森久保乃々「男なんですけど…」 (40)
「今日も暑いねー。ペロは大丈夫?」
「ん……大丈夫、だって……」
「ヒョウくんはひんやりしてますよー」
乃々(年下)
「クーラーをもっと高性能に改造してみるか」
「お魚を冷やす機能が欲しいれすね~」
「それはいらんじゃろ」
乃々(同年代)
「あれー?冷蔵庫に入れてたビールないよー」
「ああ、それならちひろさんが回収してたよ。酒類は禁止だと言ってね」
「え!?あたし今日それ目当てで事務所来たのに」
乃々(年上)
乃々(事務所の中には年齢がばらばらな、でもみんな綺麗な女性ばかりが集まっています)
乃々(当然です。ここはアイドルの事務所なんですから。ここにくる男性なんて、今は外出中のプロデューサーさんぐらいです)
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乃々(そう。男はプロデューサーさんしかいないはずなんです)
愛梨「うう、暑ーい。もう少し脱いじゃおう」ヌギッ
乃々「ぶっ!?」
愛梨「あれ?どうしたの乃々ちゃん?」
乃々「そ、それはさすがに薄着すぎるんですけど」
愛梨「大丈夫ですよー。今はプロデューサーさんも外出中で男の人はいませんから」
乃々「……はい」
乃々(すいません。さっきのは嘘です。本当はいます、男。ここに)
乃々(森久保乃々、男なのを隠してアイドルやってます)
乃々(うう……。アイドルやめたいんですけど……)
乃々(どうしてこうなったんでしょう)
乃々(小さい頃から母がフリフリの服を着せてきて、私もそういう服が好きで自宅では女装で過ごしていて)
乃々(テレビ関係の仕事をしている叔父さんにたまたま代役でモデルの仕事を頼まれて)
乃々(ちょっぴり、ほんのちょっぴりモデルの着る服に興味があって仕事を受けて)
乃々(そうです。そこで叔父さんが「乃々ちゃんは可愛い衣装好きかい?」と聞いてきたのに、うっかり「嫌いじゃないですけど」と答えたら)
乃々(その日のうちにアイドル事務所に話が通っていたんです)
乃々(叔父さんは「いつも消極的で親戚中から心配されてた乃々ちゃんが何かを好きだと言うなんて」といたく感激していたそうです。好きとは言ってないんですけど。あと、もりくぼそんな風に思われてたなんて初耳なんですけど)
乃々(とにかく叔父さんの余計なお世話によってもりくぼは可愛い衣装を着れるアイドルとなったのでした。めでたしめでたし)
乃々(ってめでたくないんですけど!)
乃々(だいたいなんでアイドルなんですか!ありえないんですけど!)
乃々(男なのに女の子のフリしてアイドルデビューするなんて、聞いたことありません。前代未聞です。空前絶後です)
乃々(当たり前です。そんなことする人いるわけありませんから。もし他に同じような人がいたら、木の下に埋めてもらってもかまいません)
乃々(そのあと一人で帰りますけど)
乃々(というか今すぐ帰りたいんですけど)
乃々(ただでさえもりくぼは一人少女漫画を読んでるのが楽しみなインドア派。それが男だという秘密を抱えたまま女性の中で生きていくなんて)
乃々(なんかもういろいろと)
乃々(むーりぃー)
乃々「……はぁ」
乃々(初めは本当に大変でした)
乃々(だってまわりを見渡せば綺麗な大人の女性や可愛い女の子がいっぱいで、楽しそうに話をしている声とか聞こえちゃって、なんだか部屋全体がいい匂いしてる気もして)
乃々(ひ、引かないでください!もりくぼは頑張ってるんです。もし男だとばれたら最悪警察沙汰の中、男子中学生が必死に頑張ってるんです)
乃々(本当は頑張らずに帰りたいんですけど……)
乃々(でも最近は対処法を覚えてきました。まず部屋の隅の方に座ります。そしてできるだけ人を視界にいれないように目線をそらしていれば)
幸子「ため息ついて、どうかしたんですか?」ズイッ
乃々(ふわあああ!?ち、近いんですけどおお!?)
幸子「あ、もしかしてボクの可愛さに思わずため息が出てしまいましたか?仕方ありませんよね、ボクはカワイイですから」
乃々(知ってます!知ってます!幸子さんがカワイイの知ってます!今なんて顔が近くてうわこの人本当にカワイああそんな顔を覗き込まれたら胸元が見)
輝子「幸子ちゃん……乃々ちゃん固まってるぞ……」
幸子「あ、あれ?」
乃々(見ちゃダメなんですけど見ちゃダメなんですけど見たい見ちゃダメなんですけど)
輝子「乃々ちゃん、これから初仕事だからな……緊張してるのかも……」
幸子「そうだったんですか?」
乃々「は、はい……」
乃々(あ、危ないところでした。輝子さんが止めてくれなければどうなっていたことか。ありがとうございます輝子さん。救いの手を差し伸べてくれて)
輝子「き、緊張するけど、大丈夫だ。乃々ちゃんなら」ポン
乃々(救いの手がもりくぼの肩に!?)
幸子「そうですよ。それに乃々さんは撮影の仕事の経験があると聞きました。なら大丈夫です」
輝子「あ、だから乃々ちゃんの初仕事も撮影なのか……。プロデューサーも抜け目ないな」
幸子「そうかもしれませんね。ボクの時は」
乃々(二人が二人で会話を始めてしまいました。……輝子さんの手がもりくぼの肩に乗ったまま)
乃々(輝子さんの手、白くて綺麗ですね。それにひんやりしていて気持ちいい、はっ!?もしかしてもりくぼの体温が高いのでは!?ま、まさか肩に手を置かれただけで体温上がっていやいやさすがにそれだけでどんだけ意識しちゃってるんですかどうしよう輝子さん気付きませんように)
小梅「……乃々ちゃん」
乃々「ひゅいっ!?」
小梅「わ、わあ」
幸子「どど、どうしたんですか?」
輝子「す……すごい声だったな……」
乃々「な、なんでもないですけど……。それでどうしたんですか、小梅さん」
小梅「あのね……ちひろさんが、せっかくだし早めに仕事場に向かって見学してきたらって……」
乃々「早めに……。はい、そうします」
乃々(これ以上ここにいるともりくぼが耐えられるかわかりません。早めに一人になった方がいいでしょう)
乃々「では、もりくぼは」
幸子「じゃあ行きましょうか」
乃々「……へ?」
輝子「きょ、今日の撮影は私たちも一緒……」
乃々「い、一緒?」
小梅「うん。5人一緒……だよ……」
乃々「もりくぼと幸子さんと輝子さんと小梅さんと、あれ?あと一人いるんですか?」
小梅「あ、そうか……。あの子は撮影しないから……撮影は4人だね……」
幸子「ひ、ひぃ!?」
乃々「むーりぃー……」
輝子「こ、ここが衣装部屋。可愛い服が、いっぱい」
乃々「……すごい」
乃々(そこはテレビでアイドルが着ているような服が並んでいて、それは本当に私はアイドルになったんだと実感させる光景でした)
乃々(アイドルを続ければ、私はこれからこういう綺麗な衣装を着れる……)
乃々(アイドルもうちょっとだけ続けても、でもそしたら男とバレるかも、ああでもこういう服を着るためならもうちょっとだけ頑張れるような気もしますし)
乃々「うーん」
幸子「……」
幸子「時間もありますし、いくつか着てみますか?」
乃々「え」
幸子「大丈夫ですよ。少しぐらい試着しても怒られませんから」
乃々「あの」
輝子「こっちの衣装とか、似合いそう。ふひ、人の服を考えるのは楽しい」
乃々「待っ」
小梅「じゃあ……着替えようか……」
乃々「あ、あのもりくぼは」
小梅「ふふ……手伝ってあげる……」
乃々「て、手伝う!?」
乃々(手伝う!?小梅さんがもりくぼの着替えをて、手伝うってつまり服を脱いだり着たりするの手伝ってくれるって意味ですか!?……ってそれ絶対男バレするんですけど!)
乃々「む、むーりぃー」ダッ
輝子「あ、逃げた」
乃々(帰りたい……それかせめて誰にも見つからない場所に隠れたい……)
乃々(そうだ、ソファーの下なんてどうでしょう。もりくぼの体が入るかはわかりませんが、隠れ場所としてはなかなかいい気がします)
乃々「ためしに入ってみましょう……ちょっと狭いですけどまずは腕から……」ギュム
乃々(……ギュム?)
杏「むにゃ。誰?きらりー?」ゴソゴソ
乃々「な、な、な」
杏「あれ?乃々ちゃん。ははーん、さては乃々ちゃんも隠れ家を探しにきたんでしょ」
乃々「……」パクパク
杏「悪いけどここはもう満員なんだ。どっか別のとこ探してね」
乃々「……」コクコク
杏「頑張ってねー」
乃々「……」テクテク
乃々「…………も」
乃々(もりくぼはどこを揉んだんですかー!?)
乃々(やっちゃった!やっちゃいました!もうダメです!もう男だとばれたら絶対ダメなことしちゃいました!!うわあああ!!)
乃々(ぎゅむって!しっかりと!どこかわからないですけど!肉を!身体を!ど、どうましょう!)
乃々(…………帰ります。きっとそれが一番の選択)
乃々(これ以上迷惑をかける前に、これ以上男だとばれそうになる前に)
乃々(急いで帰って)
幸子「乃々さん、どこですかー?」
小梅「こ、こっちにもいないね……」
輝子「外に、出たのかも」
乃々「……」ドキドキ
乃々(とっさに机の下に隠れてしまいました)
乃々(あ、でもここいいかもしれません。周りから見つかりづらいですし、外の様子も伺える。ここはもりくぼの拠点にできそうです)
乃々(ほら今だって。あっちからはもりくぼの姿は見えていないけど、もりくぼからは三人の足が見えています。今日は三人ともスカートだから細い足がよりよく見えて見え見ダ、ダメですけど!思ってませんけど!もう少し角度があれば見えそうなんて思ってないですけど!)
乃々(こんなところで下からみんなの足を覗いてか、完全にヘンタイさんなんですけど!もう外に出れません!もりくぼは一生をここで暮らします!)
乃々(っていやいや。もりくぼは帰るんですけど)
乃々(ここはもりくぼがいてはいけない場所なんです。だから帰るのが一番なんです)
乃々(だいたいもりくぼは無理やりアイドルにさせられただけで、ただでさえ男だと隠すのが大変なのに続ける理由も)
小梅「やっぱり……怒らせちゃったのかな……」
乃々(……え?)
幸子「乃々さんの衣装を見る目が着てみたそうだったので、よかれと思ったのですが……」
輝子「わ、私もあんな風にぐいぐい来られたら、困る。困ってた。自分がそうだったのに、忘れて……」
小梅「謝らないと……ね」
乃々(……みんなは悪くないんですけど)
乃々(もりくぼは自分の秘密がばれたくない一心で、みんなから距離を取って態度も悪いのに話しかけてくれて)
乃々(そのことには感謝してるんですけど)
輝子「うん。ちょっと、浮かれすぎてた」
幸子「同年代の新人は久しぶりでしたからね。急ぎすぎました。そういえばまだ趣味が何かも聞いてませんし」
小梅「ホラー映画、好きだといいな」
幸子「そ、そうですね」
輝子「キノコ、好きだといいな」
幸子「輝子さんのように好きな人は珍しいと思いますよ」
小梅「ふふっ、みんなで上映会楽しみ」
幸子「あれ?そのみんなにボク入ってます?あのー?」
乃々(机の下から聞くその何気ない会話はとても楽しそうで)
乃々(自然に自分がみんなの中に入れてもらえているのが、自分の居場所を当然のように作ってくれているのが嬉しくて)
輝子「その前に一緒に撮影しなきゃだ」
幸子「はっ、そうでした。乃々さんを探しましょう」
小梅「おー」
乃々(男だとか、そういうことを忘れて純粋にこう思いました)
乃々(みんなとならアイドルを続けたい、と)
幸子「次はどこ探しましょうか」
輝子「レッスン室とか」
乃々(……あ、別の部屋に行っちゃう)
乃々(嫌な顔せず自分を探し回ってくれる、そんな人たちに今ここで声をかけないともりくぼは一生後悔する。そんな気がしました。だから)
乃々「あ、あの」
ちひろ「ふう、やっと一仕事が片付きました」
乃々「……!?」
乃々(3人に声をかけようとした瞬間、机の下に座っていたもりくぼの視界に入ってきたものは)
乃々(足)
乃々(ストッキングを履いた足が二本)
乃々(もりくぼが驚きに固まっていると椅子が引かれ、足の持ち主は椅子へと座り、そして椅子が前へ移動しました。つまりもりくぼの目の前へ)
乃々(今、もりくぼの眼前には)
乃々(靴が)
乃々(足が)
乃々(スカートが)
乃々(そしてその中の……)
乃々「ぶはっ!?」
ちひろ「きゃっ!?……って乃々ちゃん。こんなところにいたんですか?みんな探してましたよ」
乃々「……」ドキドキ
ちひろ「……あのー、作業しにくいのでそこから出てほしいんですけど」
乃々「……」ドキドキドキ
ちひろ「乃々ちゃん?大丈夫?立てますか?」
乃々「……も」
ちひろ「も?」
乃々「もう、たってるんですけど……」
ちひろ「はい?」
乃々(やっぱりアイドルやめたいんですけど……!)
次回予告
乃々(男であることを隠しながらのアイドル活動をずるずると続けるもりくぼ)
乃々(その日々は過酷を極めたんですけど)
志希「隠してるつもりだろうけど、○液臭いよキミ」
乃々「!?」
乃々(新たなアイドルとの出会い)
輝子「ど、どうかしたのか?」
小梅「う、うん。あの子が何か言ってるの。……ん?ぞーさん?象さんがどうかしたの?」
乃々(身内バレの危機)
乃々(そして)
テレビ『アイドルの秋月涼さんが男性であったことを告白し』
乃々「ぶふーっ!?」
幸子「ちょ、乃々さん!?汚いですよ!」
乃々(次回、森久保乃々「男はつらいんですけど」。乞うご期待)
乃々(って続きませんけど!?)
以上です。
続きません。
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