魔王「生前退位したい」側近「ダメです」 (17)
―― 魔王城 ――
魔王「側近よ……折り入って頼みがあるのだが」
側近「なんでしょう?」
魔王「ワシは……生前退位したい」
側近「ダメです」
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魔王「なぜだ!? なぜダメなのだ!?」
側近「魔王とは魔族の王なのですよ? そんな簡単に退位されては困ります」
側近「今まで、魔界の歴史でそんなこと一度もありませんでしたしね」
魔王「ぐっ……!」
魔王「しかし、人間たちの王の中には、生前退位している者もおるぞ!」
魔王「たとえば、王の位を息子や弟などに授けて、そのまま隠居したり!」
魔王「あるいはアドバイザーのような地位についたり!」
魔王「退位してからも権力を握り続けるというケースももちろんある!」
魔王「人間がやっているのだ! ワシも生前退位していいはずだ!」
側近「よそはよそ、ウチはウチです」
魔王「お母さんみたいなこといいおって!」
側近「じゃあ逆にうかがいましょうか」
側近「魔王様、なぜあなたは生前退位をしたいのですか? 理由をお聞かせ下さい」
魔王「えっ……!」ギクッ
魔王「ワシももう、魔界に君臨して一千年は経つ……」
魔王「もう年だし、そろそろ王でいることに限界を感じてきたのだ」
側近「いやあなた、まだまだ若いですよね」
側近「あえて人間にたとえると、まだ40歳ぐらいですよね」
側近「この間の健康診断でも、ちょっとコレステロール値が高いぐらいでしたしね」
側近「なのにもう年だ、とかなにいってんですか」
魔王「ぐ……!」
魔王「じゃあほら……そろそろ息子に地位を託したいんだよ!」
側近「あなたの息子さんは奥さんに連れられて出ていっちゃったじゃないですか」
側近「あなたのネグレクトが原因でね」
側近「たしか裁判でも負けて、完全に親権取られてましたよね?」
側近「その彼に、親失格のあなたが今さら何を託すっていうんです?」
魔王「そこまではっきりいわなくても……」
魔王「まあ……ワシもこの長い人生、己の野心を満たすためだけに生きてきた」
魔王「この魔王の座は力ずくで手に入れたものだし」
魔王「人間界にも進撃して多くの国や都市を征服した……」
魔王「そろそろ引退して、慈愛に生きてみようかなという気になってきたのだ」
側近「慈愛? こりゃまた、あなたに一番似合わない言葉ですね」
魔王「ぐぬぬ……」
魔王「ええい、理由なんてどうでもいいのだ!」
魔王「ワシは普通の魔族に戻りたいのだ!」
側近「アイドルか、あんたは!」
魔王「とにかくだ! ワシはもう魔王の座から退位する!」
魔王「あとは任せたぞ、側近!」
側近「ダメです!」
魔王「強情な奴め!」
側近「ていうか、あんたが退位したい理由なんてバレバレなんですよ!」
魔王「なにっ!? なぜ分かる!?」
側近「そりゃ分かりますよ!」
側近「勇者がこの部屋に入ってきたとたん、生前退位したいなんて通るわけねえだろうがぁっ!」
側近「こんなもん、やむをえない事情でもなんでもなく、ただの逃げですよ逃げ!」
魔王「うっ、うるさい! 魔王の座から退位しちまえば勇者と戦わずに済む!」
側近「んなわけねーだろうが! 往生際が悪いんだよ!」
勇者「あのー……そろそろ攻撃してもいい?」
―― おわり ――
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