森久保乃々「もりくぼとピアス」 (50)
乃々(私は地味だ)
乃々(なぜアイドルをやっていられるのかわからないほどに)
蘭子「煩わしい太陽ね(おはようございます!)」
飛鳥「おはよう。なに、この言葉に意味なんてないさ。ただボクがそれを言いたいと思っただけでね」
幸子「皆さんおはようございますっ!今日もカワイイボクがやってきましたよ~!」
乃々「あぅ…おはようございます…」ぼそぼそ
乃々「……」
乃々(こんな没個性な自分がどうしてアイドルなんてやっているのだろう?)
乃々(…帰りたい)
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乃々「うぅ…」
輝子「どうしたボノノさん…」
乃々「キノコさん…」
輝子「フヒ…今日は、いつもより落ち込んでいるように見える…」
乃々「はい…」
乃々(お隣のキノコさん)
乃々(私と同じく、口数は少なくて、机の下に籠るのが好き)
乃々(でも彼女は私と違う)
乃々(とても派手なライブパフォーマンスができるアイドル)
乃々「あぅ、もりくぼ帰りたいんですけど…」
輝子「フヒ…!ボノノさん、いつものことだよ」
乃々「はい。もりくぼ毎日帰りたいんですけど…」
乃々(私は毎日毎日帰りたいと呟く)
乃々(ここにいると、私はみんなの個性に圧殺されそうになる)
美玲「いやいや!オマエが帰ったらウチらが来た意味無くなるだろッ!みんなでレッスンするんだよ!!」
乃々「うぅ…わかってますよぉ…」
乃々(美玲さん)
乃々(彼女もとても個性的なファッションのアイドル)
乃々(ファッション…)
乃々(美玲さんの眼帯とか、爪とか)
乃々「美玲さん…美玲さんの眼帯ってどこで買ってるんですか?」
美玲「眼帯?ウチの眼帯か?」
乃々「はい…あ、もしかして、手作りとか?」
美玲「作れないこともないけど、ウチが今着けてるのは買ったやつだぞッ!」
乃々「そうなんですか…」
美玲「突然どうした?」
乃々「あ、いえ、みんなのファッションが、少し気になっただけなんですけど…」
乃々(話の振り方が突然すぎたみたいです)
乃々(相変わらず、人と話すのは苦手)
美玲「なんだ!ウチのファッションが気になるのか?」
乃々「えっ、あっ、と、はい…」
美玲「この眼帯はなー、事務所のそばのヴィレッジ◯ァンガードで売ってたんだ!へへッ、いいだろー?」
乃々「もりくぼ的には、かわいいと思うんですけど…」
美玲「だろー?ウチのツメと眼帯、カッコいいだろッ!」にっ
乃々(爪についてはよくわからないけど、美玲さんのこだわりのようです)
飛鳥「フッ、乃々はみんなのファッションに興味があるのかい?」
蘭子「ククク、私の魔性の装束に魅入られし者がまた一人…(乃々ちゃん、私のファッション気に入ってくれたのかな?)」
乃々「あぅ…もりくぼは…みんな、個性的で、こだわりがあるファッションでいいなって…思っただけで」
幸子「たしかに!みなさんいろんな格好してますものね~。まぁボクはどんなものを着てもカワイイボ
輝子「フヒヒ…実際、みんなで集まるとすごいよね、これ…」
乃々「はい。ちょっと…気になっただけではあるんですけど…」
幸子「って!ボクの話を聞いてくださいよー!!」
乃々「飛鳥くんの、その、腕の横に付いてる?ベルト?のような物とか…名称からしてわからない物体なんですけど…」
乃々「あ、あと…蘭子さんの持ってる小物類とかも…日傘とか、本とか、いろいろ…」
飛鳥「フッ、これかい?ボクもよくわからないが、気に入ったので買ってみたのさ」
蘭子「これは我が工房にて創造(つく)りし魔の…あ、いや、違った。これはお店で買ったものですっ」
飛鳥・蘭子「事務所のそばのヴィレッジヴ◯ンガードで!」
飛鳥・蘭子「!!?」
美玲「オマエらヴ◯レッジヴァンガード行きすぎだろッ!」
輝子「フヒッ!美玲さんこそ、行ってるのに…フヒヒッ!」
飛鳥「フ、フフッ、まさかみんなでかぶるとはね…」(前髪をいじりながら)
蘭子「う、うむ。良き店である故、致し方なし…(しょうがないよ、みんな行くお店だし…)」
美玲「ウチが先に行ってたんだぞッ!たぶん!」ガルルー!
幸子「いえいえ!そのヴィレッジヴァ◯ガード品揃え良すぎでしょ!どこ店ですか!?」
乃々(みんな自分の好きなアイテムを身に着けている)
乃々(それぞれが好きなものを)
乃々(せいぜい私が身につけているものと言えば)
乃々(このピアスくらいだ)
乃々(私のピアス)
乃々(私が身につけている、唯一個性的と言えるファッション)
乃々(そしてこのピアスでさえ)
小梅「え、えへへ…みんな、い、いっしょのお店で、かい、買い物してた…面白、い、ね…」
乃々(めちゃくちゃピアスしてるんですけど)
乃々(別に、小梅さんがピアスをしていることで私の何かが変わるわけではない)
乃々(なのに、よくわからないけど、なんだか自信が無くなる気がして)
乃々「…帰りたい」
輝子「…どうしたボノノさん。今日はなんだか、いつもより本気で落ちてるよ…」
乃々「あぅ…」
幸子「あれ、本当ですね。大丈夫ですか乃々さん?」
小梅「だ、大丈…夫?」
飛鳥「気分でも悪いのかい?」
乃々「い、いえ、大丈夫です…から」
乃々「……大丈夫です」
乃々(みんなに心配させてしまった)
乃々(私は大丈夫、なのだろうか?)
美玲「大丈夫って、それ大丈夫じゃないだろ」
乃々「え…」
美玲「普段のオマエが大丈夫?って聞かれたら『もりくぼ大丈夫だったことがないんですけど』とか『むーりぃ』だろ!」
美玲「大丈夫とか嘘だぞッ!」
乃々「あぅ…嘘ってほどでもないんですけど…」
蘭子「乃々ちゃん、私たちで相談できることだったら、お話聞くよ?」
乃々「うぅ…」
乃々(みんなの純粋な心遣いに、素直に応えられないのがもどかしい)
乃々(私はどうしてこんななんだろう)
乃々「ええと、あの、それじゃあ、小梅さん…」
小梅「は、はいっ…!」びくっ
乃々「その、小梅さんはたくさんピアス付けてますよね…」
小梅「これ?こ、これはね…」
乃々「みんなも、眼帯とか、いろんな、自分だけのものを持ってるのに…私はそういうの、無いから…」
乃々「もりくぼ、何も持っていないので…」
乃々「そんな私が、どうしてアイドルやっているんだろうとか、考えだしたら…」
乃々「なんだか、ちょっと…辛くなってきただけです…」
小梅「乃々ちゃん…」
乃々(ああ、またやってしまった)
乃々(きっと引かれてしまっただろうな)
乃々(私は何度もこんなことを繰り返してきたのに、何も学んでいない)
乃々(小梅さんのピアスについて、当てつけのような言い回しで愚痴を言って)
乃々(こんなことを何度もやらかして、いろんな人に嫌われたり呆れられたり、失敗してきたじゃないか)
乃々(そんなにピアスが大事だとでもいうのか、私にとって)
乃々「……」
乃々(あの日、学校で禁止されているピアスホールを始めて開けた時には、自分の中の何かが変わった気でいたのに)
乃々(変われるつもりでいたのにな)
蘭子「自分にとっての大事なこだわり…乃々ちゃんの気持ち、すごくわかるよっ」
美玲「ウチらのファッションって、ほとんどのヤツラにとっては変なカッコしてるだけとか思われるもんな」
飛鳥「自分のアイデンティティに自信が持てなくなってしまったんだね?」
乃々「…はい」
輝子「ボノノさんはボノノさんだよ。他の人なんて、気にすることないよ…」
乃々「……」
乃々(私は私)
乃々(私は私から変わりたい?それとも、私は私のままでいたいのだろうか?)
乃々(わからない)
乃々(私にとって、この小さな金属は何の意味があるんだろう?)
乃々(ピアスを開けても、アイドルになった今でさえも、これから先も)
乃々(私は私から変われないのかな)
小梅「の、乃々ちゃん、わ、わた、私、も、ピアスを、初めて付けた時…り、理想の、自分に近づけた…気がしたから…」
乃々「理想の、自分…?」
小梅「あ、うん、ピアス…乃々ちゃんもしてる、から…だから、乃々ちゃんも、なのかなって、思ったの…」
小梅「こうすれば、今の自分から…もっと、良い自分に、な、なれるんじゃないかって、私は思ったから…!」
乃々「今の自分よりも、もっと良い自分…」
乃々(ああ、そうだ)
乃々(あの頃の私は、きっとそう思っていたはずだ)
乃々「…はい。私は、私になりたかった…気がします」
乃々「ピアッサーを買ってきた時…すごくわくわくしたのは」
乃々「違う自分になりたかったからじゃなくて」
乃々「自分の好きなファッションができるからだったんですね…」
小梅「うん、わかる、よっ」
蘭子「私も、自分のノートに描いた服を作ろうと思った時…すごくわくわくしたな」
美玲「よくわかんないけど、なんか解決したみたいだなッ」
乃々「はい…ぐちぐち言ってすみませんでした…。ちょっと、気持ち整理できたみたいなんですけど…」
小梅「で、でも、すごいな…乃々ちゃん…ファ、ファーストピアスなのに、自分でホール開けたん、だね?」
乃々「え…もりくぼ的には他人に開けてもらう方が無理なんですけど…」
小梅「そ、そっかぁ。わた、私は…自分でできないから、美容外科で、あ、開けてもらった、よ…?」
乃々「ああ、そういうものなんですかね…」
幸子「痛くなかったんですか?」
乃々「…それなりに」
小梅「すごいよ…乃々ちゃんは…」
乃々「小梅さんこそ、たくさんピアスを開けてるじゃないですか…」
小梅「わ、私は…たくさんピアスホールなんて、な、無い、よ?」
乃々「え…?」
小梅「え、えへへ、うちの事務所、本当は中学生以下はピアス禁止なんだって…」
飛鳥「えっ、そうなのかい?」
美玲「小梅もボノノもピアスしてるだろ?」
小梅「う、うん…スカウトされた時に開いてるのは良いんだけど、そこから勝手にホール増やしたら、だ、ダメなんだ、って」
小梅「この前、プロデューサーさんに怒られちゃった…」
乃々「うわ、そうだったんですか…」
小梅「だ、だから、私の耳に付いてるのは…全部イヤーカフって、い、いうことに、なってる、の」
幸子「カフの下、穴だらけですけどね」
小梅「当分はピアス関係のお仕事、させないって言ってたから…だから、そ、そういう意味では、乃々ちゃんが羨ましい、な」
乃々「もりくぼにも来ませんよ、そんな仕事…」
飛鳥「ピアス開け損だったわけ、か。そういうのも、病院で開けてもらうのかい?」
小梅「えっ、えへへ、こっちのホールはね…涼さんに開けてもらっちゃった…」
蘭子「おお…!」
小梅「そのあと、おそろいのピアス…じゃなかった、イヤーカフも、買ってもらっちゃった…ヴィ◯ッジヴァンードで」
美玲「って、オマエもかよっ!」
飛鳥「やれやれ。ボクらのこだわりのファッションアイテムも、結局はみんな同じ店で買った既製品だったというわけか」
蘭子「なんたる事か…」
幸子「いえいえ!皆さん特有のアイテムがあるだけいいじゃないですかっ!ボクはそういうの無いので、羨ましい限りですよ!」
乃々「でも、幸子さんは明るくて、アイドルとして個性があるから…友達も多いし」
幸子「と、友達!?ボク、友達多いんですか!?」
乃々「私よりは多いんですけど…」
輝子「フヒ…!私たち、陰キャラグループだしね…」
乃々「この陰キャラグループ、陰が濃すぎなんですけど…」
美玲「おいっ!ウチはオマエらと同じグループのつもりはないぞッ!」ガルルー!
幸子「友達、友達ですか…」
飛鳥「どうかしたのかい?」
幸子「はい、ボクたちには共通の友達が他にもいたなー、と思いまして!」
幸子「ちょっと連絡してみますね…」
乃々「……?」
幸子「あ、お疲れ様です!今大丈夫ですか?実はですね」
まゆ「乃々ちゃん、悩み事があったなら、私に相談してくれないなんて水くさいですよ♪」
乃々「まゆさん…」
乃々「悩み事って言っても…ただのいつものネガティブですけど…」
まゆ「それでもです。うふふ、お話はだいたい幸子ちゃんから聞いたから」
乃々「あの…ええと、どんな話を…」
幸子「フフーン!まぁ、いいからここに座ってください乃々さん!」
乃々「??」
まゆ「今から私が、乃々ちゃんがもっと素敵な乃々ちゃんになれるメイクを施しますよ♪」
乃々「メイク…お化粧…?」
まゆ「はいっ♪」
乃々「もりくぼ、撮影の時くらいしかお化粧したことないんですけど…」
まゆ「みんな最初はしたことないんです。
まゆもお仕事で少しずつ覚えました」
まゆ「だから、乃々ちゃんにも少しずつ教えますね」
乃々「あぅ…」
まゆ「ふふ、乃々ちゃん肌が綺麗だから、メイクすればもっと素敵になれますよ」
乃々「い、いや、もりくぼがキレイになるとか…むーりぃ…!」ばたばた
まゆ「うふふ、逃がしませんよ~♪」がしっ
乃々「あぅぅ…」
まゆ「人はメイクをするだけで、いつもの自分から…」ぬりぬり
まゆ「少しだけいつもより素敵な自分になれるんです」
まゆ「乃々ちゃんは乃々ちゃんのまま」すーーっ
まゆ「もっと素敵な乃々ちゃんになれるんですよ」
乃々「……」
まゆ「はい、出来ました。目を開けてみてください」
乃々「あぅ…」ぱちっ
乃々「!!」
乃々「これが、私…?」
まゆ「はい、もちろんですよ!」
幸子「おー!乃々さん、綺麗ですっ!」
輝子「ボノノさん、すごい…」
飛鳥「素敵だよ、乃々」
蘭子「まるで異国の姫君のよう…(乃々ちゃんお姫様みたい!)」
美玲「やるなーボノノ!まゆも!」
小梅「乃々ちゃん、す、すっごく、キレイ、だよっ」
乃々「みんな……」
まゆ「気にいってもらえましたか?」
乃々「……うん。もりくぼじゃないみたいなんですけど…」
まゆ「乃々ちゃんですよ。いつもの、素敵な乃々ちゃんです」
乃々「…ありがとう、まゆさん。みんなも」
乃々(自分なんだけど、いつもの自分とは違う自分)
乃々(少しだけ良い私になるために)
乃々「私、ちょっとだけだけど…」
乃々「アイドル、続けてみたいと思えた気がするんですけど…!」
乃々(相変わらず断言はできないままだけど、友達のおかげで少し前向きになれた日でした)
終
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