朝
理樹部屋
恭介(部屋に入ると、理樹は制服に着替えている最中だった)
理樹「あれ。どうしたの恭介?」
恭介「真人にハンドグリップを持ってくるよう頼まれたのさ。せめて腕だけでも鍛えたいらしい」
理樹「えっ、今から行くの?」
恭介「ああ。今日は休みなんだ」
恭介(本当は嘘だった。今日はただサボりたかっただけで、これから真人のお見舞いがてら映画を観に行くつもりだ。この計画を話すには理樹は少し真面目過ぎる)
理樹「そっか、それじゃあ真人によろしく言っておいてよ」
恭介(理樹は、鏡に映った男の身だしなみをチェックしながら言った)
恭介「分かった」
理樹「それじゃあ僕はもう出るよ。土曜日、また一緒に行こうね」
バタン…
恭介(そう言うと理樹は食堂に向かって行った。もしも昨日、男子寮の階段全段飛びなんて挑戦しなければそこに真人も付いていったんだろうが、お陰様で奴は病院の飯を食うハメになっていた。今頃、カツ丼を恋しがっているに違いない)
恭介「さて……」
恭介(今、部屋には俺の他に誰もいない。当分帰ってくることもないだろう。という事は少しくらい部屋を漁ってもバレたりはしないという訳だ)
恭介「ふっ、少し拝見させてもらうぜ☆」
恭介(あいつらの兄貴分である以上、色々と知っておくべき事がある。趣味趣向なんかがそうだ)
恭介「さあて、まずは理樹のベッドでも確かめさせてもらうかな!」
恭介(理樹はああ見えてませているからな。案外とんでもないモノが見つかるかもしれない。あまり知られてはいないが、この学校から支給されたベッドには、マットレスの下に物入れが付いている。隠しものをするにはおあつらえ向きだ)
恭介「……っしょと」
恭介(マットレスを引っぺがし、蓋を開けた)
恭介「さあ理樹は何フェチ…………だ?」
恭介(そこには写真があった。あらゆる角度から”ソレ”が写っていた。どれも鮮明で、一目見ただけで何が目的なのか分かる程だった。これもフェチの一種なのだろうか?もしそうだとするならば、もし、それに名前をつけるならば、理樹はまさしく”鈴フェチ”だった)
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恭介「な、な、な………」
恭介「なんじゃこりゃぁぁあああーーーーーっっ!!!」
恭介(体操服姿の鈴、庭で猫と戯れている鈴、いつ撮ったのか授業を受けている最中の鈴。とにかく色んな鈴が無造作に置かれてあった)
恭介「あ、慌てるな。これよりヤバいことは過去にも………いや、無いか。とりあえず落ち着こう」
恭介(口ではそう言ったが、とても冷静にはなれなかった。何故こんなにも鈴の写真がある?そして何故それがこんな所にあるんだ……)
……………………………………………
昼
裏庭
恭介「…………………………」
恭介(結局、真人の見舞いから帰ってきても答えは出なかった。ずっと頭から離れなかったんで真人も雑な見舞いだと思ったに違いない。もはや映画なんて見ている場合じゃなかった)
恭介(大量の鈴の写真……ストーカーが集めているならまだ分かる。だがその持ち主は彼氏の理樹だぞ?いったい何の意味がある)
「お、恭介か」
恭介(そのままベンチで悩んでいると後ろから声がした)
恭介「謙吾か……」
謙吾「どうした。珍しく元気がないな……」
恭介(ちょうどいい。ここは謙吾にも相談に乗ってもらおう。この問題はとてもじゃないが俺の手にはあまりまくる)
恭介「聞いてくれ謙吾。理樹がおかしい」
…………………………………………………
…………………………
…
恭介(謙吾に、前後はボヤかして理樹のベッドの中身について話した。話に茶々を入れず、ただ黙って聞いていた謙吾は、少し間を置いてから口を開いた)
謙吾「…………恭介。それはもしかすると危険の前兆かもしれないぞ」
恭介「危険の……前兆……?」
謙吾「ああ」
恭介(謙吾の表情からして冗談を言っている様子は一切なかった)
謙吾「理樹の、鈴に対する愛が重すぎるのかもしれない」
恭介「どういう事だ」
謙吾「要するに鈴を病的に愛してしまっているということだ。例えば、独占欲が強過ぎて束縛してしまったり、好きすぎて相手が浮気をすれば、報復としてその浮気相手や本人を傷付けたりしてしまうかもしれない」
恭介「束縛………?」
~~~~~~~~~~~~~~~~
鈴『理樹………今日も外に出ちゃダメなのか?』
理樹『当たり前じゃないか……外には鈴を狙う悪い奴らがいっぱいなんだよ。鈴には僕がいれば充分さ』
鈴『う、うん………』
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恭介(その様子を想像して少しゾクッとした)
恭介「だ、だが鈴は浮気なんてしない!」
謙吾「本人にそんな気がなくても理樹がそう勘違いしてしまうかもしれない。なにせ、そういう類の人間は、相手が別の異性と歩いているだけで敵とみなしてしまう程なんだからな」
恭介「な、なんだと……」
~~~~~~~~~~~~~~~~
理樹『ねえ鈴。言ったよね?僕以外の人と喋るなって』
鈴『で、でも相手は魚屋の……』
理樹『怖いんだね、怒られるのが……だったら喋らなかったらいいんだよ!』
鈴『ううっ………!』
~~~~~~~~~~~~~~~~
恭介「うっ、何故かなんとなく想像出来る!」
謙吾「他にもDVが起こったり色んな可能性がある……あくまで可能性だがな」
恭介「謙吾、教えてくれ…俺はこれからあと何度悩めばいい。あと何回理樹と鈴の事で悩めばいいんだ……上手く付き合ったと思ったら今度はこれだ!」
謙吾「心配するな。まだそういう事が起きていないということは事前に防ぐことが出来るかもしれないという事だ」
恭介「なんだと?」
謙吾「なに、簡単な事だ。ただお前が理樹に正しい男女の在り方というものを伝えればいい。鉄は熱いうちに叩け。今ならまだ間に合う」
恭介「なるほど……」
謙吾(理樹は、まだ初めての恋に加減が分からないだけだ。逆にそこを突けば軌道修正はまだ不可能な訳じゃないということか。しかし、せっかくのこの謙吾の案もそう簡単な事ではない。何故ならば、俺がやったのは令状なしの家宅捜査に近いことだからだ)
恭介「分かった。だが少し考えさせてくれ」
謙吾「ああ。あとはお前に任せる。しっかりな」
恭介(ええい、しっかりしろ棗恭介。お前の妹と親友が不幸になってもいいのか。何か、何か良い手を考えろ!)
夜
食堂
恭介「………………」
恭介(夕食が始まり、改めて理樹の様子を調べてみた。しかし、これまでと変わった様子はない。鈴とは隣に座っているが……?)
理樹「うっ…………」
鈴「どうした理樹?」
理樹「いや、なんか恭介がずっとこっちを睨んでくるんだけど……なんか僕やったっけ…」
恭介「ハッ……!」
恭介(理樹が鈴に耳打ちをした!まさかこれは……)
~~~~~~~~~~~~~~~~
理樹『鈴、食べ終わったら僕の部屋に来てね』
鈴『ま、またか……?』
理樹『うん。今日の反省会だよ。確か鈴は今日男の人と7回喋ったよね?だから罰として7回お尻ぺんぺんだよ』
鈴『ひぅ…………』
~~~~~~~~~~~~~~~~
恭介(俺はいてもたってもいられず、全員が食事しているなかで思わず声を上げた)
恭介「理樹!」
理樹「う、うわぁ!?な、なにっ……?」
葉留佳「ややっ、いったいなんだぁ!?」
クド「わ、わふー!?」
恭介「………今日はお前の部屋に泊まらせてもらう。急に俺の部屋がくさやの匂いでいっぱいになったんだ。消臭は明日までかかる……いいな?」
理樹「えっ?あ……うん。別にいいけど……」
恭介(つい叫んでしまったが、あとのことを考えていなかったので雑な言い訳となってしまった。しかしこれで鈴の尻は護られた。だがこれはあくまでその場しのぎでしかない。早く手を打たなければ……)
鈴「なんだこいつ。急に叫んだりきしょいな」
理樹「こらこら」
来ヶ谷「そういえば真人少年のベッドが空いてたんだったな。この次は私が使っても?」
理樹「よろしくないよ!」
来ヶ谷「はっはっはっ。それはそうだな。先客がいたか」
恭介(と言って来ヶ谷は鈴の方を見た)
理樹「いやいやいや!なんで鈴の方を見るのさ!」
来ヶ谷「違うのか?」
理樹「鈴はたまに猫と遊びに来るぐらいだよ…」
恭介「猫と……遊びに……!?」
恭介(猫と来る→にゃんにゃん(猫)と来る→にゃんにゃんしに来る→…………)
~~~~~~~~~~~~~~~~
鈴『理樹……来たぞ』
理樹『ふふふ…今日もにゃんにゃんしようね』
鈴『恥ずい……』
理樹『なに言ってるのさ!ほら、早くいつもの様に猫の真似をしてよ!』
鈴『うぅ……』
鈴『にゃんにゃん…っ』
理樹『抱きしめたいなぁ、鈴!』
鈴『うぁぁっ…や、やめぇええ!』
~~~~~~~~~~~~~~~~
恭介(俺はいてもたってもいられず、テーブルをそのまま割る勢いで声を上げた)
バンッッ
恭介「弟だと思っていた!!愛していたのにっっ!!」
理樹「うわぁっ!今度はなに!?」
西園「こ、これは……!?」
恭介「………今日は飯を食ったら俺と寝るまでオセロだ……いいな?」
理樹「普通に嫌だけど断れない雰囲気だ……」
恭介(とりあえずこれにて今日の鈴は護られたはずだ。あとは……)
…………………………………………………
………………………………
…
理樹部屋
パチッ
パチッ
恭介「フッ……また俺の勝ちだな。コールドゲームだっ!」
理樹「ねえ恭介…そろそろ飽きてきたんだけど……」
恭介「なんだと!俺のオセロがめくれねえってのか!?」
理樹「でも眠くなってきたし……」
恭介「………それもそうだな。よし、寝るか」
恭介(ただで寝られると思うなよ理樹。俺はこのオセロをやっている間に必殺の策を思いついたんだ)
恭介「ただし、今日はお前と一緒のベッドで寝る!」
理樹「え、ええーーっ!?」
恭介「なんか急に人肌が恋しくなった。……いいな?」
理樹「よくないよ!すぐ上で寝るから一緒じゃないの!?」
恭介「そっか……じゃあ理樹の方のベッドで寝てもいいか?」
理樹「べ、別にそれならいいけど……」
恭介(ふっ、かかったな!なんて名前だったか忘れたが、これが一度わざと大袈裟な要求をして次の小さなお願いを通すという古来から利用されてきた話術だぜ!)
恭介「じゃあそろそろ寝るか。おやすみ」
恭介(すかさずマットレスと床板の間に挟まった)
ガポッ
理樹「な、なにしてるの!?」
恭介「実は最近マットとベッドの間に挟まれ、圧迫を感じながら寝るのにハマってるんだ」
理樹「そんなの初めて聞いたよ!」
恭介「初めて言ったからな」
理樹「とりあえず汚いから早く出てよほら…!」
恭介「しょうがねえな……おや?こんな所に隠し物入れが…」
恭介(これこそが俺の本当の目的だった。全てはこの自然な流れを作るため。食らってみろ理樹!)
ガパッ
恭介「中には何が入ってるんだ?………な、なんだこの写真はー!鈴だらけじゃないかー!」
恭介(相変わらず見てて怖いぜ。確かにどれもこれも可愛いが出てくる場所が場所だしな……さあ、どうでる理樹)
理樹「……えっ、なにこれ………」
恭介「は?」
理樹「こんな所に物入れがあったのも驚きだけど、どうして鈴の写真がこんなにも……!?」
恭介「お、おいおい!シラを切るな!これはお前がやったんじゃないのか?」
理樹「ち、違うよ!確かに鈴は好きだけどこんなことする程、根性曲がってないよ!」
恭介「だが、お前のベッドから…………ん?」
恭介(数あるうちの一つを、証拠を突きつけるために拾いあげようとしたところで、一枚だけ”それ”が写っていてはおかしいある写真を見つけた)
恭介「こ、この写真……」
理樹「どうしたの?」
恭介「……理樹と鈴が一緒に写っている……」
恭介(これが理樹の撮った写真ならば。この数々の写真を集めている犯人が理樹だったなら。誰かに撮ってもらわない限り、鈴と一緒に写っているものなどあるはずがない。そして、恐らくそんなことを了承してくれる協力者はこの学校にはいないはず。ということは、理樹は本当にこの写真の持ち主ではないということだ)
恭介「ば、馬鹿な……じゃあ一体誰が……!」
理樹「も、もしかして…鈴のストーカー?」
恭介(ストーカー……確かに鈴は男子に絶大な人気がある。その中に異常な性癖を持つ奴がいてもおかしくはない……)
~~~~~~~~~~~~~~~~
タッタッタッ
理樹『あはは!待ってよ鈴~!』
鈴『はっはっはっ。悔しかったら捕まえてみろっ!』
パシャリ
ストーカー『ふふふ……またこれで拙者の鈴ちゃんフォルダが潤うでござる!しかし、唯一邪魔なのはあの直枝とかいう不届き者。愛する鈴ちゃんのために消し去ってくれるわ!』
~~~~~~~~~~~~~~~~
恭介「り、理樹が危ねえ!!」
理樹「えっ、僕!?」
コンコンッ
恭介(その時、ノックの音がした)
恭介「誰だ!さっそく理樹を始末しに来た犯人か!?」
理樹「恭介って鈴のことになったら急にバカになるよね」
『私だバカ兄貴!』
恭介(それは他ならぬ鈴の声だった)
理樹「り、鈴!?」
恭介「まままま待て鈴!今はまずい!とにかくまずい!」
恭介(まだ鈴の写真が錯乱されまくったままだった。急いで元の場所に戻そうとしたが、悲しくもそこは堪え性のない妹だった)
ガチャ
鈴「なにがダメなんだ?入るぞ」
恭介「あっ!」
理樹「あっ……」
鈴「………………」
鈴「…………なんだこの写真は?」
恭介(鈴は静かにファイティングポーズの構えをとった)
恭介「な、何故理樹の部屋に来た……」
鈴「理樹に呼ばれたからな。それよりなんだこの写真は?」
恭介「ち、違うんだ鈴!これは俺たちが撮ったものではない!確かに一枚くらいは欲しいがそこまで妹に飢えているわけではない!」
鈴「………そーなのか?」
恭介(チラリと理樹に頭を向ける鈴。髪が逆立っていた)
理樹「うん。本当だよ」
鈴「じゃあ誰が?」
恭介「それが分からないんだ……何故か理樹のベッドの下にあった。きっとお前を狙うストーカーか何かだろう。だが安心しろ鈴。きっと俺が捕まえてみせ……!」
プルルルル…プルルルル…
恭介「おっと電話だ」
恭介(相手は真人だった)
真人『おー恭介。夜にすまねえな』
恭介「真人……」
恭介(そうだ。一応真人にも病院から帰ってきたら話さなくちゃな……)
真人『なあ恭介……もう理樹は寝てるか?』
恭介「いや、まだ起きてるぜ」
真人『そっか。ならさ、理樹にサプライズプレゼントがあるんだ』
恭介「サプライズプレゼント?」
真人『ああ。本当は退院してから渡そうと思ったんだがそろそろバレちまうかもしれねえしその前にと思ってよ!』
恭介「なんだそれは。今から俺が渡せって?」
真人『おう!あいつ鈴のこと好きだろ?だから俺が西園にカメラ借りて鈴の写真をいっぱい集めたんだっ!』
恭介「あーー……つまりそれって…」
真人『場所なんだが、実は理樹のベッドの下に…』
ピッ
恭介「…………………………」
恭介(思わず途中で切ってしまった。なんだかとてもアホらしくなった)
理樹「ど、どうしたの恭介?」
恭介「すまん。ちょっと今から病院行ってくるわ。真人に言うことがある」
理樹「今から!?」
恭介(今日は長い夜になるだろう。だが、それには散々振り回した真人にも付き合ってもらうつもりだ。奴め……)
恭介「ブツブツ……」
バタンッ
シーン……
理樹「で、出て行っちゃった………好都合だけど」
鈴「そう言えば理樹。なんでこんな遅くに呼び出したんだ?」
理樹「ん?ああ、それはね……」
理樹「鈴。今日は何回、僕以外の男子と喋った?」
終わり
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ゾッ…