菊地真「ボクが髪を切った理由(ワケ)」 (33)


 結局のところ、幾つになってもボクはボクのまま。

 小さな頃からの憧れや感じ方というヤツは、例えこの体が大きくなって、
 心も成長したと思っていても、忘れず、根っこの方には残っているものなんだ……なーんて。

 目の前の大きな鏡に映る自分の姿。
 同窓会や街角で、昔の親友とバッタリ再会したかのような錯覚。


「へへっ……久しぶり」


 幸いにも思わず呟いたこの一言は、
 床を掃除し始めていた店員さんには聞こえなかったようだった。

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 関連性は薄いもののこのお話は、過去作である 高槻やよい「思い出はもやしと共に」と設定を共有しています。
 それと同時に、気をつけてはいるものの細かい点で公式のキャラ付けとは設定の齟齬が生じてるかも。
 (前回の亜美の身長に関する描写とか。本当に申し訳ない)

 何か妙な点を見つけた場合は、指摘していただけると助かります。


 入店前と比べて、随分と軽くなった頭。
 あの頃とほぼ同じぐらいの長さになった髪。

 懐かしさと同時に思い出したのは、小さな頃の父との会話。


『ねぇ、父さん。どうしてボクは他の子みたいに、髪を伸ばしちゃいけないの?』


 小学校に上がった頃だったかな。
 それまでは父に言われるまま、少し伸びては髪を切り、また少し伸びては髪を切り。

 当時のボクは、そうすることが当然だと思っていたし、
 頻繁に髪を切ることに対して、特に反対する理由も持ってはいなかった。



 むしろ周りが髪を伸ばした子ばかりの中、自分だけが髪を短く切っていることに、
 ちょっとした優越感、自分は特別なんだって思いを持っていた時期もあったほど。


 ……だけどまぁ、そんな考えは大きくなっていくにつれ、
 すぐに「これは違う」と蓋をして、心の奥にしまい込んでしまってたんだけど……ね。

 ――そう。ボクの中に芽生えた、あの気持ちに気がつく時までは。


 数時間ぶりに出た外の空気は、
 夏も終わろうって言うのにまだまだ暑くて。

 さっきまでは冷房の効いた店内にいたからこそ、
 この急激な気温の変化は堪えるものがあるのもまた事実。


 それでもボクは、そんな夏の日差しを遮るように片手を上げて空を見上げると、
「フッ」と一息、暑さに負けそうな心に活を入れて。


「……だけどやっぱり、暑いものは暑いんだよね」


 左手に巻いた腕時計で、時間を確認。
 早くも額に汗をかきながら、目的地目指して歩き出したんだ。

===

「あらー……こりゃまた、随分と見違えちゃって」

「そーなんだよ律子。菊地真、とーとーバッサリ、やっちゃいました!」


 事務所にやって来たボクを出迎えた律子が、
 おやおやと言った様子で眼鏡のズレを直す仕草をとる。

 そんな彼女に、ボクは新しい髪型を見せつけるよう、その場でくるりとターンを決めて。


「おっ! 流石は元ダンサーアイドル。動きのキレは、現役時代と変わらないんじゃない?」

「へへ、まぁね。これでも日課のランニングは続けてるし、昔取ったきねづかってヤツだよ」

「なら、ライブのバックダンサーに欠員が出た時は、出演の依頼をしちゃおうかしら」

「やーだよ。どうせ昔のよしみだなんだって、タダ働きさせるつもりだろ」


 考えてることなんてお見通し、って態度でボクがそう言うと、
 律子の方も「あちゃ、バレてたか」なんて悪びれも無く舌を出して笑う。

 ……まったく、昔からそういうところはしっかりしてると言うか、ちゃっかりしてると言うか。


「それで、何があったのよ」

「何がって、何さ」


 いつまでたっても変わらない、当時と同じ場所に置かれた談話用のイスに座ったボクに、
 冷蔵庫から取り出して来た冷たい缶コーヒーを差し出しながら律子が言った。


「決まってるでしょ。アンタが急に髪を切った、その理由を聞いてるの」

「別に……大した理由はないんだよ」

「なら、隠す必要だってないじゃない。ほらほら、さっさとズバリ、言っちゃいなさいよ。
 腰まであった髪をバッサリ切った、大したことないその理由!」


 そうしてニヤニヤとした笑顔でボクの返事を待つ律子が面白くって、
 ボクもついつい大げさなため息をついてから、いかにも深刻な話をしますって態度をとると、

「はぁー……参ったなぁ」

「だから、何が参ったのよ」

「それはその、月日の流れは残酷だなぁって」


 ボクはテーブルの上に組んだ両手に顎を乗せ、
 ワザと律子から視線を逸らして話を続ける。


「当時は鬼軍曹だなんだって、
 皆から恐れられてた律子がさ、今じゃすっかり丸くなっちゃって」

「……そうかしら?」

「そうだよ。今だってほら、噂話好きなおばちゃんみたいな顔してる」


 すると律子が、「おばっ……!」とかなんとか口ごもり、
 その顔がショックを受けたように引きつったかと思えば、

「おばちゃんって……失礼ね! 私はまだ、そんな歳じゃありません!」

「あれ? そうだっけ」

「そうよ! まだまだギリギリ、二十代最後の一年を、全力で楽しんでる真っ最中っ!」


 だけど、そこで違和感。


「でもさ、ボクが今日で二十八になるんだよ? 確か律子の誕生日って……」

「それでも今年一杯の間は、心は二十代のままなのよ! 
 いいじゃないのそのぐらいの些細な誤差は! 見逃しなさいよっ!」


 どうやら今のボクの台詞は、彼女の中にある「何か」のスイッチを押してしまったようだった。

 必死になって言い訳を並べる律子の迫力に圧倒されてしまい、
 どういうワケだか最終的には、自分の失言を認めて謝ることになったボクがいて。


「この度は不用意な発言から律子サンを傷つけてしまい、
 本当に申し訳ございませんでした!」

「……うむ、よろしい」


 座ったまま、ぺこりと頭を下げるボクに、
 上から目線で律子から、お許しの言葉がかけられる。


「とりあえずさっきの件はその真の謝罪と、
 今度のライブで使う衣装代を割引してもらうことで水に流すことにするわ」

「はぁっ!?」

「な、何よ! 急に大きな声なんて出しちゃって」


 しれっとした顔でそう言うと、
 律子はボクの方を向いて、不思議そうに小首を傾げる。


「ちょ、ちょっと待って! 何、今度のライブの衣装代って……!」

「だーかーらー、今度のライブの衣装、真のところに頼んでるヤツがあるじゃない? 
 見積もりは出して貰ったけど、アレ、もう少しだけどうにかならないかなーって」

「なるわけないだろっ! アレでもコストを抑えるために、随分と頑張った方なんだよ!?」

「そこを何とか! ね? お願いします真さま!」


「拝んだって無理な物は無理! 大体ね、毎回毎回、
 ボクがどれだけの想いで衣装を用意してると思って――」

「何よ、ケチ臭いわねぇ。やよいのとこのお嬢ちゃんには、気前よく新作渡してるくせにー」

「あれはあの子の誕生日プレゼントだっただろ! 大体三十の大台に乗った大人が、
 七歳の子と張り合おうとするんじゃないっ!」

「だからまだ、私はギリギリ二十代だって言ってるでしょーがっ!」


 ――閑話休題。

 それから数十分にも及んだ言い争いは、
 双方が同時に力尽きる、ダブルノックアウトの形でその幕を閉じた。

 テーブルの上に突っ伏して、
 ぜぇぜぇと息を切らすボクと律子。

 まだまだ若いハズなのに、こんなどうでもいいようなことを通して、
 昔に比べて明らかに体力が落ちてきていることを実感する。


「と、とにかく……私はまだ、心は二十代のままだから……!」

「こ、こっちなんか、現役バリバリ、紛れもない二十代だぞ……!」

「何よ……!」

「何だよ……!」


 そうして突っ伏したままの状態で、しばらくの間にらみ合うボクたち。
 だけどそのうち、どちらからともなく笑い出すと、

「あー、もう、終わり終わり。止めましょ、こんな話」

「……だね。こんな恰好でどっちが若いか張り合ったって、しまらないよ」


 ひとしきり笑い合った後、
 そう言って二人同時にため息をつく。


「……ねー、真」

「……何さ」

「……どうして、髪切っちゃったの。
 ようやくお姫さまみたいになれたって、前にアンタ、喜んでたじゃない」


 ぽつりぽつりと呟くように聞いて来た、
 目を合わせた律子の顔は、それまでとは打って変わって真剣で。


「何か、悩み事があるなら相談しなさい。大した力にはなれないかもしれないけど、
 私とアンタは、同じ苦楽を共にしてきた仲間なんだから」

「律子……」

「……水臭い真似は、今さらナシよ」


 そう言って律子が、口の端を持ち上げてクールに笑う。
 ……まったく、バテバテなくせして、ちょっと恰好良いじゃないか。


「……ホントに、大した理由じゃないんだよ。
 ただ、満足しちゃったと言うか、なんていうか」

「満足って、何に?」

「それが、自分でもイマイチはっきりしないんだ。
 気づいたら、あぁ、切ろうって気持ちが固まってて」

「……何よソレ、全然意味が分かんないんですけどー」


 曖昧なボクの言葉に、不満そうに口を尖らせる律子。
 ボクはそんな彼女の顔を見て、くすくすと笑うと、

「実はさ、失恋したんだよね」

 努めて平然に、サラッと言葉を口に乗せる。
 だけど律子は、ボクが自然に流そうとしたその台詞をスルーしたりはしなかった。


「……失恋っ!? いつ! っていうか、アンタ誰かと付き合ってたのっ!?」

「ちょっ、律子お、落ち着いて!」

「落ち着いてるわよ! 冷静よっ! だからサッサと説明するっ!」


 勢いよく両手をテーブルについて、
 飛び上がるように上体を起こした律子が、そう言ってボクのことを捲し立てる。


「いや、その、失恋って言っても、
 今の話じゃないんだよ。結構、昔のことで」

「昔のこと?」

「う、うん。そう、昔のこと。
 ……まだボクが、事務所にいた頃の話だよ」


 ボクもテーブルの上から起き上がると、
 突っ伏した時にズレちゃった椅子の位置を元に戻しながら答える。


「実はボク、アイドルやってる時はワザと髪を伸ばさないでいたんだけど。
 ……律子は、気づいてた?」

「そう言えば、そうね。てっきり私は、真のプロデュース方針が
 ボーイッシュを売りにしてたから、それで短くしてるんだと思ってたんだけど」


「それが、違うんだなぁ。現役時代も、何度かプロデューサーには聞かれたんだ。
 そろそろ、髪を伸ばしてみるかって」

「へぇ、初耳ね」

「まぁ、このことは誰にも言ってなかったし。
 ほら、あの頃のボクってさ、事あるごとに『女の子らしくなりたい』って言ってたじゃないか」

「ああ! あったあった! フリフリの付いた、可愛い服着て
 ……『まっこまっこりーん』、でしょ?」


 突然、思いもよらない場所から、ポーズ付きで掘り返されたボクの黒歴史。
 恥ずかしさで耳が赤くなるのを感じながら、ボクは律子に言い返す。

「さ、流石は律子。今からでも、現役復帰できるんじゃない?」

「……茶化さないでよ。今、スッゴク後悔してるんだから」


 すると再現した本人も恥ずかしかったのか、
 律子の方もうつむいて、プルプルと肩を震わせていた。


「――とにかくさ、そんなことばかりボクが言ってたもんだから
 、随分とプロデューサーも気にしちゃって」

「……それで、髪を伸ばしてみるかって話になったわけ?」

「そう。今からでも、「お姫さま」に方向転換して行くか……ってね」


 けれども、その後もボクはプロデューサーの提案を断り続けた。
 そりゃあ確かに、「女の子らしさ」に魅力を感じなかったって言うと嘘になる。


「だけど髪を伸ばさないことで感じられる、
「女の子らしさ」もあるってことに、その頃は気がついた後だったから。
 それからはボクの方からも、なるべくプロデューサーにそう言う話は振らないようにしてたんだ」


 ボクの言葉に、律子が少しだけ考え込むような顔になる。
 だけどすぐ、やれやれと言った風に肩をすくめると、

「……なるほど、そういうこと」

「あ、やっぱり律子には分かっちゃう?」

「当たり前でしょ? こっちはね、女の子をプロデュースするプロなんですから。
 真の言う「女の子らしさ」とやらには、それなりに詳しいつもりよ」


 そうして律子は眼鏡の端を軽く押し上げてから、
 名探偵のように右手の人差し指をピンと立てる。


「ズバリ、思春期真っ盛りな真が感じてた「女の子らしさ」とは、
 好きな相手との共通点を維持すること。
 要は、プロデューサー殿との間に、自分なりの秘密の接点を見つけたワケだ」

「へへ、当ったり。……とは言っても、
 こう面と向かって指摘されると、流石にちょっと恥ずかしいかな」


 ……そう、律子の言う通り。

 当時のボクは、ようやく自分の中に芽生え始めた、恋心を理解しだした年頃で。

 何となく、ボクはプロデューサーのことを好きなのかもしれないと思ったあの頃。
 気づいた時には、ボクは自分とあの人との間に共通する項目を探す日々を送ってた。


 それが、時に二人の髪の長さであったり、時に食事の好みであったり。
 ボーイッシュだと言われることも、その頃になると逆に嬉しくて。

 だってそうでしょ? 

 他の「女の子らしい」事務所のメンバーよりも、「男っぽいから」ということを理由にして、
 ボクはプロデューサーに対してサバサバと、砕けた接し方だって違和感を感じさせずにできちゃうんだから。


 ……まぁ、中には例外もいたけどさ。

 元からサバサバしてた響とか、
 ガツガツアプローチしていく美希とかね。


「……でも結局、ボクとプロデューサーの仲はそれ以上先には進まなかった」

「まぁ、思わぬ伏兵が潜んでたものね」

「もうね、驚いたのなんのって。ある日突然、やよいから相談があるんですなんて言われてさ。
 軽い気持ちで聞いてみたら、プロデューサーと付き合うことになったって」

「あー……思い出しただけでゲンナリするわ。あの時は本当、事務所中がひっくり返したような大騒ぎだったもの。
 ……その後始末をするために、私がどれだけ頭を悩ませたことか」


「はは……その節は、ホントにご苦労様でした」

「だったら、ちょっとばかり頭が高いんじゃあないの? 
 もう少し、下から人の苦労を労いなさい」


 二人顔を見合わせて、おどけたように笑い合う。
 だけどすぐに律子が、そのニコニコとした笑顔だけは崩さずに口を開いて。


「でも、それって真が髪を伸ばし始めた理由でしょ? 確か、あの一件から」

「ん、あの一件から伸ばし始めたね」

「だけど私がさっきから聞いてるのは、アンタが髪を切った理由なんですけど。
 私に話さなきゃならない話が、違うんじゃない?」


「……あちゃ、バレてた?」

「当たり前でしょ! 何年アンタと付き合ってると思ってるのよ!」

「だってだって! 絶対話すと怒るもん! 
 怒られるのが分かってて、話す子なんていないもんっ!」

「唐突にぶりっ子ぶっても無駄無駄無駄! ほら吐け! 大人しく吐きなさい!」


 言うが早いか、身を乗り出した律子がボクの両肩を掴み、そのまま前後にシェイクする。

 ガクガクと揺れる視界、迫りくる嘔吐の気配。
 たまらずボクは、降参の意思を伝えるために、バンバンとテーブルの上を叩く。


「と、止めて止めて! 言う、言うから! 
 このままじゃ別のものを吐いちゃうよ!」


 ボクの必死の呼びかけに、律子の手が止まる。


「なら、いい加減キチンと教えてもらおうじゃない。アンタがどうして、髪を切ったのか!」

「うぅ……わ、分かったから。でも、ボクの話を聞いた後で理不尽に怒ったりしないでよ」

「……それは、話の内容次第だわ」


 その時のボクは、まるで閻魔大王に自分の罪状を述べる罪人のような気分。
 いや、別に悪いことなんてしちゃいないんだけど。


「……これはさ、ケジメなんだ」

「ケジメ?」

「うん。例の一件以来、ボクが髪を伸ばし始めたのは、
 プロデューサーとの共通点にこだわらなくなったから。
 だから、進学と同時にアイドル以外の道にも目を向けるようになって」

「それで真は、デザイナーになった」

「そうだよ。結局、ボクは自分の中の「女の子らしさ」を捨てきれないままだったんだ。
 フリフリの付いた服も、可愛らしい小道具も全部。言っちゃえば、少女趣味の延長だよ」


「女だって、いくつになっても少女のまま……ってわけだ」

「別に、そんなんじゃ……ただ、今思えばああして髪を伸ばしてたのも、
 一種の当てつけだったんだなって思ってさ」

「当てつけ?」

「そう。プロデューサーへの、当てつけ。
 ……髪を伸ばし続けてる間は、昔の恋に縋ってられるでしょ」


 ボクはそこまで言い終わると、喋ったことによる喉の渇きを癒そうとして、
 テーブルの上に置いたままだった缶コーヒーへと手を伸ばした。

 だけど、すんでのところでコーヒーは律子によって奪われて。


「ちょっと、それ、ボクの分のコーヒーなんだけど」

「……ねぇ真」

「何だよ、律子」

「一つ確認したいんだけど、昔の恋に縋ってるって言ったわよね?」

「……ああ、言ったよ」

「髪を伸ばしてる間は?」

「そう、髪を伸ばしてる間はね」


 ギロリ、そう表現するのが適切だろう視線が、
 律子からボクめがけて向けられる。


「それってアンタが髪を切ったのは、
 新しい恋を見つけたからってことじゃないのっ!?」


「…………てへっ♪」


「『てへっ♪』、じゃっなーいっ!! いつから!? 相手はっ!? 
 どうしてそんな一大事、私に教えに来ないのよ!」


「だ、だってだって! 言ったら絶対怒るじゃん! 
 小鳥さんやあずささんまで引き連れて、絶対根掘り葉掘り聞きに来るじゃない!」

「当たり前でしょ! こちとら仕事が恋人ってぐらいに忙しくって、
 浮いた話の一つもありゃしないってのに!」


「けどそれは、ボクのせいじゃあないよねっ!? 
 大体、苦楽を共にした仲間だって言うなら、
 仲間の旅立ちぐらい笑って送り出すのが礼儀ってもんでしょ!」

「う・る・さーいっ!! それはそれ、これはこれ! 
 頭が許しても心が許さない問題だってあるの!」

「何だよその無茶苦茶な理屈! だから言うのが嫌だったんだっ!」

「何が言うのは嫌だったよ! だったらこれ見よがしに髪なんて切らなきゃいいじゃない! 
 どうせ今日の飲み会で、それとなく私たちに自慢するつもりだったんでしょ!」


「……てへぺろ♪」

「だーかーらっ! 『てへぺろ♪』でもなーいーっ!!」

===

 ――失恋したら、髪を切る。

 少女漫画やドラマなんかで知ったその行動は、
 ある意味、ボクの中では究極の「女の子らしさ」の象徴だった。

 周りの皆がしているような、長い髪に憧れて。
 だけどあの人のことを想えば想うほど、髪を伸ばすことなんて出来なくて。

 どちらも両立できないジレンマを感じていた日々に、突然やって来た失恋。


 ……だけどボクには、過去をバッサリと断ち切れるほどの、長い髪なんて何処にもなくて。


 再び始まった律子との言い争い。

 またまた両者は相打ちになり、息も絶え絶え、
 テーブルの上に突っ伏してたボクに、懐かしい声がかけられる。

「真! 随分とまぁ見違えて……いや、懐かしい髪型になってるじゃないか」

 疲れた体で顔だけを声の方に向けると、
 そこにはすっかりいいオジサンになってしまったプロデューサーが立っていた。


「……プロデューサー殿、帰ってたんですか」

「ああ、さっきな。……それで真はどうして事務所に? 
 律子と、衣装についての打ち合わせかい?」

「そのハズ、だったんですけどね。ついつい昔話に花が咲いちゃって」

「……みたいだな。二人の様子で察しがつくよ」


 今だって、あの頃のことは思い出せるし、
 その度にきゅんと切ない気持ちにもなるけれど。

「それにしても、随分と思い切ったな。あれだけ伸ばしてた髪を……」

「ああ、いーんですよ。コレで」

 それでも、後悔なんてしていない。

「そうだ、プロデューサー殿も聞いてくださいよ。真ったら、失恋したらしいですよ」

「何っ、失恋した!?」


「はい、そうなんですよプロデューサー。
 だけど今は、新しい恋に向かってまい進中なんです!」

「えぇ? 失恋したのに恋って……は、早くないか? サイクルが」

「だからいーんですよ、コレで。
 前の恋は、とっくに終わったものでしたから」


 今日この日、ボクはようやく長年の恋に区切りをつけることができた。
 まさに失恋した女性が、気持ちを切り替えるためにするように、だ。

 ……そしてあの頃のように短くなった髪型には、もう一つの願いも込めてある。

 今度は、悲しい理由でこの髪を切らなくってもいいように、
 そして次に髪が伸びた時には、幸せな未来を迎えられていますように……なんて。


「良かったら、プロデューサーも応援してくださいねっ!
 これからはボク、前を向きに、幸せ目指して一直線です!」

 真、誕生日おめでとう!……と、いうわけで、これでこのお話はおしまいです。
 
 誕生日だけど何書こう→真が髪を切るとこから始めよう→髪が伸びてるってことは未来の話?
 過去作から設定引っ張ってこよう→勢いで書ききる→今に至る。

 真のねぇ、分かりやすい形では表に出ない、
 恋する乙女みたいなところが書きたかったんですが、どうだったでしょうか?
 ちょっとでもそう言うところが伝わったなら幸いです。

 それでは最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

訂正>>24
× だけど、すんでのところでコーヒーは律子によって奪われて。
○ だけど、手に取ろうとした寸前で、コーヒーは律子によって奪われて
>>29
× これからはボク、前を向きに、幸せ目指して一直線です!」
○ これからはボク、前向きに、幸せ目指して一直線です!」

乙です

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