まほ「西住流に、逃げるという道はない」操縦手「いいから始めようよ。隊長」 (20)

・全国大会の決勝戦、最後の一騎討ち。まほが搭乗するティーガー車内の様子を書いた小ネタです。


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まほ「西住流に、逃げるという道はない」

みほ「……」

まほ「こうなったら、ここで決着をつけるしかないな」

みほ「……受けて立ちます」


――黒森峰隊長車、ティーガー車内


通信手「……あれってやっぱり、みほちゃんだよ」

操縦手「うん。キューポラから顔を出してるのは、紛れもなく妹ちゃんだね」

砲手「決勝まで来るとはなぁ」

装填手「試合の前に、姿は見ましたけど…」

通信手「こうやって実際に目の前で見ると、何だか感慨があるね」

砲手「あいつも立派になったもんだぜ」

装填手「ちょっと照準器、覗かせてください」

砲手「ほらよ。お前の元クラスメイトだ」

装填手「……間違いありません、みほです。あの頼りない顔は変わってません」

通信手「表情はそうでも、あの子は今、うまく一対一に持ち込めたって思ってるだろうね」

砲手「それはもう言うな。こうなったのは隊長であり車長である、まほさんの判断だ」

通信手「もちろん分かってるよ。私たちはいつでも、自分のやるべきことをやるだけ」

装填手「みほは多分、こうするしかなかったんでしょう」

操縦手「うちと大洗とじゃ多勢に無勢。だから、フラッグ戦っていう試合形式を利用したんだね」

砲手「ほかの車両を遠ざけてフラッグ車を丸裸にすれば、勝てる確率が高くなる」

通信手「あの子が乗ってるのも、フラッグ車」

砲手「フラッグ車同士の一騎討ち、撃破した方が優勝だ。まあ、負ける気はしねーが…」

操縦手「勝てる保証があるとも、限らないよね」

通信手「みほちゃんたちだって、ここまで来たんだもの」

装填手「運だけじゃなく、それだけの実力を持ってるってことですね」

操縦手「でも、勝つのはこっちだよ」

通信手「うん。絶対に撃破しないと」

装填手「自分たちにそれ以外の選択肢はありません」

砲手「ああ。この大会で優勝するために、あたしたち3年生の今までがあったんだ」

装填手「あの…」

砲手「何だ」

装填手「この車内には、私という2年生も一人、いるんですけど…」

砲手「お、そうだったな。お前ってこのチームに馴染んでるから、つい」

装填手「そう言ってもらえるのは、嬉しいですけど…」

操縦手「何か不満?」

装填手「いえ…何だか、2年生らしくないとか、態度が大きいとか、遠回しに言われてるような…」

通信手「変なこと気にしないで。黒森峰最強チームの一員として、認められてるってことだよ」

装填手「はい、ありがとうございます。このティーガーに乗る自分たちは、我が校最強です」

操縦手「超高校生級の選手、西住まほを車長とする隊長車に乗る、最強チーム」

砲手「あのⅣ号は、そんなあたしたちにケンカを売ってるんだ。その報いを受けさせてやるぜ」

エリカ『隊長、我々が行くまで待っていてください!』

まほ「……」

通信手「まほちゃん。エリカがああ言ってるけど、どうする?」

砲手「おい、まほさんよぉ。いつまであいつと見つめあってる気だ?」

まほ「……」

通信手「まほちゃんって、みほちゃんが大好きだもんね。お熱いことで」

操縦手「いいから始めようよ。隊長」

装填手「やっぱり、エリカ…いえ、副隊長たちを待つんですか?」

まほ「前進。左へ回頭」

操縦手「OK、そうこなくちゃ」


グオォォォン


まほ「常に敵へ砲口を向けろ。今、我々の相手は1両だけだ」

砲手「言われなくても分かってる」

まほ「砲身の長さを考慮しつつ走れ」

操縦手「こっちも、言われなくても分かってるよ。市街戦だからね」

装填手「隊長、徹甲榴弾を準備しています」

まほ「それでいいが、榴弾も用意しておけ」

装填手「分かりました」

操縦手「敵が逃げるよ」

まほ「追え。徹甲榴弾装填。射撃用意」

装填手「了解」

砲手「了解」

操縦手「速いな、妹ちゃんたち。なかなかやるね」

通信手「こちら隊長車。副隊長車どうぞ」

副隊長車『こちら副隊長車。隊長車どうぞ』

通信手「戦況確認です。そちらの状況を報告しなさい」

副隊長車『中央広場の入口に立ち塞がるポルシェティーガーへ、集中砲火を浴びせています』

通信手「排除に要する時間は?」

副隊長車『恐らく、3分…』

エリカ『2分と言いなさい!』

副隊長車『に、2分です』

通信手「了解。…まほちゃん、聞いてた?」

まほ「ああ。だが援軍など必要ない」

砲手「一騎討ちでカタをつけてやる」

操縦手「相手は何やってるんだ? 逃げてばかりだね」

まほ「では逃げられないようにしてやる。榴弾の発射用意」

装填手「了解。榴弾に交換します」ガコン

まほ「あの建物を狙え」

通信手「建物を崩して、敵の進路を塞ぐんだね」

装填手「榴弾、装填完了」

砲手「照準よし」

まほ「撃て!」


ドオォォォォォン


まほ「敵が逃げ込んだ路地の入口へ急行しろ」

操縦手「了解」

まほ「徹甲榴弾装填」

装填手「徹甲榴弾、装填完了」

砲手「よし、これで仕留めてやる」

装填手「あ。でも…!?」

まほ「…間に合わないか」

砲手「敵が全速で後進してくるぞッ」

装填手「接触します!」

まほ「全員、衝撃に備えろ!」


ガシィィン


装填手「ぐっ…みほたち、わざと当ててきました」

操縦手「意外とラフだね、妹ちゃん」

砲手「もっとお淑やかにしなくちゃ、男にモテねーぞ」

通信手「あんたがそれを言うの?」

操縦手「また逃げるか。追うよ」

まほ「撃て!」

砲手「いい作戦だったけどなぁ」カチ


ズガァァァン


砲手「チッ、外したか」

まほ「次弾装填」

装填手「装填完了」

操縦手「やっぱり、簡単には勝たせてくれないね」

まほ「お前たち、無駄口を叩く余裕があるのか?」

砲手「あるはずねーよ。まほさんこそ何言ってるんだ」

操縦手「今の相手は、これまでの敵と違う」

通信手「上手いよね、みほちゃんたち。この距離の取り方だって絶妙」

装填手「必死に逃げ回ってるみたいに見えますが…」

操縦手「こっちも、迂闊には近寄れないんだよ」

砲手「ほぼ接射の距離だ。当たり所が悪ければこのティーガーだってやられる」

まほ「照準が合い次第撃て!」

砲手「了解」カチ


ズガァァァン


砲手「くそっ、吹っ飛ばせるのはシュルツェンだけ。イライラするぜ」

まほ「行進間射撃を余儀なくされるのは向こうも同じだ」

他車『こちら6号車。隊長車どうぞ』

通信手「こちら隊長車。6号車どうぞ」

他車『八九式を撃破。ほかの車両とともに副隊長車へ合流します』

通信手「了解」

副隊長車『こちら副隊長車。隊長車どうぞ』

通信手「こちら隊長車。副隊長車どうぞ」

副隊長車『ポルシェティーガーを撃破。白旗を確認』

通信手「では、こちらへの速やかな合流が可能ですか?」

副隊長車『回収車が到着して車両を移動させ次第、可能です』

通信手「了解」

装填手「これで、敵は…」

まほ「あのフラッグ車だけだ」

通信手「でもエリカたちがここへ着くまで、もう少し時間が掛かるよ」

まほ「構わない。我々の車両だけでこの戦いを終わらせる」

操縦手「敵の砲手も腕がいいね。こっちはギリギリで躱してる」

まほ「サンダースのフラッグ車を撃破したのはあのⅣ号だ」

通信手「みほちゃんが撃ったのかな」

まほ「情報では、みほは車長以外を担当していない」

砲手「じゃあ、あいつが今の砲手を鍛えたのか。嫌な奴を敵に回しちまったもんだ」

まほ「その角を曲がるな。直進しろ」

操縦手「了解。建物を挟んで並走するんだね?」

まほ「そうだ」

砲手「距離を取ることができれば、こっちに分がある」

まほ「建物が途切れた瞬間に撃て!」


ズガァァァン


まほ「次弾装填急げ!」

装填手「は、はいっ。装填完了」

通信手「あ…行き止まりだよ!?」

操縦手「左折しかない。敵と鉢合わせするッ」

砲手「接射どころじゃねーぞ!」

まほ「怯むな! そのまま前進、突撃! 撃て!!」


ズガァァァン


操縦手「……間一髪、正面衝突は避けられた」

砲手「当たらねーのは、車両も、弾もだよ」

まほ「もう一度、建物を挟んで並走だ。装填、発射急げ!」


ガキィィン


通信手「ひゃっ…! 相手の弾がカスった」

操縦手「やっぱ腕がいいわ、向こうの砲手」

装填手「次弾、装填完了」

砲手「発射」カチ


ズガァァァン


砲手「ケッ、弾の無駄遣いだぜ」

まほ「……また、この広場に出たか」

操縦手「……敵が停車したよ」

まほ「停止」

操縦手「了解」ガクン

まほ「車体と砲塔を敵戦車へ向けろ」

操縦手「了解」ガゴゴゴ

砲手「了解」ウィーン

副隊長車『こちら副隊長車。隊長車、至急応答願います』

通信手「こちら隊長車。副隊長車どうぞ」

副隊長車『回収車の到着を待たずにそちらへ急行します。副隊長の判断です』

通信手「相手車両を移動させ次第と聞いたけど?」

副隊長車『現在その上を乗り越えています』

通信手「…了解。無理しないように」

操縦手「ムチャクチャやるなぁ、エリカ」

まほ「敵が動くぞ!」

砲手「…何だ? あいつら、何をやってるんだ?」

操縦手「あんなに大きく回り込んで…」

まほ「惑わされるな! 常に目標へ向き直れ!」

操縦手「了解!」

砲手「ちくしょう、どこからでも来やがれ!」

まほ「来るぞ!」


ガキィィン


通信手「うわ、またカスった」

まほ「撃て!」


ズガァァァン


まほ「次弾装填急げ!」

装填手「はいっ」

まほ「砲塔旋回!」

砲手「くそっ、間に合うか…!?」

装填手「装填完了!」

操縦手「敵戦車は何やってるんだ…!?」


ギャガガガガガガ


通信手「履帯も転輪も、弾け飛んでるじゃない!」

まほ「目標を捕捉しろ! 後ろを取られるぞ!」

通信手「後ろ? それが狙いなのね!?」

まほ「早くしろ! 背後に行かれるな!」

操縦手「無理だよ! 敵のスピードについていけない!」

まほ「砲塔の旋回急げ!」

砲手「くっそおおお!」

まほ「先に撃った方が、勝利だ!!」

砲手「こんちくしょぉぉおお!!」


ズドォォォン
ズガァァァン


シュバッ


まほ「……」

砲手「……」

操縦手「……」

装填手「……」

通信手「……せ……戦況、確認……」

砲手「……負けた、か……」

操縦手「……うん……」

装填手「……そ……そんな……」

まほ「みんな」

通信手「……う、うん……」

砲手「何だ……? まほさん……」

まほ「御苦労だった」

操縦手「うん……。隊長も……」

まほ「負けたのは、私の責任だ」

装填手「……そんな……」

まほ「私は、また、みんなを勝たせてやれなかった」

通信手「それは……まほちゃんだけのせいじゃ、ないよ……」

装填手「こ、こんな……こんな、ことって……」

砲手「オラ、泣くな。みっともねー」

装填手「ぐすっ。だ、だって……」

まほ「みんな。すまなかったな」

操縦手「どうして、謝るんだよ……」

砲手「そんな必要、ねーだろ」

まほ「私は、一足先に降車する」

通信手「うん……」

装填手「隊長……!」

まほ「何だ」

装填手「来年は……来年は、必ず……! 私たちが優勝します!」

まほ「……」

装填手「私たちが……必ず、必ずみほたちに勝ちます! 大洗を、叩き潰します!」

まほ「ああ。期待している」

装填手「はいっ! ……ぐすっ。ううっ」

砲手「ホラ、鼻垂らしやがって。汚ねーな」

装填手「うぐっ。ひぐっ。す、すいません……」

通信手「……あーあ。終わっちゃったねぇ」

砲手「これで…」

操縦手「私たち3年は引退、かぁ」

装填手「……」

砲手「しかし、あいつらの最後のあれは、一体何だったんだ?」

装填手「自分に…」

砲手「何だ」

装填手「自分に…心当たりが、あります」

通信手「心当たり?」

装填手「はい……。みほがずっと、気にしてたことが、あったんです」

操縦手「気にしてたこと、って?」

装填手「自分たち黒森峰が運用するのは、主に重戦車です」

通信手「うん」

装填手「じゃあ、その重戦車がやられるのはどんな場合か、って……」

砲手「それを考えた結果、が…今の攻撃方法か」

装填手「多分……」

通信手「正面からだと、よっぽどの火力か近接戦闘じゃない限り、撃破は不可能」

操縦手「だから、高速で後ろへ回り込んで、装甲の薄い箇所を叩く」

装填手「でも、それを可能にするなんて……」

砲手「敵も捨て身だったな。あれを見ろ」

装填手「……無残ですね。足回りがボロボロです」

通信手「もし失敗したら、二度目はない」

操縦手「直後の移動がほぼ不可能になるんだから、ただの的と化すよね」

砲手「だが、あいつらは成功させた」

通信手「戦車にも、あんなことができるのか……」

装填手「みほは転校して、自分たちの対戦相手になって…」

通信手「考えたことを、逆に使ったんだね」

砲手「やっぱり、嫌な奴を敵に回しちまったな」

操縦手「妹ちゃんの発想もすごいけど、それを本当にやっちゃう、あの操縦手もすごい」

通信手「戦車道の真っ当な操縦技能が身に付いてる人なら、やらない操縦だよね」

操縦手「うん。少なくとも私には無理」

砲手「今大会の最優秀操縦手はお前だと思ってたが、あの敵戦車の奴も侮れないな」

通信手「それを言うなら砲手も、でしょ? あんたか、あの相手車両の子」

装填手「そうですね」

砲手「自分のことなんて、どうでもいいが……明日から、暇になるなぁ」

装填手「それなら、いつでも指導に来てください」

砲手「引退した3年がノコノコやって来て口を出しても、ウザいだけだろ」

装填手「でも先輩は隊長と同じで、もう大学への推薦が決まってるって聞きましたよ」

通信手「卒業まで暇なら、行ってあげればいいと思うけど」

操縦手「戦車道推薦か。隊長と同じ所だっけ?」

砲手「いや、そのライバル校だ」

装填手「じゃあ、今度は隊長と敵同士になるんですね」

砲手「ああ。だが、まほさんはその大学から、ドイツへ留学したりするんじゃないか?」

通信手「実際に対戦する機会があるかどうかは、分からないんだね」

操縦手「私は明日から本格的に、受験勉強だよ」

砲手「お前も戦車道で推薦を取ればよかったんだ」

操縦手「私はもういいよ。戦車道は高校までで、お終い」

装填手「もったいないなぁ。黒森峰の隊長車を操縦するほどの人なのに」

操縦手「私はもう、普通の女子生徒に戻るんだよ。で、普通に大学へ行って、普通に就職して…」

通信手「普通の、お嫁さんになるの?」

操縦手「うん。それが夢」

通信手「いい男を見つけないとね」

操縦手「うん。今までは、戦車が恋人みたいなものだったから」

通信手「私たちの恋人って、この子……このティーガーだけだったもんね」

操縦手「でも、こいつとお別れする時が来た。こいつから、降りる時が来た」

通信手「これからは、人間の男を好きにならなくちゃね」

砲手「ケッ、お前たちらしくねーな。女々しい感傷に浸りやがって」

装填手「確かに、我が校最強チームの人たちがする会話としては、意外かもしれませんね」

砲手「お前たち、分かってるだろ? このチームが今まで容赦なくぶちのめしてきた敵戦車の数を」

操縦手「そんなの分かってるけど、今くらいこういうこと言わせてよ。最後なんだし」

通信手「私たちはあんたやまほちゃんと違って、普通の女の子なんだから」

操縦手「二人みたいに、戦車と同じ鉄でできてるような女じゃないんだよ」

砲手「あたしとまほさんが、鉄でできてる? フッ、そのとおりだな。違いねーや」

装填手「自分も、鉄の女になりたいです。いえ、先輩たちと同じ鉄の女に、必ずなります」

操縦手「それは頼もしいね。来年は、勝ってよ」

通信手「私たちより強くなってね。みんなでエリカを、支えてあげてね」

砲手「ライバルが増えちまったけどな。大洗っていう」

操縦手「妹ちゃんたちに勝たないと、優勝はないよ」

装填手「はい。必ず勝ちます。今度はみほに、悔し涙を流させてやります」

砲手「言ったな。その言葉、忘れるなよ」

装填手「はい。絶対に忘れません」

操縦手「回収車が来たみたいだよ」

通信手「私たちも降車しようか」

砲手「ああ。じゃあみんな、お疲れさん」

通信手「はーい。お疲れ様でした」

操縦手「お疲れ様」

装填手「お疲れ様でした」




これを読んでくださった数少ない皆さん、ありがとうございました。

このネタを書こうと思ったのは、こちらのSSを読ませてもらったのがきっかけでした。

まほ「鋼鉄の死神」
まほ「鋼鉄の死神」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384738409/)

しかし書いてみたら、アイディアを借用したとかそういうレベルではなく、何だかもう
そのまんまパクリみたいになってしまいました。
上記作品の書き手さん、勝手なことをして申し訳ありませんでした。

最後にもう一度、これを読んでくださった全てのかたがたにお礼を申し上げます。
ありがとうございました。

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