男「平和だなぁ...」 (17)
高校に入って二度目の春、俺は高校二年生となった。
先生「今日は健康診断を行います」
健康診断とかやれるんだからすごい、日本じゃ当たり前のことなんだろうけど、未だに戦争とかしたり食い物がなかったりする国もあるんだから。そんなことを考えてると春の暖かみも合わさって、とっても眠たくなる。
男「平和だなぁ...」
クラスメイト「平和じゃねえよ!俺は今日ゲーセン行く予定だったのによ!去年まで身長測定とかだけだっただろ!」
男「あーなんだか今年から全国の学校とか会社で実施が義務付けられたらしいよ」
クラスメイト「なんてこったよ!」
男「あははドンマイ」
なんて事をしてると、学校が終わる。
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できるなら行間開けてくれ
家に帰ると母さんが出迎えてくれて、弁当箱を出せとか体操服を出せとか言ってくる。
それで部屋に入ると至福の時間、録画しておいたロボットアニメを見るんだ。
ロボットアニメは大好きだ。迫り来る敵、国同士の争いだったり、異星人が攻めてきたり。そしてなによりロボットが格好いい!絶望的な所に登場する主役ロボ、散っていく仲間達、過激さを増していく戦闘、主人公の成長、ドラマチックだ。
見終わると、俺もロボット乗りたいな、なんて思う。
高校生でそれは少し痛々しいか。
晩飯を食って風呂に入り、布団を被る。
これで俺の一日は終わるんだ。
こんな感じで高校出て、大学出て、会社に入って、なんてやって一生が終わるんだろうな、と思うとため息が出る。
そんなことを思いながら、俺は一日を終えた。
>>2 すみません開け忘れました。
夏休み一週間前、どこに行くかとかキャンプするだとか、そんな予定を学校で立てていつもみたいに帰った。
そうするとポストに一枚手紙が入ってた。チラシとか電気代の請求とか、そういうんじゃない、厳重に封をされた封筒。
男「なんだこれ?」
宛先は俺宛だった。
男「差出人は...日本政府!?」
一体日本政府が俺に何の用があるのか、逸る心を抑えつつ、部屋に行って、封を切ってみる。
男「極秘...詳しいことは後で説明がある...とにかく来いってことか」
手紙を読んだだけじゃ何もわからなかった。母さんに話してみたが、あんたなんかしたの?とか言われるだけだった。勿論、心当たりなんかないし俺が国から呼ばれる理由なんて全く予想がつかない。
とりあえず、次の日の学校を休んで、俺は母さんと一緒に呼ばれた場所に向かった。
なんと、首相官邸に呼ばれた。
俺も母さんも何が何だかわからなかった。入り口で名前を言うと、カメラから声がして門が開いた。中へ入ると、スーツの偉そうな人が中を案内してくれた。
俺は少し怖くなった。
案内されるがまま奥へ進むと、大きな扉の前に着いた。開けると、なんとそこにはテレビでなんども見た総理大臣が座っていた。
俺と母さんは絶句した。目の前に日本のトップがいるのだ。首相に椅子にかけろと言われ恐る恐る椅子に座ると、首相が話し始めた。
首相「突然のことで申し訳ありません。本日はとても重要なことで、息子さんを呼びました。詳しいことはここでは話せません、まずはこちらに」
とっても高そうなリムジンに乗せられた。
周りには武装した人達が俺達を囲んで、目の前には首相と屈強な身体のボディーガードのような人が座ってる。
さっきの怖さはいつのまにか無かった、ただ非日常的な感覚に少しわくわくしていた。
数十分すると、とても大きなビルに到着した。
ビルの中に入ると、首相がなにやら受付と話していた。その後、地下に続くエレベーターに乗せられた。
最深部に着くと、俺の求めていた物がそこにあった。
目の前にはロボットがあった。大きい、50mくらいはありそうな巨大ロボットが。
これはもしかしたらもしかするんじゃないかと唾を飲んだ。その予感は的中した。
俺は、操縦者に選ばれたのだ。
この巨大ロボットのパイロットに。
この間の健康診断は、こいつの操縦者を選定するためのものだったらしい。心が踊った。人生で一番嬉しかった。
隣の母はとても不安な顔をしていたけど、その時はまったく気にしなかった。
ロボットアニメだとここで敵がきたりするんだろうけどそんなことは...
警報がなった。慌てる首相やスタッフ達。
こうきたら展開は決まってる、ぶっつけ本番でロボットに乗るやつだ。
こうして俺はロボットに乗る、操縦桿を握ると、嬉しさに震えが止まらなかった。
このロボットは、機体と操縦者が繋がって、俺の考えた通りに動くタイプのロボットだった。
見たことあるぞ!色んなアニメで出てくる奴だ!
その場で簡単な説明を受けて、いきなりですまないが頼む、君しかいないとおきまりの台詞を言われた。
敵の説明はなかったけど、そんなことどうでもいい、早くこのロボットを動かしてみたい気持ちでいっぱいだった。
どうやら地下を通って地上に出るらしい。
これも見たことあるぞ!
よし、出撃する!なんて頭の中で再生しながら、
俺とロボットは地上に出た。
地上に出てみると、少し先に敵がいた。
ロボットとかそういうのかと思ったが、違ってた。
このロボットと同じくらいの大きさの、ドロドロした虫のような形の奴だった。
俺がロボットに乗れて喜んでるなか、地上の人達はパニックになっていた。
急に頭が冷めた。
けど、戦わなきゃならない。俺しかいない。
とりあえず、どうにかしなきゃいけない。
手についたマシンガンのようなものを撃つ。
何発か命中したけど、ビクともしなかった。
敵はこっちに向けて尻尾のようなものを叩きつけてきた。俺とロボットはそれに直撃し、吹っ飛ばされた。
腹部に凄まじい痛みが走る。意識が飛びそうになり鼻水や唾液、胃の中のものが出てくる。
ロボットアニメでよくある痛みのフィードバックってやつだと思うが、本当に物凄い痛みだった。
意識がはっきりしてくると、街が見えた。
下を見ると、赤くなっている道路が見える。
見てはいけないと思いながらもカメラを拡大させると、千切れた人の手がや潰れた人達が見えた。
血の気が引いた。通信で何か言っているのが聞こえるが、全く耳に入ってこない。体が恐怖で動かなくてくても、敵はこっちに向かってくる。
アニメのように新武装が出てくるわけでもない、何も起こらない。でもどうにかしないともっと人が死ぬことだけはわかってる。
何も考えられなかった、とにかく敵に向かっていって殴り続けた。手に気持ちの悪い感触がしてもひたすら殴り続けた。
すると敵は止まった。なんとかなった。
さっき飛ばされた時にぶつかった建物が見える。
俺とロボットがぶつかったせいで、建物は全壊している。
きっと、いや確実に中の人達は死んでしまった。
目の前が真っ暗になった。
帰ると母さんは泣いていた。
俺は泣く気力もなく、その場に倒れた。
夏休みに入った。
もちろん俺の夏休みはなかった。
ロボットの訓練で毎日の予定が埋まっていた。
友達と祭りに行く約束も、キャンプに行く予定も全てキャンセルだ。
その間にも敵は来た。他の国の生物兵器らしいという説明を受けた。俺は来る敵を全員倒した。
連続してくるときもあるし、長く期間が開くときもある。
期間が開けば開くほど、パワーアップした次世代型が来るのではないかと、怖くなった。
奴らと戦う中で俺はロボットの操縦がどんどん上手くなっていくが、その度に東京から人が消えた。
まだ大量生産できないのか、東京以外が襲われることはなく、東京から俺とロボットを整備する人達、一部の政治家達以外はみんな離れていった。
俺がロボットに乗ってから数ヶ月後、敵が複数で攻めてくるようになった。
それに合わせて、ロボットの二番機が開発された。
もちろん、二番機のパイロットも補充されてきた。
気の弱そうなおじさんだった。
なんでも企業でサラリーマンをしていた所、ロボットの適正があることが判明して選ばれたらしい。
奥さんと、これから小学校に上がる娘がいるらしい。
すごく不安がっていたが、家族に破格の給料が払われることと、同じ恐怖を分かち合う俺がいることで平静を保っていたように見えた。
俺も仲間ができることは嬉しかった。敵も複数展開をしてきたので、戦力的に優位になるのもあるが、なにより同じ恐怖を分かち合う人がいる安心は俺も同じだった。
おじさんの五回目の訓練中に敵が来た。
その時、恐れていたことが起こった。
敵が空を飛んでいた。
長く時期を空けていたからもしかしたらと思ったが、敵の進化が始まった。
その分、おじさんの訓練が長くできたのは良かったが、地上の敵も相手にしたことがないおじさんには無理な話だった。
男「大丈夫ですか?」
おじさん「大丈夫、君がついていてくれるからね」
それが最後の会話だった。
おじさんが餌食になってる間に、俺は敵を倒した。
涙は出なかった。それ以上に最初に狙われてたのがおじさんじゃなくて俺だったら、と思うと怖くて震えた。
おじさんの死に悲しむ人はいなかった、みんな俺と同じ理由だろう。
俺はもう、ロボットアニメへの憧れなんてものは無かった。
敵が空を飛び始めたことで、ロボットも飛べるように改造された。
飛行訓練を行ったけど、飛ぶという感覚がなかなか掴めず難しかった。
帰還するとメカニックの人がおじさんの悪口を言っていた。
貴重な機体を無駄にしやがって、という風に。
男「っ...!お前今なんて言った!」
俺はそいつを殴った。おじさんはお前らのために死んだんだぞ、と言ってやりたかったが、その前にほかのメカニックに止められた。
メカニック「こいつ!パイロットだからって調子に乗るんじゃねえぞ!お前が出撃できんのは俺たちのおかげなんだぞ!」
だったらお前らを守ってるのは俺だ、そう思ったが言わなかった。みんな、いつ訪れるともわからない死の恐怖に怯えてる。そう思いながらメカニック数人にリンチにされて、その日は身体中が痛かった。
翌日、新たな機体とパイロットが補充された。
俺の一番機を含め、五番機までが開発された。
補充パイロットは性別も境遇も様々だった。
この人達も俺と同じ苦しみを味わうと思うと心が痛かったが、また仲間ができた嬉しさもあった。
男「えっ?」
JK「知らないんですか?男さん、英雄扱いされてますよ!」
補充パイロットで来た女子高生から聞いた話だと、俺は全国で英雄化されてるらしい。なんでもテレビでそう報じているのだという。ここでは通信を傍受されたり作戦が漏れないよう、テレビやラジオなどが禁止されていた。もちろん、家族や友達との連絡も。
恐らく第二次大戦時の日本のように、希望を持てるようにそう放送してるのだと思うが、それでも少し嬉しく、がんばった甲斐があったと思えた。
また、今のところ他の所は襲撃にあってないらしい。
おっさん「君はすごいな、一人でここを守ったのか」
メガネ「選ばれた時はすごく落ち込んだけど、君を見てると頑張ろうと思えるよ」
男子中学生「すごいよお兄さん!」
すごく嬉しかった。
その言葉通りみんな訓練も熱心に受け、くじけることなく戦っていた。中学生なんかは、本当に戦えるのかと思っていたが、やはり五人で戦えるというのは強かった。
死人が出ることもなく、それぞれが実力をつけていった。
操縦者達が団結してきたころ、男子中学生が死んだ。
体が幼かったからか、体の痛みに耐えきれず内臓が内出血を起こした。
また、女子高生は毎日機体の修理に追われる男達のストレスの吐け口となり、自殺した。
俺達は三人に減ってしまった。
その日の夜、俺は上層部に呼ばれ、俺以外の機体に自爆装置をつける、そのスイッチを俺に託すと言われた。もしもの時は敵ごと巻き添えにしろその方がパイロットと本望だと。
そして、俺は精神的にも操縦の腕も認められ、ロボットアニメで夢見た「エースパイロット」というものになった。
宿舎に戻るとおっさんとメガネが悲しい顔をしていた。
そんな彼らを、俺がスイッチ一つで殺せることも知らずに。
そして俺はついに、みんなと一緒に高校を卒業することはできなかった。
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