでしょ」

綺礼「そうだな。ただし、使用戦車に重量の制限はない」

ケイ「へぇ……」

綺礼「制限といえるのは、あるのは最後まで立ち続けたものが勝者という原初の理のみ。敗者にいかなる権限はない」

凛「あとタンカスロンは同じ。ルール無用、なんでもありの戦車戦。傍から見ればただの戦争。だから、聖杯・戦争なんて呼ばれることもある」

ケイ「それは知ってるわ。だからこそ、参加を決めたんだしね」

綺礼「報酬に惹かれたわけではないということか」

ケイ「どんな願いもかなえてくれるってやつ? そんなの信じちゃう子、いるわけ?」

綺礼「信じる者が過去にいたのかはもはやわかりはしない。だが、皆それぞれに戦う意思を持っていた。ケイは褒美ではなく、何を求め戦う?」

ケイ「シークレットよ。言っちゃうと叶わなくなるかもしれないもの」

綺礼「願いを口にしたところで変わることなど、ありはしないがな」

ケイ「シスターにはそういうのないの? ジンクス的なの」

綺礼「願いとは理想に過ぎない。その理想を実現させるのは、自身の力だけだ。むしろ言霊にすることで力となることもあるかもしれない」

ケイ「ふぅん。シスターはそういうタイプなのね」

綺礼「私は、ファーザーだ」

ケイ「おっと。ミステイク、ミステイク」

凛(ワザとかしら)

ケイ「あとのルールは?」

綺礼「大きな違いと言えるのは、サーヴァントの存在だろう」

ケイ「メイドのこと?」

凛「聖杯戦におけるお助けキャラみたいなものです。サーヴァントは各車両に一名だけつけることができる」

凛「セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、バーサーカー、アサシン。どのサーヴァントがどの車輌につくかは運次第」

ケイ「どのコーチが当たればハッピーなの?」

凛「そうね。一番の当たりって言われてるのは、ライダー。無条件で戦車が強くなるわ」

ケイ「どうして? 戦車のこと熟知してるとか? 社会人で活躍してるとか?」

凛「まぁ、そうなところです」

凛(奇跡について説明したところで、信じてはくれないでしょうし)

ケイ「それはどうやって決めるわけ? くじ引き? ビンゴ?」

綺礼「これを持って帰ると良い」

ケイ「このブックとチョークはなに?」

綺礼「本に書かれている通りのもを地面に描き、零時丁度に共に書かれている文言を唱えればサーヴァントは呼び出される」

ケイ「黒魔術……?」

綺礼「黒いマントや煮えたぎった釜などは不要だ」

ケイ「リンもそういうことしたの?」

凛「私はまだ。もう少し、様子をみたいので」

イリヤ「私はもう終わってるけどね」

ケイ「誰がコーチになったの?」

イリヤ「うふふ。ケイっていちいち相手を自分のペースに引きずり込もうとするのね。感心するけど、少しは抑えないと相手も同じテーブルについてはくれないわよ」

ケイ「やっぱり、サーヴァントが誰なのかわかっちゃうと困るのね」

イリヤ「弱点とかが読まれやすくなるもの。試合前に戦略を立てられたら終わりよ」

ケイ「なるほどねぇ」

凛(ケイ……。ただ爽やかなだけじゃなさそうね……)

綺礼「話が終わったなら、去ると良い。ここに留まる理由はもうなかろう」

ケイ「ホワイ? どうしてそんなこというの? まだ三人だけじゃない。参加者は七人でしょ」

綺礼「ルールを訊ねるわりには、参加者の数は知っているのか」

ケイ「……サーヴァントが七人なら、参加者も七人でしょ?」

綺礼「そうだな」

凛「今日はこれ以上、人は来ないのね」

綺礼「明日、来い。時間があればな」

凛「そうさせてもらうわ」

綺礼「サンダース大付属、ケイ。どこまで知っているのか……」

「賢しい奴のようだな。我の妃としては及第点と言ったところか」

綺礼「ああいった者が好みか」

「いいや。我の隣につける者など、一人しかいない」

綺礼「――ランサー、遅かったな」

ランサー「これでいいんだろ」

みほ「……」

綺礼「来たか」

みほ「どういうつもりなんですか」

綺礼「西住みほ。お前とは直接話がしたかった。手荒な勧誘になってしまったことは謝罪しよう」

みほ「エリカさんを解放してください」

綺礼「話が終われば、共に学園艦へ戻ってもらっても結構だ」

みほ「なんでしょうか」

綺礼「聖杯・戦争への参加を認めよう」

みほ「え……」

綺礼「無論、参加を拒否する権利はある」

みほ「私は参加しません」

綺礼「10年前の冬木市大災害については知っているようだな。西住しほの娘であれば、当然か」

みほ「大災害……。あれは戦車道の野試合が原因だって……。事故なんじゃあ……」

綺礼「原因不明の大火災。当時の関係者は口をそろえてそう言っている。戦車道も聖杯戦も関係はないとな」

みほ「そんなことを言われても……」

綺礼「――というほかない。でなければ、またこの街で戦車道は行えない」

みほ「はい……? 戦車道での事故が原因だって認めるんですか」

綺礼「ああ。認めよう。ここは神の御前だ。嘘などは見破られてしまう」

みほ「……」

綺礼「聖杯戦の歴史は古く、1800年頃に第一次聖杯戦が開催された。当時は戦車道などという形ではなかったようだがな」

綺礼「第三次聖杯戦争のとき、戦車道が最も盛んだった時期と重なる。何を思ったかアインツベルンと遠坂は戦車を持ち出し、戦車戦を市街地で行った」

綺礼「そのとき、冬木市の一部が壊滅。今では大きな公園となっている」

みほ「その公園が……」

綺礼「10年前に灰塵となった場所だ。そう言う意味では聖杯戦において、特別な場所ともいえるな」

綺礼「そして第三次より約70年後、冬木市にて第四次聖杯戦争が開催される。ルールは大幅に改定され、戦車道強襲戦車競技と酷似した内容となる」

みほ「それが10年前の……」

綺礼「そういうことだ。第四次においてもやはりあの公園が最終決戦の場となった。残った者はアインツベルン、衛宮、遠坂、そして外部からの参加者だった」

綺礼「戦闘は苛烈を極め、木々や草花を燃やし尽くし、衛宮切嗣の狡猾な火器や爆薬により周辺家屋などが複数全壊となり、戦車道において初の犠牲者も出してしまった」

みほ「そこまでの大事故でどうして開催を……」

綺礼「冬木市と戦車道は切っても切れない関係にある。開催を反対する者もいれば、再開を熱望する愚者もいる」

綺礼「今回においては愚者の声が勝っていただけの話だ」

みほ「……」

綺礼「だが、戦車道連盟並びに聖杯戦争を管理する組織も反対意見を無視するわけにはいかない。そこで……」

みほ「全国大会優勝校を招いた……?」

綺礼「君の参加は第五次聖杯戦において、重要な意味を持っている」

みほ「10年前の事故を風化させ、全国にも大々的に宣伝できる……」

綺礼「戦車道の試合には相応のスポンサーも必要だ。これから先も開催するのであれば、どうしても資金源となるものは確保しておきたい」

綺礼「運営側は優勝者の願いを叶えるという責務もあるのでね」

みほ「……それでも、私は参加しません」

綺礼「残念だ」

みほ「エリカさんを解放してください」

「フハハハハハハ。それが王たる態度か」

みほ「え……」

ギルガメッシュ「下らん。実に下らんぞ、雑種。己の願望だけを要求し、己の力は見せない。不平不満を漏らす下民そのものだな」

みほ「けど、そんな戦車道に参加なんて……」

綺礼「構わない。お前も口を挟まないでもらおうか」

ギルガメッシュ「たわけ、コトミネ。誰一人、この地上にて我の言を遮ることなど許さぬ」

綺礼「この場に西住みほを呼んだのは参加を強制するためではない。この戦車道への参加を直接願いたかっただけだ。手紙だけでは伝わらないこともある」

ギルガメッシュ「ふん。よく言う。今までの説明では、この下種の参戦を渇望しているようにしか聞こえなんだぞ」

綺礼「そうか。言葉には気を付けるとしよう」

みほ「何を言われても私は――」

ギルガメッシュ「どうやら、それでは困るようだぞ、雑種。我もこのまま聖杯戦争が未開催で終わると少々不都合だ」

みほ「どうして、ですか?」

ギルガメッシュ「この世は我にとって退屈すぎる。街一つが消し飛ぶぐらいの祭儀がなくてはな」

みほ「何を言っているんですか……」

ギルガメッシュ「それに、貴様とて戦場は心地よいはずだぞ」

みほ「戦車道は戦争ではありません。だから、安全性も確保されていない試合には……」

ギルガメッシュ「なるほど……。お前も中々の悪だな」

みほ「ど、どういうことですか」

ギルガメッシュ「理解できないのか? それとも演じているだけか。どちらにせよ、お前は悪人だな」

みほ「言っている意味が……」

ギルガメッシュ「貴様はここへ来る前から冬木の地にて催される儀式を知っていた。そして、今日、このとき、何が行われているのかを知った」

ギルガメッシュ「参加した者がどうなるか。想像できないはずがなかろうに」

みほ「……!」

ギルガメッシュ「良いことを教えてやろう。貴様の血を分けた者は、どうやら参加するようだぞ」

みほ「そ、それって……!?」

綺礼「西住まほ。お前の姉だな。正式な参加はまだのようだが、送った手紙は未だ彼女の手元にあるようだ」

みほ「お、お姉ちゃんが……」

ギルガメッシュ「さて、お前はこれより寝屋に向かい、平生へと戻るか?」

みほ「……」

ギルガメッシュ「フフハハハハ。どうする、王者よ。座したまま、戦場を眺めるか」

綺礼「止せ、ギルガメッシュ。言葉が過ぎる」

みほ「……」

綺礼「済まない。彼は少々、相手を煽りすぎるところがある」

みほ「わ、わたしは……」

綺礼「誰も強制はしない。君の意志で決めるといい」

みほ「わ、私が参加しない場合、選手の補充は……」

綺礼「無論、必要になる。西住みほと同等の知名度がある者は、西住まほの他にも数名いるので大きな問題にはならない」

綺礼「参加を決めているケイと、既に勧誘済みである西住まほとカチューシャを除けば、残るはダージリン、そして、島田愛里寿か……」

みほ「な……」

綺礼「第一候補から参加を拒否されることは想定内だ。公式とは違う戦車道に難色を示す者もいる」

綺礼「不参加でも誰も君を咎めることなどしないだろう。逸見エリカも責任をもって自宅まで送ることを約束する」

綺礼「――では、改めて問おう。西住みほ、聖杯・戦争へ参加を願うか」

みほ「わ、わたしは……わたしは……」

みほ(こんな危険な戦車道に参加なんてしたくない……でも……ここで参加しなかったら……ダージリンさんや愛里寿ちゃんが……)

みほ(なにより、お姉ちゃんやケイさん、カチューシャさんが参加して……万が一のことがあったら……)

綺礼「どうする、西住みほ。決断できないか」

みほ「……」

綺礼「時間にはまだ猶予もある。焦ることはない。一度、学園艦に戻ることも許可しよう」

みほ「は、はい」

綺礼「だが、お前の返答を悠長に待つ余裕はない。二日以内に返答がないのであれば、西住みほは不参加として扱わせてもらう」

綺礼「同時に島田愛里寿へ招待状を送ることになるだろう」

みほ(愛里寿ちゃん……。愛里寿ちゃんならこんな危険な試合に参加しようなんて思わないはず……)

綺礼「私たちは何としても開催する」

みほ「……!?」

綺礼「それだけは、宣言させてもらおう」

みほ(そうだ……。この人たちは、何をするか分からない……。また誰かを脅して……無理矢理……。それに警察を恐れている様子もない……。何か、何かあるんだ……きっと……この人たちに……)

みほ「――参加します。聖杯・戦争、やります」

綺礼「その言葉を待っていた。歓迎しよう、西住みほ」

綺礼「扱う車輌、そしてその車輌に必要な人員に規則はない。最低七人確保できれば聖杯・戦争は始めることができる」

みほ「人員……」

綺礼「一人で戦車を動かせるだけの技量があれば別だが、数名は用意しておいたほうが好ましい」

みほ(こんな危険な戦車道に誰かを誘わないといけないの……?)

綺礼「これを持っていけ」

みほ「これは……」

綺礼「サーヴァントを召喚する道具だ。書かれていることを実行すれば、問題はない」

みほ「サーヴァント……?」

綺礼「各車を守護する者だという認識で構わない。戦車の特殊コーティングだけでは搭乗者を守れないこともある」

みほ「え……」

綺礼「安心するといい。サーヴァントがいれば安全は保障する」

みほ「は、はい」

綺礼「では、行きなさい。幸多からん事を」

みほ「……」

みほ(まずやらなきゃいけないことは……)

ランサー「いけすかねえなぁ」

綺礼「逸見エリカはどうした」

ランサー「連絡船で眠ってやるぜ」

綺礼「そうか。問題なく、合流できるだろう」

ランサー「ちっ……」

綺礼「不服か、ランサー」

ランサー「そうだな。俺の流儀にはあわねぇ」

綺礼「だが、お前はこちらに合せなくてはならない」

ランサー「分かってるよ。仕事はさせてもらう」

ギルガメッシュ「フハハハ。誰がセイバーを引き当てるか、楽しみだ」

ランサー「セイバーねぇ……」

綺礼「最良とされるライダーを警戒しなくてもいいのか」

ギルガメッシュ「ふん。興味はない。我が狙うはセイバーだけよ」

綺礼「こちらも準備を始めるとするか。学園艦上では、戦争などできないからな」

ランサー「……」

―連絡船内―

エリカ「みほ……」

みほ「よかった、エリカさんに怪我がなくて」

エリカ「警察に行ったほうがいいわよ。こんなの誘拐事件じゃない」

みほ「一応、行ってみる。けど、無駄かもしれない」

エリカ「どうしてよ?」

みほ「あの人たち、普通じゃない気がするから」

エリカ「まぁ、あの青い人は普通じゃなさそうだけど」

みほ「……私、参加することにしたの」

エリカ「え……!? どうしてよ!?」

みほ「お姉ちゃんやケイさんやカチューシャさんが参加するって言ってた。とても危険な戦車道に」

エリカ「隊長もアンタも参加なんてさせないわよ」

みほ「それでも、誰かが犠牲になっちゃう気がする」

エリカ「だからってみほが参加することないじゃない」

みほ「私はもう知っちゃったから。みんなを守りたいって、思っちゃったから……。ごめんね、エリカさん」

エリカ「みほ……」

みほ「だから、参加する。参加したら、みんなを守れるかもしれない」

エリカ「……使用車輌は?」

みほ「はい?」

エリカ「Ⅳ号?」

みほ「な、何言ってるの?」

エリカ「戦車は一人じゃ動かせない。貴方がいつも言ってることでしょ」

みほ「ま、待って! エリカさん! 私……」

エリカ「私も知ったからには無視なんてしないわよ」

みほ「けど、お姉ちゃんは……?」

エリカ「隊長と私が組むほうが最強なんでしょうけど、それだと私やみほが危険な目にあったことを話さなくちゃいけなくなる」

エリカ「そうなれば隊長はきっと参加を認めないし、隊長自身が参加を辞退することになりかねない」

エリカ「隊長や貴方まで参加を拒否したら、見知らぬ誰かが犠牲になるんでしょ」

みほ「エリカさん……」

エリカ「だから、戦車道として全部を終わらすには私と貴方が一緒に戦う方がいいのよ。多分、だけど」

みほ「危険、なんだよ?」

エリカ「戦車道に危険は付き物よ」

みほ「けど……」

エリカ「くどい」

みほ「……ありがとう」

エリカ「お礼もいらないわ。それより、あと何人必要?」

みほ「Ⅳ号のパフォーマンスを考えるなら、あと二人は欲しいけど……」

エリカ「なんとかならない?」

みほ「けど、これ以上、増やすのも……その……」

エリカ「ああ、もう。貴方のために動いてくれるやつなんて、悔しいけどたくさんいるじゃない。秋山とか武部とか」

みほ「そ、そんな!! 優花里さんや沙織さんに頼むなんてムリムリ!!」

エリカ「だったら、どうするの。守れるもの、守れなくなるわよ」

みほ「うぅ……」

エリカ「勇気はいるでしょうけど、ちゃんと決めて。隊長さん」

みほ「……わかりました」

―間桐邸―

慎二「お前!! いつまで引き延ばすつもりなんだよ!!! いい加減、参加することを決めろ!!」

桜「で、でも……私……戦車なんて……」

慎二「桜ぁ……僕に口答えするなんて、いい度胸じゃないかぁ……」

桜「だ、だって……」

慎二「お前はこの間桐を汚すつもりなのかよ!!! えぇ!?」

桜「やめて……兄さん……」

慎二「早く教会に行ってこい!! お前が出なきゃ、間桐は終わりなんだよ!!」

桜「うぅ……わたし……戦車なんて……」

慎二「ちっ。どうして僕が女じゃないんだ! はっ!! こんな愚図で鈍間な妹に任せなきゃいけないんてどうかしてるよ、戦車道ってやつは!!」

桜「うぅぅ……」

慎二「早く行けっていってるだろ!! 参加するまで家には戻ってくるな!!!」

桜「そ、そんな……」

慎二「いいか? 衛宮に頼ろうとするんじゃないぞ……。そんなことしたってすぐにわかるんだからなぁ。僕と衛宮は親友なんだから」

桜「は、はい……」

―衛宮邸―

大河「ねえねえ、しろー。冬木市で戦車道の試合やるって知ってる?」

士郎「ああ。学園でも話題になってたな」

大河「その日はどっか遠くまでいく? 大洗とか最近、観光地として話題なのよねぇ。大洗女子学園が優勝したおかげで」

士郎「藤ねえ……」

大河「お姉ちゃんは、干し芋がたべたいなぁ」

士郎「もう大丈夫だから。確かに戦車道はあまり好きじゃないけどな」

大河「そう?」

士郎「切嗣も言ってた。戦車に罪はないって。あの日、何があったのかは知らないけど」

大河「まぁ、士郎がそういうなら……」

士郎「それより、その戦車道の試合、遠坂も出るって噂なんだよ」

大河「遠坂さんが? 戦車なんて乗れるの?」

士郎「それは俺も心配してる。前、テレビの録画ができないって俺に頼み込んできたぐらいなのにな」

ピンポーン

大河「お? 誰かしら?」

凛「こんばんは、衛宮君」

士郎「遠坂、どうしたんだ?」

大河「いらっしゃーい、遠坂さん」

凛「衛宮君に聞きたいことが、あるのよ」

士郎「また録画か? 丁度、その話をしててさ」

凛「違うわよ。ていうか、そんな話題を出さないで」

士郎「あ、ああ、悪い。で、頼みって?」

凛「……わ、私の家までついてきてくれない?」

士郎「へ?」

大河「遠坂さん? それはどういう意味ですか?」

凛「べ、別に何もやましいことはありませんよ。ホント」

大河「そういうところがやましいわ……」

凛「いいから、ちょっとだけ衛宮君をお借りしますね! ほら、こっち来る!!」グイッ

士郎「遠坂!? ちょっと待て!!」

大河「あー!? こらー!! 泥棒猫ー!!」

凛「何が泥棒猫よ。失礼するわね」

士郎「遠坂」

凛「なによ」

士郎「いや、引っ張らなくても自分で歩ける」

凛「あ……。ご、ごめん。我を忘れてたわ」

士郎「それで、頼みってなんだ? 俺にできることなのか?」

凛「できるかどうかは分からないけど、私が頼みごとをできる相手って、限られてるし……」

士郎「そうか。そういうことなら、なんとかする。遠坂って、友達いないもんな」

凛「その一言は余計よ!!」

士郎「すまん」

凛「全く! デリカシーがないんだから!!」

士郎「けど、素直に嬉しいよ。あの遠坂に頼られるなんて、男として鼻が高い」

凛「うっ……。そ、そうよ!! 感謝しなさいよね!! 私に頼られるなんてすっごく、その、特別なんだから!!」

士郎「はいはい。で、肝心の頼み事ってなんだ?」

凛「――あれよ」

士郎「あれって……戦車……?」

凛「ちょっと伝手を借りて購入したの。 クルセイダーMk.IIIっていう戦車らしいわ」

士郎「あ、ああ……。戦車道、本当にやるんだな。この戦車って強いのか?」

凛「強い戦車をお願いって言ったら、これが届いたから間違いないはずよ」

士郎「へぇ……」

凛「開催まで時間もないし、さっさと試乗して練習もしたいんだけどね」

士郎「この辺りで戦車を動かすと苦情が出そうだな。戦車道に悪い印象持ってる人が多いから」

凛「そうなのよね。学園の校庭か、あの公園で走らせるしかないと思うわ」

士郎「他の学園艦に行くってのもいいんじゃないか?」

凛「それも考えてるわ。何より、私の伝手っていうのが聖グロリアーナにあるからね」

士郎「あの名門と繋がりがあったのか?」

凛「まぁ、その、ロンドンに留学した時に紹介されてね。そこのダージリンって人が結構出来る人なのよ」

士郎「聞いたことあるな、その人。そんなすごい人と一緒に訓練できるなら、遠坂の優勝で間違いないんじゃないか」

凛「……戦車が動けばね」

士郎「なんでさ?」

凛「……」

士郎「これってハリボテなのか?」

凛「そんなわけないでしょ。こっちは全財産を叩いて買ったのに。ハリボテだったら許さないんだから」

士郎「だったら、動かせばいいじゃないか」

凛「……」

士郎「どうした、遠坂?」

凛「……エンジン」

士郎「え?」

凛「エンジン、どうやって点けるのか……わからないの……」

士郎「遠坂……」

凛「わ、笑いたきゃ笑いなさいよ!!」

士郎「えっと……。仕方ないよな。穂群原は戦車道の授業、ないし」

凛「……」

士郎「あの、遠坂さん? まだ何かあるのか」

凛「ギアって、なに?」

―アインツベルン城―

セラ「お嬢様、例の戦車が到着しました」

イリヤ「うふふふ。ついに来たのね……」

リズ「イリヤ、楽しそう」

イリヤ「見てみましょう。私の大事な大事なドレスをね」

セラ「こちらです」

イリヤ「わぁ……」

セラ「超重戦車マウス。彼を乗せることのできるのは、この車輌のみですからね」

イリヤ「内部の改装も終わってるのね」

セラ「はい。勿論です。お嬢様は車長として彼に指示を出すだけでよろしいかと。お召し物を汚すことはありません」

イリヤ「最高ね」

リズ「私、装填手でいい?」

イリヤ「ええ。お願いね。バーサーカーも頑張ってね」

リズ「うん。がんばるっ」

バーサーカー「■■■■――!!!!」

―大洗学園艦 寮 午前零時―

みほ「……これでいいのかな?」

みほ「あとは……これを唱えるだけ……」

みほ「ええと、――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

みほ「……」

みほ「なーんて、やっぱりなにも――」

ゴォォォォ!!!!

みほ「わぁ!?」

みほ「こ、これ……これって……!?」

みほ(一体、聖杯・戦争って……)

「――問おう」

みほ「へ……」

セイバー「貴方が私のマスターか」

みほ「……」

セイバー「……」

みほ「……」

セイバー「……問おう。貴方が私のマスターか?」

みほ「……」

セイバー「いや、愚問ですね。貴方が私のマスターであることは揺るぎない事実。貴方との繋がりを感じることができる」

みほ「……」

セイバー「聖杯戦争が始まることも私には分かる。行きましょう、マスター。聖杯のある地へ」

みほ「……」

セイバー「マスター。いつまで呆けているつもりです。そんなことではすぐにやられてしまいます」

みほ「あ、はい」

セイバー「敵は近くにいないようですが……」

みほ「あの……」

セイバー「なんでしょう」

みほ「どこから入ってきたんですか?」

セイバー「いえ。私は侵入したわけではありません。言うなればここに呼ばれたのです」

みほ「よ、呼ばれた……」

セイバー「混乱しているようですね」

みほ「は、はい」

セイバー「分かりました。私に分かる範囲でお答えしましょう」

みほ「えっと、一応、聖杯・戦争には参加、するつもりで貴方を召喚……? しました……」

セイバー「では、私がサーヴァントであることは理解していると」

みほ「は、はい。貴方がいないと戦車だけじゃ危ないって……」

セイバー「むぅ……。前回から適用されたルールですか……。今回も戦車道なるもので戦士たちの戦いを汚すというのですか……」

みほ「はい?」

セイバー「いえ、独り言です。そうですね。相手にも私と同じサーヴァントが付いているはずです。戦車だけでは太刀打ちできないでしょう」

みほ「そこがよくわからないんですけど。サーヴァントの役割っていうのは……」

セイバー「サーヴァントはサーヴァントに対抗するための、砲弾や盾だと思ってください」

みほ「は、はぁ」

セイバー「我々の力は貴方達の戦車の装甲を容易く貫いてしまうこともあります」

みほ「そ、そんなこと……」

セイバー「疑いますか?」

みほ「ごめんなさい! 疑うとか、そういうことじゃなくて、まだ整理ができてないっていうか……」

セイバー「無理もないでしょうね。前回も、マスターように何も知らず、参加する者がいました」

みほ「え?」

セイバー「――この世界には、神秘が存在しています。魔術と呼ばれるものです」

セイバー「私がこうしてマスターの目の前にはせ参じることができたのも、神秘のおかげと言えます」

セイバー「魔術というよりは、魔法のようなものですが」

みほ「……」

セイバー「そうした神秘を扱う魔術師同士の戦い。それが聖杯戦争でした」

セイバー「しかし、前々回に戦車が初めて使用され、全ては変わってしまった。前回は戦車道という形で聖杯戦争が行われた」

みほ「それだと、問題があったんでしょうか……」

セイバー「前々回、理由は不明ですが遠坂とアインツベルンが戦車を用いて参戦しました。しかし、奇しくもその両家に感化された一人の魔術師が優勝した」

セイバー「その者は聖杯戦争のシステムを疑問視し、聖杯を用いて今のような形へと変貌させたと聞きます」

みほ「それが戦車道だった……」

セイバー「はい。殺し合うことなく、勝者を決める画期的なシステムだと魔術師は語っていた。私も無益な殺生は好まない。だが……」

みほ「ま、待ってください! こ、ころしあうって……」

セイバー「戦争と名が付くのです。そこにあるのは命と名誉をかける戦いだけです」

みほ「戦車道は、戦争ではなくて……」

セイバー「理解しています。現代競技としての形を成し、それがマスターのような淑女が嗜むものであることも」

セイバー「だが、それが聖杯戦争に使われている以上、根底にあるのは戦争なのです。斬られ、撃たれ、斬り、撃つ。そうした戦場なのです」

みほ「……」

セイバー「たとえ殺されたとしても、恨み言は誰の耳にも届きません」

みほ「あ、ええと……」

セイバー「私のことはセイバーと呼んでください」

みほ「はい。あの、セイバーさんにも戦う理由はあるんですか? 怖い思いをしてまで」

セイバー「勿論です。サーヴァントは皆、願いを持ち、参戦している。聖杯を手にし、叶えたい願いがあるのです」

みほ「そうなんですか……」

セイバー「貴方にも……いえ、マスターのことは何と呼べばいいでしょうか」

みほ「私はみほ。西住みほです」

セイバー「ミホにも願いはあるはずだ。でなければ、剣を握ろうとはしないはず」

みほ「私の願いは……」

―サンダース大付属高校学園艦 寮―

ケイ「ワオ!」

キャスター「貴女が私のマスターなのね」

ケイ「ほんとにでてくるんだぁー。へー」

キャスター「聞いているのかしら?」

ケイ「イエース!!!」

キャスター「……!?」ビクッ

ケイ「私、ケイ! よろしくね!! で、貴方のことはなんて呼べばいいかしら?」

キャスター「……見ての通り、キャスターよ。キャスターと呼べばいいでしょう」

ケイ「ノンノン。それはサーヴァントのクラスでしょ。名前はなんていうの?」

キャスター「……メディア、だけど」

ケイ「メディアね。良い名前じゃない。よろしく、メディア!」ギュッ

キャスター「馴れ馴れしいのね」

ケイ「まぁまぁ。それじゃあ、お近づきの印にハンバーガーでも食べましょ」

キャスター「……強引ね」

―黒森峰女学園 寮―

まほ「では、お母様。明日には冬木の学園艦に向かいます」

しほ『分かっているわね』

まほ「はい」

しほ『貴方に課すのは、勝者となり西住流の名を聖杯戦争の管理者たちに轟かせること』

しほ『そして、10年前の真相を詳らかにすること』

まほ「はい。お母様の無念、私が晴らしてみせます」

しほ『頼むわね』

まほ「それと、みほのことなのですが……」

しほ『あの子が参加するとは考えにくいけれど、もし万が一、参加しているようであれば……』

まほ「容赦はしません」

しほ『真っ先に倒しなさい』

まほ「はい」

しほ『戦車道の歴史を汚す、悪しき道。西住流の名のもとに、必ずや撃破するのよ』

まほ「私は西住流そのものです。お母様の意志に従います」

―大洗女子学園 生徒会室―

桃「参加、するのか?」

みほ「はい」

杏「で、西住ちゃんの隣にいるのが、聖杯・戦争の助っ人ってわけだ」

みほ「そういうことになります」

セイバー「セイバーです。お見知りおきを」

杏「角谷杏ぅ。アンジーって呼んでくれていいよ」

セイバー「アンジー、ですか。確かに親しみが籠った呼び名ですね」

杏「こっちはかわしまぁ、こっちはこやま」

桃「セイバー……。妙な名前だな」

柚子「本名なのかな?」

杏「んで、セイバーちゃんと一緒に来て、何か頼み事でもあるの?」

みほ「それが……」

セイバー「本日はミホの協力者を得るためにここへ参りました。戦車を動かすため、あと2名は必要になります」

杏「あぁ、そうだなぁ」

桃「あんこうチームの誰かでいいだろうに」

みほ「そ、それは……」

セイバー「聖杯戦は貴方達の知る戦車道とは一線を画する競技です。相応の覚悟を持ち、且つ能力の高いものでなくてはならない」

セイバー「ミホのために命をも投げ出せる者でなくてはいけない」

柚子「そ、そんな大げさな……」

セイバー「大げさではない。前回の聖杯戦では死傷者が出ているのです」

杏「そんな危険な試合に大事な生徒は貸せないな」

セイバー「む……」

みほ(そうなるよね……。でも、これで大洗から選出できない口実は作れた。エリカさんとセイバーさんがいればなんとか……)

セイバー「ミホが負けてもいいというのですか、アンジー」

杏「いや。私が出る!」

桃「な……!?」

柚子「えぇぇ!?」

みほ「会長……!?」

セイバー「アンジーは生徒会長と聞いています。学園艦を取り仕切る長だと。大洗からしてみれば言わば、王たる存在のはず。王が自ら戦場に赴くとは……」

杏「セイバーちゃんはそういう王様は嫌い?」

セイバー「いえ。王とはそうでなくてはなりません。貴方は素晴らしい」

杏「あんがと」

桃「会長!! 何を言っているんですか!? タンカスロンよりも危険なんですよ!? もしものことがあったら……!!」

杏「それは西住ちゃんも同じことだ。なにより、西住ちゃんには大きな借りがある。返せるときに返しておかないとな」

みほ「けど……あの……」

杏「ごめんよ、西住ちゃん。私、西住ちゃんのためだったら、命と干し芋3年分は賭けれちゃうんだよ」

セイバー「干し芋と命が等価とは……。どのような干し芋なのでしょうか……」

みほ「いいんですか?」

杏「問題ないよ。それに――」

杏「10年前のこと、気になるし」

みほ「え……」

杏「あと一人、どうしよっか?」

みほ「いえ、もう十分かなって……」

セイバー「ミホ。驕りは身を滅ぼします。どのような者が相手でも万全の状態で挑むべきです」

みほ「そうなんですけど……」

セイバー「大洗には優秀な者が多いと昨夜、ミホから聞きました」

桃「誰のことだ?」

セイバー「アキヤマユカリ、タケベサオリ、イスズハナ、レイゼイマコ。特に名が挙がる回数が多かったのはこの4名です」

桃「他には誰か言っていたか」

セイバー「そうですね……。イソベノリコ、スズキタカコ、サワアズサ……そして……」

桃「そ、そして……」

セイバー「カドタニアンズ。この4名もミホは高く評価していた」

桃「そうか……」

柚子「そうじゃないかな」

杏「西住ちゃんとしてはその選手は選びたくないって感じなんだろうけどね」

セイバー「そうなのですか、ミホ?」

みほ「危ないことに……その……誘うのは……」

セイバー「どうやら勝利する気が薄いようですね」

杏「とりあえず、戦車道受講者を集めて、ぜーんぶ話した上で参加者を募集しよっか」

―戦車倉庫―

セイバー「大洗の戦車は他校よりも性能が悪いものが多いと聞くが……」

カエサル「誰だ?」

おりょう「サンダースの人ぜよ」

左衛門佐「グロリアーナかもしれない」

エルヴィン「転校生か?」

セイバー「む……。勝手に眺めさせてもらっています」

カエサル「いや、気にすることはない。好きなだけ眺めてくれ」

おりょう「で、貴方は?」

セイバー「私のことはセイバーと呼んでください」

左衛門佐「せいばぁ……?」

エルヴィン「変わった名前だな」

セイバー「よく言われます」

カエサル「あなたほどの美人には似つかわしくないな。ここはソウルネームをつけるというのはどうだろうか」

セイバー「ソウル、ネーム……? それはどういうものでしょうか」

みほ「セイバーさん、お待たせして申し訳――」

おりょう「中沢琴!!」

左衛門佐「井伊直虎だ!!」

エルヴィン「トゥルーデ・モールなんてどうだろう」

カエサル「いやいや、ジャンヌ・ダルクだ」

おりょう・左衛門佐・エルヴィン「「それだぁ!!!」」

セイバー「ジャンヌはやめて頂きたいのですが」

カエサル「そうか? いいソウルネームだと思うが」

エルヴィン「では、セイバーさんが名乗りたい名はないだろうか」

セイバー「私がですか……。そうですね……。いや、私はセイバーの名が気に入っている。他の名は必要ありません」

カエサル「セイバーがソウルネームだったということか」

おりょう「それは見抜けなかったぜよ!!」

みほ「もう仲良くなってる……」

セイバー「ミホ。遅かったですね」

みほ「ごめんなさい。みんなを集めるのに時間がかかって」

杏「てなわけで、今度冬木市で開催する聖杯・戦争に西住ちゃんが出場けってーい。いえーい」

優花里「西住殿が……?」

麻子「出ないんじゃなかったのか」

みほ「事情が変わって……」

華「まさか、また廃校に関連が?」

沙織「またぁ!? もーやだー!」

桃「落ち着け!! 廃校は関係ない。大洗も関係していない。あくまでも西住個人が出場を決めた」

沙織「なにがあったのかなぁ」

優花里「わかりません……」

麻子「西住さんの隣にいる人は知っていそうだが」

セイバー「……」

華「とても美しい人ですね。見惚れてしまいます」

杏「んで、あと一人だけどうしても一緒に出場してほしいんだよねぇ」

典子「はい!! 立候補します!!」

みほ「あ、あの! これはとても危険な試合になると思います! 怪我をする可能性も公式の試合とは比べて極めて高いんです。だから、ちゃんと考えて決めてください。お願いします」

典子「ちゃんと考えて決めました!!」

みほ「えぇぇ!?」

妙子「私たちも立候補していいですか?」

梓「西住先輩の力になれるなら!! 怪我なんて怖くありません!!」

優季「私もぉ。桂利奈ちゃんも?」

桂利奈「あいぃ!!」

カエサル「ふっ。今更だ、西住隊長。今までもこれからも隊長の背中についていく」

ねこにゃー「え、えらばれるなら、がんばろー」

みどり子「まぁ、校外試合になるなら、風紀が乱れやすくなるし、風紀委員の力だって必要よね」

ナカジマ「戦車の整備班だって必要なポジションだと思いますよ」

みほ「みんな……」

沙織「何を言っても無駄だよ、みぽりん」

優花里「はい!! 西住殿が何と言おうとも、私たちはついていきます!!」

麻子「どんな場所にでも行ってやる」

華「いっそのこと、みんなで参加しませんか? そのほうが勝てる気がします」

みほ「嬉しい……」

セイバー「ミホ。全員で参加するというのですか」

みほ「……」

セイバー「それでも私は構いません。しかし、参加する以上は覚悟しなければなりません」

セイバー「どのような事態になろうとも、君主のために尽きるのなら、それは本望であると。戦火の中で死することが、美徳なのだと。そうした決意が」

みほ「……」

セイバー「戦車道では怪我をしても命にまて危険が及ぶことは少ない。だが、今回の戦いは違います」

セイバー「守る者が多くなれば、貴方の負担は増えていく」

みほ「セイバーさんがいれば……」

セイバー「私が守るのは貴方だけです。貴方さえ生きていれば、私は戦うことができる」

みほ「それは……」

セイバー「何度でも言います。これは戦車道とは違うのです」

みほ「そうですね……。あんな危ない人がいるんだから、大人数では行けない」

セイバー「貴方の願いは理解しているつもりです。だからこそ、決断すべきかと」

みほ「……一緒に戦ってくれますか、優花里さん」

―黒森峰女学園―

まほ「エリカ」

エリカ「はい、なんでしょうか」

まほ「近日行われる冬木市の野試合に参加することにした」

エリカ「そう、ですか」

まほ「そこでエリカに操縦手を任せたい」

エリカ「……すみません、隊長」

まほ「なに……」

エリカ「ご一緒、できません」

まほ「当日は予定でもあるのか」

エリカ「はい。どうしてもその日は、行かなくてはいけない場所があります」

まほ「そ、そうか……。確かに急な話だったからな。悪かった。他の者に頼むことにする」

エリカ「本当に申し訳ありません」

まほ「いや、気にするな」

エリカ(隊長……。みほと共に貴方を……)

―冬木学園艦 教会―

綺礼「祝福しよう。汝の進む道に光あれ」

カチューシャ「ありがとう。ふふ、楽しみね。タンカスロン以上に何をしてもいいなんて、カチューシャにぴったりだわ」

綺礼「カチューシャに与えるサーヴァントはこちらで用意させてもらっている」

カチューシャ「そうなの? 用意がいいじゃない」

綺礼「出て来い」

ギルガメッシュ「――ふん。我のマスターにしては矮小すぎるのではないか」

カチューシャ「なによ!! カチューシャのことバカにしてるの!?」

ギルガメッシュ「いいや。見下しているだけだ」

カチューシャ「きぃぃぃ!! ノンナ!!!」

ノンナ「はい」グイッ

カチューシャ「どーよ!! これで私があなたを見下せるわ!! あーっはっはっはっはっは!!」

ギルガメッシュ「おのれ、雑種がぁ……!! 我を下に見るとは!!」

カチューシャ「悔しい? 悔しいでしょうねぇ」

ギルガメッシュ「……面白い。気に入ったぞ、小物。その身体に似合わぬ度胸は認めてやろうではないか」

ランサー「感付くやつは感づくだろうに」

綺礼「令呪のことは説明しない限りは言うこともない」

ランサー「全員が正規のマスターじゃなくていいんだな。今回の聖杯戦争はよ」

綺礼「これは既に聖杯戦争ではなくなっている。令呪も問題にはならんだろう」

ランサー「だったら、俺も自由にさせてもらいたいがな」

綺礼「お前の令呪はここにある」

ランサー「ちっ……」

綺礼「令呪を持っているのは遠坂凛、イリヤスフィール・フォン・アインツツベルン、間桐桜、西住みほ、西住まほ、ケイ、か」

ランサー「さっきの元気な赤子にはいらないってか」

綺礼「その代りに英雄王を与えた」

ランサー「あの金ピカを令呪もなしに扱えるとは思えないがな」

綺礼「どうだろうな。案外、令呪がなくとも伏兵と化すかもしれん」

ランサー「んなこと、あるのかねぇ」

「駄犬、戦車の練習をしますよ。早くきなさい」

ランサー「誰が犬だ!! こらぁ!!」

―大洗女子学園 大浴場―

セイバー「皆で湯浴みをするの風習があるのですか」

桃「会長の意向だ」

柚子「嫌でしたか?」

セイバー「いえ。そのようなことは」

みほ「よいしょっと……」

沙織「ん? みぽりん……?」

みほ「どうしたの?」

沙織「背中にタトゥーでもいれたの?」

みほ「え? なにが?」

優花里「おや、本当ですね」

みどり子「西住さん!? タトゥーなんて校則違反よ!! 一緒にお風呂に入るのも禁止よ!!」

希美「西住さんが不良に……」

みほ「ま、待ってください!! 私、タトゥーなんて知りません!!」

セイバー「令呪のことも聞いていないのですか、ミホ」

華「れいじゅ……?」

セイバー「聖杯戦争の正規の参加者には、体のどこかに令呪と呼ばれる刻印が浮かび上がる」

セイバー「これはサーヴァントを使役するための権利であり、本戦への参加資格に他なりません」

みほ「みえないよぉ」

杏「んじゃ、その令呪がある人が参加者なわけだ」

セイバー「普通、それを見せるような迂闊者はいないでしょうが」

優花里「私にもあるのでしょうか?」

セイバー「いえ、ユカリやアンジーには浮かび上がりません。正規のマスターにのみ浮かび上がるのです」

華「セイバーさんはそれがない人の指示には従わないということですか」

セイバー「私はアンジーやユカリの指示にも基本的には従いますが、譲れないことがあれは拒否します」

沙織「それじゃあ、みぽりんには絶対服従なの?」

セイバー「いいえ。そういうわけでもありません。ただ、ミホがどうしても私に従わせたいことがあるのなら、その令呪を使い使役することができる」

セイバー「回数は三回までですが」

麻子「三回だけか。令呪がなくなったら、どうなるんだ」

みほ「どこにあるのー?」オロオロ

―冬木学園艦 寮―

凛「令呪を使い切れば、サーヴァントの首輪がなくなって、自由に動き回れるようになる。そうなったら、裏切り放題ってわけよ」

士郎「不思議な話だな。その令呪ってのはどういう原理で体に浮かび上がるんだ」

凛「そういうことは気にしなくてもいいのよ。士郎に教えても、分からないだろうし」

凛(魔術回路を強制的に付与する術式は、サーヴァントを召喚するときのアレに組み込まれている……。なんて、士郎は信じないし、その前に意味が分からないわよ)

士郎「む……。まぁ、そういうものってことか」

凛「そうそう。細かいことは気にしないの」

士郎「で、遠坂のサーヴァントはどこにいるんだ?」

凛「明日、正確には今日の夜に呼ぶわ」

士郎「なんでさ? まだ戦車の操縦だってままならないんだし、そろそろアドバイザーとかコーチは欲しいだろ」

凛「戦車の操縦は諦めることにしたわ。付け焼刃の技術じゃ、どうせ勝てないもの。一人で勝とうとしたのが間違いだったわ」

士郎「そりゃ無茶だろ……。戦車は一人じゃ動かないぞ。協力者のあてはあるのか?」

凛「言ったでしょ。伝手はあるってね」

士郎「グロリアーナのダージリンって人か?」

凛「餅は餅屋、戦車は戦車道選手に任せるのが一番なのよ」

士郎「だったら、そろそろ電話ぐらいはしておいたほうがいいんじゃないか。試合まで時間はないしさ」

凛「わかってるわよ。ちょっと待ってて」ピッ

ダージリン『――はい?』

凛「私です、ダージリンさん」

ダージリン『あら、遠坂さん。お久しぶりね』

凛「ダージリンさんも元気そうで何よりだわ」

ダージリン『冬木市での野試合、参加されると風の噂で聞きましたわ』

凛「知っていたはずですよ。クルセイダーの提供はそちらの学園艦からですもの」

ダージリン『外のことには疎いので。本題は?』

凛「ふっ。勿論、冬木市の試合に協力してくれないかと思いまして」

ダージリン『あら、光栄だわ』

凛「良かった。是非ともダージリンさんとオレンジペコさんに協力してほし――」

ダージリン『こんな諺を知ってる?』

凛「はい?」

ダージリン『怠惰はすべての恥ずべき行いの母なり』

凛「……どういうことでしょうか?」

士郎(うわ……遠坂の機嫌が悪くなったぞ……)

ダージリン『冬木市の試合。いつ頃から参加を決めていたのかしら』

凛「正式に発表があってからだから、半年前ですね。まぁ、いつ始まってもいいように準備はしていましたけど。怠惰と言われるのは心外ですね」

ダージリン『ではどうして、もっと早く戦車を購入し、練習をしなかったのか』

凛「だから、それは何度も言ったでしょ。戦車を購入する資金を用意するのだって、それなりに時間もかかるって」

ダージリン『わたくしとの会話の殆どはクルセイダーの値段を下げることに関連していたように思えるけれど』

凛「そちらが法外な値段を要求するからでしょ」

ダージリン『法外? 大事な愛車を一輌提供するのだから、当然の額よ』

凛「クルセイダーの相場ぐらい調べているのよ」

ダージリン『値段交渉に三か月以上も費やす意味はあったのかしら』

凛「私が粘ったから相応の価格で提供してくれる気になったんでしょう?」

ダージリン『けれど、その所為で練習の時間はみるみる減り、今に至る、と。挙句の果てに戦車に乗ってほしいなど、厚顔無恥もここまで行くと清々しいわね』ズズッ

凛「こ、これだからイギリス被れはぁ……!!!」

ダージリン『こちらの提示した金額で納得しておけば、練習の時間も多くとれ、且つ、協力者もゆっくりと吟味できたのに……』

凛「何よ!! だいたい今のグロリアーナにある戦車の5パーセントは遠坂が所有してたものじゃない!!」

ダージリン『もう10年以上前のお話ですし、遠坂時臣氏も正式に寄付してくれたという記録が残っているわね』

凛「うぐぐ……!!」

ダージリン『曰く付きの戦車を引き取る学園も少なかったはず。かといって冬木市に戦車を置けるわけもない』

ダージリン『聖グロリアーナは遠坂にとって、恩人ではありませんこと?』

凛「聖杯戦はね、あんたたちが思っている以上のことを要求されるのよ。戦車にのって砲弾をぶっ放せばいいだけじゃないんだから!!」

ダージリン『野試合、それもタンカスロンのことには然程興味はないわ。期日までにすべてを整えられなかった、貴方のミスに他ならない』

凛「……」

ダージリン『違いまして?』

凛「ふふ……。そうね、ダージリンさんの言う通りよ。私の考えが甘かったわ」

士郎「と、おさか……?」

凛「――もうアンタになんてたのむかぁぁぁぁ!!!」ドォォォン!!!!

士郎「……!?」

凛「はぁ……はぁ……。そうよね。遠坂は孤高でなくちゃいけないもの。他人を頼るなんて、あってはならないことだわ。そう思うわよね、衛宮くん?」

士郎「あ、ああ……お、思う……」

凛「そうよ。ライダーを引けばいいのよね……ライダーさえ……引けば……!!」

士郎「遠坂、大丈夫か?」

凛「士郎、もう帰って。今日はありがとう」

士郎「い、いいのか?」

凛「ええ。戦車道受講者の協力は得られそうにない。なら、あとは自力でどうにかしてやるわ」

凛「こちらに落ち度があるのは認めなきゃいけないしね。購入から納車までの時間をよく考えていなかったもの」

士郎「遠坂、無理はするなよ」

凛「分かってるわ……。それじゃあ、また明日ね……」

士郎「あ、ああ……」

士郎(にしても、さっきのは何だったんだ……。遠坂の指先からなんか出た気がするけど……)

凛「最良のサーヴァント、ライダー……」

凛「それさえ引ければ、ダージリンの協力なんて必要ないのよ……」

凛「使うわ、父さん」

凛「ずっと大事にしていた、このペンダント」

凛「父さん、これを使えばライダーが来てくれるのよね……」

―間桐邸―

桜「……」

慎二「あはははははは!!!! やればできるじゃないかぁ、さくらぁ!!! 聖杯・戦争は僕たちの勝ちだぁ!!!」

桜「どうして……」

ライダー「呼ばれたから、ここにいるだけです」

桜「私、戦車なんて……」

ライダー「心配はいりません」

慎二「そうだぞ、桜。ライダーを引けたんだ! 戦車はこいつ一人に任せておけばいいじゃないか!!」

桜「……」

慎二「頼むぞ、ライダー。必ず、勝て」

ライダー「サクラがそれを願うのでしたら」

慎二「願わないわけがないよなぁ、桜。だって、お前は俺の妹なんだから」

桜「……」

慎二「あははははは!! これで夢がかなうぞ!! あはははは!!」

ライダー「……」

―黒森峰女学園 寮―

まほ「これでサーヴァントが……」

まほ(これを行わなければ参加資格を得られないという話だったが……。とても馬鹿馬鹿しいことをしているような気になるな)

まほ「――告げる。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

ゴォォォォ!!!

まほ「な……!?」

「これはこれは。謀らずも盟主に出会えたか」

まほ「一体、これは……」

アサシン「我が主にしておくには惜しい。共に現を変えようではないか」

まほ「貴方がサーヴァント……」

アサシン「然り。今宵より、主の傍らにてこの刃を研ぐことにする」

まほ「信じられない、まるで魔法……」

アサシン「魔法か。あいや、そのような陳腐な言葉では表してくれるな、主よ」

まほ「魔法と言わず、何と言えばいい」

アサシン「そうだな。運命と記し、定めと称そうか」

―冬木市 新都 教会―

綺礼「――全てのサーヴァントが揃ったか」

「ついに始まるのですね」

綺礼「ああ。第五次聖杯戦争……。聖杯・戦争が……」

「楽しみです、とても。先輩たちは優しくしてくれるでしょうか」

綺礼「それはお前の態度次第だろう」

「まぁ、では、しばらくは大人しくしていましょうか」

ランサー「高みの見物とは、随分と楽な戦法だな」

「そうですか。昔から漁夫の利は、常套手段ですよ?」

ランサー「俺の性には合わねえな。いつだって、正面から刃を交えたもんだぜ」

綺礼「言ったはずだ、ランサー。お前の令呪はここにあると」

ランサー「だから、こうしてここにいるんだろうがよ」

「良い子ね。あとで骨をあげるわ」

ランサー「骨になる前のもんをくれよ」

「あら、ごめんなさい」

―遠坂邸 地下―

凛「……」

アーチャー「やれやれ。実に強引な術式だな」

凛「あなた……ライダー……?」

アーチャー「戦車の操縦は人並みにはできるようだな。だが、本職は砲手のようだ」

凛「……」

アーチャー「何か不満か?」

凛「ライダーがよかったのよ」

アーチャー「それは残念だったな、マスター。だが、気に病むことはない」

凛「どういう意味?」

アーチャー「これだけは断言できる。君は、最強のサーヴァントを呼ぶことに成功している」

凛「……」

アーチャー「戦車を人並みに操縦でき、砲手としての適性もある。負ける要素がどこにあるというのか」

凛「操縦は、できるのね」

アーチャー「ああ。どのような戦車か、見せてもらえるかな」

凛「これよ」

アーチャー「クルセーダー巡航戦車か。この戦車で聖杯・戦争を勝ち抜こうというのか」

凛「強い戦車を頂戴っていったら、これを勧められたのよ」

アーチャー「騙されたのではないか?」

凛「え?」

アーチャー「いや、マスターの性格にはよく合っているかもしれないな。少しばかり性急な部分などは酷似している」

凛「貶してるの?」

アーチャー「いいや、純粋に感心している。似た戦車など得難いものだ」

凛「……で、動かせるの?」

アーチャー「あと一人は欲しいところだな」

凛「一人って?」

アーチャー「誰かいないか。操縦に長けた人材は」

凛「あんたがやればいいでしょ」

アーチャー「構わないが、車長、砲手、装填手の全てをマスターが担うのか? それはそれで見てみたいがな」

凛「で、できるわよ。それぐらい。こっちだって、練習はしたんだから」

アーチャー「では、搭乗してくれ」

凛「い、今から?」

アーチャー「私の操縦で君が装填し、砲撃し、そして適切な指示を出せるのか、是非ともこの目で見てみたい」

凛「なるほど。テストってわけね。マスターを試すなんて、いい度胸じゃない」

アーチャー「これは私のテストでもある。サーヴァントとマスターの信頼関係は盤石にしておきたい」

凛「物は言いようね。わかったわ。乗ってあげるわよ」

アーチャー「ありがたい」

凛(大丈夫……。士郎に教えてもらったようにやれば……)

アーチャー『準備はいいか、マスター』

凛『い、いいわよ! どこにでもいきなさい!!』

アーチャー『心得た!』グイッ

クルセイダー「……」ゴゴゴゴゴッ!!!!

凛『くっ……!? こ、これぐらい……!!』

アーチャー『装填し、砲撃をしろ』

凛『わ、わかってるわよ……!! これをここに入れたら……いいんでしょ……!!』

―大洗女子学園 生徒会室―

杏「ありゃぁ」

桃「会長、どうかされたのですか」

柚子「面白い記事でもあったんですか」

杏「昨夜未明に冬木の学園艦で戦車が大暴れしたんだってさ」

桃「何をしているんだ……」

柚子「ええと、砲弾5発が民家に直撃……」

杏「冬木の学園艦では戦車道は取りやめになってるし、保険とかおりないんだよねぇ」

桃「これから試合をするというのに……。冬木市は戦車道に対して、悪印象を植え付けたいんでしょうか」

杏「まぁまぁ。でも、この記事は良い情報源だ」

柚子「そうなんですか?」

杏「ここにある写真。画質は悪いけど、クルセイダーっぽいからな」

桃「なるほど。戦車の情報が漏えいしたと」

柚子「こういうのは運営も隠してはくれないんですね」

杏「流石にこんな凡ミスまではカバーしてくれないんじゃない?」

―戦車倉庫―

優花里「これは間違いなく、敵車輌ですね」

みほ「クルセイダーは間違いなくいるんだね」

セイバー「ミホ、これは何かの罠ではないですか」

みほ「その可能性もあるかも」

沙織「罠ってどんな?」

麻子「クルセイダーがいるとみせかけて、実はいないとか」

華「相手に誤情報を与える戦術ですか」

沙織「えー? 卑怯じゃない? まだ始まってもないのに」

セイバー「いえ、サオリ。その認識は改めたほうがいい」

沙織「そうなの?」

セイバー「既に、聖杯戦争は始まっています」

優花里「こうした情報戦から仕掛けてくるなんて、本当の戦争みたいですね」

みほ「クルセイダー……。どんな人が……」

セイバー「油断できませんね。ミホ、一度冬木市を調査したほうがいいのでは? 戦場を知ることは戦において不可欠です」

みほ「そうだね。まだちゃんと見たこともないし」

セイバー「では、今から行きましょう」

みほ「今からですか!?」

セイバー「当然です。こうしたことは速さが求められます」

沙織「けど、授業は?」

セイバー「今この時に限れば、聖杯戦よりも優先すべきことはありません」

華「凄まじい気迫です。セイバーさんは戦車道の他に武芸を嗜んでいたのですか?」

セイバー「武芸……。現代のように洗練されたモノを披露することはできませんが、剣術なら多少の心得があります」

華「やっぱり。そうでなくてはその時に凛々しく、時に厳かで、それでいて可憐な佇まいは身につきはしないでしょうし」

セイバー「褒めすぎです、ハナ」

みほ(エリカさんとも練習しなきゃいけないし……。冬木市の下見はこのタイミングがいいかも……)

みほ「今すぐは無理ですけど、午後に行きましょう」

セイバー「何故ですか。動けるのなら、この場で動くべきです」

みほ「一緒に行きたいんです。大事な、友達と」

セイバー「友……。分かりました。ですが、出来る限り早めに出立しましょう」

―黒森峰女学園 演習場―

ドォォォォン!!!

まほ「遅いぞ!! 何をしている!! 隊列を乱すな!!」

アサシン「可憐な花かと思えば、獅子だったか」

まほ「VI号戦車に乗っているからか」

アサシン「そういう意味ではない。おぬしのことよ」

まほ「それより、部外者は目立つ。早々に退場しろ」

アサシン「何を仰る。アサシンのクラスが、人の目に触れると思うか」

まほ「サーヴァントとはなんだ」

アサシン「陰から主を守護する、健気な亡霊だ」

まほ「冗談は好かない」

アサシン「冗談に聞こえたか。まだまだ修行が足らんか」

まほ「はぁ……」

アサシン「それはそうと、まほ。お前の腹心は信頼に足る人物か」

まほ「エリカのこと? ああ、でなければ副隊長には任命しない」

アサシン「そうか」

まほ「エリカが気になるのか」

アサシン「なぁに。亡霊故か生ある者の声がよく聞こえるのでな」

まほ「貴方は生きている」

アサシン「あっはっはっは。そう言ってくれるか。これは益々、守り甲斐があるというもの」


エリカ「――今日? 今から? 何言ってるのよ」

エリカ「……そうね……うん……。分かったわ。なんとか、都合をつけてみる……ええ……また、連絡するわ」


アサシン「なぁ、まほよ」

まほ「邪魔をしないでくれ。まだ遅れているぞ!! あと2秒は短縮できるはずだ!!」

アサシン「正午より、冬木市へと向かわないか」

まほ「授業がある。無理だ」

アサシン「では、一つ賭けをしないか」

まほ「賭け?」

アサシン「おぬしの腹心である逸見が正午より姿を消せば、我々は冬木市へと赴く。良い余興だろう」

まほ「賭け事はしない」

アサシン「これは参った。そう言われることは想定していなかったぞ」

まほ「エリカは聖杯戦に関わってはいない。貴方が気にすることではない」

アサシン「分からぬぞ。敵陣営と繋がりがあるやもしれん」

まほ「招待状は私に来ていた。当のエリカも聖杯戦には否定的だった」

アサシン「女の心変わりは秋の空ともいう」

まほ「何故、疑う」

アサシン「これが拙者の性分でな。気分を悪くするな。これでもまほの身を案じてのこと。敵が身近にいる可能性もある」

アサシン「戦う前に寝首を掻かれることがあっては、アサシンとしては無能の極みだ」

まほ「そこまでいうのは、何か理由があるのか」

アサシン「理由などは今から探せばよい。小さな疑念は戦場で命取りにもなる」

まほ「……戦車道は試合前の偵察行為を認めている」

アサシン「いいのだな」

まほ「どうせ、貴方は勝手に行動する」

アサシン「これも愛くるしい盟主のためよ。任された」

―プラウダ高校―

カチューシャ「これって、ダージリンも参戦してるってことじゃないの?」

ノンナ「クルセイダーが冬木市で暴走……。ローズヒップさんならやり兼ねませんね」

ギルガメッシュ「小物よ。いつまでここにいるつもりだ」

カチューシャ「ん? なにが?」

ギルガメッシュ「我に無聊を与えてくれるな。何をするか、我にも分からぬぞ」

カチューシャ「わかってないわねぇ。ギル」

ギルガメッシュ「なんだと」

カチューシャ「本物の王者っていうのは、少し遅刻するぐらいが丁度いいのよ」

ギルガメッシュ「ほう……」

カチューシャ「他の連中がコソコソしながら、せっせと罠を張り巡らせる。それを上からドーンっと踏みつけてぜーんぶ台無しにして、みんな粛清するの」

カチューシャ「そういうの最高に気持ちいいと思わない?」

ギルガメッシュ「あはははははははは!!!! 小物にしては愉快なことを言う!!」

カチューシャ「いい加減、小物って言わないで!!」

ギルガメッシュ「中々に楽しめそうだ。カチューシャ、しばらくは付き合ってやろう。ありがたく思うが良い。ふははははは」

―聖グロリアーナ女学院―

ダージリン「ええ。よろしくね。そんな、何も裏なんてないわ。そうよ。お願いしますわ」

オレンジペコ「ダージリン様?」

ダージリン「あら、もうお茶の時間?」

オレンジペコ「はい。どちらにお電話をされていたのですか」

ダージリン「例の冬木市で行われるタンカスロンのことで少しね」

アッサム「遠坂様の件ですか」

オレンジペコ「遠坂様……?」

アッサム「丁度、貴女が入学する前に聖グロリアーナに問い合わせがあったの。戦車を一台、貰いたいと」

オレンジペコ「ああ。先日、クルセイダーを納車したという」

ダージリン「姉妹艦であるロンドンの学園艦から遠坂さんに協力して欲しいとの連絡も事前に受けていたわ」

オレンジペコ「そうなんですか。ロンドンの学園艦とも交流があるなんて、高名な方なのでしょうか」

ダージリン「そうね……。西住家や島田家とは違い、戦車道との歴史は浅いけれど、聖杯戦に関しては百年以上も前から携わっていると聞いているわ」

アッサム「聞いた話では聖杯・戦争も戦車道の一種では?」

ダージリン「もし遠坂家が戦車道の歴史に深く関わっているのなら、凛さんが戦車に疎いわけはない。何より、準備する期間があまりにも短すぎる」

アッサム「件の遠坂様は戦車には乗ったことすらないというのは本当だったのですか」

ダージリン「そうね。極限まで値切り交渉するほど、時間に余裕はなかったはずなのに」

オレンジペコ「おかしな話ですね。歴史あるタンカスロンなら、戦車を保有していてもおかしくありませんのに」

ダージリン「由緒ある家系の娘が全くの素人というのも、不自然極まりない」

アッサム「戦車道からは暫く離れていたのでしょうか」

ダージリン「それとも元々は戦車道と所縁のない家系だったか」

オレンジペコ「百年以上前から非公式試合とはいえ、続けてきたのにそれはないのでは?」

アッサム「それに遠坂家から寄付された車輌も聖グロリアーナにはありますわ。戦車道と縁がなかったとは考えにくいのでは?」

ダージリン「こんな格言を知ってる? 盲目的な変革には危険があるが、それよりももっと大きい危険は盲目的な保守主義である」

オレンジペコ「ヘンリー・ジョージですね」

アッサム「その格言がなにか?」

ダージリン「百年以上、ルールが変わらないなど狂気の沙汰。どのようなスポーツも百年あれば規定が様変わりするものよ」

ダージリン「五十年前では安全と考えられていたものでも、現代では危険行為であると認定されてしまうこともある」

ダージリン「昔の考えに囚われ、何も変えないのは危ういのよ」

オレンジペコ「つまり、聖杯戦のルールが最近、変わってしまったということですか?」

―冬木市 新都 ビルの屋上―

凛「サーヴァントなら知識は持っているでしょう」

アーチャー「聖杯戦のルールは問題ない。君が戦車に乗る準備を怠った理由については知っておきたいがね」

凛「戦車で戦うかどうか、分からなかったのよ。ギリギリまでね」

アーチャー「前回の聖杯戦争では既に戦車道の規定に則り、行われていたはずだが」

凛「そこまでの話は、聞いてなかったの。父親が戦車を使ったのは知ってたけど」

アーチャー「敵陣営も戦車を使用していたはずだが」

凛「父さんは戦車に乗ってはいなかった。戦車に乗ってたのは、使い魔だって話だし」

アーチャー「では、アインツベルンも同様か」

凛「ええ。それに他の敵陣営だって戦車の素人ばっかりだったらしいわ。衛宮切嗣って人だけは近代兵器にも精通していたみたいだけど」

アーチャー「……」

凛「けど、その人が戦車に乗ったは本当に最後の最後ぐらいで、あとは地雷やら対戦車兵器を使って戦車の破壊を優先してたって。あと、試合前に相手を殺したこともあったとか」

アーチャー「これはあくまでも聖杯戦争だ。試合前に選手を亡き者にしてはならないというルールはない」

アーチャー「特に君のような魔術に秀でた者こそ、試合前に相手とそのサーヴァントを行動不能にしておく必要があるのではないか?」

凛「分かってるわよ、そんなこと。だから、こうして冬木市を眺めてるんでしょ」

アーチャー「君は甘いようだな」

凛「何がよ」

アーチャー「サーヴァントが揃った時点で聖杯戦争は幕を上げている。聖杯戦の戦車道など、事実上の決勝戦に過ぎない」

アーチャー「選手登録期限は明日までだが、試合まではまだ十日ほどある。運営は準備期間と言っているが、実際はその間に相手を減らしておけということだろう」

凛「分かってるって言ってるでしょ」

アーチャー「では、何故戦わない。近くにいるのだろう、間桐桜が」

凛「あの子がまだ参加しているかどうかは分からない。昨日確認しても迷ってるみたいだったし」

アーチャー「サーヴァントは出揃っているはずだが」

凛「桜が参戦したかどうか、確証はないわ。サーヴァントが揃っただけじゃね」

アーチャー「ふむ……。凛、君は恐れているのか。妹と戦うことを」

凛「冗談。敵になるなら容赦なんてしないわ。肉親だからって情けをかけるほど遠坂家は甘くないのよ」

アーチャー「静観するのは何か理由があるのか」

凛「常に優雅たれ。何事にも焦りは禁物。まずは情報収集からよ。イリヤ……アインツベルンがどんなサーヴァントを持っていて、どんな戦車を用意しているのかも調査したいし」

アーチャー「うむ。凛の考えはよくわかった。では、しばらくはそれに従おう」

凛「あと、いい加減、聞きたいんだけど。アンタの真名はなに? そろそろ思い出せたんじゃない?」

―冬木市 港―

杏「初めて来たけど、ちゃんと学園艦が寄港できるほどおっきな港があるんだねぇ」

優花里「冬木市も学園艦を運用していますからね」

エリカ「へえ。賑やかな町なのね」

みほ「新都は色々あるみたいだね。レジャープールとか大きなデパートとか」

杏「あの金ピカの看板、よく目立つよなぁ」

優花里「オーナーの嗜好がよくわかりますね」

セイバー「あの冬木大橋を越えれば深山町です。眩い建物はない閑静な住宅街です」

みほ「そうなんですか?」

杏「やけに詳しいね、セイバーちゃん。きたことがあるの?」

セイバー「ええ。何度か」

優花里「では、セイバー殿に案内を任せてもいいでしょうか」

セイバー「私に分かる範囲でよければ」

優花里「ありがとうございます!!」

みほ(何度か……。サーヴァントって毎回、同じ人が呼ばれるのかな……?)

―新都―

杏「ここで戦車走らせてもいいんだよね」

優花里「一応、そうなってはいますね」

みほ「エリカさん」

エリカ「なによ」

みほ「お姉ちゃん、何も言ってなかった?」

エリカ「早退ってことにしておいたから、心配はないわ。怪しまれてはいるでしょうけど、私がタンカスロンに参加するなんて隊長は思ってもないでしょうし」

みほ「ごめんね、無理を言って」

エリカ「戦車道にとって、試合会場の視察も重要でしょ」

みほ「ありがとう」

エリカ「別に。お礼はいいって言ってるでしょ」

みほ「うんっ」

エリカ「ふんっ」

セイバー「仲がよろしいのですね。敵同士と聞いていましたが」

優花里「西住殿と逸見殿は元々同じ学園に通っていましたから」

セイバー「同郷だったのですか。確かに船内でも二人は独特の雰囲気でしたね。アンズやユカリと話すときとは違っていたというか」

優花里「西住殿、嬉しそうです」

杏「西住ちゃんだって、望んで黒森峰から離れたわけじゃないしな」

優花里「そうですね……」

みほ「エリカさんは操縦手としてⅣ号に乗ってほしいんだけど、いいかな」

エリカ「車長に任せるわ。好きにして」

みほ「ごめんね。エリカさんの能力を考えれば、車長のほうがいいのかもしれないけど……」

エリカ「嫌味?」

みほ「え!? そ、そんなこと!!」

エリカ「冗談よ。操縦手ね。分かったわ。私はいいとしてセイバーさんはどうするのよ」

みほ「サーヴァントっていう役割は私もまだよく理解してないから、どうしようかと思って……」

エリカ「通信手としてみほのサポートをさせるのが一番なのかしらね。セイバーさんは勿論、戦車に乗れるのよね?」

みほ「戦車のことはよく知らないって……」

エリカ「なによそれ。サーヴァントってホント、なんなのよ?」

セイバー(同じ故郷を持つもの同士、か)

みほ「あ!」

セイバー「どうしました、ミホ」

みほ「ちょっと、見て行ってもいいですか?」

セイバー「何か気になるところが? まさか、敵の罠に……!」

みほ「いえ、あそこにファンシーショップがあって、ボコが……」

セイバー「ぬいぐるみ……ですか……」

エリカ「またボコなの?」

みほ「ちょっとだけ!」

エリカ「はいはい」

みほ「ありがとう!!」

杏「相変わらずだねぇ」

優花里「ボコを前にした西住殿は手がつけられませんからね」

セイバー「む……」

杏「どうかした、セイバーちゃん?」

セイバー「いえ、あの獅子のようなぬいぐるみが気になりまして」

杏「セイバーちゃんはライオンが好きなんだ」

セイバー「雄々しく猛々しい生き物をここまで愛らしい造形にする現代の創作技術には感心するばかりです」

優花里「ぬいぐるみは可愛いほうがいいですからね」

杏「リアルになっちゃうと怖いだけだし」

エリカ「セイバーさんも見ていきますか?」

セイバー「ミホのあの様子では……」

みほ「わぁ……冬木市限定のボコもあるんだぁ……かわいい……」

セイバー「もうしばらく時間がかかりそうですね」

エリカ「視察ってこと忘れてないかしら、あの子」

杏「大丈夫じゃない?」

セイバー「アンジーはミホに全幅の信頼を寄せているのですね」

杏「西住ちゃんほど信頼できる子もいないよ」

優花里「私もそう思います!!」

エリカ「私は……そこまで……」


アサシン(やはり逸見も参加しているようだな。そして高嶺に浮かぶ月の如き少女はサーヴァントで間違いあるまい。クラスまでは分からぬが、立ち振る舞いからしてセイバーかランサー……。どちらにせよ、警戒はしたほうが無難か)

―冬木中央公園―

みほ「この公園は?」

杏「なーんにもない、さっぱりした公園だね」

優花里「セイバー殿、ここは一体?」

セイバー「前回、大火災に見舞われた公園です」

みほ「ここが……」

セイバー「前々回まではここに多くの住人と家屋があったそうですが、そのときもここは焼き払われ、地図上では空洞となってしまった」

エリカ「二回も同じようなことがあったのね」

セイバー「原因は違いますが、結果は同じですね」

優花里「戦車道の試合でここまで広い土地が被害にあうなんて、余程激戦だったのでしょうか」

セイバー「前々回は戦車道ではありませんでした」

優花里「え……?」

セイバー「戦車は戦場に駆り出されていましたが」

杏「まだタンカスロンがなかった時代ってことかぁ」

優花里「レギュレーションも整ってはいなかったのですね」

―冬木大橋―

杏「セイバーちゃんは前回、前々回と参加してるの?」

セイバー「ええ」

杏「んじゃ、どんな試合だったのか言える?」

セイバー「前々回は貴方達に話せることは殆どありません。そもそも戦車道ではありませんでしたから」

セイバー「前回も貴方達が知っている戦車道と言えるかどうかわかりませんが」

エリカ「7人の参加者と7輌の戦車で戦うだけなんでしょ」

セイバー「試合の日だけを切り取れば、そうなります」

みほ「試合前から、何かしてもいいってことですか」

セイバー「聖杯戦は既に始まっているとユカリにも言いました」

優花里「情報収集のほかにもしていいことってあるんですかね」

セイバー「前回、一人の男は試合の数日前から行動を開始していました。敵陣営の車輌を破壊し、搭乗員となる者を動けなくすることも多々ありました」

優花里「そこまでしていいんですか!?」

エリカ「私たちの知っている戦車道とは本当に違うんですね」

セイバー「夜半の奇襲も、地中に爆弾を埋めることも、人質を取ることも、全て正当化されます。今回もそれは例外ではありません」

みほ「けど、参加者7人が集まらなかったら補充するって……」

セイバー「厳密には、7人のサーヴァントがいれば問題ありません。サーヴァントを呼び出すために7人の参加者が必要なだけです」

みほ「ええと、サーヴァントが7人いれば問題ないってことですか」

セイバー「7人揃った時点で聖杯戦は開始されている。つまり、この時点で何者かに襲われても不思議ではありません」

エリカ「恐ろしいわね……」

杏「そんなことする奴、いるのかねぇ」

優花里「曲りなりにも戦車道を嗜んでいるのなら、正々堂々と戦ってほしいです」

みほ(エリカさんが怖い目にあった……。優花里さんや会長も同じことに巻き込まれるかもしれない……)

セイバー「怖くなりましたか、ミホ」

みほ「それは……」

セイバー「心配はいりません。こうして私の目の届く範囲にいてくれるのなら、全員を守ることはできます」

セイバー「前々回も前回も、私は後れを取ったことなどありませんから」

杏「んじゃ、よろしくぅ」

優花里「会長、もっと頼み方があると思いますがぁ」

セイバー「構わない、ユカリ。アンジーの期待と信頼には全力で応えるつもりです」

―深山町 マウント深山―

エリカ「商店街、か。新都に比べるとモノは少ないけど」

みほ「私はこういう雰囲気のほうが好きだな」

セイバー(この先は、確かキリツグの……)

優花里「セイバー殿、何を見つめているのですか?」

セイバー「ん? いや、なんでもありません」

杏「まさか敵のサーヴァントがいたりするの?」

セイバー「それはないようです」

みほ「分かるんですか?」

セイバー「はい。サーヴァントはサーヴァントの気配を感じ取ることができますから。近くにいれば、すぐに察知できます」

エリカ「奇襲されることはないってことですか」

セイバー「勿論、例外はありますが、多くの場合奇襲など無意味でしょう」

優花里「例外とはどんな時でしょうか?」

セイバー「こちらの意識を遮断されてしまったとき、またはアサシンのクラスによる気配遮断ですね」

アサシン(ふむ。セイバーと呼ばれているようだが。あのサーヴァントはセイバーということか……。もう少し距離を詰めれば、敵大将の首を取ることもできるが……さて……)

―夜 新都―

セイバー「この坂を登った先に教会があります。ありえない話ですが、万が一、私がやられてしまった場合はそこへ駈け込んでください。ミホだけでなく、全員です」

みほ「そんなこと言わないでください……」

セイバー「万が一です。決して、私は負けません」

杏「教会に行かないと、なんかまずいの?」

セイバー「他のサーヴァントには戦車だけでは敵いません。戦車の中にいれば安全ということもない」

優花里「守る人がいなくなるということですか」

セイバー「そういうことです。何度も言いますが、これは貴方達の知っている戦車道とは違う。それだけは肝に銘じておいてください」

エリカ「信じられないわね……。サーヴァントは戦車の装甲を貫けるっていうの……」

セイバー「簡単にとは言いませんが」

杏「まぁ、経験者がいうなら従ったほうがいいね」

セイバー「そのときは、来ないでしょうが」

みほ「私もそうおも――」

「うふふ。お姉ちゃんたち、楽しそうね」

みほ「え……?」

セイバー「貴女は……」

イリヤ「――久しぶりね、セイバー。そして、ごきげんよう、戦車道のお姉ちゃんたち」

みほ「ど、どうも」

杏「やぁやぁ、こんばんは。私は角谷杏」

イリヤ「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。イリヤって呼んでくれて構わないわ」

優花里「イリヤ殿ですか。ええと、もしかして貴方は聖杯戦の参加者ですか」

イリヤ「そうよ。主役と言ってもいいわね」

エリカ「主役?」

セイバー「アインツベルンはこの聖杯戦争の成り立ちに関わっているのです」

エリカ「そういうこと。けど、主役は勝った者のことを言うんじゃないかしら」

イリヤ「ふふ、そうね。なら、今からその主役を決めるっていうのはどう?」

みほ「はい?」

イリヤ「バーサーカー」

バーサーカー「……」

みほ「な……え……?」

セイバー「ここでやり合うつもりか」

イリヤ「これは通過儀礼みたいなものよ。聖杯戦争に参加したら避けては通れないでしょ」

セイバー「なに……」

イリヤ「戦車だけじゃ、ダメってこと」

バーサーカー「……」

優花里「な、なんでしょうか……とんでもなく大きな人がいますけど……」

杏「カチューシャが見たら肩車してっていいそうだな」

エリカ「みほ、もしかして……」

みほ「うん……」

イリヤ「今回はご挨拶よ。けど、勢いで身体がなくなったら、ちゃんとぬいぐるみにしてあげるから安心してね」

みほ「な、なにをいって……」

イリヤ「すぐにわかるわ。――バーサーカー!!」

バーサーカー「■■■■――!!!」

優花里「ひっ!?」

セイバー「全員、下がってください!!!」

バーサーカー「■■■■――!!!」ギィィィン!!!

セイバー「くっ……!?」

みほ「え……なにが……」

杏「これって、ガチのやつ?」

優花里「に、西住殿! ここは撤退したほうが!!」

みほ「けど、セイバーさんが……!」

エリカ「そんなこと言ってる場合!?」

バーサーカー「■■■■――!!!」ドォォン!!!

セイバー「ずっ……!?」

みほ「セイバーさん!!」

セイバー「心配は不要です、ミホ。この程度では剣は折れません」ゴォォォ

イリヤ「ふふ。やっぱり、セイバーは強いね。けど、私のバーサーカーが最強なんだから」

バーサーカー「■■■■――!!!」

セイバー(私一人ならなんとでもなるが、後ろにはミホたちが……! このままでは……!!)

「やれやれ、見ておれんな。夜に似合うは修羅よりも水面に揺れる月だけだとは思わぬか、セイバー」

セイバー「誰だ?」

アサシン「――アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。よろしく頼む」

セイバー「アサシン……」

みほ(あの人、どこから……)

アサシン「逸見」

エリカ「わ、私?」

アサシン「御大将には報告させてもらうぞ」

エリカ「は、はぁ?」

アサシン「いずれ理解できるだろう。今は、ここをどう切り抜けるかだな」

セイバー「何故、敵に手を貸す」

アサシン「なに、気まぐれよ」

セイバー「妙なことをすれば斬る」

アサシン「できるものならな」

バーサーカー「■■■■――!!!」

みほ(サーヴァント……戦車だけじゃ勝てない理由……)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年02月27日 (月) 23:29:32   ID: iBg3yCY2

設定も描写もしっかり作りこんでる良作の予感だったのに・・・
エタってしまったか、勿体無い

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