木村夏樹「きっかけのギター」 (15)


独自設定あり



夏樹「おはようございまーす」

拓海「おーっす」

涼「おはよう、夏樹」

夏樹「あれ? 二人だけか?」

涼「亜季の現場が押してるみたいでな、Pサンが迎えに行ったよ」

夏樹「里奈は?」

涼「面白そうだってPサンについていったよ」

拓海「別に遊びじゃねーんだけどな」


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夏樹「相変わらずPさんに懐いてるんだな」

涼「まあ、ここの連中はPサンにスカウトされてきた奴ばかりだからな。皆少なからず懐いてはいるだろうさ」

夏樹「涼もか?」

涼「これでも相当信頼してる。夏樹もそうだろ?」

夏樹「……まあ、な」

拓海「アタシは違うぞ」

涼「……」

夏樹「……そうだな」

拓海「なんだよっ!?」


涼「そんなわけで三人が帰ってくるまで待機だな」

夏樹「それじゃギターの手入れでもしとくかな」

拓海「……」

涼「どうかしたか? 拓海」

拓海「ギターは詳しくねぇんだけどよ、改めて見るとそれ結構見た目がその……すげぇな」

夏樹「ははっ。ボロっちいだろ?」

涼「拓海が言いよどむとは珍しいな」

拓海「夏樹が大事にしてんのは知ってるからな。テメェが大事にしてるモン馬鹿にされたらムカつくだろうが」

夏樹「気遣ってくれて悪いな」


夏樹「でもギターって見た目は音に乗らないし、何よりこの傷つき具合が結構気に入ってんだ」

涼「わかるな、それ。愛着が湧いてくるんだ」

拓海「それならアタシもわかるぜ。ポンコツの単車でも思い入れがあると中々手放せねぇんだよな」

夏樹「それに……こいつはギター始めたきっかけだからな」

涼「夏樹がギター始めたきっかけか……興味あるな」

拓海「あいつらが帰ってくるまでヒマだし、ちょっと聞かせてくれや」

夏樹「……アタシの昔話は暇つぶしか?」

拓海「いやそういうわけじゃねーけどよ……」

夏樹「冗談だよ―――そうだな、アタシが10歳の頃の話だ」


夏樹「当時アタシには高校生の姉貴がいてな、その姉貴の彼氏がよくウチに遊びに来てたんだ」

拓海「へえ」

夏樹「アタシに対しても嫌な顔せずによく遊んでもらったよ」

涼「いい彼氏さんじゃないか」

夏樹「そのうち姉貴が彼氏さんにギター習い始めてな。ウチでよく教わってたよ」

涼「割とよく聞く話だな」

夏樹「……まあ、姉貴はすぐやめたけどな」

拓海「は?」

夏樹「Fのコードで諦めたらしい」

涼「それもよく聞く話だな」

夏樹「で、お下がりのギターをアタシにくれたんだ」

拓海「そのギターがそれなのか?」

夏樹「いや、姉貴は右利きだから右利き用のギターだったんだ」


拓海「……ギターって利き手で違うのか?」

涼「基本的に利き手で持つ向きが違うから、それに合わせた形で作ってあるよ」

拓海「夏樹は左利きだから右利き用のは使えねぇってことか」

夏樹「使えないってことはないが……まあそうだな」

涼「右利き用ギター使う左利きとかギター弾くときは右手とか、その逆とかいろいろあるしな」

拓海「イマイチはっきりしねーな」

夏樹「決まりなんかなく自由に使えってことだ」

涼「拓海もギターやってみたらどうだ?」

拓海「アタシはいいや。ムカつく奴ぶん殴るのには使えそうだけどな」

夏樹「そういう自由じゃないんだがな……」


涼「それで、右利き用はどうしたんだ?」

夏樹「使わなかった。彼氏さんにレフティギターもらったからな」

涼「……マジ?」

夏樹「彼氏さんが左利きでな、使わないやつだからって」

拓海「すげーなその彼氏」

夏樹「家族でもない小学生にするプレゼントじゃないよな」

涼「まあ……そうだな」

拓海「でもよ、それがきっかけでギター始めたんだろ?」

夏樹「ああ。優しく教えてくれるし、いつも遊んでくれたお兄さんが喜んでくれるってやる気になったよ」

涼「……夏樹の初恋話だったか?」

夏樹「あー…………まあ否定はしない」


涼「なるほど、これがその初恋のギターか……それは大事にするよな」

夏樹「その呼び方は勘弁してくれ……」

涼「それでその彼氏さんとは?」

夏樹「大学進学で東京に行くまでは教わってたかな」

拓海「地元茨城だろ? 会いに行きゃいいじゃねーか」

涼「当時の夏樹はまだ子供じゃないのか?」

拓海「子供でも気合入れれば東京ぐらい行けんだろ」

夏樹「その時のアタシは拓海ほどの根性なかったからな」

涼「じゃあ彼氏さんとはそれっきりってことか」

夏樹「ギター教えてもらったのは、だな」


拓海「どういうことだ?」

夏樹「二人が結婚したからな。今でもよく会うよ」

涼「へえ、めでたいな」

拓海「いい兄貴ができたじゃねーか」

涼「でも夏樹の初恋は終わったと」

夏樹「……憧れみたいなもんだって」

涼「いや悪い。夏樹をからかえるネタが手に入ったと思ったらついな」

夏樹「まあ気持ちはわかる。いつもは拓海とかだもんな」

拓海「あァ!?」


亜季「大和亜季、只今帰還したであります!」

里奈「ありまーっす☆ あっ、なっつおはよー」

亜季「おはようございます!」

夏樹「おう、おはよう二人共。お疲れさん」

亜季「夏樹殿は今日も気合入ってますなー」

夏樹「いや亜季には負けるけどな……」

拓海「Pの奴はどうした?」

里奈「プロデューサーならそろそろ―――」


P「来てるぞ」

涼「お帰り、Pサン」

P「ただいま―――とゆっくりしたいとこだがちょっとしたら出るから全員準備しとけよ」

亜季「了解であります!」

里奈「りょうかーい☆」

拓海「やっとか、待ちくたびれたぜ」

涼「でも退屈じゃなかっただろ?」

拓海「まあな」

里奈「ナニナニ何の話ー?」


夏樹「お疲れ、Pさん」

P「おう夏樹。待たせたか?」

夏樹「いいや。昔話はさせられたけどな」

P「昔話? ……ああ、話したのか」

夏樹「別に隠すことでもないし……彼女の妹にギタープレゼントする話は軽くひかれたけど」

P「……語弊のある言い方してないよな?」

夏樹「誰とは言ってないから大丈夫さ、きっと」

P「まあ別に構わんけどな―――ん? そのギターまだ持ってたのか」

夏樹「……アタシの原点だからな。お守りみたいなもんさ」

P「そうか。良い持ち主の手に渡ってよかった」

夏樹「―――それよりさ」

P「なんだ?」

夏樹「久しぶりにギター教えてほしいな、義兄さん?」


おわり

なつきちに兄さんと呼ばれたい

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