恭子「プレゼントは」 咲「まだ未定」 (100)
咲さんが進学してます
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人に良く思われたい
そう思うことは誰にだってあるだろう
勿論私にだってある
咲が私に対してそう思ってくれていること自体は嬉しい
でも咲には自然体で、そのままでいてほしいと思うのは
我が儘だろうか
洋榎「はぁ? 咲がわがまま言ってくれない?」
恭子「うん」
洋榎「なにいってんの? アホなん?」
恭子「一緒に暮らし始めて数か月経つけど……」
由子「うんうん」
恭子「咲はしっかりしてるし、うちがほんまに困ることは言わんっていうか……」
洋榎「ええ子やん。何が不満なんや」
恭子「ええ子過ぎてな……本当は言いたいことあるんやないかって、もっと主張してくれてもいいんやないかって」
由子「主張?」
恭子「我慢しとるんちゃうか? 背伸びしてるんとちゃうかって。無理はして欲しくないんや」
由子「一歩引いてるんじゃないかってこと?」
恭子「そうそう、もっと前に出ても良いよって。それでぶつかってもそれはそれで、なぁ?」
洋榎「……アホやなぁ」
恭子「アホアホうるさいな! アホなんは分かっとる!」
由子「まーまー。迷惑かけたくないって思ってるんじゃない?」
恭子「うちってそんなに頼りないんかな?」
由子「そんなことないのよー」
恭子「じゃあなんでなんやろ?」
洋榎「ほんまにアホやな」
恭子「なんでやねん!」
洋榎「恭子がそうやって頼りになろうとしてるからやろ」
恭子「……なにがあかんねん」
洋榎「それは頼りになりたいって思って頑張って、咲にも頼らんってことやろ?」
恭子「……うん」
洋榎「それを咲も感じてるんや」
恭子「だから頼ってくれれば……」
洋榎「だから、恭子が困ったときに咲に頼らないんじゃ、咲も頼りづらいやろ?」
由子「咲ちゃんは、恭子が頑張ってるんだから私も頑張らなきゃって思ってるんかもね」
恭子「……」
由子「さっき背伸びしてるんじゃないかって言ってたけど、それは恭子にも言えるんじゃない?」
洋榎「恭子が頼りになることくらい咲も分かってるやろ。頼られたいんなら頼れってことやな」
由子「ふたりとも似た者同士なのよー」
洋榎「ふたりともアホやな」
恭子「それしか言えへんのかい……洋榎は頼りすぎやろ」
洋榎「でもうちやってめっちゃ頼りになるやろ?」
恭子「ある意味な」
洋榎「やろー?」
恭子「ある意味な」
由子「難しく考えなくても苦手分野で頼って得意分野で頼られて。それでいいのよー」
恭子「なるほどなぁ」
私が背伸びしてたんか
でも私の場合、背伸びでも届かん気がしてなぁ
無理をしているとは思わないけれど……
私にできていないことを咲に求める
これこそ我が儘だ
洋榎「それより咲とどこまでいってん?」
恭子「どこって……ちょっとそこまで? みたいな?」
洋榎「……はぁ? 一緒に暮らしてるんやろ?」
恭子「うん」
洋榎「……どう思う?」
由子「どうって……ふたりらしいんじゃない?」
洋榎「いやいやいや……えぇ~……付き合ってどんだけ経ってんねん。らしいで済ませえええんか?」
恭子「ええやんか! ほっとけ!」
由子「ふたりのペースでいいのよー」
洋榎「ほんまか恭子? ほんまにそれでいいと思ってるんか?」
恭子「……思ってるけど」
洋榎「自分に素直になれ、な?」
恭子「素直やけど?」
洋榎「どうせ拒絶されたらとか嫌われたらとか考えてるんやろ」
恭子「……」
洋榎「図星やろ。ええか? 時には強引にやな」
由子「まーまー。ふたりの関係とか距離とかあるんやろうし、私たちが口出すことじゃないでしょ」
洋榎「でもこいつらほっといたらこのままばーさんになっても仲良く縁側でお茶でもしてるんとちゃうか?」
由子「……想像できちゃうのよー」
洋榎「やろ?」
恭子「やっぱまずいんかな?」
由子「まずくはないのよー」
洋榎「いや、まずいな」
由子「……そういう雰囲気になったことは無いの?」
恭子「あるっちゃあるけど……なんか……そういうんじゃない気がして」
洋榎「要するにびびったんやろ」
由子「洋榎ー」
洋榎「……でも咲に言わせたりすんのは違うやろ」
由子「……そうやね。咲ちゃんがどう思ってるんかは分からない。でもそうなったときに恭子が躊躇しちゃダメよ」
恭子「そうなったときって」
由子「準備は大事ってことよ。恭子はそういうのは得意でしょ?」
恭子「まぁ……」
――準備をしようとしまいとダメなものはダメなのだ
ソレは突然やってきた
恭子「わーー!!、わっ、わっ!」
咲「どうしたんですか? そんなに騒いで」
恭子「でたでたでた!!」
咲「?」
恭子「ほら、あそこ!」
咲「……蜘蛛?」
恭子「クモ!」
咲「いますね」
恭子「……咲はクモ大丈夫なん?」
咲「ハエトリグモでしょう?」
恭子「なんでもいいから、大丈夫なんやったら早く何とかして!」
咲「なんとかって……」
恭子「早くやっつけて!」
咲「いいんですか? 今、殺虫剤ないんで手段は一つですけど」
恭子「……いや、やっぱりやっつけちゃだめ! 外にやって!」
咲「……ちょっとまってくださいね」
恭子「……でた?」
咲「……あっ」
恭子「ちょっ……いや! せめて向こうにやって!」
咲「……出しましたよ」
恭子「……ほんま?」
咲「嘘ついてどうするんですか」
恭子「……びっくりした」
咲「蜘蛛の方がびっくりしたと思いますよ」
恭子「なにいうてんの! なんかもぞってするから見たらうちの手に……心臓止まるかと思ったんやから」
咲「そこまでですか?」
恭子「そこまでや!」
咲「蜘蛛って意外と臆病な生き物なんですよ」
恭子「へー……そうなんや」
咲「清々しいほどに興味ないですね」
恭子「咲はなんで平気なん?」
咲「ハエトリグモは益虫ですよ。巣を張るタイプじゃないし」
恭子「いや~無理! なんぼ益虫っていったって、あのフォルムが……」
咲「じゃあ末原さんってゴキ」
恭子「咲!」
咲「え?」
恭子「その名を口にするな」
咲「えぇ?」
恭子「想像しただけでもあかんねん」
咲「そうですか。でもそれを食べてくれる蜘蛛もいますよ」
恭子「それを食べてくれようが無理なもんは無理や」
咲「……かわいいですね」
恭子「クモが!?」
咲「いや……」
恭子「とにかく、うちは無理やからそいつら出たら処理は咲担当な」
咲「……それはいいですが、私はいつも居る訳じゃないですからね?」
恭子「そいつらが出る時はいてくれ」
咲「いやそんなの無理ですよ」
恭子「……」
咲「いるときは対処しますから、ね?」
恭子「うん……ありがとう」
咲「かわっ……!」
恭子「咲?」
咲「……ちゃんと感謝してくださいね!」
恭子「うん? してるけど」
咲「……それならいいんです」
恭子「?」
そうか。こういうことなんかな?
意図したことじゃなかったけど、なんとなく分かった気がする
恭子「咲もなんかあったら言うてな?」
咲「なんか?」
恭子「苦手な事とか、時間的に無理やったりとか、そういうの。うちにできることならするから」
咲「……はい」
恭子「うちのこともっと頼ってくれていいからな? まぁ……クモとか虫とかはアレやけど」
咲「私は末原さんのこと、頼りにしてますよ」
恭子「ほんまに?」
咲「ほんまです」
恭子「んーー……」
咲「そこを疑うんですか?」
恭子「疑うっていうかなー」
咲「……感謝してますよ」
恭子「いや、感謝を求めてるとかとかそういうんじゃないんや。そうじゃなくてな?」
咲「なんですか?」
恭子「見返りを求めてる訳じゃないっていうか……なんも求めてないってことじゃないけど」
咲「では何を求めてるんですか?」
恭子「……強いて言えば咲、かな?」
咲「それは……そういう意味ですか?」
恭子「いやそうじゃなくて……生まれたままの咲?」
咲「完全にそういう意味でしょ」
恭子「いやいや……武装を解いた、鎧をまとってない咲?」
咲「……比喩を使うことで却って分かり難くなることってありますよね」
恭子「ごめん」
この気持ちに応えてくれと言っているんじゃない
ただ、答えてくれればそれで……満足だった
はずなのに……
咲「言いたいことは分かりますけどね」
――今年はわざわざプレゼントを用意しなくていいかもしれない
恭子さんが本当に欲しいものをあげられるのが私だけなのなら
私はそれを喜んで差し出そう
咲「末原さんって蜘蛛が苦手だったんですね」
恭子「だってなんか……得体が知れんやろ?」
咲「でもこれから夏にかけて虫とか多くなるんじゃ……」
恭子「嫌な季節やな。暑いし」
咲「そうですか? 私はそうでもないです」
あなたと出会えた季節だから
恭子「そら咲は平気やからいいけど……」
咲「懐かしくないですか? あの日は雨が降ったけど暑かったです」
恭子「インハイか……」
あれから三度目の夏がくる
恭子「大変やったな。うちは18になったばかりやったし」
咲「そうでしたね」
恭子「なったばっかりやったし!」
咲「……なんですか? 誕生日アピールですか?」
恭子「だって今年は咲とずっと一緒におれるんやろ?」
咲「今までだって別に良かったのに……」
恭子「咲はインハイとかもあるし、邪魔しちゃ悪いやん?」
咲「そんなの……」
私は気にしないけれど、周りはどうだろう?
気を使ってくれたということだろうか
それでも末原さんは気にしすぎなような……
咲「……誕生日って何を祝うんですかね?」
恭子「え?」
咲「最初は生まれてきてくれたことを祝う、感謝するんでしょ?」
恭子「うん」
咲「それならなんで毎年祝うのかなって」
恭子「……一年間無事に過ごしてくれたことを、じゃない?」
咲「あー。なるほど」
恭子「いや分からん。それぞれの気持ちはあるやろうし、強制されるもんでもないしな」
咲「末原さんは何か欲しいものありますか?」
恭子「なんでもいいよ」
咲「それが一番困るんですって」
恭子「そう言われてもな……」
咲「なにかあるでしょう?」
恭子「……して欲しいことはあるな」
咲「私に?」
恭子「咲にしかできんことや」
咲「なんですか?」
恭子「そろそろ、名前で呼んでほしい」
咲「……」
そろそろ言われるかなとは思っていた
以前にも言われたことはあるけれど
その時は冗談っぽく流してしまったから
それからずっと『末原さん』だった
恭子「嫌?」
咲「いえ、分かりました」
恭子「無理にとは言わんで。ずっとそうやったから、なんかあるんかなって」
咲「そんな、ないですよ」
そうだ。別に大したことじゃない
出会った時から『末原さん』は『末原さん』で
付き合うことになった時も、今までもずっと
私を見てくれる。私と向き合ってくれる。見守っていてくれる
私の存在を許してくれる
ずっと変わらずにいてくれる存在
それが末原さんだった
欲しかったものを手に入れると今度はそれを手放すのが怖くなる
大切なものなら尚更だ
この関係がずっと続いてくれれば。そう思っていた
なんでだろう?
……名前で呼んだって末原さんは末原さんなのにね
咲「良いですよ。名前で呼びます」
恭子「今呼んでくれへんの?」
咲「だってお誕生日にしてほしいことでしょ?」
恭子「え? 誕生日限定!?」
咲「うーん。どうしようかな?」
恭子「それはないやろ!?」
咲「考えておきますね」
末原さんは名前呼び自体に拘っているわけじゃないだろう
欲しいのはそこから先……
私も末原さんも進まなければ
見えないものを、未だ来ていない、存在していないものを怖がっていても仕方がない
進まなければその先の景色は見えてこない
咲「他に欲しい物は何かないんですか?」
恭子「欲しい物ねぇ……」
咲「だって名前で呼ぶって、それだけだとあんまりでしょう?」
恭子「そうか?」
咲「……私は末原さんに貰ってばかりだから」
恭子「そんなの気にしとったんか?」
咲「私だって気にしますよ」
恭子「咲から貰ったものだってたくさんあるよ」
咲「そんなこと」
恭子「それに咲から何かを返してもらうために贈ってるんじゃないしな」
咲「それなら、私が返したいから返してるだけです。それならいいでしょ?」
恭子「……貰えるもんはありがたく頂戴するわ」
咲「でもやっぱり思うじゃないですか。見合うものをって」
恭子「……贈り物とか気持ちとかは等価交換じゃなくていいんやで。等価になること自体ないしな」
恭子「例えば、例えばやで? うちの咲への想いが東京ドーム10個分やったとして」
恭子「咲のうちを想う気持ちが近所の公園くらいやったとしてもそれはそれで構わんのや」
なんでそんなこと言うんですか?
私だって……
恭子「公園に東京ドームを詰め込もうとしても無理やろ?」
咲「私の思いを決めつけないで下さい」
恭子「だから例えばやって。咲がうちのこと想ってくれてるのは分かってる」
恭子「咲はうちのこと好きやもんな?」
なんてからかうように言われると否定したくなる。天邪鬼な私
咲「凄い自信ですね」
恭子「うちは咲を信じとるし~」
咲「過信じゃなければいいですね。あと東京ドーム何個分って古いですよ」
恭子「例えやから!」
恭子「咲、好きやで」
咲「……どうしたんですか? 急に」
恭子「いや、何となく」
咲「……私もですよ」
恭子「咲はこういうことあんまり言わんよな」
咲「そう、ですね」
……思いが募る、か
辛いことも嬉しいことも愛しいことも、言葉にすれば気持ちが軽くなる
でもそうすると、その思いまで軽くなってしまうようで
溢れそうな思いは深々と積もり
奥底に沈めて、ずっと私だけのものに……
咲「言ってほしいですか?」
恭子「別にいいけど……」
咲「そうですか」
恭子「嘘です。言ってほしいです」
それでも末原さんは簡単に私を掻き混ぜる
そうして撹拌された思いは容易に私を飲み込んでしまう
咲「何だか今日はやけに素直ですね」
恭子「そうか?」
咲「――好きですよ」
これが素直じゃない私の精一杯
何をしてもしなくても変わっていく。私たちも、それを取り巻く環境も
それなら良い方に変わるように頑張るしかない
この関係が変わっても、私が、そして末原さんが変わっても
一緒に歩いて行けるなら
それはそれで悪くない。と思う
だってどう変わろうとも、どんな状況でも末原さんは揺らがないから
……いや、蜘蛛が出たくらいで震えてたけど
こうやって近づいただけで、また新しい一面が見えてくる
虫が苦手だなんて、これまで気付かなかった
これまで隠していた、というか我慢していたのかもしれない
そんなことで私の気持ちは揺るがないのに
この可愛らしい人とずっと……
末原さん……恭子さんと一緒なら……
「恭子さん」
口に出してみる
まだまだ面映ゆくてくすぐったい
それでも誕生日までには自然に、口慣れるように
愛を語らう言葉を
私は多く持っていないから
言えなかった言葉は綴って贈ろう
了
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira115167.jpg
ネット上でゴンベッサと呼ばれている、都道府県SSの後書き「で、無視...と。」の作者。
2013年に人気ss「涼宮ハルヒの微笑」の作者は自分であると詐称し、炎上した。
詳しくは「ゴンベッサ」で検索
なお、本人は現在も自分のヲチに一人で粘着して三年以上の自演活動を続けており、
さっさとネットから消えればいいものを自演による燃料投下をやめないため
現在も枯れない油田状態になっている模様 →http://goo.gl/HbQkN5
SS作者ゴンベッサとは何者か?
http://www64.atwiki.jp/ranzers/pages/10.html
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